「女」という字の形について
著者名(日) 天沼 寧
雑誌名 大妻国文
巻 9
ページ 1‑25
発行年 1978
URL http://id.nii.ac.jp/1114/00001653/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
「女」 とい う字 の形 について
「 女」 とい う漢字は, どうい う形を しているのか, どうい う形に書 くのが正 し く, どうなっていれば誤 りであるのかな どとい うことについて考えてみたい。
これは,何でもないこと,何も間 題は ない ことの ようで あ りなが ら,漢字を習得 し始めるころの児 童たちにとっては,案外,問題 と なるのであ り,その形の細部に関 して, しば しば問題 として採 り上 げられているのである。
今 日,われわれが, 日常一般に 使用す る漢字の形,すなわち,各
漢字を構成 している点画の結構・
布置の在 り方は,当用漢字
1,850
字については,「
当用漢字字体表」に掲げてある形が,標準
0よ
りど ころと なっている。(なお,当用 漢字表に掲げてない漢字について は,現在のところ,公的に制定 さ れているものはないが,大体におこぅ : ・ いて,伝統的に『 康熙字典』に掲 げられている形に準拠 したものが 正 しいものとして認められている
ようである。
寧 沼
天
■ 0昌 商 問 啓 善 0癸 1彗 :要 0契 雪吊司
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:││菫賃壇鼻ζ堤』[][昌 曇│
ξ量誓ξ弄ラ堰曇曇霙i貨
央 失 奇 奉 春 契 奔 奥 奪 奨 奮 女= 奴 好 タロ 女己ま壬 女夕 姜 費方 1未 妻 費市 女台 姓 委 姫 姻 姿 威 娘 婿 飯 婆 婚 掃 婿 媒 嫁 嫡 頼 子 孔 字 存 孝 拳 71il 孫 学 宅 宇 守 安 完 宗 官 宙 定 宜 客 宣 室 宮 宰 害 字 家 容 宿 寂 寄 密 富 寒 察 寡 寝 実 寧 審 写 寛 案
畢 〕 桑
11:員詈 詈
:書替
晨 層履 属L岐 岩 岸峠 峰 島峡 崇 崩 岳ll州 巡果L左 巧 巨差
〔上から8行日,右端にある。〕
﹁女 ﹂ と い う 字 の 形 に つ い て
「 女」は
,「
当用漢字表」に 掲げられている漢字であ り,当然のことながら,
この字の標準の形は
,「
当用漢字字体表」に掲げてある。「 当用漢字字体表」 とい うのは,昭和24年 4月
28日
に,内閣告示第一号で発表 された もので,「
現代国語を 書 きあらわすために 日常使用す る漢字の字体の標 準を、次の表の ように定める。」(原文は,縦書き。)と して,「
当用漢字表」に掲 げてある1,850字の各漢字について,前ページにその一部を掲げたように,その形を, 日に見える実際の形で示 した ものである。
前ページに掲げたものは,当日付けの『 官報』によった実物大のものである が,これをもう少 し拡大 してみ ると,次のとお りである。
この形は,義理にもいい形 とはいえない形であるが,字体表の「 まえがき」
に よれば
,
一、 この表は、当用漢字表の漢字について、字体の標準を示 したもので ある。
一、 この表の字体は、漢字の読み書 きを平易に し正確にす ることをめや す として選定 した ものである。
一、 この表の字体の選定については、具体の統合、略体の採用、点画の 整理な どをはかるとともに、筆写の習慣、学習の難易をも考慮 した。
なお、印刷字体 と筆写字体 とをできるだけ一致させ ることをたてまえ とした。
〔以上,原文は,縦書き。〕
とい うものであ り,これに続いて「 〔備考〕」として
,
一、この表は、当用漢字表の配列に従い、字体は、活字字体のもとにな る形で示 した。
二、 (省略)
〔以上,原文は,縦書き。〕
とある。
ところで、 ここでは,示した形を「字体」 といっているが,このように,漢
字を具体的な 目に見える形 として表 した ものが
,「
字体」であるのか,字体に のっとった一つの「 書体」であるのかが問題 となる。すなわち,ある漢字の字体,つま り,その漢字を,その漢字であ り,他のい
