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<資料>頭頸部がん患者の治療中の食事・栄養摂取量の実態 : 化学療法・放射線療法・手術療法患者の比較 利用統計を見る

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頭頸部がん患者の治療中の食事・栄養摂取量の実態

−化学療法・放射線療法・手術療法患者の比較−

Dietary and Nutritional Intake in Head and Neck Cancer Patients

– Differences among Chemotherapy, Radiotherapy and Surgical Patients –

長崎ひとみ,中村美知子

NAGASAKI Hitomi, NAKAMURA Michiko

要 旨

目   的:頭頸部がん患者の治療(化学療法,放射線療法,手術療法)中の食事・栄養摂取状態を調査し, 患者の食生活の維持・改善について検討する。 対 象 者:化学療法患者 3 名,放射線療法患者 2 名,手術療法患者 2 名。 調 査 内 容 :対象者の属性,身体状態(自覚症状,血液生化学的検査値),食事摂取量,栄養摂取量。栄養摂 取量は 1 日食事摂取量を測定し算出した。 結果・考察:化学療法群は,治療中に食欲不振,悪心が出現し,1 日のたんぱく質,脂質摂取量は治療前より 約 80% 顕著に減少した。放射線療法群は,疼痛,口腔内乾燥の出現により,栄養摂取量全般が 治療前より約 30% 減少した。手術療法群では,術前から出現していた疼痛等の自覚症状軽減に伴 い食事摂取量が増加したが,1日炭水化物摂取量は約 50% 減少した。栄養状態の悪化は治療効 果の妨げにもなるため,治療中に経口補給できる食品・調理法の工夫について今後の課題である。 キーワード 頭頸部がん,食事・栄養摂取量,化学療法,放射線療法,手術療法

Key Words Head and Neck Cancer, Dietary and Nutritional Intake, Chemotherapy, Radiotherapy, Operative

Ⅰ.はじめに

頭頸部がん患者の主な治療法は手術療法であるが,近 年,患者の QOL(Quality of Life),残存機能の維持を考 慮して,術前・術後の放射線・化学療法を組み合わせる ことが多く,患者に起こり得る副作用も様々である。頭 頸部がん患者は,化学療法・放射線療法・手術療等の治 療過程において,食欲低下,嚥下障害,味覚障害などに より食生活の質が低下することが明らかとなってい る1)〜 5)。化学療法中の患者の自覚症状および栄養状態 の特徴は,副作用としての悪心・嘔吐の発現頻度は 70 〜 80%6),味覚障害は 33.6 〜 44.5% であり7),これらは 食欲不振や嗜好の変化を引き起こし,バランスのよい食 事・栄養摂取を困難にさせる要因となる。先行研究では, 栄養摂取量は,治療開始前の 33kcal/kg から治療中には 19kcal/kg まで低下し8),エネルギー,たんぱく質,脂 質等栄養素全体で大幅な低下がみられ,食事摂取量では 穀類,肉類,魚介類,卵類の摂取量が低下する9)。放射 線治療中の患者では,照射野に口腔や唾液腺が含まれる ため口腔内の有害事象(味覚障害・口腔内乾燥・口腔粘 膜炎)の出現率が高く,90% 以上の患者に口腔内の有害 事象が出現すると報告されている1) 。放射線療法中の口 腔底がん患者では,累積照射量が 20Gy の時期で味覚障 害が出現し食事摂取量が低下し始め2),更に 40Gy 〜 60Gy に か け て 著 明 に 低 下 す る こ と が 報 告 さ れ て い る10)。手術療法患者では,口腔がん術後には食物の咀嚼・ 食塊形成・咽頭への移送等の口腔期の嚥下障害が起こり やすく,咽頭がん術後には喉頭閉鎖不全等により誤嚥が 起こりやすい3)。口腔がん術後の栄養状態は,血清総蛋 白,血清アルブミン値ともに術直後(3 日目)で有意に低 下し,1 ヶ月後にはほぼ正常に改善することが報告され ている11) 。 治療中に栄養状態が低下することで,術後の縫合不全 や創感染,感染症が出現したり,放射線・化学療法の副 受理日:2013 年 2 月 18 日 山梨大学大学院医学工学総合研究部(基礎・臨床看護学講座): Intersisciplinary Grasuate School of Medicine and Engineering (Department of Fundamental and Clinical Nursing), University of Yamanashi

