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女性の結婚による離職のコーホート分析 配偶者の従業先規模の影響に着目して

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Academic year: 2021

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1. 問題の所在  戦後から現在にかけて,女性の就業はどのよう に変化してきたのだろうか.日本女性の就業パ ターンはM字カーブを描くことが知られており, 結婚・出産・育児を機に離職し,子育てが一段落 した後に再就職するという特徴を示す.1946 〜 1950 年出生コーホートにおいてM字カーブの底 がもっとも深くなったことから,団塊の世代にお いて専業主婦化がもっとも進んだとされている (落合…1997;大沢…2002).こうした実態から,「多 くの女性は結婚や出産で離職する」という前提 で女性労働政策が策定され,人事管理制度が作 られてきた(大沢・盧…2015).そうして高度経済 成長期にあたる 1960 年代後半から 1970 年代前半 にかけて,日本的雇用システムが確立した(佐口… 2018).雇用者側は,従業員のコミットメントを 期待し,生活の安定性の見通しとしての年功賃金 制度を整備した(佐口…2015).その制度は,性別 役割分業規範と適合するように,従業員の配偶者 や子どもの扶養も考慮されていた.こうした特徴 から,女性が家庭内のケア役割のみを担うかどう かは結婚相手の属性に左右されていたという状況 が想定できる.山口(1998)も,女性のライフコー スの選択は就業経験の有無から結婚・出産時の離 職・転職パターンにいたるまで,配偶者である夫 の影響を大きく受けてきたと述べている.  こうした状況はいつまで維持されているのだろ うか.既存研究では性別役割分業体制に基づく結 婚や出産による退職行動には大きな変化がみられ ないとされている(岩澤…2004;…内閣府…2008).ま た近年「男は外,女は家」という意識に対して賛 成する割合は減少しているものの,「男性に稼得 責任がある」という意識に対して賛成する割合は 大きく(1),いまだに人々の中に性別役割分業規範 が根付いていると想定される.したがって,女性 の就業選択は夫の影響を受けているという関係が 現代にいたるまで継続している可能性がある.  以上から本稿では,1995 年から 2015 年までの 『社会階層と社会移動全国調査』(以下,SSM 調

論 文

女性の結婚による離職のコーホート分析

――配偶者の従業先規模の影響に着目して――

田 中   茜  本稿の目的は,女性の離職行動に配偶者が及ぼす影響を捉えることを通じて,1960 年代以降の女 性の就業選択のメカニズムを明らかにすることである.離職が生じやすいタイミングの一つである結 婚に着目し,妻の結婚離職に結婚時の夫の従業先規模が及ぼす影響を検討した.1995 年,2005 年, 2015 年のSSM調査を用いて分析を行った結果,大企業に勤務する男性と結婚した女性の結婚離職が 促されるという関連が示された.またその関連は 1960 年代から 1980 年代結婚コーホートまで確認さ れるものの,1990 年代以降では確認されなかった.この結果から,結婚時における妻の就業選択が 夫の従業先規模に依存するという状況は 1990 年代を境に消失したと結論づけることができる.1990 年代は人々の女性就業に対する意識が徐々に変化し始めた時期であり,それに伴い女性の就業に関す る意思決定が変化したと考えられる. 【キーワード】女性の就業選択,夫の従業先の影響,コーホート分析

