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ブドウ‘Syrah’におけるrotundone 生合成機構の解明 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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氏 名 高瀬 秀樹 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第396号 学 位 授 与 年 月 日 平成29年3月23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 環境社会創生工学専攻 学 位 論 文 題 目 ブドウ‘Syrah’における rotundone 生合成機構の解明 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 鈴 木 俊 二 教 授 柳 田 藤 寿 教 授 奥 田 徹 教 授 望 月 和 樹 准教授 岸 本 宗 和 准教授 久 本 雅 嗣

学位論文内容の要旨

ブドウ‘Syrah’はフランス、コート・デュ・ローヌ地方北部を原産とする赤ワイン用ブ ドウ品種で、近年フランスだけではなく、オーストラリア、南アフリカ共和国、アルゼン チン、チリ、アメリカ合衆国など世界各国で急速に栽培が拡大している重要品種である。 ‘Syrah’は、日本においても山梨県、長野県で栽培が始められており、‘Syrah’の特徴を反映 したワインが生産され始めている。‘Syrah’ワインの香りの特徴としてスパイス、胡椒など の表現がなされ、この特徴に起因する化合物としてセスキテルペノイドの一種である rotundone が同定された。rotundone は、guaiene 骨格を有したセスキテルペンケトンであり、 その官能閾値は赤ワイン中16 ng L-1と極めて低い。rotundone はブドウ果実の中では果皮に 局在し、véraison 期から収穫に向けて顕著に増加するが、疎水性が高いため、ワイン醸造工 程において果皮からの抽出効率は低い。そのため、醸造後のワイン中のrotundone 含有量は、 醸造に用いたブドウ果実中の含有量に依存する。rotundone 蓄積に影響する環境ファクター として、冷涼な気候、土壌の地質及び地形、灌漑による土壌湿度や除葉による果房への露 光などが報告されている。しかしながら、これらの環境ファクターが直接或いは間接的に 影響を及ぼすrotundone 生合成機構はこれまでに明らかにされていないため、本学位論文で

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は、‘Syrah’における rotundone 生合成メカニズムを解明することを目的とした。

本学位論文において、第一に、ブドウ果実及びワイン中に微量に含まれるrotundone を高 感度且つ簡便に定量出来る新規定量法を開発した。これまでのrotundone の定量法は、固層 抽出カラム (SPE) を用いた前処理後に solid phase micro extraction 法による抽出を行うなど、 複雑な操作が必要とされてきた。本学位論文において開発した定量法ではstir bar sorptive extraction 法を用いた 2 次元ガスクロマトグラフ質量分析計を採用し、SPE を用いた前処理 工程を省略した。開発した定量法を用いた分析の結果、マリコヴィンヤードで栽培された ‘Syrah’果実及びそれを用いて醸造されたワイン中の rotundone 濃度は、フランス産‘Syrah’ ワインと比較しても高い水準であり、さらにオーストラリア産‘Shiraz’果実及びワインで 報告された最大rotundone 濃度より高かった。これらの結果は、日本に存在する環境因子が ‘Syrah’果実中の rotundone 蓄積を促進することを示唆するとともに、高品質の‘Syrah’ 果実を継続的に得るためには、地域的な気候の特徴が‘Syrah’果実中の rotundone 蓄積に及 ぼす影響を調査するべきであることを示した。

-guaiene は、セスキテルペン炭化水素類に属し、植物由来の精油やブドウ果実中に含 有される。この化合物はrotundone と共通し、特有の構造である五員環と七員環を有してい ることから、rotundone の前駆物質とされている。つまり、rotundone は、 -guaiene 上の 2 位の炭素がケトン基へと酸化された結果、生成される。本学位論文では、 -guaiene から rotundone への変換と同様な酵素反応を触媒する premnaspirodiene oxygenase の遺伝子配列を 基に、12-fold coverage genome sequence assembly (PN40024) から候補遺伝子を選出し、‘Syrah’ から候補遺伝子を単離するとともに、単離遺伝子がコードする酵素の機能性解析を行った。 そ の 結 果 、‘Syrah’ か ら -guaiene を rotundone に 変 換 す る -guaiene 2-oxidase VvSTO2 (CYP71BE5) を同定した。VvSTO2 の発現はブドウ果実における rotundone の局在に一致し、 ‘Syrah’外果皮でより高いレベルで発現した。 -guaiene もまたブドウ外果皮中に非常に高い 濃度で検出した。これらの結果は、rotundone の蓄積は前駆物質である -guaiene の利用可能

性及び VvSTO2 の発現によって制御されていることを示唆した。これらの結果に基づき、

VvSTO2 はブドウ中の rotundone 生合成機構における鍵酵素と考えられた。

ブドウ果実においては、isopentenyl diphosphate と dimethylallyl diphosphate はプラスチド に局在する2-C-methyl-D-erythritol-4-phosphate (MEP) 経路及び細胞質に局在する mevalonate (MVA) 経路から供給され、それらが farnesyl diphosphate synthase (FPPS) によって farnesyl diphosphate (FPP) に変換される。FPP は -guaiene synthase によって -guaiene に変換され、 その後VvSTO2 によって rotundone に変換される。このように rotundone 生合成に関与する 遺伝子が次々と同定されたが、実際どの遺伝子がブドウ果実中のrotundone 蓄積レベルを制

