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<論説>弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反

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(1)弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反. 論 説. 弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反 岩﨑 政明 Ⅰ はじめに 本稿は、弁護士法 23 条の 2 に定める、いわゆる弁護士会照会に対して、 顧客情報について守秘義務を負う税理士等の専門家がその職務上知り得た情 報を回答報告した場合に、当該専門家は守秘義務に違反したとして、罰則の 適用を受けたり、当該情報を開示された顧客からの損害賠償請求が是認され ることがあるかという問題について検討を加えるものである。 弁護士法 23 条の 2 は、「報告の請求」 という見出しのもと、次のように規定 する。 第 1 項 「弁護士は、受忍している事件について、所属弁護士会に対し、 公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出る ことができる。申出があった場合において、当該弁護士会は、その申出が適 当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。」 第 2 項 「弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団 体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。 」 同条の定める制度を弁護士会照会制度というが、これは昭和 26 年の弁護 士法の一部改正によって新設されたもので、諸外国の弁護士法においては余 り類を見ないわが国独自の制度であるといわれている 1)。この制度の趣旨は、 3.

(2) 横浜法学第 24 巻第 1 号(2015 年 12 月). 「弁護士が受任事件について、訴訟資料を収集し、事実を調査する等その職 務活動を円滑に執行処理するために設けられた規定であって、弁護士が、基 本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とするものであることに鑑 み、右照会の制度もまた公共的性格を有し、弁護士の受任事件が訴訟事件と なった場合には、当事者の立場から裁判所の行う真実の発見と公正な判断に 寄与するという結果をもたらすことを目指すもの」(大阪高判昭和 51・12・ 21 下民集 27 巻 9 = 12 号 809 頁)であるといわれている 2)。 弁護士会照会制度の特徴は、二段階構造をとっていることにあり、個々の弁 護士は所属弁護士会に対して照会申出権があるにとどまり、照会先に対する具 体的照会権限は弁護士会という機関が有する点にある。 また、照会要件も厳密に法定されている。すなわち、照会事項は、受任事件 に関するものでなければならず、照会先も公務所又は公私の団体に限定されて おり、個人に対する照会は原則として許されない。個人を除外した理由は、 「公 務所又は公私の団体の報告は一般的に信用性が高いと認められること、また、 資料の保管、回答の手続等が一般に整備されていて報告義務を課しても不合理 ではないと考えられることによるものと思われる」3)とされている。それゆえ、 実質的に団体と目すべき 1 個の社会的組織体、例えば法律事務所、特許事務所、 税理士事務所、公認会計士事務所、司法書士事務所、個人病院等はたとえ個人 経営であったとしても、「1 個の組織体として社会的機能を営んでおり、その 報告は信用性が認められるとともに、これらに対して報告義務を課することに 社会的妥当性が認められるから、私的団体として照会先となるものと解してよ 1)‌法務省司法法制調査部『諸外国における弁護士法』 、小山昇 「第 7 回国際民事訴訟法国際 会議」 民訴雑誌 30 巻 270 頁以下、 日本弁護士会連合会調査室編『条解弁護士法』 (第 4 版、 弘文堂、2007 年)160 頁。 2)前掲注(1) 『条解弁護士法』160 頁。 3)前掲注(1) 『条解弁護士法』163 頁。 4.

(3) 弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反 4). いであろう」. といわれている。. さらに、照会要件によれば、具体的照会を行うかどうかは弁護士会が判断す ることになっているので、照会先が報告するに不適切な事項に関する場合、す なわち「照会事項が照会先の所掌事務に属さない場合、照会先と照会事項との 間に整合性を欠く場合や、民事事件における被告本人の供述の信用性を弾劾す る証拠とするために、供述人の前科・犯罪歴の報告を求める照会申出のように、 報告することが権利侵害となる場合等」5)や照会事項に係る具体的な特定を欠 く場合には、照会申出を拒絶することができるし、照会理由が明らかでない場 合にも照会申出を拒絶することができる。後者の照会理由の開示については、 「弁護士会が照会申出の適否を判断することができる程度に具体的でなければ ならない」. 6). といわれている。この際、照会理由の開示が弁護士の守秘義務に. 違反することがないかという問題があるが、「受任事件の開示と同様、弁護士 会の審査のために必要な限度でなされる場合には正当な理由があるものとして 守秘義務に違反しない」 と解されている 7)。 このように、弁護士会照会は、不適切に行使されないように弁護士法により 厳密に規律されているのであるが、他方で、照会先の方にもその知り得た顧客 情報等について守秘義務が課されている場合がある。当該守秘義務の具体的内 容は、個人情報保護法や個別業法等の法律により規定されている場合もあれば、 職務倫理規範として私的に規律されている場合もあろう。そのような照会先の 典型は、官公庁、税理士・公認会計士・弁理士等の専門家や銀行・保険会社等 の信用機関である。 4)‌飯畑正男『照会制度の実証的研究』 (日本評論社、1984 年)67 頁、前掲注(1) 『条解弁護 士法』164 頁。 5)前掲注(1) 『条解弁護士法』165 頁。 6)前掲注(1) 『条解弁護士法』165 頁。 7)前掲注(1) 『条解弁護士法』165 頁。 5.

