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ヤク(wool)に関する被服学的考察

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41-48 (1992) 武庫川女子大紀要(人文・社会科学)

ヤク

(woo

l)に関する被服学的考察

上 回 一 恵 ・ 岡 本 佳 子

(武庫川女子大学家政学部被服学科)

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Eコ 牛に似た毛長の動物“ヤタ

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"の毛で織られた布を用いて洋服を製作し,将来はヨーロッパへの輸出を考 えているブータン王国のある方から,国立民族学博物館の粟回助教授に衣服試作の依頼があり,幅51cm,長さ 5mのヤクの布が届けられた. 粟問先生は,“ブータンヒマラヤの生業形態"等の研究もされており, 1985年には京都大学ブータン・ヒマラ ヤ学術登山隊の副隊長としてマサコン登頂を果たしておられる.その時の登撃隊長であり,本学家政学部被服 学科元助教授の横山先生を通じて,試作依頼とヤクの布が持ち込まれた.当研究室は, 1985年にも上記登山隊 の堀隊長(京都大学教授)の依頼によりブータンの民族服“ゴ

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"を製作した経験がある. ヤクは標高3000m以上の高地で生息しやすく,ブータンでは家畜として飼われており,生活上大変貢献度の 高い動物である.しかし,その毛は堅く肌触りも悪いことから,口一プやテント,敷物に利用されてはし、るが衣 服としての利用度は少ない. 近年,ブータン王国では西洋化が進み,洋服の蒼用も増えているため,洋服的なデザインのコートを試作して ほしいとの希望である.当研究はヤクの布を用いて衣服の製作をするとともに,ヤク(ウーノレ)の物性試験を行 い,衣服として成立するか被服学的に検討を試みた.

ブータン王国

ブータン王国はヒマラヤ山脈東部,北はチベット,南はインドに接する中央アジアの内陸国である.国土は東 41

(2)

(上田 ・岡本) 西約 306kn,南北約 145kn と東西に長 く,面横は約 46,500kdである.北には 7,000mを越える山々がそびえ, 南下す るに したが って標高が低 くなる.北部は山岳性で降水量が少な く,冬は人は住 まず夏はヤクの放牧が行わ れている.中部は内陸性の温暖な気候で,人 口の大部分が この地帯に住んでいる.南部は亜熱帯性で,モソスー ソの影響によ り降雨量が多 く,南斜面は照葉樹林帯にな っている. 人 口は約 153万人 (1989年)で,ブ一夕ソ人が約 60(恥,ネバー人が約 25甲Oの割合である. 主要産業は農業で米,とうもろこし等を生産 し,また牧畜業 も盛んで牛,ヤク,羊等を飼育 している.農牧畜 業に就労人 口の約 90%が従事 している.

ヤ クについて

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学]Bos grunnt'ensは晴乳綱偶蹄 目ウシ科に属 し,チベ ッ ト, ヒマ ラヤ,中国西部の高地に生息 してい る.

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野生種 と家畜種があ り,野生種 のヤクはチベ ッ トを中心に標高 4,000-5,000mの高地に生息 し,体長 3-4m,背の高 さ 2m,胴回 り3-4m,体重約 600kg,頭には巨大な角があ り1 全身は暗黒色の毛で 被われている.雌は雄 とは比較にな らないほ ど小 さい.体の大 きさの割に体重が軽 く高地での生活に適 してい る.体形は ウシに似ているが側腹 と下面に 50-60clnの長毛が密生 し,尾に も長毛が生えている.家畜種のヤク はイ ン ド北部か ら中央 アジア,中国西部において飼われている.野生種に比べ体 も角 も小 さく,品種改良のため に交配 も行われ雑種 も多 く生息 している.ヤクは低酸素低温に耐え,良好な草地 さえあれは標高5,000mの高地 で も放牧 できるが, 3,000m以下での飼育は難 しい.最近では家畜種の雑種が増加す るのに比 して野生種が減 っ てお り,野生のヤクは絶滅に瀕 している. 野生のヤクは儀礼的な事に利用 され,特に黒褐色の ものは神聖視 されているが,家畜のヤクは捨てるところが ないと言われ るほど様 々に利用 されている.

