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チーム基盤型学習 (TBL) が知識獲得と概念理解に与える影響 ―英語学の授業実践から―

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(1)チーム基盤型学習 (TBL) が知識獲得と概念理解に与える影響 ―英語学の授業実践から―. 広島女学院大学. 関谷. 弘毅. This study aims to examine the effects of introducing team-based learning (TBL) for acquiring knowledge and understanding concepts in English Linguistics (phonology and morphology) classes, a university-level subject. The subject was taught in two different ways, through a lecture method in 2016 and through TBL in 2017. The effects of introducing TBL on students’ knowledge acquisition and conceptual understanding were examined in comparison with those of students who underwent the lecture method. The results showed that TBL had a greater influence on knowledge acquisition and conceptual understanding than did the lecture method. The combination of these findings and the amount of time that the students spent on this subject implies that TBL does not necessarily influence the quantity of learning but does improve the efficiency of learning.. 1.. 問題と目的 多様化する社会の要請に応えるため、大学においても学生の能動的な学修への参加. を取り入れた、いわゆるアクティブ・ラーニングが求められている。国内の英語教育学 の専門科目に目を向けると、 「英語科教育法」といった、模擬授業を前提とする科目に おいてはそうした取り組みが報告されている (例えば鈴木, 2015)。一方で、 「第二言語 習得研究」や「英語学」といった、理論に関する知識を獲得し、理解を深めることを主 たる授業目標とする科目においてはほとんど知見の蓄積がない。関谷 (2017, 2018) は、 アクティブ・ラーニングの 1 つの形態として、後述するチーム基盤型学習 (TBL) を 「第二言語習得研究」の授業に導入し、指導効果を検討した数少ない研究である。検討 の結果、概念理解と学習意欲の促進に効果があることを明らかにするとともに、質的 な手法によりそのプロセスを検討した。本研究は、教育実践への応用を必ずしも前提 とせず、より基礎知識の習得や理解を重視する性質を持つ「英語学」の授業にチーム基 盤型学習 (TBL) を取り入れ、知識獲得と概念理解に与える影響を検討する。 1.1. チーム基盤型学習 (TBL) とは何か. チ ー ム 基 盤 型 学 習 (Team-Based Learning: TBL) は 、 1970 年 代 の 後 半 に Michaelsen によって考案された教育手法であり、主に経営学や自然科学などの教育課 程に用いられてきた (Michaelsen, Knight, & Fink, 2004)。学生がチーム内でメンバ ーとディスカッションを行うこと、チーム同士でディスカッションを重ねることが中. - 43 -.

(2) 心となる学習方法である (Michaelsen et al., 2004; 五十嵐, 2016)。Michaelsen et al. (2004) 及び Michaelsen and Sweet (2008) によると、TBL の具体的な実施手順は以 下の通りである。 まず、学習者 5-7 名のチームを作る。授業には 3 つの段階があり、第 1 段階ではあ らかじめ与えられた資料を予習して基礎知識を身につける。第 2 段階は予習の確認テ ストを行う。テストは 2 つあり、まず多肢選択式の問題数問からなる個人テスト. (individual Readiness Assessment Test: iRAT) に取り組む。続いて同じ問題をチーム. で話し合って答えを決定するチームテスト (team Readiness Assessment Test: tRAT) を行う。