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農業者組織が農家行動に与える影響に関する研究―施設園芸経営を対象に―

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農業者組織が農家行動に与える影響に関する研究―

施設園芸経営を対象に―

著者

石塚 修敬

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第19308号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00127853

(2)

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博士論文

農業者組織が農家行動に与える影響に関する研究

-施設園芸経営を対象に-

東北大学大学院農学研究科

資源生物科学専攻

石 塚 修 敬

指導教員

冬木 勝仁 教授

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2

目次

序章 問題の所在と博士論文の構成 ... 5 1節 本研究の大枠課題 ... 5 1)研究背景:個人的問題意識 ... 5 2)研究背景:個と集団・組織への着目 ... 7 3)研究目的:博士論文の大枠課題 ... 11 2節 調査方法,対象と分析 ... 11 1)調査方法 ... 11 2)調査対象の選定方法 ... 12 3)分析:コンフリクトの見方 ... 12 3節 先行研究 ... 14 1)農業経営の二重構造と集団・組織の展開... 15 2)農業者の集団・組織に関する研究 ... 16 3)コンフリクトを扱った研究 ... 16 4節 博論の構成と事例地域の選定理由 ... 18 補論 切り花市場の近年の動向 ... 20 第1章 部会内組織と農家の生産志向の相違における調整 ... 23 1節 はじめに ... 23 1)本章の位置付け ... 23 2)目的 ... 23 2節 調査概要 ... 23 1)調査対象と調査の概要 ... 23 2)調査地の概要 ... 24 3節 調査結果と分析 ... 30 1)部会総体に見る個と集団 ... 30 2)MAX に見る個と集団 ... 30 3)STAR に見る個と集団 ... 30 4)SKY に見る個と集団 ... 31 4節 小括 ... 35 1)調査地域に関する結論 ... 35 2)個と集団の論理に関する結論 ... 35 第2章 任意組合組織が農家行動に与える影響に関する実態分析 ... 37 1節 はじめに ... 37 1)本章の位置付け ... 37 2)目的 ... 37 2節 東北地方の切り花生産に関する整理 ... 37 1)先行研究による整理 ... 37

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3 2)統計的整理 ... 37 3節 調査の方法と調査地・対象の概要 ... 42 1)調査の方法 ... 42 2)調査地の概要 ... 43 3)調査対象の概要:N 組合について ... 44 4節 調査結果と分析 ... 46 1)調査結果:回答者の属性 ... 46 2)調査結果:生産,経営,出荷状況と今後の方針 ... 47 3)調査結果:N 組合について ... 50 4)調査結果:外部機関への期待 ... 51 5)市場調査の結果 ... 52 6)考察:個と集団をめぐって ... 53 5節 小括 ... 54 第3章 都市農業地帯における集団組織の動向の実態分析 ... 56 1節 はじめに ... 56 1)本章の位置付け ... 56 2)目的 ... 56 2節 都市農業をめぐる政策展開と先行研究の整理... 57 1)都市農業政策の展開 ... 57 2)先行研究の整理 ... 59 3)東京都の農業の現状 ... 60 3節 調査の概要 ... 61 1)調査の方法 ... 61 2)調査地の概要 ... 63 3)販路の実態 ... 63 4節 調査結果と分析 ... 66 1)共通点と相違点 ... 66 2)市場出荷型:F1,F2 ... 66 3)給食出荷型:F3,F4 ... 67 4)集団組織の実際 ... 68 5)考察 ... 71 4節 結論と今後の課題 ... 71 終章 結論 ... 73 1節 各章のまとめ ... 73 2節 結論 ... 74 補章 米農家の個と集団に関する最近の動向 ... 76 1節 はじめに ... 76 1)背景と目的 ... 76

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4 2)博論における本章の位置付け ... 77 3)先行研究 ... 77 2節 概況調査とその結果 ... 79 1)調査対象と手法,質問内容 ... 79 2)概況調査の結果と考察 ... 79 3節 抽出調査とその結果 ... 82 1)調査対象と手法,質問内容 ... 82 2)抽出調査結果 ... 82 3)集団形成に関する考察 ... 86 4)全体の考察 ... 88 4節 結論と今後の課題 ... 89 1)結論 ... 89 2)今後の課題 ... 89 引用・参考文献 ... 90 初出一覧 ... 94

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序章 問題の所在と博士論文の構成

1節 本研究の大枠課題

本研究は,部会や任意組合等の農業者組織(註1)が,構成員である農家が採用する様々な経営行動に 与える影響について詳察する.影響とは,「物事の力や作用が他のものにまで及ぶこと.また,その結果」 のことで,論旨に即せば,「組織内で起きる対立(コンフリクト)やその調整によって,個別経営が自ら の経営方針等を変更すること」である.コンフリクトとは農家個人と組織の方針の相違によって発生す るものである.この節では,まず研究背景として,筆者が抱える問題意識と,その学術的位置付けを提示 する. 個人的動機である問題意識の萌芽を冒頭で記述する理由は,本研究が質的研究に分類されるためであ る.質的研究においては,「著者がその主題やその研究参加者にどのようなバイアスを持っている可能性 があるのかを,読者が批判的に検討・評価できるようにするため」に,そして研究の反証可能性(falsifiability) と省察可能性(reflectability)を高めるためにも,個人的動機の提示は重要な手続きだからである(大谷, 2019:p7)(註2). 1)研究背景:個人的問題意識 筆者の問題意識の萌芽は,渥美半島を市域とする全国トップレベルの農業地帯,愛知県田原市で共選共 販に取り組む輪菊農家への聞き取り調査に遡る.2015 年~2016 年にかけて,当時筆者は,修士論文執筆 に向けた聞き取り調査を行っていた.既に何軒かの調査を終えており,輪菊部会と農家が互いに抱える 課題が見えつつあった.調査の詳細は当該の章を参看いただくこととして,ここではきっかけとなった とある農家の発言を紹介する.その農家は,田原市の輪菊農家の作付面積規模で示すのであれば“中規模 レベル”の経営体であった.部会やチーム(註3),集落の話をする中で「今もまだ個人レベルでは啀み合 い」や「(よその農家が)電気に失敗すればいいと思うことがある」と零され,調査の終いには,これま での話を総括するように「うち(渥美地域)は古くて田舎だから」とも仰られた. 田原市の農業の展開,市町合併や特に農協合併(註4)を振り返れば,この日本一の産地を支える部会 (註1)ここで「農業者組織」とは「農業者が産地において結成する機能集団」という,広範な概念として設定している. このため,本研究では,全ての農業者組織をターゲットにはしておらず,その具体的な対象は各章において明示する. なお,「産地」の範囲は単協の事業地域程度を想定している. (註2)大谷(2019:p176)によれば,省察可能性とは「分析結果が妥当であるかどうかを,分析者自身が分析過程を振り返 って検討できること」で,分析者による恣意的または飛躍的な分析を防ぐために重要である.このためには,分析過程 を明示的にしておく必要がある.反証可能性とは,「分析結果の妥当性に疑問を持った人が,「この分析のここがこうお かしいのではないか?」と指摘できること」で,読者が分析に対する問題点を指摘できるようにするためにも重要であ る.この2 点を保証するためには,「用いている分析手法の「分析手続きの明示性と了解性」」が要求される.本章の 1 節と2 節はそのために設定している. (註3)チームとは,部会内に組織されている販売方針の異なる 3 つのチームのことである.田原市は温室を用いた電照菊 栽培を行っており,夜間に電照を灯すことで輪菊の光中断を起こし,開花調整を行う.これに失敗すると品質が下がる だけでなく開花時期がずれ込み,ピーク時の出荷に間に合わず場合によっては数百万円近い損失になるという. (註4)以下,本研究では特に断りが無ければ総合事業を展開する農業協同組合を一貫して農協と表記する.また,単位農 協の名称については「JA○○」の表記を用いる.

