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硬直価格の下での平価変更と国際収支:部分均衡分析*

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(1)

硬直価格の下での平価変更と国際収支:部分均衡分析

硬直価格の下での平価変更と 国際収支:部分均衡分析*

田中茂和

Ⅰ 序

Ⅱ 完全競争の下での為替レート調整

Ⅲ 硬直価格の下での為替レート調整

Ⅳ 硬直価格の下での為替レートと交易条件

Ⅴ 結  び

I 序

最近,為替レートの切上げにもかかわらず,輸出品の外国通貨建て価格は さほど上昇せず,輸入品の自国通貨建て価格もさほど下落しない,という経 験的事実が操りかえし指摘されている。硬直価格,ないし管理価格の問題は スウイージー(Sweezy[1939])をはじめとして,種々の議論が展開されて いる1。本論文では,価格の硬直性がいかなる経済的要因に基づくものであ

るか,という問題はさけ,むしろ諸財の価格の硬直性を前提として,平価変 更の国際収支に与える効果の理論的検討に焦点をあてる。

為替レートの変動にもかかわらず,価格を安定させようとする政策は,当 該企業が長期的な為替予想に基づき,その均衡為替レート近傍の短期変動を 無視することを意味する。その場合為替レートの変動は貿易財の価格に転嫁 されず,輸出入利潤の変化に吸収されてしまう。かくして本論文では,国際 貿易における輸山人業者の役割を考慮しながら,すべての財の価格が硬直的 であることを前提として,為替レートの変動が価格に必ずしも反映されない ことにより,為替レートの変化を通じる収支調整が妨げられることを示そう

*本論文は,1980年皮の文部省科学研究費一般研究「現代の産業組織と国際貿易」に よる研究成果の一部である。

1.それらの議論については,宮崎・新野[1972]が詳しい。

(2)

とする

O

次節以下の議論の前提として為替レートがある限られた範囲内で回 J くこと,そして輸出比率・輸入比率が価格差別をするに充分に大きいことを 念頭に置かねばならない。

硬直価格と収支調整に関して本論文でとられる分析方法は部分均衡アプロ ーチであり,この程の議論としては,すでにグレイ

(Gray[1965J)

の貢献 が認められる。しかし,それは自国の輸出業者による価格安定化政策に限定 され,外国の輸出業者の行う価格安定化政策は考応されていない。さらにま た,輸入業者による価格安定化政策も考察対象の外におかれている

O

第 2 に,グレイの展開は修正ラーナ一条件の直接的導出にふりむけられている

o

以下では,硬直価格の下での修正ラーナ一条件をじかに求めるのではなく,

より一般的な想定に基づいて, ラーナ一条件の再解釈を試みる方向で論じら れる。

完全競争の下での為替レート調整

輸出財・輸入財の自国通貨表示価格をそれぞれ,

Px

,久,外国通貨表示 価格を

Px*

P.

, J . * とする

O

関税や輸送賀などを無視すれば,両通貨表示の 価格の聞には,邦貨建ての為替レートを r として

I り

x=rj

x*

P..'rl= rp.

l 1 *   ( 1 )   の関係がある。いま貿易収支のみ考えると,外国為替市場の均衡条件は

p.

. J

*M 

Px*X 

( 2 )   で示される

D

そ こ で

M

は自国の輸入需要量,

X

は自国の輸出供給量を表わ す。輸出財・輸入財の市場均衡条件はそれぞれ, 自国の輸出供給関数,外国 の輸入需要関数から

M*(px*) =X( J

x) (3)  M(p..v.> 

X*(

ρ

M*) 

~)

である

O

外国の変数には*印を付けてある(以下同じ)。

為替レートが均衡値からごく僅かヨjE離したときに,輸出財・輸入財の価格

がどのように変化するかをみてみよう。まず ( 3 ) 式を全微分して整理すれば

(3)

硬直価格の下での平価変更と国際収支:部分均衡分析 3 

( 5 )   が得られる。ただし,

と*=ー ( ρx*/M*) ・

(dM*/dpx*)

