N形液晶の電気光学的特性
古屋直臣
霜村攻
(昭和48年8月31日受理)
An Electro-Optic Characteristics by Nematic Liquid Crystals
NaoomiFURUYA OsamuSHIMOMURA
Synopsis We have studied about the properties of a new electro・optic effect of anisylidene・p・ aminophenylacetate liquid crystals which is variable with intensity of the electric field, On the experiments, we measured the temperature, DC or AC voltages and frequency dependences for the transmitted light of this sample. From the results of measurement and discussion for these studies, we have learnt several new informations as following. (1)When the same voltage applied, it gives the high e伍ciency in the lower tempera− ture with AC voltage and in the higher temperature with DC voltage. (2) It causes the intensive light dispersion in proportion to the voltage, but it satura. tes when the voltage is too high, and these values are 20kV/cm with AC and 10 kV/cm with DC respectively. (3) On the AC applied voltage, it gives the different frequency dependences of trans− mitted light for the upper or lower values of 30∼50 Hz and 5.5kV/cm respectively. 1. まえがき ある温度範囲で流動性を示すにもかかわらず,結晶 と同様の異方性的性質をもつ,いわゆる液晶のうち, ネマティク液晶(以後N形液晶と呼ぶ)はその電気光 学効果を利用して,主として表示装置への応用が注目 されている1)。 N形液品であるパラ・アゾキシ・アニソール(PAA) について,無電界下において,相変化が温度上昇,降 下時でループを描くという報告がある2)。同様にN形 液晶であるアニシリデン・パラ・アミノ・フェニル・ アセテート(APAPA)は83°C∼100°Cの範囲で液 晶相を示すことが一般に知られている3)が,温度上昇 時と降下時における相変化については明らかでない。 そこで,筆者らは無電界下において温度により相の 変化する状態ならびに透過率を測定し,さらに,交・ 直流電圧印加時の透過率の温度依存性を求め,温度上 昇時と降下時における相の変化を調べた。さらに,透 過率の交・直流印加電圧ならびに周波数に対する依存 性について調べ,新たな知見が得られたので報告する 次第である。 2. 電気光学的性質 N形液晶の電気光学的性質を調べるに当たり,いわ ゆる新電気光学効果1)’”4)について述べる。電界によ るN形液晶の光散乱機構は,動的散乱モード(Dyna− mic Scattering Mode−DSM と略記される)と呼ぼ れるHeilmeier1)らの提唱した説が一般に受け入れら れている。N形液晶は双極子モーメソトが棒状分子の 長軸方向と平行に近くあるもの(Npと略記)と,分 子の長軸と垂直に近い方向にあるもの(Nnと略記) とがある。Nn液晶を2枚の導電性ガラス板の間には さみ電界を印加すると,双極子モーメントは電界の方 向に向けて整列する。したがって,分子の長軸はガラ ス面と平行の方向に向くことになる。電界が小さいと きは分子の配列は零電界の場合より秩序がよくなり, 光透過率が大きくなることもしぼしば観測されてい る。しかし,電界がある程度以上大きくなると,液晶物質内のイオソ走行量が多くなり,このイオンの通っ た跡では,液晶分子の長軸がイナン走行方向と同じ向 きに回転させられる。このようにして,液晶内部は一一 種の乱流状態となり,液晶物質の強い光学異方性のた めに,屈折率の異なる領域に分れる。この結果,強い 光散乱が生じるようになる。これがDSMと呼ぼれる 機構である。ここでいうイオンはつぎのようにして生 成されると考えられている。液晶分子がH20分子と 共存すると,その電子親和力が大きくなり,ショット キー効果により陰極から放出された電子を容易に受け 取って負イオソとなり,そして陽極へ移動して電子を 放出して中性化する。 3. 相変化の測定装置 試料は東京化学工業製のアニシリデソ・パラ・アミ ノ・フェニル・アセテート(APAPA),別名4’一メト キシベソジリデンー4一アセトキシアニリン, 0 CH,・−
