パ タ ー ン 反 転 視 覚 誘 発 電 位 を 用 い た イ ヌ の 視 力 評 価 に 関 す る 研 究
酪 農 学 園 大 学 大 学 院 獣 医 学 研 究 科 獣 医 学 専 攻 博 士 課 程
伊 藤 洋 輔
伴 侶 動 物 医 療 教 育 分 野 画 像 診 断 学 教 育 ユ ニ ッ ト 指 導 教 員 教 授 中 出 哲 也
2015 年 度
目 次
頁
緒 論
1
第 Ⅰ 章 酸 素 セ ボ フ ル ラ ン 吸 入 麻 酔 が パ タ ー ン 反 転 視 覚 誘 発 電 位 (
P-VEP) へ 与 え る 影 響 の 検 討
小 諸4
材 料 と 方 法
6
結 果
13
考 察
18
小 括
21
第 Ⅱ 章 眼 屈 折 度 が
P-VEP
へ 与 え る 影 響 の 検 討 小 諸22
材 料 と 方 法
24
結 果
27
考 察
30
小 括
33
第 Ⅲ 章
P-VEP
を 用 い た 健 常 ビ ー グ ル 犬 で の 視 力 評 価 小 諸34
材 料 と 方 法
36
結 果
39
考 察
42
小 括
44
第 Ⅳ 章 イ ヌ 白 内 障 臨 床 例 に お け る
P-VEP
を 用 い た 白 内 障 眼 お よ び 非 白 内 障 眼 の 視 力 評 価小 諸
45
材 料 と 方 法
47
結 果
51
考 察
58
小 括
60
総 括
62
謝 辞
66
引 用 文 献
67
1
緒 論視 機 能 検 査 法 に は 、 特 性 の 違 い に よ り 様 々 な 検 査 方 法 が あ り 、 検 査 の 目 的 に よ り 使 い 分 け ら れ て い る 。 中 で も 電 気 生 理 学 的 検 査 に は 、 網 膜 視 細 胞 の 機 能 を 評 価 す る 検 査 法 で あ る 網 膜 電 図 検 査 と 、 視 覚 中 枢 ま で の 視 路 全 て を 非 侵 襲 的 に 評 価 す る 視 覚 誘 発 電 位 (
visual evoked potential; VEP) 検 査
が あ る 。視 覚 刺 激 で あ る 光( 光 子 )は 、角 膜 、前 房 、水 晶 体 、お よ び 硝 子 体 な ど の 中 間 透 光 体 を 通 過 し 、 一 次 ニ ュ ー ロ ン で あ る 網 膜 の 視 細 胞 で 受 容 さ れ 、 電 気 刺 激 へ 変 換 さ れ る 。 視 細 胞 で 変 換 さ れ た 電 気 刺 激 は 、 二 次 ニ ュ ー ロ ン で あ る 双 極 細 胞 、 三 次 ニ ュ ー ロ ン で あ る 網 膜 神 経 節 細 胞 へ 伝 達 さ れ 、 視 神 経 、視 交 叉 、視 索 、外 側 膝 状 体 、お よ び 視 放 線 を 通 り 大 脳 皮 質 視 覚 野 へ 到 達 す る こ と で 、 視 覚 刺 激 と し て 認 識 さ れ る 。 こ の 時 、 大 脳 皮 質 視 覚 野 で 起 こ る 電 位 変 化 がVEP
で あ り 、VEP
が 記 録 さ れ れ ば 対 象 は 視 覚 刺 激 を 認 識 し た と 客 観 的 に 判 断 す る こ と が 出 来 る 。ヒ ト 医 療 で は
VEP
検 査 が 、視 神 経 疾 患 や 頭 蓋 内 の 視 路 が 障 害 さ れ る よ う な 疾 患 の 診 断 に 用 い ら れ て い る 他 、 視 路 の 他 覚 的 評 価 が 出 来 る と い う 特 性 を 利 用 し 、 心 因 性 視 覚 障 害 や 詐 病 の 検 査 、 ま た 知 的 障 害 を 持 つ 患 者 や 、 検 査 に 協 力 を 得 る こ と が 難 し い 乳 幼 児 の 視 覚 検 査 に も 用 い ら れ て い る[48]
。 一 方 、イ ヌ を 用 い た 毒 性 試 験 に 関 す るVEP
の 報 告 は あ る も の の[32]、臨 床
応 用 に 関 す る 報 告 は 乏 し く 、 そ れ 故 に 、 現 在 の 獣 医 療 に お い て は 検 査 法 が 十 分 に 確 立 し て い な い の が 実 情 で あ る 。VEP
検 査 に は 、単 一 の フ ラ ッ シ ュ 刺 激 を 用 い た フ ラ ッ シ ュVEP
(F-VEP)
と 、 輝 度 の 異 な る
2
色 の 格 子 状 パ タ ー ン 模 様 を 反 転 す る こ と で 視 覚 刺 激 を 行 う パ タ ー ン 反 転VEP( P-VEP)に 大 別 さ れ る 。P-VEP
で は さ ら に 、刺 激 パ タ ー ン の パ タ ー ン サ イ ズ を 変 え る こ と に よ り 、 被 検 眼 の 解 像 度 を よ り 詳 細 に 調 べ る こ と が 可 能 で あ る 。 こ のP-VEP
を 利 用 し 、 ヒ ト 医 療 に お い て 、2
前 述 の よ う な 疾 患 の 検 査 だ け で は な く 、 視 力 の 他 覚 的 評 価 を 行 う こ と も 可 能 で あ る と い う 報 告 が あ る
[1, 18, 21, 30, 34, 48, 49]。 視 力 評 価 は 、 本 邦 で
は 主 に ラ ン ド ル ト 環 、 諸 外 国 で は ス ネ レ ン 視 標 やE
視 標 を 用 い て 、 被 検 者 自 身 の 判 断 に 委 ね る 自 覚 的 視 力 検 査 が 一 般 的 で あ る 。 し か し 、 検 査 に 非 協 力 的 な 被 検 者 の 場 合 、 自 覚 的 視 力 検 査 は 不 可 能 で あ り 、 そ の よ う な 状 況 で は 、P-VEP
を 用 い た 他 覚 的 視 力 検 査 法 が 用 い ら れ る 。現 在 、 臨 床 獣 医 眼 科 学 に お い て は 、 視 覚 を 維 持 す る こ と が 最 重 要 項 目 と さ れ て い る 。 こ こ 数 年 は 、 我 が 国 に お け る イ ヌ の 飼 育 頭 数 は 減 少 に 転 じ て は い る も の の 、未 だ
1000
万 頭 近 い 数 で あ る と 推 計 さ れ 、ま た 全 飼 育 頭 数 に お け る 純 血 犬 種 の 割 合 は 大 き な 数 を 占 め て い る 。 そ れ ら 純 血 犬 種 に 遺 伝 的 特 異 性 が あ り 、視 覚 が 障 害 さ れ る 代 表 的 な 疾 患 と し て 白 内 障 が あ る[10]。現
在 、白 内 障 に 対 す る 根 本 的 な 治 療 法 と し て は 外 科 的 治 療 法 し か 存 在 し な い 。 現 在 、 行 わ れ て い る イ ヌ お よ び ヒ ト の 白 内 障 外 科 的 治 療 法 は 、 水 晶 体 超 音 波 乳 化 吸 引 (pachoemulsification and aspiration; PEA
) お よ び 眼 内 レ ン ズ(intraocular lens; IOL
)挿 入 併 用 術 が 最 も 一 般 的 で あ る 。ヒ ト 医 学 眼 科 で は 、 眼 内 レ ン ズ の 普 及 お よ び 改 良 、 水 晶 体 超 音 波 乳 化 吸 引 術 の 普 及 、 術 式 の 進 歩 に よ り 、 今 で は 成 功 率 の 高 い 一 般 的 な 手 術 方 法 と な っ て い る 。 一 方 、獣 医 眼 科 学 に お い て も 、1997 年 に 国 内 で 初 め て イ ヌ 用 眼 内 レ ン ズ が 発 売 さ れ た 。 そ れ と 共 に イ ヌ に お け るPEA
お よ びIOL
挿 入 併 用 術 が 徐 々 に 普 及 し 、 眼 内 レ ン ズ の 改 良 と も 相 ま っ て 、 今 現 在 で は 数 多 く の 施 設 に お い て 施 術 さ れ て い る[26, 53]
。近 年 で は そ の 術 式 も 成 熟 し て き て お り 、手 術 成 績 も 向 上 し て い る[24, 27]。
前 述 の よ う に 、 現 在 で は 獣 医 学 領 域 に お い て も 白 内 障 の 外 科 的 治 療 は 一 般 化 し て お り 、 そ の 目 的 は 視 覚 の 維 持 お よ び 向 上 で あ る 。 し か し 、 現 在 の 獣 医 療 に お い て は 、 視 力 の 概 念 が 存 在 せ ず 、 視 覚 の 評 価 は 視 覚 を 有 す る か
3
