数値標高による地質情報の可視化と 地質学への応用について
Visualization of Geological Information of Digital Elevation Data and Application for Geology
小出 良幸 ・新井田秀一
Abstract
Although 50m mesh digital altitude data of Geographical Survey Institute is open to public,we can use 10m mesh digital altitude data.
The 10m mesh data reveals invisible geographical and geological features to be visible. Moreover, we could extract information reflecting geological features by the composition of digital altitude data and the satellite image,and analysis of topography by the digital altitude data. The accumulation of geological information should obtain the additional value with progressing IT.
Ⅰ
はじめに:地質情報のデジタル化
20世紀後半コンピュータや情報に関連す る技術(Information Technology:以下IT と略す)の進歩と普及に伴って,多くの研究 領域にコンピュータやIT関連機器が使用さ れるようになってきた.ITによる道具を利用 して研究をするだけでなく,従来の道具や人 手による作業をIT機器によって簡便化,あ るいは高精度化がなされることによって,い ろいろな付加価値が生まれてくるようになっ てきた.IT化の波は,人文科学や自然科学を 問わずどのような研究分野でも,多かれ少な かれ影響を受けている.IT化が遅れていると思われている人文科 学では,その原因として,コンピュータで使 用できる漢字に文字種が限定されていること があろう.日本では,JIS(日本工業規格)が
文字の規格を定めているが,8ビットでは 256種類(2 )の文字しか表現できない.漢 字の使用を考慮すると,日本語表記には種数 が少なすぎる.そこで,2バイトで一文字を 現す(2 =65,536)手法で,JIS基本漢字が 決められた.ひらがな,かたかな,漢字,全 角記号などの2バイト文字で,よく使われる 漢字 2,965字が第1水準として定められ,あ まり使われないが常用に必要な第2水準の漢 字 3,388字を合わせて,6,353字のコード(漢 字コード)を 16ビットで表現するように規定 している.それでも足りないことがあるため,
JIS補助漢字として第3水準の 6,067字(内 漢字 5,801字)や,JIS拡張漢字として第3水 準の 1,908字および第4水準の漢字 2,436字 の計 4,344字(内漢字は 3,685字)が規定さ れている(JIS補助漢字と一部重複する).
これでも漢字数でみると1万字程度にすぎ ない.日常的な使用では不自由はないかもし
KOIDE Yoshiyuki and 札幌学院大学人文学部
NIIDA Shuichi 神奈川県立生命の星・地球博物館
れないが,国文学などの研究者にとっては,
数万字の漢字が必要となる.大修館書店の大 漢和辞典は約5万字が収録されている.人文 科学の基礎環境として,文字のデジタル化が 完全になされていないがために,研究手段と してコンピュータやITの利用が,それほど 需要がなかった要因かもしれない.
しかし,現在では,大量の漢字を利用でき る環境が整備されてきた.現在,10万字以上 の漢字が利用可能となっている(漢字文献情 報処理研究会編,2000;文字鏡研究会編,
2002).そのシステムには,必要があれば新し い漢字を追加する仕組みも組み込まれてい る.人文科学の環境整備の一環として,古典 文献のデータベース化もなされ,人文科学の 研究素材のデジタル化が進んできている.現 在では,人文科学でも多くの研究者がITの 恩恵にあずかっている.
自然科学でも,野外調査に関しては,IT化 が遅れていた.地質学における野外調査では,
ある地点の観察,試料採取,ルートマップ作 成などを行う.現在では,そのような野外調 査へのコンピュータやITの利用が進められ ている.例えばGPS(Global Positioning System:全地球測位システムと呼ばれる)の
小型化によって調査にGPSを持ち歩くこと が可能となり,野外調査における位置情報が 記録できるようになった.デジタル化された 位置情報は,今までの研究者自身が行うより も,はるかに高精度に,連続的に扱えるよう になってきた.
位置情報と他のデジタル情報との連携に よって,ルートマップや断面図の作成,試料 採取地点のデータベース化など,付加価値を 持って利用されるようになった(例えば小出,
2004など).デジタル化による付加価値の例 として,野外の露頭や景観の記録もある.従 来はアナログカメラでの記録をデジタル化し だけであった.しかし,現在では,デジタル 画像をコンピュータ内で合成すると,画質を
劣化させることなく,人間の目で見る以上に 景観を見やすくする技術(例えば小出,2004;
2005など)が利用されている.
本論文では,地質情報のデジタル化として,
高精度標高データを利用した可視化と,さま ざまな応用を考えていく.
本稿で用いた地形の画像は,すべて独自に 作成したものである.画像作成に当たって,
2004年度札幌学院大学研究促進奨励金(共同 研究)に基づき,高分解能デジタル標高デー タを北海道地図株式会社から購入して遂行し たものである.また,ASTER衛星画像は,文 部科学省科学研究費基盤研究(神奈川県立生 命の星・地球博物館,研究代表 平田大二)
によって購入したものを利用した.Landsat 衛星画像はUniversity of MarylandのThe Global Land Cover Facility (GLCF)のも
のを用いた.国土地理院の2万5千分の1と 5万分の1地形図画像,および 250mと 50 m数値標高データを,地形解析は北海道地図 株式会社製作のものを使用した.また,地形 図作成や衛星画像と標高データ合成には,杉 本智彦氏によるソフトウェアKashmirを使 用した.以上の方々に感謝申し上げる.
