1.背景
近年、単位の互換を基本とした大学間交流が
「大学コンソーシアム」として報告される事例が増 加している。顕著な事例としては京都における
「大学コンソーシアム京都」(京都における国公私 立大学、経済団体、京都市など 54 団体による財団 法人)、東京西部における「多摩アカデミックコン ソーシアム(TAC)」(国立音楽大学、津田塾大学、
東京経済大学、国際基督教大学)、首都圏の国立単 科大学による「国立五大学連合」(構想)(東京芸 術大学、東京外国語大学、一橋大学、東京工業大 学、東京医科歯科大学)、そして本学による「 5 大 学間単位互換制度」などがある。いずれのコンソ ーシアムにおいてもそれぞれの学生による授業聴 講、単位互換にともない、図書館利用については 登録した学生による閲覧ないし貸出といった図書 館サービスを柱としてそれぞれ可能な範囲での対 応となっている。
こうした事例を背景として「大学図書館コンソ ーシアム」の形成についてもいくつか報告されて いる。「多摩アカデミックコンソーシアム」におい ては、閲覧、貸出にくわえて物流サービスとして 加盟大学間の巡回便を運用しており加盟大学図書 館ならばどこからでも返却を可能としている。さ らに、一部文献複写の無料化や図書館職員の交流 など、より積極的な意味での図書館コンソーシア ムの形成をはかろうとしている。
2000 年 3 月に協定が締結された東京都内山手線 沿線における「山手線沿線私立大学図書館コンソ ーシアム」では、
①所蔵情報の提供
②利用証による加盟図書館の入館利用
③図書の貸出
④複写物の安価提供
⑤相互利用経費の相殺
⑥新聞雑誌の分担収集
⑦収書情報の交換
⑧保存資料情報の交換
⑨職員の合同研修・研修職員の受入
⑩オンラインジャーナルや外部データベースの 共同利用の推進
な ど の プ ロ グ ラ ム を か か げ 、 2 0 0 0 年 8 月 よ り
「OPAC 並列検索システム」による所蔵情報の提供、
利用証による加盟図書館の入館利用が運用を開始 している。
図書館相互利用という意味で本学と慶応大学と は大学間協定として 1986 年度より「図書館相互利 用」をすすめている。ここでは、所蔵情報の提供 や相互の入館閲覧利用、図書の貸借、複写物の安 価提供、各種情報の交換や職員の合同研修など現 在「山手線沿線私立大学図書館コンソーシアム」
でうたわれているプログラムのほとんどを実現し ており、さらに当初より物流サービスを双方から 運用するなど二大学による図書館相互利用として は先駆的な役割を果たして現在にいたっている。
2.米国における「図書館コンソーシアム」の形成 米国において「図書館コンソーシアム」の形成 がはかられるのは 1960 年代半ばまでさかのぼる。
当初の「図書館コンソーシアム」においては、図 書館間相互貸借(ILL)や総合目録の構築が主眼と された。1970 年代から 80 年代にかけて急速にコン ピュータによる情報ネットワークの整備がすすむ と、これらの「図書館コンソーシアム」はむしろ 図書館ネットワークとして、
①「ユーティリティーネットワーク」
②「地域ネットワーク」
③「協力ネットワーク」
などに機能的に分化していくこととなる。
OCLC、RLIN、WLN などはネットワークのハブ
(結節点)として書誌ユーティリティーを事業体と して進化させてネットワークの拡大をとげ、目的 とされた総合目録の構築やILLサービスの拡大 を実現した。しかし、「ユーティリティーネットワ
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「図書館コンソーシアム」の可能性について
−図書館協力のあらたな方向性−
中 元 誠 (総務課長)
ーク」の大規模事業化により、参加館は図書館相 互協力という文脈よりむしろ同じ書誌ユーティリ ティーの利用者という機能的な一構成要素となっ てしまった。
「ユーティリティーネットワーク」によって解決 されない図書館の課題を解決するために「地域ネ ットワーク」ないし「協力ネットワーク」が形成 されることとなる。「地域ネットワーク」は一般的 には州単位で館種をこえて形成される。現在、代 表的なものは OhioLINK、CARL などであるが、こ こでは州の教育政策との連携をはかりながら地域 住民にたいする学習要求にこたえることがおおき な目標としてかかげられている。その意味ではわ が国の「大学コンソーシアム京都」もこの類型に くくれるかもしれない。「地域ネットワーク」の基 本的機能は、
①物理的資源の共有(総合目録を基盤とした OPAC の共有、業務システムをふくむ統合型 ILL システムの共有、物流システムの構築)
②インターネットによる連携の強化
③電子的資源へのアクセス(集団ライセンスを 前提として統合型プラットフォームからのア クセスの提供)
などがあげられている。ちなみに OhioLINK では、
統 合 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム と し て 1 9 9 0 年 か ら INNOPAC が採用されている。現在、参加 78 機関、
所蔵総数 2120 万冊、学術データベース 98 種、フル テキスト電子ジャーナル 2500 タイトルを 60 万人の コンソーシアム参加機関の学生、教職員に提供し ている。また、コンソーシアムによるサイトライ センス契約については実に経費を 3 分の 1 まで圧 縮できたとのことである。
「協力ネットワーク」は図書館組織の類似性によ る「図書館コンソーシアム」とされる。代表的な ものは米国中東部にある大規模研究大学 13 校によ る Committee on Institutional Cooperation, CIC があ る。CIC では Center for Library Initiatives, CLI を設 置し当初から ILL をはじめとした資料共有プロジ ェクトはもちろんだが、図書館の基本的課題であ るコレクションの強化、開発に重点がおかれた。
1991 年から電子ジャーナルのアーカイビングプロ ジェクトである CIC Electoric Journal Collection が 開始され 800 タイトルにおよぶ学術雑誌の電子コ