その後解答を確認する。問題や解答に納得がいかない場合は異議を申し立て ることができる (アピール)。アピールに十分な理由があると認められれば正答として. 扱われる。第 3 段階は、予習してきた知識を踏まえ、さらに理解が深まるような応用 演習問題にチームで取り組む。最後にその問題に取り組んだ意図を伝え、総括を行う。 1.2. TBL の効果に関する先行研究. 上述の通り、TBL は経営学や自然科学の分野、とりわけ近年では医療分野において 盛んに使用されてきた。多くの実践において学習者の情意面や成績に望ましい改善が 見られたと報告されている。看護学分野において、Mennenga (2013) は TBL 型授業 が講義型授業に比べ、取り組みに対する積極性とテストの成績の両方においてよい結 果が得られることを明らかにしている。Cheng, Liou, Tsai, and Chang (2014) は、 TBL によって学生が興味をかきたてられ、チームワークの重要性を認識し、成績が向 上することを見出している。国内に目を向けると須野・吉田・小山・座間味・三好・水 島・谷本 (2013) は、臨床薬学の授業で TBL を導入し、個人テストよりもチームテス. トにおけるテスト得点が常に高かったことから TBL が活発な学習を促すこと、またア ンケート結果から授業への満足度も高かったことを報告している。一方、ビジネス実 務教育の分野では、所(2016)は TBL を授業に導入した結果、秘書検定合格率が 43.9% から 97.4%へと飛躍的に上昇し、学習態度に改善が見られたという。. 新福・五十嵐・飯田 (2014) の一連の研究は、看護学実習を終えた学生に対して、自. 由記述による TBL に関する意見・感想を収集し、変容プロセスを質的に検討したもの である。TBL 導入後の初期段階では、その学習法に戸惑いを感じるものの、徐々に学 習の充実感や復習へのニーズを実感するようになり、最後にはチームで高め合う達成 感を得るという変容プロセスを描き出している。薬学部の有機化学の授業に TBL を導 入した藤井・紺野・加藤・多田納・八木・渡邊・武田 (2018) もアンケート結果の分析 からほぼ同様のプロセスを報告している。 一方で、 ESL/EFL や 英語教育学 分野で の研 究蓄積は多 くない が、 イランにお ける. EFL の授業に TBL を導入したものに、Hosseini (2014) がある。Hosseini は、チーム. 間で競争させる形で TBL 型授業を実施し、協働学習型授業と比較して英語運用能力の 向上効 果が 高か った と 報告し てい る。 また 、Samad, Husein, Rashid, and Rahman (2015) は、マレーシアの大学における ESL 教師教育の授業に TBL を導入した。学生. たちは全体として TBL を肯定的に捉え、またそのことが最終課題である模擬授業の質 につながる可能性を指摘している。国内では、児玉・田中・藤波・細川・小山・Hogue・ 竹内 (2015) が薬学英語の授業で TBL を取り入れて実施し、TBL は学習意欲の向上の 促進効果は期待できるが、その効果は対人関係に影響を受けやすいと述べている。. - 44 -.

(3) これらの先行研究の知見をまとめると、TBL の導入はチームや授業への参加意欲が 高まり、望ましい学習成果につながると言える。ただしそのプロセスは、初期に戸惑い などから一時後退し、後に上昇し最終的には高水準に達する傾向がうかがえる。関谷 (2017, 2018) は以上を踏まえ、アクションリサーチの手法に基づいて、大学の英語教 育学専門科目の 1 つ、「第二言語習得研究」に TBL を導入し指導効果を検討した。そ の結果、TBL 型の授業は講義+活動型の授業よりも学習者の概念理解と学習意欲を高 めることを明らかにした。国内における英語教育学専門科目での TBL 実践としては初 の試みであり、医療分野のように必ずしも職業上チームで問題解決にあたることを前 提としない科目において好ましい結果を報告できたことには一定の意義があるだろう。 今後、例えばグループワークのプロセスを丁寧に分析し機能改善のための介入を行う といった、TBL による学びの効果をより効果的にするという「深める」方向性と、異 なるタイプの科目に導入して事例を蓄積するとともに汎用的な TBL のスタイルを確 立するという「広げる」方向性の両方が求められる。 1.3. 本研究の目的. 本研究は「広げる」方向性を目指す。TBL を取り入れて大学の英語教育学専門科目 の 1 つに位置づけられている英語学の授業を実施し、前年度の講義型授業と比較して 知識獲得と概念理解に与える影響を検討することを目的とする。知見を教育現場への 応用に結びつけやすい特徴を持つ第二言語習得研究の学びに比べ、本研究が対象とす る英語学はより基礎的な知識の獲得や概念理解が初期段階の学びの主眼となる。