(4) 横浜法学第 24 巻第 1 号(2015 年 12 月). そこで、弁護士会照会の行使に際しては、公正な裁判を受けるための司法正 義の要請と顧客のプライバシーや営業秘密を守るという正義とが対立する場面 が起こりうる。どのような事由について、いかなる基準により、これら二つの 正義の優先劣後が判定されるのであろうか。また、弁護士会照会に対して回答 報告を適法になした照会先が、この適法行為に対して守秘義務違反を理由とし て罰則の適用を受けたり、情報を開示された顧客からの損害賠償請求が認めら れることがあるのであろうか。最近の興味深い裁判例を素材として、次に検討 することにしよう。. Ⅱ 弁護士会照会に対する回答報告について損害賠償を是認した裁判例 事例は、Y 税理士(被告・被控訴人)が弁護士法 23 条の 2 の弁護士会照会 に応じて、自己の依頼人であった納税義務者 X(原告・控訴人)の確定申告書 等の写しを CD-R の電子的データ形式により提供したことが不法行為を構成す るかどうかが争われたものである。事実関係を詳述すると次のとおりである。 ① 納税義務者 X は、X 工務店を経営しながら、平成 19 年 9 月に株式会社 A 社に入社し、平成 23 年 2 月 20 日まで在籍していた。 ② Y 税理士は、従前は個人税理士事務所を営んでいたが、平成 21 年 7 月 1 日に訴外税理士法人を設立し、その代表社員に就任した。また、A 社の顧問 税理士を務めていた。 ③ A 社は、X の実母である A が平成 25 年 3 月 25 日まで代表取締役を務 めており、また、A の実兄である B が実質的オーナーである会社である。 ④ Y 税理士は、X から依頼を受けて平成 15 年分から平成 20 年分につき、 また依頼の有無について争いがあるものの平成 21 年分についても、それぞれ 所得税の確定申告書を作成し、申告手続終了後も、X の平成 15 年分から平成 21 年分までの確定申告書の写し及び総勘定元帳の写しを電子的に保管してい た。 6.

(5) 弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反. ⑤ A 社は、平成 23 年頃、Z 弁護士を訴訟代理人として、同社の前代表取 締役であった A を被告として、京都地方裁判所に、A が代表取締役在任中に、 (a)A の親族が所有する不動産を不当な高値で A 社に買い取らせ、 (b)A 社 から、平成 22 年 4 月以降稼働実態のない X に対し給与及び賞与を支給させる とともに、X に係る法定福利費を負担させ、A 社に損害を生じさせたと主張 して、民法 709 条又は会社法 423 条 1 項に基づき、損害賠償金の支払いを求め るとともに、A 社が A に対し金銭の貸付をしたとして、その返還を求める訴 訟(以下 「別件訴訟」という。 )を提起した。 ⑥ この別件訴訟につき、京都地方裁判所は、平成 24 年 11 月 29 日付けで A 社の請求をいずれも棄却する判決を言い渡したが、控訴審である大阪高等 裁判所は、平成 25 年 6 月 28 日付けで、原判決を変更し、A に対して、A 社 に損害賠償金等の支払を命ずる判決を言い渡した。A が上告したため、別件 訴訟は最高裁判所において審理継続中である。 ⑦ Z 弁護士は、この別件訴訟が控訴審に継続中であった平成 24 年 12 月 27 日付けで、京都弁護士会に対し、訴外税理士法人を照会先として、別紙記 載の 「申出の理由」(以下 「本件照会申出理由」 という。 )を付して、次の照会 事項について回答を求めるため、弁護士会照会の申出をしたところ、同弁護士 会は、同月 28 日に受け付け、同日中に訴外税理士法人に対し、本件照会申出 書の写し自体を副本として添付して、 照会を行った (以下 「本件照会」 という。 ) 。 本件照会の文面は次のとおりである。 「X 氏に関し、下記の点についてご回答ください。 記 1 訴外税理士法人において、X の確定申告を行った、あるいは、関与された ことはありますか。 2 上記 1 において、あるという場合、その期間はいつからいつまでですか(平 成○年から平成○年まで等) 3 上記 1 において、あるという場合、確定申告を行った、あるいは関与され 7.