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作用の出現率が増加するため,治療中の栄養状態維持・ 改善は看護師ならびに医療関係者の重要な役割である。 頭頸部がん患者が治療中にできるだけ豊かな食生活を送 るためには,看護師は患者の治療に伴う食事・栄養摂取 状態の変化を正確に捉え,健康的な食生活を維持・改善 することが重要であると考える。

Ⅱ.目的

頭頸部がん患者の治療(化学療法,放射線療法,手術 療法)中の食事・栄養摂取状態を調査し,患者の食生活 の維持・改善について検討する。

Ⅲ.用語の操作的定義

1. 頭頸部がん患者とは,喉頭がん,中咽頭がん,下 咽頭がん,舌がん,口腔がん等で化学療法,放射 線療法,手術療法の対象患者とする。 2. 治療中とは,入院中の治療開始から終了までの期 間をさす。化学療法は治療期間約 3 週間,放射線 療法は治療期間約 6 週間,手術療法は約 2 週間の ため調査は各治療の中間期間とした。 3. 食事・栄養摂取状態とは,1 日の食事摂取量(食品 群別摂取量)と栄養摂取量をさす。

Ⅳ.方法

1. 対象 調査に同意が得られた頭頸部がん患者で治療(化学療 法,放射線療法,手術療法)を受ける患者 7 名。 2. 調査場所:A 大学病院頭頸部外科病棟 3. 調査期間:平成 24 年 2 月〜 8 月 4. 調査内容 1) 対象者の属性 (1) 基本属性 年齢,性別,疾患名,治療内容 (2) 身体状態 自覚症状については,治療中の頭頸部がん患者に出現 しやすい症状の文献検討3)5)6)から抽出された 112 症状か ら精選した,嚥下・咀嚼機能に関するもの 7 項目,摂取 量・摂取形態に関するもの 7 項目,全身症状 7 項目,疼 痛に関するもの 5 項目,ボディーイメージ 1 項目の合計 27 項目。「極めてそうである」「全くそうでない」を両端 に記した Visual Analog Scale(0 〜 100mm)により評価 し,評点が高いほど症状が悪いことを示す。 血液生化学的検査値は,治療中の身体状態の変化を把 握するために栄養状態の指標として一般的に用いられる ことが多い12)Alb(g/dl),Hb(g/dl),RBC(× 106/μℓ), 総リンパ球数(× 103/μℓ)とした。 2) 食事・栄養摂取状態 患者の 1 日栄養摂取量は,管理栄養士作成の 1 日献立 栄養素量に基づくものであり,1 日の献立の栄養素量は 調査期間中一定であったため,当該期間中 1 日の摂取量 調査を実施した。1 日栄養摂取量は,1 日食事摂取量を 調査し,五訂増補日本食品標準成分表13)に基づき,エ ネルギー,たんぱく質,炭水化物,脂質を算出した。食 事摂取量の内容は,国民健康・栄養調査(厚生労働省, 2010)の食品群別摂取量調査で日本人摂取基準に用いら れている五訂増補日本食品標準成分表の 18 食品群(穀 類,いも及びでん粉類,砂糖及び甘味類,種実類,緑黄 色野菜,その他の野菜,果実類,きのこ類,海草類,豆 類,魚介類,肉類,卵類,乳類,油脂類,菓子類,嗜好 飲料類,調味料・香辛料)とした。 5. 調査手順 1) 治療前,治療中に調査を実施する。治療中は,化 学療法,放射線療法,手術療法中の影響が出現し やすい時期1)〜 3)10)11)である,治療開始 1 週目〜 3 週 目のうち 1 日とする。 2) 自覚症状は各調査日に対象者が自覚症状調査用紙 を記入した。 3) 食事摂取量の測定は,1 日の食事摂取量を把握した。 管理栄養士から調査日の献立表を入手し,対象者 の献立・食品名・重量を記載した調査用紙を作成し, 各食の献立に基づき食事摂取割合および間食の摂 取量を聴取した。1 日のうち昼食摂取量は秤量した。 各食の成分値献立表から食品(食材)名を把握し,食 品群別摂取量および栄養素摂取量を算出した。栄 養価計算にはエクセル栄養君 ver.6.0(建帛社)を用 いた。 6. 倫理的配慮 本研究は,山梨大学医学部倫理委員会の承認(No. 794)を得て実施した。対象者へ調査の主旨,内容,方法, 参加は任意であり拒否・中断が可能であること,また拒 否・中断によって治療に不利益が生じないこと,匿名性 を確保しプライバシーを遵守することを文書で説明し, 調査の協力・同意が得られた者について同意書の署名を 得て実施した。 7. 分析方法 化学療法群,放射線療法群,手術療法群の自覚症状, 血液生化学的検査値,食事摂取量・栄養摂取量の平均値,