その ような性質を持つ授業は、一見最もチームでの学習を想定しにくい科目の 1 つと考え られる中、TBL の有効性及び限界を示すことは意義があると考えられる。 2.. 方法. 2.1. 対象者. 私立女子大学の国際教養学部国際教養学科で、2 年生以上を対象に開講された専門 科目、 「英語学Ⅱ (音韻論・形態論:語の仕組みと発音)」(2 単位) の受講生を対象とし た。3 年次に英語教育メジャーに所属を予定している約 8 割の受講生にとっては必修 科目であった。試験日までの授業日数のうち、4 分の 3 以上出席した者を分析対象と した。その結果、講義型の授業を受けた 2016 年度の受講生 20 名、TBL 型の授業を受 けた 2017 年度の受講生 14 名の合計 34 名が分析対象者となった。 2.2. 授業の概要. 両年度とも筆者が授業者として担当した。使用テキストは大井・木全・森田・高尾 (2006) の『初めての英語学. 改訂版』を指定した。授業のシラバスは表 1 の通りであ. る。テキストとシラバスは講義型授業と TBL 型授業で共通であるが、指導手順は以下 の通り異なった。 講義型授業は、授業者が内容をスライドにまとめたものを投影しながら解説する講 義形式で行った。毎回の授業に先立ち、受講生は、 「次回の講義内容をテキストなどで 確認する」 (シラバスに記載) ことが求められた。授業ではスライドを印刷した資料を 毎回配布し、多くの受講生は適宜メモを取りながら講義を聞いた。また、各回のテーマ に合わせて応用課題を行った。例えば、子音や母音の学習においてミニマルペアの聞. - 45 -.

(4) き取りと発音練習を、音の変化の学習において洋画のセリフのディクテーションと発 音練習をした。また、形態素や語形成の学習においては、英語の語や文を形態素に分け たり (例:uncertainly を接頭辞 un-と語根 certain と接尾辞-ly に分ける)、語形成を 分析する (例:edit は editor が逆成してできた;smog は smoke と fog が混成してで きた) といった活動を取り入れた。受講生はこうした応用課題に個人で取り組み、その 後授業者が答え合わせと解説をした。 表1 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回 第11回 第12回 第13回 第14回 第15回. 授業シラバス. 授業内容 ガイダンス 授業内容・方法、評価方針の説明 音韻論: 発音器官 発音器官について学ぶ 音韻論: 言語音の分類、子音の分類① 言語音の分類の考え方、個々の子音の音声記号と実際の発音を学ぶ 音韻論: 子音の分類②、母音の分類① 子音の分類と母音の分類について学ぶ 音韻論: 母音① 母音の概念及びその分類の方法について学ぶ 音韻論: 音素とは? 音素を他の概念と区別しながら理解する 音韻論: 音の変化 音節、音節内の子音の結合、単語間の音連続、音の脱落、同化についての概念と、その実例を学ぶ 音韻論: 音節とは? 音節の概念とその実例を学ぶ 音韻論: アクセ ントとリズム アクセント、種々のリズム・イントネーションを日英の比較を通して概念とその実例を学ぶ 形態論: さまざまな 形態素 形態論の概要と、様々な形態素の概念及びその実例を学ぶ 形態論: 語形成① 形態素の組み合わせからなる語形成の概念とその実例を学ぶ 形態論: 語形成② 形態素の組み合わせにはよらない語形成の概念とその実例を学ぶ 総復習 これまでの学習内容を総復習する 期末試験 期末試験を行い、これまでの学習内容の理解力・表現力を確認する 総括: 期末試験返却と最終課題の説明 今後の学習の道筋を立てる. テキス ト. pp. 58-60 pp. 60-62 pp. 62-65 補助教材 pp. 66-67 pp. 67-69 pp. 69-71 pp. 71-73 pp. 74-76 pp. 76-79 pp. 79-81. TBL 型授業では、下記の手順で授業を行った。 ①. 授業に先立ち予習する。. ②. ハンドアウト (資料 1) を配布し個人で予習チェック問題に取り組む (約 15 分)。. ③. 4~5 人のグループを作り、話し合いによって問題の解答を決定する (約 15 分)。. ④. 各グループが答案を発表し、他グループと正答を巡って議論する (10~20 分)。. ⑤. 授業者が正答を伝え補足説明する (約 20 分)。. ⑥. 応用課題を行う (20~30 分)。 ③で作るグループメンバーは、第 2 回の授業で授業者がランダムに決定し、第 7 回. まで固定した。また、第 8 回にグループを組み替え最終回まで固定した。原則として 授業者はグループの話し合いには介入しなかった。ただし、グループ内ですぐに答え が一致し、議論が止んでしまっているときには、理由や具体例を考えるなどの付随的 な課題を与えた。④において、授業者はグループ間で答案が違う時に、他のグループの 答案がなぜ誤りなのかを論破することによって正当性を訴えることを促した。⑥の応. - 46 -.

