校内研修の歴史と研究動向
著者 高木 宏康, 藤井 基貴
雑誌名 静岡大学教育実践総合センター紀要
巻 18
ページ 93‑103
発行年 2010‑03‑31
出版者 静岡大学教育学部附属教育実践総合センター
URL http://doi.org/10.14945/00007783
静 岡大学教育学部附属教育実践総合セ ンター紀要
No。 18p.93〜 103(2010)
〈論文〉
校 内研修 の歴史 と研究動向
高木宏康
*・
藤井基貴**
The History ofln― Service Tcacher Training and the R匡
escarch Trends
Hiroyasu TAKAGI arld 1/1otoki FUJII
Abstract
The purpose of this paper is to clarify the history and the research trends of in… service teacher training in elementary schools. This paper analyses the process of how in‐ service teacher training has developed in relation to the na■ onal movement for educadom reform since the Melii era・ In addi■ on to that,this paper over宙 ews the research trends of this rleld,especially after the 1970s when the study has started actively,
キ ー ワー ド : 校 内研 修 の歴 史 校 内研 修 の研 究 動 向
1 は じめ に
本 稿 の 目的 は、 「校 内研修」 の歴史 を整理 し、 こ れ まで の研 究上の成果 と課題 を明 らか にす る ことで ある。
そもそも教師が取り組む研修は、①自己研修、② 校内研修、③教育センター等の研修、④研究団体等 の研修、⑤長期・海外研修の
5つに区分される
1。校 内研修研究 の第一人者である中留 (1984)は 、校 内研修 とは 「校 内の全教職員が 自校 の教育 目標 に対 応 した学校全体 の教育課 題 を達成す るため に共通の テー マ (主 題
)を解決課 題 と して設定 し、それ を外 部 の関係者 と連携 をふ まえなが ら学校全体 として計 画 的、組織 的、科学的 に解決 して い く過程 を創造す る営み」 2と 定 義 して い る。 同様 に渡部 (1992)も 、
「校内研修 は、当該校 の全教師が参加 し、学校や生 徒 の実態 に即 した主題 を設定 して、具体 的・ 実践的 に行 うもので ある。全教師が組織 の一員 としての役 割 を果た しなが ら、 自校 の教育課題 の解決や学校教 育 の具現 を 目指 して、 自 らの教師 としての資質や能 力 を高める ものである」
3と述 べて いる。
これ らの理解 に即 して、本稿では 「校 内研修」 を、
1)そ れ ぞ れ の学校 が 抱 え る教 育課 題 に対 して 、
2)全 職員 の組織的な取 り組 みの もとで、 3)授 業 研究お よび教材研究 を通 して教育 の改 善 を図る とと もに、 4)教 師個 々の 自己啓発 の場 として実施 され る研修 として と らえる。
近 年 で は、校 内研 修 の重要性 が説 かれ る一方 で
4、校 内研修 に対 す る教師の士気 は低 く、そ の機 能や役 割が十分 に果 た されていない ことが指摘 されて いる。
静 岡県 中部 の公立 小 中学校 の研修主任 を対象 とし
た調査 結果 5に お いて も、 「研修 は多 忙 で あ るが、
や りが いが ある と感 じて いる職員が多 い」 とい う質 問項 目につ いて 、 小学校教員 の 34.5%、 中学 校教 員 につ いて は 14.9%し か 肯定 してお らず、校 内研 修 に取 り組む ことによって充実感 を感 じて いる教師 が少な い とい うことが分か る。
中留 (1997)は 「仮設検証型、アクシ ョン リサー チ 的アプ ローチ、開発型、統 計調査法な どいずれか のパ ター ンをもって 日常 の校 内研修 を展 開 して いる だ けでは、戦後 これ まで四大阻害要 因 として指摘 さ
れてきた①忙しくて時間がない②ヤル気がない③す ぐれた指導者がいない④財源がないなどに対しては
対応 で きな い」
6と述べて いる。
教 師は校 内研修 にいか に取 り組むべ きか。以下で は、 この課題 に迫 るための基礎作業 として、 1)校
内研 修 の歴史 を整理検 討す る とともに、 2)こ れ ま で の研究 の成果 と課題 を明 らか にす る。
2 校 内研修 の歴史
「校 内研 修 」 とい う用語 が確 立 した のは、 1960 年 代 に入 って か らで ある 7.学 習 指導 要領 によ って 全 国共通 の教育 内容が学年別・教科別 に明確 に示 さ れ る と、授業 を充実 させ るために教員研修 の必要性 が高 まる こととなる。なかで も校 内研修 は各時代お よび各地域 の教育ニーズ に応 じた教育実践 を模索す る場 として、 さ らな る充実が求 め られた。そ もそ も 戦前 に も、先進校 の研究や視学 による 「授業批評」
8と
ぃ ぅ形で校 内で の研 修 は存 在 して いた。戦前 と 戦後では、校内 にお ける教師の研修活動 に どのよ う な違 いが認 め られ るのか。 また、そ こには どのよ う な教師像 の転換が伴 って いたのか。以下では、校 内 研修 の歴史 を教師像 の変遷 と照 らし合わせなが ら再
*静 岡大学大学 院教育学研究科 **静 岡大学教育学部
構 成 してみた い。
(1)戦 前 の校 内研 修 ―教授法指導か ら授業研 究 ヘ ー 学制初 期 の ころは、校外 にお け る教授法講習 の伝 達 によ って いわ ゆ る技術指導主体 の現職教育がお こ なわれ て いた。学校 が まだ小規模 で あ った こともあ り、研修 は小学校教則講習所 の訓導兼教場監事か ら 教授法や心得 を伝 授 され る もので あ った。教師が主 体 的 に研修活 動 を組織す るよ うな状況 にはなか った といえ る。 また、東京師範学校教則本科 の教育課程 に 「研修」 とい う用語が、 「各教科教授術研修」 と して教授法 と結びつ いて登場 して いる。 この ことか らも、 当時 の研 修 が学校経営上 の問題解 決 の場 とし て とい うよ り、教師個 人が授業技術 を学ぶための場 と して位 置 づ け られ て いた ことが うかが え る
9。ま た、 この時代 の教師は 「聖職者」 として社会的尊敬 を集める職業 とみな されていた
10。1900年 の改正小学校令 を機 と して、学校 は富 国 強兵 と天皇 中心 の中央集権体制の確立 を目指すため の教育機 関 として整備 されてい く。 また、学校規模 の拡大 に ともない、分掌組織が分化 し、校長の権限 が制度 として確立 し、職員会議の定着 に関す る校内 規定 も作 成 され た。校 内 の経営条件 の整備 が進 行す るのに対応 して、校 内での研修 の役割 に も注 目が集 ま り、視学官 による学校視察 も開始 され る H.こ れ
らを背景 に、授業観察 を中心 とした全職員 による研 修 活動 が実施 され 、研修 の対 象 も教材研 究 、授業批 判 、参観 、教科研 究な ど多様 にな った。
また、新た に創設 された師範学校 では 「順 良・ 親 愛・ 威重」 の気質 を備 えた 「師範 タイ プ」 と呼 ばれ る教条主義的な教師が養成 され、加 えて、ヘルバル ト派 の教授法が校外 の官製講習会で積極 的に導入 さ れ た ことによ って、教育方法 の定型化が進 む ことと な る。 さ らに、国定教科書制度 の導入 によって、教 育 内容 が 国家 レベル で規 定 され る と、教 授法研 修 は 創意 工夫 の余地 を失 い、 形骸化・ 画一化 して い った。
これ については山松
(1910も、明治期 までの教育研 究 を、 「研 究す る価 値 のある問題 なのか 、研究す る 必 要のある問題なのか を考 えず、ただ研究すれ ばよ い とい う傾 向にあ り、『計画性 、組織性 、科学性、
永続性 』が欠 けて いる」 と分析 して いる
12。大正期 に入 り、新教育運 動 の広が りによ って 、一 部 の教 師 のなかで研修 に対す る見 直 しが進 め られ る。
この時期 に教育問題研究会 によって編集 された『私 た ちの学校 と共研究 』
13では、 自発 的学 習、教育即 学習、 自治意識 といった概念 を基底 とす る 19校 の 研 修活 動 の報告 がな され て い る
14。児童 の活 動 を中 心 とした教育活動の試 みは各地域 の先進校で行 われ、
それ らを 自校 の教育 に取 り入れ よ うとす る動 き もみ られた
15。成城 小学校 、千葉 師範付属 小学校 、奈 良
女高師付属 小学校 な どで は、授業 を学ぶ子 どもの側 か ら教育課程 をとらえなおそ うとす る実践研究が進 め られ た。それ らは、諸外 国の教育方法 を形式的 に 模倣す る当時の教育実 践 の 中にあ って 、 日本 の教育 現 実 に即 した取 り組 み で あ つた と評価 され て いる 16.