(6) 横浜法学第 24 巻第 1 号(2015 年 12 月). た X の確定申告書及び総勘定元帳の写しを回答書に添付願います(大量にあ る場合は直近 10 年分で結構です) 。 」 なお、京都弁護士会からの本件照会の依頼書には、以下のとおりの記載(以 下 「本件照会注意書」 という。 )がされていた。 「弁護士会は、裁判所や捜査機関と同様の権限が付与された公的機関であり、 かつ、所属弁護士とは独立した機関であります。弁護士会は、所属弁護士の照 会申出に対し、法律に基づき、申出が適当か否かを審査しています。特に、照 会を求める事項が個人の情報に関わるときは、①当該秘密の性質、法的保護の 必要性の程度、②当該個人と係争当事者との関係、③報告を求める事項の争点 としての重要性の程度、④他の方法によって容易に同様な情報を得られるか否 か等を総合考慮して、照会申出の必要性及び相当性を判断したうえで照会をし ておりますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。 」 「また、弁護士法 23 条の 2 に基づく照会は、個人情報保護法令の保護除外事由にあたりますの で、回答に際して、紹介の対象である本人の同意を得ていただく必要はありま せん。 」 ⑧ 訴外税理士法人は、X の同意を得ることなく、平成 15 年 1 月 8 日付け で、照会に対して平成 15 年から平成 21 年まで確定申告を行っていたことを回 答したうえ、同期間の確定申告書及び総勘定元帳の写しを CD-R の形式で提供 した(以下 「本件開示行為」 という。 ) 。なお、本件開示行為として、訴外税理 士法人から提供された X の平成 21 年分確定申告書(控え)に添付された青色 申告決算書には、「本年中における特殊事情」 の欄に、「平成 21 年に関しては、 体調不良(腰痛)のため就労することができなかった」 との記載(本件特殊事 情記載)があった。 ⑨ Z 弁護士は、別件訴訟の控訴審において、本件回答で得られた X の平 成 20 年分及び同 21 年分の各確定申告書(控え)を書証として提出した。大阪 高等裁判所は、平成 25 年 6 月 28 日、別件訴訟につき、原判決を変更して、A に対し、A 社に損害賠償金等の支払を命じる判決を言い渡した。上記判決は、 8.

(7) 弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反. 判決理由中で、本件確定申告書等のうち、本件特殊事情記載を A 社に有利な 証拠として評価している。 ⑩ これを受けて、X は、Y 税理士自らが代表役員を務める税理士法人に対 する弁護士会照会に応じて、同税理士法人をして、X の承諾を得ないまま、そ の確定申告書控えなどを開示したことがプライバシー権を侵害する不法行為に あたると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料等の支払 を求めて提訴した。 京都地方裁判所平成 25 年 10 月 29 日判決(平 25(ワ)第 579 号)は、X の 請求を全部棄却したので、X はこれを不服として控訴した。 大阪高等裁判所平成 26 年 8 月 28 日判決(判例時報 2243 号 35 頁)は、次の ような理由を示したうえ、原判決を変更し、損害賠償金等の支払を認める逆転 の変更判決を行った。 (1)弁護士会照会に対する回答義務について 「23 条照会を受けた公務所又は公私の団体は、同照会に応じずに報告をしな かった場合についての制裁を定めた規定はないものの、当該照会により報告を 求められた事項について、照会をした弁護士会に対して、法律上、原則として 報告する公的な義務を負うものと解するのが相当である。 」 しかしながら、照会先におけるプライバシーや職務上の秘密保護義務等の 保護されるべき他の権利利益を侵害するおそれのある場合も少なくないので、 「23 条照会を受けた者は、どのような場合でも報告義務を負うと解するのは相 当ではなく、正当な理由がある場合には、報告を拒絶できると解すべきであ る。そして、正当な理由がある場合とは、 照会に対する報告を拒絶することに よって保護すべき権利利益が存在し、 報告が得られないことによる不利益と照 会に応じて報告することによる不利益とを比較衡量して、 後者の不利益が勝る と認められる場合をいうものと解するのが相当である。 この比較衡量は、23 条 照会の制度の趣旨に照らし、保護すべき権利利益の内容や照会の必要性、 照会 事項の適否を含め、 個々の事案に応じて具体的に行わなければならないもので 9.

