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台湾の輔導教師はいかにして学校復帰を援助していくのか ―台湾政府によるモデルケースの分析から―

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1 .はじめに

 本稿は,台湾において「欠席・不登校(中途輟学)1) 状態にある児童生徒の学校復帰は,輔導2)教師(ほど うきょうし)によってどのように援助されるのか,そ のプロセスを明らかにすることを目的とする。  台湾では,学校に行かない児童生徒の問題は重要な 教育課題となってきた。台湾における「欠席・不登校」 は2015年の時点で,中学生では0.47%(3,500人),小 学生では0.04%(434人)の割合で存在している(教育 部 2016a)。台湾では「学校は積極的に児童生徒の学校 復帰を援助するべきである」(「小中学校における「欠 席・不登校」児童生徒への通報及び学校復帰の輔導方 法(國民小學與國民中學未入學或中途輟學學生通報及 復學輔導辦法)」第 5 条)として,学校に行かない児童 生徒に対して学校復帰を積極的に援助する方向性を採っ ている。  なお,ここでいう学校復帰は「「欠席・不登校」で あった児童生徒が元の学校へ再び就学すること」(「小

台湾の輔導教師はいかにして学校復帰を

援助していくのか

台湾政府によるモデルケースの分析から―

川 瀬 瑠 美

  (広島大学大学院・院生) How Taiwanese Guidance Teacher Support Students’ Returns to School:   Analysis from the Model Case of Taiwanese Government Rumi KAWASE This paper attempts to identify the process used to support the return of students to school  using the model case of the Taiwanese government in Taiwan. First of all, the concept of “guid-ance teachers” was explored, as well as the case studies for the process used by the guidance  teachers to support the students in their return to school. The analysis showed that the process  was divided into two levels depending on circumstances, to establish education at schools itself. It  appears that guidance teachers utilize their externality within the schools, and conduct their sup-port across a broad jurisdiction both within and outside schools. Finally, to sightsee potential issues, I examined the role of the guidance teacher with regards  to the support of returning students. I looked at the guidance system and the broad jurisdiction  of the guidance teacher, both within and outside the schools, and how these could affect their  relationships with school social workers. 中学校における「欠席・不登校」児童生徒への通報及 び学校復帰の輔導方法」1996年公布)と定義される。 学校復帰に向けた援助体制の中心となるのは,学校内 の子どもの問題対応を専門的に行う,輔導教師である (黄瑛琪 2015)。台湾政府はこの輔導教師を設置するこ とで,専門的な学校復帰援助体制を構築してきた。  このような台湾の状況に対して,日本語での研究 (王 2008;川瀬 2017;都島・川瀬 2017;山田 2018) では,輔導教師が行う学校復帰の援助について明らか にしたものは存在しない。また英語文献では,輔導教 師の存在について記述したものが存在するが,こちら も学校復帰援助については記述されていない。  現地研究者による「欠席・不登校」に関する研究の 中で学校復帰の援助に関する研究は,次の二方向から 行われてきた。一方は,「欠席・不登校」の原因が個人 特性,家庭,学校,社会環境に起因していることから, 学校復帰の援助には個々の状況に応じた教育課程の調 整,専門家の活用,社会福祉や司法機関との連携が重 要と指摘し,現行制度への提言を行ってきた研究であ

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る(翁 1996;郭等 2000;周 2000;張 2002)。もう一 方は,中学校教師全体への質問紙調査から,学校現場 における学校復帰援助の中で実施される割合の多い援 助策を調査し,親子関係の修復,技術教育課程の履修 を通した学習意欲の回復,両親の育児方針への助言が 主に行われていることを明らかにした研究である(呉  2003)。  これらの研究は,制度整備の重要性の提示,教師が 活用する援助策の実態解明,という点で学校復帰援助 の現状を解明した意義を持つ。しかしこれらの先行研 究も,輔導教師による援助には着目していない。その ために学校復帰援助はどのようなプロセスで行われて いくのか明らかにできていないのである。  この課題を乗り越えるために本稿は,教育部(日本 の文部科学省に相当)の学校復帰援助事例集内の事例 を分析し,台湾においてモデルケースとされる輔導教 師による学校復帰援助プロセスを導き出すことを試み る。政府機関が発刊する資料を用いることで,台湾政 府が想定するモデルをみることができる。これによっ て台湾においては,「欠席・不登校」状態にある児童生 徒はどのように援助されるのか,明らかにする。  これまで比較教育学では,義務教育制度の弾力化と 質保証や,子どもの危機と教育の対応等,子どもの包 摂をめぐる学校教育の在り方が議論されてきた。だが 比較教育学の領域では,学校復帰支援の研究はあまり なされてこなかった。台湾における学校復帰支援を明 らかにする本稿は,諸外国で行われる学校教育への適 応が困難な子どもを包摂する学校教育制度の在り方を 示すという点で,極めて比較教育学的な意義を有する。

