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バイオテレメトリーによるニホンザリガニ行動特性の調査研究

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Academic year: 2022

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バイオテレメトリーによるニホンザリガニ行動特性の調査研究

株式会社ドーコン 正会員 ○村上 弘樹 株式会社セ・プラン 非会員 高松 慎吾 株式会社ドーコン 非会員 石塚 正仁 北と森と川・環境ネットワーク 非会員 影山 欣一

1.はじめに

北海道と東北の一部にのみ生息するニホンザリ ガニは、環境省第4次レッドリストに絶滅危惧Ⅱ類 として掲載され、いくつかの建設事業で保全対策が 試みられている。しかし、本種の行動特性に関する 知見は乏しく、「標識放流による移植個体の移動分 散の把握 1」、「バイオテレメトリーによる越冬前 の移動特性、越冬環境の把握2」など、行動特性に ついて複数の報告がされているが、適切な影響予測 や保全対策を検討・実施する上では、更なる行動特 性のデータ蓄積が重要と考える。本稿では、バイオ テレメトリーを用いたニホンザリガニの行動追跡 調査結果から、本種の行動特性のうち、移動能力に 関する知見について報告する。

2.調査手法

バイオテレメトリー(Biotelemetry)とは、動物 に小型の発信機を取り付け、発信機からの信号を受 信することで動物の居場所を特定し、行動や生態を 解析する手法である。調査は、北海道で経年的にニ ホンザリガニが確認されている沢において行った。

2.1 供試個体の捕獲、発信機装着

供試個体は、発信機装着による重量負荷を少しで も低減するため、調査地での個体サイズ上位 20%

(頭胸甲長20mm以上)に相当する5個体を用いた。

発信機は、ニホンザリガニ個体の頭胸甲部の安定 する位置に、個体への影響が少ない接着剤を用いて 固定した(写真-1)。発信機ID番号と各装着個体の サイズ一覧を表-1に示す。

ID番号 頭胸甲長

(mm) 雌雄 欠損の 有無

15 20 雌 なし

16 21 雌 なし

17 26 雄 なし

17(再装着) 27 雄 なし

18 25 雌 左再生

19 23 雌 右再生・

左欠損 2.2 テレメトリー追跡

テレメトリー追跡は、供試個体へ発信機を装着し、

捕獲した沢へ再放流後に、受信機及び受信用アンテ ナ(八木アンテナ)を用いて、居場所の特定、把握 を行った(写真-2)。

写真-2 左:八木アンテナ、右:調査実施状況 2.3 調査時期・日数、調査地点

調査期間は、ニホンザリガニが活発に活動する期 間のうち非繁殖期である9月とし、平成25年9月 17日から10月1日までの間に計6回追跡を行った。

調査位置は図-1に示すとおり、隣接する 2 つの 沢を対象とした。沢の規模などを考慮して、上流部、

中流部への放流を基本とし、No.1で3個体、No.2 で2個体を放流した。

キーワード ニホンザリガニ、バイトテレメトリー、保全対策、行動特性、移動能力

連絡先 004-8585 札幌市厚別区厚別中央15丁目41号 株式会社ドーコン TEL011-801-1572 写真-1 左:発信機、中央・右:発信機装着個体

表-1 発信機 ID 番号と各装着個体のサイズ一覧

図-1 調査位置図

流水方向

土木学会第69回年次学術講演会(平成26年9月)

‑115‑

Ⅶ‑058

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3.調査結果及び考察 3.1 移動距離・移動方向

全供試個体の調査期間における移動距離・上下流 の移動方向を図-2 に示す。供試個体は上下流の両 方向に同等の頻度で移動していたが、総移動距離を みると、上流方向に12.5m、下流方向に52.8mと、

下流方向への移動距離が上流方向と比較して 4 倍 以上となっていた。

供試個体のうち、巣穴に留まっていたのはID16 のみで、他の個体については巣穴に留まるような行 動はみられなかった。主に泥中、河床礫中、植物の 下で確認されており、巣穴に執着せず、条件の良い 隠れ家を探して移動していたものと考えられる。

特にID19は、下流側へと移動を続けているが、

当該個体は、装着する時点ですでに鉗脚損傷等のダ メージを受けており、巣穴造成や個体間競争等にお いて不利な状況下にあったことが、要因の一つとし て考えられる。その結果、一定の場所に定着するこ とが出来ず、常に下流側へと移動を繰り返し、供試 個体中の最大移動距離を示したものと推察される。

3.2 長距離移動の可能性

ニホンザリガニの保全対策を検討する上では、長 期間における行動特性が重要となるため、本調査結 果から、本種の移動能力について推定を行った。

調査期間中における経過日数と供試個体の移動 距離の相関関係から回帰式を算出し、非繁殖期にお ける本種の移動可能距離の推定を行った(図-3)。

調査期間を通じて個体が確認された 4 供試個体

(ID17 以外)を対象に、ニホンザリガニの主要な 活動期間である8~11月の4ヶ月間(120日間)の 移動距離を算出した結果、4供試個体の平均移動可 能距離は約70m、移動距離が最長だったID19は約

170mと推定された。この結果から、個体差、環境 条件等の差異により移動距離は変化すると思われ るが、個体によっては主要な移動期間において 100m以上移動する能力があると推察される。

R² = 0.45 R² = 0.94

R² = 0.86

0 5 10 15 20 25

装着 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日 9日 10 11 12 13 14

移動距離(m)

ID19(移動距離最長) 4供試個体平均 ID16(移動距離最短)

図-3 経過日数と移動距離の関係 4.結論

バイオテレメトリーによるニホンザリガニ行動 追跡調査を行い、行動特性について検討を行った。

その結果、ニホンザリガニは、個体の状態や生息環 境の条件によっては、棲みやすい生息環境を求めて 移動を繰り返すことが明らかとなった。その結果、

主要な移動期間において100m以上の長距離移動を 行う可能性が示唆された。

これまでニホンザリガニの保全対策については、

主たる生息環境を保全することに主眼が置かれて きたが、本調査により、本種の長距離移動能力に関 する知見を取得することができた。

今後、本種の保全に関する動きは、ますます重要 になると思われるが、今回得られた知見を初め、繁 殖期の行動データを含めた更なるデータの蓄積に より、スポット的な生息環境の保全に留まらず、ニ ホンザリガニの長距離移動能力を考慮した広域的 な生息空間の確保、環境配慮への取り組み等へ反映、

活用されることが望まれる。

参考文献

1)上野真二・片岡勝裕・山中薫・伊藤誠哉・山廣 孝之 他(2003)「ニホンザリガニに配慮した砂防 事業について.砂防学会研究会概要集 2003:78-79」

2)飯村幸代(2013)「ザリガニの越冬環境を探る- ラジオテレメトリーを用いた試み-.育てる漁業 No.462:3-5」

3)川井唯史・中田和義(2011)「エビ・カニ・ザリ ガニ-淡水甲殻類の保全と生物学」

-25 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 25

9/17 9/18 9/19 9/20 9/21 9/22 9/23 9/24 9/25 9/26 9/27 9/28 9/29 9/30 10/1

移動距離(m)

ID15 ID16 ID17 ID17(再装着) ID18 ID19

3 後→

1 後→

7 後→

1 0 後→

発信機装着時

1 4 流方向流方向 後→

図-2 全供試個体の移動距離・移動方向

土木学会第69回年次学術講演会(平成26年9月)

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参照

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