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査)を用いて女性の離職行動に配偶者が及ぼす影 響について検討を行う.さらに 1960 年代以降か ら現在までのコーホート比較を行うことで,その 関連がどのように変化しているのかについても検 証を行う.… 2. 先行研究と問題の焦点化  これまで女性就業に関連する研究は多く蓄積さ れてきたが,本節では女性の就業行動に及ぼす結 婚や夫の影響を検討した研究に着目して先行研究 を整理する.  まず世帯単位から女性就業を捉えた研究では, 就業の決定要因として夫の収入水準に焦点が当 てられてきた.夫の収入が高いほど女性の就業 率が低くなるという「ダグラス・有沢の法則」に ついて実証研究が繰り返し行われてきたが,法 則が成り立っているとする結果(樋口…1995;…岩間… 2008)と,1990 年代後半からは関連が弱化して いるとする結果(樋口…2001;… 小原…2001)に分か れている.前者の結果は,おもに調査時点におけ る夫の収入と妻の就業状態との関連の検討から導 かれている.しかし結婚や出産といった離職しや すいタイミングと,その当時の夫の収入との直接 的な関連が検討されていないという限界点が挙げ られる.一方で後者の結果は,パネルデータの分 析に基づいているものの 1990 年代に限定された 結果であり,それ以前との比較の視点が欠落して いるという限界点がある.  ダグラス・有沢の法則は世帯単位の視点として 女性就業を扱っているが,視点を少し変えると, 世帯内の状況や制約を勘案した上で女性個人が働 くか働かないかの選択を下した結果として捉える ことができる.このように,女性個人の単位から 女性就業を捉えた研究では,女性の人的資本とし ての学歴や職歴,ライフイベントとしての結婚・ 出産や,職場環境としての規模や職業が,女性の 就業に及ぼす影響の検討が行われてきた(平尾… 1999;… 平尾…2005;… 平田…2011;… 山口…1998).結婚す ることによって就業継続が抑制されるという結果 や(平尾…2005),退職後無業になりやすい(平田… 2011),という知見が蓄積されている.しかしそ の結婚相手がどのような男性であるか,といった 夫側の属性はほとんど検討されてこなかった.妻 の就業選択に影響を及ぼすと考えられる夫側の要 因は,結婚後の生活を維持できるか否かという点 にある.換言すると男性の稼得能力である.その 規定要因として,本稿では従業先規模に焦点を当 てる.従業先規模が将来の生活維持の見通しの 指標として考えられる所以は,日本的雇用システ ムにある.それは男性正社員を中心として想定 されており,成人男性の長期的雇用を実現するた めの雇用諸制度である.なかでも,雇用者の生活 を維持する機能として考えられる年功賃金制度 は,30 代から 50 代前半にかけて賃金の上昇率が 高くなるという特徴を持つ.またこの上昇率は企 業規模によって異なり,大企業正社員で顕著であ る(日本銀行調査統計局…2010).賃金体系が企業 規模によって異なるということは,夫となる男性 の従業先規模は,女性にとって「将来の生活の予 見可能性」の指標として捉えられるはずである. 男性の従業先が大企業であれば,将来高い賃金上 昇を見込め,離職して専業主婦になったとして も,将来的に生活に困ることはない.そのため結 婚離職が生じやすいと想定される.逆に,賃金上 昇があまり見込めない場合には,将来的な生活の 見通しが立ちにくく,結婚しても離職しにくいと 想定される.  さらに,想定された関連は,コーホートを通じ て安定的であろうか.1990 年代前後で女性就業 を取り巻く環境が変化し,女性の高学歴化や社会 進出が生じた.制度的には 1985 年の男女雇用機 会均等法や 1992 年の育児休業制度制定が後押し となり,徐々に女性の就業率は上昇している.こ のように女性の社会進出が進展している中で,家 庭内における就業選択のメカニズムが変化してい るのかについての検討を行う.  以上から本稿の分析課題は,①女性の結婚離職 に直接的な影響を及ぼすと考えられる,結婚時の 夫の従業先規模の影響を検討すること ②①の影