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6 の内実は協力関係のみで成立しているとは想像し難く,実際そうであった(註5).農協合併を経て,かつ てのライバル産地は2004 年より 1 つの輪菊部会に 4 つの旧部会を内包することになった.しかし,その 後も市場出荷をめぐるチャンスロスの解消を目指して,2010 年に改めて 1 部会 3 チーム制への再編を行 い,紆余曲折を経て現在に至っている(註6).そして,圧倒的な全国一の産地だからこそ産地内にライバ ルが存在する地域なのである(註7).部会活動の成果を見るに“上手くいっている産地”だが,その影で “個人的には上手くいっていない農家”も存在するのである.経営状況や目標といった個人の方針が,, 組織の方針と完全に一致しないため,組織化による利益を充分に得られず,かといって組織の中で自ら の課題ばかりを強く主張し改善を要求することも出来ない,いわゆる「個と集団・組織の間の調整」が上 手くいっていない現実である. 発言の背景はこういった事を意識してのことと推察される.この産地では,組織化による協力と同時 に,競争が存在している.ここでいう競争とは,農家の経営行動(農家行動)という実際の行為だけでな く,先の発言に見るように,他者が転ぶことをどこかで願ってしまう“意識”も含意されている.この“意 識”を,主流派経済学が仮定する合理的経済人の行動原理で説明するのは困難である(註8).確かに,他 者が失敗することを考えていても自らの経営改善には寄与しない.しかし現実に,こうした一見無駄な こと(=“意識”)が随所に散りばめられて,一戸の農家,集落,部会,そして産地が形成されているの が現実である.“意識”が,例えばライバル意識として発揮されるのであれば,品質や技術水準を高める 効果も期待され,集団や組織と個別経営が同時に成長することも期待できるが,「啀み合い」が顕在化し, まとまりに欠く状態が放置されてしまえば,集団や組織は徐々に機能性を鈍らせてしまうだろう.その ような集団組織は果たして“良いもの”なのだろうか.集団や組織の影響を考察する時,組織行動と組織 目標の達成だけでなく,その構成員への影響はもちろん,その裏でこぼれ落ちる農家の存在も注意深く 分析しなければならない.筆者の問題意識は,集団や組織と構成員(=個別農家)の間の利害対立は何に よって引き起こされるのか,それは単なる損得の話なのか,あるいはより人間感情的で,関係性に起因す るものなのか.集団や組織の内側に発生する,それを維持するための力学(パワーバランス)の質的な変 化として,産地の集団・組織の競争,協力,そして対立に関わる“意識”とその調整と解決の実態把握に 焦点を当てることに向かった. 以上の個人的問題意識を研究課題として明示的にするには,組織論を援用しながら整理することが妥 当である. (註5)産地形成期から 1980 年半ばまでの共選共販をめぐる対立の実態分析については石田(1987)に詳しい.第1章で 触れる. (註6)この部会内組織の再編の経緯については青山(2015)に詳しい.第1章で触れる. (註7)ただし,ある大規模農家(4,000 坪を超える)は JA ふくおか八女の共選菊の品質を評価し,ライバル意識する声が あった.ライバル視の意識差も重要なポイントになり得ると考えられる. (註8)長くなるが重要な指摘なので引用する.例えば石田(1999)は,農家主体均衡論の既往研究のレビューをしたのち 「生産者(農家)をして生産要素を生産物へ変換する一種の点(装置)とみなし,そこでの生きた人間像とか,集団や 社会,組織の中で生きる具体的な人間像を描いていない(中略)近代経済学では生産主体をその極限まで抽象している ことによるものである.しかし,農業経済学の仕事の味わいは,純粋理論では捨象されてしまう幾多の側面を掘り起こ し,分析の光を当てることにあると考えられる」(p10)と問題提起をしている.また,宇沢(2017)は「人間は心があ ってはじめて存在するし,心があるからこそ社会が動いていきます.ところが経済学においては(中略)マルクス経済 学においても人間は労働者と資本家という具合に階級的にとらえるだけ(中略)新古典派経済学においても,人間は計 算だけをする存在であって,同じように心を持たないものとしてとらえている.経済現象のあいだにある経済の鉄則, その運動法則を考えるとき,そこに人間の心の問題を持ちこむことはいわばタブーだった」(p17)と述べる.

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7 2)研究背景:個と集団・組織への着目 井原(2008)は,集団と組織の区別として,組織(organization)とは「明確な共通の目標を持ち,成員 (組織の参加者)の活動を調整したりコントロールしたりする仕組みをもっている」(p172)もので,集 団(group)とは「何らかの共通関心を前提に持続的に形成される人々の集まり」(p172)としている.ご く端的なこの定義からは,組織よりも集団のほうが“ゆるい”結合によって人間同士が結びついているこ とが示されている.しかし,この両概念にはこれ以上踏み込まずに,「組織と集団の包括関係は微妙」(p172) と記すにとどまっている.組織の統制が官僚的(トップダウン式)であろうと,民主主義的(ボトムアッ プ式)であろうと,組織の行動と構成員の行動は一見して判別し難い.このため,個人と集団,組織の領 域を明確に定めることが重要である(註9). (1)集団の定義 図 序-1 は,中條(1995)による社会的関係の次元整理である.集団が形成されるためには,人間が複 数名存在する状況が必要である.一対一の線的な人間関係が,複数名へと面的に広がり集合化し,やがて 集団,組織へと範囲が狭まっていくことを示している(註10).中條は,M.ウェーバーを引用しながら, 集団が成立するためには“境界の存在”と“管理スタッフの存在”が必要であると論じている.境界とは, M.ウェーバーの「閉鎖的社会関係」の概念に因るものである.すなわち,関係への参加であれ離脱であ れ,集団の構成員に何らかの制約や制限をかけることになる線引きのことである(註11).管理スタッフ とは,集団の中核となるリーダー(管理者)のことで,前掲の井原が示した“持続的に形成”されるため に必要な人物である.つまり,集団には,秩序概念の形成のために境界が設定され,その維持や集団行為 の任務遂行のためにリーダー等の管理者が存在するのである. これを一文で示すのならば,山田(2017:p29-30)の定義がシンプルであろう,すなわち,「成員性によ って基礎づけられてた比較的明確な境界を有しており,また程度の如何はともかくとしてそれなりの持 続性を誇る」ということである. (註9)組織論においても,「組織」の概念が曖昧なままであったり,「目的集団」とほぼ同義なままで使用されたりする実 態が指摘されている(中條,1994). (註10)引用元で中條は,集合に関する詳察を行っていないため,山田(2017:p29)を参照して集団と集合の別を整理する. 集合は,群衆や公衆,大衆を指す.群衆とは「特定の事柄への関心のために一時的に集まった対面的な人々の集合」で あり,公衆は「メディアを介して間接的につながる緩やかな人間集合であり,世論形成を担う理性的な存在」である. また,大衆は「メディアの影響のもとに斉一的な心情と振る舞いを非合理に呈しがちになる匿名性の高い人々の集積」 である.簡略化すれば,群衆は対面的で,公衆と大衆は非対面的である.また,公衆は合理的で,群衆と大衆は非合理 的である.この3 つの集合はいずれも,「どこまでの人々がその範囲に入るのかが明瞭ではなく,またそれがいつまで続 くのかもはっきりしない」という点で,集団とは異なる. (註11)境界(閉鎖的社会関係)と管理スタッフについては,Weber, M. 清水幾太郎・訳(1972)『社会学の基本概念』岩 波文庫.