は外国の輸入需要の価格弾力性,

ε=(

x/

X) ・

(dX/dpx)

は自国の輸出供給の価格弾力性である。さらには)式を全微 分して,自国の輸入需要の価格弾力性をと=一

(PM/M)

(dM/dPM)

,外国 の輸出供給の価格弾力性を

e*=(P.u*/X*)

(dX*/dP.u*)

の定義を用いると

dpM* 

~

dr 

1

M ~+ε* (6) 

が導かれる。次に自国通貨ではかった価格の変化は ( 1 ) , ( 5 ) ,  ( 6 ) 式から

dpx  dr

, 

dpx*  ~* dr 

一 一 一 一 一 ‑

Px  Px*  ~*+εr dpM  dr  dPM*

ε ホ

dr

+

PM  PM*

+ε*

(7) 

( 8 )   で示される

D

外国為替に対する需要の変化は

d(PM*M) 

一一一 =‑t‑

dPM* 

ーと

  (dr ...(-~---

+一一一 , 

dpM 1

j

PM*M  PM*   "' PM

中 / である以上,これに ( 6 ) 式を代入して整理すると

d

(PM*M) 

~

(ε*+1 dr 

j

え ば

* M

~十 ε*

と書きかえられる

D

他方,外国為替の供給については

d(

位竺

L=

一星空乙,

εぱ 乙+ 3Px*¥ 

Px*X  Px*  ' r   Px*  / 

( 9 )  

のようにその変化が示されるから,これに ( 5 ) 式を代入して整理すると d 

(Px*X)

ε ( と

*‑1 dr

Px*X  ~*+εf

nH u 

t ‑ ‑ ( 

が得られる

D

均衡点の近傍での為替レートの変化の外貨表示の貿易収支に及ぼす影作

は , ( 9 ) ,  (10)両式の結果と初期均衡における収支均衡

(P.d*M=Px*X)

を用い

(4)

「εε*(~+ と*-1)+と *~(ε 十 ε*+1)l

dB=

ー 1 ‑ ‑

,~ ~ :~I , I/: ..L.';).':, I .Lj Ip..u*M

・←一一 ( 1 1 )  

(c+ε*)

と (

*+ε) j.L.<L ‑ ‑

で表わされる。したがって外国為替市場が安定であるためには, ( 1 1 ) 式の括弧 内が正の値をもたねばならない。自国及び外国における輸出供給の価格弾力 性が無限大のときには,旧)式の括弧内の分子・分母の各項を

ε

♂で除せば,

為替市場の安定条件は

c+c*‑1 >  

となる

D

E  硬直価格の下での為替レー卜調整

( 1 )   輸出業者のケース

( 1 2 )  

貿易がすべて輸出業者によって行われ,外国の輸出,つまり自国の輸入は 自国通貨表示で支えられ, 自国の輸出は外国通貨表示で与えられているとし よう

D

輸出業者が平価の切上げ,ないし切下げ効果を彼らの輸出価格に転嫁 するのをさけるならば,外国通貨(輸入国通貨)ではかった輸出額(外国の 輸入額)は変らない。そのとき生じる為替差益・差損は皆輸出業者に帰属す る

o

つまり,為替レートの変動にかかわらず,各輸出業者の外貨受取高は一 定であり

d(

ρ

x*X) 

1 ( 3 )  

d(l

.fJ.M )

=  0  1 ( 4 )   となる

o

(1印式において間式を考慮すると, 自国の輸出業者による輸出価格維 持は,外国の輸入需要の価格弾力性,

c*

が l である場合と同等であること がわかる

O

他方,外国の輸出業者による輸出価格安定化政策については

d

( P M M d r   d(p.II*M)

P.uM  p.J.*M 

であるから,乙れに ( 9 ) 式を代入して整理すれば

d(p..'dM)

‑c)

ε dr 

P..uM  c+ε

1 (

5) 

を得る

D

したがって, 自国の輸入需要の価格弾力性,

c

が l である場合と同

(5)