2 .輔導の概念と輔導教師の資格・役割

 本章では事例検討へ移る前に,まず輔導教師とはど のような人材なのか,輔導の概念,輔導教師の資格と 研修,校務分掌から概要を整理する。 ⑴ 輔導の概念  台湾において,学校内での子どもの問題対応は輔導 (ほどう)の領域の中で行われ,この輔導を専門的に 行う教師が輔導教師と呼ばれる。輔導はガイダンス (Guidance)の訳語であり,1960年代にアメリカのガ イダンス理論が輸入されて取り入れられたことに端を 発する(黄政昌 2015)ことから,日本の生徒指導と同 じルーツを持つ概念である。教育用語としては,1979 年公布の「国民教育法(國民教育法)」内で輔導が使用 され,正式な用語として現在まで使用されている。輔 導の定義は法規や政策文書では示されておらず,輔導 に関する研究の中で行われてきた。黄政昌(2015)は 1969年から2008年の間に行われた研究論文内での定義 を整理し,輔導を次のように定義している。  輔導は一種の専門的援助のプロセスであり,輔 導に関わる人員と当事者の信頼関係構築を通して, 輔導に関わる人員は当事者の自己理解の促進,有 効な問題解決,充分な環境適応を助け,自己成長 及び自己実現を促していく。  (黄政昌 2015; 7)  一方で同じルーツを持つ日本の生徒指導は次のよう に定義される。  生徒指導とは,一人一人の児童生徒の人格を尊 重し,個性の伸長を図りながら,社会的資質や行 動力を高めることを目指して行われる教育活動の ことです。  (中略)  生徒指導は学校の教育目標を達成するうえで重 要な機能を果たすものであり,学習指導と並んで学 校教育において重要な意義を持つものと言えます。   (文部科学省 2010; 1)  輔導が「自己成長及び自己実現に対する専門的援助」 という個人の自己成長や自己実現が目指されるのに対 して,生徒指導では「社会的資質や行動力を高める」 という個人の社会化が目指される。また生徒指導は 「学校の教育目標を達成するための重要な機能の一つ」 という学校教育目標を重視した機能を担っている。つ まり輔導は,個人の自己成長や自己実現を援助する点, 学校教育目標達成を目指さないという点で,生徒指導 と異なる。  また輔導は,生活への輔導,学習への輔導,生涯へ の輔導という 3 つの観点から行われる。まず生活への 輔導とは,児童生徒の生活に関する知識技能,生活適 応能力を向上させるものである。具体的には,健康的 な生活,人間関係,余暇時間,家庭生活,等のあり方 を検討させる。次に学習への輔導とは,教材,過程, 関心,適性,クラスメイト,家庭,等の観点から適当 な学習方式を適応し,各児童生徒が抱える学習の課題 を解決し,学習効果を高めることが目指される。日常 の教科指導だけではなく,始業時の輔導,課題を抱え た児童生徒への転校時の輔導,進学への輔導,放課後 の輔導,補習授業,等も学習への輔導に含まれる。そ して生涯への輔導とは,児童生徒に自身の能力,関心, 適性,価値観への理解を促し,児童生徒が将来の進学 や就業の方向性,そして生涯の目標を明確かつ適切に

