山田達朗*西山宗弘
概 要
高分子皮膜の直流電気伝導特性は試料や測定条件によって大きく異なり,考察を困難にしていることが多 い。筆者らは活性炭添加ポリ塩化ビニル(PVC)の電気伝導特性を実験計画法を使った統計的な手法で実 験,処理し,特性に影響を及ぼしている要因の効果を推定した。
たとえば,導電率σは時間経過によって変るけれども可塑剤量,温度の主効果と温度×可塑剤量,炭素濃 度×粒度などがσに影響を及ぼしていることが判明した。
それらの要因につき従来の報告も合わせ考察し電気伝導を述べると共に,実験計画法をこのような問題に 適用することを試みる一段階とした。
1. ま え が き
電気材料としての高分子はその優れた絶縁性を利用され ることが多いが,近年高分子科学の著しい発展により新し い種類の高分子が見出され,電気的にも絶縁層以外の観点 から研究されることも多くなってきた(1)。とくに導電性を 付与した導電性高分子や高分子半導体の合成が可能になっ て以来,それらの独自の応用範囲が期待されている(2)。導 電性を付与する一方法として,素材となる高分子に導電性 粒子を分散させた導電性高分子(3)(Plastic Matrix)(4)が あるが,化学的,熱的に安定性が劣り,同一素材を組合わ せて配合してもその製法,測定条件などで電気的特性が大 きくバラツキ,どのように実験データを取扱うか,さらに 求めた特性の再現性がどの程度期待できるか迷うことが往
々にして生じる。
筆者らは導電性高分子の直流導電特性を調べるに当り,
導電特性に影響をおよぼしていると予想できる要因を取り 上げ実験計画法を使用した統計的な手法で処理し,要因の 影響を定量的に評価したので報告する。
試料として少量の活性炭をポリ塩化ビニル(以下PVC と略記)に添加して,厚さ5GOμ前後のPVCマトリクス 皮膜を調製した。
なおPVCマトリクスの電気伝導機職ま物陸的にも興味 ある問題(5)なので筆者らは直流電圧印加後の吸収電流の時
間変化と共に印加電圧極性反転後の誘電緩和現象も調べた が,これについてはさらに検討して報告する予定であり,
今回は吸収電流特性につき有意な要因が導電率に及ぼす効 果について報告する。
2.皮膜試料の調整
皮膜試料は溶液法により(6),第1図の手順で作成した。
配合剤としてPVC(平均重合度1100)を素材高分子とし,
導電粒子に市販の活性炭,可塑剤にジオクチルフタレート
(以下DOPと略記),安定剤にステアリン酸鉛を,また 溶剤には二硫化炭素とアセトンを用いた。なお活性炭はふ
るいでこし,均一な粒度のものを使用した。
p v c D O P 粉末炭素 安定剤
溶 斉ll
混練溶解 脱溶剤 前処理 電極除目 試 料
第1図皮膜試料調整手順
皮膜試料の調製方法を説明すると,必要量のPVC, DO P,粉末炭素,安定剤を秤量後,乳鉢で十分混練する。そ れを溶剤によく溶かしたのち,第2図に従いデシケータ内 の水銀池に浮べた蒸発皿に移し,アスピレータによる減圧
*現長野工業高等専門学校
本報告は昭和44年3月電気四学会連合大会で発表した内容を含む。
一223一
津山高専紀要(第2巻 第2号)
排気を行ない脱溶剤をしたが,さらに気圧10−5 Torr,温 度50。Cの雰囲気中で前処理を定時間施した。以上の操作 で得られた試料の膜厚は0.20〜0.60mmであった。
吸入空気
@ @→
巳げ
ヤ
ご
︾亀︑
試料 シャーレ 一一 }= 水銀 ち ヴゲ グげ、 ゲ 、心
P軸も v 5b
塩化カルシウム
水道
一
ssli2,
611tsR忠
ンqげ4︑︐ 5
吸湿 魔 マノメ一口 ︷ アスピレータ圧力調整トラップ
第2図脱溶剤装置 つぎに電流測定のための電極(7)として,アルミニウムを
試料に真空蒸着したが,主電極は40mmφ,対電極は60 m mφ,ガード電極は内径45mmφ,外径551n皿φとした。
3. 突 験 方 法 3−1 実験計画法による割りつけ
従来の報告ならびに筆者らの予備実験から,導電特性に 対して影響のあると予想される要因のうち,一次因子に DOP濃度(A),炭素の濃度(B)と粒度(F),電極構成
