ことの可否(東京高判平成24年11月28日判タ1389号 256頁)
著者 来住野 究
雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research
巻 31
ページ 87‑91
発行年 2015‑07‑31
URL http://hdl.handle.net/10723/2519
会社が株式共有者の1人による 議決権行使を認めることの可否
(東京高判平成24年11月28日判タ1389号256頁)
来住野 究
〔事 実〕
Y株式会社(被告・被控訴人)の発行済株式3,000株のうち1,000株はAが所有し、残り2,000株 はX(原告・控訴人)及びBの2名による持分2分の1ずつの準共有状態にある(「本件準共有 株式」)。
Y会社の平成22年11月11日開催の臨時株主総会(「本件総会」)において、本件準共有株式につ いて、Bは、平成22年11月8日に、Cに対して議決権の行使を委任し、「Cを代理人と定め、本 件総会に出席して、議決権を行使する一切の権限を委任する。」旨の委任状を交付した。XとB との間において、本件総会において議決権を行使することについて、何ら協議は行われていない。
Cは、本件総会にBの代理人として出席し、本件準共有株式について議決権を行使し、本件の各 決議に賛成した。本件準共有株式の本件総会における議決権行使について、会社法106条所定の 権利行使者の指定及び通知はなかったが、Y会社は、Bから委任を受けたCによる議決権の行使 を認めた。
そこで、Xは、本件総会の決議について、招集通知漏れ等の招集手続の法令違反、定足数不足、
準共有株式2,000株について権利行使者の定めがなく、準共有者間においても権利行使者を定め るための協議も行われていないのに議決権行使を認めたこと等の決議方法について法令違反の瑕 疵があると主張して、会社法831条1項1号に基づき取消しを求めた。
原審(横浜地川崎支判平成24年6月22日)は、準共有株式に係る権利行使者の指定に関して会 社法106条ただし書によりY会社側において議決権の行使を認めたから違法はないとして、Xの 請求を棄却したため、Xが控訴した。
〔判 旨〕原判決取消・自判
「準共有状態にある株式について、共有者は、当該株式についての権利行使者を一人と定め、
会社に対し、そのものの氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についてその権利を行使する ことはできないとされている(会社法106条)ところ、Y会社は、本件準共有株式について、Y 会社がBの議決権行使を同意しているから、会社法106条ただし書き(「ただし、株式会社が当該 権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」)により、BがCに委任して行った議 決権の行使は有効であると主張する。
しかし、会社法106条ただし書きを、会社側の同意さえあれば、準共有状態にある株式について、
準共有者中の一名による議決権の行使が有効になると解することは、準共有者間において議決権 の行使について意見が一致していない場合において、会社が、決議事項に関して自らにとって好 都合の意見を有する準共有者に議決権の行使を認めることを可能とする結果となり、会社側に事 実上権利行使者の指定の権限を認めるに等しく、相当とはいえない。
そして、準共有状態にある株式の議決権の行使について権利行使者の指定及び会社への通知を 要件として定めた会社法106条本文が、当該要件からみれば準共有状態にある株式の準共有者間 において議決権の行使に関する協議が行われ、意思統一が図られた上で権利行使が行われること を想定していると解し得ることからすれば、同法ただし書きについても、その前提として、準共 有状態にある株式の準共有者間において議決権の行使に関する協議が行われ、意思統一が図られ ている場合にのみ、権利行使者の指定及び通知の手続を欠いていても、会社の同意を要件として、
権利行使を認めたものと解することが相当である。
よって、本件において、準共有者間に本件準共有株式の議決権行使について何ら協議が行われ ておらず、意思統一も図られていないことからすれば、Y会社の同意があっても、Bが代理人に よって本件準共有株式について議決権の行使をすることはできず、本件準共有株式による議決権 の行使は不適法と解すべきである。
したがって、……本件の各決議は、本件準共有株式に議決権の行使を認めた点において決議の 方法に法令違反があり、取消事由があると認めることができる。」
〔研 究〕
1.本判決の意義
