青年期における適応的退行と母親の養育態度認知との関連性 [ PDF
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(2) Ⅱ.方法. 2)実施時期:2003 年 9 月∼11 月下旬。. 1.質問紙調査. 3)実施場所:大学構内の面接室を利用し、90 度法で行. 1)調査対象:大学生 381 名(男性 210 名、女性 171. った。. 名) 。平均年齢は 19.42 歳、標準偏差は 1.22。. 4)調査内容:①東大式エゴグラム(TEG). 2)実施時期:2003 年 7 月∼10 月。. ②ロールシャッハ法。 スコアリングは名大法にもとづく。. 3)調査内容:①母親の養育態度測定尺度(延岡・小高,. 5)実施手続き:TEG 施行後、ロールシャッハ法を実施. 1992)・・7 件法。 「情緒的支持」 、 「感情的統制」 、 「放任」 、. した。. 「同一化」の 4 因子からなる。幼いころの母親の養育態. 6)分析視点:各群の全体的傾向を把握するため、①量. 度を回想して記入するよう教示を行った。. 的分析、②一次過程的思考の出現と統制、二次過程的思. ②筆者が作成した文章完成法(SCT-S と略す)・・ 「私が幼. 考、③感情カテゴリー、④思考・言語カテゴリーの4つ. かったころ、お母さんは」 「私が幼かったころ、お母さん. の視点を中心として量的分析を行う。次に、より詳細に. と一緒にして楽しかったことは」 「私が幼かったころ、私. 自我の退行と進展の様相を捉えるため、継起分析を中心. と遊んでいるときのお母さんは」 「私が幼かったころ、お. とした検討を行う。. 母さんがもう少し」 「私が幼かったころ、お母さんと一緒 にいたときの私の気持ちは」 「私が幼かったころ、お母さ. Ⅲ.結果と考察. んはよく私」の 6 項目。. 1.質問紙による母親の養育態度の分析. ③想起年齢を記入してもらう。. 1)母親の養育態度測定尺度の分析. 4)実施手続き:講義時間に一斉配布して集団で実施し. 母親の養育態度測定尺度の回想年齢平均値は5.98 (SD. た。. =2.184)であり、おおよそ筆者が想定していた年齢を. 5)分析方法:①仮説検討のため、 「情緒的支持」 「感情. 回想していることがわかった。. 的統制」の 2 因子に着目する。情緒的支持因子得点の平 均値+0.5SD、感情的統制因子得点の平均値−0.5SD を. 次に、母親の養育態度測定尺度の因子ごとの平均値を 求めた(表 1 参照)。. 情緒的支持が高く、感情的統制が低い群(HL 群と略す)、 情緒的支持因子得点の平均値−0.5SD、感情的統制因子 +0.5SD を情緒的支持が低く(LH 群と略す)、感情的統制 が高い群、情緒的支持因子得点の平均値+0.5SD、感情 的統制因子得点の平均値+0.5SD を情緒的支持が高く、 感情的統制が高い群(HH 群と略す)の 3 群を設定する。 ②回答内容に応じて以下のカテゴリーに分類する。. 表1 母親の養育態度測定尺度因子得点の平均値 情緒的支持 感情的統制 放任 同一化 45.52 34.18 29.55 35.93 ( 8.260) ( 8.297) ( 7.926) ( 7.786) 女子 49.23 34.29 28.49 36.64 ( 8.852) ( 8.852) ( 7.722) ( 8.597) 全体 47.18 34.23 29.07 36.25 ( 8.717) ( 8.362) ( 7.842) ( 8.158) ( )の数値は標準偏差 男子. SCT−S①、③・・Positive 評価、Negative 評価、両価 的評価、感情の付加なし、覚えてない、無記入。SCT− S②・・具体的な記述あり、ない、いろいろ、覚えてな い、無記入。