否 か で し か 判 断 さ れ て い な い 。し た が っ て 、白 内 障 外 科 的 治 療 に お い て も 、 視 覚 が 向 上 し た か 否 か の 定 性 的 な 評 価 し か 行 っ て お ら ず 、 ど の 程 度 視 力 が 向 上 し た か を 定 量 的 に 評 価 出 来 て い な い 。 イ ヌ に お い て も 視 力 の 評 価 法 が 確 立 さ れ れ ば 、 飼 育 者 に 対 し て よ り 詳 細 な 病 状 や ア フ タ ー ケ ア の 説 明 を 行 う こ と が 可 能 に な り 、 動 物 の 生 活 の 質 (
QOL) の 向 上 に も 寄 与 す る と 考 え
ら れ 、 ひ い て は 、 視 力 向 上 を 目 的 と し た 治 療 法 の 選 択 が 可 能 と な る こ と も 期 待 で き る 。本 研 究 で は 、
P-VEP
を 用 い た イ ヌ に お け る 他 覚 的 視 力 評 価 法 を 確 立 す る こ と を 目 的 と し て 、イ ヌ に お け るP-VEP
の 基 礎 的 、お よ び 臨 床 的 研 究 を 行 っ た 。VEP 検 査 を 動 物 で 実 施 す る 場 合 の 問 題 と し て 、視 覚 刺 激 を 行 う 刺 激 装 置 を 注 視 さ せ る 必 要 が あ る こ と 、 ま た 微 弱 な 脳 波 を 検 出 す る 特 性 上 、 体 動 に よ る 筋 電 位 な ど の ノ イ ズ 混 入 を 防 ぐ た め に 鎮 静 処 置 あ る い は 全 身 麻 酔 に よ る 不 動 化 が 必 要 と な る 。そ れ 故 、第 Ⅰ 章 で は 、麻 酔 深 度 とP-VEP
の 関 係 を 検 討 す る た め 、 現 在 獣 医 療 で 一 般 的 に 用 い ら れ て い る 吸 入 麻 酔 薬 で あ る セ ボ フ ル ラ ン が 、P-VEP
へ 与 え る 影 響 を 検 討 し た 。 第 Ⅱ 章 で は 眼 屈 折 度 がP-VEP
に 与 え る 影 響 を 検 討 し 、第 Ⅲ 章 で は 、前 章 の 結 果 を 基 に 、健 常 ビ ー グ ル 犬 を 用 い てP-VEP
に よ る 他 覚 的 視 力 評 価 を 試 み た 。最 後 に 第 Ⅳ 章 で は 、イ ヌ の 白 内 障 臨 床 例 を 用 い て 、P-VEP
に よ る 他 覚 的 視 力 評 価 を 試 み た 。4
第 Ⅰ 章 酸 素 セ ボ フ ル ラ ン 吸 入 麻 酔 が
P-VEP
へ 与 え る 影 響 の 検 討小 緒
VEP
に は 、 視 覚 刺 激 に フ ラ ッ シ ュ 刺 激 を 用 い るF-VEP
と 、 格 子 状 パ タ ー ン 刺 激 を 用 い るP-VEP
が 存 在 す る 。 大 脳 皮 質 視 覚 野 は 、F-VEP
に お け る フ ラ ッ シ ュ 光 刺 激 の よ う な 網 膜 全 域 が 均 一 に 刺 激 さ れ る 光 刺 激 よ り も 、 輪 郭 や コ ン ト ラ ス ト の 異 な る 図 形 の よ う な 光 刺 激 に 対 し て よ り 感 受 性 が 高 い と さ れ て い る[2]。 そ の た め 、 コ ン ト ラ ス ト が 異 な り 、 一 定 時 間 間 隔 で 格
子 縞 模 様 が 反 転 す るP-VEP
で は 、比 較 的 弱 い エ ネ ル ギ ー の 光 刺 激 で も 大 脳 皮 質 視 覚 野 を 刺 激 し 得 る と さ れ 、 ま たF-VEP
に 比 べ 、VEP
波 形 や 潜 時 の 変 動 が 小 さ い と さ れ て い る[12]。
獣 医 眼 科 学 に お い て は 、
P-VEP
の 報 告 は 非 常 に 少 な い も の の 、 イ ヌ に お い て そ の 有 用 性 が 報 告 さ れ て い る[33]。さ ら に 近 年 、伊 藤 ら は P-VEP
を 用 い て イ ヌ に お け る 他 覚 的 視 力 評 価 の 可 能 性 を 報 告 し て い る[20]。
P-VEP
の 記 録 の 際 に は 、被 検 動 物 に 刺 激 装 置 を 注 視 さ せ る 必 要 性 が あ る が 、 イ ヌ を は じ め と す る 獣 医 学 領 域 の 対 象 動 物 に お い て は 、 意 識 下 で 刺 激 装 置 を 注 視 さ せ る こ と は 困 難 で あ り 、 必 然 的 に 鎮 静 処 置 あ る い は 全 身 麻 酔 に よ る 不 動 化 が 必 要 と な る 。 し か し 、 一 般 的 に 全 身 麻 酔 薬 は 中 枢 神 経 系(
CNS)抑 制 作 用 が あ り 、脳 波 の 一 つ で あ る VEP
に も 影 響 を 与 え る 可 能 性 が あ る 。医 学 領 域 に お い て は 、注 射 麻 酔 薬 あ る い は 吸 入 麻 酔 薬 がVEP
に 与 え る 影 響 に つ い て 報 告 さ れ て い る[3, 7, 9, 22, 29, 31, 40, 42]。 本 研 究 は 、
イ ヌ に お い て 視 力 評 価 を 行 う こ と を 目 的 と し て い る が 、 白 内 障 手 術 の 前 後 で の 視 力 評 価 で は 、 全 身 麻 酔 下 で のP-VEP
記 録 を 行 う こ と が 想 定 さ れ る 。 我 が 国 で イ ヌ の 吸 入 麻 酔 薬 と し て 一 般 的 に 用 い ら れ て い る セ ボ フ ル ラ ン が 、 イ ヌ のVEP
へ 与 え る 影 響 を 検 討 し た 報 告 は な い 。5
Bispectral Index( BIS
)は 、CNS の 活 動 状 態 を 客 観 的 に 把 握 す る 指 標 と し て 用 い ら れ 、 脳 波 を 基 に 導 出 さ れ る 。 医 学 領 域 に お い て 全 身 麻 酔 の 催 眠 状 態 の 指 標 と し てBIS
モ ニ タ ー が 臨 床 的 に 利 用 さ れ る こ と も あ り 、 そ の 有 用 性 も 報 告 さ れ て い る[4, 14, 23, 43, 51]
。Greene ら は 、イ ヌ に お い て 臨 床 的 に 外 科 手 術 で 用 い ら れ る 濃 度 (1.36-4.8 %) の セ ボ フ ル ラ ン 吸 入 麻 酔 と BIS
値 の 関 係 を 検 討 し 、 セ ボ フ ル ラ ン 濃 度 の 増 加 に 伴 いBIS
値 が 低 下 し て い く と 報 告 し て お り 、 イ ヌ に お い て も 中 枢 神 経 系 の 抑 制 状 態 把 握 の 指 標 に な り 得 る と さ れ る[15]
。本 章 で は 、 実 験 ビ ー グ ル を 用 い て 、P-VEP の 刺 激 パ タ ー ン サ イ ズ お よ び 刺 激 距 離 を 一 定 に し 、酸 素
-セ ボ フ ル ラ ン( OS)吸 入 麻 酔 の 麻 酔 深 度 を 変 化
さ せ てP-VEP
お よ びBIS
測 定 を 行 い 、OS
吸 入 麻 酔 に よ るCNS
の 抑 制 がP-VEP
に 与 え る 影 響 を 検 討 し た 。6
材 料 と 方 法1.
供 試 動 物臨 床 的 に 健 康 な ビ ー グ ル 犬
6
頭( 雄3
頭,
雌3
頭 )を 用 い た 。年 齢 は5
~7
歳( 平 均6.0
歳 )、体 重 は11.6~ 15.6kg( 平 均 14.0kg)で あ っ た 。被 検 眼
は 全 て の 供 試 犬 に お い て 右 眼 と し た 。 供 試 犬 は 、 本 実 験 実 施 前 に 、 眼 科 検 査 と し て 威 嚇 瞬 目 反 応 、対 光 反 射 、眼 圧 測 定 、細 隙 灯 顕 微 鏡 検 査 、眼 底 検 査 お よ び 網 膜 電 図 検 査 を 実 施 し 、 神 経 学 的 お よ び 眼 科 的 異 常 が な い 事 を 確 認 し た 。 供 試 犬 は 、 本 実 験 実 施8
時 間 前 よ り 絶 飲 絶 食 と し た 。 本 実 験 は 酪 農 学 園 大 学 動 物 実 験 委 員 会 の 定 め る ガ イ ド ラ イ ン に 基 づ い て 実 施 し た 。( 動 物 実 験 承 認 番 号 : 第VH22B3
号 )2.