会106条本文:株式共有者による権利行使者の指定
→ 指定方法
①判例(最判平成9年1月28日判時1599号139頁、最判平成11年12月14日判時1699号156頁)・
多数説:共有財産の管理行為として、共有者が持分の価格に従い、その過半数をもって決す る(民252条)。
②有力説:共有者全員一致の合意を要する。
cf. 権利行使者は株主名簿への記載を要する。
∵会社に対する対抗要件(権利行使要件)としての名義書換において権利行使できない共有 株主のみを記載したところで意味はないから。
→ 平成17年会社法制定による但書の新設
→ いかなる場合に会社の同意により共有者の権利行使が認められるか。
cf. 平成17年改正前商法203条2項に関する判例(前掲最判平成11年12月14日):権利行使者の 指定・通知がなくても、会社の側から共有者全員による議決権の共同行使を認めることはで きる。
→ 本判決は、共有者間において議決権行使に関する協議が行われて意思統一が図られている
場合には、会社は共有者中の1人による議決権行使を認めることができるとした点が注目さ れる。
→ 新会社法の立案担当者の説明:会社法106条但書は、会社が自らのリスクにおいて共有者の 1人に権利行使を認めることができるものとしたのであり、それにより他の共有者が損害を 被った場合には会社は損害賠償責任を負うが、会社が共有者間の協議内容の確認を怠って、協 議内容とは異なる議決権の行使を許したとしても、共有者の議決権行使自体には瑕疵がないの で、決議取消事由には該当しない。
→ 会社が恣意的に権利行使できる共有者を選択できることになってしまうし、協議内容に違 反した議決権行使はなぜ有効といえるのか。
→ ①共有者全員による権利行使を会社が認めることは差し支えないとしても、それ以上に会 社が勝手に共有者1人を代表として権利行使を認めることは許されないと解する見解 ②共有者の適法な決定に基づいていれば、共有者全員による共同行使の必要はなく、会社
は共有者1人による権利行使を認めてもよいとする見解
cf. 各共有者が共有持分に応じて議決権を不統一行使すること(会313条)をも会社は認める ことができると解する見解→前掲最判平成11年12月14日・本判決:否定
2.会社法106条但書の適用範囲
権利行使者指定の効果:株主権行使の包括的な委任(代理権の授与)?
→ 株式の共有は共同相続のように遺産分割までの暫定的・一時的な状態にとどまる場合のみな らず永続的な場合もありうるから、株主権行使の包括的な委任は必ずしも共有者の意思に適合 しないし、議決権の代理行使においては総会ごとに代理権を授与することを要すること(会 310条2項)にも鑑みれば、権利行使者の指定をもって株主権行使の包括的な委任と解するこ とはできない。包括的な代理権が授与されるとしても、それはたかだか会社からの通知・催告 の受領権にすぎない(会126条3項)。
cf. 最判昭和53年4月14日民集32巻3号601頁:「共有者間で総会における個々の決議事項につ いて逐一合意を要するとの取決めがされ、ある事項につき共有者の間に意見の相違があって も、被選定者は、自己の判断に基づき議決権を行使しうる」。
→ 共有者間の合意に反する議決権行使を有効と解するだけでなく、権利行使者には議決権 行使につき包括的な権限が与えられているとまで解することは行き過ぎ。
→ 権利行使者の指定は対会社関係における権利行使者としての資格の設定にすぎず、権利行使 の是非・内容については各権利行使の性質に応じて個別に共有者間で必要な内部手続を経るこ とを要する。
→ 保存行為に相当する権利行使であれば、単独でなしうるが(民252条但書)、管理行為に相 当する権利行使であれば、持分の過半数による決定を要し(同本文)、処分行為に相当する 権利行使であれば、共有者全員の一致を要する(民251条参照)。
→ 共有者全員の名をもって権利行使がなされる限り、権利行使者がその内部手続に違反すれば、
権利行使は瑕疵を帯び、その効力が否定されるおそれがある。しかも、権利行使者の議決権行 使の効力が否定されれば、株主総会決議も瑕疵を帯びるから、それは会社のみのならず他の株 主や第三者の利害にも影響を及ぼす。議決権行使については、剰余金の配当・取締役の選任な どの議題は、株式自体に変更をもたらすものではないため、管理行為に属するといえるのに対 して、合併・解散・株式併合などの議題は、株式自体に変更をもたらすから、処分行為に属す ると解されるところ、両者の区別は必ずしも容易ではないし、会社は共有者間の持分比率を知っ ているとは限らないから、適法な内部手続がなされたかの確認には困難を伴う。