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響が 1960 年代以降,コーホート間で変化してい るか検討することの二点である.課題に対処する 方策として,パネルデータを用いた検証が考えら れるが,日本におけるパネル調査の蓄積は十分で あるとは言えない.長期にわたり調査を継続して いるものとして「消費生活に関するパネル調査」 があるが,1993 年に調査が開始されているため, 長期的なコーホート比較の検討には不適切であ る.そこで本稿では,結婚時の配偶者の職業や職 場情報が収集されているSSM調査データを用い て,妻の結婚離職に夫が及ぼす影響の検討を行う. 3. データと方法  本稿ではSSM調査の 1995 年のA票,2005 年, 2015 年の 3 時点のデータを合併して使用する. 1995 年調査は,1994 年 12 月 31 日時点で満 20 歳 〜 69 歳の男女を対象者とした調査で,有効回収 率は 69.7%(2)である.2005 年調査は,2005 年 9 月 30 日時点で満 20 歳〜 69 歳の男女を対象者とし た調査で,有効回収率は 44.1%である.2015 年 調査は,2014 年 12 月 31 日時点で 20 〜 79 歳の 日本国籍をもつ男女を対象者とした調査で,有効 回収率は 50.1%である.本稿でSSM調査データ を用いる利点は三つある.第一に,回答者本人の 入職時点から調査時点までの職歴情報が尋ねられ ているため,結婚時点やその前後年における職業 情報を把握できる点である.第二に,結婚当時の 配偶者の職業情報を用いることで,妻の結婚離職 に夫が及ぼす直接的な影響を検討できる点であ る.第三に,複数点分のデータを合併して用いる ことにより,1960 年代から現在にいたるまでの 約60年にわたるコーホート比較が可能な点である.  分析対象は調査時点において配偶者がいる女 表 1 記述統計

Mean Std.…Dev. Min Max Mean Std.…Dev. Min Max 結婚離職 0.604 0.489 0 1 妻結婚年齢 25.350 3.766 16 41 夫結婚年齢 27.481 4.369 17 53 妻学歴 夫学歴  高校以下 (base)  高校以下 (base)  短大・高専・専門 0.232 0.422 0 1  短大・高専・専門 0.094 0.292 0 1  大学以上 0.142 0.349 0 1  大学以上 0.362 0.481 0 1 結婚前年_妻就業形態  正規用雇用 (base)  非正規雇用 0.132 0.339 0 1 結婚前年_妻従業先規模 結婚時_夫従業先規模  1 〜 29 人 (base)  1 〜 29 人 (base)  30 〜 299 人 0.277 0.448 0 1  30 〜 299 人 0.254 0.436 0 1  300 〜 1000 人以上 0.357 0.479 0 1  300 〜 1000 人以上 0.366 0.482 0 1  官公庁 0.112 0.315 0 1  官公庁 0.159 0.366 0 1 結婚前年_妻職業 結婚時_夫職業  専門・管理 0.218 0.413 0 1  専門 0.166 0.372 0 1  事務 0.476 0.499 0 1  管理 0.026 0.160 0 1  販売 0.123 0.329 0 1  事務 0.269 0.443 0 1  サービス 0.077 0.267 0 1  販売 0.143 0.350 0 1  製造,労務,農業 (base)  サービス 0.212 0.409 0 1  製造,労務,農業 (base) N=2975