SCT−S④・・特にない、遊んで・一緒に いて、優しくして、厳しくして、両価的評価、その他、 無記入。SCT−S⑤・・Positive 評価、Negative 評価、 両価的評価、普通、その他、覚えてない、無記入。SCT −S⑥・・Positive 評価、Negative 評価、感情の付加な. 情緒的支持因子のみ男女間で有意差が見られている(t =4.211,p<.01)。これは文野・藤田(2000)と同様 の結果を示しており、女子の方が母親の養育態度を情緒 的に支持されたと感じやすいようである。仮説検討のた め、情緒的支持因子、感情的統制因子に着目し、各群の 因子得点を表2に示す。. し、その他、無記入。SCT−S は、筆者以外の臨床心理. 表2 各群の情緒的支持因子、感情的統制因子平均得点 . 学を専攻する大学院生 3 名により評定された。. 情緒的支持 感情的統制 HL群 57.31(4.227) 24.44( 3.977) LH群 35.17( 7.295) 45.67( 5.751) HH群 54.90( 2.700) 42.95( 3.398) ( ) の数値は標準偏差. ③回想した年齢の平均値を求める。 2.ロールシャッハ法 1)調査対象:質問紙調査を実施した人の中から協力が 得られた 12 名(男性 3 名、女性 9 名)。平均年齢は 20.33 歳。. 2)SCT−S の群ごとの比較検討 6項目の SCT−S の一部(SCT−S②、③)を以下の.
(3) 表(表 3−2、表 3−3)に示す。. て反応を産出したり、こんな形があってもよいかと考え. 表3−2 SCT- S2のカテゴリー分類表. る思考の柔軟性が感じられる。. 記述あり. ない. いろいろ. 覚えてない. 無記入. 合計. LH 群では、快的感情が少なく、不安感情が高い事例. 2( 3.8). 2( 3.8). 52. が見られる。不気味なインクブロットに圧倒され、不安. 26( 56.5) 9( 19.6) 1( 2.2). 8( 17.4). 2( 4.3). 46. 感が高まりやすく、終始不安感情に脅かされてしまって. HH群. 18( 85.7) 0( 0). 1( 4.8). 1( 4.8). 21. いる様子がうかがわれる。快的感情が高い事例も見られ. 合計. 90( 75.6) 10( 8.4). 11( 9.2). 5( 4.2) 119. るが、快的感情が不安感情とともに見られる等、無条件. HL群. 46( 88.5) 1( 1.9). LH群. 1( 1.9). 1( 4.8) 3( 2.5). で反応産出を楽しむことができないようである。また、. 表3−3 SCT- S3のカテゴリー分類表 Positive. Negative. 両価的. 付加なし 覚えてない. 1( 1.9). 3( 5.8) 0( 0). 無記入. 合計. 部分反応が全体反応の割合に対して多いのが 2 事例に見. 2( 3.8) 52. られ、細部にこだわりやすい傾向が認められる。F%が. 20( 43.5) 11( 23.9) 1( 2.2). 2( 4.3) 8( 17.4) 2( 4.3) 46. 高い事例が見られていることからは、物事を単純化し、. HH群. 12( 57.1) 3( 14.3) 1( 4.8). 0( 0). 個人的感情を交えず対処する傾向が強いことがうかがわ. 合計. 78( 65.5) 14( 11.8) 3( 2.5). 5( 4.2) 11( 9.2) 8( 6.7) 119. れる。反応を厳密に決定しようとしたり、自分のイメー. 数値は度数、( )は各群の合計度数に対する百分率. ジに合わない部分を些細な部分でも除去するような様子. HL群. 46( 88.5) 0( 0). LH群. 3( 14.3) 2( 9.5) 21. 