→ 会社としては、そのリスクがある限り特定の権利行使者を指定させる実益は乏しい。
→ 権利行使者は自己の名をもって権利行使することができ、それが共有者間の内部手続に違反 していたとしても、共有者間で損害賠償責任が問題となるにすぎず、会社は免責されるものと すれば、法的安定性を確保することができる。権利行使者がその地位を濫用して権利行使する おそれがあることに鑑みれば、権利行使者には共有者間における高度の信頼関係が要求される から、その指定には共有者全員の同意を要すると解することにも十分な理由がある。
→ 会社法106条本文の趣旨が、単なる会社の事務処理上の便宜にとどまらず、株主の権利行使 をめぐる法的安定性を確保することにあるとすれば、会社が自発的に権利行使者以外の権利行 使を認めて法的安定性を害するリスクを負担することは、その趣旨に反することになり、会社 法106条に但書を設けたこと自体に立法論的に問題がある。
→ 但書の解釈論としても、会社が権利行使者以外の権利行使を認めることができる場合は限定 せざるをえない。その結果、共有者間の内部手続上権利行使が有効であることが確実な場合、
すなわち共有者全員による共同行使(議決権行使であれば共有者全員が株主総会に出席して意 思統一した場合)または共有者間の内部手続に従って共有者の1人が権利行使する場合に限ら れると解すべき。
3.議決権行使に関する協議の意味
cf. 大阪高判平成20年11月28日判時2037号137頁:「共同相続人間の権利行使者の指定は、最終的 には準共有持分に従ってその過半数で決するとしても、……準共有が暫定的状態であることに かんがみ、またその間における議決権行使の性質上、共同相続人間で事前に議案内容の重要度 に応じしかるべき協議をすることが必要であって、この協議を全く行わずに権利行使者を指定 するなど、共同相続人が権利行使の手続の過程でその権利を濫用した場合には、当該権利行使 者の指定ないし議決権の行使は権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。」
→ 共有者間における意思決定の方式に制限はないし、共有者間の意見の対立が激しく協議の場 をもつことさえできない場合もありうることに鑑みれば、一般的に実質的な協議の存在を要求 することには疑問が残る。
→ 共有者間で協議が行われていない場合に会社が共有者1人による議決権行使を認めること は、本件のように総会決議が取り消される危険を抱え込むことにほかならず、最も回避すべき ことである。
→ 会社が共有者1人の議決権行使を認めるための要件としては、協議の存在は、共有者間で議 決権行使をめぐる紛争が生じないことが確実な場合を意味する。
cf. 議決権行使の内容につき共有者間で意思統一がなされていなくても、共有者全員の同意を もって共有者の1人に議決権の代理行使を委任できると解すべき。
4.本件各決議の瑕疵は取消原因か
特定の議決権行使が無効であっても、その議決権行使を無視して決議の成立が認められるので あれば、その株主が不当に他の株主の議決権行使に影響を与えたなど特段の事情がない限り、決 議の効力を否定する必要はない(大判明治34年10月28日民録7輯9号168頁)。
→ 権利行使者の指定・通知のない共有株式は、定足数算定の基礎となる議決権総数に含まれる と解されているため、本件では定足数をみたしていないことになる。
→ 定足数は決議の成立要件であるから、定足数を欠く決議は理論的には不成立(不存在)とな るはず。
→ 通説:決議の取消と不存在は手続上の瑕疵の程度の差にすぎず、瑕疵の主張を制限するのが 妥当であるか否かを基準として、取消原因とするのが妥当でないほど手続上の瑕疵が著しいと きは決議不存在となるとした上で、定足数が不足した場合についても、これを取消原因と解し ている(大判昭和5年10月10日民集9巻1038頁)。
→ 外形上決議が成立した以上、長期間にわたって決議の効力を争う余地を残すべきではないと いう価値判断もわからなくはない。
→ 仮に具体的事情を考慮して取消原因か不存在原因かを決するとしても、本件では、支配権を めぐる争いの有無など紛争に至る背景・経緯を窺い知ることはできないが、XB以外の株主は Aのみであり、XBによる適法な議決権行使がなければ株主総会決議が成立しえないことは客 観的に明らかである以上、特に法的安定性への配慮は必要なさそうである。
→ 本件の瑕疵を取消原因として処理することに実際上の不都合は全くないとはいえ、理論的に は不存在原因と解すべき。
[付記]
本報告をもとに加筆修正した完成稿は法学研究97号に掲載した。