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任意組合組織が農家行動に与える影響に関する実態分析

-生産組合と出荷組合が分化するカーネーション産地を対象に-

1節 はじめに

1)本章の位置付け

第1章では,生産から出荷,販売まで一貫して組織的に取組む輪菊部会を事例に,部会内に販売方針の 異なる部会内組織を結成することによるコンフリクトの回避と,同時に生産力格差の進展の状況を確認 した.本章では,同じ産地で,同じ生産組合(以下「N組合」)に所属し,異なる出荷組合(以下「X出 荷組合」「Y出荷組合」)を通じて,同じ中央卸売市場の異なる卸売会社に出荷する産地を取扱う.また,

いずれの組合とも任意組合である.場所は宮城県名取市のカーネーション産地である(註33).

本章で対象とする「農業者組織」は,N組合とX,Y出荷組合である.

2)目的

本章では,販売関係と生産関係が異なる組合によって組織され,しかも農協共販を実施しない産地にお ける組合での個と集団の調整問題の実態を明らかにすることを目的とする.

2節 東北地方の切り花生産に関する整理

1)先行研究による整理

東北地方での切り花栽培に関する研究はあまり多くない.主なものとしては,岩手県安代町(現・八幡 平市)でのリンドウ栽培を事例に産地形成と発展過程における組織革新の特質を整理した工藤・福田

(2000),同産地の輸出戦略の現状と課題を整理した石塚(2012)や,秋田県十文字町(当時)の露地ギ クの普及と定着において若手の力と,自治体の支援,及び集落の民主的な運営を指摘した鈴木・東山

(2000),同県横手市のキク栽培を事例に,互助型の労働力調整と省力化への取組を紹介した富樫(2001)

などが挙げられる.本事例地域の先行研究としては,劉(2000)が,N組合について特にT地区を対象に した調査から,当地区では花卉の商品特性による販売戦略の多様化によって機能別の組織が多様に展開 しているという事を明らかにした.続けて,産地間競争が厳しくなる中で農協による共選共販の実施を すべきという議論が上がっており,それに積極的な若手(当時30~40歳台)と,消極的なベテラン(当 時60歳台)どうしの世代間のコンフリクトの様相も明らかにされている.

2)統計的整理

東北地方での切り花生産は昭和40年代半ば以降宮城県と福島県を中心に増加しており,これは生産調

(註33)カーネーションにはスタンダードとスプレイの2タイプが存在する.事例地域では両方栽培されており,その比 率は6:4程度であるという(D氏,表2-3参照).本章ではこの両者を特に区別せず,まとめてカーネーションと総称す る.

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整(減反政策)対応のためである(宮城県,2017:p58).以降も徐々に産出額(図3-1),作付面積(図 3-2),出荷量(図3-3)を増やし産地形成が進んだが,2000年前後をピークに各数値は,秋田県と山形県を 除いて減少で推移している(註34).データの制約上,図3-1は花き,図3-2および図3-3は切り花類で ある(註35).

2000年以降,青森県の花き産出額は減少し続けている.宮城県はピーク時より半減したが,2010年以 降は微増している.福島県も同様に一時は半減したが,東日本大震災(以下「震災」)以降,産出額は大 きく持ち直し,再び下落させている(註36).

一方で秋田県と山形県は,むしろ2010年以降から産出額を微増させている.秋田県の動向の大きな要 因として,県独自事業である「園芸メガ団地育成事業」の効果が考えられる(註37).これは作付面積と 出荷量も共に増加で推移していることからも明らかである.

岩手県の産出額推移が他県と異なる動きを見せている要因として,輸出にも取り組んでいる主力のリ ンドウの動向に注視しておきたい.前掲石塚(2012)によれば,主力産地の八幡平市における安代りんど うの輸出は,全てオランダ向けで,2005~2009年にかけて好調であった.これは産出額のピーク値が2008 年にあることからも明らかである.しかしながら,翌年以降は,為替変動(円安ユーロ高)による内外価 格差の拡大による消費衰退,猛暑による品質低下,他国産との競争激化の 3 点を原因として輸出向け出 荷量を大きく落としており,各数値の低迷の大きな要因になっている.特に,出荷量の推移(図3-3)を 確認すると,岩手県以外は概ね横ばいか微増で推移していることから影響の大きさが伺い知れる.