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性(3)でかつ,結婚前年に正規雇用または非正規雇 用者(以下,被雇用者)であり,結婚当時の夫が 正規雇用者であるケースに限定した.  従属変数は結婚離職であり,結婚前年に被雇用 者として従事していた仕事を,結婚当年から結婚 2 年後(4)までに無職になった場合を 1,そうでな い場合を 0 とする二値変数として操作化した.  次に本稿で着目する独立変数である,結婚時の 夫の従業先規模については,従業員数が 1 〜 29 人を小企業,30 〜 299 人を中企業,300 〜 1000 人以上を大企業とし,そこに官公庁を加えた 4 カ テゴリの変数として作成した.  そのほかの統制変数について述べる.妻の属性 として,結婚時年齢,結婚前年の雇用形態,結婚 前年の職業(専門・管理,事務,販売,サービス, 製造・労務・農業の5カテゴリ),学歴(高校以下, 短大・高専・専門,大学以上の 3 カテゴリ)を統 制した.夫の属性としては,結婚時年齢,夫学歴 (高校以下,短大・高専・専門,大学以上の 3 カ テゴリ),結婚当時の職業(専門,管理,事務, 販売,サービス,製造・労務・農業の6カテゴリ), を統制した.  分析には,結婚離職を従属変数とする二項ロジ スティック回帰分析を用いた.コーホート比較の ために,結婚コーホートを用いて分析を行った. 結婚コーホートは,1960 〜 1969 年,1970 〜 1979 年,1980 〜 1989 年,1990 〜 1999 年,2000 〜 2015 年と 10 年間隔(5)で区切る.使用する変数の記述 統計は表 1 に示した.分析に用いる変数に欠損の あるケースを除外し,最終的な分析で用いたサン プルサイズは 2975 となった. 4. 分析 4.1 記述的分析  分析に先立ち,1995 年から 2015 年までのSSM 調査データを用いて,結婚前年の就業状況と結婚 前年に被雇用者であった女性に占める結婚離職発 生の割合を結婚コーホートごとに確認する[表2]. まず結婚前年の就業状況について,もっとも古い 1960 年代コーホートでは被雇用者の割合が全体 の約 55%程度である.それ以降徐々に上昇を続 け,1990 年代コーホートでほぼ 80%に達し,そ の後横ばいである.被雇用者の内訳を見ると 1980 年代コーホートまでは非正規の割合が 10% 未満であったのが,1990 年代コーホートでは 表 2 結婚コーホート別,結婚前年の就業状況および被雇用者に占める結婚離職割合 結婚前年の就業状況 被雇用者のうち結婚離職率(%) 被雇用者 その他 参考 正規雇用 非正規雇用 (自営・無職) 2 年後 l年後 3 年後 4 年後 5 年後 結 婚 コ ー ホ ー ト 1960 〜 1969 年 642 62 545 62.50 58.52 64.35 65.34 67.05 (51.41) (4.96) (43.63) 1970 〜 1979 年 994 87 455 60.50 54.95 63.27 64.38 65.40 (64.71) (5.66) (29.62) 1980 〜 1989 年 853 110 278 59.50 53.69 63.55 66.46 67.50 (68.73) (8.86) (22.41) 1990 〜 1999 年 697 146 221 59.79 52.55 64.41 66.90 69.04 (65.51) (13.72) (20.77) 2000 〜 2015 年 564 247 207 52.90 47.23 56.35 58.20 59.19 (55.41) (24.26) (20.33) 計 3750 652 1706 59.06 53.36 62.45 64.33 65.67 (61.39) (10.67) (27.93) 注)括弧内は行%