Ⅱ
地質情報のデジタル化
地質学の野外調査において,地図は不可欠 である.野外調査の結果を地形図に記入し,
最終的に地形図上に地質図が作成されてい く.地質図,つまり岩石の分布とその連続・
不連続を2次元に表示したものを作成するこ とが,野外調査に次いですべき最初の室内作 業となる.なぜなら,調査地域の地質図から,
大地の履歴を知る上で非常に重要な情報を読 み取ることができるからである.
一般に地質図は,地形図の上に作成される.
地形図とは,もともと3次元の地表面を2次 元に投影したもので,3次元の空間情報(標 高データ)が等高線や標高値として付加され て記載されているものである.その地形図の
上に,さらに地質図が作成されていくことに なる.
地質図は,研究者が野外調査で得た点もし くは線の地質情報を,2次元化,3次元化し ていくものである.そして最終的には,時間 軸を加えて,4次元的な復元がなされていく.
地質図作成とは,非常に複雑な作業をおこ なって地質の復元を行っていることになる.
地形図自体が3次元情報の2次元化がなさ れている上に,地質図として複雑な地質情報 が上書きされていくことになる.そのために,
すべての情報を同一のレベルで表示すると,
図面が複雑になり,肝心の地質情報が読み取 りにくくなる.地質図を見やすくするために,
地形図の情報が間引かれていくことになる.
地質図を用いれば,地層面や侵食面,断層 面,貫入面などが,3次元空間にどのように 分布しているかを,地形情報と組み合わせる ことによって読み取ることが可能となる.地 質の3次元的分布とは,地下や地上の状況を 知ることである.地表面より上部は,すでに 削剥されていて今はなくなってしまったもの を推定することになる.地下の部分は,地表 からは見えないが,ボーリングなどを実施す れば,検証することは可能である.しかし,
実際に個人の研究者が地質調査でボーリング をすることは不可能である.地表に現われて いる露頭スケールの3次元に広がる面情報を 野外調査で読み取り,地下や地上へその情報 を延長していけば,科学的に推定することが 可能となる.
その推定結果は,地質断面として示される.
地質図には,地質断面図が添えられているこ ともあるが,地質図から地質図学などの訓練 によって地下の様子を読み取ることも可能と なる.与えられた情報が同じであれば,間違 いを犯さなければ,経験の程度によらず,同 じ地質の地下分布を得られるはずである.
最近では,地質調査のデータを数値化して 専用のソフトウェアに入力していけば,地下
の地質分布も数値処理でき,恣意性のない比 較的客観性の高い地質図や地質断面図も作成 できるようになってきている.このように,
今まで経験や熟練によっていた野外調査や地 質の分布復元においても,IT化がすすめられ てきている.
Ⅲ
数値標高データの利用方法
1 数値地図の重要性地質の復元は,調査の精度をあげれば,原 理的にはどこまでも精度を高くすることがで きる.しかし,人文科学における漢字の処理 がIT化のボトルネックとなったのと同じよ うに,地形図の精度が地質調査におけるボト ルネックとなる.
地図は,国土地理院から2万 5000分の1地 形図が出版されているが,地質調査の目的に よっては,さらに精度の高い大縮尺の地図が 必要となる.その時は調査地がある市町村の 役場にいけば,より高精度の1万分の1や 5000分の1の地形図を入手することが可能 である.その地形図上に調査データを記入す ることになる.それ以上の精度が必要となる と,自分で地図を作成することになる.
土木工事や考古学などの野外調査では,測 量をして必要とする精度を得ることが可能で ある.しかし,地質調査は,一人でそれも広 域に行うことが多く,測量などできない.し たがって,必要な部分だけ,手書きのスケッ チ(10分の1や 100分の1スケール)や大縮 尺のルートマップ(100分の1や 1000分の1 スケール)を作成していくことになる.そし て,広域の地質も最終的に小縮尺の地質図に まとめられる.しかし,重要な情報は,大縮 尺のスケッチ,写真,柱状図,ルートマップ などとして,論文に掲載されていく.したがっ て野外調査をデジタル化して記録するなら,
可能な限り精度の良い地図が必要となる.
地質学の野外調査の精度を上げるために は,大縮尺の地図にする必要がある.しかし,
費用や手間がかかるために,需要の少ない精 度の地図は作成されない.日本全土では2万 5000分の1地形図が基本となり,市町村では 1万分の1や 5000分の 1 地 形 図 が 基 本 と なっている.
国土地理院で地図の精度を上げるために現 在とられている方法は,地図情報のベクトル 化である.ベクトル化とは,2次元的な地形
(等高線,水系),行政境界,交通(道路,鉄 道)を,地理的座標を持った図形データのベ クトル化をすることである.ベクトル化され た線や図形は,コンピュータ上で拡大しても,
写真画像のように粗くなることはない.国土 地理院では,2500分の1の精度での日本全土 のベクトル化がなされている.デジタル化さ れた数値地図として国土地理院から公開さ れ,コンピュータで処理できるようになって いる.