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選択できるよう促すものである。具体的には施設等へ の訪問,資料探索,生涯計画の設定,カウンセリング 等である(黄政昌 2015)。  このように輔導は,児童生徒個人を取り巻く生活, 学習,生涯という 3 つの観点で,各個人の生活適応能 力,学習効果の向上,生涯の目標設定が促されていく。 これに対して日本の生徒指導は,集団指導と個別指導 という 2 つの観点から行われる。集団指導は,集団や 学級や学年,学校全体,その他のあらゆる集団での活 動を通して,社会で自立する力を身につけることを目 指す。生徒指導は,集団指導を通して個を育成し,個 の成長が集団を発展させる,という方法原理で展開さ れる(文部科学省 2010)。集団が重視される生徒指導 に対して,輔導は個人が重視されるのである。 ⑵ 輔導教師の資格と研修  輔導とは,個人の自己成長及び自己実現に対する専 門的援助であり,各個人の生活適応能力,学習効果の 向上,生涯の目標設定への援助を行うものであった。 その援助を専門的に行うのが,輔導教師である。輔導 教師の資格は「教育部義務及び就学前教育署による中 小学校輔導教師実施要点(教育部國民及學前教育署補 助置國民中小輔導教師實施要點)」(2015年 3 月改正) によって次のように規定される。輔導教師は,小学校 または中学校の教師資格試験に合格しており,かつ輔 導活動科/総合学習領域の輔導活動の専門証明書を取 得した者である。輔導活動科/総合学習領域の輔導活 動の専門証明書は,大学の輔導・カウンセリング学科, 教育心理・輔導学科,心理学科を卒業した者,あるい は輔導に関する領域を20~40単位修了した者が取得す ることができる(第 6 条)。  実際の任用の際は,各学校長が学校に任用されてい る教師の中から以上の資格を持つ者を任命する(「国民 教育法」第10条)。しかし輔導教師の小中学校への配置 数に関しては,法規によって規定されている。小学校 の場合は,24学級に 1 人の割合で配置され,中学校の 場合は15学級ごとに 1 人の割合で配置される(「児童生 徒輔導法(学生輔導法)」第10条)。学校長はこの規定 に沿うように,輔導教師の任用を行う。現状の学級数 は,小学校の場合は 6 学級以下の学校数が最も多く (約 4 割),中学校では13学級以上24学級以下の学校数 が最も多く(約 2 割),次点で25学級以上36学級以下の 学校数と続いている(國家教育研究院 2016)。した がって多くの場合,小学校では 1 名,中学校では 1 名 から 3 名の輔導教師が配置されていると言える。  さらに輔導教師は初任時に40時間の基礎研修課程, その後 1 年に 1 度の 1 時間の現職研修を受けることが 定められる(「児童生徒輔導法」第14条)。各科目の研 修時間は明記されていないが,研修は 5 科目の基礎課 程, 7 科目の専門課程,11科目の問題別課程, 2 科目 のセルフマネージメント課程という 4 課程で構成され ている。基礎研修課程では履修する科目は全て固定さ れており,現職研修では全科目の中から規定の18時間 を満たすよう,科目を選択し履修することとなってい る(台南市輔導諮商中心 HP)。  以上から輔導教師は,一般の教師資格を持つととも に,輔導の専門領域を修了した人員である。さらに初 任時と年に 1 度の研修が義務付けられることで,輔導 教師としての専門性を保証する制度も整備されている。 また次節で詳述するが,輔導教師は担任教師や教科専 任教師とは区別される教師であり,学級担任等の一般 的な教師の業務は行わない。生徒指導と比較すると, 輔導教師に相当する教師は,生徒指導部に配置される 教師である。しかしこれらの教師は専門資格等を持た ない一般の教師が校長によって配置される職である。 専門的な資格の取得が必須であり,学級担任や副担任 を兼任しないという点で,輔導教師は日本の生徒指導 担当の教師とは大きく異なる。 ⑶ 校務分掌における輔導教師  このように輔導教師は一般の教師資格を持ちながら, 輔導の専門的な資格を持ち,継続的な教育を受ける教 師である3)。輔導教師は,小中学校の校務分掌の中で, 輔導室という部署に配置され,輔導を展開する。  図 1 のように輔導室以外の校務分掌には,担任教師 や教科専任教師といった一般の教師が配置されている。 それに対して輔導室は,輔導教師と専門職(専任専業 人員)のみで構成されている。専門職とは,スクール カウンセラー(學校心理師)とスクールソーシャル ワーカー(學校社工師)を指している。スクールカウ ンセラーとスクールソーシャルワーカーはどちらも教 師の資格を持たず,それぞれ臨床心理士と社会福祉士 の国家資格を取得した人員である。55学級以上の学校 の場合,スクールカウンセラーとスクールソーシャル ワーカーは 1 人ずつ常駐配置される。55学級以下の場 合,前述した55学級以上の学校に配置されている人員 が週に数回派遣される(「児童生徒輔導法」第11条)。  このように構成される輔導室の中で輔導教師は,「輔 導活動4)」科目の授業実施,学校全体での輔導計画の 策定,学校全体の会議への出席,児童生徒への個別輔 導とカウンセリング,児童生徒の問題が発生した際の ケース会議の開催,等を行なっている(黄瑛琪 2015)。 専門職は児童生徒の問題が厳重化した場合に,輔導教 師の指示によって輔導に参加する(教育部 2011)。以

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上のように輔導教師は輔導室の中心に位置付けられ, 学校全体の輔導に関する業務を統括しながら,児童生 徒への個別の援助も行なっている。