麻 酔 方 法全 て の 全 身 麻 酔 処 置 は 以 下 の 方 法 で 行 っ た 。 供 試 犬 は 麻 酔 用 マ ス ク に よ り
OS
麻 酔 で 導 入 し 、 先 端 に 気 道 内 ガ ス サ ン プ リ ン グ チ ュ ー ブ (8 Fr, 100 cm;
フ ィ ー デ ィ ン グ チ ュ ー ブ,
テ ル モ,
東 京 )が 取 り 付 け ら れ た カ フ 付 気 管 チ ュ ー ブ(35 Fr;
フ ァ イ コ ン,
富 士 シ ス テ ム ズ,
東 京 )を 気 管 挿 管 し 、右 側 横 臥 位 に て セ ボ フ ル ラ ン 専 用 気 化 器 ( セ ボ フ ル ラ ンASV-5,
木 村 医 科,
東 京; Ohmed Sevotec3,
デ ー テ ッ ク ス・オ メ ダ,
東 京 )を3%
に 設 定 し 、OS
麻 酔 を 開 始 し た 。OS
麻 酔 に は 、セ ボ フ ル ラ ン 専 用 気 化 器 を 回 路 外 気 化 器 と し て 搭 載 し た 吸 入 麻 酔 器(Siesta 21,
木 村 医 科,
東 京 )お よ び 再 呼 吸 循 環 回 路 を 用 い た 。麻 酔 導 入 後 、橈 側 皮 静 脈 に22
ゲ ー ジ(G
)ま た は24G
の 血 管 カ テ ー テ ル ( ス ー パ ー キ ャ ス,
メ デ ィ キ ッ ト,
東 京 ) を 留 置 し た 。1)
セ ボ フ ル ラ ン 最 小 肺 胞 濃 度 (MAC; minimum alveolar concentration)
測 定
7
セ ボ フ ル ラ ン の
MAC
測 定 は 、Ko ら の 方 法 に 従 い 、Tail Clamp 法 に よ り 行 っ た[25]。
各 供 試 犬 の 尾 を 、タ オ ル 鉗 子( バ ッ ク ハ ウ ス タ オ ル 鉗 子
, MIZUHO,
東 京 ) の 径 と 同 径 と な る 部 分 を 剃 毛 し 、 こ れ を 鉗 圧 部 と し た 。 各 供 試 犬 は 、 セ ボ フ ル ラ ン 麻 酔 導 入 後 、終 末 呼 気 セ ボ フ ル ラ ン 濃 度(ETSEV) 2.4
% で30
分 間 平 衡 化 し た 。 平 衡 化 後 、 尾 の 鉗 圧 部 を タ オ ル 鉗 子 の 第 三 ラ チ ェ ッ ト ま で 閉 じ 鉗 圧 し た 。タ オ ル 鉗 子 は60
秒 間 、も し く は 有 効 な 体 動 を 示 す ま で 鉗 圧 を 維 持 し た 。 有 効 な 体 動 と は 、 頭 部 ま た は 四 肢 を 動 か す こ と と 定 義 し 、 発 咳 、 咀 嚼 、 嚥 下 お よ び 努 力 性 呼 吸 は 含 ま な い こ と と し た 。 有 効 な 体 動 が 認 め ら れ た 場 合 の み「 反 応 あ り 」、そ れ 以 外 の 場 合 は「 反 応 な し 」と し た 。鉗 圧 に よ り 「 反 応 あ り 」 だ っ た 場 合 、ETSEV
を0.2
% 上 げ 、「 反 応 な し 」 だ っ た 場 合 、ETSEV
を0.2
% 下 げ 、ETSEV
の 調 節 後 は20
分 間 の 平 衡 化 を 行 い 、再 度 鉗 圧 刺 激 し 反 応 を 観 察 す る と い う 作 業 を 繰 り 返 し 行 っ た 。「 反 応 あ り 」か ら「 反 応 な し 」あ る い は「 反 応 な し 」か ら「 反 応 あ り 」へ 、反 応 の 変 化 が 認 め ら れ た 前 後 のETSEV
の 平 均 値 をMAC
と し た 。MAC
は3
回 測 定 し 、そ の3
回 の 平 均 値 を そ の 供 試 犬 の 最 終 的 なMAC
値 と し て 算 出 し た 。2) P-VEP
記 録 時 の 麻 酔 方 法全 て の 供 試 犬 は 、 麻 酔 用 マ ス ク に よ り
OS
麻 酔 導 入 後 、 気 管 チ ュ ー ブ を 挿 管 し 、 腹 臥 位 に て 各 供 試 犬 の1.25 MAC
に 相 当 す る セ ボ フ ル ラ ン 濃 度 で 麻 酔 を 開 始 し た 。 麻 酔 開 始 後 、 右 前 肢 橈 側 皮 静 脈 お よ び 後 肢 伏 在 静 脈 に 静 脈 カ テ ー テ ル を 留 置 し た 。 麻 酔 中 は 、 生 体 情 報 モ ニ タ ー (COLIN BP-508,
OMRON COLIN Co., Ltd.,
東 京 )を 用 い て 、心 拍 数 、血 圧 、体 温 、ETSEV
、 終 末 呼 気 二 酸 化 炭 素 濃 度 (ETCO
2) を モ ニ タ ー し た 。 ま た 、 従 量 式 人 工 呼 吸 装 置 を 用 い て 間 欠 的 陽 圧 換 気 (IPPV;
換 気 回 数12
回/分 、 呼 気 時 間 : 吸
8
気 時 間 =
1
:2) で 呼 吸 管 理 を 行 っ た 。 血 圧 は 平 均 動 脈 血 圧 が 60 mmHg
以 上 、ETCO2は35
~40 mmHg
に 維 持 し た 。 麻 酔 開 始 後 は 、 右 前 肢 橈 側 皮 静 脈 に 留 置 し た 静 脈 カ テ ー テ ル よ り 乳 酸 リ ン ゲ ル 液 を10 ml/kg/
時 間 で 静 脈 内 輸 液 を 開 始 し た 。 体 温 は 、 温 風 ブ ラ ン ケ ッ ト を 用 い て 加 温 し 、37.5
~38.0
℃ に 維 持 し た 。麻 酔 中 は 、伏 在 静 脈 に 留 置 し た 静 脈 カ テ ー テ ル よ り シ リ ン ジ ポ ン プ を 用 い て 臭 化 ロ ク ロ ニ ウ ム( エ ス ラ ッ ク ス, MSD,
東 京 )を0.2
~
2.0 mg/kg/時 間 で 持 続 静 脈 内 投 与 を 行 っ た 。
3. BIS
測 定各 麻 酔 深 度 に お い て
BIS
測 定 を 行 っ た 。BIS
測 定 に は 、BIS
モ ニ タ ー(A- 2000XP, Aspect Medical Systems, Natick, MA, U.S.A.
) お よ び ス パ イ ラ ル 電 極( ユ ニ ー ク メ デ ィ カ ル,
東 京 )を 用 い た 。電 極 は 、基 準 電 極 を 左 右 内 眼 角 の 中 央 の 剃 毛 し た 皮 膚 に 、2
本 の 記 録 電 極 の う ち1
本 を 頭 頂 部 皮 膚 に 、 も う 一 方 を 右 頬 骨 突 起 上 の 外 眼 角 か ら 約2 cm
後 方 の 皮 膚 に そ れ ぞ れ 設 置 し た 。BIS 測 定 で は 、BIS 値 、過 去60
秒 間 の 良 好 な 脳 波 シ グ ナ ル の 割 合 を 表 し た 入 力 信 号 ク オ リ テ ィ イ ン デ ッ ク ス 値 (SQI
)、 お よ び 過 去60
秒 間 に 測 定 さ れ た 脳 波 中 の 平 坦 脳 波 の 割 合 を 表 し た サ プ レ ッ シ ョ ン 率 (SR)を 記
録 し た 。4. P-VEP
記 録1)
眼 屈 折 度 矯 正す べ て の 供 試 犬 に お い て 、 被 検 眼 で あ る 右 眼 の 眼 屈 折 度 は 、 前 原 ら の 報 告 に し た が い 、事 前 に 検 影 法 に よ り 測 定 し た
[28]。検 影 法 に は 線 レ チ ノ ス コ
ー プ ( ナ イ ツ ス ト リ ー ク レ チ ノ ス コ ー プRX-3A,
ナ イ ツ,
東 京 ) と 板 付 き レ ン ズ( 畑 氏 ス キ ヤ ス コ ー プ,
は ん だ や,
東 京 )を 用 い た 。検 影 法 に よ る 眼9
屈 折 度 測 定 の
60
分 前 に 、調 節 麻 痺 薬 と し て 塩 酸 シ ク ロ ペ ン ト ラ ー ト( サ イ プ レ ジ ン1 %,
参 天 製 薬,
大 阪 )を 点 眼 し た 。検 影 法 は 、検 者 眼 と 供 試 犬 被 検 眼 の 距 離 を50 cm
に 設 定 し 、 薄 暗 い 照 明 下 に て 実 施 し た 。 瞳 孔 内 へ 投 射 し た 入 射 光 の 動 き と 、 眼 底 反 射 光 の 動 き か ら 同 行 、 逆 行 、 お よ び 中 和 を 判 定 し た 。 同 行 は 入 射 光 と 反 射 光 の 動 き が 同 方 向 で あ り 、 焦 点 が 眼 底 よ り 後 ろ に あ る 状 態 、 逆 行 は 入 射 光 と 反 射 光 の 動 き が 逆 方 向 で あ り 、 焦 点 が 眼 底 よ り 手 前 に あ る 状 態 、中 和 は 入 射 光 の 動 き に 関 わ ら ず 反 射 光 に 動 き が 無 く 、 焦 点 が 眼 底 に 合 致 し て い る 状 態 で あ る 。 同 行 ま た は 逆 行 と 判 定 し た 際 は 、 板 付 き レ ン ズ を 用 い て 、 被 検 眼 を 中 和 さ せ る の に 必 要 な レ ン ズ の 屈 折 度 を 求 め た 。 得 ら れ た 結 果 よ り 、 以 下 の 計 算 式 を 用 い て 被 検 眼 の 屈 折 度 を 算 出 し た 。 屈 折 度 の 単 位 はdiopter( D
) を 用 い 、 焦 点 距 離 (m
) の 逆 数 で 表 さ れ る 。被 検 眼 の 眼 屈 折 度 (
D) = 中 和 に 要 し た 板 付 き レ ン ズ の 屈 折 度 - 2 D
す べ て の 被 検 眼 は ソ フ ト コ ン タ ク ト レ ン ズ(
PremiO,
メ ニ コ ン,
名 古 屋 ) を 用 い て-2 D
に 調 節 し た 。2) P-VEP
記 録 の 設 定各 麻 酔 深 度 に お い て 、
P-VEP
記 録 の20
分 前 に 散 瞳 お よ び 調 節 麻 痺 処 置 と し て シ ク ロ ペ ン ト ラ ー ト 点 眼 液( サ イ プ レ ジ ン1 %点 眼 薬 ,
参 天 製 薬,
大 阪 )を 被 検 眼 に 点 眼 し た 。P-VEP
記 録 に は ポ ー タ ブ ルERG/VEP
装 置(LE-
3000, TOMEY,
名 古 屋 )お よ び パ タ ー ン 刺 激 装 置(PS-410, TOMEY
)を 用 い た( 表 示 色:黄 色( 580 nm
), コ ン ト ラ ス ト:75 %,
平 均 輝 度:15 cd/m
2,
総 画 素 数:640
×400,
表 示 領 域:122
×195 mm,
画 素 サ イ ズ:0.22
×0.22 mm,
10
フ レ ー ム レ ー ト
:60 Hz)。記 録 電 極 お よ び 基 準 電 極 に は 針 型 電 極( VEP
針 電 極, MAYO,
名 古 屋 )を 用 い て 、記 録 電 極 はinion
付 近 、基 準 電 極 はnasion
付 近 の 皮 下 へ そ れ ぞ れ 刺 入 し た 。 接 地 電 極 に は 皿 型 電 極 (LE
用 耳 型 電 極, TOMEY
)を 用 い 、ア ル コ ー ル で 脱 脂 し た 右 耳 介 内 面 皮 膚 へ 脳 波 電 極 糊(EC2 electrode cream, GRASS TECHNOLOGIES, RI, U. S. A.) を 塗 布 し て 設
置 し た( 図1)。P-VEP
記 録 は 、薄 暗 い 照 明 下 で 行 っ た 。P-VEP 記 録 中 は 、 記 録 眼 で あ る 右 眼 の 開 瞼 を 維 持 す る た め 開 瞼 器 を 装 着 し 、 ま た 右 眼 球 表 面 の 乾 燥 を 防 止 す る た め 生 理 食 塩 水( 大 塚 生 食 注,
大 塚 製 薬,
東 京 )を 適 宜 点 眼 し た 。 非 記 録 眼 で あ る 左 眼 は 、 視 覚 刺 激 さ れ る こ と を 避 け る た め テ ー プ で 閉 瞼 遮 蔽 し た 。記 録 眼 の 角 膜 か ら パ タ ー ン 刺 激 装 置 ま で の 距 離 は
50 cm
に 設 定 し 、 刺 激 パ タ ー ン サ イ ズ は 一 辺 が7.31 mm( 視 角 = 50.3 arc-min) の 格 子 縞 パ タ ー
ン を 用 い た( 図2)。パ タ ー ン 反 転 刺 激 頻 度 は 3 rev/sec
で 、加 算 回 数 は128
回 と し た 。P-VEP
波 形 は 、 国 際 臨 床 視 覚 電 気 生 理 学 会 の 定 め る 基 準[35]に
従 い 、P100
潜 時 お よ びN75-P100
振 幅 を 評 価 し た 。P-VEP
記 録 お よ びBIS
測 定 は 、各 供 試 犬 に1.25 MAC
に 相 当 す る セ ボ フ ル ラ ン 濃 度 のOS
麻 酔 を20
分 間 維 持 し た 後 、 測 定 を 開 始 し た 。1.25 MAC
で の 測 定 の 後 、 同 様 に0.0、 0.5
、1.0、 1.5
、2.0、 2.5
お よ び2.75 MAC
に てP-VEP
お よ びBIS
測 定 を 行 っ た 。 な お 、 そ れ ぞ れ の 供 試 犬 に お い て 、VEP
波 形 が 消 失 し 、 波 形 が 記 録 で き な く な っ た 麻 酔 深 度 でP-VEP
記 録 お よ びBIS
測 定 を 終 了 し た 。5.
