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広汎性発達障害児の行動に対する母親の認知と関連する諸要因の検討 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)広汎性発達障害児の行動に対する母親の認知と関連する諸要因の検討 キーワード:広汎性発達障害,養育者,認知,愛着行動 人間共生システム専攻 桑田 【問題と目的】. 左絵. の両者の視点を視野におき、養育者の認知が何によっ. 発達初期における親子の愛着関係はコミュニケーシ. てどのように影響されて作られていくのかを検討する. ョンの基礎となり、すべての子どもの育児において、. ことが必要と思われる。また、子どもの行動について、. 親との愛着、結びつき、交流を育てるということが重. 養育者の主観的な認知による評価を客観的な評価と比. 要とされる(中沢,2001)。親子の愛着形成の困難さ. 較することにより、認知のバイアスに焦点を当てて、. には、養育者側の要因や子ども側の要因が相互に複雑. 子どもの行動に対する養育者の捉え方の検討を行うこ. に絡み合うものと推測される。したがって、早期から. とは意義があることと思われる。. の安定した愛着形成に向けた育児支援においては、子. 子どもの行動に対する養育者の捉え方を調べる際に. どもの発達援助の視点と同時に、養育困難感を抱える. 考慮すべき要因として、子どもの注意の問題がある。. 養育者に対する支援が重要な課題となる。. 自閉症児において、子どものポジティブな情緒表出に. 定型発達の子どもと養育者の相互交渉では、養育者. 対する養育者の認知は、他者の情緒に対する子どもの. が発達初期から子どもの行動を意図的なものと解釈す. 注意力や反応性と正の相関を示した(Capps et al.,. ることが自然に行われており(Dix,1993;Dix et al.,. 1993) 。さらに、自閉症において養育者との相互交渉. 1989;Walden et al.,1997) 、そのような養育者側の. を促す共同注意行動の早期からの欠如は、子どもの行. 錯覚や期待は、双方のコミュニケーションの発達、ひ. 動に対する養育者の認知に影響を与えることが推測さ. いては安定した愛着関係の形成に役立つ側面があると. れる。また、養育者側の要因として、抑うつや不安傾. 考えられる。一方で、子どもがコミュニケーションの. 向の存在は子どもの行動に対する認知にネガティブに. 発達に困難を有する場合、事情は異なる。生得的に人. 影響することが報告されている(例えば、Field et al.,. に対する選好傾向が乏しい自閉症児の行動特徴は、彼. 1993;Affleck et al.,1983)。. らの社会的パートナーの行動に影響を与えうる(Bell,. 以上より、本研究では、自閉症および近接の広汎性. 1971) 。例えば自閉症児の養育者は、定型発達児の養. 発達障害の幼児とその養育者を対象として、養育者が. 育 者 ほ ど 自 分 の 子 ど も の微 笑 に 笑 っ て 応じ な い. 子どもの行動をどのように捉えているのかについて、. (Dawson et al.,1990) 。このような養育者側の特徴. 特に認知のバイアスに焦点を当てて調べ、その養育者. は、養育者本来の傾向ではなく、自閉症児側の行動特. の捉え方に関連する要因を検討する。この検討を通し. 徴によって引き出された結果であると考えられ、こう. て、双方向的な視点から母子間コミュニケーションの. した事態は養育者の子育てへの困難感を増し、有能感. あり様について理解を深め、今後のコミュニケーショ. の低下となることが想像される。しかしながら、自閉. ン発達に困難を抱える子どもをもつ養育者の子育て支. 症児をもつ養育者が子どもの行動に対してどのような. 援に役立ちうる視点を提示することを目的とする。. 捉え方をしているのかについては十分に明らかにされ. 次のような点を仮説とする。. ていない。また、従来の研究では、子どもの行動につ. ⅰ)子どものもつ共同注意(joint attention;以下 JA). いて養育者自身に評価を求め、その結果を養育者の認. のスキルが低いほど、養育者は子どもの愛着行動を実. 知のあり方として検討しているが、養育者の評価だけ. 際よりも低く評価する傾向にある。. でなく、実際の子どもの状態と比較することを通して、. ⅱ)養育者が精神的不健康を呈していると、子どもの. 子どもの行動に対する養育者の捉え方の特徴を詳細に. 愛着行動を実際よりも低く評価する傾向にある。. 検討した研究はあまり見られない。とりわけ、自閉症 児をもつ養育者の認知に焦点を当てた実証的研究は数. 【方法】. 少ない(Capps et al.,1993) 。したがって、自閉症お. 1.対象 F 県下の A 療育機関に訪れた幼児(男児 13. よび近接の広汎性発達障害をもつ子どもとその養育者. 名、女児 2 名)とその養育者 15 組。子どもの平均月齢.