レクション化がすすめられた。最近では、米国北 東部の大規模研究大学図書館 18 校による North East Research Library Consortiam, NEAL が 1996 年 に設置され一万ドルをこえる電子媒体資料のサイ トライセンスのコンソーシアム契約に特化した活 動を開始している。ここには、ハーバード、イェ ール、コロンビア、MIT、プリンストンなどの伝 統校のほとんどが参加をしており米国においても もはや単独での電子媒体コレクションの構築が困 難となっている状況がうかがえる。これに類する 最近の図書館コンソーシアムとしては California Digital Library Allience なども著名である。
3.わが国における図書館コンソーシアム形成に かかわる課題
米国の例をみるまでもなく、わが国における近 年の「図書館コンソーシアム」興隆の背景には以 下のような共通した環境の変化がある。環境の変 化に対応する新たな図書館サービスの構築という 側面から「図書館コンソーシアム」を考えてみる 必要がある。環境の変化とは、情報技術の革新、
情報市場の変化、図書館環境の変化などがあげら れよう。とくに、図書館環境の変化は要約すると、
①図書館運営経費の切迫と図書館需要の多様化
②資料の所蔵からアクセスの提供(ownership vs access)にむけた図書館サービスのシフト
③図書館システムの革新によるネットワークの 形成と資源の共有促進
ということになろう。ここから、さらに新たな図 書館サービスの展開をはかるうえでの課題を列挙 するとすれば、
①利用者アクセスの最適配分
②電子媒体コレクションの管理
③各種媒体による学術情報にたいする統合的ア クセスの提供
④質の高い図書館職員の育成
⑤変化に対応しうる情報インフラストラクチャ ーの継続的整備
ということになろう。これらの課題にたいするひ とつの選択肢として「図書館コンソーシアム」を 検討する時期にきている。
一般的に、図書館サービスにおける「図書館コ ンソーシアム」の形成とは、うえでのべた環境の
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変化に対応してサービスの「外部化」ないし「相 互依存化」をはかることを意味する。わが国では 高等教育機関における図書館総合目録の構築を目 的として 1980 年代半ばから文部省学術情報センタ ー(現国立情報学研究所、NII)により政策的に書 誌ユーティリティーの形成がはかられ、参加機関 を拡大してきた。目録業務を中心としたテクニカ ルサービスの相互依存化という意味で NII の果た してきた役割は過小評価すべきではない。しかし、
一方で昨今一部の国立大学図書館によるサイトラ イセンス契約を目的とした図書館コンソーシアム の形成がこころみられるなど、うえでのべた米国 における「ユーティリティーネットワーク」の現 状をみるまでもなく、書誌ユーティリティー事業 者としての NII の対応が困難な状況が出現しつつ ある。昨今の国立の高等教育機関の独立行政法人 化の動きと関連して、NII および国立大学図書館の 今後の動きを注視する必要がある。おそらく、こ こ数年のうちにさまざまな形態ないし目的をもっ た「大学図書館コンソーシアム」が形成されるこ とが予想される。
4.本学における図書館コンソーシアム検討の方 向性
従来から図書館間相互協力はさまざまな目的で 存在したが、あくまでも互恵的関係を尊重する立 場から同規模、同種の図書館の横の連携の域を出 ず、サービスの拡大・向上とはうらはらにつねに 相互の内部的な業務負荷をともなってきた。「図書 館コンソーシアム」の発想はこうした内部的な業 務負荷を回避するために、参加機関の共有化しう
る図書館資源・図書館サービスを外部化すること により各機関が個別に提供する資源・サービスの 一層の個性化をはかることを意味する。
本学では、文部省学術情報センターの活動開始 とほぼ時期を同じくして独立した書誌ユーティリ ティーの形成を検討した時期があったが、結果と して学内の図書館総合目録の構築にとどまった経 緯がある。大規模私立大学として分散する学内図 書館資源の機能的統合と学内図書館サービスの相 互依存化をすすめたという意味での評価はありう るが、この実績をどのように展開するかが、今後、
本学が「図書館コンソーシアム」の形成を検討す る際のかぎとなると考える。本学学術情報システ ム WINE が搭載する目録所在情報は書誌レコード 数約 152 万件、所蔵レコード数 286 万件におよび単 独の書誌・所蔵データベースとしては国内最大の 規模に成長している。「図書館コンソーシアム」の 形成という文脈からあらためて書誌ユーティリテ ィーの可能性について検討してみる必要があると 考える。
仮に、今後の本学における図書館サービスの柱 を、
①ドキュメントデリバリーサービス(DDS)
②データベースサービス(DBS)
③レファレンスサービス(RS)
④テクニカルサービス(TS)
と考えた場合、書誌ユーティリティーの形成を基 盤としながら、これら図書館サービスのいずれが
「外部化」ないし「相互依存化」をすすめる柱とな るかを検討する時期にきている。
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【本号表紙写真】
教会スラブ語四福音書 写本 16 世紀後半モルドヴァ地方制作
Bible. N.T. Gospels. Church Slavic. Manuscript on paper, written in liturgical semioncial. Moldova, second half of the 16th century.
201 葉 320 x 305 cm 各ページ 26 行 F193.5-111
四福音書の各冒頭には特色ある装飾文様が彩色されている。この写本は装飾と言語的な特徴な どからモルドヴァ地方で 1560 〜 70 年代頃に制作されたとみなされている。巻頭には後代の落書き が見られる。教会スラブ語写本はわが国ではきわめて稀覯。名誉賛助員の故山田泰吉氏がルーマ ニアで収集したと思われる。山田泰吉氏寄贈