3 .輔導教師が行う学校復帰援助

⑴ 分析の対象と方法  本稿では,教育部が2011年に出版した学校復帰援助 事例集(『反璞歸真,重現風華-中輟復學輔導』)に掲 載されている事例を分析する。この事例集は,教育部 の HP 上に掲載されており,教師だけでなく誰でもダ ウンロードできる状態となっている。総頁数117頁であ り,「欠席・不登校」に関する現状や理論の紹介のため に約10頁が割かれており,本稿の分析対象となる実務 の事例紹介は約56頁が割かれている。その他の頁では, 事例集編纂の理念や参考文献の記述が行われている。 2011年に本事例集が出版されて以降,教育部による改 訂版の出版は行われていない。実務経験を持つ校長や 教師によって執筆され,教師が学校現場で実際に遭遇 するであろう状況の事例が,執筆者の体験を元に提示 されている。教師が具体的に学校復帰援助をどのよう に展開すべきなのか,学校現場に対して政府が意図す る援助方針を示した電子書籍である。  事例の記述に関しては,輔導教師から不登校生徒及 び保護者に対する働きかけを記述する。対象とする事 例は,掲載されている全 5 事例である。  事例集では,各事例は10頁前後で記述されている。 事例の全体概要については 2 頁程度で記述され,詳細 な内容や編纂者である教育部による事例の分析が 5 頁 程度で記述されている。その中で,筆者である教師ら は,事例の全体概要とその背景,輔導を行なった感想 について記述している。編纂者である教育部は,事例 への分析をもとに,問題の評価,それに対して行われ た援助策の整理が記述されている。各事例の概要は表 1 の通りである。  分析は,次のような視点から行う。黄政昌(2015) は,輔導の実施原則として,輔導は児童生徒のニーズ や問題の状況をもとに実施計画を立て,児童生徒が抱 える問題が解決されるよう段階的に展開されなければ ならないと示している。つまり輔導の実施においては, 児童生徒のニーズを元にした実施計画の立案,そして それに基づいて段階的に援助を行なっていくという, プロセスが重視されることが分かる。  これを踏まえると,輔導教師が行う学校復帰援助に おいても,段階的なプロセスによって展開されていく ことが考えられる。したがって事例分析にあたっては, 事例集内での援助のプロセスに着目し,記述すること が重要と言えよう。以下では,分析の中で得られた 4 つの段階に分け,輔導教師が行う学校復帰援助のプロ セスを記述しながら分析していくこととする。 ⑵ 援助方針の策定と援助ネットワークの構築  全事例において学校復帰援助で輔導教師が最初に 行っているのは,校内ケース会議による援助方針立案 と援助ネットワークの構築である。  ケース会議に参加しているのは主に輔導教師,担任 図 1  小中学校における校務分掌 出典)都島・川瀬(2017; 195)より引用 校長 校長 輔導室 総務室 総務室 学生事務室 学生事務室 教務室 教務室 担任教員・教科専任教師 輔導教師 専門職 (スクールカウンセラー ・スクールソーシャルワーカー)