(8) 横浜法学第 24 巻第 1 号(2015 年 12 月). ある。 」 (傍線=岩﨑) (2)税理士法 38 条に基づく守秘義務について 「税理士の守秘義務の例外としての『正当な理由』 (税理士法 38 条)とは、 本人の許諾又は法令に基づく義務があることをいうと解されるところ、一般的 には23 条照会に対する報告義務も『法令に基づく義務』 に当たると解される。 」 (傍線=岩﨑) 「もっとも、23 条照会に対する報告義務は絶対的なものではなく、被照会者 は正当な理由があるときは報告を拒絶することができると解されることは上記 ……のとおりである。そして、税理士の保持する納税義務者の情報にプライバ シーに関する事項が含まれている場合、当該事項をみだりに第三者に開示され ないという納税義務者の利益も保護すべき重要な利益に当たると解される。し たがって、 税理士は、 23 条照会によって納税義務者のプライバシーに関する事 項について報告を求められた場合、 正当な理由があるときは、 報告を拒絶すべき であり、 それにもかかわらず照会に応じて報告したときは、 税理士法38 条の守 秘義務に違反するものというべきである。 そして、 税理士が故意又は過失によ り、 守秘義務に違反して納税義務者に関する情報を第三者(照会した弁護士会 及び照会申出をした弁護士) に開示した場合には、 当該納税義務者に対して不法 行為責任を負うものと解される。 」 (傍線=岩﨑) (3)本件開示行為の違法性について 「本件照会申出の理由は、A 社が、別件訴訟において、X が平成 22 年 3 月 以降、体調を崩して就労困難な実態にあり、A 社における就労実態がなかっ たことを立証するためのものということである。 」 「平成 22 年 3 月以降の X の 体調不良を立証しようとするのであれば、X の平成 22 年の確定申告書等とそ れ以前の確定申告書等を比較するのでなければ意味がないはずである。とこ ろが、Y 税理士が X の確定申告を行っていたのは平成 15 年から平成 21 年ま でであり、……平成 22 年の確定申告は担当していない。そうであるとすれば、 Y 税理士の所持する確定申告書等だけでは X が平成 22 年に体調不良により収 10.

(9) 弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反. 入が減少したかどうかを認定することはおよそ期待できないというべきである から、照会事項 1、2 の回答いかんにかかわらず最長 10 年間にわたる確定申告 書等の送付を求める照会事項 3 は、23 条照会としての必要性、相当性を欠く 不適切なものといわざるを得ない。 」 「他方、本件開示行為によって開示されたのは、X の平成 15 年から 21 年ま での 7 年間にわたる確定申告書及び総勘定元帳の写しである。確定申告書及び 総勘定元帳の内容は、X 本人の収入額の詳細のほか、営業活動の秘密にわたる 事項や家族関係に関する事項等、プライバシーに関する事項を多く含むもので あり、これらの事項がみだりに開示されないことに対する X の期待は保護さ れるべき法益であり、これらの事項が開示されることによる X の不利益は看 過しがたいものというべきである。 」 「以上の検討の結果によれば、本件確定申告書等については、これが開示さ れることによる X の不利益が本件照会に応じないことによる不利益を上回る ことが明らかである。したがって、Y 税理士が本件照会に応じて本件確定申告 書等を送付したこと(本件開示行為)は、守秘義務に違反する違法な行為とい うべきである。 」 (4)Y 税理士の故意・過失について 「Y 税理士は、税務関係に限られるとはいえ、法律実務に従事する者である から、本件照会申出の理由に照らし本件照会事項が適当でないことを十分認識 し得たと考えられる。 」 「Y 税理士は、A 社と X の双方と確定申告業務等の 委嘱契約関係を有していたところ、本件照会は、A 社の代理人弁護士からの 照会申出に基づくものであり、本件開示行為は、X のプライバシーに属する事 項を含む情報を A 社に提供する結果となるものである。 」 「さらに、Y 税理士は、平成 22 年分以降は、X から確定申告の依頼を受けて おらず、本件照会の時点(平成 24 年 12 月)では依頼を受けなくなってから 2 年以上経過しているのであり、X との業務委嘱契約は黙示に解除されていたと 解されるから、本来は、本件確定申告書等を X に返還すべきであり(近畿税 11.