n−CH−N−⊂〉一・↓c臨を
用いた。これは前節で述べたNn液晶である。 本試料は,特定の温度領域で加熱または冷却時に, 液晶相を示すサーモトPピック液晶である。そこで, 液晶としての特性を調べるために,試料を保持した状 態で温度を自由に調整でき,かつ,偏光顕微鏡下で温 度変化に伴う相変化の観察等ができる加熱器を試作し た5)。その構造を図一1に示す。構造の概要は,側面に 薄い黄銅板を巻き,上下面は薄いアルミニウム板でお おい,外部補強の役目をもたせる。その内部は,上, 下面とも石綿をつめ,熱絶縁が施してある。加熱部に 温 度 計 挿 入 口 偏光顕微鏡のぞき窓 》鷲
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‘1 ■‘ ‘‘ 1‘ lt ㍑ 図一1 加熱器の構造 Fig.1 The structure of heating block. 76mm 扶e Eiゴξ o スライド・ガラス /t品 スペー 團 図一2相変化観測用の液晶セル Fig.2 Liquid crystal cell for observation of the phase variation. は銅板を用い,その下面にヒーターがあり,アルミニ ウム板で固定されている。銅は高い熱伝導率をもって いるので,内部の温度傾斜がきわめて小さく,試料の 温度は一様となるものと考えられる。温度計はスライ ドガラス挿入口に隣接して明けられた孔に差し込み, その値は試料の温度を示すものと考えられる。偏光顕 微鏡ののぞき窓内部の空気の対流を極力少なくするた めに,上下のぞき窓にカバー・ガラスをスプリソグ・ クリップによって固定してある。 4.相変化の観測 試料は図一2に示すようにサンドウィッチ・セルに仕 上げた。スペーサとしては温度変化に対する膨張,収 縮が小で,熱に強く,また周波数特性のよいテフロソ を使用した。スベーサの厚みは44μmである。 加熱器で温度を徐々に上げながら,偏光顕微鏡直交 ニコル間で,固体から液晶へ,液晶から等方性液体へ と変化させ,ついで,温度を降下させ,液体から液晶 へ,それから固体へと1サイクルの観測を行なった。 その間の観測結果を写真一1に示す。試料は写真のだ円 形の部分に相当する。 No.1は79°Cで撮影したもので,種々の色相が認 められ,試料が固体と液晶の状態で混在していること を示す。No.2(80°C)では,全体にほぼ一様の色相 となり,液晶相へ移行したことがわかる。98°Cでは No.3に示すようにNo.2と同様である。99.2°Cから 100°Cの範囲は液晶相から等方性液体への移行の状態 を示している(No.4∼No.9)。これらの写真が示すよ うに,中央部の温度が周辺部よりやや高く,中央部が 流動性を増し,これは温度の上昇とともに徐々に周辺 に拡大してゆき,No.8は上部ガラスと試料面とでニ ユートソリングを形成し,試料が液体へ移行しつつあ る。100°C(No.9)では中央部が等方性液体となった ことがわかる。⊥u 液体 t晶 19 ・ 2 17 11 @12 P3・ P4 7 @ 615 ,5 98 . 1 16
R4
目体 . 25 30 75 80 90 100’ 10 温度〔℃〕 図一3 温度と相変化の関係 Fig.3 Relation between temperature and phase variation. No.10∼12の99.8°Cから99、1°Cでは温度降下に ともない周辺部から徐々に液晶になりつつあることを 示す。以後No.14から,温度28°CのNo.19までほ ぼ同一のN形液晶の繊維状組織6)を示し,液晶相であ ることがわかる。これらの一連の写真から温度上昇時 と降下時とでは明らかに相の変化する温度が異なるこ とがわかる。図一3は写真観察の結果に対応させて温度 と相変化の関係を図示したもので,図中の番号はその 温度において撮影した写真の番号である。 5. 液晶セルの電気光学効果測定装置 試料の電気光学効果を測定するために,液晶セルを 作成した。2枚のネサ・ガラスの間に厚み44μのテ フロソ製スペーサを真中に四角い孔を明けた状態で挾 みスペーサの孔の部分に試料を入れた。この試料は, 常温においては粒状であるため乾燥器によって加熱 し,液晶または液体状態にしておいてから,セルに仕 上げた。透明導電膜と導線との接続には,導電性塗料 を用いた。ネサ・ガラスおよび銅板はセロテープによ り,スライド・ガラスに固定した。銅板はセルに電界 を加える端子の役目をする。液晶セルの構造を図一4に 示す。このセルを加熱器に収めて,図一5の装置を用 い,セルに印加する電圧を一定に保ち,温度を変化さ せて液品セルの光の透過率を測定した。セルの印加電 圧は,直流の場合と交流の場合について行なった。 6. 