かなる漢字でもないものとして,他の漢字から区別 しているところのもの,す
なわち,その漢字を構成 している点画の結構・ 布置の在 り方を説明的に述べ る ことは可能であるが,その具体的な形を, 日で見 ることのできる形 として表 し たものは,厳密にいえば,もはや,その漢字の字体を示 した ものではな く,あ
る書体で表 した形であるとい うべ きだからである。た とえ,その具体的に表 し た形が, どんなに字体に忠実であ り,いささか も誤 りがな くとも,ひとたび,
具体的な 目に見える形 として書 き表 した ものは,その書 き手の個人的な,また
,
そのときの臨時的な要素が含まれているのであって,純粋な意味での字体その ものだけを実現 したもの とは言い難いからである。
けれ ども,そうか といって,漢字1字 1字について,その点画の結構・ 布置 を
,長
短,方向,曲直, とめるか 0は らうか 0は ね るか,付けるか・ 離すか,な
どのことまで合めて,克明に,明確に説明することは,著しく困難であ り,また,たとえ,できたに しても,極めて 分か りに くい ことになる。「 一」 とか,
「十」の字 ぐらいならば,容易に分か りやす く説明できるであろ うが
,「
膚」や「驚」な どになると,説明することも難 しい し,それを 読 んで,具体的な 形を 脳裏に描 くことは,更に難 しいであろ う。
そ こで,一般に,この字は, こんな字だ といって,具体的な形で示す ことが 行われ,また,一般には,これで十分なのである。
このことについて
,『
国語学辞典』(昭和30.8。20初版東京堂出版)の「 字 体整理」の項で,三宅武郎氏は
,
漢字の「 字体」は、言語における「 音韻」に当る、一種の観念 として存 在す る 形式 (内容 としての音・訓 お よび 意味に対す る)であるが、その
「 字体」が可視的な痕跡 として実現す る時、各種の「 書体」が現われ る。
体 ITシ7ク練}など
体
│[][│な ど
『 当用漢字字体表』の「 字体」は、理念的には、右に言 う字体を、太さに 変化のない点 と線 との組み合わせで表わそ うとしたものであるが、実際に
‐セま「字体」は、ある一つの「書体」を通 じてでな くては実現 しえないもの であると同時に、 この字体整理の仕事が、直接には、 これに先行 した「 活 字字体整理に関す る協議会」の『 活字字体整理案』に基いているところか ら、結局、 これ も「 書体」の一種である明朝体を中心 とす る「 活字字体の もとになる形」 で表わ された (同表「 備考」一「使用上の注意事項」 一 に)。
〔以上,原文は,縦組み。〕 と説 明 している。
1
1ページに示 した 図からも分かるように
,「
当用漢字字体表」に掲げてある 各字の形は,上に引用 した ように「 太さに変化のない点 と線 との組み合わせで 表」 した もので,近ごろでは,これを「等線体」 といっている。つま り,字体 に基づいて,具体的に表 した字の形に,できるだけ,個人的な,また,臨時的 な要素が入 りこまない ように,癖のない とい うか,無性格な形で表 してあるわ けである。この「 女」 とい う字は,字体表には,筆順は示されていないけれ ども,従来 か ら,伝統的に
,
刷 写 印 筆 体
一
書 体 字
﹁女 ﹂ い う 字 の 形 に つ い て と
く
の順序に, く
―
ノ
ーー
ー
3筆 (3画)で書 くことになっている。 これを,あるいは
,
女
の ように して示 してもよい。本論の初めに,女の字の形の細部に関 して, しば しば問題 として採 り上げら れ るといったのは,この第2画「 ノ」の起筆部が,第3画「一」の画の上に出
るのか,出ないのか,あるいは,出てもよいのか,又は,離れていてもよいの かが:小学校の児童にとらてはかな り深亥1な問題なのである:
「女」における上述の問題点を,図解すれば,次のとおりである。
この よ うに
,問題 とす る箇所 は
,少しの
透 き間 も な く
,びった りと 接 して い る の か
,接していなければな らないのか。
る幅をもった横画の上に,
の形になってもよいのか。