(5) 用課題の内容は講義型のものと同じだが、個人での取り組みののち、グループ内で話 し合ったり、発表することもあった。 2.3. テスト得点の測定. 第 14 回の期末試験に、講義群と TBL 群で共通して出題した問題を使用した。 (1) 知識確認問題 調音器官、子音図、母音図の空欄に適切な用語または音声記号を書く問題合計 19 問。 調音器官の問題は、ヒトの顔の断面図を提示し、問番号の示す場所の調音器官名 (例え ば上歯、歯茎、軟口蓋など) を書くもので 6 問出題した。子音図の問題は、英語の子音. 分類表を提示し、問番号の示す場所の音声記号を書くもので (資料 1 の (4) 参照) 8 問 出題した。母音図の問題は、アメリカ英語の母音図 (舌の最高点の高低及び前後関係を 表す図) を提示し、問番号の示す場所に音声記号 (例えば /æ/, /ʌ/など) を書くもので. 5 問出題した。正答を 1 点、誤答を 0 点とした。 (2) 理解確認問題 専門用語に関する説明について、適切なものを 4 つの選択肢から選択する問題合計 4 問 (形式は資料 1 の (1)~(3) と同じ)。具体的には、「自然言語」「子音」「高低アク. セント」「無声音」を使用した。正答を 1 点、誤答を 0 点とした。 (3) 記述問題. 専門用語について、具体例を挙げながら説明する問題合計 4 問。「有声音」「母音」. 「単語の恣意性」「拘束形態素」を使用した。測定は、ルーブリック (資料 2) に基づ. き、全 4 問に対して定義、具体例/詳細説明の 2 つの観点を設け、配点はそれぞれ 3 点とした。例えば拘束形態素について、 「拘束形態素とは、形態素のうちそれだけでは 単語になることができず、他の形態素に付けて使われるものを指す。例えば、-ed や、 -ly などの拘束形態素はそれだけでは単語として使えず、他の形態素に付ける必要があ る。」と書けば、定義 (第 1 文)が 3 点、具体例/詳細説明 (第 2 文) が 3 点となる。採 点は筆者と英語教育学を専攻して修士号を取得したリサーチアシスタントが独立して 行い (一致率:82.4%)、分析には 2 名の採点者の平均値を用いた。 2.4. 学習量. TBL 群の第 15 回の授業において試験返却後に質問紙を配布し、 「他の授業に費やし た平均的な学習量を 10 とすると、この授業に費やした学習量は?」という問に対して 数字を記入するよう求めた。学習量は 2016 年度には尋ねていないので講義群との直接 比較はできないが、先行研究での取り組みとの比較対照により本研究結果の相対化を 行うために用いられた (4.2 本研究の位置づけで詳述)。 3.. 結果. 3.1. テスト得点. 群間比較を行うには両群の受講生の学力が均一であるという前提が必要である。受 講生が当 該科目 を履修 する前年 度に履 修した すべての 科目の 成績平 均値 (GPA) を算. - 47 -.