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標準偏差を算出し比較した。治療前から治療中の変化を 折れ線グラフで示し,対象者間の比較を行った。

Ⅴ.結果

1. 対象者の概要 1) 属性 対象者 7 名は,平均年齢 68.0 ± 9.1 歳,男性 5 名,女 性 2 名であった。化学療法群 3 名の疾患は喉頭がん,中 咽頭がん等であり,放射線療法群 2 名は中咽頭がん等, 手術療法群 2 名は舌がんであった。 2) 身体状態の変化 自覚症状の治療前と治療中の変化(図 1)は,化学療法 群 で は,「 食 欲 が な い 」( 平 均 治 療 前 8.3 → 治 療 中 97.3mm/VAS),「胃がもたれる」(平均 0.0 → 59.3mm/ VAS),「 口 内 が 乾 燥 す る 」( 平 均 16.7 → 48.7mm/ VAS),「吐き気がある」(平均 0.0 → 39.7mm/VAS)は 治療中が顕著に高値となった。 放 射 線 療 法 群 で は,「 口 内 が 乾 燥 す る 」( 平 均 0.0 → 68.0mm/VAS),「味を感じない」(平均 0.0 → 48.5mm/ VAS),「パサパサしたものが食べにくい」(平均 0.0 → 48.5 mm /VAS),「口内が痛い」(平均 0.0 → 37.5 mm/VAS) が治療中に高値となった。 手術療法群では,「硬いものが食べにくい」(平均 13.0 → 52.5 mm/VAS),「パサパサしたものが食べにく い」(平均 29.0 → 34.0 mm/VAS),「口内が乾燥する」(平 均 13.0 → 26.5mm/VAS)が治療中に高値を示した。「食 物がしみる」(平均 72.0 → 0.0mm/VAS),「喉が痛い」(平 均 44.5 → 27.5mm/VAS)は治療中に低下した。 血液生化学的検査値の変化(図 2)では,Alb 値は,治 療前は全員が基準値(3.7 〜 4.9g/dl)内であったが,治療 中は化学療法群 3 名(3.2 〜 3.8g/dl),手術療法群 1 名(3.6g/ dl)が基準値以下に低下した。RBC 値は,治療前は化学 療法群 2 名(3.73 〜 4.07 × 106/μℓ),放射線療法群 1 名 (4.15 × 106/μℓ )が低値であり,治療中は手術療法群 1 名を除く全員(3.39 〜 4.24 × 106 /μℓ)が基準値以下と なった。Hb 値は,化学療法群は治療前 1 名(10.4g/dl)か ら治療中 3 名(10.0 〜 11.3g/dl)へ,放射線療法群は治療 前 2 名(12.3 〜 13.1g/dl)から治療中 2 名(11.7 〜 12.1g/dl) が基準値以下となった。総リンパ球数は,化学療法群 1 名を除き全員が低値であり(0.66 〜 1.96 × 103/μℓ),治 療中全員が低下した(0.42 〜 1.66 × 103/μℓ)。 2. 食事・栄養摂取量の変化 1) 1 日の栄養摂取量の変化(図 3) 1 日栄養摂取量の変化は,化学療法群ではエネルギー ( 平 均 1641.0 → 474.3kcal), た ん ぱ く 質( 平 均 61.4 → 12.3g), 炭 水 化 物( 平 均 267.9 → 100.3g), 脂 質( 平 均 30.3 → 2.7g)ともに治療中は低値となった。放射線療法群 は,炭水化物(平均 296.1 → 225.2g)は 2 名が顕著に低下 したが,他の栄養摂取量の低下は少なく,1 名は治療前 からほとんど変化しなかった。手術療法群は,エネルギー ( 平 均 1952.9 → 1217.5kcal), た ん ぱ く 質( 平 均 64.8 → 44.6g),炭水化物(平均 306.8 → 139.7g),脂質(平 均 40.9 → 27.1g)が顕著に低下した。 2) 1 日の食事摂取量の変化(図 4) 1 日食事摂取量の食品群別の変化は,化学療法群では, 「 い も 類 」( 平 均 104.0 → 0.0g),「 緑 黄 色 野 菜 」( 平 均 149.7 → 41.3g),「その他の野菜」(平均 149.3 → 25.3g),「魚 介類」(平均 46.7 → 7.0g),「油脂類」(平均 7.3 → 0.7g)の 摂取量が治療中に顕著に低下した。「果実類」(平均 7.3 → 86.0g)の摂取量のみ治療前よりも増加した。放射線 療法群では,「いも類」(平均 70.0 → 1.0g)の摂取量が顕 著に低下した。1 名は果実類,肉類の摂取量が治療前よ り低下したが,1 名は治療前より増加または同等であっ た。手術療法群では,「穀類」(平均 375.0 → 900.0g),「緑 黄 色 野 菜 」( 平 均 63.0 → 193.0g),「 魚 介 類 」( 平 均 40.0 → 73.5g),「果実類」(平均 22.0 → 53.0g)の摂取量が 治療前よりも増加した。肉類は治療前,治療中ともに摂 取していなかった。