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表 3 結婚離職を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析 結婚コーホート 1960 〜 1969 年 1970 〜 1979 年 1980 〜 1989 年 1990 〜 1999 年 2000 〜 2010 年 妻属性 妻結婚年齢 -0.052 -0.088** -0.097*** -0.106*** -0.089*** (0.046) (0.036) (0.035) (0.033) (0.029) 妻学歴(ref.…高校以下)  短大・高専・専門 0.495 0.488 0.468** 0.154 -0.055 (0.500) (0.298) (0.236) (0.229) (0.237)  大学以上 -0.492 0.094 0.011 -0.134 -0.445* (0.758) (0.423) (0.337) (0.297) (0.267) 結婚前年_妻就業形態(ref.…正規雇用)  非正規雇用 0.354 -0.282 0.796** 0.290 0.704*** (0.474) (0.366) (0.326) (0.259) (0.242) 結婚前年_妻従業先規模(ref.…1 〜 29 人)  30 〜 299 人 0.431 0.175 -0.074 -0.003 0.196 (0.316) (0.249) (0.248) (0.264) (0.255)  300 〜 1,000 人以上 0.026 -0.182 0.138 -0.105 0.276 (0.346) (0.245) (0.244) (0.254) (0.246)  官公庁 -0.975** -2.062*** -1.446*** -1.337*** -1.323*** (0.402) (0.396) (0.343) (0.409) (0.443) 結婚前年_妻職業(ref.…製造,労務,農業)  専門・管理 -0.947* -0.813** -0.230 0.155 -0.308 (0.487) (0.341) (0.379) (0.392) (0.385)  事務 0.113 0.479* 0.289 0.485 -0.093 (0.345) (0.267) (0.322) (0.362) (0.357)  販売 -0.205 0.916** 0.285 0.800* 0.417 (0.459) (0.375) (0.401) (0.426) (0.399)  サービス -0.906** -0.033 -0.871* 0.603 0.259 (0.417) (0.358) (0.467) (0.481) (0.475) 夫属性 夫結婚年齢 0.098** 0.030 -0.043* 0.069*** 0.001 (0.042) (0.028) (0.025) (0.025) (0.025) 夫学歴(ref.…高校以下)  短大・高専・専門 -0.209 0.131 0.248 -0.533* 0.111 (0.614) (0.364) (0.354) (0.293) (0.273)  大学以上 0.519 0.574** 0.411* 0.175 0.521** (0.374) (0.264) (0.236) (0.254) (0.265) 結婚時_夫企業規模(ref.…1 〜 29 人)  30 〜 299 人 0.375 -0.048 0.105 -0.243 -0.030 (0.337) (0.248) (0.266) (0.275) (0.270)  300 〜 1,000 人以上 0.817** 0.799*** 0.625** -0.238 0.050 (0.327) (0.257) (0.260) (0.268) (0.262)  官公庁 0.410 0.528 0.214 -0.047 -0.264 (0.401) (0.338) (0.340) (0.363) (0.399) 結婚時_夫職業(ref.…製造,労務,農業)  専門 -0.791* 0.228 0.447 -0.399 0.114 (0.469) (0.404) (0.337) (0.349) (0.342)  管理 -0.527 -0.154 -0.495 -2.333** -1.451 (0.628) (0.485) (0.657) (1.143) (0.917)  事務 -0.162 0.010 0.026 0.028 0.066 (0.351) (0.281) (0.286) (0.324) (0.332)  販売 0.420 -0.474 0.136 -0.440 -0.245 (0.452) (0.306) (0.315) (0.340) (0.353)  サービス -0.118 0.161 0.578** 0.123 0.270 (0.338) (0.252) (0.289) (0.307) (0.304)  定数 -0.941 1.396* 3.305*** 1.188 2.282*** (1.236) (0.788) (0.915) (0.849) (0.772) -2LL 495.40 833.60 788.60 709.40 697.00 Pseudo…R2 0.114 0.130 0.114 0.088 0.112 N 438 729 669 572 567 注)値は対数オッズ比,括弧内はロバスト標準誤差 ***p<.001,…**p<.05,…*p<.10