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8 図 序-1 社会的関係の 4 次元 資料:中條(1995)より引用. (2)集団の類型 では,集団にはどのような類型があるのか.集団類型論の代表的な二分法に基づき示せば,F.テンニー スの「ゲマインシャフト」と「ゲゼルシャフト」,C.クーリーの「第一次集団」「第二次集団」などが挙げ られる.両概念を整理したものが表 序-1 である.表中の①は基礎集団を,②は機能集団を指している. 両集団の違いは,成員性の画定が基礎的(自然的)にされるか,機能的(人工的)にされるかである(山 田,2017:p30)(註12).両者について,富永(1986,1995)を参照しつつ掘り下げる. 表 序-1 集団の諸類型 概念 意味 例 テンニース ①ゲマインシャフト 本質意思に基づく 有機的関係・集団 家族・近隣 村落・仲間 ②ゲゼルシャフト 選択意思に基づく 機械的関係・集団 企業・大都市・国家 クーリー ①第一次集団 対面的で 親密な集団 家族・近隣・仲間 ②第二次集団 非対面的で 冷徹な組織 企業・大都市・国家 資料:山田(2017:p32)より一部を引用し,筆者加筆. ①基礎集団 富永(1995)によれば,基礎集団には家族・親族・氏族を含むものであるが,近年,基礎集団の機能は (註12)なお,中條(1996)は基礎集団にあたる集団を「関係集団」と記述している.関係集団とは「家族のように集団 関係そのものを所与ないし目的とする集団」で,「関係そのものから満足や便益を受け取ることを目的とする集団」のこ とである.ここではその区別に言及せず,近似的なものとして基礎集団で統一する. 人間関係の 次元 集合の 次元 集団の 次元 組織の 次元

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9 縮小し,構造的分解に向かいつつある.それは近代産業社会(註13)において家族制度が,家父長制から 核家族に構造的に縮小し,女性の社会進出も相まってその機能が脆くなりつつあることからも明らかで ある. ②機能集団 その一方で機能集団は,「基礎集団がかつて受け持っていた諸機能をつぎつぎに奪いとり,基礎集団の 衰退と入れ替わって,発展してきた」(富永,1995:p33).機能集団は,自然発生的な基礎集団とは異なり, “機能的必要”に応じて結成に至る.このため,機能集団のもつ方向性は“機能的合理化”であり,「合 理化の進んだ機能集団は,組織と呼ばれる」(富永,1995:p33).別の言い方をすれば,「機能集団が分業 関係と制度化された支配関係を備えたものが組織」(富永,1986:p227-228)である(註14). このように,基礎集団と機能集団の別は,分析対象の性格によって明確に示される場合もあれば,家族 の例のようにほとんど基礎集団として見るべき対象の中に機能集団的性格を見出すような曖昧性を孕む 場合もある.しかしいずれにせよ,集団の定義,特に機能集団の中において組織の概念を掴むことができ よう. (2)組織の定義 組織の定義について,中條(1994)は,「組織は集団そのものではなく,集団維持あるいは集団目的達 成のための手段的社会関係」であり,「集団運営のための仕組み」と定義している.つまり,集団は人の 集まりであり,組織は機能と見ることができる.続けて中條が指摘するように「集団メンバーになること が必ずしも組織メンバーになることを意味しない」事に注意を要する.つまり,集団を組織たらしめるた めのスタッフは,単なる集団のスタッフとは区別され,いわゆる“ヒラ”と“役員”の立場の違いによっ て明確化されることを示唆している. 富永(1986)は,機能集団の項に見たように,機能集団こそ組織であるとしている.そこで,富永によ る組織の説明を確認すれば,その特徴は次の3 つに集約される.ひとつは,「組織は経営の家族からの分 離を前提とする」こと.もうひとつは,「組織は分業関係をつくりあげる」こと.いまひとつは,「組織は 制度化された支配関係をつくりあげる」ことである(富永,1986:p228-229).また,山田(2017:p83)は 「目的の達成のために権力関係と分業関係が制度化された機能集団」と定義し,富永のそれに準ずる定 義であると言えよう. このように,集団は“単なる集団”から“組織”までを含む広義な言葉であり,組織は集団が進化して 生じるものと見なすことができる. 以上の整理をもとに,本研究においては集団と組織を次のように定義する. [1] 「集団」とは,「成員性によって基礎づけられた比較的明確な境界を有しており,また程度の如 何はともかくとしてそれなりの持続性を誇る集まり」のことである. この定義は前掲の山田(2017)に準ずる.このため,例えば「個と集団」という表記には,「個人 (個別経営)」と「集団または組織」を指している.つまり,「個と集団」という場合には,そこで (註13)富永(1995:p35-36)によれば,その時期は,前期が戦前期日本,後期が戦後期(高度経済成長期を含む,つまり 「高等教育の普及や新中間層の大量登場」(p36))である. (註14)ただし富永(1986:p224)は,家族(基礎集団)の重要性が失われつつあるとするのは不適切であるとする.歴史 的に家族が兼ねてきた機能集団的役割が社会構造の変動の中で機能集団へ外部化され,よって家族(基礎集団)の性質 は純化され,その重要性は高まっていると指摘する.

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10 はまだ「集団」が基礎集団・機能集団(つまり組織)か,あるいは特別に確認された“新たな集団” なのか,明示できないが何らかの集団の形態をとる集まりと一個人(個別経営)の対峙を示す時に この表記をする. [2] 「組織」とは,「目的の達成のために権力関係と分業関係が制度化された機能集団」のことであ る.これもまた山田(2017)の定義を採用する. 農業において,生産者部会や任意組合は基本的に組織に該当するが,現実に組織的活動が執行され ているか,その組織力(組織の機能の程度)に関しては,事例調査で明らかにする. [3] 「個」とは,上記の集団・組織の構成員である「個別経営体」のことを指す.つまり「農業者(経 営主)」である. 農家と表記する場合に想定する形態は,非法人の家族経営体で,本研究の対象である.農“家”な のだから,いわば経営をする基礎集団である.個別経営体が所属する集団や組織での方針が最終的 に「農家の経営」として表出するため,題目では「農家行動」と表記している. [4] 「内部集団」とは,「ある集団・組織の方針に賛同する動機を持てない構成員らによって,その 内部に生まれる集団のことである(図 序-2).組織化には至っていない.“派閥”や“会派”と呼 ばれる集まりがこの概念に近い.これは筆者による定義である. 図 序-2 内部集団の発生 資料:筆者作成 では,農業において集団ないし組織は何を動機にして結成されるのだろうか.端的に言えば,「不確実 性の減少,機会の拡大,コストの低減,危険の分散を図るにあたって,集団的行動が個人合理性の領域を 拡張できる」(石田,1987:p7)ことを目指して,特に市場対応において効果を発揮する(註15).実際の ところ,切り花供給の特徴は,圃場の施設化の進展,輸送園芸地帯の拡大,そして共販実施が増加してき た点にある(内藤,2016:p81-82).これらによって,生産と出荷の高品質化と安定化,出荷期間の長期化 と周年化が進んできたわけであるが,ここで効果を発揮したのが農協や部会,出荷組合などの組織であ る. 施設園芸作では,稲作等の土地利用型農業と比較して生産場面における協業性に乏しく,生産に係る結 (註15)農業における市場とは,農産物市場,農家購買品市場,農業金融市場,農村労働市場,農地市場,が挙げられ, 計5 つに分類される(三島,1994). 集団の 次元 組織の 次元 内部集団