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教師,学生事務室(學務室5))に配置された教師であ る。ここではまず本人の状況に基づいた学校復帰援助 計画が作られる。事例 3 では,本人は教室での学習に 馴染めない本人の状況に合わせて,午前は別教室での 個別学習をさせて午後のみ教室の授業に参加させ, 徐々に教室で過ごす時間を増やしていくようにして, 徐々に教室での学習に慣れて学校復帰できるように援 助計画を策定している。  この計画に基づいて,人員の配置が行われていく。 まず全事例に共通して配置されるのが,担任教師であ る。担任教師は,対象者の生活の様子と学習進度を把 握する役割に配置される。さらに他の教師も援助体制 に組み込まれていく。  事例 4 では,クラス内でのいじめとインターネット での交際が「欠席・不登校」のきっかけから,教科専 任教師に授業内でも本人へ関心へ配ってもらうことや, 性教育や交友関係の築き方について授業で扱ってもら うように依頼している。  さらに事例 2 , 3 , 5 では,担任ではない教師で対 象者と関係の深い教師を配置して定期的に対象者との 面談を設定し,学校への適応状況の把握,親とのコ ミュニケーション方法の提供を行っている。  このように校内人員6)の配置が行われた後,校外機 関や人員との連携が行なわれている。事例 1 では民生 委員(里長)に対象者の家庭を気にかけてもらうよう に依頼している。また少年警察隊(少年隊)7)や警察 局8)に依頼し,対象者に対して家に帰らず遊び歩く行 動への指導を行なっている。事例 2 では,民生委員に よる家庭訪問,強制入学委員会に保護者へ子どもを登 校させるよう警告書の発行を依頼している。また社会 局9)のソーシャルワーカーと臨床心理士には保護者に 対する援助を委託している。事例 3 では,保護観察官 と連携し,対象者の学校内外の生活の様子が共有され ている。事例 5 では,警察局と協力し,教師と輔導教 師と警察官で家庭訪問を実施している。  以上のように,ケース会議による援助方策立案に基 づき,担任教師と教科専任教師,関係の深い教師と いった校内人員の配置,そして民生委員や警察局,社 会局等の校外機関や人員との連携による,援助ネット ワークの構築が行われる。 ⑶ 保護者との連携及び援助  このような援助計画の策定とそれに基づく援助ネッ トワークの中で,本人への援助が行われていく。さら 表 1  事例の概要 支援対象 事例の概要 事例 1 小学 5 年生 養育者の父親が育児に手をかけられないため,生活習慣が乱れ,昼 夜逆転の生活や長期での外泊をするようになり,学校へ行かなく なった。 事例 2 中学生(学年は記述なし) うつ病の母親が症状の影響から父親の浮気を疑うようになり,両 親の喧嘩が絶えず,さらに喧嘩の後には両親は当該生徒をいつも 怒鳴っていた。当該生徒は怒鳴られた後はいつも家でインターネッ トで気晴らしをしており,そのために学校へ行かなくなっていた。 事例 3 中学 3 年生 父親の暴力から逃れるために小学 4 年生の頃から不登校と家出を 繰り返しており,その生活をする中で窃盗を働いたことから,現 在,愚犯として保護観察処分を受けている。現在は父親の暴力か らの保護のために,保護観察処分を受けながら社会局の保護施設 に入所している。保護の目標として安定した就学が設定されてい るため,学校としては学校復帰を支援することとなった。 事例 4 中学 2 年生 クラス内でのいじめと家庭内での孤立により,常に孤独を感じて いたことから,インターネットで知り合った人と交流し,学校へ 行かなくなった。 事例 5 小学 3 年生 母親の暴力から逃れるために家出を繰り返していた。親による家 庭教育が正しくなされなかったために生活習慣や学習意欲が低く, 学校を欠席することがたびたび起こっていた。 出典)教育部(2011)『反璞歸真,重現風華-中輟復學輔導』。より筆者作成

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にその本人への援助と並行して,保護者との連携及び 援助も行われる。  事例 4 では,電話または連絡帳を用いて保護者に対 象者の学校での学習状況を伝えている。再び学校を欠 席してしまう可能性を減らすために,保護者が対象者 への関心を促し,連携を図っている。  関心を持たせるだけでは子どもへの適切な養育をで きず,援助に加われない保護者に対しては,援助が行 われている。事例 1 では電話または連絡帳を用いて保 護者に対して親子でのコミュニケーションをとるため の知識を提供している。事例 2 では,対象者の家庭で 問題が起きた場合に迅速に対応できるように,民生委 員に協力を依頼している。また社会局のソーシャル ワーカーを通して保護者に社会局が実施する「親役割 教育(親職教育10))」に参加を勧めたり,臨床心理士に 委託した家庭訪問を通して保護者に適切なしつけ方法 を提供している。保護者に親として必要な知識を提供 することで,家庭の養育力を向上させ,対象者が家庭 的な要因から学校を欠席することのないよう,家庭環 境の適正化を援助している。  そして援助だけではなく,保護者に学校復帰援助に 参加するよう圧力11)をかける警告も行われる。事例 2 では,強制入学委員会12)に委託して保護者への警告書 を発行している。事例 5 では,警察官と教師,輔導教 師が家庭訪問をして,保護者に対して,しつけの指導, 子どもを登校させるよう警告をしている。このように して,援助或いは警告を用いて保護者と連携できるよ うにし,援助者として保護者を援助体制の中に組み込 んでいく。 ⑷ 学校復帰援助計画の修正  以上のように段階を踏みながら援助が展開されてい く中で,ケース会議は不定期に行われる。対象者の状 況に応じて学校復帰援助計画の修正が随時行われるの である。修正のための情報源となるのが,前述した担 任教師,対象者と関係の深い教師,さらには輔導教師 である。  事例 4 では,定期的に輔導教師による対象者への面 談が行われている。輔導教師は面談を通して,対象者 に精神的な支持を与えながら,ニーズの汲み取り,正 しい人間関係の指導,必要に応じた在宅課題の提供を 行っている。輔導教師はこのやり取りを通して,対象 者を元のクラスに戻して学校復帰を見守るという当初 の援助計画に加えて,対象者とクラスメイト及び父親 との人間関係を改善させる援助を加えた。具体的には, クラスメイトには友好的に接するよう呼びかけ,対象 者に敵意のない生徒を彼女の近くに座らせている。対 象者にはクラスメイトの良いところを書かせた。また 対象者と父親とのコミュニケーションを改善するため, 対象者には自分の心情を毎日書かせて父親に渡させ, 父親には社会局が実施する「親役割講座」への参加を 勧めている。  学校復帰援助は,援助計画を実行していく過程で, 対象者との個別のやりとりを通して,細かく計画自体 を修正していくのである。 ⑸ 「元の学校への就学」が安定した後の援助  ところで,台湾における学校復帰とは,「欠席・不登 校であった児童生徒が元の学校へ就学すること」(「小 中学校における「欠席・不登校」児童生徒への通報及 び学校復帰の輔導方法」第 2 条)であった。しかし 「元の学校への就学」が安定した後の援助も示した事例 が掲載されている。  事例 3 では,対象者の登校状況が安定した後に,輔 導教師は対象者のために中途学校への通学を手配した。 中途学校とは,一般の学校教育課程に適応できない児 童生徒に対して,多様な形態の教育課程を提供する補 完的な教育施設である(「小中学校における「欠席・不 登校」児童生徒への通報及び学校復帰の輔導方法」第 10条)。輔導教師は対象者が登校状況が安定しているも のの学習意欲や将来の目標がないことに対して,中途 学校の適性に応じた課程を通して,学習動機を引き出 し,生活の中心となるものを見つけさせることを狙い としていた。  そのように中途学校に通学する中で,輔導教師は対 象者の器用さに気づき,対象者を中途学校で開講され る技術教育課程を受けさせることにした。技術教育課 程ではお菓子作りや手芸の授業が提供された。すると 対象者は,達成感と自己肯定感の向上を語るように なった。そのタイミングで輔導教師は対象者と保護観 察官,保護施設職員と共に進学計画をつくり,将来の 目標を設定した。援助の結果,対象者は中学卒業後も 自分の選んだ学校へ進学することを選んだ。  他の事例とは異なってこのような援助が取られてい るのは,事例 3 での対象者が学習意欲や将来の目標が ないことに加えて,援助開始当初から学校教育に対し て強い拒否感を示していたからである。事例 3 の対象 者は,援助の途中過程で学校や保護施設13)から 5 日の 脱走を起こし,再保護後にはより強い学校への拒否感 を示していた。  つまり学校教育に対して強い拒否感を持っていた, 学習意欲がない,将来の目標がないといった再度「欠 席・不登校」となるリスクが高い対象者に対しては, 適性に応じた教育課程による学習意欲の向上,進学計