(C・G),溶剤量(H),温度(E)を取り上げた。二次因子 には,導電率の絶対量を問題とするときは電圧印加後の経 過時間(1),導電率の変化割合を取り扱うときは電圧印加
第1表 取り上げた因子と水準 単位 因 引 水 準
A DOP濃度 A1=20(部) A2=40(部)
B 炭素濃度 B1=5(部) B2=10(部)
一 C 極 性 C1=十 C2司一
次 D 装 置 DI D2 因 E 温 度
e 炭素粒度
E1=40(。C) E2鵯80(。C)
eF10⑪〜200 F2=250嵐下 子 G 電 極
大(Mesh) 小(Mesh)
f1=主電極 G2=対電極 H 溶 剤 H1=少 H2=多 二 1 経過時間 Ii躍1(分) 12=5(分)
次因子 13=15(分) 14=30(分)
J 時間領域 J1=4(分間) J2=10(分間)J3−15(分間)
後の推移時間領域(J)を取り上げた。なお今回の実験では 2組の実験装置を使用したので,装置によって生じた測定 値の差が他の制御因子,標示因子の中に重畳されぬようブ
ロック因子として2組の装置を割りつけた。各因子の水準 内容は第1表に示したが,一次因子は水準数2,二次因子 は水準数3とした。
なお,PVC=・100部==・4 gと安定剤=一SS = 40 mgは常 に一定としたが,これは炭素,DOPの効果はその絶対量 でなく濃度が効くと予想できるためで,DOP(比:重を1と 近似する),炭素量はPVC重量を基準として配合した。
安定剤はごく少量の添加でその目的を果たし,また導電特 性に影響を及ぼさぬため定量とした。溶剤量はPVC+DO P+炭素+安定剤の総重量を基準として,その20/3倍容積
(注)をもって少ない,30/3,倍容液をもって多いとした。
電極と極性からなる電極構成は試料の表面(試料調製時 蒸発皿の上側)を基準とした。つぎに実験順序は乱数表を 用いて確率化し,それに従って試料を作成し,導電率を測 定した。
なお直交表はL(2)を使用し,第3図の線点図(8)(9)に基づ EL一!t−lx−A A AxH H
AxB AxF B BXF F
G/c
C
第3図使用した線点図
DO eO
注次のような意味である。
翫ば全墾を・・9とす・と…kO zgO9−Occ
いて割りつけ主効果の他にも因子間の交互作用A×Eなど も求まるようにした。
さらに直交表にも因子1,Jを割りつけたことで,二次 因子と直交表内の一次因子との交互作用も求めた。
第2表に試料調製時の配合比,電極構成,実験順序を示
す。
第2表 わりつけの内容
実
順序
16
T39 841014 261112 151371
件 圃・羅 1 1 2 2 1 1 2 2 2 2 1 1 2 2 1 1DDDD DDDD DDDD DDDD
条撃驚0000 0000 0000 00004488 88塵4 4488 8844
定測
騨舗
db C a ba Cb ddd C b C a a
翌側 6446 9449 9449 3引4刷● o ・ ● ﹁ . . ・ ︐ ︐3003 4224 8888 000G3553 3553 3553 4664
分成 度甲鮒 炭大小大小 大小大小 大小大小 大小大小
料
度響欝 炭0000 0000 0000 00000000 GOOO GOOO OOOO2222 4444 2222 4444
盈画 試8888 8888 6666 6666● 噸 ・ ・ ⁝ ・ ﹁ ・ ⁝ 冒0000 0000 1111 1111
I i
E
わりつけ番号ユ234 5678 9101112 13141516
X:試料 G:反照検流計 S:分流器 R。:標準抵抗器 E二安定化電源
K、,K2, K.、, K。:スイッチ
第4図 測定回路
E
後の1分聞を除き,次の4分間,10分間,15分間の推移時 聞領域からσ・・t−n(σ:導電率,t:経過時闇, n:変化割 合)に従って109σ一日間gtの勾配(1。)として求めた。
つぎに印加電圧の極性反転は第4図のスイッチK3を30 分間隔ですばやく切換えて行なった。
4. 実 験 結 果
〔備考〕電極構成