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11 合は作業組合というよりもむしろ,資材や種苗などの農家購買品市場や,出荷販売対応において為され る.加えて,切り花産地は概して小規模であるため,共選共販体制による産地段階での整備,マーケティ ングが重要とされてきた(辻,2001:p10).むろん,共選共販体制の実施においては販売対応だけでなく, 規格の統一や品種の選定のための生産場面の指導や研修,勉強会が組織的に取り組まれる事があるが, 土地利用型農業で展開されてきた共同作業や機械の共同利用とは異なる.つまり,施設園芸による切り 花生産において組織は,市場対応を主として結成され,その活動は主に,市場からの要請をどのようにし て産地で実践するか,または産地の生産物をどのようにして市場で売るか(売り込むか),これらの情報 収集と戦略を立てる役割が期待されてきたのである. ただし,そうした「組織の方針」は必ずしも「個別経営の方針」に合致しない.これは筆者の個人的問 題意識の中でも触れたとおりである.それだけでなく,この約10 年間にわたって国産切り花市場は停滞 で推移し,つまり,切り花市場に好転の兆しが見られない状況にある(本章補論).こうした,品目の状 況を踏まえた上でも,産地内の農家レベルで生じている課題,特に組織に倣える・倣えない農家の個別の 事情を精査する必要がある. 3)研究目的:博士論文の大枠課題 以上の問題意識を踏まえて,本研究では,市場への販売対応を目的とした農業者組織の活動実態や組 織行動(集団の論理)が,成員である農家の階層分化や多様化(個の論理:農家行動)に対して与える影 響として,対立(コンフリクト)の状況やその解決に向けた調整の実態を明らかにし,その課題と取組む べきことを提示する. なお本研究では,主題に「農業者組織」と示す通り,「組織」の体をなしているものを分析対象として いる.繰り返しになるが,組織であるとして調査を行い,その結果「単なる集団に過ぎなかった」という ことも想定されうる. 以降,2節で調査方法と対象の選定,および分析について示し,3節で関連する既往研究の整理によっ て,農業における集団・組織に関する研究で注目されてきた点を明らかにする.その上で,4節にて本研 究で対象とする事例地域の特徴を,本論文の構成とともに示す.

2節 調査方法,対象と分析

1)調査方法 調査は,文献調査,地域農業の関係者として農協職員や自治体職員への聞き取り調査(概況調査)と, その結果を踏まえて農家への聞き取り調査(個別調査)を実施する.聞き取り調査を採用する理由は,「他 者の合理性」に接近し理解するためには,過去・現在・未来(今後の方針など)を通じたデータ収集が必 要で,そのためには質問を回答に即して柔軟に設定できるインタビュー形式が適しているからである(註 16). 社会調査法は,量的調査と質的調査に二分することができる.量的研究とは「対象を測定することで数 (註16)他者の合理性とは,「一見すると不合理な行為選択の背後にある合理性やもっともな理由」のことである(岸, 2016:p29).

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12 量化されたデータを得,それを処理して結論を得る研究」である(大谷,2019:p21).これに対して質的 研究とは,量では測れない,あるいはそこからこぼれ落ちてしまうものを対象とする.それらは「人々の 価値観,信念,希望,意欲,意図,意識,意味,意義,気持ち,感じ方などの主観的subjective あるいは 間主観的 intersubjective で,言語的かつ非言語的で,動的で相互作用的なもの」のことである(大谷, 2019:p24)(註17). 本研究の大枠課題に接近するに当たっては,農林業センサス等の統計資料を扱うことはあるが,その分 析はあくまで補足的に行い,質的データの取扱いを重視する. 2)調査対象の選定方法 以上に示したような聞き取り調査を実施するにあたって最も注意すべきは,調査協力者の代表性の保 証である.農家への依頼の手順は,概況調査の結果から留意すべきと判断した事柄(作付規模や販路な ど)に該当する農家の抽出を自治体職員に依頼,農協部会を対象とする場合は更にJA 職員を経由して事 例農家を選定した.この手順によって,地域の関係者から信頼されている農家であることが保証される. なお,対象の選定にあたっては概況調査の結果以外に次の2 点に留意した. 〔1〕 組織の現役のリーダー(部会長,組合長など),またはその経験者. 〔2〕 組織の現役の役員(副部会長,支部長など),またはその経験者. リーダー・役員経験者は,産地を俯瞰する視点を有し,概してベテランであるため,対象地域の変化に ついても詳しく,知見に富む回答を得やすいからである.ただし,回答者の特定を避けるため,現役であ るか,過去の経験者かの別は明記せずに,一括して「経験者」と表記している. 3)分析:コンフリクトの見方 1節において,集団を機能的に管理するシステムが作用することで,基礎集団やそれに準じる集団は機 能集団として“組織化”することを確認した.しかし,集団や組織に対する内外からの影響による存続基 盤の揺らぎに対しては,当然のことながら集団組織として対応をしなければならない.特に組織は,機能 的合理化を目指す中で,外部与件の変動に伴い常に内部機構や組織の方針やその規模を更新する必要に 駆られるが,構成員から合意を得られるとは限らない.これを発端に,組織の内部で対立(conflict,コン フリクト)が発生する可能性も十分に考えられる.これはミクロ組織論の分野において「組織内コンフリ クト」として取り扱われる内容である.以下でこれを整理する(註18). (1)組織内コンフリクトの定義 服部(2019:p197)によれば,コンフリクトとは,「2 あるいは 3 以上の個人や集団の間に生じる対立的 ないし敵対的な関係」のことで,個人どうし,集団間,企業や組織どうしなど,他者との関係が生じるあ らゆる場面,段階で起こりうる.以降ではコンフリクトの類型とその解決方法について整理する. (註17)もちろん,これまでの研究においてこれらの項目の量的把握の試みも成されてきた.大谷(2019)は林知己夫の 数量化理論がその代表的成果であると紹介している. (註18)これに対して,組織どうしのコンフリクトのことを“組織間コンフリクト”と呼び,マクロ組織論が分析対象と している.これ以降で単にコンフリクトと表記する時は組織内コンフリクトを指すものとする.

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13 (2)コンフリクトの類型 コンフリクトは主に3 つに類型される(表 序-2).生産的コンフリクトは,解決に向けた調整を適切に 進めていくことで組織の成長が期待される.一方で,非生産的コンフリクトはむしろ不利に働くものと 認識されている. これに関連して,組織内におけるコンフリクトの存在そのものが効用を示すことも明らかにされてお り,意見の不一致の効用と呼ばれる.タスクとプロセスのコンフリクトが一切無い状況下では,組織の運 営等に関する一切の話合いの場が設けられず「完全なる仲良し集団」に陥ってしまい,組織の機能はかえ って損なわれるというものである.つまり,中程度にコンフリクトが存在するときに,むしろ組織のパフ ォーマンスは高まることが指摘されている(服部,2019:p199). 表 序-2 コンフリクトの類型 生 産 的 タスク(課題)の コンフリクト 仕事・課題の内容や目標達成に対する考え方の違い,意見の 対立によって生まれる.考え方や意見を調整していく中で対 立を解消して行くことが可能であり,組織活性化に向けて効 果的な行動を生み出すことも可能 プロセス(過程)の コンフリクト 仕事を進める過程で,進め方や裁量権限などの対立によって 生まれる.違いや対立を調整していく中で組織活性化を促進 することが可能. 非 生 産 的 感情のコンフリクト 好き嫌いなど,人間関係の中での感情的な対立や緊張によっ て生まれる.基本的には非合理な感情であり,緩和や解消に は多大なエネルギーや時間を要する.メンバー間に不安や緊 張を生み出し,組織活動の成果を低下させることも出てく る. 資料:服部(2019:p198)より引用. (3)コンフリクトの解決方法 コンフリクトの解決方法には,以下の5 つの方法が存在する(服部 2019:p200-201). ①協調 協調は,双方が満足を得るための手法であり,最も理想的な解決である.協調の実現のためには十分な コミュニケーションや信頼関係の構築が要求される. ②強制 強制は,自らの主張を相手に受入れさせることである.短時間での解決には有効だが,感情のコンフリ クトの起因となる. ③服従 服従は,強制の主従関係が逆転したもので,相手の主張を全面的に受け入れることである. ④回避