(2) は 62.7 ヶ月、養育者の平均年齢は 34.4 歳。障害の内. 2)JA 行動の評定: JA の始発(以下 IJA)と JA. 訳は、 自閉性障害 13 名、 特定不能の広汎性発達障害 (以. に対する反応(以下 RJA)に分類し、各々の頻度を算. 下 PDD-NOS) 2名。 小児自閉症評定尺度 (以下 CARS). 出した。これらは「JA 行動評定尺度」でレベル別に評. を用いた結果、PDD-NOS の幼児 1 名以外は、30 のカ. 定された。調査者と他の 1 名による、評定者間の一致. ットオフ・ポイントを上回った。本研究に関するイン. 率は、IJA で 93.3%、RJA で 86.7%であった。不一致. フォームド・コンセントは、保護者から書面で得た。. の行動カテゴリーについては協議の上、決定した。. 2.評価尺度 1)養育者への子どもの愛着行動: 金. 3)ケースによる検討: 臨床的に注意を要する GHQ. 城(2002)を参考に「養育者に向けられた子どもの愛. のカットオフ・ポイントを上回った者に注目し、JA ス. 着行動」 尺度 12 項目を作成し、 6 件法で回答を求めた。. キルが低い場合、高い場合それぞれにおいて、子ども. 2)JA スキル: The Early Social Communication. の愛着行動に対する養育者の評価にズレがポジティブ. Scales(以下 ESCS;Seibert&Hogan,1982)を参考. あるいはネガティブに大きく見られたケースを各 1 例. に、 「JA 行動評定尺度」を作成し(表 1-1、表 1-2) 、. ずつ提示した。録画されたビデオをもとに、母子の様. アセスメントを実施した。. 子を行動レベルで記述した。抽出した場面は、愛着行 動が出現しやすい見知らぬ人場面や母子分離場面、要. 表1-1 JA行動評定尺度(RJA) レベル カテゴリー Level4. テスターの視線や顔の定位のみで振り向く 指さし6試行中のうち、66%で正しい方向に振り向く/模倣して 指さす. 指さしに反応. 指さし6試行中のうち、50%で正しい方向に振り向く 指さした場合、テスターの人さし指や顔を見る(何らかの反応あ り). Level3 Level2 Level1 Level0. 具体例. 目や顔の定位のみで反応. 無反応. 無反応. カテゴリー. 具体例. ポスターや動いているモノを指さす( アイコンタクトを伴う指さしor Level3 他者の注意をモノに引こうとする 指さしのみ)/テスターにモノを見せる(提示) 試み モノが動いている間、テスターとモノを交互に見る ( 動いている玩具を見て、アイコンタクト) Level2 Level1. 他者への注意は示すが、 モノへの注意と統合できない. Level0. 自発的開始なし. されやすいシャボン玉場面であった。 【結果】 1.尺度の項目の整理 「養育者に向けられた子ども. 表1-2 JA行動評定尺度(IJA) レベル. 求行動が出現しやすい風船場面、陽性の情緒が引き出. の愛着行動」尺度(12 項目)の項目を精選するために、 G−P分析を行い、12 項目のうち残った 7 項目(α =.82)の合計を子どもの愛着行動得点とした。. 子どもがモノを扱っている間、テスターを見る ( 静止した玩具を持った状態で、アイコンタクト). 2.子どもの愛着行動得点 「養育者に向けられた子. 自発的JAなし. どもの愛着行動」尺度について、養育者による評価得. 3)養育者のメンタルヘルス: 日本版 GHQ 精神健 康調査票の短縮版(以下 GHQ;中川・大坊,1985) を個別に実施し、GHQ 法により得点化した。 4)発達検査: 遠城寺式乳幼児分析的発達検査法(以 下、遠城寺式発達検査;遠城寺ら,1977)を実施した。 3.手続き 調査は 3 セッションに分けて行われた。 (ⅰ)養育者に「養育者に向けられた子どもの愛着行 動」尺度、および遠城寺式発達検査の一部が実施され た。 (ⅱ)小さな部屋に母子と調査者の 3 人で入室し、 JA スキルのアセスメントが 15∼20 分程度実施された。 アセスメント実施前に見知らぬ人に出会う場面を、実 施後に母子分離場面を設定し、子どもの様子が観察さ れた。 (ⅲ)子どもに遠城寺式発達検査が実施され、平 行して、退室した養育者に GHQ が実施された。子ど もの様子は、ビデオ録画された。調査終了後、調査者 と観察者は養育者に行った質問紙と同じものを用い、 養育者への子どもの愛着行動を評定した。 4.データの処理 1)子どもの愛着行動評価: 調 査者と観察者の 2 名による、 「養育者に向けられた子ど もの愛着行動」尺度の評定者間の一致率は 89.5%であ った。不一致の項目に関しては、協議の上で決定した。. 点と観察者による評価得点の平均値と標準偏差を算出 した。養育者の評価得点の平均値は 29.9(SD=6.53) で、観察者の評価得点の平均値は 27.9(SD=4.35)で あった。両者間に差があるかを確認するために、t検 定を行った結果、両者の平均値の差は有意でなかった (両側検定:t(28)=0.99,p>.10) 。したがって、子 どもの愛着行動得点において、養育者と観察者による 違いは示されなかった。 3.養育者のメンタルヘルス得点 GHQ の全 30 項目 の合計を GHQ 得点とした。GHQ 得点の平均値と標準 偏差を求めると、12.8(SD=7.51)であった。本研究 で設定されたカットオフ・ポイント8点以上を示す者 を不健康の疑いありと判断し、不健康群とした。その 結果、対象者の 73.3%(11 名)が不健康群となった。 4.JAスキル得点 RJA 行動は、6 試行中、子ども が調査者の指さしや視線の方向に視線や頭の向きで正 確に定位行動が生じた割合(%)を算出した。その結 果、平均値と標準偏差は 66.5%(SD=0.41)であった。 IJA 行動は、おもちゃに関して調査者と注意を共有す るための、凝視、参照視、提示、指さしのエピソード の頻度を求めた。その結果、平均値と標準偏差は 0.47.

(3) (SD=0.52)であった。次に、 「JA 行動評定尺度」の. 表4 子どもの愛着行動に対する養育者の評価と各発達領域の発達指数との相関係数 遠城寺式発達検査における発達領域の発達指数. 基準に従って、JA 行動のレベル評定がなされた。RJA. 移動運動 手の運動 基本的習慣 対人関係. および IJA のレベル別における人数の割合を表 2-1、 表 2-2 に示す。 表 2 - 1  R J A の レ ベ ル 別 に お け る 人 数 の 割 合 (% ) レベ ル N % レベ ル 0 2 1 3 .3 レベ ル 1 2 1 3 .3 レベ ル 2 2 1 3 .3 レベ ル 3 9 6 0 .0 レベ ル 4 0 0 .0 計 15 1 0 0 .0. .210. .390. 養育者と観察者の 評価のズレ. -.212. .128. .347. 言語理解. .114. .111. .426. .037. -.092. .330. 捉え方のズレに対する個別的な要因を検討するために、 母子場面で、養育者側の要因と子ども側の要因がどの ように複雑に絡み合っているかを明らかにした。 [ケース A]. 表 2 - 2  I J A の レ ベ ル 別 に お け る 人 数 の 割 合 (% ). N 8 5 0 2 15. -.373. 発語. 6.ケースによる検討 各ケースについて、養育者の. 注 :各 レ ベ ル に お け る % は 小 数 点 第 2 位 以 下 切 り捨 て と し た 。よ っ て 、合 計 値 と 加 算 値 に は ず れ が あ る 。. レベ ル レベ ル 0 レベ ル 1 レベ ル 2 レベ ル 3 計. 子どもの愛着行動 ( 養育者評価). JA スキル低×ネガティブ評価. 1)ケースの概要: 自閉性障害の男児(調査時5歳. % 5 3 .3 3 3 .3 0 .0 1 3 .3 1 0 0 .0. 5ヶ月;以下 A 児)とその養育者(調査時 31 歳) 。本 児を含めて4人家族。遠城寺式の全領域平均 DQ37。 CARS 得点 37。IJA 得点0、RJA 得点1で、ともに平. 注 :各 レ ベ ル に お け る % は 小 数 点 第 2 位 以 下 切 り捨 て と し た 。よ っ て 、合 計 値 と 加 算 値 に は ず れ が あ る 。. 5.養育者による子どもの愛着行動の捉え方と諸要因. 均値よりも低かった。