ちなみに,2008 年以降リーマンショックによる景気後退(需要の低迷)と,資材・原油価格の高騰に よる生産費の上昇によって,特に施設栽培面積は軒並み減少している(表2-2).

(註34)2000年前後をピークに各数値が減少推移に転じている様子は,全国の推移と同様である.主な要因は業務需要の 低下である.

(註35)「花き」とは「鑑賞の用に供される植物」を指し(花きの振興に関する法律第二条),花きは「切り花類,花木類,

花壇用苗物類,鉢もの類,球根類,地被植物類」に分類される.このうち「切り花類」とは「キク,バラ,カーネーショ ン等切り花,ヤシの葉等切り葉,サクラ等切り枝」を指し,このうち切り葉類と切り枝類を除く場合は単に「切り花」

と表記する.

(註36)なお,福島県の花きの栽培農家数は2009年の1,774戸から2011年に1,309戸と400戸近く減少しており,震災に よる離農が大きく見られた.それ以降の減少幅は小さい(福島県,2019:p4)(表2-2)

(註37)稲作農業の収益性の低迷を受けて,秋田県では複合型生産構造への転換を目指して,同事業に取り組んでいる.

事業年度は平成25~29年度で,これを発展させる事業に継続的に取り組んでいる.実態調査は藤井ら(2018)に詳しい.

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図 2-1 東北 6 県の花き産出額の推移 資料:農林水産省「生産農業所得統計」より筆者作成.

図 2-2 東北 6 県の切り花類作付面積の推移(施設栽培と露地栽培の合計)

資料:農林水産省「花き生産出荷統計」より筆者作成.

注:6県の1995年~1998年,および青森県の2005年,2006年,2014年,2015年はデータ無し.

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

産 出 額

( 億 円

青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県

0 100 200 300 400 500 600 700 800

1990 1995 2000 2005 2010 2015

作 付 面 積( h

)a

青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県

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図 2-3 東北 6 県の切り花類出荷量の推移 資料:農林水産省「花き生産出荷統計」より筆者作成.

注:6県の1995年~1998年,および青森県の2005年,2006年,2014年,2015年はデータ無し.

表 2-1 花き産出額の最高値と最新値

産出額(億円) 作付面積(ha) 出荷量(千本)

最高額(年) 2017年 最高値(年) 2017年 最高値(年) 2017年

青森県 35 (2002) 19 152 (1997) 92 31,800 (1997) 16,700

岩手県 82 (2007) 36 630 (1999) 401 110,900 (2008) 76,200

宮城県 57 (1998) 28 203 (1999) 113 58,200 (1999) 32,300

秋田県 31 (2015) 30 218 (2017) 218 44,300 (2017) 44,300

山形県 72 (2016-17) 72 485 (2017) 485 74,700 (2007) 68,900

福島県 86 (2015) 66 723 (2000) 442 95,100 (2000) 62,300

資料:農林水産省「生産農業所得統計」より筆者作成.

0 20000 40000 60000 80000 100000 120000

1990 1995 2000 2005 2010 2015

出 荷 量

( 千 本

青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県

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表 2-2 販売目的の花き・花木の作付(栽培)経営体数と作付(栽培)面積 農業経営体 ①露地作付面積(ha) ②施設作付面積(ha)

2005 2010 2015 2005 2010 2015

青森県 151 111 109 65 65 48 岩手県 665 664 667 98 84 65 宮城県 118 141 106 127 117 97 秋田県 126 180 204 81 70 65 山形県 297 381 442 198 188 152 福島県 767 664 717 151 187 126

③施設栽培実施面積の割合(%) ④1経営体あたりの施設面積 (a/戸)