統 計 学 的 解 析各 麻 酔 深 度 で 得 ら れ た
VEP
波 形 の う ち 、P100
潜 時 お よ びN75-P100
振 幅 の 平 均 値 を 求 め 、 ウ ィ ル コ ク ソ ン の 符 号 付 順 位 和 検 定 を 用 い て 比 較 検 討11
し た 。 有 意 水 準 は5%と し た 。
12
図1.
電 極 設 置 部 位図
2. P-VEP
記 録 時 の 様 子13
結 果1.
セ ボ フ ル ラ ンMAC
お よ び 被 検 眼 の 眼 屈 折 度各 供 試 犬 の セ ボ フ ル ラ ン
MAC
お よ び 被 検 眼 の 眼 屈 折 度 は 表1
に 示 し た 。2. P-VEP
各 麻 酔 深 度 に お け る
P100
潜 時 お よ びN75-P100
振 幅 の 平 均 値 を 表2
に 示 し た 。ま た 、各 麻 酔 深 度 で 得 ら れ たVEP
波 形 を 図3
に 示 し た 。0.5 MAC か ら1.5 MAC
ま で は 、 全 て の 供 試 犬 に お い てP-VEP
が 測 定 可 能 だ っ た 。2.0 MAC
に お い て6
頭 中4
頭 で 、2.5 MAC お よ び2.75 MAC
に お い て そ れ ぞ れ1
頭 のVEP
が 消 失 し た 。0.0 MAC
か ら1.5 MAC
ま で の 各 麻 酔 深 度 間 で は 、P100
潜 時 に は 、 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た (p
>0.05)。
0.0 MAC
か ら1.5 MAC
ま で の 各 麻 酔 深 度 間 で は 、N75-P100
振 幅 に は 、 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た (p
>0.05)。
3. BIS
値 、SQI
お よ びSR
値各 麻 酔 深 度 に お け る
BIS
値 、SQI
お よ びSR
値 の 平 均 値 を 表3
に 示 し た 。 こ れ ら の 測 定 は 、2.0 MAC ま で は 全 て の 供 試 犬 で 行 っ た が 、VEP の 消 失 に 伴 い2.5 MAC
で は6
頭 中2
頭 、2.75 MAC
で は6
頭 中1
頭 で の み 行 っ た 。14
表
1.
セ ボ フ ル ラ ンMAC
お よ び 被 検 眼 の 眼 屈 折 度供 試 犬
No.
セ ボ フ ル ラ ンMAC (%)
被 検 眼 の 眼 屈 折 度(D)
1 1.95 +1.0
2 2.87 +2.0
3 2.33 +1.0
4 2.85 +2.0
5 2.05 +0.5
6 2.65 +3.0
15
表
2.
各 麻 酔 深 度 に お け るP100
潜 時 、 お よ びN75-P100
振 幅 セ ボ フ ル ラ ンMAC P100
潜 時(msec) N75-P100
振 幅(μV)
0.0 102.7 ± 16.0 1.74 ± 0.63
0.5 104.3 ± 7.8 2.29 ± 0.57
1.0 113.1 ± 13.1 3.34 ± 1.92
1.25 109.3 ± 24.0 2.67 ± 0.96
1.5 110.9 ± 24.2 2.70 ± 0.96
2.0 105.9, 102.8 2.03, 4.84
2.5 87.2 1.60
2.75
- -P100
潜 時 、 お よ びN75-P100
振 幅 の 結 果 は 、1.5 MAC
ま で は6
頭 の 平 均 値 ± 標 準 偏 差 を 示 し た 。2.0 MAC に お い て6
頭 中4
頭 、2.5 MAC に お い て6
頭 中1
頭 のVEP
が 消 失 し た た め 、2.0 MAC
で は2
頭 、2.5 MAC
で は1
頭 のP100
潜 時 お よ びN75-P100
振 幅 の 結 果 を 列 記 し た 。16
表
3.
各 麻 酔 深 度 に お け るBIS
値 、SQI、 お よ び SR
値セ ボ フ ル ラ ン
MAC BIS
値SQI SR (%)
0.0 79.2 ± 2.8 98.3 ± 3.2 2.8 ± 6.9
0.5 73.8 ± 2.6 97.8
±2.6 0
1.0 56.2 ± 4.0 96.8
±3.6 0
1.25 56.0 ± 5.4 96.3
±5.0 0
1.5 55.5 ± 14.2 77.8
± 25.55.2 ± 10.8 2.0 43.0 ± 32.3 86.3
± 18.337.7 ± 39.5
2.5 27, 23 71, 86 42, 45
2.75 88 67 9
BIS
値 、SQI
お よ びSR
値 の 結 果 は 、2.0 MAC
ま で は6
頭 の 平 均 値 ± 標 準 偏 差 を 示 し た 。2.5 MAC
で は2
頭 、2.75 MAC
で は1
頭 の 結 果 を そ れ ぞ れ 列 記 し た 。17
図
3.
供 試 犬6
頭 に お け る 各 麻 酔 深 度 で 得 ら れ たVEP
波 形2.0 MAC
に お い て 、4
頭 のVEP
波 形 が 消 失 し た 。 さ ら に 、2.5 MAC
で1
頭 、2.75 MAC
で1
頭 のVEP
波 形 が 消 失 し た 。18
考 察本 研 究 で は 、
0.0 MAC
か ら 一 般 的 な 外 科 手 術 が 可 能 な 麻 酔 深 度 で あ る1.5 MAC
ま で は 、6
頭 全 て でP-VEP
が 記 録 さ れ 、 ま た そ の 間 は 麻 酔 深 度 を 変 化 さ せ て もP100
潜 時 に 有 意 な 変 化 は 認 め ら れ な か っ た 。 動 物 の 不 動 化 が 得 ら れ る 、あ る い は 一 般 的 な 外 科 手 術 時 の 麻 酔 深 度 で あ れ ば 、P-VEP
記 録 に 際 し て セ ボ フ ル ラ ン 吸 入 麻 酔 がP-VEP
へ 与 え る 影 響 は 無 い と 考 え ら れ た 。本 研 究 で は 、 既 報 と 同 様 に 麻 酔 深 度 が 深 く な る に つ れ
BIS
値 は 低 下 す る 傾 向 が み ら れ 、1.5 MAC
か ら2.0 MAC
に か け て は 、BIS
値 は 約56
か ら 約43
へ 低 下 し 、 そ れ に 伴 いSR
値 は 約5.2 %か ら 約 38 %へ 増 加 が み ら れ た 。
さ ら に 、1.5 MAC
か ら はburst suppression
が 出 現 す る 個 体 が み ら れ た 。SR
はCNS
の 活 動 が 抑 制 さ れ て い る と き に 出 現 す る 平 坦 脳 波 の 割 合 を 示 す 値 で あ り 、burst suppression
はCNS
の 活 動 が 抑 制 さ れ て い る と き に 出 現 す る 脳 波 パ タ ー ン で あ る[4]。し た が っ て 、本 研 究 で は 1.5 MAC
か ら はCNS
の 活 動 が 強 く 抑 制 さ れ は じ め た と 推 察 さ れ る 。さ ら に 、麻 酔 深 度 が1.5 MAC
以 上 に な る に 従 い 、 平 坦 脳 波 の 割 合 が 増 加 し 、BIS
値 は 急 激 な 低 下 が み ら れ た 。VEP は 、 視 覚 刺 激 が 網 膜 か ら 大 脳 皮 質 視 覚 野 に 到 達 し た と き に 発 せ ら れ る 脳 波 で あ る 。平 坦 脳 波 の 割 合 が 増 加 し 、burst suppression が 出 現 す る よ う な 深 麻 酔 で は 、BIS
値 の 急 激 な 低 下 が み ら れ る こ と か ら 、 視 覚 を 司 る 大 脳 皮 質 視 覚 野 を 含 むCNS
の 活 動 が 強 く 抑 制 さ れ て い る と 判 断 で き 、そ の 結 果 と し てVEP
が 消 失 し た と 考 え ら れ た 。 ま たSQI
は 、 全 て の 麻 酔 深 度 で80 %程 度 を 維 持 で き て お り 、全 行 程 で 良 好 な 脳 波 測 定 を 行 う こ と が 出
来 た と 考 え ら れ た 。麻 酔 深 度 を 変 化 さ せ て も 、
P100
潜 時 に は 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 ヒ ト のF-VEP
記 録 に お い て 、セ ボ フ ル ラ ン や イ ソ フ ル ラ ン な ど の 吸 入 麻 酔19
の 麻 酔 深 度 に 依 存 し て 、
P100
に 相 当 す る 陽 性 波 頂 点 潜 時 の 延 長 お よ び 消 失 が み ら れ る と 報 告 さ れ て い る[9, 19, 22, 31]。 ま た 、 ヒ ト の P-VEP
に お い て 、被 験 者 の 刺 激 パ タ ー ン の 認 識 が 良 好 な 場 合 にP100
潜 時 は100 msec
前 後 を 示 す と さ れ 、 対 照 的 に 被 験 者 の 視 覚 認 識 が 不 良 あ る い は 困 難 な 場 合 に は 、P100
潜 時 の 延 長 あ る い はVEP
が 記 録 さ れ な く な る と 報 告 さ れ て い る[6, 46, 47]。本 研 究 で は 、被 検 眼 で あ る 右 眼 は 、検 影 法 で の 眼 屈 折 度 測 定 を
基 に 、 刺 激 距 離 で あ る50 cm
に 焦 点 が 合 う よ う に 、 眼 屈 折 度 を-2 D
に 矯 正 し た 。 ま た 、P-VEP