1980年 代 初頭 にな る と、各校 の学校 経 営書 の 中 に 「職員 の研 究」 が 「節」
17ゃ「章」
18を割 いて 記 述 され るよ うにな り、研 究授業 を柱 とす る校 内での 研 修 が一定 の定着 をみ る
.1928年出版 の『優 良小 学校 の経営指針 』の 「職員 の研 究」 の節 には、教 師 が 自分の研究 を発表 し合 う場 を求めて、教育実践 を 論文 にま とめて教育雑誌 に投稿 した とい う記録が あ る 19。 ま た 1983年 に 出版 され た 教 育 書 『人 0教 育・学校経営 』には 「校 内研 究会
Jとい う用語が 出 現 してお り、そ こでは教材研 究 を個 別 、全校 別、分 断別 の 3つ に分 け、それ らを仔細 に研 究す るための 手続 きや 、全校 の教材研 究 の共 同討論 の過程が克 明 に記録 されて いる 20。 しか しなが ら、 この時期に校 内研修 は活 発 にな った ものの、 日標 を設定 して客観 的 に授業分析 し、理論化 を進 める とい う 「授業へ の 科 学化志 向」 はほ とん ど見 られ なか った 21。 この こ とにつ いて は、水木
(1930も『非常時学級経 営学 』 のなかで、研究授業の 目的は教師の授業 力を高める ことにある と教師たちは理解 してお らず、互 いの授 業 の欠点 を探 し合 うのが現状 で あ った と指摘 して い る 22.
戦時 中の 1940年 代 は教育 にお け る国家主義の影 響で、研修活動 は民族 主義 的な精 神修 養 の場 として 位 置づ け られ る。そ の結果 、 「日本精神 の研 究」 や
「全体主義 に基づ く学級経営」な どの共 同のテーマ で研修が進め られ るよ うにな った と考 え られ る。
また、授業の速記録 をもとに発問法 の研究 を教師 全員で行 う実践
23ゃ研 究授業 の長所 の部 分 を学校経 営 の中に どう取 り入れ るか を吟味す る必要性が説か れ た記録
24も残 されて いる。 いずれ も授 業分析研 究 を次 の授業実践 に生かそ うとす る初期 の取 り組みで あったが、敗戦 の混乱で普及す る ことはなか った。
(2)戦 後 の校 内研修 一学習指導要領 の変遷 と共 に一
1947年 、学習指導要領が 出 され 、教育基本法・
学校教育法 の公布 な ど教育 の指針が大 き く変化 した。
さ らに同年、 日本教職員組合が結成 され、教師たち に 「教育労働者」 としての 自覚が促 され ることとな る。翌年 には教育委員会法が公布 され、 これ らを背 景 として 1940年 代後 半 にお いて は、二 つの研修 形 態が生 まれた。一方 は認定講 習 を軸 と した官 制研 修 であ り、 もう一方 は 日教組 を母体 として職場作 りの もとで取 り組 まれた 自主研修 である。 この時期は、
学校外部か ら講 師 を招聘す る研修 が さか んに行われ 、
教育 の民主化 をすす め るため の全 国的な取 り組み と
校 内研修 の歴 史 と研 究動 向
して校 内研修 が活 用 された。
合 理 化・ 集権 化 を重視す る行 政 によ る官制研修 と民主化 推進 に重点 をお いた 日教組 を主体 とす る 自主研 修 の 間 にお いて は 、そ の 目的 にお いて 当初 か ら本質 的 な相違 が あ った。そ して両者 の相違 は、
学 習指 導 要領 に法 的拘束 力が備 わ り、学校 に勤務 評 定 や 全 国一 斉 学 カテ ス トが導 入 され て い く中で 具現化 す る。
1950年 代後 半 には官制研修 と自主研修 の間にあ る 「目的 の相 違」 を均衡 化す るため に、文部省 は 学校 経 営 の機 能・ 役割 を強化 す る。 これ に よ って 校 内研 修 は 、 各地 域 の教 育委員会 の指導 の もと学 校 経 営 の 中心 に位 置 づ け られ 、そ の 内容 は教科 重 視 とな り、学習指導法 の 力量 形成 に もっぱ ら重点 が お か れ るよ うにな る。加 えて 、勤 務評 定 の導入 や 、全 国一斉学 カテ ス トが実施 され 、教師個 々の 教 育課 題 に焦 点が 向 け られ る と、各 教師が個 別 に そ れ ぞ れ の 課 題 解 決 をめ ざす とい う 「自己 完 結 的」 な研 修 が 増 え、学校 全体 で共通 のテーマ を掲 げた組織 的な研修 を実施す る ことは少な くな った
25。学習指導要領 が
1958年の改訂 によって法 的拘束 性 を持 つ と、 日教組 のなかで独 自の教育課 程 を対 案 と して作 成 し、文 部 省 との対 立 点 を明確 に しな が ら実践 を進 めよ うとす る機運 が生 まれ た。 しか し 日教組 によ る教育課 程 の編 成 が教 師 を拘束す る ので あ って は、学習指導 要領 による拘束 の裏返 し で ある とい う批判がな され
26、教育実践 は あ くまで も教 師 の 自主性 を尊 重すべ きで、 どんな に優れ た 教 育課 程 で も、絶 え ぎ る再 自主編成 が必 要だ とい う認識 が共有 され る。 こ うして教 師が学 習指導要 領 を評価 し、それ を もとに教育課 程 を 自主編成す る とい う取 り組 みが学校 で取 り組 まれ 、結果 とし て学習 指導 要領改訂 が教育研 究 運動 を刺激 す る こ ととな った
27。この影響か ら多 くの民間教育団体が 発足 し、様 々な分野で の教 育研 究活動 28が 展 開 され る。教 師 は夏休 み を利 用 して、 これ らの団体 が 自 主 的 に主催す る研 究集会 に参加 し、教育学 者 らと 共 に討 論 を した 。 こ うして学校現 場 で は学習指導 要領 を基軸 とす る研修 や研究が主流 とな った。
1968年 改 訂 の学 習指導 要領 で は、 時代 の進展 に 対 応 した 教 育 へ の 期 待 を受 け 、 特 に理 科 や 算 数 (数 学 )に お いて 高度 な教育 内容 を習得 させ るた め の教育課 程 を採 用 し、 「教育 内容 の現代化」 が 志 向 され る。 これ を実現すべ く研修 の指 針 として 、
「指導 の効 率 を高め るた め、教師 の特性 を生かす と と もに ,教 師 の協 力的な指 導 がな され るよ うに くふ うす る こと」 、 「指導 の成果 を絶 えず評価 し
,指導 の改 善 に努 める こと」 の
2点が 「総則」 の配 慮 事 項 の 中 に記 され 、教 師の指導 力 向上が重視 さ