全体を概観すると、HL 群は母親に対して Positive な気. も見られており、思考の固さが見うけられる。. 持ちを抱いている人が多く、幼いころに母親が子どもの. HH 群は、仮説に反して統制の影響が強く見られた。. 遊びにつきあい、一緒に楽しんでいたことがわかった。. 終始防衛的であったり、正確さに囚われて反応が抑制さ. またその時の気持ちは Positive なもので、母親と満ち足. れたり、防衛がやや緩んで Positive な情緒を楽しめるよ. りた時間を過ごしていたようである。LH 群は、母親と. うになっても、冷静に現実を見つめる視線を有している. の楽しい遊びの経験を思い出すことはできるが、漠然と. 様子がうかがわれる。. 幼いころの母親を想起すると、怒られて怖かった時の記. Holt の尺度によって一次、二次過程的思考の出現を調. 憶が一番に思い浮かぶようであった。また母親と一緒に. べたところ、二次過程的思考は全群において多く見られ. いる時に、厳しい母親から逃れたい気持ちを抱いている. ているが、一次過程的思考は LH 群に多いようである。. 人もおり、母親と過ごす時間は必ずしも楽しく、安心で. しかし全事例を通して統制が見られていない場合が多い。. きるものではなかったようだ。HH 群は、母親に対する. 吉村(1998)は、統制の見られない一次過程的思考の表. 評価に一貫性がなく、両価的な気持ちを抱いているもの. れは、抑うつ傾向や神経症傾向と関連性があることを指. が他の群より高かった。厳しくもあり優しくもある母親. 摘している。本研究においても、LH 群で一次過程的思. の姿を、必要な時には厳しくしつけてくれ、普段は優し. 考が多く見られている事例は同時に不安感情も高く、抑. かったと Positive にとらえる者も多かったが、そのよう. うつ感を反映しているとも考えられる。一次過程的思考. な母親の姿は、時に子どもにとって一貫性がなく、不安. に統制が加えられていない事例が多いということは、そ. 定な母親像を作り上げる可能性があることが示唆された。. の次の反応で自我が進展している必要がある。よって自 我の退行と進展の様相をより詳細に捉えるため、各群か. 2.ロールシャッハ法による適応的退行に関する検討:. ら一次過程的思考の多く見られた事例を取り上げて継起. 量的分析を中心として. 分析を行った。詳細についてはプライバシー保護のため. HL 群の全体的傾向としては、感情カテゴリーにおけ. 省略する。. る快的感情が高く、活動性の高さや Positive な情緒を楽 しむ様子がうかがわれる。不安感情も同時に高い事例も. Ⅳ.総合考察. 見られたが、不安感情に押し流されることなく、Positive. HL 群においては、感情カテゴリーにおける快的感情. な情緒で不安な気持ちを防衛するこのできる強さを持ち. が高く、遊びとしての作話反応が多く見られ、仮説①は. 合わせているようである。反応に動きや、色彩を取り入. 支持されたと思われる。LH 群では、原初的に退行する. れ、個人的感情を豊かに交えて反応を産出している様子. ことはあっても、幼児的に退行することができにくいと. がうかがわれる。 また作話反応が見られる事例が多いが、. いうことが示唆され、 仮説は一部支持されたと思われる。. それは遊びや楽しむ気分を伴ったものが多いようである。. しかし原初的な退行である一次過程的思考に統制は加え. 同時に、self-critic や object-critic も多いが、その不安に. られていないことから、適応的な退行とは言えない。. 囚われてしまうことなくブロットの少し違う形を生かし. Schafer(1954)は、 「自我の退行は無防備な状態に自分を.
