タブ葉粘質物に関す
一粘液の粘性に
る研究(第4報)
ついてー
楠瀬 博三・鴛淵 武雄 (農学部農産製造学研究室)Studies on the Mucilage of the Leaves of“Tabu”(Part.
4)
―Viscosity
of Mucilagenous Solution―
Hirozo KusuNOSE, Takeo OSHIBUCHI
(Laboratory of仙e C/iamicat Technologji of Agricultural Products, Facul£y of Agriculture)
The effects on the viscosity of mucilageous solution of the 】eavesof“Tabu” was eχamined by the viscosimeter at 25°Cunder the various conditions (various temp. , pH, and addition of soluble salts). On these experimentsi it was found that this mucilagenous solution was not affected by these experimental conditions. From these results, we confirmed that the mucilagenous solution of the leaves of “Tabu” had a behavior of the neutral polysaccharide.
I.緒 論 クブ葉は,その粘液が第1報1)に述べたごとく,和紙製造の際の粘剤としてトロロイモ,ノリウ ツギ粘液紡の不足時に補助的粘剤として使用されるほか,葉を粉末として蚊取線香の粘着剤に現在 多量に使用されている。一般にタブ葉粘液はその粘性が比較的に安定しているといわれているが, かゝる性質が粘質物の化学的な構造に由来するか否かは明らかでない。しかし従来,本粘液の性質 については詳細な報告か見出されない。筆者らはアセトンによって沈澱,精製した粘質物の粘液お よびタブ葉より直接抽出してえた粘液について,各種塩類,加熱,・酸およびアルカリなどの影響を 証べ,また経時的な粘性の変化を検討した。これらの結果について報告する。 n.実 験 の 部 (1)粘液の訓製法および粘度測定法 (i)粘質物粘液(粘液A) 粉末タブ葉より冷水抽出によってえた粘損な粘液に,当量の塩酸酸性アセトン(アセトン1日こ 20mlの濃塩酸を混合)を添加して生じる粗粘質物を乾燥さすことなく分取し,熱水に再び溶解し て不溶解性物質を濾去したのち,塩酸酸性アセトンを加えて精製粘質物をえた。本粘質物の本体は 第2報2りこ述べた如くキシロースおよびアラビノースのみよりなる中性多糖類であり,その重合度 は大凡183で天然高分子としては比較的小さい分子量の多糖体であることがわかった。本精製粘質 物の一定量を蒸留水1000m1に加熱溶解し完全な溶液としたのち,各種濃度の塩酸,酸,アルカリ および尿素などと当量混合し,また原液を適当な濃度に稀釈して表記の如き各種濃度の粘液を調製 し,25°Cの恒温水槽内に浸潰して20分間平衡化せしめたのち,オストワルド粘度計(30秒計)に よって流下時間を測定した。 (ii)。抽出粘液(粘液B)
% 高知大学学術研究報告 第19巻 a 学,第11号 粉末タブ葉10gを水11に2日間浸出し,濾過して透明な粘液をえた。なおその粘液濃度は,そ の一定量にアセトンを加えて生ずる沈澱を乾燥秤量して粘液濃度を算出した。また粘度の測定は粘 度Aの場合と同一の方法で実施した。 (2)実験結果および考察 (i)塩類および酸,アルカリの粘度におよぽす影響 タブ葉粘質物はキシロースおよびアラビノースのみより構成されている非電解質高分子(中性多 糖類)であるので・77りノC∼C曲線は電解質高分子のような特徴ある曲線とはならないことは当然 予想されるが,粘液の粘性に1価,2価および3価のカチオンがいかなる影響をおよぽすかを検討 した結果を第1図∼第6図に示す。 5 0 ︵ 。 ぶ ︶ A J I S O O S I y V 9 A U E │ 3 y 0.1 0.2 0・.3 0.4 0.5 Salts concentration (Mol)
Fig. 1 Effect of Salts on the viscosity o NaCl, △ CaCh, 0 AlCb. -Preparative mucilage ; mucilage concent. 0. 025g/100ml. Extracted mucilage ; mucilage concent. 0. 002g/100ml. Qぺ‘ g ご ヽ 1 1:0 ・ 0.02 0.04 006 008 0.10 Preprative mucilage Concentrai・ion 【g/100m】) Fig. 3 Effect of Salds on ηg。/C∼C Curve.