(10) 横浜法学第 24 巻第 1 号(2015 年 12 月). 理士会綱紀規則 11 条 3 項) 、返還していれば、本件照会時点で本件確定申告書 等の情報は保持しておらず、したがって本件照会に対して報告できないはずの ものであったともいえる。 」 「以上によれば、Y 税理士は、本件照会に対して本件確定申告書等の開示を 拒絶すべきであること(本件開示行為が違法であること)を認識し得たもので あり、そうでないとしても、X の意向を確認する等した上で本件照会への対応 を判断すべきであったと認められる。したがって、Y 税理士は、少なくとも、 X の意向を確認する等することもなく安易に本件照会に応じて本件開示行為を 行ったことにつき、過失があるというべきである。 」 (5)まとめ 「以上のとおりであるから、Y 税理士が訴外税理士法人をして本件開示行為 をさせたことについては、X に対する不法行為が成立するものというべきであ り、Y 税理士は、これによって X が被った損害を賠償する責任がある。 」 本件は、弁護士会照会との関係で税理士の守秘義務違反が問題とされた珍し い事例であり 8)、現在、上告・上告受理申立中である。大阪高裁判決の引用文 中、傍線を引いた部分が規範定立の部分であり、その後が事実関係へのあては めになるが、以下においては、規範定立部分において示された弁護士法 23 条 の 2 に係る弁護士会照会に基づく回答義務と税理士法 38 条に基づく守秘義務 との優先劣後に係る解釈論と、本件事実関係における不法行為の成立に係る判 断の当否について、検討を進めることにする。. Ⅲ 照会拒否に係る正当な理由 本件大阪高裁判決は、弁護士法 23 条の 2 に係る弁護士会照会に基づく回答. 8) 「本件判決解説」判例時報 2243 号(2015 年)36 頁。 12.

(11) 弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反. 義務を法律上の公的義務としながらも、同時にそれは絶対的な義務ではなく、 正当な理由があれば、報告拒絶も可能であると説く。そして、この正当理由は、 照会に対する報告を拒絶することによって保護すべき権利利益が存在し、 「そ の報告が得られないことによる不利益と照会に応じて報告することによる不利 益とを比較衡量して、後者の不利益が勝ると認められる場合」に認められると する基準を明らかにしている。 このような解釈指針は、照会回答の違法性に関するリーディングケースとさ れ る 最高裁(三小)昭和 56 年 4 月 14 日判決(民集 35 巻 3 号 620 頁)に お い ても明らかにされている。この事案は、労働者の解雇事件が裁判所及び労働委 員会において係争中に、会社側の代理人弁護士が、「中央労働委員会、A 地方 裁判所に提出するため」 という理由により、所属弁護士会照会により、A 市 内の区役所に当該労働者の前科・犯罪歴の回答報告を求めたところ、同区長は これに回答し、前科歴を報告したので、会社側は経歴詐称を理由として当該労 働者を解雇したというものである。当該労働者は、同区長の報告は違法な公権 力の行使にあたり、かつこの回答によって名誉・信用・プライバシーが侵害さ れたとして、A 市を被告として国家賠償請求をした。 最高裁は、結論として、 「本件において、原審の適法に確定したところによ れば、A 弁護士会が訴外弁護士の申出により A 市 B 区役所に照会し、同市 C 区長に回付された被上告人の前科等の照会文書には、照会を必要とする事由と しては、右照会文書に添付されていた訴外弁護士の照会申出書に『中央労働委 員会、A 地方裁判所に提出するため』とあったにすぎないというのであり、こ のような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽 重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使に当たる と解するのが相当である」 として、報告開示を拒絶すべきであった旨を判断し ているのであるが、<照会に対する報告を拒絶することによって保護すべき権 利利益が存在し、報告が得られないことによる不利益と照会に応じて報告する ことによる不利益との比較衡量>に相当する判断として、 「前科及び犯罪経歴 13.