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14 回避は,互いに解決に向けた議論を行おうとせず,或いは行ったとしても議論の内容に乏しく積極的に 解決しようとする姿勢を見せずに,問題を先送りにすることである. ⑤妥協 妥協は,互いが譲り合うことである.譲り合った結果,双方に利益が生じる場合と,損失が生じる場合 が考えられる.いずれの場合も,利益分(損失分)は協調(回避)の場合より低く見積もられるのが一般 的である. これらを援用し,「個と集団の調整」を次のように定義する. [5] 「個と集団の調整」とは,「集団または組織において,構成員と集団・組織,または内部集団と 集団・組織のそれぞれの方針の間に生じるコンフリクトを解決させるために,当事者や集団・組織 の関係者の間で行う様々な調整」のことを言う.例えば,意見調整である.なお,関係者は組織の 内外を問わない.例えば,JA の部会内の個と集団の調整に,当事者と関係の深い県の指導員が重 要な役割を果たすことも想定できるため,広範に想定している. 表 序-3 はこれらの解決方法の対応関係を表にしたものである.以降の農業者組織におけるコンフリク トの検証はこの整理を参考にして行う. 表 序-3 コンフリクトの解決 自分への配慮 + - 相手への配慮 + 妥協,協調 服従 - 強制 妥協,回避 資料:服部(2019:p200-201)を参考に筆者作成. (4)分析手順 第1章から第3章にかけての分析においては,次の3 つの手続きをとる.まず,聞き取り調査によって 得られた質的データから個別経営に関する内容(個の側面)と,所属組織に関する内容(集団・組織の側 面)を整理する.次に,その実態の整理を通じて,組織内に対立や内部集団の形成などの質的な変化の実 態を確認する.組織が農家行動に与える影響はここで確認される.最後に,個と集団の調整に関する産地 固有の課題と対処法を提示する.

3節 先行研究

本研究において「個と集団や組織間の調整」は重要なキーワードである.ここまで,ミクロ組織論を援 用するための整理を行ってきた.もちろん,同様の着眼点による産地内の農家行動分析はこれまでにも 取り組まれてきているが,そこでは必ずしもミクロ組織論の枠組みの採用は全面に出されていない.ま ずは金沢(1982)の教科書を参考に,農業経営学の分野で個と集団・組織はどのように分析されてきたの

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15 か,その基礎を確認する. 1)農業経営の二重構造と集団・組織の展開 金沢(1982)によれば,農業経営における個別経済は,社会的(開かれた)個と自己完了的(閉じられ た)個を同時に持っている.社会的個は,商品生産と市場経済を通じての生産性が問題になり,技術管理 的側面に注目される.一方,自己完了的個は,私的営利性(私経済的側面)が問題として取り扱われる. そして,両者は主体的な単一の意識によってコントロールされている.そして,「生産や販売の技術面で は協業するけれども,個別経済としては私経済としての独立を維持してゆきたい」(p272)と説き.つま り集団化の契機は技術を土台にして生まれるとしている. 金沢はさらに,「技術そのものが社会化の性質をもつにもかかわらず,個別の方向に作用している点」 として,市場対応,農業経営階層,農業生産技術の3 つの場面の整理を行っている.市場対応,すなわち 共同出荷と産地形成を目的とする行動においては,市場での評価を得るためにも品質安定が要求される. つまり,生産段階での技術の平準化が要求されることとなる.しかしこれは「経営としての改善とはその まま一致しない場合が少なくなかった」(p280),つまり「等級区分の細分化は技術の社会化と反対の方向 に作用する」(同)とされ,個別化或いは小集団化を促し得ることに注意が必要である. 続いて,農業経営階層の出現に関して,「エリート集団」の形成が挙げられる.同レベル,同じ指向の 農家らが産地の平均より更に高いレベルで技術の平準化と生産性の向上を求めて共同化に走ることで, 「エリート集団」は「小集団化」だが,集団形成に至らなければ「個別化」である.こうしたトップ層の 出現において,産地全体を見たときに,生産条件に由来する同質性が残るため,生産意向と技術レベルの 階層化の進展は必至である.この時,技術レベルの低位層が「向上よりも単なる維持」を目的とし作業委 託等で高位層への依存を高めるのであれば,総体としては高位層を中心とした計画が進められることと なる.しかし,高位と低位の中間層の存在を放念してはならないと指摘する. このように,農業経営は無論“個”として独立した経済体だが,経営の自己発展の際や直面する経済・ 社会的状況下によっては,他の経営との“集団組織の形成”が行われる.金沢は,こうした農業経営の個 別性向と集団性向の局面を整理し,共同化の理論を説いている. では,実際にその展開がどのようなものであったか,なぜ実際に集団組織化が起きたのか,金沢と同様 に,稲作農家を対象にして,その営農集団(註19)を整理した小林(2005:p12-19)を元に,確認する. 1960 年代には,高度経済成長を背景に,複数農家による技術構成要素の集団的利用が本格的に展開さ れ,そこでは共同労働と栽培協定を重層的に含むものであった(註20).1970 年代には,米過剰,兼業深 化の一方で中型機械化体系の確立と水田基盤整備(構造改善事業など)が展開され,集団営農の形成は次 のような性格を帯びた.ひとつは,農民層分解により構造変動の進んだ地域での大規模経営の形成と作 業受委託関係の展開である.もうひとつは,これが進まなかった地域における機械共同利用組織の形成 である.この時から,分業に基づく協業体制が確認されるようになり,労働形態の高度化が進むようにな った.1980 年代には農民層分解と構造変動が落ち着き,一方で機械化推進と米作経済の悪化,総兼業化 が進行しながら,引き続き分業化による協業を進めてきた.また,同年代は稲作だけでなく転作物での集 (註19)小林は営農集団を,「集団営農とは労働力,労働対象,労働手段という技術構成要素の利用において複数の農家が 集団的対応を行うことを言い,また,このような集団的対応を行う農家集団のこと」(p8)と定義している. (註20)共同労働とは,高度経済成長に伴う農業労働力の流出を補うため,栽培協定とは品種,栽培方法,水の管理の統 一による米の増収を目指すためである(小林,2005:p12).

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16 団営農も展開した.1990 年代は,GATT・UR 交渉の農業合意もあり,国際化農政の時代となった.これ により効率的かつ安定的な農業経営体の育成が目指されることとなった.そこでは,「新しい食料・農業・ 農村政策の方向」における「組織経営体」,「農業経営基盤強化促進法」における「特定農業法人」,「農政 政策大綱」の「集落営農」など,法人経営だけでなく営農集団も担い手として位置づけられるに至った. このように,階層,集団組織の形成は必ずしも産地内で自然発生するのではなく,より上部にある社 会・経済の構造変動があって,それが産地に影響を及ぼすがために,与件対応・その内部化として起こる のである. なお,農業経営にとっての与件は次の3 つの観点に大別される.再び金沢(1982:p306)を引用すれば, ひとつは,「農業経営者の協力によって比較的変更し易い与件と,市場価格等の経済的与件や常に社会制 度的与件として一定の法的規制力(成分法であれ慣習法であれ),あるいは規制力を持っているところの 与件」である.もうひとつは,「必要資本量の点から,公的な財政補助がなければその変更が全く困難, ないし不可能な与件とそうでない与件」である.いまひとつは,「技術研修や情報収集組織の形成その他 のソフトな事業が伴って初めて変更,改善ができる技術的与件と,ハード事業によって初めて変更の可 能となる与件」である.ただし,続けて「生産組織化による与件の内部化だけでは,どうしても部分的改 善に陥りがちである」(同書:p307)ため,地域全体(トータル)での与件内部化を図り,トータルでの解 決を目指す,その主体の形成が重要となる. 2)農業者の集団・組織に関する研究 では,集団組織と,その構成員(個別農家)の基本性質はどのようなものか.磯辺(1984:p241-242)は, 集団組織とそれに参加する個別農家の主体性の関係について次の点を指摘する.1 つは,地域農業の組織 化において,必要に応じてその他の組織や機関(農協,土地改良区,農業委員会,自治体等)が関係を持 つことである.場合によってその範囲は広域化するが,それぞれが全体の共通目標に向かって機能する ように調整するためにも協議会制などの機構が必要であり,農家の意向が反映されることで組織の方針 が決定されることが望ましい,つまり「強弱はあるにせよ,一定の意志をもち,参加農家の活動を制約す ること」になる.こうして,集団・組織が進展し共同活動が強化されるにつれて,個別経営の主体的な活 動に対する制約が強まることが予想される.ここで危惧されることは,その制約が官僚的規制となるケ ースである.その場合,集団・組織の主体性を強調しすぎて,個別農家の主体性,自己完結性,更には家 族経営の存在意義すら否定する考えが現れうる.これが放置される時,農家の主体性は「集団組織の中に 埋没」し,「単なる受け身の土地持ち労働者」化し,所属する集団・組織の発展への関心を失い,総体と しての労働意欲も低下し,集団・組織の存続と発展に大きな支障を生じることとなる.だからこそ,「農 家の立場を尊重して,話合いと合意による民主的な運営が必要」と磯辺は指摘する. 上記で危惧されている内容は,まさに農業者と集団・組織におけるコンフリクトの発生と,その処理の 誤りである.具体的に言えば,コンフリクトに対して個別農家の「服従」,または集団組織の運営主体(集 団・組織の意思決定の代表である役員等)の「強制」,あるいは両者の「回避」が起きたと考えられる. 3)コンフリクトを扱った研究 実際にコンフリクトの発生や調整について着目した成果を整理する.そこでは,農協合併における部会 再編が主たるきっかけとして挙がっている.まず,部会とはなにか.板橋(1993)は「農協生産部会」と