○−O AlCb. △−△ CaCl2, ローロ NaCl, ×−x non-addition. ︵よ︶Ajisoosi/^ 9AHB[ay 1 . 5 1.0 0 。 1 . 0.2 0.3 0.4 0.5
acid and alkali concentration (Mol) Fig. 2 巳ffect 6f HCl and NaOH on the Viscosity・ ○ -xio 4
cru
2 1 HCl, △ NaOH. Preparative mucilage ; Concent. Extracted muci】age ; Concent. 0。025g/100ml. 0. 004g/100ml. 1 0.04 0.08 0.12 0.14 0.20×10’2 Extracted mucilage concentration (g/100m1) Fig. 4 Effect of salts on η,。/C∼C curve ○−O AlCh, △−△ CaCh,Q`Qぷ 1.5 1.0 タブ葉粘質物に関する研究(第4報) (楠瀬・鴛渕) − . □ Q 4 ぷ xio 4 3 2 1 ’ ..まい ■ダ’ Jy 97 0.02 0.04 0.06 0.08 0』 0・。04 0.08 0.12 0.16 0.20×10-2
Preprative mucilage concenration (g/100ml) Extracted mucilage concentration (g/lOOml) Fig.。5 Effect of HCl and NaOH on ■n,jc∼C Fig. 6 Effect of HCl and NaOH onηs。/C∼C ローロ0. 05M. ,△−△ 0. 3M., ロトロ0. 05M.,△一△0. 3M. , ○−00.5M. 0−00.5M. - HCl, …… NaOH. - HCl, …… NaOH. これらの図から明らかなように調製粘液および粉末葉より抽出1した粘液ともに各種塩類の影響を 殆んど受けず,η,。/C∼C曲線も殆んど直線となり,トロロアオイ粘質物3’やヤマイモ粘質物4)と は全く異なり,中性の合成高分子であるポリビニールアルコール5’に似た粘性曲線を示した。 (ii)尿素濃度の粘度におよぽす影響 尿素は非電解質高分子の分子内水素結合を切断する試薬として用いられている6)。 また蛋白質や 核酸のような生体高分子物質の構造解析の一助として使用されていることは衆知のことである。即 ち分子内水素結合が切断されることにともなう粘性の変化の様子を観察することによって,それら の構造の一部が推察出来る。しかし多糖類の粘性におよぽす尿素の影響は殆んどその報告をみない が,粘性を示す多糖種においてもその分子内に水素結合の存在する可能性も予想されるので,それ を明らかにするために粘性におよぽす尿素の影響を調べた。もし分子内に水素結合が存在し,分子 ︵ ・ ぶ ︶ A 5 1 S O 3 S I A SAiiBiay 1 . 5 0 . 1 0.2 0 . 3 0.4 0.5 Urea concentration 【Mo】) Fig. 7 Effect of Urea on the viscosity.
-Preprative muci】age; , eoncent. Extracted mucilage ; concent. 0。025g/100ml. 0. 004g/100ml.
ふ.5
1 . 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 Preparative mucilage concent. (g/lOOml) Fig. 8 Effect of Urea on ηs。/C∼C curve. [トロOン05M. ,△−△0. 3M. , 0−0 0. 5M. , ×−x non-addition.98 xio ・4 3 QへQぷ 2 1 高知大学学術研究報告 第19巻 a 学 第11号 0.4 0.8 1.2 】.6 2.0×】0 Extracted mucilage concent. 【g/lOOm】) Fig. 9 Effect of Urea on η.p/C∼C curve. [トロ0. 05M. ,△−△0. 3M., ○−00.5M., ×−x non-addition. 2.0 1 5 C 3 I D ︵ よ ︶ A ︶ i s o o s i / v S A i j B i g y 20 30 40 50 60 70 Temperature (゜C)
Fig. 10 Effect of Temperature on the Viscosity. ○−O Preparative mucilage ; concent. 0. 02Sg/100ml. ローロ Extracted mucilage ; concent. 0. 004g/100ml. べ Q 1 . 6 1 . 5 1 . 4 1 . 3 1.2 0.02 0.04 0.06 0。08 0.10 Preparative mucilage concentation (g/100ml) Fig. 11 Effect of Temperature on 77.。ZC∼C curve. ローロ 25°C,×一× 30°C,0−0 40°C. が収縮しているような構造を取っておれば,そ の結合が切断されることによって分子は長く伸 び,それに伴い粘性も増加するものと推測され る。かゝる見地のもとに行なった測定結果を第 7図∼第9図に示す。 これらの図から明らかなことは尿素添加によ って粘度が上昇する傾向は全くみられず反対に 少し低下しているようにも思えるが,その原因 については不明である。 (iii)粘度におよぽす加熱の影響 一般に加熱によってみかけ上の粘性が低下す ることはしぱしばみられるが,冷却によっても との粘性にもどる場合も考えられる。タブ葉粘 質物は比較的安定的な粘性を示すことはすでに しられている事実であるが,この点を実験的に あきらかにするために本試験を実施した。それ らの結果を第10図∼第12図に示す。 この図より明らかなように温度上昇にともな ってみかけ上の粘度は著しく低下するが相対粘 度(り。)の値は殆んど変化しないことが明らか となった。この傾向は粘液Aの方が強く,全く 変化がみられず,粘液Bの方は少しく粘度低下 を来すことが判明した。なおこれら粘液Aおよ びBとも温度を常温にもどすことによって粘度 ももとの粘度に返ることが明らかとなった。 (iv)粘液粘度の経時的変化 トロロアオイ粘質物は夏期高温時に著しい粘 Qぺぷ X10 1.8 1.7 1.6 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 0.04 0.08 0.12 0.16 0.20 X】0‘1 Extracted mucilage concent. (g/lOOml)
Fig. 12 Effect of Temperature on η.pic∼C curve.
