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現代呉方言における古匣母細音字・古喩母字の声母表記について―摩擦の強弱の違いという観点からのアプローチ―

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~摩擦の強弱の違いという観点からのアプローチ~

平 田 直 子

1.はじめに  現代の呉方音は中古音の暁母(清音声母)と匣母(全濁音声母)との区 別を保存している。中古音との対比では図1のような声母の対応関係をなし、 また多くの方言資料でも以下のような音声記号を使用して記述されること が多い。 図1 中古音 現代呉方音   記号 暁母 洪音音節  h 細音音節  ɕ 匣母 洪・細音音節  ɦ  これに対し、平田(2016)では、新たに図 2 のような提案を行った。こ れは中古音と現代北京音をはじめとし、湘方音や粤方音等の対応関係を比 較考察したうえで、呉方音においても暁母と匣母の変化は並行して行われ たと推測することが適当であるという考え方にもとづき、これに伴い音声 記号の使用について再検討したものであった。すなわち、暁母の音韻変化

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を考慮し、これと並行する形で、古匣母洪音韻母の前では< ɦ >を、細音 韻母の前では口蓋化していることを表す<j>(有声の硬口蓋半母音)もし くは<ʝ>(有声の硬口蓋摩擦音)を使用するというものである。   図2       中古音 現代呉方音  記号 暁母 洪音音節 h 細音音節 ɕ      匣喩母 洪音音節 ɦ 細音音節 j もしくは ʝ  拙稿では、この問題について、匣母と合流している喩母(云母・以母) 字についても考察の範囲を広げて調査した結果、これらの声母については、 南部呉語と一部の北部呉語においては、声母の摩擦が強く聞かれる地点が あることを指摘する。一方、多くの北部呉語では摩擦があると記されなが らもそれほど強くはなく、かつ一部の匣母細音字と喩母字は清音化の方向 へ変化しているところもあることから、声母に摩擦の強弱の違いがあると いえることがわかった。そこで呉方音資料における表記の仕方を俯瞰する と、この声母の摩擦の強弱の違いは、音声表記としてきちんと区別がなさ れているわけではないという現状があることから新たな提案を行いたい。 具体的には、慣習として使用されている[ɦ] の表記では摩擦の強弱の違い を表すには十分とは言えないと考えられることから、これに替わって[j]や [ʝ] を使用する、もしくは [ø](ゼロ声母)とみなすいうことである。さい ごに、このように表記を改めるならば、匣母と喩母の中古音以後の音韻変 遷を論じる際にも説明を行いやすいということを主張したい。

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2.呉方音における暁組声母と影組声母の枠組みと声調との関係  切韻の声母系統においては、喩母は今日云母、以母と称される声母の区 分があった。両者は音声的には似ていたようであるが、云母は匣母 3 等と して、以母とは区別されていたわけである。下表1はこの喩母(云母と以母) を含む暁組声母と影組声母の切韻時代における音価推定である。音価推定 については、専門家の間でも意見が分かれるところであるが、ここではお よそ支持されている2種類の推定パターンを掲げる。 <表1> 『切韻』が反映する暁組と影組の音価推定1 暁組 影組 清 濁 次濁 次濁 清 暁母 匣母 云母 以母 影母 陸志韋 王力 x ɣ j ø 郑张尚芳 潘悟云 平山久雄 h ɦ j ʔ  この表において匣母・云母を区別せず一つの声母として推定しているこ とについて、潘(2000)では、“在《切韵》时代云母与匣母的关系,相当于 晓母三等与一二四等的关系。既然晓母的一二四等与三等只拟有一个声母, 并没有为三等晓母另拟一个声母辅音,那么也就没有必要把云母拟作一个独 立的声母”(『切韻』時代云母と匣母の関係は、暁母三等と一二四等の関係 に相当した。暁母の一二四等と三等に同一の声母を推定し、暁母三等に別 の子音を推定しない以上、云母を独立した声母と推定する必要はない)2 述べている。表 1 ではどちらの推定パターンも、匣母と云母を合併させて 1 各学者の推定音価は以下の文献に拠る。陸(1947)(ここでは1985年《陸志韋語言學著 作集(一)》に拠る)、王(1980)、郑张(2003)、潘(2000)、平山(1967)。 2 ( )内の日本語訳は筆者によるものである。