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(3)

42-ヤク (Wool)に関する被服学的考察

ヤク(ウール)のコート製作

西洋的な洋服感覚で一般的に多くの人々に好まれ,立つ若々しいデザインのコートを希望と言うことで5稜類 のデザインを考えた.この5例のデザインから素材の厚さや組織,付属品の有無と布盆や構成上の問題点などを 考慮し1点を選定した. (デザイン決定時の間題点) 1.布が厚いので袖つけのいせこみが函難である. 2. 布が厚いのでウエストや裾でしぼれない. 3.布が厚いのでボタンホーノレが難しい. 4.ほつれやすい布のため切り替えのあるデザインは向かない. 5.ブー夕、ノにはファスナーがない. 以上の事を考えに入れ(Fig.1)に決定したが,そのデザインの特徴は 1.ラグランスリーブにし,袖つけ,重ね着を考慮. 2. 前打ち合せをダフツレにし,サイズ的に融通性を持たせた. 3.ボタンホーノレを作らず,ノレープボタンとした 4. 襟,袖口(見返し,積回り)にウーノレ地チェック柄を用いアクセン トとした. 5. ポケットは切り込みを入れずに,脇シームポケットとした. このような特徴と,機能性もよく民族服の“ゴ"のイメージを加味したデ ザインに決定した. このデザインで‘裂紙を作成し(Fig.2),トワーノレで試作,補正の後, ウーノレ生地で、試作をした後ヤク布の裁断を行なった. (Fig. 3, 4) Fig. 1 This design was adopted. 4 6.5

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Draft of Yak coat Fig.2 3 0 7 ' 令 l B ' B E E t B , ‘ Back (単位:

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(4)

(上 田 ・岡本) /collar

Back Back F∼ro∩t SleeVeB oi

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Fig.3 Method ofcutting yak cloth Fold llne 220 Fig.4 Method ofcutting linlng Cloth 次に,工程分析表(Fig.5)に基づいて コー トを製作 した. (Photo.2,3,4) ヤ クコー ト製作上,下記の問題点があ った. 1.布 の量が少ないため地 の 目を揃 えて無駄 のないマーキ ングが困難 . 2.切 りじつけ,チ ャコでは しる しつけが困難 . 3.そのため,縫 い代を一定に した裁断が理想だが,布畳 の制限があるので不可能 . 4.袖付け等のいせ こみは,布が堅 く厚 いので無効力. 5.縫 い代は アイ ロンでは割れず,ステ ッチ ミシンに よる始末を した. 6.布が十分に精練 されていないので堅 く, ミシ-/が進みに くく,布の下に紙をひいて縫製 した 7.各 ピースを縫合 してい くと重 くな って ミシソがかけ辛 くなる. 8.アイ ロンでの仕上げがで きない. 一 ■ 」

Photo.4 Bhutan man wearlng the yak coat (in India atthe BbutaneseEmbassy) - 4

(5)

4-ヤタ (WooI)に関する被服学的考察 れη白色1でから脇縫い〈定右〉 よごポケット{立{還を徐く れ

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削 さ え あ ( 腕 ) 向上Irr~ 押さえ (@5))llllロ見返し布よ部を表地につける(友省、まつり縫い) アイロン コご 仮Ullllillil干iiを見返し布に縫い付けるは阻まつり縫い) (55)設衿つけ ループ て ぺ ( ( : ) 助 制 を 出 来 上 が り 線 上 を カ ァ ト し 、 身 頃 に 捌 か く ま つ り 付 け る (!S'O)背中心にループをf'Jける (151llJ縫い代の始京(身ごろ誕地〉 (GilllH草地を衿出来上がり線でまつり付ける ((jltjlH草司iiの/I.il出来上がり終に仰さえアイロン ((6l))1霊平治患を見返し布に縫い付ける 可シ (奥まつり縫い) 俗説前身須の見返し布の絡にちど スナ!プ ヱこ -Y- (¥iゆ符から見返し、結

