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論文の要約
氏名:堺 琴 美
博士の専攻分野の名称:歯学(博士)
論 文 題 名 : Relationship between orofacial muscle strength and sarcopenia in older rehabilitation patients
(入院高齢者における口腔顔面の筋力とサルコペニアの関連性)
高齢者において全身の筋肉量と筋力または身体機能が低下しているサルコペニアという状態が更な る身体機能低下や死亡と関連することが報告されており, 高齢社会において近年注目されている症候 群の 1つである。サルコペニアは加齢のみを原因とした一次性サルコペニアと低栄養, 低活動または 疾患を原因とした二次性サルコペニアに分類される。日本の地域在住高齢者において男性21.8%, 女
性22.1%にサルコペニアを認めることが報告されている。また, 疾患の亜急性期やリハビリテーショ
ン病院におけるサルコペニアは入院高齢者において約50%に認めることが報告されている。このこと から, 疾患急性期後の入院高齢者においては, 一次性サルコペニアではなく二次性サルコペニアが大 きな問題になっていることが推測される。サルコペニアは四肢の筋肉量と握力または歩行速度で定義 されるが, 四肢と同様に口腔顔面の筋にもサルコペニアがおきている可能性がある。舌と口唇の筋力 は食事摂取において重要であるが, 入院高齢者においてサルコペニアと口腔顔面の筋力に関連がある のか, また関連があるとしたらどのような原因によるサルコペニアが口腔顔面の筋力の低下と関連し ているのか不明である。そこで本研究は入院高齢者におけるサルコペニアと口腔顔面の筋力の関連を 明らかにすることを目的に実施した。
研究の対象者は, 急性期病院よりリハビリテーション病院に入院した65歳以上の患者とした。サル コペニアと口腔顔面の筋力の関係を調べるために, 疾患の直接的な影響で筋力が低下する可能性を考 慮して脳卒中, 頭頸部がんの既往または神経筋疾患をもつ患者は対象から除外した。サルコペニアと 口腔顔面の筋力の関連を調べるために2つの研究を実施した。研究1においては, 173名 (男性64名, 女性110名, 年齢中央値84 [四分位範囲80–89] 歳) を対象に舌圧とサルコペニア因子の関連を調べ た。サルコペニア因子としては診断因子である握力と四肢の筋肉量, 原因因子である年齢, 栄養状態, 活動, 疾患の評価を行った。さらに舌圧と嚥下機能の関連を調べた。研究2では, 201名 (男性70名, 女性131名, 年齢中央値 84 [四分位範囲79–89] 歳) を対象に低栄養によるサルコペニアと舌圧と口 唇閉鎖力の関連を調査した。2 つの研究において筋力は最大等尺性筋力を測定した。舌圧は前舌部で 測定用のバルーンを口蓋に向かって強く押すことで測定し, 口唇閉鎖力は上下の口唇それぞれに測定 センサーが連結されたホルダーを装着し, 強く上下に閉鎖することで測定した。サルコペニア因子, 舌圧と口唇閉鎖力の他に, 口腔顔面の筋力に影響を与える可能性がある因子の評価を行い, 多変量解 析にてサルコペニアと舌圧および口唇閉鎖力の関連を調べた。
研究1において, 舌圧はサルコペニア因子のうち四肢の筋力を示す握力 (r = 0.46, p < 0.001), 四肢 の筋肉量を示す下腿周囲長 (r = 0.45, p < 0.001), 年齢 (r = -0.19, p = 0.012), 身体機能 (r = 0.35, p <
0.001), 栄養状態 (r = 0.44, p < 0.001) と有意な相関を認めた。重回帰分析において, 舌圧は握力 (coefficient = 0.33, 95 % confidence interval [CI] 0.12–0.54, p = 0.002) と栄養状態 (coefficient = 0.74, 95 % CI 0.12–1.35, p = 0.019) と有意な正の関連を認めた。また嚥下機能は舌圧 (coefficient =
0.02, 95 % CI 0.00–0.15, p = 0.047) と有意な正の関連を認めた。サブグループ解析において80歳以
上の患者に対象者を限定すると, 舌圧は栄養状態 (coefficient = 0.88, 95 % CI 0.20–1.56, p = 0.012) とのみ有意な正の関連を認めた。以上により舌圧はサルコペニアによる四肢の筋力低下とともに低下 し, 二次性サルコペニアの原因である低栄養と関連していることが示された。またサルコペニアによ る舌圧の低下が嚥下障害の原因になっていることが示された。
研究 2 では, 低栄養によるサルコペニアを認める患者は認めない患者と比較して舌圧 (サルコペニ
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ア群: 中央値22.9 [四分位範囲17.7–27.7] kPa, 非サルコペニア群: 29.7 [24.8–35.1] kPa) と口唇閉鎖 力 (サルコペニア群: 7.2 [5.6–9.8] N, 非サルコペニア群: 9.9 [8.4–12.3] N) が有意に低い結果であっ
た (p < 0.001)。さらに多重ロジスティック回帰分析において, 低栄養によるサルコペニアの存在は舌
圧 (odds ratio [OR] = 0.93, 95% CI 0.87–0.98, p = 0.012), 口唇閉鎖力 (OR = 0.76, 95% CI
0.66–0.88, p < 0.001) とそれぞれ有意な負の関連を認めた。以上により舌圧と口唇閉鎖力はそれぞれ
低栄養によるサルコペニアと関連しており, 舌圧または口唇閉鎖力が高いほど低栄養によるサルコペ ニアである可能性が低下することが示された。
先行研究においては一次性サルコペニアの因子である加齢と舌圧の関連が報告されていたが, 舌圧 と二次性サルコペニアとの関連や口唇閉鎖力とサルコペニアの関連は不明であった。本研究により入 院高齢者においては二次性サルコペニアと口腔顔面の筋力低下が関連していることを明らかにできた ことで, 疾患急性期後のリハビリテーションにおける新たな評価と介入の視点を示すことができたと 考える。更に, 入院高齢者において口腔顔面の筋力の低下を防ぐには二次性サルコペニアの原因の中 でも特に低栄養の予防や介入が重要であることが示唆された。一方で, 低下した口腔顔面の筋力が食 べにくさを引き起こすことで, 更なる摂取量低下を招き低栄養によるサルコペニアの進行を促進して いることも示唆された。そのため口腔顔面の筋力と低栄養によるサルコペニアは負の連鎖関係にある ことが示唆された。従来は摂食嚥下リハビリテーションにおいて, 口腔器官の運動そのものに焦点が あたっていたが, 四肢のサルコペニアという視点が入院高齢者においては同時に重要と思われる。