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捉えているのは、上述の潘(2000)と基本的には同様の考え方に基づいて のことと考えられる。一方、両者の大きな違いの一つは、陸、王が暁組声 母を軟口蓋摩擦音声母[x]:[ɣ]と推定するのに対し、郑张、潘、平山は声 門摩擦音[h]:[ɦ]と推定しているところである。郑张、潘、平山の推定音 価において匣母・云母は声門摩擦音 [ɦ] に再構されたが、宋代の三十六字 母の声母体系になると、下表 2 のごとく、云母と以母は喩母という名称の もと一つにまとめられる。つまり唐代以後、云母は匣母から離れ、以母と 合流したと考えられている。 <表2> 三十六字母の体系における暁母・影母 清 濁 次濁 清 暁母 匣母 喩母(云母・以母) 影母 h ɦ j ʔ  では現代呉方音におけるこれら暁母細音字、匣母細音字・喩母、影母の 4つの声母は、どのような対応をみせているであろうか。呉方音では表3の ごとく、まず中古の声母の違い(清音・全濁音・次濁音)が、声調の陰調(清 音)と陽調(濁音・次濁音)の出現に深く関わっている。すなわち、清音 声母に由来する暁母、影母は陰調にのみ現れ、全濁・次濁音声母に由来す る匣母と喩母は陽調にのみ現れる3 <表3> 暁母細音字、匣母細音字、喩母字と影母字の声母の枠組み 陰調 陽調 陰調 暁母 匣母・喩母(云母・以母) 影母 3 声母と声調がこのような相補分布をなすのは呉方言の特徴の一つである。

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こうしたおよその現状を踏まえつつ、以下に陽調にあらわれる匣母細音字 と喩母字の声母の摩擦の強弱の違いについて調査していくことにする。 3.古匣母細音字・古喩母字における声母の摩擦の強弱の違いについて  現代呉方音資料において、古匣母細音字と古喩母字についてはその声母 に[ɦ]をあてることが多い。この[ɦ]については後続する母音と同じ場所で 発せられる有声摩擦音を代表すると説明されるようである4。しかし、調査 を進めると、方言資料によってはわざわざ「比較的強い摩擦」という表現 で説明するものがあることに気づく。筆者はこの点に注目し、呉方音の中 で従来 [ɦ] で使用されていた字音には、地点によっては摩擦の強弱に違い があるのではないかと考えるに至った。そこで、下表 4 のごとく「語頭に 摩擦が聞かれる」(特徴A)という一般的な説明がなされる方言地点と、「語 頭に比較的強い摩擦が確認される」(特徴B)と指摘される方言地点につい て分類を行った。呉方音区分については、《中国语言地图集》に拠るものと する。使用した方音資料と方言地点は拙稿末尾の《方音資料》を参照され たい。 3.1 古匣母細音字・古喩母字の摩擦音声母の強弱に関する分類  まず太湖片の①~③まではすべて特徴 A を持ち、特徴 B を示す地点がな い。また①~③までの方言群の中には一部の古匣母・喩母字が清音化して 陰調に発音されると指摘する方音資料も多い。このため古匣母細音字・喩 母字の摩擦は全体として弱化ないしは消失する傾向にあるといえそうであ る。一方、太湖片④、⑤および(2)の方言群においては、特徴 A を持つ 4 音声学的には実質ゼロ声母であることから、後ろに開口、合口、斉歯、撮口のいずれ の母音が後続するかによって、厳密には子音は [ɦ][w][j][ɥ]と書き分けが必要である が、それでは子音が増え経済的ではないため[ɦ]で代表させる、という立場を取るとい うことである。