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17 表記した上でその特徴を「生産面から販売面にわたり総合的に機能している組織」であり,「生産者の組 織としての側面だけでなく,農協の組織としての側面もある」とし,生産部会が孕む課題を2 つ提示して いる.ひとつは,生産部会内の技術格差によって生じる階層問題に起因する利害統一の困難性,いまひと つは,農協の広域合併後の生産部会の統一の困難性である.この他に,西井(2006)は「部会」を「特定 の作目を生産する農業経営が,その経営発展を実現するために組織化し,自ら統治する農協の組合員組 織であり,農協事業の運営と利用の統制を通じて,農業経営の大半の過程に関与する組織」と定義してい る.この他にも,部会についての定義は様々にあるが,一般的には,“農協の下部組織”であり,“生産か ら販売にわたって組織的に活動”していることが広義に共通する点である(註21). 石田(1987)は,愛知県の渥美半島に位置する渥美郡田原町・赤羽根町・渥美町(合併し,現在は田原 市)での輪菊生産を事例に,「キクの共選・共販における農民の集団的行動の研究」を行った.出荷され るキクのモニタリング(監視)コストに着目して3 町の農協の共選共販の実態分析を行った結果,田原町 農協は旧村 3 つ分と広域ながらもキク専門の部会があり技術高位平準化が達成されておりモニタリング コストは低く,赤羽根町農協はエリアが狭く組織のまとまりは良いが誰もがキクを栽培するため品質を 整えるモニタリングコストが高くなってしまう.渥美町農協は旧村 3 つ分と広域で合意形成に難がある が農家の二極分化が進みモニタリングコストは低くなってきた,という状況であった.この背景として, 農家間の技術格差の存在と,肥大化した組織の立て直しのためのコスト高が,農協離れのきっかけであ ることを指摘している.また,事例のうち赤羽根町農協と渥美町農協は,リーダーの不在が組織立て直し の動きを鈍くさせているとも指摘されている. 光定・辻(2001)は,JA 紀の里のきゅうり販売部会を例に,農協合併による産地広域化と部会の再編 を契機に機械選別機を導入し,一元出荷を開始したことによる出荷調製の省力化が,意欲的な農家の規 模拡大と高齢農家の作付面積維持に寄与し,品質の安定化と価格競争力の強化が引き起こされたことを 明らかにした.その一方で,施設栽培と品質が異なる露地栽培農家や,従来から個人出荷や任意組合での 出荷に取り組んできた農家は一元出荷に参加していない.共同選果は手数料がかかるという事も理由の ひとつである.農協には,安定した出荷量を維持するため,一元出荷のメリットを提示し参加者を増やし ていくことが求められている. 甲斐(2011)は,田原市に次ぐ輪菊の産地である福岡県八女市の JA ふくおか八女の電照菊部会につい て,任意組合としての生い立ちが部会活動の自主性を築いた点と,県の機関等の外部組織との連携が産 地発展イノベーションをもたらしたと分析し,営農の主たる担い手である部会を様々にサポートする外 部機関の有効性が示されている. 斎藤(1989)は,栃木県内の 3 つの営農集団(註22)を事例に,集団運営の安定化要因と地域農業の再 編に果たす役割」を明らかにしている.そこでは3 つの営農集団を対象に事例分析を行い,営農集団内で の利害の食い違い等に係る調整(註23)を,①役割と分担,②個別経営相互,③生産要素利用,④生産技 術,⑤外部組織(集落や農協,自治体など),に関する5 つの場面で考察している.各場面において確認 された重要なポイントは次の通りである.すなわち,①運営の安定化にはリーダーの存在,②経営の同質 (註21)都市部の農協には,営農とは関係しない資産管理部会という部会もある. (註22)斎藤は「集団は個別経営の集合体であり,それぞれ独立した経営体であるため,特に生産要素利用において利害 の食い違いが生じやすい」と述べ(p38),集団の定義はごく一般的である. (註23)調整の定義は,「集団の共通目的を達成するために,構成員間の対立,衝突,矛盾を解消して諸活動の内部均衡を 図り,個別経営の自立化を図ること」としている(p38).

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18 化と同類化と農外における融和づくりのための交流,③内部留保金を保持し,補助金や借入金を活用し ながら積立金で機械の更新等を行い構成員からの拠出金に頼らず,④共同作業が多く日常的にお互いの 技術交換が可能である中でも,組合で講習会を開き,技術の平準化を図り,⑤各組合共に外部組織との結 びつきは強く,各種支援についての協議を頻繁に行っているという. ③④はハード面のことであり,金銭問題に関することであるため把握はしやすいが,一方①②はソフト 面である.その設計上,事例の営農集団はヒエラルキー型の組織ではなく,役割制度が機能的であるため 一見して組織的だが,ソフト面である性格はむしろフラットで協同組合的であると斎藤は評価している. ⑤について,ある営農集団は,集団に参加するある集落に集落センターの建設を推進し,その運営も集団 で行う予定だったが,集落の融和を図るため自治会に運営を委ねることとしていた.集落の構成員には 非農家も含まれているからである.営農集団と集落は,オーバーラップをしながらも,実際は“営農”と “暮らし”は異なる場面である.この事例からは,非農家との協調を重視する姿勢が伺える. 近年の研究として,産地再編に伴う組織間対立を取り扱った川崎(2019)は,対立をうまく利用して産 地の再編の原動力とした事例として 3 つのミカン産地を取り上げ,組織間対立の発生要因と調整方法の 類型化を通じて共同選果推進の展開を明らかにしている.