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(6)

(上回・岡本)

ヤクウールの物性試験

ヤクの布は霊く,墜くごわごわし悪臭もある.そのような外観的印象から炎瓶としては殆ど利用されていな い.そこで狼られた布盆を用いて物性試験をし,ヤクウーノレの性能を調べ,同時に羊毛についても行い比較検討 した.その結巣をTable 1に示す. 今回使用したヤクの布の組織は経糸が太く,総糸が細い 2本の王子織である. ヤク昨毛と比べると約去の繊維長,太さも様々で,精練不足の毛をそのまま紡いで糸此ているようであ る.織り密度はヤグの方が粗いが,質量は震い.浮さは平均するとヤクのガが浮いが,繊維の太さのばらつきに よりヤクの布の浮さは一定でない 切断強度,切断伸度は羊毛より大きい.通気性,剛軟度には差がないが,保 視に関してはヤクが少し劣る.またヤクは吸水性はなく,布は精練されていないので水を弾く,そのためテント や雨具に適している.

Table 1 Physical Properties of Yak Fiber and Wool.

回γ グ 手さ 毛 織 古住 長 3.13cm 6.57cm 経 28.10/0 経 6.2% 糸の織縮み率 36.8% 緯 26.6% 質 五主2主

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192.2g / ni' 112.2g /ni' 厚 さ 2.32阻 2.26阻 経 67本/10cm 経 133本/10cm 密 度 緯 74本/lOcm 縁 123本/10cm 見 か け 比 震 0.08g /C

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0.04g /C

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気 孔 容 積 94.3% 96.7% 経 切 断 強 度 13.3kg/crn 経 13.9kg/ cm 緯 9.9kg/c阻 緯 5.7kg/cm 経 60% 経 28~目b 切 断 伸 度 緯 56% 総 35% 経 60mm 経 65阻 問 日 軟 性 総 57阻 総 44mm 吸 くオ 性ー 測定不可能 測定不可能 通 気 度 83.5C

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crJ/s 84.4C

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主幹 53.1% 71.2% 次にヤクの糸をベンジンで、洗毛,脂を抜いた後,脱色剤(フ、ノレーノレゥ.クリームデライトエキストラ.ライト, ノレゥ.クリームベロキサイド)を混合して浸透させ,水洗いをして自然、乾燥した.10分間の脱色で非常にソフト 感がでた.洗毛後の繊維の側街,断面を電子顕微鏡で撮影観察した. (Photo.5~8) ヤクの鱗片(スケーノレ)はウーノレのそれより短く,先はギザギザである.また厚さもウーノレより薄い.ヤタの場 合,細い繊維のスケーノレは比較的長く,ウーノレの形状に近い.細い繊維は若い織綾と思われるが, Photo. 7に 観られるように繊維の太さ,形状,空洞の有無など様々でヤクの糸は新しい毛,古い毛,抜け毛,また種々の部 位より集められた毛で紡がれたと考えられる.ウールの断面は t!.~、たし、円形であるが,ヤクは阿形のものとラク ダやアンゴラウサギの繊維にもみられるさを洞のあるものと,それが矯平したものが混在している.

(7)