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地点は多いが、「比較的摩擦が強い」と指摘される特徴Bを有する地点も散 見する。  太湖片で特徴 A に入っている地点では古匣母字・喩母字は[ɦ] の記号を 使って記されることが多いが、具体的には以下のような説明がなされてい る。 <表4> 古匣母細音字・古喩母字の摩擦音声母の強弱に関する分類(1) 特徴A:(語頭に)摩擦がきかれる 特徴B:(語頭の)摩擦が比較 的強い (1) 太 湖 片 ①蘇 滬嘉 小片 上海 蘇州 松江 常州 呉江 昆山 太倉 常熟 張家港 無錫 江陰 宜興 金壇 溧陽 丹陽 高淳 通州 海門 啓東 靖江 海寧 平湖 嘉定 嘉善 嘉興 海塩 ②苕溪 小片 湖州 ③杭州 小片 杭州 ④臨紹 小片 紹興 蕭山 臨安 余姚 桐廬 嵊州長楽 ⑤甬江 小片 寧海 寧波 象山 定海 (2)台州片 台州 仙居 寧海 温嶺 臨海 黄岩 天台  上海(许・汤 1998:7)では、“ 用 ɦ 代表阳调类声母字元音同部位的浊擦 成份,如j w ɥ等”と説明され、蘇州(江苏省地方志1998:116)でも “[ɦ] 代表一个跟后头的元音同部位的浊擦音,实际上是整个音节都带浊流”と記さ れている。常州、常熟、張家港、無錫、江陰、海門、靖江(以上、江苏省 地方志1998)、松江(许・陶2015)、海塩(胡1992)、海寧(苏1999)、平湖

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(苏2000)5、紹興(王2008)、寧海(赵2015)寧波(陈1990)、寧波(高辛杨 1990)、象山(赵2017)もおおむねこのような説明がなされている。また、 そうした声母に関する特別な音声的説明がないことと、声母体系が類似し ていることから判断し、呉江、昆山、太倉、宜興、金壇、溧陽、丹陽、高 淳、通州(以上、江苏省地方志1998)、宝山、南滙、湖州、杭州(以上、銭 1992)、嘉興(苏・柏 2001)、嘉善(徐 2001)、蕭山(大西 1999)なども特 徴Aに入れることにした。  台州片では台州(台州市志2010)、温嶺(阮2013)、黄岩(钱1992)、臨海(黄 2007)6でも同様に有声摩擦音[ɦ]を用いて記している。仙居(郑2010)では 太湖片の湖州と同様に、ゼロ声母とみなしている。  特徴Bに入る地点においては、以下のような説明がなされている。  太湖片の余姚(肖2011:73)では匣母細音字は[ʑ]で記されていることか ら、摩擦が強いのであろうと判断し特徴Bに入れた。例えば、“霞”匣[ɦo13/ ʑia13]などである。桐庐(桐庐县县志1992:10)では、“ 中古匣母细音字和 喻以母字在带-i- 韵母之前有较明显的摩擦、定为 [j]” という説明が見え、比 較的はっきり聞こえる摩擦は[ɦ]ではなく[j]で記述されている。嵊州(钱 2003:300)では、“ 齐齿呼、撮口呼开头部分的实际音值是 j、ɥ,摩擦比较 明显”という説明により、摩擦が比較的はっきりとしているという点を考慮 した7。定海(徐2016:182)では“[ʑ] 与 [ɦ]两个声母,老派有自由变读倾向, 新派 [ʑ] 母并入 [ɦ]母”と説明されていることから、老派では少し摩擦を強 くして発音することも可能であると判断し特徴Bに入れた。台州片の天台(戴 5 海寧(苏1999:9)、では、“浊擦音[ɦ]只出现阳调开口韵、合口韵之前,[j]只出现在阳 调齐齿韵之前”として、斉歯呼韻母の前では[j]を用いている。平湖(苏2000)も同様 の表記の仕方を採用している。 6 黄(2007)によると、臨海では斉歯韻、撮口韻の場合、摩擦ははっきりとは聞こえな いという。 7 徐(2016:209)でも同様の説明が付されている。

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2006)では桐盧や嵊州と同じような説明がなされている。 <表4> 古匣母細音字・古喩母字の摩擦音声母の強弱に関する分類(2) 特徴A 特徴B (3)瓯江片 蒼南龍港 温州 楽清  蒼南龍港鎮(端 1991:155)では “ 全浊声母发音时带有不很强的浊气流” で あり、次濁声母も“阳调字声带较松,带有浊气流”との説明がなされている ため特徴 A とした。特徴 B に入れた温州では、郑张 2008 では [ɦ] を用いず [j]を使用しているが、“温州j摩擦较重接近ʝ”と説明していることから、温 州では摩擦が比較的強い[ʝ]のように発せられることが分かる。楽清(蔡嵘 1994)ではさらに強く聞こえたのか[ʑ]で表記している8 <表4> 古匣母細音字・古喩母字の摩擦音声母の強弱に関する分類(3) 特徴A 特徴B (4)婺州片 金華 武義 東陽 義烏 浦江 湯渓蘭渓 白 磐安 永康 蘭渓文 (5) 処衢片 処州小片 麗水 縉雲 景寧 龍衢小片 開化 常山 玉山 龍遊 遂昌 雲和 江山 龍泉 衢州 松陽 慶元  婺州片と処衢片において上述した呉方音と異なる点としては、すべて陽 調にあらわれるゼロ声母として扱っていることである。まず特徴Aを持つ 地点においては以下のような説明がなされている。  婺州片の金華(孙2009:59)では“(零声母)齐齿呼和撮口呼零声母音节 8 しかし、その後、蔡嵘2006ではこれを[j]に改めて記述している。