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画の作成が行われている。これによって,事例 3 の対 象者は再度学校を欠席することがなくなったことに加 え,その次の高等学校への進学の意思も示している。  これは元の学校へ就学する「再登校」から,その先 の高等学校もふくめた学校教育そのものに定着してい く,学校定着への援助が行われていると言える。この ように再度「欠席・不登校」となるリスクが高い対象 者の学校復帰援助においては,学校復帰が達成された 後も,適性に応じた教育課程の適応と進学計画の作成 による「学校定着援助」が適応される。 ⑹ 輔導教師が行う学校復帰援助のプロセス  以上の事例検討をもとに,輔導教師が行う学校復帰 援助のプロセスを図 2 のように示すことができる。  まず輔導教師は担任教師,学生事務室とともにケー ス会議を開き,学校復帰援助計画が策定される。援助 計画の中では,全事例で行われる担任教師による生活 と学習の状況把握,事例 4 のような教科専任教師によ る授業中の配慮,事例 2 , 3 , 5 のような対象者と関 係の深い教師による面談が方策として決定され,校内 人員が配置される。その上でさらに校外機関や人員と の連携として,事例 1 , 2 での民生委員(里長),事例 1 , 5 の少年警察隊や警察局,事例 2 での強制入学委 員会や社会局のソーシャルワーカーと臨床心理士,事 例 3 の保護監察官への協力依頼を行なわれている。  その後,本人への援助が行われるとともに,保護者 との連携と事例 1 , 2 , 4 のような援助が行われる。 さらに保護者の状況によっては,事例 2 , 5 に見られ るように警告を用いて保護者を援助体制に組み込んで いく。  これらの援助を行う中で,事例 4 にあるような輔導 教師,そして担任教師,対象者と関係の深い教師はそ れぞれ対象者の適応状況を把握し,状況に応じて援助 計画を適宜修正し,再登校できるまで援助を継続して いく。  そして学校復帰後には,事例 3 に現れているような, 学校教育に対する強い拒否感,学習意欲がない,将来 の目標がないといった,再度「欠席・不登校」となる リスクを抱えた対象者に対しては,適性に応じた教育 課程と進学計画の作成といった学校定着援助が行われ る。