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14%,最近のコーホートでは24%と急増している. 次に結婚前年に被雇用者であったもののうち,結 婚離職の割合の推移を確認する.1960 年代は 62.5%ともっとも高かったものの,その後のコー ホートでも大きな違いは見られず 60%前後で安 定していることがわかる.ただし 2000 年代コー ホートでは,52.9%とやや減少している.… 4.2 多変量分析の結果  表 3 に二項ロジスティック回帰分析の結果を示 した.まず結婚時の夫の従業先規模の影響を確認 する.結婚時の夫の従業先が 300 〜 1,000 人以上 の大企業であると,従業先が 1 〜 29 人の小企業 である場合と比較して,妻の結婚離職が有意に生 じやすい.30 〜 299 人の中企業や官公庁(6)につ いては統計的に有意な関連が確認できない.この 関連が見られるのは,1960〜1980年代のコーホー トである.係数の大きさを比較すると,1960 年 代で 0.817,1970 年代は 0.799 とほぼ変わらず, 1980年代は0.625と係数は小さくなっている.オッ ズ比に直すと,1960年代は2.26倍(=exp(0.817)), 1970年代は2.22倍(=exp(0.799)),1980年代は1.87 倍(=exp(0.625))となり,小企業で働く男性より も妻の結婚離職が約 2 倍生じやすい.また 1990 年代のコーホート以降では,その関連は統計的に 有意ではなくなった.  最後に本稿の主眼からは外れるが,妻本人の属 性についても確認する.結婚前年の官公庁勤務と 結婚離職の有意な関連が,すべてのコーホートで 一貫して見られる.負の係数であることから,結 婚前年に官公庁で働いていた女性は,それ以外の 女性に比べて結婚離職が生じにくい(7).ただし妻 の官公庁勤務をコントロールしてもなお,1960 〜1980年代における夫の従業先規模の影響は残っ ている. 5. 結論  本稿では,既婚女性の離職に配偶者が及ぼす影 響と,それがコーホート間でどのように変化した かについて検討した.分析の結果から,大企業で 働く男性と結婚すると妻の結婚離職が生じやすく なるという関連が明らかになった.またその関連 は 1960 〜 1980 年代コーホートまで確認されたも のの,1990 年代コーホート以降は消失した.つ まり,結婚相手が大企業で働く男性かそうではな いかによって女性の結婚時における就業選択が左 右されていた状況が,1990 年代を境に大きく変 わったということである.1990 年代は人々の「女 性が働くこと」に対する意識が徐々に変化し始め た時期である.1990 年代後半から専業主婦を希 望する割合が減少し,代わりに結婚や出産を経て も仕事を続けたいとする女性が増加してきた.男 性もそれを後追いするように配偶者に働き続ける ことを望む割合が増加してきた(国立社会保障・ 人口問題研究所…2017).こうした人々の意識の変 化に伴い,女性の就業に関わる意思決定も変化し たと考えられる.妻の就業選択が夫の属性に依存 するダグラス・有沢の法則について言及すると, 1990 年代以降,結婚時においてはその法則が成 立しなくなったと結論づけることができる.  最後に本稿の意義と課題について述べる.まず 意義については,既存研究で検討が不足していた 妻の離職に夫が及ぼす直接的な影響を考慮した点 と,それを長期的に捉えた点である.夫の従業先 規模の影響を検討することを通じて,既婚女性の 就業選択は配偶者をはじめとする周囲から影響を 受けているという構図を提示した.また 1990 年 代の社会的な構造変化が女性の就業選択に影響し ていたことも提示できた.  残された課題は,出産期における検討である. 女性の離職のタイミングは1980年代結婚コーホー トにおいて,結婚から出産へと移ってきたと指摘 されている(新谷…1998).子育てと仕事を両立さ せるための体制は 1990 年代以降徐々に整備され つつあるものの,保育所の不足が社会問題になる など,両立困難な状況が克服されたとは依然言い 難い.そのような状況では妻の就業選択は夫の影 響をより大きく受ける可能性が考えられる.また 近年は,長時間労働の削減など働き方改革が推進