,
このように,接してはいるが,画は,ある幅をもった線状のものであ り,その起筆 部は,こ とに太 く,かたま り状 (こぶ状)
に 描 くので,第2画の 起筆部の 左側 上部 が,いわば 自然的に,第3画の,やは りあ わずかに突出 した形にす るのか,あるいは, こ
この ように,明らかに上部に出ているよ うにす るのか,あるいは,この ようになっ ても差 し支えないのか。差 し支えない とす れば,更に,次の )のように,極端に出 し てもよいか。
この ように,第2画の起筆部が,第 1画
の起筆部 よりも高 く出るような形に しても よいのか。
14)
:Ll::1
﹁ 女 ﹂ と い う 字 の 形 に つ い て
この ように,第2画の起筆部の左側半分 が,第3画の横画の中に食い込んだ形に し てもよいのか。
このように,第2画の起筆部の左上部の か どと,第3画の横画の下方の辺 とが,わ
ずかに接触 している程度でよいのか,ある いは,これでも差 し支えないのか。
この よ うに
,問題 の箇所は
,明らかに離
す のか
,あるいは
,離して も差 し支えない ぃ。
のか。
以上の
,(1)〜
(つは,文字をかな り大きく,毛筆様の筆意を表 して, しかも,画をかな り大 目に書いたので
,(1)と ,(2)と ,(5)と ,(6)と
は,明らかに違った形 に見え,それぞれ問題 となるけれ ども,通常の鉛筆・ ベン 。ボールペンなどの 類,すなわち,硬筆で,実用的な大きさの文字を,実用的な速度で書いていく 場合は,(1)・ (2)0(5)。 (6)は,その差がはっきりせず,実用上は,同じものとし て受け取られることになるかもしれない。 しか し,(1)と
(2)との遠いは,はなは だ微妙であって,学習指導上では, しば しば正誤の問題につながるのである。また
,(3)と
)とは,いわば,程度の問題であるが, )のような形も,(7)の
よう な形も,不自然であるといえよう。結局,残るところは,(1)か
,(0が,(6)か
と い うことになるわけであるか,第2画の起筆部が,第3画 の上に出るか出ない か とい うことを問題にすれば,(2)と (3)とは,やは り程度問題と考えられるの(71
で
,(め
には,0)を 含むものと考えてよい。(5)と (6)と も,やは り程度の問題である。
普通,われわれは,実用的に 書 く場合
,「
女」の字を 書 くたびに,一々,こ んなことにまで細か く気を配って書いてはいない。●)や(7)の形にする 〔あるい は,むしろ,「
なる」 といったほ うが よいかもしれない。〕ことは,少ないであ ろうが,(1)で
あるか,(2),も しくは,(3)で
あるか,又は,(5)・ (6)であるかなど の ことは,全く気にも とめて いないであろう。すなわち,これらは,いずれ も,正しい「 女」 として通用し,認められているのである。更にいえば, )や(つのような形であっても,誤りとすることは,むしろ,不適当であって, これ らは,要するに,字形全体 として,安定がとれているか, どうかの問題である といってよい。このことは,特に,毛筆による書道においては全 く問題になら ないことであって,書体を集めた字典の類をみれば,(3)0に)の ような形を した ものを数多くみることができる。また,あとに載せる新聞広告に現れた「 女」
の字のさまざまなものをみれば
,(つ
のような 形 もけっこう使われていること が分かる。このことは,当用漢字字体表の「 〔使用上の注意事項〕」の「二」に
,
この表の字体は、これを筆写 (かい書)の標準 とする際には、点画の長 短・ 方向
0曲
直・つける か はなす か・ とめる か はね 又は はらう か 等について、必ず しも拘束 しないものがある。そのおもな例は、次の通 り である。 〔原文は,縦書き。〕として
,「
(1)長短に関する例,(2)方向に関する例,(3)曲直に関する例,
0)つける か はなす かに関する例,(5)と める か はらうか、とめる か は ねるか、に関する例,(6)その他」の6項に分け,実例を挙げてあるが, この
「(6)その他」の項に
,
Jヒ メヒ 女女
〔以下,省略.〕