2 メッシュ数値標高データ
線や図形が,ぎざぎざがなく滑らかだから といって,精度を保っているとは限らない.
線が画面上できれいでも,現実に合わなけれ ば意味を成さない.つまり,もともとのデー タがどれほどの精度を持っているかが,ベク トルデータの精度を決めることになる.
行政境界,交通などは,人工的なものなの で,直線状もしくは単純な曲線で近似できる ことが多く,ベクトル化しやすいものである.
それらについては,国土地理院では 2500分の 1の精度を達成している.
地形は,自然の不規則なものであるため,
精度の良いベクトル化がしにくいものであ る.河川や海岸線などの線状で重要度のある ものは,丹念にトレースすれば精度を上げる ことはできる.だが,3次元的な標高はデー タ量が膨大となり,精度を上げることは困難 である.
地形図は,一定の高度からの隣り合う写真 が重なり合うように撮影された空中写真をも
とに,地図情報が読み取られていく.標高も,
かつては立体視可能な航空写真から読み取れ ていたが,現在では航空写真の代わりに,航 空機によるレーザ測量(航空レーザスキャナ 測量と呼ばれている)がおこなわれている.
航空レーザスキャナ測量とは,航空機に搭載 したレーザのパルスを地上に走査して,地上 から反射するレーザとの時間差よって地上ま での距離を測定するものである.距離データ と,GPS測量機と慣性計測装置から得られる 航空機の位置から,3次元の計測をして,精 密な標高データ,地形,地物の形状を求める ものである.
航空レーザスキャナ測量において,標高の 精度を上げるのは,非常に手間がかかる作業 となる.地表の食生や建築物があるところで は,地形データではなく,レーザの反射面の データとなる.したがってレーザ測量のデー タは,地表面の標高ではなく,いろいろな反 射が混在したものとなる(DSM:Digital Sur- face Model).地表面の標高データにするに は,計測したDSMデータから,地表面を遮蔽 するような人工構造物や植生を除去したデー タにしていかねばならない.そのように処理 された地表面の標高値は,数値標高モデル
(DEM:Digital Elevation Model)と呼ばれ ている.
高精度のDEM データを作成するには,IT 化してあるとはいえ,多大なる労力と費用が 必要となる.現在,国土地理院では,南北方 向および東西方向に,それぞれ5m間隔の方 眼(メッシュと呼ばれる)で覆う精度のレー ザ測量をおこない,基本標高データを作成し ている.標高は各メッシュの中心の部分を読 み取っている.しかし,5mメッシュ数値標 高で日本列島全土が整備されているわけでは なく,埼玉東南部,東京都区部,名古屋,京 都及大阪,福岡などの大都市のみである.そ れは都市計画や防災計画などの需要と必要性 があるためである.さらに必要に応じて1m
メッシュの レーダー測 量 も 実 用 化 さ れ,50 cmメッシュの レーダー測 量 も 利 用 可 能 と なってきた(杉盛,2000;坪井・村手,2000).
国土地理院のメッシュ数値標高データとし て,10mメッシュが公開されているが,13の 火山(雌阿寒岳,岩木山,岩手山,秋田駒ヶ 岳,鳥海山,蔵王山,安達太良山,那須岳,
草津白根山,鶴見岳,くじゅう連山,阿蘇山,
霧島山)のみで,全国をカバーするものでは ない.2007年2月には新たに 11火山の 10m メッシュ標高データが加えられた.
現在,日本全土覆う標高網として国土地理 院から公開されているのは,1kmメッシュ と 250mメッシュ,50mメッシュの 数 値 標 高データである.いずれの標高データも,2 万 5000分1地形図から計測したものである.
アメリカ地質調査所(USGS:United State Geological Survey)からは,全世界の標高
データを無料で公開されている.スペース シャトルによって測量された(Shuttle Radar Topography Mission: SRTM と略される),
SRTM-30と呼ばれる 30秒メッシュ(約 900 m相当),SRTM-3と呼ばれる3秒メッシュ
(約 90m相当)というものがある.アメリカ 合衆国内の地形データは,SRTM-1と呼ばれ る 10秒メッシュ(約 30m相当)が無料公開 されている.
図1に示したように,同じ画素数で示され る範囲で,各メッシュデータを比較すると,
その違いは明瞭となる.メッシュ数値標高 データは目的に応じた使用がなされている.
3 10mメッシュ数値標高
日本での地質調査を考えた場合,SRTM-3
(約 90m相当)を考慮しても,50mメッシュ が汎用としてえられる一番高精細のものとい える.50mメッシュでは,2万 5000分の1の 精度では,かろうじて使用に耐えるが,それ より高精度では使用に耐えない.
例えば現在普及しているGPSでは,同時
に 12機の衛星までを受信可能で,その精度で あれば,位置情報は 15m程度の誤差で得ら れる.つまり 50mメッシュのなかに,9個の 測定点が見分けられる精度があるということ になる.このような精度に見合う標高データ とは,15mメッシュであるが,現在一般に使 われているのは,10mメッシュか 30mメッ シュになるであろう.