(12) 横浜法学第 24 巻第 1 号(2015 年 12 月). (以下 「前科等」 という。 )は人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科 等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を 有するのであって、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する 犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはい うまでもないところである。前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、 市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合 には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等に つき回答することができる」 との例外も認めている。 要するに、裁判例の一般的傾向としては、報告拒絶が是認される 「正当な理 由」 の存否の判断は、個人の名誉やプライバシー、公務員等の秘密保持義務、 捜査の密行性、信書の秘密、預金者の秘密保護、円滑な職務執行等の様々な利 益・法益と、弁護士会照会に認められた司法正義の実現や公共的利益との個別 具体的な比較衡量によって決されるとの立場をとっているものと解してよいで あろう 9)。 この点については、平成 17 年 4 月から個人情報保護法が施行され、公務所 又は公私の団体の保有する情報が同法の適用対象になった後においても変わり はないといえよう。すなわち、同法 23 条 1 項は、「個人情報取扱事業者は、次 に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第 三者に提供してはならない。 」と定め、同項 1 号に掲げる 「法令に基づく場合」 には、弁護士法 23 条の 2 に定める弁護士会照会も含まれると解されてはいる が 10)、これは 「本人の同意」 の要否に関する規定であって、仮に本人の同意 があったとしても、開示すべきか否かの判断は別にありうるからである。開示 すべきか否かの判断に当たっては、前述の比較衡量によって決するほかはない 9)‌前掲注(1) 『条解弁護士法』169 頁、 高中正彦『弁護士法概説』 (第 2 版、 三省堂、2003 年) 115 頁。 10)前掲注(1) 『条解弁護士法』174 頁。 14.

(13) 弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反. であろう。 そこで、租税情報に関する弁護士会照会について開示不開示の比較衡量の結 果は、従前の例ではどうだったであろうか。公務所の保有する租税情報に係る 照会については、「特定人の総収入・課税所得・納付税額等に関するものはも とより、確定申告の有無についてすら報告を拒絶されているのが通例である。 そして、報告拒絶の理由としては、法律上の根拠として国家公務員法 100 条 1 項、地方公務員法 34 条 1 項、所得税法 243 条、法人税法 163 条、相続税法 72 条、 地方税法 22 条等であり、行政上の根拠として行政通達等(自治省税務局長宛 内閣法制局第一部長回答昭和 38 年 3 月 15 日内閣法制局一発第 6 号等)があげ られている」. 11). とのことである。そして、このような報告拒絶の結果の原因. としては、各照会先の方は情報を開示することにより秘密漏示罪という刑罰受 けるおそれがあるのに対して、弁護士会照会の方は、回答拒絶をしても刑罰の 対象とはならない(弁護士法に罰則規定が存在しない。 )ことにあるのではな いかとの意見がある 12)。 私見においては、報告拒絶の原因として、これに加えて、弁護士会照会は、 弁護士が受任事件について行使することができるものなのであるが、それが訴 訟事件となれば、公務所又は公私の団体の保有する情報については、裁判所を 介してそれを入手するための制度があるので(たとえば、調査の嘱託のような ものである。民事訴訟法 186 条、刑事訴訟法 197 条 2 項、検察審査会法 36 条、 国会法 104 条等) 、そちらを優先的に使用すべきではないかという考慮もある のではないかと考える。ただし、これらの制度によっても証拠資料の入手が困 難な場合もあるであろうし、そのための司法正義が実現しないのは法治国家原 則にもとる結果が生ずるので、前掲最高裁昭和 56 年判決の示すように、<訴. 11)前掲注(1) 『条解弁護士法』170 頁。 12)前掲注(1) 『条解弁護士法』170 頁。 15.