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前有同部位的摩擦。” のように摩擦が聞かれるとある。武義(曹等 2016)、 義烏(方 1999)もほぼ同じような説明がなされている。浦江(曹等 2016: 184)では、“ 阳调类的零声母音节前面,带有轻微的与音节开头元音同部位 的摩擦成分。” のように「かすかに摩擦を伴う」、つまり弱化している傾向 が見て取れる。また蘭渓(赵 2003:94)では “[ɦ] 白读实际上是ø或同部位 的半元音,文读时为 hɦ-,摩擦强烈。” のように文白異読によって摩擦の強 さに違いがあることを指摘しており、この現象は興味深い。東陽(曹等 2016:225)ではゼロ声母細音字は実際の音価としては “ 移 ”[ji312]であるこ とを補足している。湯溪(曹等2016:139)に至っては“中古全浊声母逢擦 音几乎已完全清化”と指摘していることから、ゼロ声母細音字の音節の始ま りには摩擦が消失したかもしくは消失の方向にあると推察される。  処衢片の開化、常山、玉山(曹等2000:45、74、111)では特別な言及は ないが、他の有声摩擦音については“[v z ʑ]的实际音值接近清音,甚至可 以说就是清音。”のように記され、また常山(曹等2000:74)では“樵”(従)[ʑiɤɯ] はʑの摩擦が弱いため、しばしば“摇”(喩)[iɤɯ]のように聞こえるという指 摘があることなどから、古匣母細音字、喩母字はほぼ摩擦がないというこ とがうかがい知られる。遂昌、雲和については特に声母の説明は付されて いないため特徴Aに入れた。  次に特徴Bについては以下のように述べられている。  婺州片では、磐安(曹等 2016:260)では、“ 阳调类的零声母音节前面, 带有比较重的与音节开头元音同部位的摩擦成分”と記され、比較的強い摩擦 が始めに聞かれることが分かる。同様の説明は永康(曹等2016:296)にお いてもなされている。蘭渓については上述したように文言音の際に摩擦が 強く聞かれるということである。処衢片においては、麗水(徐2016:378) では“零声母阳调类音节的开头带有较重的摩擦音,开、齐、合、撮等四呼音 节分别对应为 [ɦ j w ɥ]”との説明がある。縉雲、景寧、江山、龍泉、衢州、

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松陽、慶元(徐 2016:290、438、316、408、304、396)でも同様の指摘が なされている。 <表4> 古匣母細音字・古喩母字の摩擦音声母の強弱に関する分類(4) 特徴A 特徴B (6) 宣州片 銅涇小片 銅陵 繁昌 南陵県奚灘郷 宣州市裘公郷 黄山区広陽郷 太高小片 当涂県湖陽郷 寧国南部 貴池市灌口郷・茅坦郷黄山区甘棠鎮・永豊郷  使用した方言資料では、宣州片の地点は他にも掲載されていたが、それ らの地点では声母が清音化していることから対象に含めなかった。そうす ると特徴 A に入る地点はなく、特徴 B のみとなった。理由としては声母に ついて摩擦の強さに関する言及はないが、表記として [ɦʑ]のように記され ることから、はっきりとした摩擦が聞かれるのであろうと判断した。  以上、表4(1)~(4)より、声母の摩擦の強さについて大まかにまとめ てみると、強い摩擦を伴って発音される地点は、太湖片の④紹臨小片、⑤ 甬江小片に散見され、南部呉語にも全体に点在しているように思われる。 ただし、こうした声母の摩擦の強弱の差は、表記上では反映されておらず、 多くの場合[ɦ]やゼロ声母で処理されていることがわかった。表5を掲げる ことで、この点を確認したい。 3.2 呉方音における古匣母細音字、喩母字の字音表  表 5 のごとく、呉方音における古匣母細音字、喩母字の声母は、上海か ら寧波までは [ɦ]を使用しているが、温州では [j]、金華から江山まではゼ ロ声母、宣州片では[ɦʑ]とバリエーションがある。