現 在,新 し いGPSに は,WAAS(Wide Area Augmentation System )と呼ばれる補
正機能が実装されている.これは,GPSの位 置精度を上げるために,静止軌道上に3つの 衛星を用意して全地球を覆い,補正情報を送 信するもので,現在,試験運用中である.も しこの衛星が正式運用になると,WAAS機 能を使う事によりGPSの精度は,3m程度 の誤差に改善されることになる.
そうなれば,ますます数値標高データの精 度が不足することになる.少なくとも 10m メッシュ,できれば5mメッシュの全国の標 高データが必要となろう.日本全土でそろえ るのが可能なのは,10mメッシュであろう.
現状では,デジタル化された位置情報と比 べると,基礎素材となる地図の精度が悪く,
十分GPSの精度を反映できない こ と に な る.これは,人文科学において漢字の種類数 が少なく学問的に使用に耐えなかったのと同 じ状況である.野外科学において数値地図の 精度を上げるのであれば,数値標高データの 精度をいかに上げるかが問題となる.
2万 5000分の1地形図において,実際の 50mは地図では2mmになり,10mは 0.4 mmになる.2万 5000分の1地形図を基本 とした場合,10mメッシュ以上に精度をあげ ることは不可能であり,現実の地形との整合 性からも精度が保障されない.10mメッシュ 以上の精度を求めるのなら,レーザ測量が必 要となる.しかし,5mメッシュは上記の需 要と供給の関係から,日本全土でそろえるの は当面困難である.以上のことから,2万
図 1 数値標高
羊蹄山を中心とした標高データのメッシュの違いを示した.2万 5000分の1地形図,SRTM-30(約 900m メッシュ相当),250mメッシュ,SRTM-3(約 90mメッシュ相当),50mメッシュ,10mメッシュ数値標高に よる画像を,同じピクセル数の範囲で示した.これらの比較は,解像度の違いが表示範囲の広さに反比例するよ うに表現されている.
5000分 の 1 地 形 図 から読み取りうる情 報 と し て は,10m メッシュ数 値 標 高 データがほぼ限界と い え る も の で あ ろ う.
残 念 な が ら 10m メッシュ数 値 標 高 データは,国土地理 院から全国を網羅し たものが公開されて おらず,北海道地図 株式会社から販売さ れているものだけで ある.北海道地図株 式 会 社 で は,10m メッシュ数 値 標 高 データは「高分解能 デ ジ タ ル 標 高 デー タ」と呼ばれて,全 国を網羅した商品と なっている.これを 利用することによっ て,50mメッシュの 25倍 の 精 度 を 得 る こ と が で き る(図 2).この 10mメッ シュ数値標高データ を活用すれば,単に 地質学的調査の精度
図 2 50mメッシュと 10 mメッシュ数 値 標 高の比較
富 士 山 の 約 20km四 方 の範囲を段彩陰影図によっ て表示したもの.50mメッ シュ数値標高(上)と 10m メッシュ(下)による比較.
10mメッシュ数 値 標 高 の 方が明らかに詳細な地形を 示している.
に合わせるというだけでなく,付加価値が得 られることがあると考えられる.
Ⅳ
10
mメッシュ数 値 標 高 データ の 応用
以下では,10mメッシュ数値標高データを 用いた様々な可視化手法とその応用を考えて いく.
1 衛星画像の利用
人工衛星による地表観察は,いろいろなメ リットがあるが,広域を同じ時間に同じ精度 での観測ができる点が重要である.地表の観 測では,国境や山岳地帯,極地,紛争地帯な ど,人が調査するには困難を伴うところは,
どうしても調査の精度が悪くなる.しかし,
上空からの観察では,そのような調査条件に よるデータむらがでることなく,均質にデー タが収集できる.衛星の観測データを蓄積す れば,経年変化を見出すこともできる.
人工衛星による地表観測は,かつては軍事 目的だけであったが,20世紀後半には科学目 的のために観測がなされるようになってき た.1960年代から 1970年代にかけて,アメリ カ合衆国で衛星画像の処理技術が開発され,
利用が促進されてきた.
衛星で観測される波長の種類は多様であ る.電磁波は,周波数により伝播の性質や,
物質との相互作用の特性が異なるため,さま ざまな目的で利用されている.たとえば,マ イクロ波は波長が長く,解像度は上げられな いが,水蒸気による散乱が少なく雲を透過し て観測できる.また,物質による反射光の違 いの解析によって,地表の構成物質を推定す ることが可能である.
民生用の高精度衛星としてIKONOSがあ る.IKONOSは,アメリカの規制緩和により,
偵察衛星技術を民生用に転用されたものであ る.商用観測衛星として,1999年9月 25日に 打ち上げられ,2000年1月よりデータの提供
がされており,1mの分解能をもっている.
画像の1ドット分が,地表ではどれほどの大 きさになるかで,そのセンサーの性能を比べ ることができる.これを分解能あるいは解像 度と呼んでいる.1mの分解能とは航空写真 に匹敵するもので,それを高度 680kmから 達成している.その精度を例えるならば,東 京から函館や広島にいる人が見えることにな る.このような最新の商用衛星画像の価格は 高価である.