記 録 の20
分 前 に 調 節 麻 痺 薬 で あ る シ ク ロ ペ ン ト ラ ー ト の 点 眼 を 行 っ た 。 し た が っ て 、 供 試 犬 自 身 の ピ ン ト 調 節 能 力 や 、 屈 折 異 常 に よ る 影 響 は 排 除 さ れ て い る た め 、 刺 激 パ タ ー ン を 明 確 に 認 識 で き て い た と 考 え ら れ る 。 し か し な が ら 、 本 研 究 に お い て は 、 セ ボ フ ル ラ ン 吸 入 麻 酔 の 麻 酔 深 度 に 依 存 し たP100
潜 時 の 延 長 は 認 め ら れ ず 、 こ の 結 果 は ヒ ト に お け るF-VEP
で の 報 告 と 異 な っ て い た 。 こ の こ と か ら 、VEP
が 消 失 す る ほ どCNS
が 強 く 抑 制 さ れ る ま で は 、イ ヌ に お い て は 視 覚 機 能 が 維 持 さ れ て い る と 考 え ら れ た 。麻 酔 深 度 を 変 化 さ せ て も 、
N75-P100
振 幅 に は 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 し か し 本 研 究 に お い て は 、 各 供 試 犬 のN75-P100
振 幅 の 変 動 が 大 き く 、比 較 お よ び 評 価 す る こ と が 困 難 で あ っ た 。ヒ ト のF-VEP
に お い て 、イ ソ フ ル ラ ン や セ ボ フ ル ラ ン な ど の 吸 入 麻 酔 薬 に よ る 全 身 麻 酔 で は 、 麻 酔 深 度 に 依 存 し てN75-P100
振 幅 に 相 当 す る 波 形 の 振 幅 が 低 下 す る と い う 報 告 が あ る[9, 19, 22, 31]。 ま た 一 方 で 、 ヒ ト の P-VEP
記 録 で も 、 被 験 者 に よ りN75-P100
振 幅 の 変 動 が 大 き く 、 ま た 無 麻 酔 状 態 あ る い は 浅 麻 酔 状 態 で は 同 一 被 験 者 で もN75-P100
振 幅 の 変 動 が 大 き い と い う 報 告 も あ る[6]。ヒ
ト に お い て は 、 検 査 室 の 照 明 、 被 検 眼 の 中 間 透 光 体 の 状 態 、 刺 激 装 置 の 固 視 がP-VEP
のN75-P100
振 幅 に 影 響 す る と も 言 わ れ て い る[6]。 ま た 、 現
20
在 の と こ ろ
N75-P100
振 幅 に 関 す る 評 価 の 統 一 見 解 が 得 ら れ て お ら ず 、 本 研 究 に お い て もN75-P100
振 幅 の 評 価 は 困 難 で あ っ た 。ヒ ト に お い て 、様 々 な 麻 酔 薬 に つ い て
VEP
へ 与 え る 影 響 を 検 討 し た 報 告 は 多 数 あ る[3, 7, 9, 22, 29, 31, 40, 42]。 ヒ ト の F-VEP
に お い て 、P100
に 相 当 す る 陽 性 波 頂 点 潜 時 が 麻 酔 薬 の 用 量 に 依 存 し て 有 意 に 延 長 す る と さ れ[9, 22, 31]、F-VEP
が 麻 酔 深 度 の 指 標 に な り 得 る と 報 告 さ れ て い る[16]。本
研 究 で は 、1.5 MAC
ま で は 全 て の 供 試 犬 でVEP
が 記 録 さ れ 、P100
潜 時 は100 msec
前 後 で 推 移 し て お り 、有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た 。ま た 、そ れ ぞ れ の 供 試 犬 に お い て 、VEP
が 消 失 す る 直 前 の 麻 酔 深 度 ま で は 正 常 なVEP
波 形 が 記 録 さ れ た 。従 っ て 、イ ヌ に お け るP-VEP
は 詳 細 な 麻 酔 深 度 の 指 標 に は な り 得 な い が 、VEP
が 消 失 す る 麻 酔 深 度 は 、一 般 的 な 外 科 手 術 時 の 適 用 範 囲 で あ る1.2~ 1.5 MAC
よ り も 深 麻 酔 状 態 で あ る と 考 え ら れ る 。 本 研 究 か ら 、視 覚 を 司 る 大 脳 皮 質 視 覚 野 を 含 むCNS
の 活 動 が 強 く 抑 制 さ れ る ま で は 、 視 覚 は ほ ぼ 正 常 に 保 た れ て い る こ と が 推 察 さ れ た 。 従 っ て 、 今 日 獣 医 臨 床 の 場 で 使 用 さ れ て い る よ う な 麻 酔 薬 な ら び に 鎮 静 薬 に よ る イ ヌ の 麻 酔 お よ び 鎮 静 処 置 で も 、CNS の 活 動 が 過 度 に 抑 制 さ れ な い 用 量 で あ れ ば 、 視 覚 に は 影 響 を 与 え な い 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ た 。21
小 括P-VEP
で は 、 格 子 状 パ タ ー ン が 反 転 す る 刺 激 装 置 を 用 い る た め 、 被 検 者 は 刺 激 装 置 を 注 視 す る 必 要 が あ る 。 そ の た め 獣 医 学 領 域 に お い て は 、P- VEP
記 録 を 行 う 場 合 、 被 検 動 物 に 刺 激 装 置 を 注 視 さ せ る た め に 、 鎮 静 あ る い は 全 身 麻 酔 に よ る 不 動 化 処 置 が 必 要 と な る 。 イ ヌ に お い て 、P-VEP
を 用 い た 視 力 評 価 を 行 う 場 合 、 白 内 障 手 術 時 な ど 全 身 麻 酔 下 で のP-VEP
記 録 が 想 定 さ れ る 。 吸 入 麻 酔 薬 と し て 一 般 的 に 用 い ら れ て い る セ ボ フ ル ラ ン が 、 イ ヌ のP-VEP
に 与 え る 影 響 を 検 討 す る た め 、CNS
活 動 の 指 標 と な るBIS
測 定 を 併 用 し 、P-VEP
の 刺 激 パ タ ー ン サ イ ズ お よ び 刺 激 距 離 を 一 定 と し 、OS
麻 酔 深 度 を 変 化 さ せ てP-VEP
記 録 を 行 っ た 。無 麻 酔 か ら 、 一 般 的 な 外 科 手 術 が 可 能 な 麻 酔 深 度 で あ る
1.5 MAC
ま で は 、6
頭 全 て でVEP
が 記 録 で き 、 そ の 間 は 麻 酔 深 度 を 変 化 さ せ て もP100
潜 時 に 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た 。BIS
測 定 に お い て は 、1.5 MAC
を 超 え る 麻 酔 深 度 か ら は 、burst suppression
が 出 現 し は じ め 、SR
の 増 加 とBIS
値 の 低 下 を 認 め 、CNS
活 動 が 強 く 抑 制 さ れ 始 め た と 考 え ら れ た 。 ま た 、2.0 MAC
で は6
頭 中4
頭 のVEP
波 形 が 消 失 し 、 さ ら に2.5 MAC
で は 残 る2
頭 中1
頭 で 、2.75 MAC
で は 最 後 の1
頭 でVEP
が 消 失 し た 。 こ れ ら の 麻 酔 深 度 で は 、 大 脳 皮 質 視 覚 野 を 含 め たCNS
活 動 が 過 度 に 抑 制 さ れ る た め 、VEP
が 消 失 し た と 考 え ら れ た 。1.5 MAC
を 超 え る よ う な 深 い 麻 酔 深 度 で は な く 、 一 般 的 な 外 科 手 術 で 用 い ら れ る 麻 酔 深 度 あ る い は 不 動 化 を 得 ら れ る 程 度 の 麻 酔 深 度 で は 、OS
麻 酔 が イ ヌ のP-VEP
へ 与 え る 影 響 は 少 な い と 考 え ら れ た 。22
第 Ⅱ 章 眼 屈 折 度 が
P-VEP
へ 与 え る 影 響 の 検 討小 諸
視 覚 刺 激 は 、 網 膜 を 構 成 す る 視 細 胞 で 光 エ ネ ル ギ ー か ら 電 気 エ ネ ル ギ ー へ と 変 換 さ れ 、視 神 経 か ら 視 交 叉 、視 索 、外 側 膝 状 体 、視 放 線 を 伝 達 し 大 脳 皮 質 視 覚 野 へ 到 達 す る 。 視 覚 刺 激 が 眼 外 か ら 入 射 し 、 眼 底 の 網 膜 へ 至 る 前 に 、角 膜 、水 晶 体 、硝 子 体 を 含 む 中 間 透 光 体 と 呼 ば れ る 構 造 物 を 通 過 す る 。 脳 皮 質 視 覚 野 へ 至 る 経 路 は 視 路 と 呼 ば れ る が 、VEP は 視 覚 刺 激 の 最 終 到 達 点 で あ る 大 脳 皮 質 視 覚 野 か ら の 脳 波 を 検 出 す る た め 、 中 間 透 光 体 お よ び 視 路 全 て が
VEP
に 影 響 す る と 考 え ら れ て い る[19, 45]。
VEP
は 刺 激 方 法 の 違 い に よ り 、F-VEP
お よ びP-VEP
に 大 別 さ れ る 。F- VEP