校内研修・校内研修研究年表
年 関連事項 校 内研修 の歩 み及び研究 1872
1879
1890
1900 1903
1910
1920
1930
1940 1945 1947
1951 1958
1968
1977
1989
1998
20H
学 制発布
教育令制定
小学校令公布 視学 による授業批評 改正 小学校令 国定教科書制度
新教育運動
生活綴方教育運動 戦時体 制
終戦
教育基本法制定 日教組結成 学習指導要領 学習指導 要領改訂
→法的拘束 力 学習指導要領改訂
→ 系統性重視
落 ち こぼれ・ 非行 問題 学習指導要領改訂
→ ゆ とり教育
学習指導要領改訂
→新学力観・基礎基本
学習指導要領改訂
→生きる力
・ 個 に応 じた指導
学習指導 要領改訂
→知識基盤社会・ 言語活動
教 師 の心 得 重 視
研 修 の 画 一 化 共 同 テ ー マ
官 制 研 修 自 と 主 研 修
の 対 立
管 理 職 に 対 す る指 導 教 師 個 々 の スキ ル ア プッ
教 育 課 題 解 決 研 修
教 師 の協 同 性
れ て いる。 また 同時期 、学校 の授業 につ いて いけず
「落 ち こばれ」 とな る児童・ 生徒が増加 し、非行や 学 力低下 が社 会 問題 とな ってお り、学校や 教師 の対 応 の必要性 が高 まって いた。 これ らを背 景 として 、 多様化す る教育課 題 を校 内で共有化 し、教師が主体 的 に解決 す る ことが期待 され た。
これ を受 けて学校 として集約 された共通テーマが 必 要 とな り、研修 が校 内教師の意見交換の場 として 積極 的 に開催 され るよ うにな った。 さ らに、 「教育 内容 の現代化」 の余波 を受 けて 「授業 の科学化」 が 志 向 され始 め、教師 には、教育 に関す る高 い知識 と 技能 を持 ち合 わせ た 「専 門職者」 と して の職業使命 が 与 え られ る こととな る。 こうした教師像 は 1966 年 に 出 され た 「 ILO ユ ネス コ 教員 の地位 に関す
る勧告」 に も明示 され る。
1977年 の学習指導 要領改訂か らゆ と り教育 路線 が始 ま り、知育偏重・ 暗記重視の教育への反省か ら、
知・ 徳・体 の調和 の取れ た豊かな人間性 を育 む教育 が重視 され るよ うにな った。翌年 には、 中央教育審 議会か ら 「教員 の資質能 力の向上 につ いて」 の答 申 が 出 され、その一節 に 「教員 の 自発的な研修 を奨励 す るため
,校内及び学校 間 にお け る研修 活動が よ り 活発 に行 われ るよ う配慮す る」 と明記 され 、教師 の 資質 を高 め る最 も効果 的な場 として 「校 内研修」 の 役割 が注 目され る。 同時期 には教育課 程審議会 によ る 「教育課 程の基準 の改善」が示 され、多 くの県 の 教育行政施策 の重 点課 題 の 中に 「校 内研修 」 を積極 的 に位 置 付 け るケー スが増 加 した
29。さ らに この時 期 には、校 内研 修 にお いて教科 に関す る学習指導 を 研 究テーマ とし独 自に研修委員会 を設置す る学校が 増 えた とす る調 査記 録 が あ る 30。 同記録 は、校 内研 修 にお ける教師 の取 り組 みが深化 し、研修 テーマが 共通化 して い く過程 を示す ものである。
1989年
の学習指導要領改訂では、新 しい学力観 に立つ教育 と個性の育成が掲げられた。生活科が導 入 され、基礎・ 基本が重視 されるようになった31。
この学習指導要領改訂に大きな影響を与えた臨時教 育審議会の最終答申では、個性尊重や生涯学習社会 の実現が うたわれている。各学校の研修主題の中に も「基礎
,基
本の定着」や 「個 を伸ばす活動」が取 り上げられるようにな り、個々の子 どもの学びをど う保障 していくかが問われるようにならた。教師に は指導者 としてだけでな く、子 どもを学習に向かわ せる支援者 としての役割 も期待 されるようになった。1998年
の学習指導要領改訂では、学校週5日
制 完全実施に伴い 「ゆとり」が重視され、学習内容が 大幅に削減された。さらに 「生きる力」 を育む教育 が提唱され、 「総合的な学習」の時間が導入された。各学校では校内研修 を通 して、体験的な活動や個 に応 じた支援を実現させ るための方策が検討され、
全校で取 り組む活動の充実が図 られている。そ のな かで、近年では、研修主題 に 「かかわ り」 とい う言 葉 を用 い る学校が増えてお り、子 ども同士 のコミュ ニ ケー シ ョン、教師 と子 どもとのコミュニケー シ ョ ン、教師 同士 のコミュニケー シ ョンの三層 を軸 とし た教育改善 に 目が向け られ始 めている。授業で も、
体 験活 動や話 し合 い活 動 を積極的 に取 り入れた参加 型学習が 中心 とな って いる。 同様 に校内研修や授業 研 究 の事後研修 で も、 「ワー クシ ョップ」 、 「プロ セ ス シー ト」 、 「リフ レクシ ョン」な どの参加型の 授業検 討会 を取 り入れ た研修 が実施 され る学校 が増 えて いる 32。 学 習支援 集 団 と して の教員組織づ くり が求 め られて いる。
戦後 に生まれた 「官制研修」および 「自主研修」
は、学習指導要領改訂 の影響 を受けて、そのつ ど取 り組 むべ き教育課 題 は変わ って い つた。 「官 制研 修 」 は、文部科学省や県・市 の教育委員会 の指定校 研 究 と して現在 も存在 し、多 くの教師は指定校 の研 究発表 を義務的 にとらえて いる。 また教職員組合 を 中心 に行 ってきた 「自主研修」は教師の多忙化や必 要感 の希薄化 によ り形骸化 し、活動 自体 が全国的 に 停滞状況 にあ る
38。「聖職者」、 「師範タイプ」、 「教育労働者」、
「教育専門職者」 「支援者 としての教師」。各時代 の教育ニーズに従 って期待 され る教師像 は変容 をと げて きた。 同時 に教 師 力の鍛 えの場で あ つた校 内研 修 も試行錯 誤 の歴史 を辿 って きた。今 日で は教育 を 取 り巻 く多種多様 な 問題状況 に対応
34するため に、
教師 同士 の 「かかわ り」 、組織的な取 り組みが求め られて いる
:したが つて、校 内研修 は学校 の組織 力 を再生す る場 として も重要な役割 を担 って いる とい えよ う。
3 校 内研修 の研究動向