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されており,性別役割分業を前提とした人事管理 制度や人々の規範が変化していくことが予想され る.それに伴い世帯内における就業の意思決定の メカニズムも変化していくであろう.今後は夫婦 各々を取り巻く環境や意識の変化を考慮した上 で,女性がどのように就業選択をしているのか検 討していく必要がある. 付記  本 稿 は,JSPS 科 研 費 特 別 研 究 員 奨 励 費(課 題 番 号 18J21478)およびJSPS…科研費特別推進研究事業(課題番 号…25000001)に伴う成果の一つである.2015 年データは バージョン070(2017年2月27日版)であり,使用にあたっ ては…2015 年SSM調査データ管理委員会の許可を得た. パーソンイヤーデータの作成に際しては,保田時男氏によ るSSM2015person-year…data変換SPSSシンタックス(v070 データ用ver.2.0)を利用した.また,東京大学社会科学研 究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJ データアーカイブから「社会階層と社会移動全国調査」 (SSM調査)の「1995 年SSM調査,1995」「2005 年SSM 日本調査,2005」(2015SSM調査管理委員会)の個票デー タの提供を受けた.記して感謝申し上げる.また,本稿の 研究成果は,同研究所参加者公募型二次分析研究会(2016 年度)に基づくものである. 注 (1) 家族についての全国調査(第 3 回全国家族調査, NFRJ08),2009 年の集計表より,「男性は外で働き,女 性は家庭を守るべきである」という質問項目に対して, 「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合計し た割合は 48.3%である.一方で「家族を養うのは男性の 役割だ」という質問項目に対して,「そう思う」と「ど ちらかといえばそう思う」を合計した割合は 73.8%であ る(日本家族社会学会全国家族調査委員会…2009). (2) 1995 年SSM調査のA票女性についての有効回答率で ある. (3) 1995 年および 2005 年調査は,「現在配偶者がいる」 と回答したものが初婚であるか再婚であるかの区別がで きないため,「現在の結婚相手」として夫の情報を用いた. (4) 結婚離職を結婚 2 年後までで捉えている理由は,回答 者の記憶が曖昧で実際の結婚年とのずれが生じる可能性 を考慮したため,さらに結婚当年の影響だけではなく結 婚に伴う諸々の影響を捉えるためである.表 2 の参考で 示した通り,結婚 1,3,4,5 年後の離職率に顕著な違 いは見られない.また,それぞれの経過年ごとに作成し た結婚離職を従属変数として,表 3 と同様の追加分析を 行ったところ,夫の従業先規模の影響はすべての分析で 同じ結果が得られた. (5) 結婚コーホート…を 10 年(2000 年以降は 15 年)間隔 で区切った理由は,各年代のサンプルサイズを適切に確 保するため,中長期的なトレンドの捉えやすさを考慮す るため,さらにコーホート内の同質性を確保するためで ある. (6) 官公庁勤務の男性も,大企業勤務の男性と同様に結婚 後の生活の安定性と予見可能性があると考えられる.し かし,官公庁勤務の男性は同じ官公庁勤務の女性と結婚 しやすく,その女性は結婚離職が生じにくい.そのため, 官公庁勤務男性の影響は確認されなかった. (7) 基準カテゴリを変えて追加分析を行ったところ,一貫 して官公庁勤務の女性は結婚離職が生じにくいという結 果が得られた. 文献 樋口美雄,1995,「『専業主婦』保護政策の経済的帰結」八 田達夫・八代尚弘編『「弱者」保護政策の経済分析』日 本経済新聞社,185-219. ――――,2001,「家計は企業リストラにどう対応しよう としているのか――所得格差・消費行動・就業行動・能 力開発の変化」樋口美雄編『雇用と失業の経済学』日本 経済新聞社,155-96.… 平尾桂子,1999,「女性の初期キャリア形成期における労 働市場への定着率――学歴と家族イベントをめぐって」 『日本労働協会雑誌』427:…29-41. ――――,2005,「女性の職業継続の規定要因に関するハ ザード分析――コホート間の比較と親との同居の影響に ついて」熊谷苑子・大久保孝治編『コホート比較による 戦後日本の家族変動の研究』家族社会学会,61-76.