硬直価格の下での平価変更と国際収支:部分均衡分析

等とみなされる

o

要約すれば,両国の輸出供給の弾力性が無限大

ε(

ε*

→∞)のときには,

両国の輸入需要の価格弾力性の和は 2 となり, ラーナ一条件は成立する故,

為替レート調整の貿易収支に与える効果は安定的である。

( 2 )   輸入業者のケース

貿易が全て輸入業者によって扱われ, 自国の輸入は外国通貨表示によって 与えられ,外国の輸入,すなわち自国の輸出は自国通貨表示によって与えら れているとしよう

O

この場合輸出業者は,その国の通貨(輸出国通貨)では かつて以前と変らぬ価格で,同一量の輸出を行うことになるから

d(pxX)  =  0  1 ( 6 )  

d(

ρ

*M)

( 1 7 )   となる

o

輸出企業の外貨受取高は為替レートの変化とともに変化する以上,外国為 替差損,ないし差益が生じれば,それは全て輸入国における輸入業者に帰属 する。つまり,輸入業者の外国通貨表示(輸出国通貨表示)の輸入額は,為 替レートの変動にかかわらず一定である。自国の輸出について

(PxX)  dr  (Px*X  PxX  Px*X 

となるから,これに ( 1 0 ) 式を代入して整理すると

(PxX) ε+l)c" dr 

PxX  c*+ε

( 1 8 )  

のように書ける。したがって,このケースは,外国の輸入需要の価格弾力性 がゼロである場合と同等である。さらに自国の輸入についても同様に論じら れる

D

いま ( 9 ) 式において(1 7 ) 式を考慮すれば,自国における輸入価格維持は,

自国の輸入需要の価格弾力性がゼロであるかのような輸入活動といえる

o

要するに輸入業者による可変的価格先別は,輸入需要の価格弾力性の和を ゼロにし, ラーナ一条件が成立しない以上, レート調整の収支効果は不安定 である。

ただし,輸入業者による価格安定化政策の場合,安定的なファクターが全

(6)

く存在しないわけではない。輸入業者が輸出業者の外国販売子会社であると き,発生しうる為替差益の親会社への送金が行われるなら,それは経常収支 に安定的な作用をする。例えば,為替レートの切下げを想定しよう。そのと き外国輸出業者の国内子会社の利潤は減少し,それ故利潤送金のための外国 為替需要もまた減少する

o

他方, 自国輸出業者の外国子会社の利潤は増大す

る結果,利潤送金による外国為替の供給は増大する

20

かくして為替レート変化の貿易収支に与える効果は不安定ではあるが,貿 易外収支に対しては安定的であり,それは第 1 次効果を中和させる働きをす

o

( 3 )   輸出入業者のケース

貿易はすべて自国の輪山入業者の手によって行われ, 自国の輸入も輸出も ともに外国通行表示で与えられているものとしよう。この混合ケースにおい ては,乙れまでの議論から明らかなように

d(p.

I 1

*M) 

d(px*X) 

が成立する

O

( 1 9 )   ( 2 0 )  

既に知られているように, ,  ( 1 9 ) ( 2 0 )両式は,自国の輸入市要の価格弾力性 E がゼロとなり,外国のそれと*は 1 の値をもつことを教える

D

乙の乙とは外 貨通貨表示の貿易収支を考えるならば,為替レート変化の収支調整効果が存 在しないことを意味する

o

町 硬直価格の下での為替レートと交易条件

平価変更と交易条件との関係について,完全競争の下での通常の議論は,

平価の切下げは交易条件を悪化させると主張する

D

しかし,硬直価格の下で は必ずしもそうでなく,むしろ逆となる興味深い結果が導かれる。

( 1 )   輸出業者のケース

はじめに前節の論述に従い,輸出業者が貿易の主体となり,価格安定化政

2. 