toノ
カート電極
rbノ rcノ 初
3−2導電率の測定方法
直流導電率は第4図の反照検流計を用いた直偏法(7)で求 め,定電圧安定化電源から直流500V(7)を第2表の電極条 件に従い印加した。
試料は恒温槽内の小型デシケ一己内におさめ,デシケー タ内の温度が所定の温度になってから約1時間恒温槽内の 温度を一定に保った後,電圧を30分間印加し充電した。そ の間1分,5分,10分,15分,30分経過時の吸収電流を測定 し,導電率を求めた。また導電率の変化割合は電圧印加直
測定の結果求まったデータは全て第5図にプロットして いるが,図中の数字は第2表のわりつけ番号(実験順序で ない)を示している。第6図では,第5図の初期30分間の 経時変化を取り上げている。
一般に導電率の経時変化は,狭い時間範囲に限り,
σ㏄t−nで表されるが,印加電圧の極性を反転すると,導 電率の経時変化は非直線性を持つに至り,ときには顕著な 極大現象を生じることすらある。このことはすでに中島(11)
家田氏(12)らにより指摘されているが,それでも説明困難 な現象も認められ,それについては現在検討しているの で,今回は第6図の初期充電特性に限った。
まず,第6図に図示した資料をもとに,実験計画法の手 法を応用して,後述の分散分析を行ない第3〜5表を作成
し,その要因効果を第7〜1G図に図示したので,それらに 従って実験結果を述べていく。
4−1 1分値と30分値の要因分析
既に述べたように絶縁物の抵抗は電圧を印加後の経過時 間に伴い変化するが,便宜上電圧印加1分後の電流を基準 とした値をもって絶縁抵抗と定めている(7)。そこで1分値
(以下X分後の導電率をX分値と略記する),ならびに比 較のため30分値を求め,分散分析を行ない第3表を得た。
表申,dfは自由度, SSは変動, msは不偏分散, pは寄 与率を示し,F分布表から**は危険率1%で,*は5%で有 意である。△印を付けた変動の比較的小さい要因は,直交 表の第14列に割りつけた誤差eにプールして(e)とし,
一225一
冒0一0﹁
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津山高専紀要.(第2巻
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2号
第d・
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豊 ー 78 一P▽10ー
30 60
経過時間(分)
第5図(a)電圧極性反転特性
一[o
90
り
↓0
6
︵丁︒︒︑﹄︶癬籾鮮
5
一
1 1
﹁O一10
尋O2
f..︒一﹄︶掛鯉癬
d3
d
一〇一〇10
d2
d3
一〇
50 60
経過時間(分)
第5図(b)電圧極性反転特性
90
Noxgx
::=:まこさ、
xsA一一一一一一k..As.tN..,,IIIIX ×
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\ロNfi
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so−NGL一一..g.一Gt−o 、靴)「9\
il 30秒iの 5 10152030の 条至i量き寺悶 10g t
第6図(a)吸収電流の充電特性
︵75Tq︶附囎
1
≧きミ
\一ロー一一{コ〜一〔」ロLロ 一[卜魅
鳶\一…へ
▽\
\
一.0.sO l6
\o_
◎『一Gs_EL
3Q秒1分 5 1q 152030分 糸呈過日寺山 leg t
第6図(b)吸収庵流の充庵特性
第3表 1分値と30分値の分散分析表
1 分値 30 分値
要 因
4! 〃25 ・。1 判定 ρ(%) 4∫ 1
。 i Ie・1 判定 ρ(%)
A 11 1,273,512 5.41 * 5.30 1 651,249 2,601 2.67
B I 1 407,682△ 1 529,984△
C 1 276,676△ 1 174,724△
D 1 334,084△ 1 321,489△