(6) 出した結果、講義群は 2.85、TBL 群は 2.65 であった。t 検定の結果、有意な差は見ら. れなかったが ( t (32) = 0.66, p = .51) 、どの対象者も学力が一定になるように条件を. より厳密に統制して検定力を高めるため、前年度の GPA を共変数とする共分散分析を 実行した。前年度の GPA とテスト得点との相関を表 2 に示す。 表2. 前年度の GPA とテスト得点との相関 前年度GPA. 前年度GPA 知識 理解. 知識 .347*. *. 理解 .443** .708**. 記述 .582** .612** .640**. p < .05. ** p < .01. 共 分散 分析 の結 果、 知識 確認 問題 にお いて 有意 な差 が見 られ ( F (1, 31) = 4.93, p. < .05, η p 2 = .14) 、TBL 群の方が得点が高かった。理解確認問題において差に有意な傾. 向が見られ ( F (1, 31) = 3.41, p < .10, η p 2 = .10)、 TBL 群の方が得点が高かった。記. 述 問 題 に お い て は 得 点 に 有 意 な 差 は 見 ら れ な か っ た ( F (1, 31) = 0.39, p = .90,. η p 2 = .01)。記述統計及び検定結果を表 3、図 1 に示す。 表3 観点. 平均得点 (括弧は SD) と調整済み得点 (括弧は SE) と検定結果及び効果量 問題. 平均得点. 共分散分析結果と 2 効果量η p 2 p値 ηp .186* .056 .112* .080 .046* .123 .034* .137 .074† .099 .837* .001 .330* .031 .536* .012. 調整済み得点. TBL群 TBL群 講義群 講義群 5.50 (0.83) 5.79 (0.43) 5.48 (0.15) 5.81 (0.18) 調音器官 6.80 (2.02) 7.64 (0.93) 6.76 (0.34) 7.70 (0.44) 子音分類表 知識 3.70 (1.45) 4.43 (1.09) 3.64 (0.27) 4.51 (0.32) 母音図 16.00 (3.55) 17.86 (1.70) 15.89 (0.61) 18.02 (0.74) 合計 3.10 (1.12) 3.57 (0.85) 3.05 (0.20) 3.64 (0.24) 理解 8.20 (3.77) 7.96 (3.86) 8.01 (0.73) 8.24 (0.88) 定義 8.20 (3.74) 8.75 (3.52) 8.00 (0.67) 9.04 (0.81) 記述 具体例/詳細説明 16.40 (7.01) 16.71 (7.23) 16.00 (1.31) 17.28 (1.56) 合計 †. 図1. 観点別調整済み得点の比較. - 48 -. p < .10. * p < .05.