Ⅵ.考察

化学療法,放射線療法,手術療法中の患者の食事・栄 養摂取状態の特徴と健康状態維持・改善のための看護師 による食生活指導の課題について考察した。 1. 化学療法中患者 化学療法群の栄養摂取量は,治療中にはエネルギーが 約 70%,たんぱく質約 80%,炭水化物約 60%,脂質約 90% 減少し,放射線療法,手術療法よりも 1 日食事・ 栄養摂取量の低下が顕著であった。食事摂取量も全体的 に低下したが,特に低下した食品群は,いも類,魚介類, 肉類,油脂類であり,日本人の食事摂取基準14)(50 〜 59 歳,活動レベルⅡ)を 0.6 割〜 4.6 割しか満たしてい なかった。先行研究では化学療法中の栄養摂取量は治療 開始前の 33kcal/kg から 19kcal/kg に低下し8),食事摂 取率は,治療前が 85.2% であったのに対し,味覚障害, 食欲不振の出現が最も多い治療 3 〜 5 日目には 73.2% に 有意に低下する15)ことが示されており,本調査結果で は食事・栄養摂取量の低下がより顕著であり,食欲不振, 悪心・嘔吐,味覚障害の影響が考えられる。放射線・化 学療法施行時に発生する骨髄機能の抑制や悪心・嘔吐, 下痢などの有害事象は治療効果の低下の一因となると言 われている11) 。化学療法中の嗜好調査では,治療中に 好きになったものは甘い物,果物であり16),本研究結 果でも化学療法中に摂取量が増加した食品群は果実類で

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0 20 40 60 80 100 治療前 治療中 V A S (m m ) 味を感じない 0 20 40 60 80 100 治療前 治療中 V A S (m m ) 口内が痛い 0 20 40 60 80 100 治療前 治療中 V A S (m m ) 食欲がない 0 20 40 60 80 100 治療前 治療中 V A S (m m ) 硬いものが食べにくい 0 20 40 60 80 100 治療前 治療中 V A S (m m ) パサパサしたものが食べにくい 0 20 40 60 80 100 治療前 治療中 V A S (m m ) 吐き気がある VAS 0∼100mm 高値な程症状が あることを示す 0 20 40 60 80 100 治療前 治療中 V A S (m m ) 胃がもたれる 0 20 40 60 80 100 治療前 治療中 V A S (m m ) 口内が乾燥する 化学療法群 放射線療法群 手術療法 図 1 治療別にみた自覚症状の変化 図 2 治療別にみた血液生化学的検査値の変化 2.5 3.5 4.5 5.5 治療前 治療中 g/ dl Alb (g/dl) 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 治療前 治療中 g/ dl Hb (g/dl) 0 0.5 1 1.5 2 2.5 治療前 治療中 × 10 /μ l 総リンパ球数(×103/μl) 3 3.5 4 4.5 5 5.5 治療前 治療中 × 10 6/μ l RBC (×106/μl) 化学療法群 放射線療法群 手術療法群 あり,メニューとしてはすりおろしりんご,みかんの缶 詰などであった。食事に果実類を取り入れたり,間食に 患者が摂取できるよう,少量でも炭水化物やたんぱく質 の多いデザートや飲料を摂取するよう指導すること17) が有効である。 2. 放射線療法中患者 放射線療法中患者は,疼痛,口腔内乾燥,味覚低下に よりエネルギー,たんぱく質,炭水化物,脂質ともに約 30% 減少した。食品群では,特にいも類の摂取量の顕 著な低下があり,口腔内乾燥や疼痛の出現の影響で,水 分の少ないいも類や肉類等が摂取しにくいためと考えら れる。血液生化学的検査値は,総リンパ球数(1.36 → 0.42 × 103/μℓ)が低値となり,骨髄抑制により免疫機能が 低下していると考えられる。先行研究では 20Gy で食事 摂取量が有意に低下し,血清アルブミン等血液生化学的 検査値は 60Gy に最低値を示していることから10),本調 査対象者も今後栄養状態は低下し続けることが予測さ れ,口腔内乾燥,疼痛等の症状は治療が終了後長期間持 続するため7) ,治療中に患者の摂取量が増加した果実類 や嗜好飲料類,経口栄養補助飲料の摂取により栄養状態 を維持・改善することが有効であると考える。