透過率の測定結果 6.1透過率の温度特性 6.1.1 セルに電圧を印加しない場合 温度を徐々に上昇させ,つぎに,液体に移行してし まった後は,温度を徐々に降下させながら,可視光線 § 寺 ξ 苫 スペーサ @ネサガラス 導線 銅板 ξ S 液晶 スライド・ガラス 日εON 76mm 図一4 新電気光学効果測定用の液晶セル Fig.4 Liquid crystal cell for measurement of new electro・optic effect. A,C, 100V サーミスタ温度劃 フォト・マルV・V フォトマル電源 v 加熱器 V 」00V セル用電源 光源ランプ フィルター 励蹴 一源装置 A.C.100V AC.100V スタータ 図一5液晶セルの透過率測定装置 Fig.5 The measuring device for optical trans− mission of Liquid crystal. 10080
区 辮60 矧4020
印加電圧:OV セルの厚さ:44μm光源:5461A
X温度上昇時 ◎温度降下時 20 .30 40 50 60 70 80 90 100 110 温度〔℃〕. 図一6 透過率の温度特性 Fig.6 The temperature characteristics of optical tranSmiSSiOn. (5461A)の透過率を測定した。その結果を図一6に示 す。図において透過率が0および100%以外の有限値 の透過率は液晶自体の透過率を求めたことになる。 温度を上昇させてゆくとき,液晶相となる直前の温 度78°C付近から透過率は増加しはじめ,液晶相とな ってからは,透過率は徐々にその値が大となり,等方 性液体となる104°Cでは,透過率は100%に達する。 これは固体相に比べて分子間の結合力が弱まり,分子 が自由に動けるようになるので,分子はガラス板とのNo.1 79.0°C No.2 80.0°C
No.3 98.0℃
No.6 99.4°C No.7 99.6°C
No.8 99.9°C
No.11 99.5°C No.12 99.1°C
●
No.13 98.9°C
No.16 98.0°C No.17 88.0°C
No.18 68.0°C No.19 28.0°C
Photo.1
写真一1試料の相変化の写真
相互作用で配向し,透過率は増大するものと考えられ る。 温度降下時も同様のことが言える。しかし,82°C あたりから下では,ほとんど透過率に変化がなく,固 体相に移る直前まで同じ状態が続く。 このように,固体相,液晶相を通じて,温度上昇時 と降下時とで,透過率の値はループを描くことがわか った。PAAについて同様の測定結果が,鳥山氏ら2} によって発表されている。 6.1.2 セルに直流電圧を印加した場合 直流電圧20Vを印加し,液晶状態下において温度 を徐々に上昇させるに伴い,透過率は減少してゆく。 この状態は100°Cあたりで最低値を示し,102°Cあ たりで透過率は急に増大し,104°Cでは100%に達す る。この温度では等方性液体となったことを示す。そ れ以上の温度では透過率は一定である。つぎに,温度 を降下させると,100°Cまでは透過率はほぼ一定値 で,100%を保ち,99°C以下になると急激に低下す る。そして,94°Cで最低値となり,それ以下の温度 では,低くなるほど透過率は逆に増加する。これらの 関係が図一7に示してある。温度上昇時と降下時とで, 液晶状態に差異を生じ,無電界の場合と同様に,透過 率の値はループを描く。 6.1.3 セルに交流電圧を印加した場合 交番電圧,実効値20V,50 Hzを印加して,温度を 徐々に変えてセルの透過率を前述の場合と同様に測定 した結果を図一8に示す。温度を徐々に上昇させるに伴 い,液晶相においては,初め透過率は徐々に増加し, 93°C付近からその値は急激に増大する。そして等方 100 90 80 70 憲60 鮒50 姻40 ← 30 20 10 印加電圧:D.C.20V セルの厚さ:44μm
光源:5461A
× 温度上昇時 O 温度降下時べ。
0 ’・R0 40 50 60 70 80 90. 100 110 温度〔℃〕 図一7透過率の温度特性 Fig・7 The temperature characteristics of optical transrnission, 100 9080
区 辮 70 頁 斑 60 50 罐liii竃゜v(ソミ交力fil[),mζ竃蹴i 11
|/ ノ∫f
/
。ノ゜
4030 40 5ぴ 60 70 80 90 100 110 温 度 〔℃〕 図一8 透過率の温度特性 Fig.8 The temperature characteristics of optical transmission. 性液体となる104°Cにおいて,その値は100%に達 する。温度降下時には,96°C付近までは,透過率は 100%を保ち,それ以下の温度では86°C付近まで, 急激に減少する。さらに温度が降下するに伴い,その 値は徐々に減少する。この場合にも,温度上昇時と降 下時で透過率の値はループを描く。 6.2 透過率の直流電圧特性 セルを85.4°C,89.0°C,94.1°Cの3種の温度に 保ち,それぞれの温度において,印加電圧を増加させ ながら透過率を測定した。その結果が図一9である。 4.5Vの電圧を印加したとき,すでに光散乱が起こり, 電源装置の性能上,これ以下の電圧を印加できなかっ 80i 70 60 ,r 50 遣 辮 40慰3Q