(7) 3.2. 学習量. 回答を得た TBL 群 14 名を分析対象とし平均値を計算した結果、11.00 ( SD = 6.30). を得た。 4.. 総合考察. 4.1. 本研究のまとめ. 分析の結果、TBL に取り組むことによって知識獲得と概念理解が促されることが示 された。具体的には、調音器官、子音図、母音図など、比較的深い思考を必要としない 知識問題に大きな促進効果が見られた。一定の思考を必要とする、専門用語に関する 正しい説明文を選択する問題では次に大きな促進効果が見られた。深い理解と表現力 が要求される用語記述問題については促進効果は観察されなかった。グループ活動へ の積極的な取り組みを通して記憶の痕跡が強化されたと考えられ、情報処理水準の浅 いものから効果が表れることを示唆している。 4.2. 本研究の位置づけ. 本研究の結果を先行研究 (関谷, 2017, 2018) との比較によって位置づけ、考察を加 えたい。本研究と関谷 (2017, 2018) は、TBL を導入して授業を実施し、前年度以前に 行っていた講義形式のものと比較して TBL の効果を検討するというデザインにおい. ては同一であるが、表 4 に示す点は異なっていた。 表4. 本研究と関谷 (2017, 2018) との相違点 関谷 (2017, 2018). 本研究 科目の内容. 英語学 (音韻論・形態論). 第二言語習得研究. 科目の性質. 基礎知識の獲得や理論の理解が主. 基礎知識の獲得や理論の理解に加 え、教育実践への応用も重視. 科目の位置づけ. 8割の受講生にとって必修科目. 選択科目. 授業形式 (講義型かTBL型 なし か) 以外の条件の違い 知識確認問題にやや大きめの効果 TBLの効果 理解確認問題に中程度の効果 記述問題にはほぼ効果なし 他の授業と比べた主観的な 1.1倍 学習量の実感. 注. TBL群は記述式小テストもある TBL群は2倍の進度で授業が進む 知識確認問題や理解確認問題は出題 していない 記述問題 (具体例) に大きな効果 約1.7~1.8倍. 関谷 (2018) の研究目的の 1 つは関谷 (2017) で得られた結果を再確認することであ. り、ほぼ同じ結果が得られたので表ではまとめて示している. まず本研究と異なり、関谷 (2017, 2018) において TBL が記述問題の成績を促進し た最大の原因は記述式小テストの有無であろう。筆者は授業を担当しながら記述式小 テストの影響を実感していたが、本実践で扱った「英語学 (音韻論・形態論)」の内容 には必ずしも記述式小テストがそぐわないことに加え、受講生は小テストを予習より も優先してしまいグループワークが十分に機能しない可能性を懸念したため、実施し なかった。また、他の授業と比べた学習量の実感が、関谷 (2017, 2018) において約 1.7. - 49 -.

(8) ~1.8 倍だったのに対して、本研究が 1.1 倍だったのは小テストの有無に加え、科目の 位置づけ(必修か選択か)が影響したと考えられる。一般に必修で履修する受講生に比 べ、選択で履修する受講生の方が科目内容そのものに高い興味を示し、結果として学 習量が増大した可能性がある。しかし本研究の TBL が、関谷 (2017, 2018) と異なっ て学習量の増大を伴わずに成績向上を促したのは、学習の効率性が改善した可能性が 示唆される。 4.3. 本研究の意義・限界と今後の展望. 最後に本研究の意義・限界と今後の展望を述べる。上述の通り本研究は、使用テキス ト、シラバス、小テストの有無など指導法以外の要因は統制され、両群とも同一条件で 比較することができた。TBL が知識獲得や概念理解に与える影響を可能な限り交絡要 因を除いて報告できたことの学術的意義は大きい。また、本研究は先行研究では実践 報告のない英語学の授業で TBL を実施した。基礎知識や理論を学ぶ英語学の授業は、 一見最もチームで取り組む前提を想定しにくい科目の 1 つと考えられた。そのような. 科目で TBL を導入し、その効果を実証できたことは「問題と目的」で触れた「広げる」 方向性に貢献できたといえ、大きな実践的意義があるだろう。 一方で本研究には限界も認められる。まず、 最も認知負荷の重い記述問題の成績まで. は TBL の優位性が見られなかった点にはその手法の運用に検討の余地がある。答案をテ キストマイニングなどで分析し、質的な変容を詳細に分析することも必要であろう。また、. 本研究が「広げる」方向を目指したことを踏まえると、扱うことができた事例が単一で あるのと、サンプル数が少なかった点も課題として残る。主観的な判断に依存しない ように 学習量を測定する方法を改善する必要もあるだろう。 今後の展望として、以下の 2 点に触れたい。1 つ目は研究デザインについてである。 本研究は授業改善を目指すいわゆるアクションリサーチであるが、研究デザインは「1 群事前事後テストデザイン」ではなく、 「 不等価 2 群事後テストデザイン」を採用した。 どちらも「準実験」に位置づけられるが、後者は前者よりも内的妥当性が高いとされる (南風原, 2001)。つまり、前者の場合たとえ成績などの従属変数に効果があったとして も、それは指導の効果ではなく時間の経過にともなう他の要因 (例えば家庭学習など) による効果である可能性を否定できないのに対し、後者の場合それは両群に生じるの だから条件は同じであると考えることができる。ただし、 「不等価 2 群事後テストデザ. イン」は代表的な「実験」のデザインである「完全無作為 1 要因デザイン」よりは内 的妥当性で劣る (南風原, 2001)。つまり、協力者を無作為に割り付けていないので 2 群 の等価性が保証されていない。