4 .考 察

⑴ 二段階での学校復帰援助  これまで台湾の先行研究では,制度整備への提言, 教師による援助の実態解明が行われてきた。これに対 して本稿では輔導教師が行う学校復帰援助プロセスを 検討し,先行研究が指摘してきた援助策がどのような 段階で適応されるよう台湾政府が想定しているのか明 らかにした。  さらに学校復帰プロセスの中で特筆すべきは,再び 「欠席・不登校」となるリスクが高い対象者に対して, 適性に応じた教育課程,進学計画の作成が行われてい ることである。この援助は,学校教育に対する拒否感 の払拭,学習意欲の向上,将来の目標の設定をさせる ことで,対象者に学校教育そのものに適応できるよう, 方向づけている。その証拠として,事例 3 の対象者は 進学を選択しており,事例記述の中ではその姿が成功 例として示されている。  台湾の学校復帰援助は,児童生徒に「学校教育その ものに定着させる」ことを目標に,元の学校に就学さ せる「再登校援助」とその先の進学まで選択させる 「学校定着援助」の二段階で行われているのである。こ の知見はこれまでの研究では示されなかった新しい知 見である。 ⑵ 輔導教師の役割と特徴  以上,先行研究の課題を乗り越える形で,学校復帰 援助プロセスを検討してきた。本節では,さらに考察 を進め,学校復帰援助において輔導教師が担う役割は どのように表すことができ,どのような特徴を持つの か,考察していく。  輔導教師が担う援助において注目すべきなのは,輔 図 2  輔導教師による学校復帰援助プロセス ケース会議 援助方針の策定 校内人員の配置 進学計画の作成 再登校 適性に応じた教育課程 保護者との連携及び援助 学校定着援助 校外機関・人員との連携 援助 ネットワークの 構築 担任教師 関係の深い教師 輔導教師 による 適応状況の判断 再び学校を 欠席するリス クが高い場合 対象児童生徒への援助

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導教師は校外の機関や人員に対しても職務を振り分け, 児童生徒個人だけではなく保護者への援助を主導して いるという点である。この保護者への援助で行われる, 民生委員への対象者家庭への観察の依頼,ソーシャル ワーカーを経由した「親役割教育」への参加の推奨, 臨床心理士の家庭訪問による適切なしつけ方法の提供 は,学校ではなく家庭問題への介入である。輔導教師 は学校内の児童生徒の問題に限らず,広く学校外の問 題に対しても介入するのである。そして校外機関との 連携では,他の教師や管理職,専門職を介さず,直接 繋がっている。このように輔導教師が学校外の問題に 対して学校外の資源を活用し,広範囲に渡る援助がで きるのは,輔導教師が背景とする輔導の特性が作用し ていると考えられる。  輔導は,個人の自己成長及び自己実現に対する専門 的援助であった。これは教育目標達成を目指さないと いう特徴が示されていた。この輔導の特徴を鑑みると, その概念を背景にもつ輔導教師は,教育目標の達成, つまり学校経営に積極的に関わらない立場と言える。 このように,一般の教師とは異なり学校経営への積極 的関与を行わないという意味で,輔導教師は学校内に おいて外部性を有している。  また輔導教師は学校経営に積極的に関与しないこと で,児童生徒の問題を,学校の問題ではなく個人の問 題として捉え,家庭にまで射程を広げて介入できる。 そして援助の手法も,学校経営の範囲内である校内人 員に止まらず,校外機関と人員という広い範囲で直接 の連携ができる。学校経営に関与しないことで輔導教 師は,学校外にまで渡る広い管轄権を発揮するのであ る。これより輔導教師の役割は,学校内から学校外に 渡る広い管轄権による援助の展開と表すことができ, そこには学校内において外部性を持つ教師であるとい う特徴が示される。