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<表5>呉方音における古匣母細音字、喩母字の字音表9 效摂開口平声 山摂合口平声 梗摂開口平声 山摂合口入声 2等 肴韻 宵韻3等 仙韻3等 先韻4等 清韻3等 青韻4等 薛韻3等 月韻3等 屑韻4等 匣 肴 揺以 圓雲 縁以 玄匣 贏以 形匣 閲以 越雲 穴匣 上海 ɕiɔ334 ɦiɔ113 ɦyø113 ɦi113

① ɦiɲ113 ɦiɪʔ23

ɦyø113 ②

杭州 ɦiɔ212 ɦʏo212 ɦɪn212 ɦioʔ23

紹興 ɦiɑɒ231 ɦyɵ~231 ɦɪŋ231 ɦyɪʔ12

寧波 ʑio223

① ɦio223 ɦy223 ɦiŋ223 ɦyeʔ12 ɦyeʔ12 ɦyeʔ12

ɦio223

② ɦyoʔ12

天台 ɦau224 ɦiau224 ɦyø224 ɦiŋ224 ɦiaʔ23

温州 ɦuo31 jiɛ31 jy31 jaŋ31 jy212

金華 iɑu334 iɑu313 313

① yɤ313① iŋ313 iŋ313① yəʔ212 yɤ14①

ȵyɤ313

② yã313②

yã313

③ ʑiŋ313② yəʔ212②

雲和 ɲiɑɔ53

① iɑɔ423 yɛ423 iŋ423 iɑʔ5

iɑɔ423 ②

遂昌 iɐɯ221 yə˜221 iɪŋ221 yeʔ23

銅陵 (淆) iɔ31 ɪ˜31 (県

去) in31 ɦʑin31 ― iɛ214 ɕiɛ214

ɦʑiɔ31 ɦʑɪ˜53 当涂 (淆) iɔ13 iu13 (県 去) ɪ˜13 ɦʑɪ˜13 ― ʯɛʔ31 ― 湖陽 ɦʑiɔ13 ɦʑi31  これを古暁母と古影母の声母表記も加え、対比させてみる表 6 のように なる。 9 各地点の方言資料は次の通りである。上海(许・汤 1998)、杭州(钱 1992)、紹興(王 2008)、 寧 波( 高・ 辛・ 杨 1991)、 天 台( 戴 2006)、 温 州( 郑 张 2008)、 金 華( 曹 等 2016)、雲和(曹等2000)、遂昌(曹等2000)、銅陵、当涂湖陽(蒋 2003)。発音記号右 下の数字①②③は使用の多い順を表す。  また表中、銅陵と当涂では、収録されている字が比較的少ないことから、同じ発音 の“淆”と“県”(去声)を補った。また“―”は字音が収録されていないことを示す。

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<表6>古暁母細音字、古匣母細音字・喩母字、古影母字の声母対比表 古暁母 古匣母 古喩母 古影母 1)太湖片 ɕ ɦ ø 2)台州片 ɕ ɦ ø 3)婺州片 ɕ ø(陽調) ø(陰調) 4)処衢片 ɕ ø(陽調) ø(陰調) 5)瓯江片 ɕ ʝ ø 6)宣州片 ɕ ɦʑ ø(陽調) ø(陰調)  中古音との対応関係で言えば、1)~ 5)までの方言グループにおいては、 古匣母と古喩母は合流しており同じ枠組みを成していることが確認できる。 しかし、6)の宣州片はその他の呉方音とは異なった枠組みを持っているこ とが分かる。これは次の3点において注目に値するものである。1点目は古 匣母と古喩母が合流していないこと。2点目はその古喩母が古影母とともに ゼロ声母として扱われてはいるが、古喩母字は陽調に、古影母字は陰調に 出現することで中古時代の声母の区別を今なお反映していると考えられる 点である。これは北方方言において古喩母と古影母は声調に関わらず合流 していることとも異なっている。3点目に、古暁母の細音字は口蓋化して舌 面摩擦音(無声音[ɕ])となっているが、古匣母細音字も古暁母細音字と並 行した変化を遂げ口蓋化している(有声音[ɦʑ])という点である。宣州片 は呉方音に属する下位方言群であるが、周辺の徽語や北方官話とも隣接し ている。これら声母の枠組みは呉方音のそれとは異なるため、歴史的な方 言間の影響を受けた結果を今日に示していると考えられることから興味深 い問題であるといえる。 3.3 古暁母組細音字、古影母組細音字の表記の仕方についての提案  表 4、5、6 を見てきたところで、ここからは呉方音の下位方言群におけ る古暁母細音字、古匣母細音字・喩母字、古影母字の表記について、筆者