E 1 12,027,024 51.1 ** 60.22 1 7,144,929 28.53 ** 45.92
F 1 461,041△ 1 354,744△
G 1{ 1,050,625 4.47 4.16 1 917,764 3.66 4.45
H 1 i 82,656△ 1 88,804△
A×B 1 444,222△ 1 379,456△
A×E 1 i 1,044,484 4.44 4.13 1 2,033,476 8.1曾 * 11.88
A×F 1 107,584△ 1 388,129△
AxH 1 5,402△ 1 68,644
B×F 1 1,833,316 7.80 * 8.16 エ 1,760,929 7.03 * 10.06
C×G ユ 8,742△ 1 7,569△
e ユ
222,258 1 190,810
(e) (10) 235,135 18.03 (10) 250,435 25.02
T 15 ST=19,580,308 1 100
﹁15
ST=15,012,700 ユ00
〔備考〕 F (1,10: O.Ol) 一一10.04 F (1,10 :0.05) == 4.96
**危険率1%有意
*危険率5%有意
;.一 一ll
毎
T d 一12
bv.) 一13
−o
/
→●−Ψp
/
Ai A2
a )一DOP
一
︵T.︒り︻−
一 2
α㌧
b
「 3
ロO
/
訴/El E2
(b)温度
第7図 1分値の要因効果
1A 一H毒
T ct 一12
Y
: 一13
B, B,
(c )炭素:;簑度×非立度
ρ一臼1fiJ
7 ci 一12
b
a 一G5
9
/
ノ
﹁ズE童 E2
(a)温度
ρ一1暑 T
ct 一12
b
g 一15
−o
一﹃δ
AF
/A2
nfi〟│Tm[
El E2
(b)温度×DOP 第8図 30分値の要因効果 一227一
T 一S 一1
暮
T ct H 2
b
g 一ls
Bl B2
(c)炭素濃度×粒度
津山高専紀要(第2巻 第2号)
この(e)で△印のない要因を検定した。有意な要因の効 果は第7図,第8図に示すが,プロットした点を中心とし た矢印範囲は95%の信頼領域である。
第3表から1分値では,DOPの主効果は5%の危険率 で有意,DOP×温度の交互作用は有意でない。一方30分 値は,DOPの交互作用が有意で主効果は有意でなく,主 効果の寄与率も1分値より少ない。
共通点としては,温度上昇につれ導電率が増加するこ と,また添加した炭素の粒度が小のとき炭素濃度を増すと 導電率は減少し,大粒度なら導電率は増加する傾向がある
ことが判る。
4−2導電率の経時変化の要因分析
導電率の1分,5分,15分,30分値を求め,その経時十
三4表
高を分析したのが第4表で,要因効果を第9図に示す。な お第3表からDOP×経過時間の交互作用も予想できるの で,さらにその他の因子B,C, E, G, H,と経過時間
1との交互作用とも合わせて調べた。
第4表で一次誤差e1に△印をプールした(e1)を,2次 誤差(e2)で検定したところ(el)は有意であったので,
一次要因は(e1)で検定した。
検定の結果,温度と時間の主効果と,温度x時間の交互 作用が1%で有意,DOP×温度,炭素濃度×粒度, DO
P×時間の交互作用が5%で有意となった。
第9図(a),(b),(c)は第7,8図と類似の傾向を示して いるが,電圧印加時問の効果を示す(d),(e),(f)図は時 間軸を対数目盛で示している。
1分,5分,15分,30分値の分散分析表 土 因
4! 〃診8 MS Fo 判定 ρ(%)
A 1 3,313,310 3,313,310 3.22 3.23
B 1 2,058,508△ 2,058,508
C 1 755,596△ 755,596
D 1 1,419,077△ 1,419,077
一 E 1 37,182,555 37,182,555 36.1ユ ** 51.18
F 1 ユ,730,540△ 1,730,540
次 G 1 4,016,016 4,016,016 3.90 4.23