-46-ヤク (Wool)に関す る被服学的考察

Photo.5 A sideview Yak'sfiber Photo.6 A sideview woolfiber

Photo.7 Crosssection ofYak'sfiber Photo.8 Crosssection ofwoolfiber

と め

ブータ ンにおいてヤ クは大変利用度の高い家畜 で,約 4万頭 (1987年)が飼育 されてい る,ヤ クの毛は堅 くご わ ごわ して肌触 りも悪 いため,その毛 で織 られたYattah(ヤク)と呼ばれ る布は主 にテ ン トや袋 に利用 され てい る.衣服 としては北部 の ラヤ地方 で少数民族 ラヤ ップの女性がスカー トと前あ きのジ ャケ ッ トとして,東部 のサ クチ ンで ダク/<と呼ばれ る遭牧民が フェル トの帽子に してかぶ っているだけであ ま り利用 されていない.そ こで 製作 した ヤクコー トが衣服 として適 しているかを縫製 ,被服性能の面か ら検討 した. 製作 したヤクコー トはデザイ ン面で, (1)前幅に融通性があ り体型に合わせやすい.(2)打ち合わせが多いの で保温性を高め ることができる. (3)ブータンの人に好 まれ るよう民族服の"ゴ"をア レンジ した.(4)衿 ぐ りに は ウールを使用 して,ヤ クの布が直接肌 に触れ ない よ うに した.(5)見返 しや袖 口に別布を用いて色づかいを良 くした り,袈布をつけてすべ りを よくし着脱 を しやす くした.(6)重ね着を して保温性を高め られ るよ う,ゆ と り量を十分入れた.等の工夫を しデザイ ソ面ではイ ン ド. ニューデ リーの ブ一夕ソ大使館の方 々に栗 田先生に持 参 して戴 いて感想を伺 って戴 いた結果は好評 で 2,000ル ビーか ら 2,500ル ビー ぐらいで売れ るだろ うとい うこと であ った. しか し縫製面において,次の ような問題点があ った. ① しる しつけが困難,②縫 い代の始末に手間がかか る,③ アイ ロンが きかない,④布が精練 されていないので ミシソがかけに くい,(9また布が重いため取扱が しに くい さらに,デザイ ソ的にはゆ と りがあるに もかかわ らず,重 く,堅いので,着用 していて圧迫感があ り,原毛を 使用 しているため皮膚刺激がある. 物性試験か らは ウール よ りも力の作用には強 く,耐久性があ り防水性は高い と考察 された. 今回使用 した ヤクの布は多分に原始的な方法 で織 られた物 であろ うと思われ る. しか しこの布 も織経の段階か -4

(8)

7-(上田岡本) ら洗毛,目覚色,染色等の加工を施せば今回コート製作に使用した布以上の性能を確保する事が可能だと考えられ る.今後ヤタウ…ノレを使用して衣服の盆産を考えるなら,原毛の収集方法,精錬,紡緩,織り等,布に仕上げる までの工程段階から改良開発する必要があると考えられる.また,洗毛や脱色方法も考え箆し,ソフト感やド レープ伎をだし,ウーノレのように多彩な色柄のヤクウーノレが量産されれば特産品として輸出することも現実化し てくるかもしれない.さらに縫製の段階,方法また縫製による布の耐久性等も今後の問題点である. ブータンで、は,ネパーノレ人の急増に伴う南ブータンの政情不安により,アイデンティティを強調する必婆から 民族衣装の着用義務を 1989年 5月 1日から法律で定めている.現時点で,国内での洋服の需要は少なくなって いるが,将来的には国内,国外向けに“ヤゲ'という珍しい素材をアピーノレしたり,洋服的なものだけでなくブー タンの民族服風にしてみることにより商品化が可能になるかもしれない.

謝 辞

本研究にあたり,資料を提供して下さいました国立民族学博物館の楽団助教授,本学被服学科元助教授の横山 先生,顕微鏡写真撮影をして下さった本学被級学科の奥野助教授,被服造形第2研究室卒論生青山由美さん,関 裕子さん,その他お世話になった方々に御礼申し上げます

参 考 文 献

1)世界データファイノレ 1988,原審房,東京 (1987) 2) 1991 世界年鑑,共同通信社刊,東京(1990) 3)朝日稔『図解動物観察事典』地方言書館,東京(1982) 4) 莱田靖之,関立民族学博物館研究報告, 11, 457…488 (1986) 5) 堀了平『偉大なる獅子マサ・コン降主主頂』講談社, (1986) 6) マーク・パーソロミュー, (とみたのり子訳

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ブータンの染織』紫紅社, (1985) 7) 小川安朗『応用被服材料学』光生館,東京(1963) 8) 文化服装講Ele:

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文化出版局, (1976) 9) 上院一恵,岡本佳子他武庫川女子大学紀要 34,被 181(1986) -

参照

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