2005 2010 2015 2005 2010 2015

青森県 30.1 36.8 30.6 12.7 15.4 13.9

岩手県 12.8 11.2 8.9 9.3 9.6 9.4

宮城県 51.8 45.3 47.8 17.9 18.9 20.4

秋田県 39.1 28.0 24.2 12.0 11.9 12.5

山形県 40.0 33.0 25.6 16.4 18.4 18.3

福島県 16.4 21.9 14.9 16.8 21.2 19.3

⑤作付実経営体数にしめる 施設栽培経営体割合(%)

⑥1経営体あたりの露地面積 (a/戸)

2005 2010 2015 2005 2010 2015

青森県

61.0 61.9 23.5 28.4 33.6

岩手県 35.5 35.1 25.9 32.0 39.7

宮城県 67.6 66.9 17.5 28.1 26.3

秋田県 57.7 57.9 15.0 26.4 31.9

山形県 66.6 63.8 32.6 46.7 56.6

福島県 41.5 42.3 41.8 40.6 59.9

資料:農林業センサス(各年)より筆者作成.

注:2010年の施設作付面積の元データの単位はaであり,筆者がhaに直し少数点以下を四捨五入した.

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3節 調査の方法と調査地・対象の概要

1)調査の方法

調査の概要は表2-3に示すとおりである.

(1)概況調査

概況調査は,名取市の切り花生産(主にカーネーション)の動向と,N組合の状況について,自治体職 員A氏,B氏および,カーネーション農家C氏に訪問面接調査を実施した.

(2)質問紙・戸別調査

概況調査の結果を踏まえて,N組合の所属農家を対象に質問紙調査を実施した.N組合には名簿上24 戸の農家が所属しているが,現在,名取市で実際に切り花類の作付けを実施している農家は19戸である ため「現役農家」を対象にした上で記述式調査票の配布及び回収を実施した.

本章に限って記述式調査票による悉皆調査を実施した理由は,次の2点である.1点目は,農林業セン サスからカーネーション農家の生産規模の量的把握が困難であること(註38).2 点目は,自治体や農協 の下部組織でないため,概況調査だけでは実態把握が不十分と考えられるためである.

調査票の配布と回収は,C 氏とT 地区の支部長の協力のもとで実施した.調査票は匿名式で実施し,

面接調査を可能と回答した農家には氏名と連絡先の記述を依頼した.質問内容は,個人属性と,生産につ いて,特に栽培面積・品目・その理由,農地貸借,労働力構成,他産地への意識,花生産の課題と作付面 積拡大の意向とその理由である.販売については,出荷・販売先についての課題,経営の今後の方針とそ の理由について質問した.集団組織について,N組合の活動状況と,その他の機関に期待することを質問 した.

19戸から調査票を回収したが,このうちカーネーション以外を主な栽培品目とする切り花経営が1戸 あったため,内容を確認した上で除外した(註39).よって,4節では計18戸からの回答を表2-7から表 2-10に渡って提示する.

質問紙調査の結果を受けて個別調査を実施した.対象は,質問票にて追加調査への対応が可能と回答し たD氏,E氏である(註40).両者ともN組合の役員経験を有するため,組合を俯瞰的に見る目を有する として代表性があると判断した.D氏は電話で,E氏は訪問面接調査を実施した.質問内容は,N組合の 構成員の現状と課題,X,Y出荷組合の現状と課題,コンフリクトの状況についてである.

(3)市場調査

これに加え,仙台市場の卸売会社X 社,Y 社に対して,各出荷組合の動向と市場の抱える課題,市場 から見た産地(N組合)の課題を質問した.回答者はそれぞれX氏,Y氏で,訪問面接調査を実施した.

なお,F氏はX氏を通じて,市場への調査に同席する形で聞き取り調査を実施した.

(註38)2015年農林業センサスにおいて,名取市の花き・花木の施設栽培面積はXである.

(註39)N組合に関する課題等についても十分な回答を得られなかったため.

(註40)匿名性を保持するため,質問紙調査の農家番号と異なる記号を用いる.

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