子どもの愛着行動に対する養育. との関連 子どもの愛着行動に対する養育者の評価得. 者の評価のズレは−8で、実際よりも低く評価した。. 点と、子ども側の要因(月齢、RJA・IJA 得点、CARS. 2)主なエピソード: 風船場面において、養育者は. 得点、実際の愛着行動得点、各発達領域の発達指数). 逐次 A 児の表情を窺いながら接するが、A 児はあまり. との相関係数を求めた結果、月齢と子どもの愛着行動. 養育者のほうに視線を向けることがなく、お互いのア. に対する養育者の評価得点との間に有意な正の相関が. イコンタクトが成立する機会は少ない。また、養育者. 認められた(r=.633,p<.05) 。一方、月齢と子ど. が A 児に笑顔を向ける場面が数回見られるが、A 児か. もの愛着行動に対する観察者の評価得点との間には有. ら微笑み返すといった反応は乏しい。. 意な相関は認められず(r=.367,n.s.) 、RJA 得点と. [ケース B]. 子どもの愛着行動に対する観察者の評価得点との間に. 1)ケースの概要: 自閉性障害の男児(調査時4歳. 有意な正の相関が認められた(r=.705,p<.01) 。. 10 ヶ月;以下 B 児)とその養育者(調査時 36 歳) 。. また、月齢以外の子ども側の要因あるいは養育者側の. 本児を含めて4人家族。遠城寺式の全領域平均 DQ51。. 要因(年齢、GHQ 得点)と、子どもの愛着行動に対す. CARS 得点 35。IJA 得点1、RJA 得点0で、ともに平. る養育者の評価得点との間ではいずれも有意な相関は. 均値よりも低かった。子どもの愛着行動に対する養育. 認められなかった(表3、表4参照)。. 者の評価のズレは 12 で、実際よりも高く評価した。. JA スキル低×ポジティブ評価. 次に、子どもの愛着行動に対する養育者の主観的な. 2)主なエピソード: B 児は養育者に対して笑顔を. 捉え方を検討するために、子どもの愛着行動に対する. よく表出した。風船場面で、養育者は B 児に話しかけ. 養育者の評価のズレ、つまり養育者の評価と観察者の. るが、B 児は風船を膨らますのに夢中で養育者の話し. 評価の得点差と、上記の子ども側の要因および養育者. かけに反応しない。シャボン玉場面では、養育者がシ. 側の要因との相関係数を求めた結果、いずれも有意な. ャボン玉に注意を促すが、B 児は視線を向けることな. 相関は認められなかった(表 3、表 4 参照)。. く風船で遊び続ける。 [ケース C]. 1)ケースの概要: 自閉性障害の男児(調査時4歳. 表 3 主 要 変 数 間 の相 関 係 数 子どもの愛 着行 動 子 どもの愛 着 行動 養 育 者と観 察 者 (養 育者 評 価) (観 察 者評 価 ) の評 価のズレ 子 どもの愛 着行 動 (養 育 者 評価) 子 どもの愛 着行 動 (観 察 者 評価) 養育 者 と観 察者 の評 価 のズレ 月齢 RJA IJA CARS 養 育 者の年 齢 GH Q. !. JA スキル高×ネガティブ評価. 月齢. RJA. IJA. CARS. 養 育 者の 年齢. GH Q. 3ヶ月;以下 C 児)とその養育者(調査時 28 歳) 。本. .319. .780 **. .633 *. .489. .431. -.386. .301. -.306. 児を含めて2人家族。遠城寺式の全領域平均 DQ57。. !. -.344. .367. .705 **. .298. -.244. .077. -.361. CARS 得点 30.5。IJA 得点は1と低いが、RJA 得点は. !. .385. .019. .231. -.221. .248. -.065. !. .257. .336. .163. .465. -.077. 3で平均値 2.2 よりも高かった。最も不健康度が高い. !. .229. -.446. -.093. -.020. 養育者であり、子どもの愛着行動に対する養育者の評. !. -.432. -.193. -.237. 価のズレは−5 で、実際よりも低く評価した。. !. .414. .020. !. -.229 !. * p<.05, ** p< .01. 2)主なエピソード: C 児は養育者の前で、風船と 格闘するポーズをとりアピールするが、養育者はあき.