Landsat1号は,1973年7月 23日に打ち 上げられ,その後6台の後継機が打ち上げら れた.Landsat 6号は,1993年 10月5日打 ち上げられたが,軌道投入に失敗している.
1999年4月 15日に打ち上げられたLandsat 7号が,現在も運用中である.1984年に打ち 上げられたLandsat 5号も運用中で,20年 以上にわたって利用されている.6台のLan- dsatから得られた大量の画像が今では蓄積 されていることになる.
Landsatは,高度約 700kmを北極から南 極を通る縦の軌道(極軌道という)を,約 100 分で1周している.Landsatのカメラ(セン サーと呼ばれている)は,幅 185km,縦 170 kmの範囲を1回の撮影でカバーできる.関 東平野なら1〜2枚,日本列島も 32枚の画像 で覆うことができる.広範囲を一度に撮影で きるので,1枚のLandsat画像があれば,い ろいろな地質や地形の情報を読み取ることが 可能となる.
Landsatに搭載されているセンサーは,地 表から反射する電磁波を,波長ごとに記録し ていくものである.初期のLandsatは,80m の分解能であった.地上の 80m以上のもの であれば,見分けられるという精度である.
Landsat4号では分解能が 30mとなり,現 在のLandsat7号では 15mの分解能を持っ ている.現在のLandsat7号では,7つの波 長帯(バンドと呼ばれている)が利用されて いる.ETM+というセンサーのバンド8で
は,7つの波長帯と重複 する広範囲の波長帯であ るが,15mの高分解能セ ンサーとなっている.こ の 解 像 度 は,10mメッ シュの標高データに匹敵 するものである(図3).
700kmのかなたから 15 mものを見 分 け ら れ る 解像度である.15mとい えば,個人の住宅が見分 けられるというレベルで ある.例えると,東京駅 から館山辺りにいる人が 見える,あるいは富士山 の山頂から江ノ島にいる 人が見える,というレベ ル の 分 解 能 を 持って い る.その分解能で全地球 を撮影 し て い る の で あ る.
現在,Landsat画像で 全地球を覆っている解像 と時期の違う2つのセッ ト が,University of M a r y l a n d の G L C F
(The Global Land Cover Facility )から無
料で公開されている.本 研究では,そのLandsat 画像を利用した.
本 研 究 で は,さ ら に AST E R(A d v a n c e d Spaceborne Thermal Emission and Reflec-
tion Radiometer)の 画 像も利用した.
ASTERとは,日本が ア メ リ カ 航 空 宇 宙 局
(NASA)のEOS計画に
図 3 Landsat TMとETM+による画像
LandsatのTMセンサー(上:解像度 30m)とETM+センサー(下:解像 度 15m)による画像の比較.範囲は3km四方.TMとETM+では解像度 30m と 15mの差があるため,海岸線はETM+の方が滑らかに見える.
参加した地球観測プロジェクトで,地球観測 衛星Terraに搭載されている資源探査用セ ンサーのことである.Terraは 1999年に打ち 上げられ,日本とアメリカで共同運用されて いる.ASTERは,地質の解析,火山噴火など の地球環境に大きな影響を与えうる現象の把 握を目指しているものである.
ASTERの可視近赤外(VNIR)が,空間分 解能を 15mの高性能光学センサーをもって いる.15mの分解能は,LandsatのETM+
と変わらない.しかし,真下を撮影する望遠 鏡と後を撮影する望遠鏡を備えているため,
同じ地域を違う角度で撮影することができ る.この2画像から立体視ができるので,標 高データを作成することができる.標高デー タも 15mの分解能を持ち,地上分解能とい うより空間分解能という性能となった.本研 究では,価格も比較的安く,入手しやすい ASTER画像を利用した(図4).
2006年1月 24日に日本の陸域観測技術衛 星の「だいち」(ALOS)が,H-IIAロケット 8号機(H-IIA・F8)で打ち上げられた.「だ いち」の特徴は,パンクロマティック立体視 センサー(PRISM)とよばれるもので,前方 と直下,後方の3方向を同時に撮影する.そ の分解能は 2.5mである.「だいち」は,地形 情報を精度よく測定することができる.「だい ち」で地表の2万 5000分の1の精度の地形 データを集め,「日本国内やアジア太平洋地域 など諸外国の地図の作成・更新」することが,
重要な目的の一つとなっている.この精度は,
日本の国土ではすでに達成している精度であ るが,正確な地図が作成されていない国が多 いことを考えれば,国際的に非常に重要な貢 献となる.現在,「だいち」の試験は終わり,
定常観測運用がはじまり,2006年 10月 24日 より観測データの一般提供もはじまりまっ た.だが,今回の研究では利用できなかった.
衛星画像の特徴はなんといっても,直接視 覚に訴えるわかりやすさがある.衛星は可視
図 4 ASTERとLandsatの画像
洞爺湖温泉街と西山火口周辺の2km四方の画像.
ASTER(上),Landsat TMセンサー(中),Landsat ETM+センサー(上)の画像と 10mメッシュ数値標 高 を 用 い て 比 較 し た も の.TMセ ン サーと 比 べ ETM+とASTERの画像は詳細である.ETM+と ASTERでは解像度 15mで同じであるため,両者の 差はない.