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なりの表記方法の提案を行ってみたい。 パターンa (特徴Aを有する地点) 陰調 陽調 陰調 暁母 匣母・喩母 影母 ɕ j ø(ゼロ声母)  古匣母細音字・古喩母の [j] は、従来の表記 [ɦ] で代表させてきたとこ ろのものである。筆者の提案では、斉歯呼・撮口呼の場合 [ɦ]を用いずに、 このように半母音の[j]を使用するというものである。つまり、洪音字の前 では[ɦ]を、細音字の前では[j]と区別し表記するということである。また、 特徴Aに配したとはいえ、清音化が進み実質ゼロ声母とみなすことができ る地点においては、これを[ø](ゼロ声母)とすることもできる。つまり摩 擦音が聞こえず、影母字と混同するなどの指摘がある方言地点では、以下 のパターンbのように記される。 パターンb 陰調 陽調 陰調 暁母 匣母・喩母 影母 ɕ ø ø パターンc (特徴Bを有する地点) 陰調 陽調 陰調 暁母 匣母・喩母 影母 ɕ ʝ ø  特徴 B を有しているということは、古匣母細音字・喩母字の声母は、同 じ半母音 [j] よりも摩擦が強いということであろうと判断し、[j] と同じ調

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音場所でありかつ摩擦音である[ʝ]を用いることを提案する。こうすること で、強弱の違いがより正確に反映されるのではないかと考えられる。実際、 温州方音では、郑张(2008:58)によると[j]は[ʝ]に近いということである。 パターンd 陰調 陽調 陰調 古暁母 古匣母 古喩母 古影母 ɕ ʑ ø ø  パターンdは具体的には宣州片の特徴Bを有す地点の表記である。 古暁母と並行した形で[ʑ]を提案したが、実際には、摩擦の強弱の具合によっ て[ʝ]や[j]のほうが適切である場合もあるかもしれない。 4.古匣母細音字・古喩母字における声母の語音変遷の過程  さいごに、古匣母細音字や喩母字に[j]もしくはそのバリエーションとし て[ʑ][ʝ][ø]などを表記し分けることによって、中古音以降の古暁組声母と 古影組声母の音韻変遷の解釈にも役立つのではないかという考えを述べた い。表2に掲げた中古音の音価推定のうち、郑张・潘・平山の推定音価を参 考にし10、それぞれの方言群における中古音以後の声母の変遷過程をたどっ てみることにする11 1)パターンa・b・cの音韻変遷  潘(2000:55)では中古音の云母と以母の変遷過程について次のような 考えを示している。 “云母从 ɦ- 演变到与以母合流,中间可能经过一个ç 与 10 郑张、潘、平久の音価推定を用いるのは、現代中国南方方言の多くは、古暁匣母は [h] で読まれること、また呉方音でも古暁母もやはり[h]で読まれるためである。 11 ここでは便宜上、郑张らの推定した中古音の音価をその基準としている。

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同部位的半元音阶段”。つまり、云母は以母へ合流するのであるが、その途 中おそらくçと同じ調音部位の半母音の段階を経たであろうということを推 測している。çと同じ調音部位の半母音とはjもしくはʝであるため、潘(2000) の説に基づくならば、ɦ > ʝ > j のような変遷があったと推定され、その変 化は非常に無理なく説明がなされるものである。今この説を拠り所とする ならば、パターンa ~ cにおける匣母・喩母の声母変遷は以下のようになる。 パターンa 中古音     現代音 匣母(云母) ɦ*(i-) > ʝ > j > j 以母 j > j パターンb 中古音     現代音 匣母(云母) ɦ*(i-) > ʝ > j > ø 以母 j > j パターンc 中古音     現代音 匣母(云母) ɦ*(i-) > ʝ > ʝ(温州) > ʑ(楽清) 以母 j > j なお、パターン d については、一層広い範囲での調査が必要であるため、 拙稿では時間の不足から今後の課題としてする。