で は 、網 膜 全 域 が 均 一 に 刺 激 さ れ る 単 一 フ ラ ッ シ ュ 刺 激 が 用 い ら れ る 。 一 方 、P-VEP で は 、視 覚 刺 激 に 格 子 状 パ タ ー ン が 一 定 時 間 間 隔 で 反 転 す る パ タ ー ン 反 転 刺 激 装 置 が 用 い ら れ る 。 こ の 格 子 状 パ タ ー ン は 、 黄 色 お よ び 黒 色 、 も し く は 白 色 お よ び 黒 色 の 正 方 形 格 子 縞 模 様 で 構 成 さ れ 、 格 子 模 様 の サ イ ズ 、お よ び 反 転 頻 度 を 変 え る こ と が 出 来 る 。こ の 特 徴 に よ り 、P-VEP
は 医 学 領 域 で 他 覚 的 視 力 検 査 に 応 用 さ れ て い る[18]。
一 般 的 に 視 力 と は 、 静 止 し て い る 物 体 を 認 識 す る 静 止 視 力 と 呼 ば れ る も の で あ り 、あ る
2
点 を 分 離 し て 認 識 し 得 る 最 小 の 視 角 の 逆 数 で 表 さ れ る[50]。
本 邦 で は 、 主 に ラ ン ド ル ト 環 を 用 い て 視 力 検 査 が 行 わ れ 、 視 力 は 小 数 視 力 を 用 い て 表 さ れ る の が 一 般 的 で あ る 。 こ の 視 力 検 査 で は 、 ラ ン ド ル ト 環 の 切 れ 目 を 、 切 れ 目 と し て 認 識 で き る か 否 か を 検 査 し て い る が 、 被 検 者 に よ る 自 覚 的 な 申 告 が 必 要 で あ る た め 、 自 覚 的 な 検 査 を 実 施 す る こ と が 出 来 な い 患 者 等 で は 、 ラ ン ド ル ト 環 等 を 用 い た 視 力 検 査 は 不 可 能 で あ る 。 こ の よ う な 患 者 で は 、P-VEP を 用 い て 、前 述 の よ う に 格 子 模 様 の サ イ ズ を 変 え て
23
P-VEP
を 測 定 す る こ と で 、 二 点 分 離 能 を 他 覚 的 に 評 価 し て い る 。視 力 に 影 響 す る 要 素 の
1
つ と し て 、 光 の 屈 折 が あ る 。 光 の 屈 折 と は 、 屈 折 率 が 異 な る 物 質 の 境 界 面 で 、 光 の 進 行 方 向 が 変 わ る こ と で あ る 。 光 が 眼 外 か ら 入 射 し 、 網 膜 に 到 達 す る ま で の 過 程 で 、 涙 液 層 お よ び 中 間 透 光 体 を 通 過 す る 。厳 密 に は 、空 気 中 と 涙 液 層 、涙 液 層 と 角 膜 、角 膜 と 前 房 水 、前 房 水 と 水 晶 体 、 水 晶 体 と 硝 子 体 、 硝 子 体 と 網 膜 の 境 界 面 で そ れ ぞ れ 光 は 屈 折 す る こ と に な る 。 眼 を 一 つ の 光 学 系 と 捉 え た 場 合 、 こ の 光 学 系 全 体 の 持 つ 屈 折 力 の う ち 、 大 部 分 を 占 め る の が 角 膜 と 水 晶 体 で あ る 。 こ の よ う に 、 空 気 中 か ら 眼 へ 入 射 す る 光 が 、 角 膜 お よ び 水 晶 体 で 屈 折 し 、 進 行 方 向 を 変 え 網 膜 上 に 収 束 す る 、 つ ま り 焦 点 が 網 膜 上 に あ る 時 に 、 物 体 を 明 瞭 に 認 識 す る こ と が 出 来 る[13]。
こ の 眼 に お け る 光 の 屈 折 は 、 物 体 を 視 覚 認 識 す る 上 で 影 響 を 与 え る こ と が 考 え ら れ 、
P-VEP
に も 影 響 す る 可 能 性 が あ る 。 本 研 究 で は 、 眼 屈 折 度 が イ ヌ のP-VEP
記 録 に 与 え る 影 響 を 検 討 す る た め 、 眼 屈 折 度 を 変 化 さ せP-
VEP
記 録 を 行 っ た 。24
材 料 と 方 法1.
供 試 動 物臨 床 的 に 健 康 な ビ ー グ ル 犬
6
頭( 雄4
頭,
雌2
頭 )を 用 い た 。年 齢 は4
~6
歳 ( 平 均5.8
歳 )、 体 重 は10.7
~14.5 kg
( 平 均13.9 kg
) で あ っ た 。 被 検 眼 は 右 眼5
眼 、 左 眼1
眼 で あ っ た 。 供 試 犬 に は 、 本 実 験 実 施 前 に 、 眼 科 検 査 と し て 威 嚇 瞬 目 反 応 、対 光 反 射 、眼 圧 測 定 、細 隙 灯 顕 微 鏡 検 査 、眼 底 検 査 お よ び 網 膜 電 図 検 査 を 実 施 し 、 神 経 学 的 お よ び 眼 科 的 異 常 が な い 事 を 確 認 し た 。 供 試 犬 は 、 本 実 験 実 施8
時 間 前 よ り 絶 飲 絶 食 と し た 。 本 実 験 は 酪 農 学 園 大 学 動 物 実 験 委 員 会 の 定 め る ガ イ ド ラ イ ン に 基 づ い て 実 施 し た 。( 動 物 実 験 承 認 番 号 : 第VH21B22
号 )2.
眼 屈 折 度 測 定 と 屈 折 矯 正す べ て の 供 試 犬 に お い て 、 被 検 眼 の 眼 屈 折 度 は 、 事 前 に 検 影 法 に よ り 測 定 し た 。 検 影 法 は 第 Ⅰ 章 と 同 様 の 方 法 で 行 っ た 。
得 ら れ た 眼 屈 折 度 を 基 に 、 ソ フ ト コ ン タ ク ト レ ン ズ (
SCL; Menicon 2week PremiO,
メ ニ コ ン,
愛 知 ) を 用 い て 、 被 検 眼 を-4 D
、-3 D
、-2 D、
-1 D、 0 D、 +1 D
お よ び+2 D
の7
段 階 の 屈 折 度 に 矯 正 し た 。ま た 、SCL 装 着 後 に 再 度 検 影 法 に よ り 眼 屈 折 度 を 測 定 し 、 目 的 と す る 屈 折 度 に 正 し く 矯 正 さ れ て い る こ と を 確 認 し た 。3. P-VEP
記 録 に お け る 不 動 化 処 置P-VEP
記 録 時 の 不 動 化 処 置 は 、 伊 藤 ら に よ る 報 告 に し た が い 、 塩 酸 メ デ ト ミ ジ ン( ド ミ ト ー ル,
ゼ ノ ア ッ ク,
郡 山 )0.01 mg/kg、ミ ダ ゾ ラ ム( ド ル ミ カ ム,
ア ス テ ラ ス,
東 京 )0.15 mg/kg、酒 石 酸 ブ ト ル フ ァ ノ ー ル( ベ ト ル フ ァ ー ル,
明 治 製 菓,
東 京 )0.025 mg/kg
の 混 合 静 脈 内 投 与 に よ り 行 っ た25
[20]。 P-VEP
記 録 終 了 後 は 、塩 酸 ア チ パ メ ゾ ー ル( ア ン チ セ ダ ン,
ゼ ノ ア ッ ク )0.05 mg/kg
を 静 脈 内 投 与 し 、 供 試 犬 を 覚 醒 さ せ た 。 薬 剤 の 静 脈 内 投 与 は 、 事 前 に す べ て の 供 試 犬 の 右 ま た は 左 前 肢 橈 側 皮 静 脈 に 留 置 し た 血 管 カ テ ー テ ル ( ス ー パ ー キ ャ ス,
メ デ ィ キ ッ ト,
東 京 ) よ り 行 っ た 。4. P-VEP
記 録P-VEP
記 録 に は 第 Ⅰ 章 と 同 様 の 器 材 を 用 い 、 記 録 電 極 、 基 準 電 極 お よ び 接 地 電 極 も 第 Ⅰ 章 と 同 様 に 設 置 し た 。P-VEP
記 録 は 、薄 暗 い 照 明 下 で 行 っ た 。P-VEP
記 録 中 は 、 記 録 眼 の 開 瞼 を 維 持 す る た め 開 瞼 器 を 装 着 し た 。 ま た パ タ ー ン 刺 激 装 置 へ の 固 視 を 得 る た め 、背 側 球 結 膜 に 支 持 糸(6-0
シ ル ク,
マ ニ ー,
宇 都 宮 ) を 通 し 、 牽 引 し た 。P-VEP
記 録 中 は 、 被 検 眼 角 膜 の 乾 燥 を 防 止 す る た め 生 理 食 塩 水( 大 塚 生 食 注,
大 塚 製 薬,
東 京 )を 適 宜 点 眼 し た 。 非 記 録 眼 は 、 刺 激 さ れ る こ と を 避 け る た め テ ー プ で 閉 瞼 遮 蔽 し た 。被 検 眼 角 膜 か ら パ タ ー ン 刺 激 装 置 ま で の 距 離 は
50 cm
に 設 定 し 、 刺 激 パ タ ー ン サ イ ズ は 一 辺 が7.31 mm( 視 角 = 50.3 arc-min) の 格 子 縞 パ タ ー ン
を 用 い た 。 パ タ ー ン 反 転 刺 激 頻 度 は3 rev/sec
で 、 加 算 回 数 は128
回 と し 、7
段 階 に 矯 正 さ れ た 屈 折 度 (-4 D
、-3 D、 -2 D
、-1 D、 0 D
、+1 D
お よ び+2 D)で そ れ ぞ れ P-VEP
記 録 を 行 っ た 。P-VEP 波 形 は 、国 際 臨 床 視 覚 電 気 生 理 学 会 の 定 め る 基 準[35]に 従 い 、P100
潜 時 お よ びN75-P100
振 幅 を 評 価 し た 。5.
統 計 学 的 解 析各 屈 折 度 で 得 ら れ た
VEP
波 形 の う ち 、P100
潜 時 お よ びN75-P100
振 幅 の 平 均 値 を 求 め 、 屈 折 異 常 が な い 屈 折 度 で あ る-2 D
で 得 ら れ たP100
潜 時 お よ びN75-P100
振 幅 の 平 均 値 と 、 そ の 他 の 屈 折 度 で 得 ら れ たP100
潜 時26
お よ び
N75-P100
振 幅 の 平 均 値 を 、 ウ ィ ル コ ク ソ ン の 符 号 付 順 位 和 検 定 を 用 い て 比 較 検 討 し た 。 有 意 水 準 は5%と し 、 P
値0.05
未 満 で 有 意 と し た 。27
結 果1.