〔原文は,縦書き。「官報』所載のものを模写したもの。〕
﹁ 女
﹂ と い う 字 形 の に つ い て
の ように して掲げてあるのをみても, うなずけることである。 ここに掲げてあ る「 女」は,単独の文字ではな く,いわゆる
,「
おんなへん」の場合の形 で あ る。字体表に 掲げてある「 おんなへん」の形は,いわ ば,「
フ」 と「 く」とを 組み合わせた ような形であって,第2画と起筆部 と,第3画の終筆部は,びっ た りと1点で接 した形になっている。そ こで,筆Л頂を無視すれば,第1画 は,
単独の「 女」 と同様「 く」であ り,次に,単独の「 女」の第3画である横画を 書 き,それを,鋭く下方に折 り曲げた形「 フ」が第2画であるようにもみえる のである。すなわち,全体 として2画で書 くような形にもみえるのである。こ れを,筆写の際には
,「
女」の ように してもよい とい うのは,つま り,第2画と第3画とが 交わ って,第2画の 起筆部は,第3画の上に わずかに 出てもよ く,第3画の終筆部は,第2画の右方にわずかに出ても差 し支えない とい うわ けである。 これを,単独の字に適用すれば,字体表に掲げた形は
,(1)の
ようで あっても,(2),(3)で
も差 し支えない とい うことになるわけである。こんなことが,小学校の児童に とって,なぜ問題になるのか, どのように問 題であるのか, とい うことについて,一例を挙げれば,次のとお りである。
昭和50年 6月
11日
を第1回 として,読売新聞の朝刊に「 日本語の現場」とい う続 き物が 載 った。(なお,「
日本語の現場」は,途中 何回かの 体載が あった が,昭和52年7月 26日 の第373回まで続 き,現在は「 しばらく休載」中であ る。)その第6回 (昭和50年 6月17日)に,某大出版社が「 教師用サービス」に 配った「正 しい 漢字の 形」とい う
「 学習指導資料」がある。間違いやすい 個所をあげ、正 しい字 との比較を 試み、先生 と生徒が常用す ることをネライとして作成されたものだ6
これに よると、「 女」が「 女」では ×。「 安」 となると「 安」でもいい。
「 接」が本則だが「 接」でも許容され る。
・・ 。
8
とあ り,その翌 日の第7回には,
読者から電話がかかってきた。
「 女」の「 ノ」は、上に突き出ていないのが本則。これを覚えるのに、女
はで しゃばっち ゃいけないから、 と ″理屈″をつけるんです よ。
・・・
・・・同 じように「 女」は、で しゃばって、「 女」でも 許容され る ので ある。〔以下,省略。〕
〔原文は,いずれも縦組み。]
とあることからも分かるように,先ほ どの(1)〜 (6)の うち,主として
,(1)で
ある か,(3)〔
(2)を含む。〕であるかが問題 となるのである。つま り,小学校の児童,特に,低学年の,漢字を習い始めるころの児童に対 しては,正しい形 としては,ただ一つのものを与えることが望ま しいのであっ て,その部分はどうでもよい とか,出ても出な くても, どちらも間違いではな いとい うことは,かえって混乱を起 こす とい う考え方 もあるのである。他の例 でいえば
,「
木」の字は,「
木」か「 木」か,すなわち,第2画の縦の下部を と めるのか,はねるのか,あるいは,はねてもよいのか とい うことが,漢字を習 い始めた児童にとって,重要な問題 となるの と同 じことである。このことについて,読売新聞の「 日本語の現場」
(第
3回,昭
和50.6.13)に,
次のようにある。
ところで、教科書体は「 当用漢字字体表」を基準に して作 られた ものだ が、その「使用上の注意事項」を見 ると、止める、はね る等に関 しては、
かな り許容の幅がある。その詳細については次回に触れ るが、松本先生は
〈だからこそ厳 しい ″しつけ″を〉 と、強調する。
「相手は小学校 の二年生です よ。 こ う書いても許され る、なんて教え方を して いたら、子供たちは 混乱す る ばか りです。少な くとも、教育の 場で は、正 しいものは正 しい と一貫 して教えるべ きです。許容の幅を認め る、
とい うのは間違いだ と思います」。 〔 原文は