前述 の通 り「校 内で の研修」は戦前か ら各校 にお いて行われてお り、当時 の文献 にも校 内で行われた 研修 に関す る記述 は見 られ る。 しか しそれ らは、研 究授業 の実 施方法や組織 の編成方法 とい った実 践報 告書 の レベル に とどま ってお り
35、研 究 書 とい うほ どの ものではなか った。 「校 内研修」 とい う用語が 確立 した 1960年 代 にお いて も、校 内研修 は各 学校 単位 の取 り組み にす ぎず 、その在 るべ き姿 を全 国的 に議論す る段階 にはなか った。
1970年 代 に い た って 学 力低 下 、非 行 の 増 加 と い った教育 問題が広が り、 これ らに対処す る手がか りと して校 内研修 の役割 が見直 され、よ りよい研修 実施 のため の 「手 引き」 が相次 いで発表 された。 こ れ らは校内研修研究の端緒 とな ったが、そ の多 くは
「いわ ゆ るハ ウ・ ツー もの の技術 論や処 方 箋 」 で
ぁ った
36.っま り、一定 の仮設や視点 を設 け、客観
校 内研修 の歴 史 と研 究動 向
的・ 学 問的な立場か ら実証や検 証 をお こな った研 究 成果 といえる ものではなか った。 したが って、校 内 研修 の理論化・体 系化が本格的 に進 め られ るのは、
1980年 代 以 降 に教育経 営学 の領域 にお いて校 内研 修 に関す る研 究が発表 され始めてか らの こととな る。
1980年 頃 まで の校 内研 修 の研 究動 向 につ いて は 中留 によ って ま とめ られ て いる。 1982年 に 中留 は 各都道府県 教育セ ンター・ 研究所 による校 内研修研 究 につ いて の量 的な 調査 を行 った
37.同調査 によれ ば、校 内研 修 の内訳 は 45%ほ どが 「教科・ 領域」
に関す る ものであ り、 「教育方法」 に関す る ものは 24%、 「学校経営」 に関す るものは 6%程 度 で あっ た。 また 同論文では 1970年 代後半か ら校 内研修 に 関す る研 究 が急増 した ことも併せて指摘 されて いる。
1980年
代以 降の校 内研修研究 については
1995年に佐 竹 に よ って ま とめ られ た。佐 竹 はそ の 内容 を
「校内研修 の実施状況」 、 「校 内研修 に対す る教員 の意 識」 、 「校 内研 修 に及 ぼす 問題や 諸 要 因の分 析 」 、 「校 内研 修 の組 織 風土・ 組織 文 化研 究 」 、
「事例研究」 の 5つ に分類 して動向分析 して いる
38。佐 竹以降 の校 内研修研究 の動向につ いて は、管見 の 限 り、 ま とま った分析は見 あた らない。
以 下で は、上述 の 中留、佐竹の研究成果 に学びつ つ 、佐 竹論文以降 (1995年 以 降
)の校 内研 修 に関 す る研究 も付 け加 えて、 これ までの校内研修研究 の 成果 と課題 を整理・検討す る。
内容 は大 き く二 つ に区分 され る。第一は 「教育経 営 の視点 に基 づ いた研究」 であ り、組織 として の学 校運 営 の立 場 か ら、校内研修が活性化す るための学 校組織作 りの あ り方 を提唱す る ものである。そ こで は、校 内研修活性化 を志 向 した組織作 りのあ り方が 検 討 されて いる。 これ とは別 に、組織 を構成す る教 師個 人・教師集 団の校内研修への取 り組 み方 に着 目
した のが 、第二 の 「教 育方 法 の視 点 に基 づ いた研 究」 で ある。 これ は授業者・研修推進者 としての視 点か ら、校 内研修 を軸 とす る授業研究の充実 と深化 の必 要性 を提 唱 した もので ある。 これ ら二 つ の視点 ‐
に立 った研究 の成果 と課題 を整理 した上 で、近年 の 新たな流 れ と して 、 「教師 の協 同性」 に注 目した研 究 を位置 づ け る。
(1)教 育経 営 の視点 に基づ いた研究
教育経 営 の視点 に基づ いた校 内研修 に関す る研究
は、①学校教育 目標 と校内研修の関連 を強化 して教 師の研修観 を統一 していくこと、②校内(ま
たは校 外 も含めて)における教師間の連携 を深める体制を つ くることという二点において共通性を見出す こと ができる。校内研修 とは、地域性、学校の歴史・態勢、子 ど もの実態な どに対応 して姿 を変え、学校 によって千
差万別 の ものであ り、そ の共通性 を定義す るのは困 難な ことだ った と言える。そ のため、当初 の研究は 学校経 営論 の立場か ら、校 内研修 の役割 を位置づ け よ うとす る もので あった。牧 (1982)は 、『校 内研修 の総合的研究 』の中で、研修主題 と学校教育 目標 の 関連 を明確 に した 「学校 に焦点 を当てた」研修 の推 進 が必 要 だ と して い る。 さ らに これ を受 けて 中留
(1980は『校内研修 を創 る』で、 「校 内研修 にはウ チ とソ トに開かれたマネ ジメン トマイ ン ドが必要で ある」 と主張 した。 これ らは校 内において教職員相 互 が研究テーマや 目標な ど共通性理解す る中で 同僚 性 を高め、 さ らに外部の との情報交換や連携 を進 め る ことで校 内研修 を充実 させ よ うとす る もので ある。
両者 による研究は、学校 及び校 内研修 を経営す る と い う立場か らマネジメン トマイ ン ドを重視 し、統一 した認識や校 内連携 の在 り方 を提案 した
39。これ に対 し近年では、研修体 制づ くりを主眼にお いて研修 に対す る教師の意思統一 を図ろうとす る研 究が進 め られて いる。大竹 (2004)は 「意欲 的 に継続 して い く校 内研修体 制 の在 り方」
40の中で 、 「同僚 の教師同士が学び合えるかかわ り」 を意味す る 「同 僚性」 を構 築 し、焦点 を絞 った話合 いをす る ことで 教師 の資質 向上 を 目的 とした校 内研修が進む として、
校 内研修推進 のための校 内体制作 りを重視 している。
また校 内研修 を継続 させ るために、校 内研修 を引き 継 ぐ人材 を育成す る体制 を構 築 して い くことの必要 性 を述べ、校内研修が複数年 にお いて継続す るため に も研修体制 を整える ことが重要だ として いる。藤 井
(2000は、 「学校教育 目標 を具現化す るための授 業改善 一 日常的な校 内研 修 を通 して 一」