(4) おくことを意味し、このような状態は過去にあった様々. のではなく、現在のその人の友人、母親や父親との関係. な幼児的な心的外傷に襲われる危険がある」ことを指摘. のあり様も含めた検討を、今後行う必要があると思われ. している。LH 群にとっては、退行することは必ずしも. る。. 心地よい体験ではなく、不安な気持ちが高まる体験とな りやすいのではないだろうか。 HH 群における仮説③は. Ⅴ.参考文献. 支持されず、統制の影響が強く表れていたと思われる。. 馬場禮子 1995 ロールシャッハ法と精神分析:継起分. 時に優しく時に厳しい母親の態度は、子どもにとって一 貫性がなく、不安定な母親像を作り上げることになり、. 析入門 岩崎学術出版社 Bowlby,J.. The making and breaking of. affectional bonds. Tavistock Publications. 必ずしも情緒的支持の高さだけが青年の適応的退行と関 連があるわけではなく、感情的統制が与える影響が大き. 1979. Holt,R.R. 1977 A method for assessing primary process manifestations and their control in. いことが示唆された。. Rorschach. 継起分析の結果からは、すべての群において一次過程. responses.. 的思考が見られた次の反応では自我の進展が見られてお. (Ed),Rorschach. り、自我機能の健康な一面が保たれていることがうかが. York:Robert E.Klieger. われた。色彩との関わり方においては3群それぞれに違. In. Rickers-Ovsiankina ed.. psychology.2nd. New. 星野和美・長野郁也・高橋昇・森田美弥子・城野靖恵・ 1995. いが見られている。色彩はロールシャッハ・テストにむ. 杉村和美. 名大式ロールシャッハ法におけ. かうものにとって明確な強い刺激であり、そうした刺激. る思考・言語カテゴリーの検討(Ⅲ)−大学生を対. をどのように処理するかに違いが見られた点は興味深い。. 象として− 日本心理臨床学会第 14 回大会発表論 文集 374−375. 超自我が形成される幼児期は、母親に対して安定した 愛着を形成し、それをよりどころにして母親から離れて. 池田豊應編 臨床投映法入門 ナカニシヤ出版. 外界に目を向け始める時期でもある。母親から情緒的に. 伊藤俊樹 1993「自我のための退行」と創造性・適応と. 支持された子どもは、母親を安定した安全の基地. の関わりについて −「自我のための退行」の測定. (Ainsworth,1982)として、外界に興味を示し、好奇心. とその実証的研究 ― 京都大学教育学部紀要. をもって探索活動を始める。たとえ驚異と感じられるも. J・ホームズ著 黒田実朗・黒田聖一訳 ボウルビィと アタッチメント理論 岩崎学術出版社. のに出会っても、すぐに安心な基地に戻ることができる からである。しかし情緒的に支持される経験が少なかっ. Kris,E.. 1952. Psychoanalytic explorations in art .. New York:International Universities Press. たり、多かったとしても統制が厳しくて母親に対して一 貫して安定したイメージを形成させることができなけれ. 森田美弥子・長野郁也・中原睦美・杉村和美・高橋昇・. ば、子どもは母親を安定した安全の基地とすることがで. 高橋靖恵・星野和美 2001 ロールシャッハ反応に. きない。母親を安定した安全な基地として探索活動を行. おける限定付け・修飾の系列化. うことができない子どもにとっては、外界は大いに警戒. 言語カテゴリー」による検討 心理臨床学研究 19.. しなければならない危険な場所と感じられることになる. 3.311−313. 名大式「思考・. (Bowlby,1979)。3群における色彩の対処の違いは、外. 名古屋ロールシャッハ研究会 ロールシャッハ法解説−. 界との接触の仕方の違いであり、それには各人の安全な. 名古屋大学式技法−1999 年改訂版 名古屋ロール. 基地に対する安心感と関わりがあるのではないだろうか。. シャッハ研究会 小此木啓吾・馬場礼子 1989 新版精神力動論 金子書. Ⅵ.今後の展望 本研究では、適応的退行と幼いころの母親の養育態度 認知との関連を検討し、 両者との間の関連が指摘された。. 房 小此木啓吾・深津千賀子・大野裕編 1998 精神医学ハ ンドブック 創元社. 今回は母親の養育態度認知をもとに3群を設定したが、. ポール・M・ラーナー著 溝口純二・菊池道子監訳 2002. HH 群は被検者数が少なく、確定的なことは言えなかっ. ロールシャッハ法と精神分析的視点(上)臨床基礎. た。 よって今後さらに数を増やして検討する必要がある。. 編 金剛出版. また本研究では、幼いころの母親に限定したが、それの みが、その人の現在の適応的退行と関連があるわけでは ないと思われる。それゆえに、過去のみに焦点をあてる. 吉村聡 1998 一次過程的思考、適応的退行と精神衛生 早稲田心理学年報 第 30 巻第 2 号 117−123.
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