タブ葉粘質物に関する研究(第4報) (楠瀬・鴛渕) 99 度低下を来すことが経験的に知られているし,鴛渕7)の研究によりその裏付もなされている。本実 験は比較的長期間粘液を室温に放置した場合 (カビの発生を防ぐため粘液□につきホルマ リン3mlを添加)粘性がいかに変化するかを 追跡したものである。 この図に示すごとくアセトン調製粘質物は20 日間の室温放置では全く粘性の低下はみられな かったが,粉末タブ葉より抽出せる粘液は抽出 後1週間余で徐々に粘性の低下がみられ,容器 の底に白い沈澱が生じた。その原因については 判然としないが,植物体に含まれる種々な成分 特に有機酸などの影響によって粘質物の分解が 起ったか,或は酵素の影響によって粘質多糖体 が分解されたとも考えられるが詳細な点につい ては解明しえなかった。 1 5 A ) I S O D S I y \ DAUBpy 1.0 0 2 4 6 8 1 0 15 days
Fig. 13 Effect of Reserved time on the viscosity.
-Preparative mucilage ; concent. Eχtraded mucilage ; concent. 0。025g/100mi; 0. 004g/100ml. Ⅲ。総 。括 タブ葉より抽出,せる粘液に塩酸酸性アセトン添加を行ないえた粘質物(粘液A)および粉末タブ 葉より直接冷水抽出によってえた粘液(粘液B)について,それらの粘液の粘性におよぼす因子の うち,塩類濃度,酸,アルカリおよび尿素などの影響を検討した結果,次のような事実があきらか となった。 (1)両粘液とも中性高分子としての粘性挙動を示した。 (2)粘度は,測定した範囲では殆んどが変化はみられなかったが,三価のチオンが,わずかに粘 度を高めるように影響している結果をえた。 (3)加熱の影響は50°Cまでは全くみられなかったが,粉末タブ葉より抽出した粘液は40°C位で 少し粘度低下がみられだ (4)経時的粘性変化は粉末タブ葉より抽出せる粘液が抽出後1週間位から粘度低下を示し,15日 位で少量の灰白色沈澱物の生成がみられその後も粘度低下が徐々に進行した。 (5)以上の結果を総合するにタブ葉粘液は,本実験に供した如き処理条件に対して比較的安定で あることが実験的にあきらかとなった。しかし粉末タブ葉より直接抽出した粘液の粘性低下の原因 は種々考えられると思われるか,確定的な原因はみつけえなかった。 剛口閣開倒開剛 文 献 楠瀬博三,鴛渕武雄;高大学術研究報告, 10, No. 9 (1961) 楠瀬博三,鴛渕武雄;高大学術研(第2報)投稿中(1970) 鴛渕武雄,大和田寛;農化誌, 28, 781 (1954) 佐藤利夫,水口純,鈴木周一,戸倉正利;工化誌; 70, 1553 (1967) 前田弘邦,河合徹,関井澄生,高分子化学> 15, 719 (1958) 須沢利郎,野村洋一,元山光雄,塩田宏治,工化誌, 73, 209 (1970) 鴛渕武雄;高大農学部紀要,第4号(1958) (昭和45年9月29日受理)