光の範囲を直接撮影する場合もあるが,多く の場合可視光以上の波長範囲をいくつかに分 けて撮影される.例えば,ASTERでは,可視 から熱赤外領域までに 14バンドに分けて観 測している.反射光には物質の特徴が現れる ので,そのスペクトル分析を行うことが目的 となっているのである.これを,リモートセ ンシングと呼んでいる.
地質学においては,岩石や地層の分布状況,
特徴的鉱物の分布による資源探査,火山噴火 の時間変化,地質構造や地形の解析,津波や 地震の被害や防災の基礎資料など,多くの応 用がされている(例えばDajesh, 2004).
個別に観測された波長を組み合わせること で,擬似的ではあるが自然色に近い色で表現 できる.擬似的な自然色に示された画像は,
現実味のあるものとなる.さらに,数値標高 データを用いて衛星画像(Textureと呼ばれ る)と合わせて表現すれば,3次元的な画像 となる.このような合成をする時,解像度が 同等であることが望ましい.現在,衛星画像 の解像度は,15mから 2.5m,1mへと上 がっている.今回使用したASTERの衛星画 像 やLANDSATのETM+の 15mの 精 度 に対して,標高データは,50mメッシュ数値 標高では精度が悪すぎ,10mメッシュ程度の 精度が必要不可欠となる(図5).
2 地質の地形への反映
10mメッシュ数値標高データを利用する ことによって,50mメッシュと比べると数値 の上では 25倍(あるいは5倍)も詳細な地形 を,判別できることになる.今まであった 50 mメッシュ数値標高データでは見えなかっ た地質を見ることが可能となる.コンピュー タを使って可視化したり,衛星画像などと組 み合わせたりすることによって,より可視性 を高めることが可能となる.
地形は,構成する地質を反映している.詳 細な地形の読み取れるということは,より詳
図 5 ASTER画像の 50mメッシュおよび 10mメッ シュ数値標高による画像
洞爺湖中島の画像による比較.2万 5000分の1地 形図(上),ASTER画像と 50mメッシュ数値標高
(中)と,同画像と 10mメッシュ数値標高(下)を用 いて表示したものを比較した.10mメッシュ数値標 高の方が,地形を詳細に示していることがわかる.
地 形 図
細な地質を判読することを意味する.
地質には,規模によって,いろいろなタイ プがある(表1).
大規模な地質構造は,数 100〜数 10kmの オーダーとなる.プレート境界(中央構造線,
衝突帯,リフト帯,沈み込み帯),構造線(巨 大断層,トランスフォーム断層),貫入岩体(バ ソリス),巨大岩脈,巨大火山などがある.
中規模の地質構造は,数km〜数 100mの オーダーとなる.地質帯の違い(メランジェ,
オフィオライト),中規模火山,大断層,カル スト,リアス式海岸などがある.
小規模の地質構造は,数 100m〜数mの オーダーとなる.火山地形(中央火口丘,ドー ム,山体崩壊,古い火山,側火山,泥火山な ど),氷河地形(カール,U字谷,周氷河地形),
海水準変動(海岸段丘,海面上昇,沈降地形),
河川地形(河岸段丘,蛇行,三日月湖,扇状 地,氾濫原,河川変更,河川争奪),小断層,
自然災害(洪水,津波,地滑り),人間の営為 などがある.
地質現象の規模によって空間サイズあるい はサイズスケールが異なる.これは,地質情 報を地形情報への反映として読み取ろうとし たとき,情報の精度が一致していなければ,
見えないことが起こるということを意味す る.
大規模から中規模の地質が反映された地形 は,50mメッシュ数値標高やそれ以上の大き な粗いメッシュでも表現可能である(図6).
逆に 10mメッシュ数値標高を用いてもその 効果は現われず,計算や処理に時間を要する だけで無駄な精度となる.中規模の地形は,
50mメッシュ数値標高で見ることができる が,10mメッシュの方がより鮮明に見ること ができる(図7).一方,小規模な地形(図8)
は,50mメッシュ数値標高より小さいメッ シュでないと表現されなかったり,あるいは ほとんど現われなかったりするものがある.
このような中・小規模の地形は,地域の詳 細な地質構造や,比較的短時間の地質学的営 為を反映しているため,人間生活にかかわり
表 1 地形に反映される地質と規模
地質と地形 例
大規模地形 数 100km〜数 10kmのオーダー プレート境界 中央海嶺,衝突帯,リフト帯,沈み込み帯
構造線 巨大断層:中央構造線,フォッサマグナ
トランスフォーム断層
貫入岩体 バソリス:大崩山
巨大火山 阿蘇山
中規模地形 数km〜数 100mのオーダー
地質帯の違い メランジェ:夕張岳
オフィオライト
中規模火山 有珠火山,洞爺湖
大断層 仏像構造線
カルスト 秋吉台
リアス式海岸 三陸海岸
小規模地形 数 100m〜数mのオーダー
火山地形 中央火口丘,ドーム,山体崩壊,古い火山,側火山,泥火山
氷河地形 カール,U字谷,周氷河地形
海水準変動 海岸段丘,海面上昇,沈降地形
河川地形 河岸段丘,蛇行,三日月湖,扇状地,氾濫原,河川変更,河川争奪
小断層 いたるところにある
自然災害 洪水,津波,地滑り
人間の営為 ダム,堤防,護岸,埋立地,人工海岸,河川改修
のあるものが多い.それらの地形を,解析す ることは,非常に重要となる.つまり,地形 データを単にデジタル化するだけでなく,生 活情報あるいは社会情報として別の利用価値 を生み出せれば,より有効な利用ができるの である.ただし,あくまでも地形に現われた
地質学的特徴であるので,その実態や内容は,
現地調査に基づかなければならない.