(4) れ気味に苦笑いし、C 児の遊びの世界を共有する感じ. ことも示された。また別の問題点として、本研究で客. は薄い。養育者は適宜、C 児の行動に反応するが、C. 観的な指標として設定した、観察者による評価の妥当. 児とのやりとりを発展させようとする姿勢が弱い。. 性の問題も考えられる。. [ケース D]. JA スキル高×ポジティブ評価. また、養育者による子どもの愛着行動の評価と子ど. 1)ケースの概要: 自閉性障害の男児(調査時 5 歳. もの月齢との間に有意な正の相関が見られたが、観察. 0 ヶ月;以下 D 児)とその養育者(調査時 27 歳) 。本. 者による評価は子どもの月齢には影響されなかった。. 児を含めて 3 人家族。遠城寺式の全領域平均 DQ59。. さらに、養育者による子どもの愛着行動の評価と JA. CARS 得点 30。IJA 得点は0と低いが、RJA 得点は3. スキルとの間には相関が見られなかったが、観察者に. で、平均値 2.2 よりも高かった。養育者の評価のズレ. よる評価と JA スキルの間には有意な正の相関が見ら. は 12 で、実際よりも高く評価した。. れた。つまり、JA スキルは観察者の客観的な評価に影. 2)主なエピソード: 風船場面で、D 児は風船の音. 響すると考えられる。以上の結果から、子どもの愛着. に対する恐怖で養育者に近づくが、養育者は D 児を一. 行動の評価に関して、養育者による評価と観察者によ. 瞬見る程度で対応は薄い。また、D 児はシャボン玉を. る評価の根拠が違っている可能性が考えられる。. つぶして楽しむが、対照的に、養育者は時折シャボン. 子どもの愛着行動に対する養育者の評価のズレと、. 玉を指さしては D 児の様子を冷静に傍観しており、感. GHQ 得点との間に相関は見られず、仮説ⅱは支持され. 情表出はやや乏しい。. なかった。抑うつの存在が、養育者の認知にネガティ ブに影響することを示唆した Field ら(1993)によれ. 【考察】. ば、抑うつ症状の養育者は、観察者よりも、自分の子. 1.子どもの愛着行動に対する養育者の捉え方 子ど. どものポジティブな行動をより低く評価し、ネガティ. もの愛着行動に対する評価について、養育者と観察者. ブな行動をより高く評価した。しかしながら、ニュー. による違いは示されなかったことから、先行研究で自. トラルな行動については、養育者と観察者の間で有意. 閉症児の養育者が子どもの行動を低く評価すると報告. な差は見られなかった。本研究は、養育者の抑うつ状. されていたのは、決して養育者の認知がネガティブで. 態を調べたわけではないため、一概には言えないが、. あることを意味するものでなく、むしろ、客観的な視. 本研究での子どもの愛着行動の中にはニュートラルな. 点で正確に子どもの状態を評価した結果と考えられる。. 行動に値する項目が含まれていたため、この点が上記. 一方で、本研究では子どもの愛着行動に対する養育者. の結果に影響している可能性が考えられる。. の捉え方を把握するために、質問紙を用いたが、養育. 3.ケース検討からの示唆 各ケースから、繰り返し. 者と観察者が異なる文脈での異なる子どもの行動を想. 働きかけても反応が乏しく、 「無視」しているかのよう. 定して回答している可能性も考えられる。. な子どもの行動に、消極的にかかわったり、過剰にか. 2.子どもの愛着行動に対する養育者の捉え方と諸要. かわったりする養育者の様子が明らかになった。養育. 因との関連性 子どもの愛着行動に対する養育者の評. 者は子どもへのかかわり方に迷いが生じ、育児全般へ. 価のズレと、RJA・IJA 得点との間に相関は見られず、. の自信を失いかけている可能性が考えられる。よって、. 仮説ⅰは支持されなかった。別府(2003)によれば、. 発達早期からの子育て支援においては、養育者に自閉. 定型発達では、共同注意行動と要求行動や社会的相互. 症の特徴について簡単に説明して理解を深めてもらい、. 作用行動は発達の同時期に獲得されるが、自閉症の場. 子どもの特徴に合わせた家庭での具体的な対応につい. 合のみ、共同注意行動だけに弱さを示すという機能連. ての説明とモデルを提示することも重要である。. 関の特異性がある。つまり、自閉症には定型発達と異. 4.今後の課題と展望 子どもの愛着行動について、. なる発達プロセスが存在し、この発達プロセスの違い. 養育者による評価は月齢、つまり子どもと共有する時. が上記の複雑な結果に関与している可能性が考えられ. 間とともに、変化していく可能性が示唆された。しか. る。よって、子どもの愛着行動に対する養育者の捉え. し、今回は一時点での調査にとどまり、その変容過程. 方と JA スキルの関係は複雑であり、愛着行動に対す. まで検討することはできなかった。今後は、長期的な. る養育者の捉え方は、JA スキルに影響を受けていない. 視点から縦断的に研究していくことが求められる。. ことが明らかになった。逆に、子どもの行動に対して. 【主要引用文献】. 養育者が積極的に意味づけをすることが直接的に、子. Capps,L., Kasari,C., Yirmiya,N. et al. ( 1993 ): Parental perception of emotional expressiveness in children with autism. Journal of Consulting Clinical Psychology, 61, 475-484.. どもの JA スキルの発達状態と結びつくものではない.

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