領域の異なる3つの研究テーマ
長
嶺
竹
明
群馬大学第一内科在職中は主として C 型慢性肝炎の インターフェロン+亜 併用療法や, C 型肝炎ウイルス と血小板減少などに関する臨床研究をしていました. 1998年 4月, 保 学科へ転出後は, 保 学 野の研究を 試みて, 現在 3つの研究テーマに取り組んでいます. 第 1はフコイダンの研究ですが, この多糖類との巡り 合いは全くの偶然でした. これまで 20年余にわたり, 国 立小児病院 (現国立成育医療研究センター) の早川先生 と, ビオチン・ビオチニダーゼの共同研究を行ってきま した. 早川先生はビオチン・ビオチニダーゼ測定の第 1 人者であり, HPLC 測定法を独自に開発していました. その方法を 用して手術で切除した肝癌組織中ビオチニ ダーゼ酵素活性を測定した結果, 癌部ではビオチニダー ゼ Ki値が増加, 周辺非癌部 (肝 変) ではビオチニダー ゼ Kiが有意に低下していた. これは, 肝癌ではビオチン 需要が亢進し, 周辺部ではビオチン供給が減少している ことを示唆します. そこで癌部で亢進したビオチニダー ゼ Kiを抑制することは抗腫瘍効果に繫がるとの仮説を たて, ビオチニダーゼ Kiを抑制する物質のスクリーニ ングを行った結果, フコイダンが最有力候補として挙り ました. フコイダンはポリフコースの主鎖と, 硫酸基, ウ ロン酸が側鎖として結合した物質の 称です. フコイダ ンの生理活性として, ①抗凝固, 抗血栓作用 ②抗炎症 作用 ③抗ウイルス作用 ④抗腫瘍作用 ⑤免疫調整作 用などが知られています. フコイダンはモズク, コンブ やワカメなどの海藻から手軽に抽出可能なことから, 薬や機能性食品にむけた研究・開発がなされています. 「フコイダンなどの高 子量多糖類は消化管上皮から吸 収されない」との説が主流です. しかし, マウス, ラット を用いたフコイダン経口投与実験から, 消化管での吸収 を示唆する成績が得られていました. これまで報告され たフコイダン測定系は, 特異性や臨床応用の点で問題が あります. 競合 ELISA 法を用いたヒト血中フコイダン 濃度の報告もありますが, 用抗体は多くの多糖類と 差しています. モノクロナール抗体を用いた競合的 ELISA によるフコイダン定量の報告もありますが, ヒト 生体試料への応用はありません. 当研究室では, KHL 結 合フコイダンで兎を免疫し, 得られた抗血清をアフィニ ティー精製し, フコイダン特異的ポリクローナル抗体を 作成しました. そのフコイダン抗体を用いた ELISA 法 を確立し, 血清および尿のフコイダン濃度測定をナノグ ラムオーダーで可能としました. ボランテイア 10名に, フコイダン 1 g 経口摂取させた成績では, 摂取 6− 9 時 間後に, 全例で血中および尿中フコイダンの有意な上昇 を認めました. また, モズクの接取後に尿中フコイダン が検出されることも証明しました. このように, 当研究 室で新規開発した高感度フコイダン測定系は, 臨床検体 (尿, 血清) 中の低濃度フコイダンの測定が可能であり, フコイダン研究にブレイクスルーをもたらすことが期待 されています. 第 2の研究テーマであるメタロチオネイン (MT) は, 構成アミノ酸の 1/3をシステイ ン が 占 め る 低 子 量 (6,000∼7,000) の金属結合蛋白質であり, ヒトでは 4種 のアイソフォーム (MT-Ⅰ∼Ⅳ) が存在します. MT-Ⅰ, Ⅱは, 全身の臓器に存在し, 有害重金属の解毒, 亜 ・銅 などの代謝調節, 抗酸化作用, 化学発癌の防御などの生 理活性が報告されています. 神経抑制因子として発見さ 431 Kitakanto Med J 2012;62:431∼432 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科生体情報検査科学 平成24年8月31日 受付 論文別刷請求先 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科生体情報検査科学 長嶺竹明れた MT-Ⅲは, 主に脳神経細胞に存在します. 当研究室では独自の高感度 MT-Ⅰ/Ⅱ測定 ELISA 法 を確立し, 血中や尿中の微量 MT 濃度の測定を可能とし ました. 肝癌や前立腺癌では癌細胞中の MT-Ⅰ/Ⅱ発現 は抑制されます. このような癌患者の腫瘍マーカーとし て血中 MT-Ⅰ/Ⅱ測定の 有 用 性 に つ い て 検 討 中 で す. MT-Ⅰ/Ⅱの生理活性はアデイポネクチンの様に多岐に 渡ります. これまでメタロチオネイン低下症の報告はあ りません. 最近, 我々の開発した ELISA 法を用いてメタ ロチオネイン低下症が疑われる不明熱症例を経験しまし た. 高感度 MT-Ⅰ/Ⅱ測定 ELISA 法の臨床導入によっ て, メタロチオネイン低下症の病態が次第に解明される と思われます. さらに, MT-Ⅲのモノクロナール抗体の 作成にも成功しました. MT-Ⅲの ELISA 測定系が確立 されますと, アルツハイマー病や, パーキンソン病など の研究に応用されることが期待されます.
第 3の研究テーマは大気 micro-PIXE (Particle In-duced X-ray Emission)の臨床応用ですが,このテーマは 群馬大学 21世紀 COE プログラム (加速器テクノロジー による医学・生物学研究) のサブテーマとしてスタート したものです. micro-PIXE 法とは高崎量子応用研究所 のシングルエンドで加速したプロトンを検体試料に照射 して, 元素から放出される特殊 X 線を検出する方法で す. これまでカドミウム, 亜 , 鉄などの細胞内局在と病 態, 治療との関連を解明してきました. 2年前から, 手軽 な臨床検体である赤血球の元素 析を行っています. 赤 血球試料作製の文献は皆無のため, 適切な試料作成にい たるまでは試行錯誤の繰り返しでした. まず, 腎性 血 患者の赤血球を micro-PIXE 法で測定し, 鉄の細胞内 布に変化を認めました. 現在はインターフェロン治療に 合併する 血の病態解明を目指しています. このように, 領域の異なる 3つの研究テーマに取り組 んでいますが, いずれも華やかさとは縁のない 野です. それぞれのテーマ毎に, 討論や共同研究の相手の専門領 域が異なり, フコイダンは水産学部, 農学部など, メタロ チオネインは薬学部, マイクロ PIXE は物理学, 放射線 学などです. 保 学の研究に他専攻の息吹を上手に取り 入れることを命題として, 残り少ない研究生活を楽しん でいるこの頃です. 領域の異なる 3つの研究テーマ 432