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平田周一,2011,「女性のライフコースと就業M字型カー ブの行方」石田浩・近藤博文・中尾啓子編『現代の階層 社会2 階層と移動の構造』東京大学出版会,223-38. 岩間暁子,2008,『女性の就業と家族のゆくえ――格差社 会のなかの変容』東京大学出版会. 岩澤美帆,2004,「妻の就業と出生行動―― 1970 年〜 2002 年結婚コーホートの分析」『人口問題研究』60(1):…50-69. 小原美紀,2001,「専業主婦は裕福な家庭の象徴か?―― 妻の就業と所得不平等に税制が与える影響」『日本労働 研究雑誌』493:…15-29. 国立社会保障・人口問題研究所,2017,「2015年社会保障・ 人口問題基本調査(結婚と出産に関する全国調査)現代 日本の結婚と出産――第 15 回出産動向基本調査(独身 者調査ならびに夫婦調査)報告書」国立社会保障・人口 問題研究所. 内閣府,2008,『平成 20 年版 少子化社会白書』. 日本家族社会学会全国家族調査委員会,2009,「家族につ い て の 全 国 調 査(第 3 回 全 国 家 族 調 査,NFRJ08), 2009」,(2018.11.4 取得,https://nesstar.iss.u-tokyo. ac.jp/webview/index.jsp?mode=documentation&subm ode=ddi&top=yes&node=1&isstag=direct&study=htt ps://nesstar.iss.u-tokyo.ac.jp/obj/fStudy/0817). 日本銀行調査統計局,2010,「正社員の企業間移動と賃金 カーブに関する事実と考察――日本的雇用慣行は崩れた か?」(2018.11.4 取得,https://www.boj.or.jp/research/ brp/ron_2010/ron1010c.htm/) 落合恵美子,1997,『21 世紀家族へ――家族の戦後体制の 見かた・超えかた』有斐閣. 大沢真知子・盧回男,2015,「M字就労はなぜ形成される のか」岩田正美・大沢真知子編『なぜ女性は仕事を辞め るのか―― 5155 人の軌跡から読み解く』青弓社,17-50. 大沢真理,2002,『男女共同参画社会をつくる』日本放送 出版会. 佐口和郎,2015,「日本的雇用システムと労使関係――戦 後史論」連合総合生活開発研究所『「日本的雇用シスス テム」の生成と展開』(「日本的雇用システム」と労使関 係の歴史的検証に関する研究会報告書). ――――,2018,『雇用システム論』有斐閣. 新谷由里子,1998,「結婚・出産期の女性の就業とその規 定要因―― 1980 年代以降の出生行動の変化との関連よ り」『人口問題研究』54(4):…46-62. 山口一男,1998,「続き行く職歴中断:結婚,出産・育児に よる利転職率の歴史的変化とその決定要因について」 『日本労働研究機関報告書』112:…34-57.

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Cohort Analysis of Wivesʼ Retirement at Marriage: The Influence of Husbandsʼ Employment TANAKA Akane  This…study…investigated…how…a…husbandʼs…employment…circumstances…at…the…time…of…marriage… influenced…a…wifeʼs…marriage…retirement.……The…data…for…the…study…were…the…1995,…2005…and…2015…SSM… (Social…Stratification…and…Social…Mobility)…survey.……The…findings…indicated…that…being…married…to…a… husband…who…works…for…a…large…company…is…significantly…associated…with…the…likelihood…that…a…wife… will…retire…after…getting…married.……Furthermore,…this…relationship…was…significant…until…the…marriage… cohort…of…1980s.……The…results…suggested…that…the…correlation…between…a…wifeʼs…employment…choice…at… the…time…of…marriage…and…the…husbandʼs…employment…circumstances…disappeared…after…the…1990s.…… Since…1990s,…a…change…in…attitude…regarding…married…women…being…employed…has…occurred,…and… women…may…have…altered…their…employment…decisions…accordingly.… Keywords: wifeʼs…employment…choice,…effect…of…husbandʼs…employment,…cohort…analysis

表 3 結婚離職を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析 結婚コーホート 1960 〜 1969 年 1970 〜 1979 年 1980 〜 1989 年 1990 〜 1999 年 2000 〜 2010 年 妻属性 妻結婚年齢 -0.052 -0.088** -0.097*** -0.106*** -0.089*** (0.046) (0.036) (0.035) (0.033) (0.029) 妻学歴(ref.…高校以下)  短大・高専・専門 0.495 0.488 0.468** 0.154 -

参照

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