,縦組み。
]注 :読売新聞紙上での連載「 日本語の現場」は
,その後
,同名の単行本『 日 本語の現場』として
,現在までのところ
,第一集から第四集までが発行され ている。引用 した部分は
,この第一集
(昭和50.11.10.読 売新聞社刊
)に収 めてある。
ここにい う「 教科書体」 とい うのは
,活字書体 の一 つ であ って
,主と して小
い ﹁女 ﹂ と う 字 の 形 に つ い て
学校教科書に使用 され る「 教科書体活字」の書体である。 この書体は,一般社 会で最 もよく使われてい る明朝体活字 とは,かな り違 った形のもので,細い毛 筆で書いた ときに得 られ るような形になっている。 これは, もと,国定教科書 時代には,文部省活字 といっていたものとよく似ている。
当用漢字字体表の実施後,漢字の字体について,許容を含む字体表の決ま り について,教育上,その 解釈・ 適用の不統一を 取 り除 くために,昭和 33年 に なって,文部省初等中等教育局長の通達「 小学校教科書に使用 される教科書体 活字の字体について」が出たが
,そ
の中では,「
女」の字については解れていな い。その後,昭和52年 7月23日
に,文部省告示第155号で「 小学校学習指導要 領」が全面改正 とな り,昭和55年
度か ら施行され ることになったが,それによ れば,
漢字の指導においては,学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とす ること。
とあって
,「
学年別漢字配当表」には,
学 年 別 漢 字 配 当 表
学 年
― 右 雨 円 工 音 下 人 花 学 気 え 体 全 空 月 大 見 五 ロ 校 左 二 .L子 四 糸 字 耳 セ 卑 子 十 出 女 小 上 森 人 水 工 生 青 夕 石 赤 十
'II先 早 足 村 大 男 中 虫 町 天 口 土 二 日 入 キ 白 ′ヽ 百 文,木 本 名 日 立 力 林 六
(76字 )
〔̲Lから2行 日, 右から6番 目。〕
の ように,第2画の起筆部が,第3画の横画の上にわずかに出ている形の字が 掲げてある。けれ ども,これに関 して,文部事務次官から
,「
小学校 又は 中学第
校の教員養成の課程を置 く各大学長・ 短期大学長 あて,昭和52年10月 6日付け の通達
,「
小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領の移行措置 並びに 移行 期間中における学習指導について」では,
漢字の指導において新小学校学習指導要領に定める学年別漢字配当表に 示す漢字の字体を標準として指導す ることは差 し支えないが,この場合他 の字体を誤 りとす る趣旨ではない ことに十分留意す ること。
といっている。
結局
,「
女」は,「
女」でも,「
女」でも差 し支えない ことになっている。ここで,なぜ, )や(つが,問題にならないのかを考えてみ ると,筆写に際 し て,先に書 く第2画の起筆部 と,あとか ら書 く第3画の横画 とを,びった りと 接す るように, したがって,第2画の起筆部が,少しも第3画の上部に飛び出 さない ように,第3画を通常の速度で書 くことは,かな り,難しい ことなので ある。
つま り,意識 して出そ うとしな くても,結果 として,自然に,ごくわずか飛 び出た形 となって しまいがちなのである。 この場合,第2画の起筆部を,思い
切って下に下げた位置から始めるか,第3画を,思い切 って上部へ もっていけ ば,第2画の起筆部が,第3画の上に出ることはないであろ うが,それはあま りいい形ではない,うま り(7)のような形は,何とな くしま りがない形 として考 えられているのである。また, )のように,第2画の上部が,第1画の上部 よ り高 くなっているほど極端に突 き出 した形 も,わざ と意識 して書 こうとすれば 書けるけれ ども,通常の形から 外れす ぎていて 自然ではない といえよう。[以 上の ことは,主として 硬筆による 書写の場合であって,毛筆に よる 書写,特
に,書道の場合は別問題である。〕
以上のようなわけで,筆写に際 しては