4節 博論の構成と事例地域の選定理由

事例地域の産地としての位置付けを示したものが表 序-4 である. 第1章では,課題に接近するため,日本一の輪菊産地である愛知県田原市を事業エリアとするJA 愛知 みなみ輪菊部会に見る個と集団の調整問題の実態を示す.輪菊部会は 800 人を超える部会員を抱えなが ら共選共販を実施し,その内部に販売方針の異なる3 つのチームを組織している点が特徴である(註24). 選定理由は,“個と集団”が“生産と販売”に明確に分化し,チーム制を敷くという組織形態上の特徴か ら,異なる 2 つの側面間による利害関係や志向の変化を分析する上で適した事例のひとつと考えられる ためである. 第2章では,東北一のカーネーション産地である宮城県名取市でカーネーション生産に取り組む任意 組合であるN 生産組合(以下 N 組合)と,仙台中央卸売市場(以下「仙台市場」)への出荷を担う X 出 荷組合とY 出荷組合を対象に,各組合の動向とその課題を明らかにする.N 組合は,両出荷組合を技術 交流や資材の共同購入などの生産に関して束ねている位置づけにある.両出荷組合は同じ仙台中央卸売 市場の,互いに異なるX 社,Y 社向けに個選共販で出荷している.つまり,この事例の特徴はひとつの 産地において生産と出荷場面に異なる組合が組織されている事である.第1章との比較対照地として「個 と集団組織の調整」の実態を把握する. 第3章では,コマツナの発祥の地である東京都江戸川区と足立区のコマツナ農家を事例に,非組織的出 荷(個選個販)を行う産地の組織をめぐる動向を明らかにする.品目別組織が無い中で,都市農家はどの ような場面に組織的活動を要求するのか,そして都市農業政策(与件)の変動を受けた組織化の動きはあ るのかを検証する.なお,本章で切り花を対象としない理由は,切り花は同地域における主要な作目とは (註24)JA 愛知みなみ設立当初は 4 グループ制だったが,販売のチャンスロスの解消のため 2010 年に現在の 3 チーム制 へと編成された(青山,2015).

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19 言い難い点と,その一方で主要品目として作付けられている品目がコマツナだからである(江戸川区は 都内1 位の出荷量).加えて,都市農業地帯を対象とすることで,近年の都市農業政策の転換による影響 も合わせて考察する. 終章では総括として本研究の結論を提示する. なお,補章において,インターネットを介した消費者への直接販売に取り組むコメ農家に見る個と集団 の実態調査の報告を行う.本研究では生産(個)と販売(集団組織)の分離が明確である施設園芸経営を 中心に分析しているが,「個と集団の調整」に関する嚆矢は稲作農業経営の共同化場面を対象としたもの である.昨今,米制度改革が進んできた中で,特に比較的新しい販路を採用する米農家の実態を取り上げ て,現代における米農家の個と集団の形成を整理する必要がある.ただし,大枠課題に対して調査対象が 逸脱するため,補章と位置づけた. 表 序-4 調査地の一覧 事例地域 対象品目 作付(栽培) 実経営体数* 全国順位とシェア** 出荷量の 分類 品目名 第1章 愛知県田原市 花き類・花木 (切り花) 輪菊 (切り花) 1,394 (きく,30.9%) 1 位 第2章 宮城県名取市 花き類・花木 (切り花) カーネーション (切り花) 42 (カーネーション,不ランク外 明) 第3章 東京都足立区 野菜類 小松菜 72(野菜類) 4 位 (小松菜,東京都, 8%) 東京都江戸川区 野菜類 小松菜 86(野菜類) 東京都葛飾区 野菜類 小松菜 64(野菜類) 産出額*** (億円) 備考 第1章 愛知県田原市 約 140 輪菊の生産量は全国1位 第2章 宮城県名取市 1.35 カーネーションの生産量は東北1位 第3章 東京都足立区 2.32 小松菜の生産量は都内3位 東京都江戸川区 6.83 小松菜の生産量は都内1位 東京都葛飾区 2.18 小松菜の生産量は都内2位 資料:*農林業センサス(2015),**農林水産省(2018)「平成 29 年産野菜生産出荷統計」,***産出額の田原市の額は JA 愛知みなみの 2015 年実績(2016 年 11 月の筆者ヒアリングによる),名取市の額は N 組合の実績,東京都の各区は 「東京都農作物生産状況調査結果報告書(平成 28 年産)」,名取市提供資料(平成 29 年実績).

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補論 切り花市場の近年の動向

本研究では,生産の個別性が強い,つまり生産条件に異質性の現れやすい施設園芸作を対象とするが, 事例の 3 地域のうち 2 つは切り花産地である.このため,一度切り花市場の現段階について整理してお く.これにより,切り花類(註25)をめぐる市場に好転の兆しが見えない中で,市場対応組織が抱える課 題を提示することも可能になる. 2016 年産の花きの産出額は 3,788 億円,このうち切り花類は 2,152 億円で 57%を占めている(註26). 穀物や野菜類,畜産物をすべて含んだ我が国の農業産出額は9 兆 2,025 億円で,花きの産出額割合は 4.1%, 切り花では2.3%である.花きの総産出額は 2000 年をピークに下降推移にあり,2009 年以降は概ね横ば いで推移し,切り花類も同様である.切り花類の作付面積も緩やかに減少している(図 序-3). 図 序-3 切り花類の収穫面積および出荷額の推移 資料:農林水産省統計部「花きの作付(収穫)面積および出荷量」,農林水産省生産局「花木等生産状況調査」,農林 水産省統計部「生産農業所得統計」より筆者作成. 注:*切り花類産出(出荷)額の 2007 年産は産出額,2008 年産より出荷額. 切り花の消費の特徴として,評価基準に花の外観が重視されることと,嗜好性の高さが挙げられる.こ のため,市場には多品目多品種の切り花で溢れ,消費動向は景気に左右されやすくなる.したがって,近 (註25)切り花類とは,キク,バラ,カーネーション等の切り花,ヤシの葉等の切り葉,サクラ等の切り枝を含む. (註26)花きとは,「鑑賞の用に供される植物」を指す(花きの振興に関する法律第二条).なお花きは,切り花類,花木 類,花壇用苗もの類,鉢もの類,球根類,地被植物類に分けられる. 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 50 1990 1995 2000 2005 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 切り花類作付(収穫)面積(千ha:左軸) 切り花類産出(出荷)額*(百億円:右軸) 花き産出額(百億円:右軸)

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21 年の産出額は細かな増減をしながら総額としては減少で推移している(図 序-3). 辻(2001:p44)によれば,消費者は「新鮮さ」「日持ち」「花色と組み合わせ」「季節感」「新奇性」の要 因を評価しており,安価であることは必ずしも切り花の消費を促さない.林ら(2013)によって 60 歳代 以上において農産物直売所での供花目的の購入が多い実態が指摘されており,年代と目的,そしてアク セス性によって購入チャネルと頻度は大きく異ることが示されている.また,栗原ら(2016)によって, 福島県産の花きについて東日本大震災の原発事故による買い控え意識が消費者にあることも示唆されて いる.一般的に食品と異なる選好が指摘されながらも,食品でないにも関わらず原発事故が選好に影響 を及ぼしている可能性があることも指摘されている. このように市場規模の実績値だけでなく,消費者選好の調査結果を踏まえたところでも消費の増大が 見込めずに市場の縮小が危惧されている中で,輸入品の割合は着実に高まってきている.キクやバラは 現在でも国産品割合の方が高いシェアを維持しているが,カーネーションは既に約半分が輸入品である (表 序-5). 切り花の関税は既に撤廃されており,今後も輸入量は堅調に推移していく事が予想される.このため, 国産切り花の消費活性化を促すために近年,フラワーバレンタイン等の物日の新設によるマーケティン グが財団法人花普及センターや農林水産省によって取組まれている. ちなみに,輸入量増加の一方で切り花の輸出にも取り組んでおり,生産の活性化を目指している.輸出 促進のため海外でのプロモーション活動を行い,輸出額は徐々に増加している(農林水産省,2018:p157). 表 序-5 切り花の需給構造(2017 年) 国内出荷量(億本) 輸入量(億本) 輸入品シェア(%) 切り花 37.0 13.4 26.6 キク 15.0 3.4 18.5 バラ 2.5 0.6 19.4 カーネーション 2.4 3.7 60.7 資料:農林水産省(2019:p8)「花きの現状について」より筆者作成. では現在,表 序-6 は,産出額 1 億円以上の市町村の数とその割合を耕種品目の一部についてまとめた ものである(註27).資料の制約上「花き」のデータであるため過大評価されるが,産出額が記録されて いる産地のうち 1 億円を超えている産地の数は 620 市町村で,米と野菜と比較して産地範囲は狭いと言 えよう. 図 序-4 は花きの産出額が 1 千万円以上の 1085 の市町村の分布を示したものである.図中の◇は産出 額が全国で2 番目に高い静岡県浜松市(64.8 億円)の位置である.これは 1 位の愛知県田原市(320.7 億 円)と,相対産出額で約 0.1 の差があることを示しており,田原市が全体の約 10%に当たる産出額を誇 ることを意味している. (註27)1 億円を基準とした理由は,第2章の事例地域の切り花の産出額が概ね 1.3 億円だからである.