そのため、一方の群の成績が高かったとしてももとも とその群に学習能力の高い学生が集まっていた可能性を否定できない。その問題に関 して、本研究は前年度の GPA を学習能力と見なしてそれを共変数とする共分散分析を 採用し、協力者の学習能力を統制することによって解決を図っている。授業改善を目 指すアクションリサーチでは「1 群事前事後テストデザイン」が採用されがちである が、試験の一部の問題に前年度と同じものを出題して 2 群比較を可能にすることと、 学生の GPA を共変数として投入し学習能力を統制することによって内的妥当性を高. めることができる。これらは大学教員のように原則同じ科目を毎年教える教育実践者 にとっては比較的容易であるので、今後のアクションリサーチへの提言としたい。 2 つ目は、英語教育学専門科目における学習・指導改善のための研究の必要性であ. - 50 -.

(9) る。英語教育学分野では、当然ながら学習者の英語運用能力向上を最終目標とする研 究が大部分であり、大学教育においてもいわゆる英語スキル科目における研究実践報 告は多く蓄積されている。一方で本研究のような英語教育学専門科目を扱った報告は ほとんどない。しかし、このような科目の教育効果が向上することは、より優秀な英語 教育者を育成することにもつながり、間接的に学習者の英語学習に貢献する可能性を 秘めている。今後のさらなる研究と実践の蓄積を期待したい。 引用文献 Cheng, C. Y., Liou, S. R., Tsai, H. M., & Chang, C. H. (2014). The effects of TeamBased Learning on learning behaviors in the maternal-child nursing course.. Nurse Educ Today, 34 (1), 25-30.. Hosseini, S. M. H. (2014). Competitive team-based learning versus group investigation with reference to the language proficiency of Iranian EFL intermediate students. International Journal of Instruction , 7 (1), 177-188.. Mennenga, H. A. (2013). Student engagement and examination performance in a team-based learning course. Journal of Nursing Education, 52 (8), 475-479.. Michaelsen, L. K., Knight, A. B., & Fink, L. D. (2004). Team-Based Learning:. Transformative Use of Small Groups in College Teaching (pp.7-27). Sterling,. VA: Stylus, Publishing.. Michaelsen, L. K., & Sweet, M. (2008). The essential elements of team-based learning . New Directions for Teaching and Learning , 116 , 7–27.. Samad, A. A., Husein, H., Rashid, J. M., & Rahman, S. Z. S. A. (2015). Training English language pre-service teahers using a team based learning approach.. English Language Teaching, 8 (1), 44-51.. 五十嵐ゆかり. (2016). 五十嵐ゆかり (編著), 『トライ!看護に TBL 習の基礎のキソ』.. チーム基盤型学. (p.2). 東京:医学書院.. 大井恭子・木全睦子・森田彰・高尾亨幸. (2006). 長谷川瑞穂 (編著), 『はじめての英 語学. 改訂版』. 東京:研究社.. 児玉典子・田中将史・藤波綾・細川美香・小山淳子・Hogue, W. R・竹内敦子. (2015). 「チーム基盤型学習 (TBL) 法と学生の学習動機に及ぼす影響」. 『神戸薬科大学 研究論集』, 16, 1-15.. 新福洋子・五十嵐ゆかり・飯田真理子. (2014). 「Team-based learning を用いて周産 期看護学 (実践方法) を学んだ学生の認識」. 『聖路加看護大学紀要』, 40, 19-27. 鈴木幸平.(2015). 「授業ビデオの有効活用及び模擬授業の効率的な実施 : 英語科教 育法における講座改善の一つの試み」. 『常磐大学研究紀要』, 35, 187-198.. 須野学・吉田登志子・小山敏広・座間味義人・三好智子・水島孝明・谷本光音. (2013). 「新教育技法『チーム基盤型学習 (TBL)』の臨床薬学教育における有用性」. 『薬 学雑誌』, 133 (10), 1127-1134.. 関 谷 弘 毅 . (2017). 「 チ ー ム 基 盤 型 学 習 (TBL) が 概 念 理 解 と 学 習 意 欲 に 与 え る 影 響 -英語教育学専門科目のアクティブ・ラーニング授業実践から-」. 『大学英語教 育学会中国・四国支部研究紀要』, 14, 87-105. 関谷弘毅. (2018). 「チーム基盤型学習 (TBL) において概念理解と学習意欲が形成さ. - 51 -.