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5.おわりに  以上見てきたように、呉方音では古匣母細音字・古喩母字の声母の摩擦 性に強弱の違いがあり、これを方言資料の説明をもとに調査し分類する作 業を行った。また同時にその表記の仕方についても考察を行った。その際、 現代呉方音に見られる摩擦音の[ɦ][ʝ][j]は、中古時代のこれら声母の推定 音価ならびにその後の語音変遷の過程を推測する際にも関わってくるため、 摩擦の強さや調音部位などについて従来の表記を再検討し、もう少し厳密 に表記してもよいのではないかという考えを示した。  方言調査は調査者の判断や考え方、インフォーマントの違いによって、 同じ方言地点を調査しても記録の仕方に多少の違いを生じることがある。 拙稿のテーマである摩擦の強弱という細微な特徴についての指摘や説明に ついてもそうしたことが言えるかもしれない。実験音声学の領域における より科学的な研究の成果を待ちたい。  また、今回は触れなかったが、古匣母と古喩母についてはこれ以外にも 興味深い諸問題がある。先行研究では南部呉語の音韻特徴として「古匣母 字が古群母[ɡ]の声母で読まれる現象」や「一部の古云母字と古以母字の声 母が[dʑ ʑ ɕ kh x]などの声母で読まれること」などがよく指摘される。こ れらは時代的にもかなり古い語音の痕跡を今にとどめしていると考えられ ている。今後はそういった問題にも目を向け、拙稿の表記の仕方を取り入 れつつ研究を進めていきたい。 《方音資料》 (1)太湖片 ①蘇嘉滬片:蘇州、常州、呉江、昆山、太倉、常熟、張家港、無錫、 江陰、宜興、金壇、溧陽、丹陽、高淳、通州、海門、啓東、靖江(江苏省 地方志编纂委员会 1998.《江苏省志》南京大学出版社。上海:许宝华・汤珍

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珠 1998.《上海市区方言志》上海教育出版社。松江:许宝华・陶寰2015.《松 江方言研究》复旦大学出版社。宝山、南滙:钱乃荣1992.《当代吴语研究》 上海教育出版社。嘉興:苏向红・柏建华 2001. 嘉兴方言声韵调之研究《湖 州师范学院学报》第 23 卷第 1 期》23-31 页。嘉善:徐越 2001. 嘉善方言音 系研究《杭州师范大学(人文社会科学版)》第 1 期 109-114 页。海宁:苏向 红 1999. 海宁方言声韵调之研究《湖州师范学院学报》第 21 卷第 4 期 8-16 页。 平湖:苏向红2000.平湖方言声韵调之研究《湖州师范学院学报》第22卷第1 期 11-19 页。海塩:胡明扬1992.《海盐方言志》浙江人民出版社。 ②苕溪小片 湖州:郑秀芬2002.浙江湖州方言音系辨析《湖州师范学院学报》 第 24 卷第 5 期 18-21 页。钱乃荣 1992.《当代吴语研究》上海教育出版社。徐 越 2007.《折北杭嘉湖方言语音研究》中国社会科学出版社。 ③杭州小片 杭州:钱乃荣 1992.《当代吴语研究》上海教育出版社。徐越 2007.《折北杭嘉湖方言语音研究》中国社会科学出版社。 ④臨紹小片 紹興:王福堂2008.绍兴方言同音字汇《方言》第1期1-17。蕭山: 大西博子 1999.《萧山方言研究》好文出版社。余姚:肖平2011.余姚方言的 语音特点《宁波大学学报 ( 人文科学报 )》第 24 卷第 4 期 72-76 页。桐廬:浙 江省桐庐县县志编纂委员会 北京师范学院中文系方言调查组 1992.《桐庐方 言志》语文出版社。嵊州:钱曾怡 2003. 长乐话音系《方言》第 4 期 299-313 页。臨安:赵则玲2013.浙江临安方言语音特点及内部差异《浙江学刊》第1 期 88-93 页。徐越 2007.《折北杭嘉湖方言语音研究》中国社会科学出版社。 ⑤甬江小片 寧波:高志佩 辛创 杨开莹 1991. 宁波方言同音字汇《宁波大 学学报 ( 人文科学版 )》第 4 卷第 1 期 59-69 页。陈忠敏 1990. 鄞县方言同音字 汇《方言》第 1 期 32-41 页。象山:赵则玲2017.浙江象山(丹诚)方言音系 《浙江外国语学院学报》第 1 期。寧海:赵则玲2015浙江宁海方言音系《湖州 师范学院学报》第 37 卷第 9 期。定海:徐越2006.《浙江吴音研究》浙江大学 出版社。舟山:方松熹2002.《舟山方言》中国文联出版社。