(14) 横浜法学第 24 巻第 1 号(2015 年 12 月). 訟等の重要な争点となっていて、弁護士会から照会して回答を得るのでなけれ ば他に立証方法がないような場合>には、例外的に、弁護士会照会に対する回 答報告が守秘義務に優先することもありうると考える。 このような前提を踏まえると、本件のように、税理士の顧客租税情報に関す る弁護士会照会についての回答はどのように考えるべきであろうか。税理士 には、 「正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、 又は窃用してはならない」 (税理士法 38 条)との守秘義務があり、これに違反 すると、「2 年以下の懲役又は 100 万円以下の罰金」 (同法 59 条 1 項 3 号)に 処せられる。そうすると、形式的には、報告拒絶ができることになりそうであ るが、本件には、あえて開示しなければならない例外的事情があるといえるで あろうか。次に、 個別事情に関する「あてはめ」 について検討することにしよう。. Ⅳ 守秘義務違反及び損害賠償の成否 1 守秘義務違反の成否について 本件大阪高裁判決は、主として、①本件弁護士会照会の目的が「別件訴訟に おいて、X が平成 22 年 3 月以降、体調を崩して就労困難な実態にあり、A 社 における就労実態がなかったことを立証するため」であったのに対し、具体的 照会事項は、 「平成 15 年から平成 21 年まで確定申告を行っていたことを回答 したうえ、同期間の確定申告書及び総勘定元帳の写し」 を開示したという、い わば<照会目的ないし照会理由と照会事項との不整合>と、②確定申告書及び 総勘定元帳の内容は、X 本人の収入額の詳細のほか、営業活動の秘密にわたる 事項や家族関係に関する事項等、プライバシーに関する事項を多く含むもので あるという、いわば<保護法益の重要性>を考慮して、 「本件確定申告書等に ついては、これが開示されることによる X の不利益が本件照会に応じないこ とによる不利益を上回ることが明らかである。したがって、Y 税理士が本件照 会に応じて本件確定申告書等を送付したこと(本件開示行為)は、守秘義務に 16.

(15) 弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反. 違反する違法な行為というべきである」と結論づけていると解される。 特に、① X が平成 22 年 3 月以降に A 社における就労実態がなかったことの 証拠を求めるのであれば、X の確定申告書及び総勘定元帳を調査することは迂 遠であって、より直接的な照会先、調査方法がありうると解される。本件受任 弁護士は、A 社の代理人弁護士なのであるから、X の A 社における就労実態 は社内資料からも知りうる状況にあるはずであるし、X の健康状態等の情報が 必要であれば、医療機関等に弁護士会照会をしたり、あるいは裁判所を介して 民事訴訟法 186 条に基づく調査の嘱託を行うなどすればよいのであるから、最 高裁昭和 56 年判決を勘案しても、本件は、<弁護士会から照会して回答を得 るのでなければ他に立証方法がないような場合>には当たらないと解される。 また、税理士法 38 条は、守秘義務の例外として、「正当な理由」 を掲げて いるところ、その意義については、公定解釈では、 「本人の許諾又は法令に基 づく義務があることをいうものとする」 (税理士法基本通達 38-1)とされてい る 13)。ここにいう 「法令に基づく義務」 には、弁護士法 23 条の 2 に係る回答 報告義務も含まれるが、税理士法 38 条は、「税理士は、正当な理由がなくて、 税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし」てはならないと消極的に規定 しているだけであり、正当な理由に該当する事由があれば秘密を開示しなけれ ばならないと定めているわけではない以上、税理士は、情報を開示すべきか否 かについて比較衡量して決する自由があるといえる。すなわち、弁護士会照会 に基づいて顧客情報を開示した場合には守秘義務違反に問われないと法定され ているわけではないのである。 以上のことを勘案すると、本件大阪高裁判決の理由は相当であると解される。. 13)詳しくは、坂田純一『新版実践税理士法』 (中央経済社、2015 年)246 頁以下参照。 17.

(16) 横浜法学第 24 巻第 1 号(2015 年 12 月). 2 不法行為に基づく損害賠償請求の成否について 本件大阪高裁判決は、主として、① Y 税理士が「法律実務に従事する者で あるから、本件照会申出の理由に照らし本件照会事項が適当でないことを十分 認識し得たと考えられる」こと、② Y 税理士は、A 社と X の双方と確定申告 業務等の委嘱契約関係を有していたにもかかわらず、本件開示行為は、X のプ ライバシーに属する事項を含む情報を訴訟当事者である A 社に提供する結果 となり、不適切な立場にあることを認識し得たと考えられること、③さらに、 Y 税理士は、平成 22 年分以降は、X から確定申告の依頼を受けていなかった のであるから、照会目的に適した情報を提供できる立場になかったことから、 「Y 税理士は、本件照会に対して本件確定申告書等の開示を拒絶すべきである こと(本件開示行為が違法であること)を認識し得たものであり、そうでない としても、X の意向を確認する等した上で本件照会への対応を判断すべきで あったと認められる。したがって、Y 税理士は、少なくとも、X の意向を確認 する等することもなく安易に本件照会に応じて本件開示行為を行ったことにつ き、過失があるというべきである」 として、損害賠償義務を負わせている。 本件大阪高裁判決における過失の認定判断は合理的であって、基本的に妥当 であると解される。ただし、X の確定申告書等の保管について、Y 税理士は 「本 件照会の時点(平成 24 年 12 月)では依頼を受けなくなってから 2 年以上経過 しているのであり、X との業務委嘱契約は黙示に解除されていたと解されるか ら、本来は、本件確定申告書等を X に返還すべきであり(近畿税理士会綱紀 規則 11 条 3 項) 、返還していれば、本件照会時点で本件確定申告書等の情報は 保持しておらず、したがって本件照会に対して報告できないはずのものであっ たともいえる」 という理由を挙げている点には疑問がある。近畿税理士会綱紀 規則 11 条 3 項が返還を定めているのは、依頼者の確定申告書等の資料の原本 についてであって、本件において開示されたのは、税理士において保管されて いたこれらの資料の写しの電子データである。税理士法 41 条 5 項は、税務に 係る帳簿について、閉鎖後 5 年間保存しなければならないと規定し、同法施行 18.