H 1 425,756△ 425,756
A×B 1 1,874,846△ 1,874,846
要 A×E 1 6,601,046 6,601,046 6.41 * 7.89
AxF 1 986,049△ 986,049
A×H 1 102,080△ 102,080
因
B×F 1 7,257,636 7,257,636 7.05 * 8.82
C×G 1 38,025△ 38,025
e1 1 907,258 907,258
(e1) (10) 10,297,740 1,029,774
T 15 68,668,298
1 3 1,316,770 438,923 83.49 ** 0.6
一 A×1 3 68,006 22,629 4.31 *
一 B×1 3 11,044△ 3,681
C×1 3 14,047△ 4,682
次 D×1 3 2,760△ 920
E×王 3 348,759 116,253 22.11 **
要 FxI 3 6,577△ 2,192
G×1 3 5,066△ 1,689
因
H×1 3 4,545△ 1,515
e2 21 180,488 8,595
(e2) (39) 224,527 5,257
T 63 70,626,360 100
〔備考〕 F(1,10:0.01)=10.04 F(1,39:0.01)=7.32 F(1, 10:0.05) 一= 4.96 F(1, 39:0.05)一 4.09
一
2
一
3
一
︵丁ε評﹄︶b量 / →●
/e
亀度
量自侮 一 2 3
の コ ︵㌔UTc︶b◎Q 7
一一一.イツ⊥_
ぜ A E, E2
(b)温度×DOP
Tr 一ll
g T
EI. 一12
b 旦一13
≧襲と
↓味
F, F,
(c)炭素粒度×濃度
属一一目凸 Tg −12s
ba 一13
s
一一一ゴ玉k駄
t II 工21514
(d)経過時間
転転︐ 転官
一 一 刊 ヨ ﹁﹁ 韻 無
︵㌔・︻﹄︶b︒︒
L I2工314
(e)経過時間×DOP
セ
一 一︵T§7q︶
b
一 3
9
、、k触
亀孚「;卜転
1 1T 12 13 14
(f)経過時間×温度
第9図 1分・5分・エ5分・30分値の要因効果 4−3導電率の時間に対する変化割合nの要因分析
吸収電流の時間変化を表わす一つの方法にt『nがあり,
Homonは吸収電流から誘電特性を換算する際これを使用 した(13)。ただ時間範囲が広くなるにつれlogσ一10g t特性 は折線で近似されnは定数でなくなる(14)。そこでnが何 によって決定されるかを調べるため,推移時間領域4分間,
ユ0分間,15分間のlogσ一log t特性の勾配nを求め要因分析 したのが第5表と第10図である。
表中一次誤差を二次誤差(e2)で検定したところ有意で なかったので,e1に一次要因の△印をプールし,さらに
(e2)も加えたe1+△+(e2)=(e )で,一次要因を検定
した。
その結果,DOPの主効果とDOP x炭素粒度の交互作用 が5%で有意,温度の主効果と DOP×温度の交互作用 時間領域の主効果が1%で有意となった。第10図による と,DOP,温度,時間領域の推移が増すとnも増加す O.6
c 届 0・4
0.2
A巳 A2
(a )DOP
O.6
届 04
0.2
/一
/v
E, E2
(b)温度
O .6
[
O.4届
O.2
拓
r一一V−rNr一一丁.一一Hrrm一
一1−1」き
Al A2
(c)DOP×温度
O.6
に
闇 o・4
0.2
T 62F
一濃一一一,青一
Al A2
(d>DOP×炭素粒度
O.6 c 賜 OA
O.2 コΦ … 一 ⇒●Ψ
ノ
J, J2 J3
(e)推移時間領域
第10図
】ogσ一log tの勾配n の要因効果
一229一
津山高専紀要(第2巻 第2号)
る。またDOPの濃度増加に伴い,40。Cではnはほとん ど変化せず,800Cでは急激に増加している,同図(d)で
はDOPの増加に伴うnの値は95%信頼限界内で,大粒度 では変化せず小粒度では増えている。
第5表 lo9σ一logtの勾配nの分散分析表 要
因