(10) れるプロセスの検討. -英語教育学専門科目のアクティブ・ラーニング授業実践. から-」. 『大学英語教育学会中国・四国支部研究紀要』, 15, 93-110.. 所吉彦. (2016). 「ビジネス実務教育における TBL 導入の試み. -ARCS 動機づけモ. デルに基づき TBL を導入した教育実践と評価-」. 『尚絅大学研究紀要. 人文・. 社会科学編』, 48, 39-50. 南風原朝和. (2001). 南風原朝和・市川伸一・下山晴彦 (編), 『心理学研究法入門. 調. 査・実験から実践まで』. (pp. 123-139) . 東京:東京大学出版会.. 藤井幹雄・紺野奇重・加藤芳徳・多田納豊・八木秀樹・渡邊敏子・武田弘志. (2018). 「科 学教育への Team-Based Learning (TBL) の導入:アクティブラーニングによる 問題解決能力の育成を目指して」. 『国際医療福祉大学学会誌』, 23 (1), 16-27. 謝辞:本論文の修正にあたり、2 名の査読者の先生から貴重なご助言をいただきました ことに深く感謝いたします。また、調査にご協力くださいました「英語学Ⅱ (音韻論・ 形態論:語の仕組みと発音)」の受講生の皆様に厚くお礼申し上げます。分析にあたっ ては恩地早紀さんに多大なご協力をいただきました。記して感謝いたします。. - 52 -.

(11) 資料 1.. 予習チェック問題. 資料 2.. ルーブリック 小テストルーブリック(改). 学生番号 目標. ①定義. 氏名 0. 1. 2. 3. 定義を書いていない、ま たは 説明が大いに不足してい る。 内容が理解できない、ま たは 誤っており、正しく表現 でき ていない。. 完全に間違っているとは 言え ないレベルで最低限定義 を表 現できる。言葉が不明瞭 、あ るいは説明不足の個所が ある が、何とか意味内容を伝 える ことができる。. 多少不十分な個所がある もの の、定義を表現できる。 意味 内容を大体正確に伝える こと ができる。. 非常に明確に定義が表現でき る 。 テキ ス トと ほ ぼ同 じ 記 述、あるいは異なる表現を用 いていても意味内容を適切に 伝えることができる。. 具 体例 /詳 細説 明を 書い てい ない、または説明が大い に不 足している。定義とは関 係な い 具体 例/ 詳細 説明 を用 いて いる、または、内容が理 解で きないか誤っており、正 しく 表現できていない。. 定義の説明とは少し関連 性が 定義の説明に関連した具 体例 薄 いが 具体 例/ 詳細 説明 を表 /詳細説明を表現できる。 現できる。あるいは定義 の説 明 と関 連性 のあ る具体例 /詳 細説明を用いているが、 不明 瞭な箇所があり理解がや や困 難である。. 定義の説明の理解深化につな が る適 切な具体 例/ 詳細説明 を 、 わか り やす く 表現 で き る。. 評点. /3. ②具体例/詳細説明. /3. - 53 -.

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