3 地形表現
数値標高データとそれを操作できるソフト ウェアを用いることによって,地形の特徴を 図 6 大規模地形の表現例
A:SRTM-30(約 900mメッシュ相当)による褶曲地形である南米のアンデス山脈.B:SRTM-30によるア フリカ北東部のリフト帯の始まりに当たるジプチ共和国のアファ三角地帯.C:SRTM-3(約 90mメッシュ相 当)による巨大断層である日本のフォッサマグナ.D:SRTM-3による巨大火山であるハワイ島.E:SRTM-3 による巨大断層である日本の中央構造線.
図 7 中規模地形の例
四国西部にある仏像構造線(左下から中央上に伸びる断層崖)を示すために,西側上空3kmから焦点距離 28 mmのレンズで撮影するという設定で作成した陰影段彩鳥瞰図.50mメッシュ数値標高(上)と 10mメッシュ 数値標高(下)によるもので,断層崖 50mメッシュでも表現されているが,崖の険しさや地形は 10mメッシュ の方が鮮明に現われている.
よりよく示す地形表現の方法を自由に選択可 能となる.地形表現の多くは,地形を立体的 に表現することで,特徴を際立たせる方法で ある(図9).地形平面図に標高による効果を 加え,立体的に見えるように表現したものが 一般的である.
立体表現としては,標高データを高度ごと に色分けする段彩図や,任意の方位と高度か ら光を当てて陰影をつけて立体感を表現した 陰影図などがある.あるいは両者を組み合わ せた陰影段彩図なども用いられる.
陰影段彩図にすると地形の凹凸が,標高を 図 8 小規模地形の例
A:秋吉台の5km四方カルスト地形のドリーネを 50mメッシュ数値標高(上)と比べて 10mメッシュ数値 標高(下)で表示した.50mメッシュ数値標高でもドリーネの地形は見えるが,10mメッシュの方が明瞭であ る.B:新冠の泥火山の 1.5km四方を地形図(上),50mメッシュ数値標高(中),10mメッシュ数値標高で示 した.50mメッシュ数値標高では見えない泥火山が 10mメッシュでは見えている.
等高線で示した地形図から読み取る時と比べ ると非常に可視性を高めることができる.特 に陰影は,立体感を表すのに非常に有効とな る.陰影は,通常太陽が当たるところと日影 を計算して,地形を表現するものである.影 の部分は暗くなるため見づらくなり,通常の 太陽光のあたり方では凹凸が逆に見えるとい う欠点がある.このような欠点は,影の濃淡
を調整し,太陽光を北西から当るという作業 がなされ,克服されている.衛星画像で立体 感が反転して見えることがあるのは,現実の 影の効果によるものである.
数値情報にしておけば,地形表現はコン ピュータ上で自由に試行錯誤して,その地形 や地質を反映しているものを選ぶことができ る.もちろんデジタルであるから,変更や再 図 9 地形表現の方法
地形表現の手法の比較のために 10mメッシュ数値標高を用いて大雪山の御鉢平を中心とした場所で作成し た.ただし,陰影鳥瞰図,陰影段彩鳥瞰図は御鉢平より南側の上空から見たものとして作成した.
描写は容易である.
以上は平面図上での手法であったが,上空 から地形を俯瞰した鳥瞰図という表現手法が ある.これは,鳥のような視点で地形を俯瞰 して作成するものである.鳥瞰図にも陰影だ けのものから,陰影段彩図を重ねた陰影段彩 鳥瞰図などがある.このような鳥瞰図は,コ ンピュータで作成するので,自由に視点の高 度や位置を変更することができる.作図範囲 もカメラでいえば,レンズの焦点距離を変え るように,望みの画角を得ることが可能であ る.ソフトによっては,大気のかすみ,地球 の湾曲,雲,地面や海面のきめなどを効果と してさまざまな程度で加えることも可能であ る.図は2次元で示されているが,コンピュー タ内では3次元情報として処理されている.
地形情報のデジタル化によって可視化が多 様になった.地形情報を含む地理情報システ ムは,Geographic Information Systemを略 してGISと呼ばれている.GISの進歩は,地 図の概念を変えてきた.地図は馴れないとな かなか読み取りにくいものであったが,GIS の進歩によって,地図は誰にでも分かりやす く,利用しやすいものとなってきた.今では GISとGPSを利用したカーナビなどで広く 普及してきた.