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御しているのかは明らかではない。本学位論文では、2 つの異なる畑、祝村ヴィンヤード(祝 村)及び城の平ヴィンヤード(城の平)で栽培された‘Syrah’において、rotundone 生合成機 構に関連する遺伝子発現プロファイルを示した。祝村と比較して、高い標高に位置し、よ り冷涼な気候を有する城の平で、ブドウ外果皮中の -guaiene 及び rotundone の蓄積レベルが 顕 著 に 高 か っ た 。MEP 経 路 上 に 位 置 す る 遺 伝 子 の 中 で は 、 véraison 期 後 1-Deoxy-D-xylulose-5-phosphate synthase (DXS)の転写レベルが城の平で高かった。MVA 経路 上の遺伝子であるVvTPS24 及び VvSTO2 は果実成熟期間中、両畑で顕著な差は見られなか った。一方、FPPS は城の平で成熟期間を通し高いレベルで発現した。以上の結果により、 FPPS 及び DXS が rotundone 蓄積レベルを決定する鍵酵素であることが示唆された。

論文審査結果の要旨

ブドウ品種‘Syrah’はフランス、コート・デュ・ローヌ地方北部を原産とする赤ワイン 用ブドウ品種である。‘Syrah’は、1990 年の品種別栽培面積(世界)で 35 位であったが、 2010 年には第 6 位と、世界各国で急速に栽培面積を拡大した重要品種である。近年、日本 においても山梨県、長野県で‘Syrah’の栽培が始められ、‘Syrah’の特徴を反映したワ インが生産され始めている。本学位論文は‘Syrah’ワインの香りの特徴(スパイス、胡椒 などの表現がなされる)に起因する化合物として同定されたセスキテルペノイドの一種で あるrotundone の生合成メカニズムを解明することを目的に、3 つの研究項目を実施した。 第一にrotundone 定量法の開発を実施した。rotundone はブドウ果実及びワイン中に極 微量にしか含まれていないために、これまでその定量には複雑な操作が必要とされてきた。 本学位論文では、rotundone を高感度且つ簡便に定量する方法として、stir bar sorptive extraction 法を用いた 2 次元ガスクロマトグラフ質量分析計を採用した新規定量法を開発 した。本定量法の回収率及び相対標準偏差は非常に良好であるため、本定量法は今後の rotundone 定性・定量分析のスタンダードになると考えられる。

次に、rotundone 生合成に関与する酵素の同定及び機能解析を実施し、rotundone 生合成 メカニズムにおける鍵酵素として、α-guaiene から rotundone への変換を触媒する酵素 α-guaiene 2-oxidase (CYP71BE5)を同定した。これまでは α-guaiene から rotundone への 変換は好気条件下での化学的酸化によるものとされていたが、本学位論文はその説を覆し、 ブドウ果実内では内在する酵素による触媒によってα-guaiene から rotundone への変換が

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起こることを世界で初めて証明した。これまで未解明であった本酵素の同定により、 rotundone 生合成経路を完全解明したことは高く評価される。

最後に、rotundone の蓄積を決定する遺伝子の同定を実施し、farnesyl diphosphate synthase 及び 1-Deoxy-D-xylulose-5-phosphate synthase を同定した。ブドウ果実におけ るrotundone 蓄積量は、気候、土質及び地形、土壌湿度などの環境ファクターによって、 直接的あるいは間接的に影響を及ぼすことが知られている。今後これらの知見を活用する、 例えば、両遺伝子をrotundone 蓄積の遺伝子マーカーとして利用する、ことで、様々な地 域特性が‘Syrah’果実における rotundone 蓄積にどのように影響しているのか、また複 雑に絡み合う環境ファクターの中でどの要因がより重要な影響を与えているのか、などを 評価でき、その結果として、世界的に栽培面積が急速に拡大する‘Syrah’における栽培地 の選択、栽培法の開発等に本知見が応用されることが期待される。 これらの学位論文の研究内容は、英文論文3 報として国際学術誌に第一著者で発表され、 その独創性及び応用性から高い評価を受けている。今後我が国でも‘Syrah’栽培が拡大し ていくものと思われる中、‘Syrah’栽培地の選択、栽培法の開発等に応用され得る研究成 果を示した本博士論文は、日本のブドウ及びワイン産業に真に貢献するものと審査員一同 により確認された。以上のことから、本論文は博士(工学)の学位論文に値し、学位申請 者の研究能力は非常に優れており、博士(工学)を授与するに値すると審査員一同が認め、 合格と判定した。

参照

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