41にお い て、学校教育 目標 を校 内研修 の中に位置づ け、学校 教育 目標 の具現化 を 目指 した個 人研修テーマ をもと に 日々の授業 に取 り組め ば、創造的な研修が可能 に な る と論 じている。 'こ れ は、学校教育 目標 を軸 とし て教師個 人がそれぞれ の授業で研究 を重ねて い くシ ステム を校内に構 築す る必要性 を説 いて いる。
2000年 代 に入 り、 OECDや IEAの 国際学 力調査 に よ って、 日本の学力低下が指摘 され、成果重視の考 え方 の広 ま りか ら、教師 の学 力形成の明確化 と説明 責任 が求 め られ るよ うにな る。 これ らを背景 として、
学校 にお いて 「確かな学 力」 を身 に付 けさせ るため の新たな取 り組み を開始す る ことが必要 とな った。
そ こで一般企業 にお いて継続的な業務改善 を実現す る ことをね らい とした組織管理マネジメン トサイク ル を、学校教育へ も導入す る とい う動 きが活性化す る。 これ によ り年間 を通 した学校経営や 日々の授業 実 践 な ど を、 PDCAサ イ クル に基 づ いて 再構成 しよ うとす る取 り組みが各地 で進め られて いる。
香川教育セ ンター (2005)は 、 「これか らの校 内
研修 の在 り方 一 本県 にお ける校 内研修 の現状 と課
題 よ リー」
42にお いて 、学校 教育 目標 を受 けて校 内 研修 の計画 を立て (Pla■ )、 形成 的評価 を繰 り返 し なが ら校 内研修 を実施 し (Do)、 達成 目標 の到達度 か ら総合 的な評価 を行 い (Check)、 評価 を分 析 し た上 で更新 をす る (Act)と い ったサ イ クル を校 内 で機能 させ る ことが大切で ある として いる
43.同様 に、寺崎 総005)も 「確かな学 力向上のための校 内研 修 の推進 に PDCAを ど う生かす か」
44の中で 、校 内 研修 にお いて PDCAを 組 み込 む必 要性 を説 いて いる。
そ して年間 を通 しての校 内研修 、個 々の授業研究、
学期 を節 目とした反省な ど、研修 の場 の各所 にお い て PDCAを 取 り入れ、授業 を 日常的に評価・改善 し なが ら校 内研修 に取 り組む ことが、 「確かな学 力」
を身に付 けさせ る ことにつなが る と結論づ けて いる。
丸 山 (2005)は 、 これ まで の研修体 制 にお いては、達 成 目標 の設定や検 証方法等が曖 味で あるために改 善 や次 の計画の見直 しが不十分であつた と指摘 し、よ り明確 な評価方法 として PDCA導 入 の必要性 を主張 して いる。例 えば、計画 にお いては、 コス ト指標・
活 動指標・ 成果指標 な どを具体 的な数値 で設定 し、
評価 にお いて は 「説 明責任」 とい う視 点か ら、教師 だ けでな く児童生徒、保護者、地域社会 を巻 き込 ん だ 共 通 制 度 を構 築す べ き だ と述 べ て い る 45。 天 野 (2000は 、 「校 内研修 の評価」 に注 目し、評価 と実 践 の関連性 について研究 している。校内研修テーマ とそ の具現化 に向けた授業の単元 目標 に数値 目標 を 設定 し、そ の達成度 を評価 す る ことによ って、研修 の成果や課題が明確化 し、校 内研修 の質的向上 につ なが る として、その有効性 を説 いて いる 46.
PDCAサ イ クル の校 内研 修 へ の導 入 は 、研 修 実践 の効率性 を高め、授業改 善、教育改善の継続性 を目 指す もので あるが、一方 で教育活 動 を数値 化す る こ との困難 をどのよ うに克服す るのか、評価作業およ び資料づ くりによって教師のさ らなる多忙化 をまね くのではないか とい った懸 念 も示 されて い る。
(2)教 育方法 の視点 に基づ いた研 究
「校内研修 を経営す る」 とい う立場か ら、校内研 修 を活性化 させ るための組織作 りのあ り方 を構 築 し た教育経営の視点に基づ いた研究 を受け、校内研修
にお ける教師の学びに着 目した 「教育方法 の視点 に 基づ いた研究」が 1990年 前後か ら表れ始 める。教 育方 法研 究 にお いて は、教師 の持つ教育上 の ノウハ ウを共有す る場 としての校 内研修が注 目され、校 内 研修 の効 果的な活 用 につ いて議論 されて きた。教育 方法学 にお ける校 内研修 の議論 は、授業研 究 を行 う 教 師個 人の取 り組み に着 目した研 究 と研 究授業が効 果 的 に機能す るため の体 制や環境づ く りに着 目した 研 究 の二 つ に分類 され る。
教師個 人 の取 り組 み に着 目した研 究 と して、次 の
研究が挙げ られる。現職の立場か ら実践的な授業改 善について研究 した伊藤
(1990)は
、教師の研修意欲 の低さや協議内容のマ ンネ リ化など現状の校内研修 における問題点を指摘 し、校内研修改善のための視 点として、① 「校内研修のね らい」の見直 し、②方 法の多様化を挙げている47。
「指導過程を定型化す る」 というこれまで学校全体で取 り組んでいた校内 研修の目標 を改め、 「質の高い自分の授業を創造す る」 という教師個々が取 り組む 目標 を設定 し、多面 的な教材研究や継続的な実践研究 を通 して、校内研 修 を充 実 させ て い こうとす る もの で あ る。 田 中(2006)は
アメリカの学者によって行われた 「日本の 授業研究」の研究 を紹介 し、長期的で持続的な研究 や協同的な取 り組みがなされているな どの日本の授 業研究の特色 を整理 している。 これ をもとに、①子 どもに豊かな文化 を伝え、②反間の形をとりなが ら よ り深い理解に導き、③確かな学力を形成すること がで きる 「授業力」 を高める場 としての 「授業研 究」の必要性 を説いている48。上記の研究は、授業者にのみ視点を当てたもので あるが、授業研究において、研究授業を行 う「授業 者」 とそれ を参観する 「参観者」の
2つ
の立場に分 けた議論が生まれた。吉永(2005)は
、授業者にとっ て も参観者にとって も有益な研究授業が構成される ためのポイン トを4つにまとめている49。
それは、①学校の課題を明確にした授業にすること、②共通 実践できることを示す授業にすること、③授業の事 実で研究を深めること、④授業者は自己の役割を自