,(1)の
ような形だけが正 しく,(3)の
よ うな形は誤 りであるのか どうか とい うことが問題になって くるものと思われ る が,(3)を
問題にす ると,それに引きず られて,(2)の
ような形 も問題になって く るものと思われる。先はど,鉛筆等で書 く場合は,(1)と
(2)と の違いは,はな﹁ 女
﹂ と い う 字 の 形 に つ い て
はだ微妙であるといったが
,(2)と
(5)と も,程度問題であって:0)の場合の,も う少 し上に出た ものと,(り
の場合の,も う少 し突出の しかたが少ない ものとで は,結局,同 じになって しま う。つま り,程度問題ではあるが,(2)の
形は,わずかにであっても, ともか くも,横画の上に飛び出 しているのである。
では,この「 活字字体のもとになる形」に基づいて設計,作成されている活 字は, どのような形にならているであろ うか。この場合 も,通常,最も広く使 われている9ポイン ト程度の活字では,はっきりした形が分か り難いので,も
う少 し大 きな活字について 検討 してみ よう。〔なお,ここで,活字 とい うのは 本当の活字だけでな く,写真植字や自ぬ き文字などをも含む こととす る。〕
まず,一般市販の書物に使われている明朝体についてみ ると,少な くも次の 三つがある。
翼毅 問題の箇所を拡大したのも
第 2画 の
,起筆部のこ ぶ状の筆意は表 していな い。あるいは
,第3画 の 横画の幅の中に吸収され てい るとみ るべ きか。
第 2画 の起筆部の筆意 を表 してある。
女
『 現行の国語表記の基準
J,
文部省著作,昭和43.1.30, 帝国地方行政学会発行,23
ページ
女
『 大明解漢和辞期,長沢 規矩也編著,昭和35.3.1■
三省堂発行,269ペ ージ
説 明
‐ジを示す。〕
新聞のペー んだ数字は
,
(夕)
朝日新聞
女 女
J 10。
L8.10 52. 110
52
〔
3〕上 と同様であるが
,こぶ状の ものの位置が少 し 下が ってい る。
女
霧Hl慾 驚 誉
2■ 帝国地方行Ft学会発 行45ページ
この 〔1〕 は,先に, 5ペ ージ以下で述べた(1)に相当し
,〔
2〕 は,(2)に,
〔3〕 は
,(5)に
相当するわけである。次に,新聞の見出し等に使われている活字についてみると,次のとおりであ る。〔日付は,略記。(夕)は,夕刊を,それのないものは朝刊であり,○で囲
読 売 新 聞
女 女
フ.6.190 53.1.50 52.10。 110
雛 ■
53.1。 40 52.11.7①▲
﹁女 ﹂ と い う 字 の 形 に つ い て
サ ンケイ新聞
(夕)朝 日新聞社のものは,先に掲げた(1)〜(つのどれにも該当 していないが,強い ていえば(1)に相当するものであって,第2画 の起筆部の筆意を第 3画 にびった
りと接 して,わずかにではあるが,はっきりと表現 している。
読売新聞社のものは,いわば
,〔
3〕,すなわち, 6ページの(5)に相当するも のとみられるが,第2画の起筆部の筆意を強調 している感 じである。また,読売の文字は,朝日の文字に比べて,第3画 の終筆部に多少のふくらみがあり, 第2画の 起筆部も多少 ふくらんだ 形となっている。 しかし,これは,あるい は,活字の細線保護のための処置かもしれない。
サンケイ新聞社の活字は
,〔
1],すなわち, 5ペ ージの(1)に相当する形であ ると思われ る。新聞の見出 しのゴシ ック体,自ぬ き文字や書き文字には,次のようなものが あ った。
夕刊フジ0
5■ 1.14付け 夕刊フジ0
53.1.14付
け 鶏 1.100麟 52.11。 70
女
読売52.3.4o
蹴分阻 1.4o
安 女
け
⑩鉗
ジ ー
毅﹂
朝 日 鬱・8,40 東京〈夕)53.1.13o
次に,主として,朝日新聞・読売新聞の広告に使われていた「 女」を集めて 教 ると,次のように,いろいろの形のものがある。 もちろん,ここに使われて いた文字は,活字・写真植字に よるものばか りでな く,書き文字 も多 く含 まれ ている。また,種々の書体のものがある。
便宜上, 5ページ以下の7種にまとめて順序不同に掲げる。