4/ 〃25 ss Fo 判定 ρ(%)
A 1 91,264 9L264 4.48 * 2.88
B 1 1,355△ 1,355
C 1 3,024△ 3,G24
D 1 5,022△ 5,022
一 E 1 1,007,751 1,007,751 49.49 ** 40.11
F 1 30,755△ 30,755
次 G 1 10,710△ 10,7!0
H 1 3,485△ 3,485
AxB 1 27,696 27,696
要 A×E 1 164,151 164,151 8.06 ** 5.84
AxF 1 119,700 ユ19,700 5.88 * 4.03
因 AxH axF
11 73,712△
P,989△
73,712 P,989
C×G 1 540△ 540
e1 1 5,069 5,069
(e ) 41 20,363 834,866 39.04
T 15 1,546,223
J 2 244,171 122,086 5.45 ** 8.10
一 A×J 2 50,431△ 25,216
一 BxJ 2 69,358△ 34,679
次 CxJ
c×J
22 73,623△
T2,598△
36,812 Q6,299 要 ExJ
exJ
22 53,620△
T4,曾70△
26,810一、
Q7,135 因 GxJ
g×J
22 15,513△
S9,986△
7,757 Q4,993
e2 14 252,110△ 18,008
(e2) (30) 671,509△ 22,384
T 47 2,461,903 100
〔備考〕 F(1,30:0.01)=7.56
F (1, 30 : O. 05) =4.17 F (2, 30 : O. Ol) 一5.39 F (2, 30 :0.05) ==2.32
F (1, 41 : O. Ol) == 7. 29
F (1, 41 : O.05) 一4. 08
5. 考 察
高分子の電気伝導が電子伝導であるか,イオン伝導であ るかについては数々の論議が行なわれ(15),その導電機構に 関しても種々のモデルが発表されている(16)。 低電界にお けるPVCの導電に限ると,イオン性物質が主要な荷電体 であると報告されている(17)。
このPVCに炭素を添加し分散したマトリクスを考える と,一般に炭素が希薄な領域では炭素粒子は孤立しほとん
ど導電に寄与しないが,ある濃度に達すると炭素粒子は互 いに接触し立体網目状の導電格子を形作り高分子マトリク スは良好な導電性を示す。この中間の濃度では,導電路は とぎれとぎれに分散して存在し(間隙伝導系ともいう(18)),
炭素粒子は接触と孤立の境界領域となり,導電率その他の 特性をバラツカせる原因となり材料設計を困難にしてい
る。したがって炭素を添加した可塑化PVCマトリクスの 電気伝導を取り扱うには,炭素濃度を考慮して,PVC中 のイオン性物質を荷電体とするか,炭素の導電格子にそっ
た電導をより重視するのか決める必要がある。
今回の実験では添加した炭素が高々10部で少なかったこ と,試料の導電率が10−10〜10−14Ω『ICm−1と比較的小さ な値であったこと,分散分析の結果炭素の濃度,粒度共その 主効果が有意とならなかったことから判断して,炭素粒子 の導電路の延びが試料表面から裏面まで切れ目なく成長し ていないものとみなし,イオン性物質による電気伝導を主 体に考えていく。
なお極性反転後に極大値が現れたことから,印加電圧変 化による Hopkinsonの重ね合わせの原理(19)は成立しな いことが確認されたので,分極に基づく電流は今回測定し た過渡電流にほとんどふくまれていないものとみなした。
さらに予備実験で,炭素を1部添加した試料に直流500V を720分間印加したところ,両対数軸にプmットした電流 の経時変化がほぼ同一傾向で減少しており,720分値は1分 値の約i7 i oo倍になった。周知のように分極による吸収電 流が常温でこのような長期閥に及ぶことは予想できないの で,その原因をイオンの挙動に結びつけることが妥当と思 われる。
5−1 DOPの影響