被 検 眼 の 眼 屈 折 度検 影 法 に よ り 算 出 さ れ た 被 検 眼 の 眼 屈 折 度 を 表
4
に 示 し た 。2. P-VEP
そ れ ぞ れ の 屈 折 度 で 得 ら れ た
P100
潜 時 お よ びN75-P100
振 幅 の 平 均 値 を 表5
に 示 し た 。 供 試 犬No.4
に お い て 、 各 屈 折 度 で 得 ら れ たVEP
波 形 を 図4
に 示 し た 。P100
潜 時 は 、-4 D
で127.9 ± 12.7 msec( 平 均 値
± 標 準 偏 差 )、-3 D で118.7 ± 14.6 msec、 -2 D
で101.2 ± 2.5 msec、 -1 D
で115.6 ± 21.3 msec、
0 D
で108.0 ± 17.2 msec、 +1 D
で125.9 ± 14.4 msec
、+2 D
で120.1 ± 19.2 msec
で あ っ た 。-2 D
で のP100
潜 時 と 比 較 し て 、-4 D、 -3 D、 +1 D
お よ び+2 D
で のP100
潜 時 は 有 意 な 延 長 が 認 め ら れ た 。N75-P100
振 幅 は 、-4 D
で1.95 ± 0.61
μV( 平 均 値
± 標 準 偏 差 )、-3
D
で2.05 ± 0.80
μV、 -2 D
で2.05 ± 0.42
μV、 -1 D
で2.50 ± 1.36
μV
、0 D
で2.63 ± 0.72
μV
、+1 D
で2.22 ± 1.26
μV
、+2 D
で2.59 ± 0.95
μV
で あ っ た 。 -2 D で のN75-P100
振 幅 と 比 較 し て 、0 D で のN75-P100
振 幅 は 有 意 な 差 が 認 め ら れ た 。28
表4.
被 検 眼 の 眼 屈 折 度供 試 犬
No.
被 検 眼 の 眼 屈 折 度(D)
1 +1.5
2 +1.0
3 +1.5
4 +1.5
5 +2.0
6 +0.5
表
5.
各 屈 折 度 に お け るP100
潜 時 お よ びN75-P100
振 幅 屈 折 度(D) P100
潜 時(msec) N75-P100
振 幅(μV)
-4 127.9 ± 12.7 1.95 ± 0.61
-3 118.7 ± 14.6 2.05 ± 0.80
-2 101.2 ± 2.5 2.05 ± 0.42
-1 115.6 ± 21.3 2.50 ± 1.36
0 108.0 ± 17.2 2.63 ± 0.72
+1 125.9 ± 14.4 2.22 ± 1.26
+2 120.1 ± 19.2 2.59 ± 0.95
P100
潜 時 お よ びN75-P100
振 幅 の 結 果 は 供 試 犬6
頭 の 平 均 値 ± 標 準 偏 差 を 示 し た 。29
図
4.
供 試 犬No.4
に お い て 、 各 屈 折 度 で 得 ら れ たVEP
波 形矢 頭 は
P100
を 示 す 。-2 D
に お い て 、P100
潜 時 は 約100 msec
で 記 録 さ れ た が 、 そ の 他 の 屈 折 度 で はP100
潜 時 は 延 長 す る 傾 向 が み ら れ た 。30
考 察本 研 究 で は 、 被 検 眼 か ら 刺 激 装 置 ま で の 距 離 で あ る
50 cm
に 焦 点 が 合 う よ う に 眼 屈 折 度 を-2 D
に 矯 正 し た 場 合 、全 供 試 犬 のP100
潜 時 は100 msec
前 後 で 記 録 さ れ 、 ま た 標 準 偏 差 も 小 さ く 、P-VEP
は 安 定 し て 記 録 さ れ た 。 一 方 で 、 刺 激 距 離 で あ る50 cm
に お い て 屈 折 異 常 状 態 と な る そ の 他 の 屈 折 度 に 矯 正 し た 場 合 に は 、P100
潜 時 が100 msec
か ら 延 長 す る 傾 向 に あ り 、 特 に-4 D、 -3 D
、+1 D
、 お よ び+2 D
でP100
潜 時 の 有 意 な 延 長 が 認 め ら れ た 。以 上 よ り 本 研 究 か ら 屈 折 度 の 変 化 、所 謂 屈 折 異 常 は イ ヌ に お け るP-VEP
のP100
潜 時 に 影 響 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。屈 折 異 常 は 、 屈 折 度 の 違 い に よ り 分 類 さ れ て お り 、 正 視 は 焦 点 が 網 膜 上 に あ り 、 眼 外 か ら 入 射 し た 光 が 網 膜 上 に 収 束 す る 状 態 、 近 視 は 焦 点 が 網 膜 の 前 方 に あ り 、 網 膜 よ り 手 前 で 光 が 収 束 す る 状 態 、 遠 視 は 焦 点 が 網 膜 よ り 後 方 に あ り 、光 が 眼 内 で は 収 束 し な い 状 態 で あ る
[37]。屈 折 異 常 が あ る 状 態
で は 、 対 象 物 を 明 瞭 に 視 覚 認 識 す る こ と が 出 来 ず 、 そ の 場 合 に は 屈 折 矯 正 が 必 要 と な る 。 本 研 究 で は 、 被 検 眼 に 調 節 麻 痺 薬 を 点 眼 し 、 調 節 麻 痺 を 得 た 後 でP-VEP
記 録 を 行 っ た 。ま た 、刺 激 距 離 は50 cm
に 設 定 し た 。-2 D の 屈 折 度 と は 、 眼 前1/2 m
す な わ ち50 cm
の 焦 点 距 離 を 持 っ て い る と い う こ と で あ る 。 し た が っ て 、SCL
を 用 い て-2 D
に 屈 折 矯 正 を し た 場 合 、50 cm
の 距 離 に あ る パ タ ー ン 刺 激 装 置 の 格 子 状 パ タ ー ン を 明 瞭 に 認 識 で き 、 そ の 結 果P100
が100 msec
前 後 に 出 現 し た と 考 え ら れ た 。大 脳 皮 質 視 覚 野 は 、 網 膜 視 細 胞 全 体 が 一 様 に 刺 激 さ れ る よ う な 、
F-VEP
で 用 い ら れ る フ ラ ッ シ ュ 刺 激 よ り も 、 輪 郭 や 、 光 の 輝 度 あ る い は 色 調 の コ ン ト ラ ス ト を 有 す る 有 形 の 視 覚 刺 激 に 対 し て 感 受 性 が 高 い と 言 わ れ て い る[2]。 そ の た め 、 輝 度 お よ び 色 調 の コ ン ト ラ ス ト が あ る 格 子 状 パ タ ー ン が 反
転 し て 視 覚 刺 激 す るP-VEP
で は 、比 較 的 弱 い エ ネ ル ギ ー の 視 覚 刺 激 で も 大31
脳 皮 質 視 覚 野 を 刺 激 し 得 る
[12, 44]。 ヒ ト の P-VEP
で は 、 視 神 経 炎 や 脱 髄 疾 患 で あ る 多 発 性 硬 化 症 な ど の 患 者 に お い てP100
潜 時 が 延 長 す る と 報 告 さ れ て い る[8, 39, 52]。こ れ は 、視 覚 認 識 度 の 低 下 に 起 因 す る 可 能 性 が あ る
と 考 え ら れ る 。 本 研 究 で は 、 被 検 眼 を-4 D、 -3 D、 +1 D
、 お よ び+2 D
に 矯 正 し た 時 に 、 屈 折 異 常 の 無 い-2 D
の 時 と 比 較 し てP100
潜 時 の 有 意 な 延 長 が み ら れ 、 ま た 、 そ の 他 の 屈 折 度 で も 延 長 す る 傾 向 が み ら れ た 。 従 っ て 、- 2 D
以 外 の 屈 折 度 で は 、 焦 点 が 網 膜 よ り 手 前 あ る い は 後 方 に あ る た め に 、 パ タ ー ン 刺 激 装 置 の 格 子 状 パ タ ー ン が 網 膜 上 に 結 像 し て お ら ず 、 視 覚 認 識 が 低 下 し た 為 と 考 え ら れ た 。本 章 の 研 究 に お い て も 、 第 Ⅰ 章 同 様 に
N75-P100
振 幅 は 各 供 試 犬 で 変 動 が 大 き く 、 眼 屈 折 度 と の 相 関 性 を 検 討 す る こ と が 難 し か っ た 。 ヒ ト で の 報 告 で は 、N75-P100
振 幅 は 中 間 透 光 体 、検 査 室 の 照 明 な ど の 条 件 に 影 響 さ れ る と し て い る 。 本 研 究 で は 、 被 検 眼 は 眼 科 検 査 に て 異 常 が 無 い こ と が 確 認 さ れ て お り 、さ ら にP-VEP
記 録 を 実 施 し た 部 屋 の 照 明 は 一 定 で あ っ た 。し た が っ て こ れ ら の 要 因 が 影 響 し た 可 能 性 は 少 な い と 考 え ら れ る 。 第 Ⅰ 章 に お い て 、CNS
活 動 が 抑 制 さ れ て い る か 否 か に 関 わ ら ず 、N75-P100
振 幅 の 変 動 に 違 い は 見 ら れ な か っ た 。こ れ は 、N75-P100 振 幅 がCNS
活 動 の 程 度 に あ ま り 影 響 さ れ て い な い と 考 え る こ と が 出 来 る 。 本 研 究 で は 、 供 試 犬 の 不 動 化 に は 塩 酸 メ デ ト ミ ジ ン 、 ミ ダ ゾ ラ ム 、 酒 石 酸 ブ ト ル フ ァ ノ ー ル の 混 合 静 脈 内 投 与 に よ る 鎮 静 処 置 を 用 い て お り 、 そ れ ぞ れ の 薬 剤 投 与 量 は 体 重 に よ り 規 定 さ れ て は い る が 、均 一 なCNS
の 傾 眠 状 態 を 作 り 出 す こ と は 難 し く 供 試 犬 に よ り 異 な っ て い た と 考 え ら れ る 。 し か し 、 第 Ⅰ 章 の 結 果 か ら 、 傾 眠 度 合 がN75-P100
振 幅 あ る い はP100