(1)に相当す ると認められるもの。
女 女
国 國
女 女
女
女
﹁女 ﹂ い と う 字 の 形 に つ い て
(2)に相当す ると認められ るもの。
〔見当たらなかった。〕
(3),゛
)に相当すると認められるもの。(5),(6)に
相 当す る と認 め られ るもの。
女 女 女
女 「女
菫
以上は,いずれ も
,(5)の
形 と認められ るものであるが,個々の文字に よって,第2画の起筆部の形状に微妙な違いがある。以上は,(5)の 形 とい う てい えば,(1)の 形 とい う
より,朝日新聞社の活字の形,すなわち,強い
べきである。 '
女
女
園 れる︒
﹁ 女
﹂ と い う 字 の 形 に つ い て
以上は,(0に相当するものと認めら
C71に相当すると認められるもの。
女
注 :以上 の図版は
,表面の粗い新聞紙に印刷 された ものを
,複写 し
,更に
,それを もとに した版で印刷 した ものであるか ら
,細部の微妙な点 まで
,こと ごとく再現 されてい るとは限らない。また
,以上 のよ うな理由で
,一部の文 字に見苦 しい ものがある。
比較的大きな文字について,多少,重箱のすみをようじではじくるような見 方をすれば,確かに,上のような事実はあるのである。 しかし,このような微 細な差は,先ほども触れたように, 日常 よく使われる9ポイン ト程度の大きさ の活字では,ほとんど目につかないことであ り,まず,問題にならないことで ある。活字の母型を 作るための 原字を描 く人が
,〔
1〕 のような形に描けば,9ポイン ト以下の活字でも,正にそ うなっているはずで あ り
,〔
2〕,〔
3〕 の よに描けば,母型もそ うであ り, したがって鋳造される活字もそ うなっている はずである。 しか し,原字→母型→活字の工程を経て,かつ,紙型をとり,その版に印刷インクを付けて,紙の上から圧力をかけてでき上がる印刷物,ある いは,これ以外の方式による印刷物に しても,完成までの工程を経る間に,微
細な点は消えてしまい,印刷物を見た目には,原字の違いが違いとして映らな いことは容易に想像できるであろう。
明朝体活字の原字を
12ペ
ージの 〔1〕 のように 描くか,あるいは,〔
2〕 や〔3〕 の ように描 くかは,原字を 描 く人の 設計の方針によって決まって くるこ とであって
,「
女」 としての文字の点画の正誤には関係がないことである。筆写の場合に, 5ページの(1)のような形になるか
,(2)の
ような形になるか,
あるいは,も う少 し,この部分を強調 して
,(3)の
ような形になるかは,筆順が大いに関係 していると思われる。
すなわち
,「
女」の筆順は,初めにも述べた ように,伝統的に,と定 まっている。 これが,も し,
とい う筆順で書 くのであったならば,左はらいの画の起筆部を,横画に密着 さ せ,いささか も上部に出さずに書 くことは
,「
下」や「 可」の字の 第2画であ る縦画を,第1画である横画に密着 させ, しか も,いささか も上部に出ない よ うに書 くことが容易であると同様に容易なことである。あるいは,こ
の場合は,左はらいの画の起筆部 と,横画 とが, 日立たない程度に,心持ち離れて しま う 形になるかもしれない。 ともか くも,意識 して,わざとそ うしなければ,横画 の上に出て しま うことは,まず,ない とい って よいであろ う。
しか し,正しい「 く
→
ノ
→
一」 とい う筆順で,左はらいの
画を先に書 き,その上部にびった り接す るよ うに,一T全く交わ らず,また
,
離れ もしない ように一― 書 くのは,なかなか難 しい ことである。上に出ない よ うに気をつかって,左はらいの画を短 く書 くと,間が離れて しま う。つま り
,
「 イ」の 先端 と「 一」 とを 密着させ ようとす ると,書き上が った結果は,自然 の成 り行 きとして,心持ち
,「
ノ」が「一」の 上部に 突 き出 しているような形 になって しまいがちなのである。結局のところ,明朝体活字についていえば,12ペ ージの 〔1〕
,〔
2〕,〔3〕ともに,当用漢字字体表に掲げてある形に忠実に従った形であるといえる。そ して,当用漢字字体表に掲げた「女」の字体は,実は