覚す る こと、の 4点 で ある。学校 の課題や授業の改 善方法 を明確 に した研 究授業 を通 して 、授業研究 を 共有化す る ことが有益 な校 内研 修 を成立 させ る とし て いる。同様 に授業者 と参観 者 の共通理解 を重視 し て いるのが志水 (2005)の 研究である。志水は、授業 研究会 へ の取 り組み方 につ いて、参 加者 に 「長所 伸 展法」 の 目を持たせ、授業者 と参加者 に 「予習 と復 習」 をさせ るべ きで ある と述べ る 50。 研 究授業 をた だ批判す るのではな く、授業者 の長所か ら学ぶ とい う姿勢 を持つ こと、 さ らに事前や事後 に研究授業 の 内容 を吟味す る ことを通 して授業者 と参観者が 同 じ 視点 に立 って授業研究 に取 り組む ことの重要性 を説 いている。
研究 授業が効果的 に推進 され るための体制や環境 づ くりに着 目した研究 は以 下の ものが挙 げ られ る。
西村
(1980は、教師が研修 す る ことの意義 を十分 に
認識 し、教師 として身に付 けてお くべ き人間性や専
門的知識・技能 を、計画的、継続的 に研修 し、定着
して い くよ うにす る ことが大切だ と考 え、 『小学校
校 内研修 の進 め方事典 』を編集 し、研修 の 目的 と内
容 と方法 を統一 した校 内研修 を進 めて い くことが重
要だ と提言 して いる。特 に授業研 究 にお いては、具
校 内研 修 の歴 史 と研 究動 向
体 的授業 を協議分析 して、そ の解決 を図る と共 に、
こうした過程 を通 して 自らの資質 を高 めて いける こ とを教師が認識すべ きだ と述 べて いる 51。
的 場 、 モハ メ ッ ド (2005)は 授 業 分 析 の観 点 か ら
「授業 を基礎 とした校内研修 と教師の資質 に関す る 国際共 同研 究 (4)」
52を発 表 し、学校 は原則 と し て 「学習す る組織」であ り、授業研究過程は、反省 や教師の資質向上、共 同的な計画・ 行動・ 評価 、実 践 にお ける他 人か らの学 びが 強調 され る とい う理 由 か ら、校 内研修が学習す る組織 として の学校 を成立 させ る助 け とな る と述べて い る53.さ らに授業研究 は、教育実践 をよ りよい もの にす る 目的で行われ る 教師 によ る組織 的な研 究 で あ る と定義 し、校 内研修 での授業研究 は、教師が課題・ 計画・ 自己反省・行 動・調査・共 同反省 。再考・ そ して次な る課題 とい うサ イ クル を生み出すために必要な学校文化である と結 論 づ けて い る。木 原 (2006)は 、 「学 習 す る組 織」 とい う概念 を、 「教 師が 自らの力量 を高め るた め に時間 と労力 を惜 しまな い とす る姿勢 と風土」 と と らえて い る。 この教師 の姿勢や学校 の風土 を有効 に生かすために、参加者全員 が主体 的 に、また具体 的 に授業 につ いて の知識・ 技術・ 信念 を共有化す る よ うな仕掛 け、環境 、手順 を備 えた授業研究が必要 であ る と述べて いる。教師た ちが積極 的 に意見 を交 換す る仕組み を取 り入れ る ことで 「学校研 究」 を活 性化 すべ きだ と論 じて いる 54。
また、校 内には様 々な年齢層の教師が いる ことに 着 目 した西 (2005)は 、若手・ 中堅・ ベテ ランの
3層に教師の年齢層 を分 け、授業改善促進 の方法 を論 じ て い る 55。 そ こで は、若手 の生 き生 き と した取 り組 み を校 内の活性要素 として生か し、中堅教師が授業 改善 につなが る 自由な意思 を活発 に表 明で きる雰 囲 気作 りを し、ベテ ランの経験 や実績が尊重 され る体 制づ く りが、校 内研 修 の充実 につなが る と結論づけ て いる。
このよ うに授業研究 を中心 とした校 内研修論 は、
「よい授業 を した い」、 「子 どもたちに確かな学力 を身 に付 けさせた い」 といった教師 の向上心や使命 感 をいか に有効 に機能 させ るか に重点がおかれ て い る とい うことが分か る。教育経営の視点 に基づ く研 究が管理職や 主任 な ど一部 の学校 リー ダー の校 内研 修 にお け る役割 につ いて の理論であるのに対 して、
教育方 法 の視 点 に基づ く研究 は、個 々の教師が校 内 研修 の場 にお いて、授業者 あ るいは参観 者 の立場 に 立 ちなが ら、それ をみずか らの授業実践 に どのよ う に生かすべ きか を論 じて いる と言 える。
しか しなが ら、教育課 程編成や授業改善 に関す る 研 究 が進 む ことに伴 い、 各教師 の教育観 も多様化 し て い るのが実情で ある。教師個 人が志す教育 と学校 自体が 目指す教育 の 目標 のずれ によって生 じる 「教
師 の研修観 の相違」へ の対応 が課題 とな る。 この間 題 につ いて、本原 (1998)は 、学校全体 の研究テー マ には個 々の教師の問題意識が必ず しも反映 されな いので、校 内の研究的取 り組み に 自我 関与できない 教 師 が 出 て く る と 指 摘 して い る 56。 ま た 秋 田 (2006)は 、教師 に対す る意識調査 の結果か ら、中 堅以上の教師が生涯専 門家 として学ぶのに有効 な学 び の場 として授業研 究 の場が機能 して いな い学校が 多 い とい う実態 を問題視 して いる
57。(3)「 教師 の協 同性」 に注 目した研 究
学校経営お よび教育方 法 の視点 に基づ く研究それ ぞ れで も論 じられて いた よ うに、校 内研修 にお ける、
授 業観 の相違や これ を も とに生 じる研修 に対す る意 欲 の低下 とい う課題 を克服す るため、新たな視点 と して 、 2000年 頃 よ り 「教師 の協 同性」 を促進す る 校 内研修論が展 開 され るよ うにな った。牧や 中留 ら が唱えた学校経営論 の中では、管理職や主任 な ど学 校 の リー ダーが 「教師の 同僚性」 を築いてい くべ き で あるとした。 これ に加 えて新た に教師が相互 に同 僚性や協 同性 を築 く必要性お よびそ の具体 的な方法 につ いて も論 じられている。
そ もそ も授業 にお ける子 ども同士 の協 同活動、 さ らには教育活動 にお ける教師相互 の協 同活動の重要 性 は、ジ ョン・ デ ユーイが 『学校 と社会 』にお いて
「人間の精神と目的の共同体」のなかで説いたもの である。デューイの理論に基づき佐藤
(2006)は
