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マラウイにおける社会的保護政策と農村生計

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Academic year: 2021

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- 1 - 氏 名 五 野 日 路 子 学位(専攻分野の名称) 博 士(国際農業開発学) 学 位 記 番 号 甲 第 788 号 学 位 授 与 の 日 付 令和 2 年 3 月 20 日 学 位 論 文 題 目 マラウイにおける社会的保護政策と農村生計 論 文 審 査 委 員 主査 教 授・博士(農学) 高 根 務 教 授・博士(農業経済学) 板 垣 啓四郎 教 授・博 士 ( 農 学 ) 志和地 弘 信 教 授・博士(農業経済学) 稲 泉 博 己 論 文 内 容 の 要 旨 本論文の目的は,アフリカ東南部に位置するマラウイの事例をもとに社会的保護政策が農 村生計に与える影響を村落世帯レベルから明らかにすることである。 近年,貧困層の脆弱性を克服することを目的とした社会的保護政策がアフリカ各国におい て行われている。社会的保護政策がアフリカにおいて注目されている背景には,貧困や食料 不足人口の削減においては食料増産や経済開発だけではなく,貧困世帯への社会的保護とそ れを補完する農業・農村開発の組み合わせが有効であるという成功事例が FAO や国際協力機 関にて報告されていることがある。 本研究では,マラウイで実施されている農業投入財補助金政策と社会的現金給付政策を事 例に農村世帯に注目した分析を主とし,地域間比較と異時点間比較を用いることにより,大 規模なサーベイに基づく分析では明らかにできなかった,農村世帯の特徴や世帯事情,政策 の実施現場で起こる事象を明確に示すことにより,詳細に社会的保護政策の効果や問題点を 明らかにし,社会的保護政策にどのような農業・農村開発を補完することが必要かを示した。 1.社会的保護政策の受益者選択と特徴 社会的保護政策の受益者世帯の選定では,農業投入財補助金政策と社会的現金給付政策と もにコミュニティ主体の選定を採用しているが,その選定方法には違いがみられた。農業投 入財補助金政策ではコミュニティ主体の選定におけるメリットの,時間・労力・予算を大幅 に削減できるという効率を図るメリットが最大限に活かされていたが,受益者の選定におい ては村長や村内で役職をもつ世帯が必ず関わっていた。一方で,社会的現金給付政策では農 業投入財補助金政策よりも時間・労力・予算はかかるものの,村長や富裕層などの有力者が 受益者選定に関わることが避けられており,政策の意図に反した恣意的な選定が行われる可 能性を未然にふさいでいた。

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- 2 - 農業投入財補助金政策の受益者世帯の特徴としては,村ごとに遵守される受益者の選定基 準や重視される基準が異なることが明らかとなった。政府が重要視する受益者の特徴には, 高齢世帯主世帯,女性世帯主世帯,孤児を引き受けている世帯の3 つの特徴があるものの, それらの特徴を有する世帯が必ず受益者世帯として選定される傾向にはなく,村ごとに 3 つの特徴を遵守する基準や重要度には違いがみられた。また,どの村にも共通して政策の対 象とする受益者条件と全く合致しない世帯が受益者世帯として選定されていた。 一方で,社会的現金給付政策の受益者世帯の特徴からは,おおむね政府が定める受益者基 準に沿った世帯が受益者世帯として選ばれていた。しかし,受益者世帯の最終決定に際して は政府の選定基準以外にも,世帯の個別事情や農外所得の有無とその内容などが考慮されて いた。 2.農業投入財補助金政策とトウモロコシ生産 化学肥料の利用とトウモロコシ生産の検討からは,トウモロコシ栽培に関して化学肥料の 利用はトウモロコシを増産する上で重要な役割を果たすことが明らかとなった。しかし,化 学肥料を利用できたからといって,必ずしも高いトウモロコシ収量を得られるとは限らず, トウモロコシ収穫量の増減には天候条件も大きく影響するのである。また,本政策が実施さ れることにより,必ず農村世帯の化学肥料の投入量が増えるとは言えない。しかし,トウモ ロコシ耕作地面積の大きい世帯で,かつ割引価格で化学肥料が購入できた場合には,市場価 格での化学肥料の購入を促進することが示唆された。 また,トウモロコシ経営費の検討からは,政策の補助金があることで農村世帯は市場価格 で投入財を購入するよりも,かなり低くトウモロコシ経営費を抑えることが可能となってい た。特に相対的に所得の低い村や,所得の低い世帯では,補助金がなければ市場価格で農業 投入財を購入することは厳しく,政策の恩恵があるからこそ,貧しい農村世帯であっても, ある程度の投入財の利用が可能となっていることが明らかとなった。 しかし,受益者負担額の引き上げは貧しい農村世帯の投入財の利用量を減少させる結果を 招くことが明らかとなった。その要因には,多くの受益者世帯が受益者負担額の引き上げに 対応できず,共同購入することにより割引価格で購入できる投入財の量は減るものの,市場 価格で購入するよりも安い投入財の利用を望んだためである。共同購入する世帯の増加は, 村内の多くの世帯に政策の恩恵を行き渡らせた反面,本来の政策の目的からは逸脱する結果 をまねくものである。 3.農業投入財補助金政策とフードセキュリティー フードセキュリティーの達成について,供給可能性,入手可能性,安定性,食料の利用可 能性の 4 要素から分析を行った結果からは以下のことが明らかとなった。