,『
康熙字典』の形と少﹁女
﹂ と い う 字 の 形 に つ い て
しも違いのない形であ り, したが って,従来から使われていた普通の明朝体活 字 と,特に違いのない形であるとい うべ きである。
このような,活字における点画の形状の微細な相異は,なにも明朝体活字に ばか り起 こるのではない。先に述べた,昭和
33年
の教科書体活字に関す る文部 省の局長通達には,
(1)「当用漢字別表」
(昭
和23年 2月16日 内閣告示第1号)に示 されてい る漢字の 教科書体活字の 字体は,原則 として「 当用漢字字体表」(昭
和24年 4月28日
内閣告示第1号)の表に示されている形に よる。ただ し,別紙に 示す ものについては,ここに 示す形によること。〔以下,
省略。〕とあ り,これに基づいて作成 された教科書体活にも,実をい うと,少なくとも 次の2種類が行われている。
『 例解 学習漢字辞則
,藤堂明保編
,昭和
50.4.10,小学館発行
,228ページのもの。
『 現代 漢字辞期
,改訂新版
,佐伯梅友編
,昭和
50.3.10,小学館発行
198ページのもの。
また,筆写の 場合に, 5ページの(1)を 目指 しつつ も,(2),も しくは,これ が,多少強調されて
,(3)の
ような形になって しま うことは,いわば, 自然の勢 い,成り行 きとでもい うべ きことであって,決して,正誤に関係す ることでは ない。要す るに,文字 として,安定のとれた品位のある形が実現できればよい のである。このようなわけであるか ら,意識 して5ページのに)のような形や, 6ページ の(つのような形に書 き上げても,それが,余りにも極端であるような場合を除 いては,直ちに誤 りとす ることは適切ではない。 しか し,このような形は,安
定感・ 品位に欠けがちになるおそれがあるから避けたは うが無難であろう。
て
: 次に,昭和24年の当用漢字字体表以前に,何度か行われた字体整理の結果で は
,「
女」の字は どのように処理されているかをみてみ よう。│)漢宇整理案
これは,大正8年7月 に,文部省普通学務局が 発表 した もので
,「
尋常 小学 校ノ各種教科書 二使用セシ漢字二千六百余字 二就キ、康熙字典 フ本 トシテ整理 フ行 ヒタルモノニシテ、大要字画 ノ簡易運筆 ノ利便ナルモ ノヲ採 り、或ハ字形 ノ釣合 フ整へ、小異 ノ合同 ヲ図ルニ努 メタ リ、但シ右 ノ内七百余字ハ其字形字 典ノマ ヽナ リ。」 とい うもので,「
女」については,字典体そのままの形を採用してヽヽる。
注
:上
の引用において,漢字の字体は,便宜上,現行通用のものとした。ま た,原文は縦書きである。次も同じ。(2)字体整理案
臨時国語調査会が発表 したもので
,『
官報』(大
正15。7.z第4161号
,附録雑 報154)に載 っている。 これは,同会が,大正12年に発表 した「常用漢字表」に掲げた 漢字について,字体を 整理 した もので
,「
康熙字典 ノ字体 ヲ本 トシ、コンフ整理スルニ当 り、現代ノ慣用 ヲ深 ク考慮シ、字画 ノ簡易 卜運筆 ノ便利 ト ニ重キフ置キ、字形 ノ釣合 フ整へ、小異 ノ合同ヲ図ツタモノデアル.」 と ヽヽう もので,ここでも
,「
女」の字は,字典体そのままである。(3)活宇宇体整理案
終戦当時,教科書をは じめ,一般社会で用いられている活字の字体が不統一 で,教育上,印刷上多 くの支障が 感ぜられていた。終戦後
,「
印刷界では 戦災 その他のため活字の字母を新 しく造 る必要が多 く,活字字体を整理統一す るに は好機であると考えられ」ていた。その機運が熟 して,昭和22年7月 15日,「活字字体整理に関す る協議会」が 設置された。 この 協議会で,検討の結果を まとめ
,「
活字字体整理案」 として,広く関係各方面に 対 して,原案について の批判意見を求めた。 この案は,国語審議会における字体整理に関す る審議の 原案 としたものである。その「 まえがき」によれば
,「
この表は、活字の字体の基準を示すた め に、当用漢字表の中で字体を統一する必要があり、また簡易にすることができると