20 ユ0 0\
.セルの厚さ:44μm光源:5461A
×85.4°C Φ89.0℃ △94.1°C\\
0 10 20 30 40 ’50 60 電圧[VDIc〕 図一9温度をパラメータとする透過率の直流電圧特性 Fig. g DC voltage characteristics of optical transmission・(temperature:parameter)100
80
雲 一50 蝦40 魁20
50Hz
o110Hz lkHz3kHz
ぺ
\
○
温’度:95.0℃ セルの厚さ:414μm 光源:5461A 0 10 20 30 40 50 60 70 80 交流電圧(実効値)〔V〕 図一10周波数をパラメータとする透過率の交流電圧 特性 Fig.10 AC voltage characteristics of optical transmission.(frequency:parameter) たので,何ボルトで光散乱が開始されるのかわからな かった。同一の電圧を加えた場合には,温度が低いほ ど透過率は高い。 6.3 透過率の交流電圧特性50Hz,110Hz,1kHz,3kHzの各周波数の電圧に
ついて実験を行なった。電界が零のとき透過光量を 100として,電圧を加えたときの透過光量を比較して, 百分率で表わしたのが図一10である。 6.4 透過率の印加電圧周波数に対する特性 セルを83.8°C,89.5°C,95.1°Cの3種の温度に 保ち,それぞれの温度において,印加電圧は20Vに 一定に保ち,その周波数を増加させながら透過率を測 定した。それらの結果が図一11である。 低周波発振器の出力が小さいために,20Vしか印加 することができなかったが,6. 3からわかるごとく, この電圧は低い電圧の領域に属する。つまり,低周波 となるほど透過率が大となる領域である。この測定に おいても,SO H逐あたりより高い領域では,同じ傾向 が表われている。しかし,それより低い20∼30Hzあ たりでは少し様子が異なる。すなわち,そのピークは 100 90 区 80領十 剰70 60 温度によって異なるが,30∼50Hzを境にして,それ より低い周波数では逆の傾向を示している。他方,周 波数が高くなると透過率は増加することがわかった。 7. 測定結果の検討 7.1透過率の温度特性 7.1.1 セルに直流電圧を印加した場合 2.で述べたような機構に基づく光散乱を引き起こす 負イオンを形成する要素は,液晶分子,H20分子,そ れに電子であるとされている7)。この電子はショヅト キー効果により,陰極から放出されるものと考えられ ている。その電子による電流密度ノ、は_ヒ磐)[A/㎡]ω
ここで,A−4πmele2/h3, m:電子の質量, e:電 子の電荷,le:ボルッマソ定数, h:プランク定 数,T:電極の絶対温度, E:電界強度,φ:E−0 のときの電極と液晶膜の界面の電子に対する障壁の 高さ。 本測定においては,Eは一定であるから,式(1)を書き かえてJ、 、AT・eXP(−ill)ただ_←蝉
(2) この式から明らかなように,温度τが上昇すれば九は 増加する。したがって,光散乱を起こす領域が大きく なり,透過率は減少するものと考えられる。 7.1.2 セルに交流電圧を印加した場合 温度上昇とともに透過率が上昇している。この理由 として,1sだけ考えた場合は, DSMによる光散乱作 用は大きくなるが,九が増加する以上に,透過率を上 げようとする要素の働きが強いことに起因するもので あろう。交流は直流と異なり,負イオンの 印加電圧:20V (実効値) セルの厚さ:44μm 光源:S461A 83.8℃ 89.5℃ 95.1℃ 50 20 102 103 104 周波数[Hz〕 図一11温度をパラメータとする透過率の周波数特性 Fig.11 The frequency characteristics of optical trans・ mission.(temperature:parameter) 走行方向も,分子の向きも周期的に変化し ている。このために,負イオソが液晶分子 と衝突して,その配向方向にずれを生じて も,すぐに緩和される傾向にある。この傾 向は,温度上昇にともない液晶物質の流動 性が増すので,温度上昇とともに強めら れ,したがって透過率は増加するものと考 えられる。 7.2 透過率の直流電圧特性式(・)司蒜一cとおくと
エ …=AT・e・p(φ一cE 2 kT) (・) が得られる。この式の中で変数はEだけである。液晶 面での光の反射率が1、に比例し,また,セル内で光 の吸収がないものと仮定すれぽ,透過率ηは