潜 時 へ 与 え る 影 響 は 少 な い と 考 え ら れ る た め 、 本 研 究 で も 、 傾 眠 状 態 がN75-P100
振 幅 に 与 え た 影 響 は 少 な い と 考 え ら れ る 。 一 方 で 、 今 回 用 い た 薬 剤 で は 、 完 全 な 筋 弛 緩 作 用 は 得32
ら れ な い 為 、 眼 周 囲 あ る い は 頭 部 筋 群 の 僅 か な 動 き に よ る 筋 電 位 の 混 入 は 否 定 で き な い 。 ま た 今 回 、 パ タ ー ン 刺 激 装 置 を 固 視 さ せ る 為 に 、 背 側 球 結 膜 に 支 持 糸 を 通 し て 牽 引 上 転 さ せ た 。 こ の 操 作 で は 、 操 作 毎 に 被 検 眼 の 位 置 が 異 な っ て い た 可 能 性 も 否 定 で き な い 。 以 上 の こ と か ら 、 今 回 の
P-VEP
記 録 に お い て 、 眼 周 囲 お よ び 頭 部 筋 群 の 微 動 に よ る 筋 電 位 の 混 入 、 あ る い は 被 検 眼 の 位 置 が 固 定 で き な か っ た こ と に よ り 、N75-P100
振 幅 に 影 響 し た 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ た 。本 章 に お い て 、矯 正 し た 各 屈 折 度 に お い て 、全 て の 供 試 犬 で
P-VEP
が 記 録 さ れ 、刺 激 装 置 に 焦 点 が 合 致 し て い る-2 D
以 外 の 屈 折 度 で は 、P100
潜 時 は100 msec
よ り 延 長 が 認 め ら れ た 。 以 上 の こ と か ら 、 イ ヌ のP-VEP
に お い て も 、 眼 屈 折 度 と パ タ ー ン 刺 激 装 置 ま で の 距 離 を 考 慮 す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ た 。33
小 括VEP
は 中 間 透 光 体 お よ び 視 路 全 て の 機 能 を 反 映 す る と さ れ て い る 。VEP
は 、 網 膜 を 一 様 に 刺 激 す るF-VEP
と 、 格 子 状 パ タ ー ン を 視 覚 刺 激 と し て 用 い るP-VEP
に 分 け ら れ る が 、 他 覚 的 視 力 評 価 を 行 う 場 合P-VEP
が 用 い ら れ る 。 視 力 に 影 響 す る 要 素 と し て 、 眼 屈 折 度 が あ り 、P-VEP
が 視 力 評 価 法 と し て 有 用 か 否 か を 検 討 す る 場 合 、 眼 屈 折 度 の 変 化 がP-VEP
へ 与 え る 影 響 を 考 慮 す る 必 要 が あ る 。 本 章 で は 、SCL
を 用 い て 眼 屈 折 度 を7
段 階 に 変 化 さ せ 、 眼 屈 折 度 の 変 化 が イ ヌ のP-VEP
へ 与 え る 影 響 を 検 討 し た 。刺 激 装 置 に 焦 点 が 合 致 す る 眼 屈 折 度 で あ る
-2 D
で は 、P100
潜 時 は お よ そ100 msec
を 示 し 、-2 D
か ら 外 れ る に し た が っ てP100
潜 時 は 延 長 す る 傾 向 が み ら れ た 。-4 D、 -3 D、 +1 D、 お よ び +2 D
で は 、-2 D
と 比 較 し てP100
潜 時 の 有 意 な 延 長 が 認 め ら れ た 。 ヒ ト のP-VEP
に お い て 、 視 覚 認 識 が 低 下 し て い る 場 合 に 、P100
潜 時 の 延 長 が み ら れ る と さ れ て い る 。-2 D
で は 、 被 検 眼 は 刺 激 装 置 に 焦 点 が 合 致 し て お り 、 刺 激 装 置 か ら 投 射 さ れ た 光 刺 激 は 網 膜 上 に 結 像 し て い る が 、 そ れ 以 外 の 屈 折 度 で は 、 焦 点 が 刺 激 装 置 に は 合 致 し て お ら ず 、 光 刺 激 は 網 膜 の 手 前 あ る い は 後 方 で 結 像 し て い る と 考 え ら れ た 。 し た が っ て 、 視 覚 認 識 が 低 下 し 、P100
潜 時 の 延 長 が み ら れ た と 考 え ら れ た 。 イ ヌ に お い て も 、 眼 屈 折 度 と パ タ ー ン 刺 激 装 置 ま で の 距 離 を 考 慮 し たP-VEP
記 録 を 行 う 必 要 が あ る と 考 え ら れ た 。34
第 Ⅲ 章
P-VEP
を 用 い た 健 常 ビ ー グ ル 犬 で の 視 力 評 価小 緒
視 力 は 、離 れ た 二 点 を 識 別 す る 能 力( 二 点 分 離 能 )で 判 定 で き る 。「 視 力 が 良 い 」 と は す な わ ち 、 こ の 二 点 間 距 離 が 近 く て も 、 ニ 点 と し て 識 別 で き る 事 を 言 う 。 視 力 を 表 現 す る 場 合 、 視 角 あ る い は 空 間 周 波 数 と い う 概 念 が 用 い ら れ る 。 視 角 と は 、 眼 が 二 点 を 識 別 す る 場 合 に 、 眼 に 投 影 さ れ た そ の 二 点 が な す 角 度 で あ り 、単 位 は 分(
arc-min; 60
分 の1
度 )を 用 い て 表 さ れ る 。空 間 周 波 数 は 、視 角1
度 (60
分 )あ た り の 繰 り 返 し 構 造 の 多 さ を 表 す も の で 、 単 位 はCycle per degree( cpd
)を 用 い て 表 さ れ る 。 本 邦 で は 一 般 的 に 小 数 視 力 が 用 い ら れ 、 小 数 視 力 は 、 識 別 出 来 る 最 小 の 視 角 の 逆 数 で 表 さ れ る 。 ヒ ト の 臨 床 眼 科 の 大 き な 目 的 は 、 視 力 の 維 持 、 さ ら に は 向 上 で あ る こ と か ら 、 視 力 の 評 価 (視 力 検 査 )は 日 常 的 に 行 わ れ て い る 。 獣 医 眼 科 学 に お い て は 、 ヒ ト で 行 わ れ て い る よ う な 自 覚 的 視 力 検 査 を 対 象 動 物 で 行 う こ と は 不 可 能 で あ る た め 、 臨 床 現 場 に お い て は 視 力 と 言 う 概 念 は 確 立 さ れ て い な い 。ヒ ト で 応 用 さ れ て い る 他 覚 的 視 力 評 価 で は 、
P-VEP
が 用 い ら れ て い る 。P-VEP
で 用 い ら れ る パ タ ー ン 刺 激 装 置 は 、表 示 さ せ る 格 子 状 パ タ ー ン の サ イ ズ が 可 変 で あ り 、サ イ ズ あ る い は 刺 激 距 離 を 変 え てP-VEP
記 録 を 行 う こ と で 、 識 別 で き る 最 小 の 視 角 を 測 定 す る 。第 Ⅱ 章 で は 、 眼 屈 折 度 を 正 し く 矯 正 し た
-2 D
の 屈 折 度 に お い て 、 刺 激 距 離 と 刺 激 パ タ ー ン サ イ ズ か ら 算 出 さ れ る 視 角 は50.3 arc-min
で あ り 、空 間 周 波 数 は0.6 cpd
と な っ た 。 こ れ ま で に イ ヌ に お い て 試 み ら れ た 視 力 評 価 の 報 告 で は 、4.3~ 11.6 cpd、あ る い は 更 に 高 い 空 間 周 波 数 で あ る 12.59 cpd
の 視 力 を 有 す る と さ れ て い る[36, 38]。
35
本 章 で は 、 獣 医 眼 科 学 に お い て 他 覚 的 な 視 力 評 価 を 可 能 と す る こ と で 、 視 力 の 概 念 を 確 立 す る こ と を 目 的 と し て 、 健 常 ビ ー グ ル 犬 に お い て 本 研 究 の
P-VEP
記 録 方 法 に よ る 視 力 評 価 を 行 っ た 。36
材 料 と 方 法1. 供 試 動 物
臨 床 的 に 健 康 な ビ ー グ ル 犬
6
頭 ( 雄3
頭,
雌3
頭 ) を 用 い た 。 年 齢 は6
歳 、体 重 は9.8~ 16.0 kg( 平 均 14.0 kg)で あ っ た 。被 検 眼 は 全 て の 供 試 犬
に お い て 右 眼 と し た 。 供 試 犬 に は 、 本 実 験 実 施 前 に 、 眼 科 検 査 と し て 威 嚇 瞬 目 反 応 、対 光 反 射 、眼 圧 測 定 、細 隙 灯 顕 微 鏡 検 査 、眼 底 検 査 お よ び 網 膜 電 図 検 査 を 実 施 し 、 神 経 学 的 お よ び 眼 科 的 異 常 が な い 事 を 確 認 し た 。 供 試 犬 は 、 本 実 験 実 施8
時 間 前 よ り 絶 飲 絶 食 と し た 。 本 実 験 は 酪 農 学 園 大 学 動 物 実 験 委 員 会 の 定 め る ガ イ ド ラ イ ン に 基 づ い て 実 施 し た 。( 動 物 実 験 承 認 番 号 : 第VH24B3
号 )2. P-VEP
記 録 時 の 不 動 化 処 置P-VEP
記 録 に 際 し 、供 試 犬 の 不 動 化 を 得 る た め に 酸 素-セ ボ フ ル ラ ン( OS)
吸 入 麻 酔 に よ る 全 身 麻 酔 を 施 し た 。 一 定 の 麻 酔 深 度 に 統 一 す る た め に 、 事 前 に 各 供 試 犬 の セ ボ フ ル ラ ン 最 小 肺 胞 濃 度(
MAC
)を 測 定 し た 。MAC
測 定 の 方 法 は 、 第 Ⅰ 章 と 同 様 に 行 っ た 。全 て の 供 試 犬 は 、 麻 酔 用 マ ス ク に よ り