、 デューイの現代的意義を 「学びの共同体」論 として 再生させ、教師の同僚性 を活か した校内研修の実施 によ り、内側か らの学校改革の可能性がび らかれる と主張 した58。 佐藤 による子 ども・教師 を巻き込む 新たな学校論は 「教師間における研修意欲の格差」という課題を乗 り越える理念 として も注 目されてい る。 これ に関連 して、教師の集団を 「学びの組織」
として とらえる研究がなされている。古賀 け
00動
は、学校教育 目標 に基づき校内研修が進め られる 「目標
図 1 校 内研修研 究相 関図
教 育 方 法 の視 点 に基 づ いた研 究 授業 研 究
校内研修の評価
評 価 と実 践 の 一体 化
「教 師 の協 同性」に注 目 した研 究
教師の協同性研 修 組織
,体制 づ く り
学校 の実 態 に即 した研 究 テ ー マ の設 定 教 育 経 営 の視 点 に基 づ い た研 究
によ る管理」 は、教師 の創造性 を無視 し、活発な議 論が 生 まれ に くい と指摘 し、 自由で活 発 な 「組織学 習」 の成立 が必 要 だ と述 べ る。加 えて、組織学習 が 成立す るには、教 師 自身が子 ども観 や指導観 を絶 え ず 問い直 して 自律 的に行動 し、それが教師集団全体 の動 きにつなが る ことが重要だ として いる 59。 「教 師集 団」 の年齢や 性別 、 また は校種 によ る校 内研修 に対 す る認識 の違 い に着 目 した研 究 もあ る。藤 原 (2005)は 、校 内研修 に関す る意識調査 の結果
60を受 けて、学校 の雰 囲気 や組織 風土 :組 織文化 を考 慮 に入れ た校 内研修 の 「組織 づ く り」 を進 め る必 要 性 を説 く 61。 か って 日本 の学校 には校 内研修 を実施 す るため の土台 とな る 「教 師 の 同僚性 」、 「チー ム として の教師集 団」が存在 した のであるが、時代の 変化 に ともな って教 師 同士 の連携 は弱 ま り、以前 と 比べて 「組織 づ く り」 は困難 にな って いる。そ のた め今 日では 「チーム としての教師集 団」 を再生およ び機能 させ るため に、教師 同士 のオー プンな コミュ ニ ケー シ ョンの場 を確保 し、 「明確 な見通 しを持 っ た方針 の樹立 と共通理解」 の もとで校 内研修 に取 り 組 む ことが必 要 とされ る
62.組織 と同僚性 の関連性 につ いて 、教師個 人 と同僚性 との関連 に焦点 をあて て論 じた研究 もある。黒羽 (2005)は 学校 内 にお ける 同僚性 とは、個 々の教 師が子 どもの学 び の事実 を中 心 に実践 を積み重ね る ことによ って、 自身の内省 を 通 して本音 で対 話で きる信頼 と愛情 を基盤 とした厳 しい人間関係 をは ぐくんで いる状態 を意味す る と定 義 す る 63。 こぅした 同僚性 を生み 出す には、教師 の 日々の授業 にお ける 自己点検 が必 要で あ り、教師各 個 人 の反省 的理解が技法 的次元 に止 ま らず、 自らの 潜在能 力や発達可能性 まで探 る 「自己発見」 の営み が重要である と指摘 して いる。
さ らに教師 と子 どもとのコミュニケー シ ョンに注 目す る研 究 もある。教師が子 どもの意思や思考 を把 握す る ことは これ まで も行 われて きた。 これ に加 え て授業 にお いて子 どもが教師の考 えや意図 を理解す る必要性が唱え られ るよ うにな った。石上 と望 月は
「公立小中学校 の授業改善への取 り組み状況 と校内 研修 の実態 につ いて」
64にお いて 、授業改善 の根幹 は 「学 力観」、 「授業観」、 「評価観」か ら形成 さ れ 、校 内研修 の充実 と活性化が原動力 とな り、教師 と子 どもが 同 じ授業観 を持つ ことが効果的であると して いる。 これ まで校 内研修 のあ り方 を考 える上で 中心 にな って いたのは学校や教 師で あったの に対 し、
子 ど もの思 考 や 経験 に も視 点が あて られ るよ うに な った ので ある。秋 田 (2003)は 、校 内研修が機能 す るため には、 「反省的実践家、探求者 としての教 師」 による 「学習者焦点型」 の授業研究 を取 り入れ る ことが重 要だ と述べ る 65。 学習 者焦 点型 の研 究授 業 にお いて は、子 ども と教材、教師 のつなが りか ら
学 び の多様性 を参観 者が感 じ取 り、事後研修で は授 業者 と参観者が相互 に見て考 えた事実 を重ね比べ合 わせ て省察で きる。教師間、 さ らに教師 と子 どもの 間で 「学び合 い」 によるコミュニ ケー ションを充実 させ る ことが、今後 の授業改善や校内研修活性化 を 促進 させて い く鍵 として とらえ られて いる。
協 同性や コミュニ ケー シ ョンに関す る研 究は、教 師 間の 「研修意欲 の格差」 によって校 内研修が停滞 す る とい う問題 を解 消す る可能性 を示 した。 しか し これ らは、各教師の考え方、学校内の職場環境 、地 域 の特性 な ど様 々な要 因が 関連 す るので 、焦 点 を 絞 った よ り具体的な調査・ 研究が必要 とな る。
4 お わ りに
戦前、教授法や教具の扱 い方 な どの技能や教師 と して の心構 えを体得 させ る場 として、文部省や各教 育委員会か らの働 きかけ を中心 に 「研修」が行われ るよ うにな った。戦後、学校規模拡大 に伴 う学校組 織 の確立 によ って、学校 内で学校独 自の教育課題 を 解決 して い くための場 として 「校内研修」が学校教 育活 動の中に位置付 け られ る。校 内研修 は集権化志 向 の行 政研修 と民主化志 向の教師個人又は学校独 自 の 自主研修 とい う二 形態 に分かれて対 立す る。 この 対 立 は、学習指導要領の法的拘束化 に伴 い、学習指 導 要領 を基準 とした教育課程編成が主流 となる こと で緩和 され る。そ の後 も校内研修 は、改訂 され る学 習指導要領 を基準 とした教育課程編成 の影 響を受 け て い くことにな る。 この ことか ら校 内研修 は、学習 指導要領改訂 と共 に研究主題や研修方法 を変化 させ て きた と言 え る。
1980年 代より本格化する校内研修研究は、①学 校経営の視点に基づく研究、②授業研究の視点に基
づ く研究 に大別す る ことができる。近年の研究成果 にお いて、 この両者 に共通す る課題 とな っていた の は、校 内研修 に際 して教師の意欲 をいか に高め るか で あ った。学校組織 の編成・運営の仕方 の工夫 、授 業研 究 による授業改善 とアプローチの仕方 は違 うが、