この点については

Dunn

[ 1

970]

p.145

参照。

(7)

硬直価格の下での平価変更と国際収支:部分均衡分析

策を実施するケースからとり上げよう

o

いまわが国通貨が切下げられるならば,わが国の輸出に対する外国の支払 額は,外国通貨表示では変らないが,わが国通貨表示では増大する。他方,

わが国の輸入支払額は,わが国通貨で不変であっても,外国通貨表示では減 少する

O

すなわち,一国の通貨の切下げは,その国の輸出業者の利潤を増大 せしめ,外国の輸出業者の利潤を減少せしめる故,わが国通貨の切下げは,

わが国への実質所得の移転を招く。

かくして,わが国の交易条件はこの場合改善される。切下げのときは,い まと逆の結果になる乙とは論をまたない。

( 2 )   輸入業者のケース

次に輸入業者のケースにおいては, ( 1 ) のケースと逆の結果になる。自国輸 入業者の利潤は, 自国通貨の切下げに伴い,減少するのに対して,外国輸入 業者の利潤は増大する。つまり,わが国の輸出に対する外国の支払額はわが 国通貨表示で不変であっても,外国通貨表示では減少する

D

一方,外国の輸 出に対するわが国の支払額は,外国通貨表示では変化しないが,わが国通貨 表示では増大する。したがって,外国への実質所得の移転をひきおこす以 上,わが国の交易条件は,わが国通貨の切下げに伴い,悪化する(切上げの 場合は改善)。

( 3 ) 混 合 ケ ー ス

貿易がすべてわが国の輸出入業者によって行われている場合には,輸出額 と輸入額に大差がない限り,為替レートの変化は交易条件にほとんどその効 果を与えないであろう。

V

結 び

以上の考察から得られた結論は,明らかに強く部分均衡分析に依拠してい

O

一方,根岸(根岸[1

979])

はケインジアン・モデノレに基づいて,硬直価

絡の下での為替レート調整の問題を分析した。本論文における分析では,為

替レート変化の所得効果は考慮されていない。このことは,特に為替レート

(8)

変化の貿易収支に与える効果が存在しない場合,すなわち,貿易がすべて 自国の輸出入業者に手にゆたねられるケースにおいて明確になる。根岸の導 いた興味深い結論は,貿易収支が黒字のとき,為替切上げは黒字をさらに増 大させ,逆に赤字のときは,為替切下げは赤字を減少させる,という見解で ある。このような論述を可能ならしめるには,貿易業者に帰属する為替差 益,差損を通じる為替レート変化の所得効果を明らかにしなければならな い。前節までの考察をもっと進めて所得効果に言及することは可能である が,部分均衡分析的性格上,純効果は依然として明瞭でない。唯一言えるこ とは,本分析から得られた為替レート変化の第 1 次効果に関する結論は,一 般均衡分析から導かれたものと異にしない,という点である。そして為替レ ート変化の交易条件効果に関して,通常の完全競争の下での結論と逆の結果 が得られた。もとより本論文のねらいは,すべての財の価格が硬直的である という対称的仮定に基づいて,外国為替市場‑の安定条件, ラーナ一条件の再 解釈を試みることにあったのである。

引 用 文 献

1)  Dunn

, 

R. M. 

[ 1

970 J 

Flexible  Exchange Rates and Oligopoly  Pricing:  A Study of Canadian Markets

,  " 

Journal 0/ Political Economy

, 

78

, 

14051

, 

(2)  Gray

, 

H. P. 

[ 1

965J

Imperfect  Markets and the  Effectiveness  of  Devaluation

,  " 

Kyklos

, 

18

51230. 

(3) 

宮崎義一・新野幸次郎編[1

972J

W

管理価格:現代の価格機構を考える』有斐閣。

(4)  Negish

  , i

T.  [1979J

Foreign Exchange Gains in  a Keynesian Model  of  International Trade

,  " 

Economie Aρtilique

, 

62333. 

5)  Sweezy

, 

P. M. 

[ 1

939 J 

Demand under Condition of Oligopoly

,  " 

Journal 

0/ Political Economy

, 

47

, 

56873

, 

参照

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