(17) 弁護士会照会に対する回答報告と守秘義務違反. 規則 19 条により、この帳簿を磁気ディスクをもって調整する場合にも適用し ている 14)。実際には、依頼者に係る税務調査等に対応するため、租税ほ脱や 更正処分に係る除斥期間に対応して、7 年間程度は資料を保管していることが ありうる。資料を保管していたことが過失に該当するのではなくて、照会目的 と適合しない期間の租税資料を安易に開示したことが過失に該当するのである というべきである。. Ⅴ おわりに:残された問題 以上の検討したように、本件大阪高裁判決の判旨に基本的に賛成する。しか しながら、この判決から派生して、新たな問題も起こりうるので、最後にこれ を整理しておこう。 第 1 に、本件税理士の回答報告は守秘義務違反に該当すると判断されたわけ であるが、それでは、同税理士に対しては、当然に税理士法 59 条 1 項 3 号に 基づき罰則の適用があるのかという問題がある。この点については、本判決は あくまで不法行為に基づく損害賠償を認めた民事事件における判断であるか ら、税理士法 59 条 1 項 3 号の刑罰の適用対象となる守秘義務違反があったと いえるかどうかについては、より詳細な証拠調べと慎重な判断が必要となると いうべきである。 第 2 に、本件税理士は照会目的ないし照会理由に適合しない開示事項を照会 した弁護士会に対して損害賠償請求ができるかという問題がある。弁護士法 23 条の 2 第 1 項は、弁護士会照会に先立ち、受任弁護士から照会申出があっ た場合に、 「弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶 することができる」 と規定しており、申出の当否について審査することを前提. 14)坂田・前掲注(13)253 頁以下参照。 19.

(18) 横浜法学第 24 巻第 1 号(2015 年 12 月). にしている。本判決が示すように、本件では照会申出の理由に照らし照会事項 自体が適当でなかったのであり(本判決は、「照会事項 1、2 の回答いかんにか かわらず最長 10 年間にわたる確定申告書等の送付を求める照会事項 3 は、23 条照会としての必要性、相当性を欠く不適切なものといわざるを得ない」 と述 べている。 ) 、この弁護士会の審査不尽に基因して(本判決は、傍論ながら、「 京都弁護士会は、弁護士の申出を受け付けた当日に、直ちに本件照会を Y 税 理士に発送しており、厳格な審査が行われた形跡はない。 」 と述べている。 ) 、 これに回答報告したことを違法とする損害賠償の責任を負った Y 税理士は、 京都弁護士会に対して、不法行為による損害賠償請求を提起することはできる と思われる。弁護士会としては、弁護士会照会するに際して、受任弁護士や弁 護士会自身にも受任事件に係る守秘義務があるとしても、照会先も同様に守秘 義務等を負っていることに鑑み、照会先が少なくとも「報告が得られないこと による不利益と照会に応じて報告することによる不利益とを比較衡量」できる 程度に明確な照会目的ないし照会申出理由を明らかにした上で、それに対応す る照会事項を作成すべきである。 弁護士会照会の書式自体はかなり整備されているのであるから 15)、記述内 容について、より制度趣旨に合致したものにする努力が必要であると考えるの である。京都弁護士会が行った本件照会事項書の記載は、極めてずさんである といわざるを得ない。. 15)‌具体的には、東京弁護士会調査室編『弁護士会照会制度』 (第 4 版、商事法務、2013 年) 227 頁以下の書式集を参照。 20.

(19)

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