教 師が校 内研修 に意義 を感 じ、 自発的 に取 り組むよ うになる ことが 「校 内研修活性化 の活 路」 として重 視 され て いた。
これ を受けて 2000年 以降 の研究 で は、 「教師 の 協 同性」 がキー ワー ドと して焦点づ け られ る。そ の 背景 には、校 内研修 を組織す るにあた り教 師間の意 欲格差が大 きな弊害 とな っている ことが共通理解 と な った ことが あ る。 この問題 には、多忙化す る学校、
子 どもに対す る各教師の思 いの相違、教師 のこれ ま で のキ ャ リア形成 の在 り方、教師の年齢層、学校 の 校種や特色、地域 とのかかわ りな ど多 くの要因が 関 連 して いる。
校 内研修研究 に関す る論文や書籍 を分析 す る中で、
校 内研修 の歴 史 と研究動 向
そ の論者や著者が現職 の教師または元教師である場 合 が多 い とい う ことに気付 く 66。 日々 の教育実践 の なかか ら課 題 を見 出 し、そ の解決 のために新たな実 践 を試 み る とい う 「教 師 の 当事 者 意 識 」 が 背景 と な って いるので あろ う。 この ことは校 内研修 の形式 化・ 形骸化 の一方 で、多様化す る教育 問題へ の対処 を検 討す る場 として校 内研修 を どう活 かすかが変わ らぬ教育現場 の課題 とな って いる ことを示 して いる。
本稿 で最終 的 に焦点化 した 「校 内研修 に対 す る意識 格差」 につ いて、そ の実態 と原 因の究 明 を次な る課 題 と した い 67。
1 加戸守行・下村哲夫編 『初任者研修指導者必携 』 第一法規 、 1989年 、 6544頁 。
2 中留武 昭『校 内研修 を創 る』エイデル研 究所、
1984年
、 4頁 。
3 渡辺 邦雄 『 中学校 校 内研修 の進 め方・ 深 め方 』 文京書 院、1992年、
13頁。
4 鹿 毛雅治 「授業か ら学ぶ」、秋 田喜 代美 。佐藤学 編 著 『新 しい時代 の教職入 門』有斐 閣アルマ、
2006年 、 第 3章 。
5 石上 靖芳 、望 月博視 「公立小中学校 の授業改善ヘ の取 り組み状況 と校内研修 の実態 につ いて」、『静 岡大学教育学部研究報告 (人 文0社会科学篇)』
2006年
。
6 中留武昭 「学校 を活性化 し、特色 ある学校づ く り を 目指す校 内研修」、『中等教育資料4月号 』大 日 本 図書、
1997年、 20‑25頁 .
7 昭和 30年 代か ら始 まる勤務評定や全 国一斉学 力 テス トに対す る反対思想か ら校外 にお ける 自主研修 が活性化 して きた。 これ に対応 して行政は、 「校 内 研 修」 を校 長主導 の学校経営方針 に積 極 的 に位 置付 けるよ う指導 した。 この ことか ら 「校 内研修」 とい う用語が定着 した。 中留武昭 前掲書 、1984年、
36‑37頁 。
8 視学 によ る授業批評は、全校教師 に対 して直接行 う方 が効果 的で あるとされ、授業者 の人権 を侵害 し な いよ うに配慮 しなが ら、校 内にお いて授業批評 が されて いた。渡辺嘉重 『視学提網 』金港堂、 1897 年 、第 1編、第
12章。
9 同時代 に出 された著書 のなかで、伊 沢修二 は、研 修 の必 要性 につ いて 「教師 タル者 ドンナニ博識デ ア ツテモ ソ レヲ使 ワナケ レバ忘却スル シ」、 「既存 ノ 知識 ノミデハ 陳腐化」す る ことか ら 「毎 日自習 ノ学 科 ヲ怠ル可 ラス」 と論 じて いる。伊 沢修二 『学校管 理法 』白梅書屋 、1882年、 150‑151頁 。
10 明治初期 の教師は旧士族 の出が多 く 「士族魂 を もって いた立派 な人」 として、村 中で尊敬 されて い た。農 民出身の教師が増えた後 も職業 に対 す る社会 的信 用 は変 わ る ことはなか った。唐 沢富太郎 『教師 の歴史 』創文社 、 1955年 、
24‑25頁。
11 渡辺嘉重 (1897)前 掲書第
12章や米津探元 『教員 必 読視学 の眼 』
1912年、第 22章 の 中で視学が授業 批評 を行 う際の コツや 問題点 を記述 して いる。
12 山松鶴吉 『小学校教育最新の動 向 』教育新潮研 究会 、
1914年、 91頁 。
13
教 育 問題研 究会 『私た ちの学校 と其研 究 』文化
書房、
1926年。
14
実践 の主な内容 は、 自発的学習活動 に関 した研 究 6件 、 ドル トンプ ラン関係 4件 、生活学校 2件 な
どである。
15 この時期 にお いては教育雑誌や教育新聞で各校 にお ける教育実践 の紹介が され、現場の教職員 間で の交流は活発 に行われて いた。
16 山住正己 『 日本教育小史 』岩波新書、
1987年、 86‑87ア等 .
17 成瀬渦 『優 良小学校の経営方針 』創生社書店、
1928年
、第 5章 4節 「職員の研究」。
18 沖垣寛 『人・ 教育・ 学校経営 』同志 同行社、
1933年
、第 6章 「教材研究の持続」。
19 成瀬渦 、前掲書、
1928年、 229‑230頁 20 分数 の指導方法 について話 し合 う様子 を教師の
会話 を入れ なが ら、 15ペ ー ジにわた って記録 して いる。沖垣寛 、前掲書、
1933年、 180‑194頁 。
21 中留武 昭 前掲書 、
1984年、 23頁 。
22 水木梢 『非 常時学級経営学 』高踏社 、
1934年、
265頁。
23 森 岡半次 『実践教育経 営 』文泉堂書店 、 1935年 、
51‑lH頁 。
24 田浦安次 郎 『実践記録 学校経営 と教壇 』 1943年 、
384‑338頁 。
25
この時期 は学校全体 で組織的に研修 問題 に取 り 組む実践 は、そ の必 要性が急速 に認識 されてきて いた にもかかわ らず全体 としては低調であつた と されて いる。 中留武 昭、前掲書 、
1984年、 37頁 。
26 山住正己 前掲書 、1987年、
217頁。
27 山住正己 同書 、
1987年、
218頁。
28
これ まで研究 されていなか った音楽科や演劇教 育・ 生活指導・ 進路指導 な ど様 々な研究活動が始
29 まった。 昭和
52年以 降 に教育研 究所
0センターが 「校 内 研修」や 「授業研究」 をテーマ に調査活動 を行 った 都道府県 は、奈良県
0福岡県・栃木県・ 富 山県・宮 城県・ 群馬県・ 山梨県・佐賀県
0兵庫県・秋 田県・
長崎県 な どで ある。 中留武昭 前 掲書 、
1984年、 35頁 。
30