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- 3 - 供給可能性の検討からは,多くの世帯がトウモロコシ自給の達成は厳しいことが明らかと なった。トウモロコシ自給の達成においては土地生産性の向上が重要であることが示唆され たものの,農業投入財補助金政策の受益者世帯とトウモロコシ自給の達成には関係性がみら れなかった。 多くの世帯がトウモロコシ自給を達成できていない状況から,農村世帯がフードセキュリ ティーを達成するには,入手可能性が重要な要素となることが明らかとなった。しかし,全 ての世帯が必ず自家生産では賄いきれなかったトウモロコシ消費量を購入によって賄える とは言えず,所得の稼得内容も重要であることが示された。トウモロコシ以外の農業所得で は,大型の家畜であるブタやウシを保有している世帯,農外所得では常勤の仕事または子供 達からの援助といった所得を得ている世帯にフードセキュリティーを達成している世帯が 多くみられ,多くの世帯が従事している Ganyu(請負払いの仕事)のみではフードセキュ リティーを達成することが難しいことが明らかとなった。 安定性の検討からは,自家生産トウモロコシのみでは安定的なフードセキュリティーの達 成を望むことが難しいことが明らかとなった。その要因としては,土地生産性に関わる化学 肥料の投入量の減少のみではなく,世帯構成員の変化も影響することが明らかとなった。ま た,安定的にフードセキュリティーの達成を望むには安定した農外所得から入手可能性を達 成することが重要ではあるものの,安定的に農外所得を得ている世帯は資格や技術を要する 職についている世帯であり,全ての世帯が従事できるものではなかった。 食料の利用可能性では,世帯ごとの栄養摂取の多様性には差があることが明らかとなった。 その要因にはトウモロコシ生産量が影響しており,トウモロコシ生産量の低い世帯ではトウ モロコシ以外の食材を購入するための資金的余裕がなくなることから,栄養摂取の多様性も 低くなることが示唆された。また,村内では入手できる食材に偏りがみられ,その要因には 食材の価格のみではなく,季節,生活環境が影響していることが明らかとなった。 4.社会的現金給付政策と農村生計 社会的現金給付政策の実態について,受益者世帯の給付金の使用用途,農村世帯の社会的 保護政策の捉え方,社会的現金給付政策の問題点から検討を行った結果からは以下のことが 明らかとなった。 給付金の使用用途に関しては,受益者世帯の多くは給付金をトウモロコシの購入や就学費 用の支払いに使用している事が明らかとなった。受益者世帯では,年間の給付額全てを使用 することにより,各世帯に必要なトウモロコシ購入または,修学費用の支払いのどちらかを 賄うことが可能であったが,両支出を給付金のみで支払うことは不可能であった。一方で, 給付金の一部を利益率の高い加工品販売や作物転売などの自営業資金として使用する事に より,トウモロコシの購入および就学費用の支払いの両支出を賄える可能性があることが明

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- 4 - らかとなった。 農村世帯が捉える農業投入財補助金政策と社会的現金給付政策の違いには,トウモロコシ の確保を優先するか,様々な支出に対応できる現金の確保を優先するかという各世帯の考え 方の違いがある事が明らかとなった。多くの農村世帯が農業投入財補助金政策の受益者世帯 になることを選んだ背景には,供給面からのフードセキュリティーの達成および所得を向上 させることが重要であると多くの農村世帯が捉えているためである。加えて,多くの世帯が 現金に対する不安を抱えていることも農業投入財補助金政策の受益者世帯になることを望 む世帯が多い理由としてあげられる。社会的現金給付政策で受給できる給付金を,各世帯が 必要と考える用途に適切に使用するためには,給付金を貯蓄する事が必要であるが,金融シ ステムの発達していないマラウイ農村では,計画的に現金を貯蓄する事が難しい事情がある。 社会的現金給付政策を施行していく上での問題としては,給付時期の遅れ,給付金額変更 の曖昧性がみられた。これら問題は,予算の問題や政策施行上に関する政府側の問題がある ことが明らかとなった。 審 査 報 告 概 要 世界最貧困国の一つであるマラウイでは,貧困層を対象とした 2 種類の社会的保護政策が おこなわれている。この政策の農村世帯への影響を村落実態調査で得られたデータをもとに 分析した本研究では,以下の3点を明らかにした。第1に,農業投入財補助金政策は主食で あるトウモロコシの生産性向上に貢献したが,この政策のみで農村世帯のフードセキュリテ ィーを確立することは困難であり,より多角的な政策支援が求められる。第2に,貧困層を 対象とした現金給付政策をより効果的にするためには,金融サービスの充実などの補完的な 政策支援が必要である。第3に,2つの政策の受益者選定のプロセスが大きく異なっており, その相違がそれぞれの政策の効果を大きく左右している。これらの知見と発見は学術的に価 値の高いものと認め,審査員一同は学位請求者に博士(国際農業開発学)の学位を授与する に値すると判断した。

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