野外調査においても,この恩恵を受けてい る.従来は既存縮尺に応じて,利用する地図 が定まっていたが,現在では自由に縮尺にと れるために,必要に応じて目的にあった縮尺 を自由に利用できる.目的に合った地図も自 作できるようになってきた.見せたい範囲を 見せたい手法や縮尺で,それも境界がなく
(シームレス)利用できるようになってきた.
4 地形解析
このような地図情報のデジタル化の進歩 は,地質を反映した地形を読み取るためにも 利用できる.地形は地質を反映していること が多い.したがって,地形の特徴から,地質
の特徴を読み取るということが可能となる.
その手法にはいろいろなものあるが,標高 データから地形の特徴を強調する計算手法を 用いた解析法がよく利用される.地形解析の 方法として,傾斜量,地上開度,地下開度,
斜面方位,斜面形などがある(図 10).
傾斜量は,ある点における最大傾斜方向の 接線ベクトルから求めるもので,断層などの 線構造の読み取り,地質の違い,斜面変化の 見分けるのに有効である(神谷ほか,2000).
地上開度は,空の見通しの度合いを角度で示 したもので,尾根地形の分布や密度を表現す るのに有効である(横山ほか,1999).地下開 度は,空が地表に遮られる度合いを角度で示 したもので,地形の発達状況や河川の分布・
密度などを表現するのに有効である.斜面方 位は,ある点における最大傾斜方向の接線ベ クトルから求めるもので,日照量と相関し,
植生量や融雪量を表現するのに有効である.
斜面形は,斜面の凸凹を判定し,尾根部や谷 部を読み取ることが可能で,斜面の変換部か ら土砂災害の予測などに利用される.
このような地形解析は,それぞれ目的に応 じて利用されているが,特に傾斜量,地上開 度,地下開度は,地質が地形に反映している 状態を見分けるのに有効なものとなる(蟹 澤・横山,1999).
地形解析で経年変化や地質の違いを可視化 すると,非常に鮮明に表すことができる(図 11).あるいは,着色で広域の地質状況の可視 性を高めることによって,地質の反映を見出 すことも容易になっている(例えば,千葉,
2006).
Ⅴ
まとめ
野外調査は,アナログ的でデジタル化しづ らいものであった.しかし,GPSによる位置 情報のデジタル化,そして地理情報のデジタ ル化によって,近年,一気にコンピュータが 利用可能な状況になってきた.地質情報のデ
図 10 地形解析の方法
画像は比較のために屋久島の同じ範囲のものを作成した.
ジタル化として,データ整理,データベース の作成のためだけでなく,今までのアナログ 処理では生まれなかったさまざまな付加的情 報がえられるようにもなった.
詳細で質の良い1次情報さえあれば,それ を元に各種の2次情報へとデータの劣化なく 誰でも自由にできるようになってきた.本稿 で示したような地質が反映された地形の数値 的解析や経年変化,地質の違いだけでなく,
誰かが新しく考案した便利な手法は,熟練や 経験を要することなく同じレベルの処理が初 心者でもできるようになってきたのである.
これらの流れは,科学の手法として非常に 重要な示唆を与えている.一つは,デジタル 化が進めば進むほど,地質調査など野外で データを採取する1次情報の重要が増してき たということである.1次情報の重要性は,
今にはじまったのではなく,昔から重要で あった.1次情報の収集では,目的に応じた 調査手法を用い,なおかつ昔ながらの経験や 熟練も必要となるであろう.
一方,室内の実験や作業は,デジタル化に より,熟練はそれほど重要ではなく,時間も それほど必要でなくなった.かつて野外調査 図 11 地質学への応用例
左:2000年の有珠山の噴火前後の地形変化(四角で囲んだ地域)を地形解析の地上開度図で示したもの.右:
足摺岬の先端部を構成する花崗岩による地形変化.10mメッシュ数値標高でははっきりしない地質の境界が,地 下開度の地形解析では,半円形の地質境界が明瞭になっている.
は,調査後のデータ処理の多様さや手間の多 さから,ついつい調査のまとめを終えると,
研究を終えたような安 感があった.しかし,
それは錯覚で,より深い科学的作業を要する 部分へ序章に過ぎないのである.位置情報や 地図情報のデジタル化によって,より早く簡 単に野外調査のまとめができれば,重要なこ とへ多くの時間と精力を割くことができるの である.より普遍的な手法開発,原理原則の 解明,考察など,非常に創造性を要する内容 に精力を向けることになってくる.
これは,野外調査とその取りまとめという 地質学の研究手法は変わりないが,その力の 配分が,他の科学と同じように,精度の良い データ収集と手法開発や考察に多くの時間を 割けるようになってきたのである.
本稿で示したような数値標高データによる 地質情報の可視化と,その地質学への応用に よって,情報の付加価値を得ること,情報の 価値を高めることが重要となるであろう.
文献
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要 旨
国土地理院が公開している 50mメッシュ 数値標高データがあるが,それより5倍精度 の高い 10mメッシュ数値標高データを用い ることによって,今まで見えなかった地形や 地質が可視化できるようになる.また数値標 高データと衛星画像の合成,数値標高データ の加工による地形解析などによって,より地 質を反映した情報を抽出することができるよ うになってきた.地質情報の蓄積は,付加価 値を得られるようになってきた.