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300 800 1300 1800 治療前 治療中 kc al ) エネルギー 50 100 150 200 250 300 350 治療前 治療中 炭水化物 0 20 40 60 治療前 治療中 脂質 0 20 40 60 80 治療前 治療中 たんぱく質 化学療法群 放射線療法群 手術療法群 図 3 治療別にみた 1 日栄養摂取量の変化 図 4 治療別にみた 1 日食事摂取量の変化 0 20 40 60 80 100 120 140 治療前 治療中 いも類 0 50 100 150 200 250 300 治療前 治療中 緑黄色野菜 0.0 5.0 10.0 15.0 治療前 治療中 油脂類 0 20 40 60 80 100 治療前 治療中 魚介類 0 200 400 600 800 1000 治療前 治療中 穀類 0 20 40 60 80 100 120 治療前 治療中 肉類 0 50 100 150 治療前 治療中 果実類 0 50 100 150 200 250 300 治療前 治療中 その他の野菜 化学療法群 放射線療法群 手術療法群 3. 手術療法患者 手術療法群の 1 日の栄養摂取量は,治療中に食事摂取 量は,穀類,緑黄色野菜,魚介類等の摂取量が治療前よ りも増加したが,栄養摂取量としてはエネルギー,たん ぱく質,脂質ともに約 35%,炭水化物は 55% 減少した ことが特徴であった。一般的には術後症状の回復ととも に摂取量が増加し栄養状態も改善する11)と言われてい るが,本調査結果対象のように術後口腔内の乾燥,疼痛, 食べにくさが残る患者もいることから,術後合併症を予 防するためにも,個別の症状改善のための食事指導が必 要であると考える。 「食べる」ことは人間にとって基本的欲求であると同時 に,楽しみ,嗜好の充足,生活の豊かさに影響してお り4)5),疼痛や嘔気等の苦痛を伴う患者にとっては,食 を楽しむ,気分転換を図る等のニードが満たされていな いと考えられる。そのため,食生活を少しでも豊かにす るために,デイルームで会話をしながらの食事や,散歩 に合わせて食事時間をとるなど,気分転換を意図した食 事の際の雰囲気にも工夫が必要であると考える。

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Ⅶ.結論

頭頸部がん患者の治療別にみた食事・栄養摂取量の変 化の特徴は以下の通りである。 化学療法中患者では,悪心・嘔吐・食欲不振により, 栄養摂取量,食事摂取量は顕著に減少し,特にたんぱく 質(80% 減少),脂質(90% 減少)の摂取が低下した。放 射線療法中患者では,疼痛,口腔内乾燥が出現し,各栄 養素が治療前より約 30% 減少した。手術療法患者では, 疼痛等の自覚症状の軽減に伴い食事摂取量は増加した が,栄養摂取量は術前より低下し,特に炭水化物(55% 減少)の摂取が低下した。化学療法,放射線療法等は長 期間に及ぶため,食品の選択・調理法の工夫等,管理栄 養士と相談しながら,患者の 1 日栄養摂取量を増加して 栄養状態の改善を図ることが,治療効果の促進,副作用・ 合併症の予防につながると考える。

謝辞

本研究にご協力いただきました対象者の皆様に深く感 謝申し上げます。 本研究は,平成 23−25 年度日本学術振興会科学研究 費補助金(若手研究 B)の助成を受けて実施した研究の一 部をまとめたものである。 文献

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参照

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