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(2)台州片 台州:台州市地方志编纂委员会2010.《台州市志》中华书局。仙居: 郑俊 2010. 浙江仙居方言声母系统考《现代语文》88,89 页。阮咏梅 2013.《温 岭方言研究》中国社会科学出版社。天台:戴昭铭2006.《天台方言研究》中 华书局。臨海:黄晓东2007.浙江临海方言音系《方言》第1期35-51页。 黄岩: 钱乃荣 1992.《当代吴语研究》上海教育出版社。 (3)瓯州片 温州:郑张尚芳 2008.《温州方言志》中华书局。楽清:蔡嵘 1999. 浙江乐清方言音系《方言》第四期 pp.266-276。蔡嵘 2006. 浙江乐清 方言音系再探《温州师范学院学报 ( 哲学社会科学版 )》第 27 卷第 3 期 79-82。 蒼南(龍港):温端政1991.《苍南方言志》语文出版社。 (4)婺州片 金華:孙宜志 2009. 金华市区方言的语音特点《浙江教育学院 学报》第 6 期 59 页。金華、湯溪、浦江、東陽、磐安、永康、武義:曹志耘 2016.《吴语婺州方言研究》商务印书馆。義烏:方松熹1999.义乌方言研究《浙 江海洋学院学报》第 16 卷第 2 期。蘭渓:赵则玲2003.浙江兰溪方言音系《宁 波大学学报 ( 人文科学版 )》第 16 卷第 4 期。 (5)処衢片⑥処州小片 麗水、縉雲:徐越2006.《浙江吴音研究》浙江大学 出版社。縉雲:吴越・楼兴娟2017.《缙云县方言志》中西书局。 ⑦龍衢小片 開化、常山、玉山、龍游、遂昌、雲和、慶元:曹志耘等2000.《吴 语处衢方言研究》好文出版。江山:周建红2015.浙江江山方言的音韵特点《现 代语文》21-24 页。江山、龍泉、景寧、衢州、松陽:徐越2016.《浙江吴音研究》 浙江大学出版社。 (6)宣州片⑧銅涇小片 銅陵:缪娴2007.铜陵市区方言音系《铜陵学院学报》 第 2 期 91-92、118 页。宣州、黄山区、銅陵、繁昌:蒋冰冰2003.《吴语宣州 片方言音韵研究》华东师范大学出版社。  ⑨太高小片 当涂、寧国、貴池、黄山区:蒋冰冰2003.《吴语宣州片方言 音韵研究》华东师范大学出版社。

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参考文献 曹志耘2002.《南部吴语语音研究》商务印书馆。 陸志韋1947.《古音說略》哈仏燕京学社(ここでは1985年《陸志韋語言學著 作集(一)》中華書局所収に拠った)。 潘悟云2000. 《汉语历史音韵学》上海教育出版社。 平山久雄1967.「中古漢語の音韻」『中国文化叢書1言語』大修館書店。 平田直子2016.「現代呉方音における古匣母細音字・喩母字の声母表記につ いて」『北九州市立大学外国語学部紀要』142号。 王力1980.《漢語史稿》中華書局。 赵元任1928.《现代吴语的研究》清华学校研究院丛书第四种(今、1956年科 学出版社に拠った)。 中国社会科学院語言研究所編2012.《中国語言地図集(第2版)-漢語方言巻》商 務印書館。 郑张尚芳2003.《上古音系》上海教育出版社。

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参照

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