PVCにDOPを添加すると, Eyringの速度論に従 い,PVCの内部粘性は減少し粘性に反比例してイオン移 動度は増加するので,導電率は増す(20)。第7図(a)の現 象はこれから説明でき,また第8図(b),第9図(b)の
DOP×温度 の交互作用によるとDOP量増加に伴い見 掛けの活性化エネルギーが減少することも定性的に一致し ている。例えば第9図(b)から活性化エネルギーを求め ると,DOP=10部では27. 39kcai/mo1, DOP=20部では 11.15Kcal/molとなり,山元氏らの結果(17)ともほぼ一致
した。
つぎにイオンの濃度がほぼ一定とすると,イオンの挙動 に基づく現象は,イオン移動度が早いほど,時間的に早く 現れる。第10図(a)でDOPの多い方が時間に対する変 化割合nが大きいことから,DOP濃度を増すと吸収電流 は早く減衰することが判る。なお可動イオン濃度を一定と したのは,統計的な手法を用いた結果,DOP以外の影響 が同図に紛れ込むことがなく,DOPはイオン伝導に寄与 するイオンをほとんど提供していない(20)ためである。
5−2炭素の影響
今回の水準内容からでは,添加炭素は濃度,粒度単独の 効果は認められず,両者の交互作用が有意となった。炭素 粒子の導電路が行きわたっている場合には,導電率は炭素 間の接触密度(濃度のある関数(21)) と接触面積 (粒度の ある関数(21))に依存するものと予想できるが,活性炭10 部ではすでに述べたように導電路が十分成長しているもの
と思われる。
第7図(c),第8図(c),第9図(c)をみると,炭素 粒度大では添加量を増やすと導電率も増加し,小粒度では 逆に減少している。これを試料の成膜性能から考える。
一般に炭素の粒度が小さいほど高分子素材中の分散状態 が良好で,添加濃度が少ないと粒子は互いに孤立し相互作 用は無視できる。一方粒度が大きくなると,試料調製のた めの脱溶剤操作の期間中に炭素の沈降が生じ,できあがっ た試料の皮膜表面と裏面で炭素は不均一分布をし,充てん 率の粗な層と密な層とからなる近似的な2重層が形成され る。炭素の添加量を増すとこの傾向はさらに促進される。
これらのことから,炭素の粒度,濃度共小の場合は孤立炭 素がイオンを吸着し可動イオンを捕獲するため,導電率は 減少する。逆に粒度,濃度共大のときは,炭素密度の高い 心内では炭素粒子が互いに接触し電導に寄与するため,炭 素添加に伴い導電率は増加するのではないかと予想できる が,それの確認にはさらに細かく水準内容を変えた実験が 必要である。
つぎに,導電率の変化割合nに及ぼす炭素の影響を第10 図(d)からみると,粒度が大きいとDOP濃度による変化 がほとんど生じていない。普通濃度一定のもとでは粒度が 大きくなるほど粘度は低くなることが知られているが,
DOPとの関連において実験結果を説明することは困難で
ある。
5−3温度の影響
高分子の導電率は周知のように大きな温度依存性を示 し,玉ogσa・1/T(Tは絶対温度)に従い変化する。この現 象は温度が高くなると高分子の内部粘性に基づく移動度が 増し,かつ可動イオンの濃度も増加することかう説明され ており(17)(20),第7図(b),第8図(a)もこれに一致し,
各温度特性から見掛けの活性化エネルギーを求めたところ 1分半21.9Kca1/mol,30分値16.9Kcal/molのほぼ妥当 な値を得た。また第8図(b),第9図(b)のDOP×温度 の交互作用から,温度が上昇するにつれ導電率に及ぼす DOP濃度の効果が相対的に低下していることも,温度に よる粘度変化から定性的に説明できる。
つぎに温度が勾配nに及ぼす効果を調べてみると,第10 図(b)から温度が高くなるとnも増加していることがみ られるが,ポリビニルアセテートでも類似の現象が報告(14)
されている。また同図(c)から40。CのときDOP濃度を 変えてもnはほとんど変化しないが,80。CではDOP濃度 の増加につれnも大きく上昇している。
同図(d)についてガラス転位と自由体積を考慮する と,普通純粋なPVCのガラス転位点は80。C近傍である が,DOPを添加すると転位点は下がる。今回の実験にお 一231一