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22 表 序-6 産出額 1 億円以上の市町村の数と割合 産出額 (億円) 産出額が記録 されている 市町村数(A) 産出額が 1 億円以上 の 市町村数(B) 比率 {(B/A)×100} 産出額上位 10 位の市町村の 総産出額占有率 ジニ係数 米 17,458 1,585 1,246 78.6 8.5 0.631 野菜 24,511 1,682 1,376 81.8 10.3 0.693 果実 8,451 1,536 712 46.4 18.6 0.795 花き 3,326 1,108 620 56.0 19.4 0.676 資料:農林水産省「平成29 年産市町村別農業産出額(推計)」より,筆者作成. 注:全国の総市町村数は1719 で,このうち各品目において,産出額が「事実のないもの」である「-」,「個人又は法人そ の他の団体に関する秘密を保護するため,統計数値を公表しないもの」である「x」の産地を除した数が表中の A,この うち産出額が1 億円を超える産地の割合を示した. 図 序-4 花きの産出額が記録されている市町村分布とローレンツ曲線 資料:農林水産省「平成29 年産市町村別農業産出額(推計)」より,筆者作成 注:使用データは花きの産出額1 千万円以上の 1085 市町村である. 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 相 対 産 出 額 相対市町村数 累積相対産出額 累積相対均等産出額 ジニ係数=0.676

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第1章 部会内組織と農家の生産志向の相違における調整

-JA 愛知みなみ輪菊部会を対象に-

1節 はじめに

1)本章の位置付け 本章では,全国一の花き産出額を誇る愛知県田原市の,特に輪菊に焦点を当てて課題に接近する.田原 市は,渥美半島を市域とし,気候温暖な地域である.一般的に花卉は嗜好度の高い商品であるため,市場 は景気変動による影響を受けやすく,需要が物日に偏る傾向にあるが,輪菊は盆や彼岸だけでなく葬儀 用途としての通年の需要があるため業者も安定的な仕入れを希望する.このため,輪菊市場では予約相 対取引を重視する傾向にある.田原市を管轄するJA 愛知みなみ(以下,「JA」という場合は JA 愛知みな みを指す)に組織されている輪菊部会がどのように対応しているのかというと,青山(2015)によれば部 会内部に販売方針の異なる3 つの部会内組織,“Team MAX”,“Team STAR”,“Team SKY”を組織し,卸 売市場へは輪菊部会として一元出荷による市場対応を行っており,チームがそれぞれ長期安定出荷,安 定・均質,物日を中心に出荷する弾力性を実現することで年間通じて出荷の平準化を可能にしている(以 下,部会内組織は「チーム」と,各Team は「MAX」「STAR」「SKY」と記す). 本章で対象とする農業者組織は,上述の輪菊部会で,部会内組織も含む. 2)目的 そこで本章の目的は,輪菊農家とJA 職員へのヒアリング調査を通じて,輪菊農家とチームの現状の関 係,つまり相互作用のあり方を生産と販売をめぐる“個と集団の調整”の実態を明らかにすることであ る.同時に,そこで組織は現実の農家行動にどのような影響を与えているのかを明らかにする.なお,本 事例の特徴は,大産地であるがゆえにチーム制を敷くという点にある.

2節 調査概要

1)調査対象と調査の概要 調査の概要は表1-1 のとおりである.調査は合計 3 回実施し,第一回は概況調査である.第二回及び第 三回は,本研究課題に関する調査として各チームから計 6 名の輪菊農家に生産意向及び部会・チームの 活動状況を個人の視点から,JA 職員として輪菊出荷施設の担当者と花き販売の担当者の計 2 名から輪菊 の出荷状況や輪菊部会の変遷及び現状を,ヒアリング形式にて実施した.対象の代表性については,ABC の3 農家は大規模であるが拡大過程を経ている点,BDE の 3 農家は現チームで役員経験がある点,F は 以前所属のチームで役員経験がありかつチーム移動経験者としてチーム間比較の視点を有する点で調査 対象として適していると考えられる.

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24 表 1-1 調査の概要 第一回 第二回 第三回 日時 2015/08/06-07 2016/03/06-08 2016/11/16-18 目的 地域概況調査 経営・生産 志向調査 経営・生産 志向調査 対象 田原市農政課 鉢物生産者 観光農園経営者 農業資材会社 JA 愛知みなみ 営農指導課 種苗開発課 営農企画課 輪菊農家A(MAX) 輪菊農家B(MAX)* 輪菊農家C(MAX) 輪菊農家D(STAR)* 輪菊農家E(STAR)* 輪菊農家F(SKY)** マムポート職員G JA 愛知みなみ 花き販売課H 方法 訪問面接調査 訪問面接調査 訪問面接調査 内容 田原市の農業問題等の概 況把握 輪菊農家の営農状況及び現 状の課題と,所属チームの 状況に関する調査 農家については同左.集 出荷施設の稼働状況及び 輪菊部会の状況について 農協職員に調査 資料:筆者作成. 注:* は現チームでの役員経験者を,**は以前所属のチームでの役員経験者を示す.マムポートとは,MAX 専用の輪 菊のみを扱う出荷施設を指す 2)調査地の概要 渥美半島における施設園芸経営の導入と展開に関しては清水(1979)の研究が代表的である.施設園芸 は昭和7 年に渥美半島先端部である旧・伊良湖岬村に導入され,戦前までは高級果菜が中心であったが, 昭和23 年に電照菊の導入に成功して以来,電照菊を中心に経営拡大が進んだ.冬季温暖かつ日照豊富と いう気候条件により主に太平洋側で普及が進み,昭和43 年の豊川用水完成によって水の問題も解決し施 設の大型化が進んだ. (1)農協再編の展開 では,この産地の出荷体制を支えていた農協はどのような経緯と問題点を辿ってきたのか.続いて,石 田(1987)を参考にして整理する.田原市は,合併以前は渥美郡の 3 つの町,田原町,赤羽根町,渥美町 であった.昭和40 年代に入ってから,福岡県八女地域産(現・八女市,JA ふくおか八女)の輪菊に対抗 するべく農協を中心とした本格的な共選共販への取組みが始まった.この当時,渥美郡は田原町農協,赤 羽根町農協,渥美町には福江農協,泉農協,伊良湖岬農協の,計5 農協の体制であった.それぞれ異なる 基準で選別を行っており,特に田原町農協と泉農協では厳しい選別が行われていた一方で福江農協では 露地野菜を基幹部門とする経営体が副次的に菊を導入した例が多く,「大変ゆるい選別」であった. 昭和48 年に,異なる選別基準であった福江農協,泉農協,伊良湖岬農協が合併して渥美町農協が設立 した.その時選別を巡って大きな混乱が発生した.昭和50 年代になると,渥美町農協の共選共販体制は

表 1-9  調査結果(チーム間比較)
表 1-10  調査結果(個別経営の比較)
表  補-5  抽出調査結果

参照

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