5 .おわりに

 本稿では,台湾における「欠席・不登校」状態にあ る児童生徒はどのように援助されようとしているのか, 台湾政府がモデルケースとして想定する学校復帰援助 プロセスの解明を試みた。解明に向け,輔導教師の概 要を整理し(第 1 節),輔導教師が行う学校復帰援助プ ロセスを事例から検討した(第 2 節)。その結果,まず 台湾の学校復帰援助は,学校教育そのものに定着させ るために,状況に応じて二段階のプロセスで展開され ることが明らかになった。さらに輔導教師は,学校内 において外部性を持つという特徴を生かし,学校内か ら学校外に渡る広い管轄権を用いた援助を展開すると いう特徴が明らかになった(第 3 節)。  今後は,この政府によって設計される学校復帰援助 プロセスが,学校現場の輔導教師によって政府が想定 する形で実践されているのか,現地調査等によって検 証していくことが必要である。  前述したように学校復帰支援は,包摂的な学校教育 の在り方の議論に位置づくものである。酒井(2005;  12)は,学校に行かないことは人生前半期の社会保障 を十分に受けられないまま社会に送り出されることを 意味し,低学力・低学歴から不就労や不安定な非正規 雇用につながっていくリスクが高いとして包摂的な学 校教育の必要性を述べている。この点において,適性 に応じた教育課程や進路援助といった「学校定着援助」 を展開する台湾の学校復帰支援は,包摂的な学校教育 の 1 つの取り組みとして重要な示唆を持つ。  最後に,輔導教師が外部性を生かして広い管轄権を 行使する輔導体制に関しては,日本の学校教育に照ら すとさらなる議論が必要であることを挙げておく。学 校外の機関や人員と連携した学校外の問題への介入は, 日本でも重視されており,現在はスクールソーシャル ワーカーに期待される役割である(文部科学省 2008)。 しかしスクールソーシャルワーカーと教師の連携に関 しては,専門性が異なることでスクールソーシャル ワーカーによる学校文化の理解が不十分であること, 常勤の教職員ではないために教師との関係性が希薄に なる,といった課題を抱えている(山野 2009)。政策 上は教育以外の専門職を配置することで児童生徒の問 題への援助範囲を学校外まで拡大しようと試みている が,学校現場ではその専門性が異なることが原因で援 助に困難さが生まれているのである。この状況に台湾 の輔導教師の事例に照らすと,日本においては,教育 以外の専門職との連携強化という論点だけではなく, 学校経営に関与しない外部性を持つ教師の配置という 論点も,児童生徒の問題への援助範囲の拡大には必要 ではないだろうか。  輔導教師の広い管轄権を持って構築される校内外の 輔導体制に関して,学校復帰援助以外の場面での輔導 教師の役割,役割が類似すると予想されるスクール ソーシャルワーカーとの関わりについて検討すること も今後の課題である。

【注】

1 )「 3 日以上の連続した欠席」が中途輟(てつ)学と して定義されている(「小中学校における不登校児童 生徒への通報及び学校復帰の指導方法」第 2 条)。 2 )台湾の輔導は日本の「補導」とは異なる。日本に

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おける補導は「非行の防止と少年の福祉を図るため の警察活動の総称」である(「少年の逸脱的な非行行 為に関する少年警察活動要綱」(警察庁1960年通 達))。 3 )本稿と類似する他論文(川瀬瑠美「教員とスクー ルカウンセラーの連携にみる生徒指導における台湾 的特質―台湾の高等学校教員への質問紙調査から―」 『日本高校教育学会年報』24,2017年,70-77頁等) では,輔導教師はスクールカウンセラーと定義され ている。これらの文献では輔導の専門書において, 輔導教師が school counseler と英訳されていること に習っている。つまり輔導教師はアメリカの school  counselor と近い職務を担っていることから,このよ うな英訳がなされているのである。本稿でこの定義 を採用しないのは,日本で用いられているスクール カウンセラーはアメリカのものとは職務の実態が異 なり,読者に誤解を招きやすいと判断したためであ る。 4 )小中学校で行われる,学校生活への適応や性別平 等,キャリア形成に関する科目。 5 )小中学校に設置される校務分掌の 1 つである。公 民教育,道徳教育,体育衛生保健,団体活動及び生 活管理を行う(教育部 2016b)。 6 )担任教師,教科専任教師,その他教師,スクール カウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の専 門職といった校内の教職員を指す。 7 )地方政府が設置する少年犯罪予防・補導の機関。 8 )地方政府が設置する公共安全・秩序維持の機関。 9 )地方政府が設置する社会福祉に関わる機関。 10)各地方政府の社会局,各学校によって実施される 親への教育である。内容は,夫婦の関係のあり方, 親の情緒管理,親子間の感情表現とコミュニケー ション等である(台北市家庭教育中心 HP)。 11)筆者の表現ではなく,資料の記述表現の中で圧力 (壓力)が用いられている。 12)各県市に設置される,義務教育期の子どもの就学 状況を管理する機関である。小中学校での「欠席・ 不登校」が起こった場合,学校からの通報を受けて 保護者へ警告書の発行を行い,警告を行う(「強迫入 學条例」第 9 条(2011年改正))。 13)地方政府,公益社団法人等によって設置される施 設である。家庭に問題があり養育が困難な18歳以下 の児童及び少年を対象にしている。「少年事件處理 法」等を根拠に行われる。

【引用文献】

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参照

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