津山高専紀要(第2巻 第2号)
いて添加した炭素が転位点にほとんど影響を及ぼさないと 仮定するなら,DOP 20部では測定温度800Cは転位点を こえており(22),PVCは流動し易くなり, nの値は大きく 増大するものと思われる。このことはすでに述べたように 吸収電流と誘電特性は密接な関係があり(23),誘電特性は ガラス転位点を境にして大きく変化する(24)(25)という実験 事実とも定性的に一致している。
5−4 電圧印加時間の影響
第5図に示したように極性反転を行なうと,吸収電流は 極大値を持った非線形特性を示す場合があることから,電 圧印加後伝導に寄与するイオンの濃度が刻々に変化してい ることが考えられる(14)。初めて試料に電圧を印加すると 時間の経過につれ,可動イオン濃度は減り,吸収電流も減 少する。この間の導電率の時間変化を第9図(d)は示し ているが,同軸(e),(f)からは時間経過に伴いDOP,
温度の効果が若干少なくなる傾向がみられる。
つぎに10gσ一logtの勾配nは初期の時問領域では小さ く,あとになるにつれ増加している。この傾向はポリビニ ルアセテート,その他についても報告(1。)(14)されているが 十分明確な説明はない。以上の現象については,印加電圧 の極性を反転した後の非直線特性,交流電圧印加時の誘電 特性などとも関連するので,今回の実験だけでは説明困難 である。
5−5その他の因子の影響
いままでDOP,炭素,温度,電圧印加時間の影響につ いて述べたが,分散分析の結果上記4因子以外で有意とな った要因は存在しなかった。割りつけに先だち影響がある と予想して採用した因子はその他に電極構成と溶剤であっ
た。
電極構成の効果は今回の分析では無視されたが,極性反 転後の極大現象には,炭素粒子の沈降に基づく近似的な 2重層とも関連して大きく影響するのではないかと考えら れる。
溶剤を因子として取り上げたのは,脱溶剤後にも溶媒和 としてその影響が残ることが報告されている(26)ためであ るが,試料調製時行なった減圧加熱の前処理の結果,導電 率に及ぼす影響は無視できた。
6.結 言
今回の実験は導電性高分子を製造するための第一歩とし て,実験計画法により炭素を添加した可塑化PVC皮膜の 導電特性に影響を与えると予想した要因を,限られた範 囲の水準ではあるが,取り上げその効果につき調べた。そ の結果同一資料から数多くの情報を獲得したが,反面予想 していた特性が十分に認められなかったり,さらには思い がけない現象が見られたりして,それらに対する説明が困
難な場合も生じた。
分散分析の結果,DOP,炭素,温度,電圧印加時間の4 因子の効果が大きかったため,他の因子の効果は相対的に 低下し有意とならなかったが,常に最も寄与率の大きい温 度の水準を固定することで,上記4因子以外の因子を有意 として取り出すことは可能かも知れない。また同じ導電率 を取り扱っても,その絶対量を問題にするか,あるいは変 化する割合を問題とするかで有意となる因子およびその寄 与率が異ってくることはすでに述べた。
この報告で取り上げた絶縁物の導電特性については多く の研究報告があり,筆者らが参考にする場合も多かった が,今回の実験により各要因の導電率に寄与する傾向がほ ぼ確認できた。ここではそれらの現象について主として述 べたが,その中にはすでに説明されている現象もありそう でないものもある。後者については今後の課題として,極 性反転後の導電特性さらに交流電圧印加時の誘電特性とも あわせて検討していきたく思っている。
終りに,実験に際し多くの便宜と助言を戴いた本校福井 佐市教授,富田信昭助教授に厚くお押韻し上げます。また 実験を手伝って下さった清水広行技官に深謝致します。
参 考 文 献
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(昭和44年10月13日受理)
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