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企業不祥事と株主有限責任制─東京電力福島第一原発事故に関わって

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(1)

はじめに  

 近年,株式会社の企業事故を中心とする不祥事 が多い。とくに,公益企業が引き起こす事故は,

その事業規模の大きさに規定されて,取り返しの つかない結果をもたらしている。今日における最 大の企業不祥事は,東日本太平洋沖地震とその後 の大津波の中で生じた東京電力福島第一原子力発 電所の過酷事故(福島原発事故と略記)である。

 たしかに,その工学的な原因はなお未解明なと ころもあって,今回の事故は,大地震と津波によ る天災であるという見方(伊東2 0 1 3,p.2 9)から すれば,企業不祥事にこの事故を含めるのは適切 でないという見解もあろう。だが, 2 0 1 2年に相次 いで公表された4つの事故調査報告書とも,人為 的・組織的な原因ないしは要因が事故の背景にあ ること,したがってこの事故は人災であることを 指摘している

(2)

 また事故は単に,企業不祥事ではなく,政府の 原発政策,ないしは原発に対する規制政策にも関

わっているという見解も正しい。公益企業である ことをも考慮すれば,責任の一端を政府が担わな ければならないことはいうまでもない。だからと いって,事故の第一義的な責任は株式会社である 東京電力にあることは否定できない

(3)

 東京電力の経営責任および賠償責任に関する議 論と実際における最大の問題点の一つは株主の責 任が曖昧になっていることである。株主責任を明 確にすることは,モラル・ハザードを生み出さな くし,事故を予防するためにも必要なのである。

 八田達夫は, 「今回破綻を回避すれば,他の電 力会社の株主は事故防止の責任を問われなくて済 む だ ろ う」 (八 田2 0 1 2)と,モ ラ ル・ハ ザ ー ド

(リスク回避)を防止する

(4)

意味からも,会社 更生法による法的整理方式を提言している

(5)

。  会社更生法による法的整理方式は,株主(およ び債権者)の賠償責任をほとんど免除している現 行の賠償支援方式

(6)

に比較して,株主と債権者に 責任を果たさせるという点では一定の意味を持っ ている。

 しかしながら,それは,株主有限責任制の下で

企業不祥事と株主有限責任制

─東京電力福島第一原発事故に関わって 

(1)

 

桜 井   徹

目  次

   はじめに

   第1節 株式会社発達における株主の責任と権利    第2節 株主有限責任制の無責任性と企業不祥事

   第3節 賠償請求における株主無限責任化とその二つの形態 : 法学者の見解の検討    第4節 東京電力の「支配株主」とその責任

   むすびにかえて

《特別寄稿》

(2)

は,単なる出資金を放棄すれば良いということで しかない。株主に追加支援のために資金を支出さ せることまでは意味しないのである。

 この点で注目されるのは,東京電力の責任問題 を論じた経営学者の厚東偉介の次の見解である。

 厚東は「私有財産制度を基礎にした資本主義制 度の根幹であるので,株主の有限責任制度につい ての議論と議決権・配当請求権などの株主の議論 はなされないであろう。しかし,現代では『無議 決権株式』などのような特殊な株主も増加してき ているので,議決権付きの株式所有者,取り分け

(ママ)取締役会の構成員および執行責任者,社 長の選任に強い影響力を発揮できる支配株主の権 利とその責任に関して,社会的公正という経営哲 学の観点からの議論を,法的責任,あるいは法的 義務として議論すべきだ」 (厚東2 0 1 3,   p.3 1 0)と 述べ, 「支配株主」が取締役の選任に強い影響力 を有していることを根拠に,その法的責任ないし は義務を明確にすべきだと主張している。とはい え,株主有限責任制を突破する必要性を認識され つつ,その門前で立ち止まっている姿を見て取る ことができる。

 それでは,なぜ,株主有限責任制の前で,人々 は立ち止まってしまうのだろうか

(7)

 第1の理由は,株式会社にとって株主有限責任 制は 社会的資金を動員する上からも不可欠なも のであり,したがって,資本主義の発展を支えて きた制度であり,   それを否定することは,資本主 義制度を否定するかのような錯覚に陥っているか らではないだろうか。

 第2の理由は,公開株式会社では所有と経営・

支配とが分離され,株主は出資義務を負うが,経 営に対する責任・義務を負っていない,したがっ て,ステークホルダーの一員にすぎないという考 え方が支配的になっているからではないだろう か

(8)

。株主主権論はどこに行ってしまったかと いう点(厚東2 0 1 3, p.1 3 9)はここでは問わないに しても,厚東が述べているように,少なくとも

「支配株主」は,株式会社の最高の意思決定機関 である株主総会で,取締役の選任権をはじめとす る権利を有しているのであって,他のステークホ

ルダーと同等の地位にあるのではない。

 しかしながら,   これまで,資本主義制度を維持 する立場であっても,株主有限責任制が企業不祥 事,企業事故ないしは企業犯罪を生み出している という指摘がなされてきたし,   とりわけ,法学の 立場から株主有限責任制の修正が提案されてきた という研究の蓄積がある。

 第3の理由は, 2 0 1 1年以前における東京電力の 実際の分析が弱いことである。株主は出資責任を 果たしてきたのか,どれだけの配当金を得てきた のか,そしてとりわけ「支配株主」はどのように 推移してきたのかに関する分析

(9)

は,2 0 1 1年以 後における経営分析に比較しても著しく少ないの である。

 本稿は,これまでの先行研究と株主の権利問題 とを結びつけることによって,企業不祥事を防止 し,賠償資金を確保する上からも,株主有限責任 制を見直す必要があること,とりわけ支配株主に 無限責任が適用できないかを,理論と実際の双方 から論じようとするものである。

 分析順序は次のようである。まず,第1節で株 式会社発達の中で株主有限責任制が採用される が,同時に取締役選任などの株主総会での権利が 留保される意味について述べ,第2節で,費用の 外部化である企業不祥事ないしは事故を株主有限 責任制が生み出すことに関する先行研究を紹介 し,第3節では,株主有限責任制見直しに関する 法学者の見解を整理・検討する中で支配株主の取 締役選任権を位置づける。そして,第4節では,

以上を理論的前提とした上で, 1 9 6 5年度から福島 原発事故直前の2 0 0 9年度までを対象として東京 電力における資金調達と株主構造の分析を行うと ともに「支配株主」の責任を論じる。

第1節   株式会社発達における株主の責         任と権利

1)株式会社の発達と株主有限責任制

 株式会社は,今日では一般に4つの性質を有す るとされる。①株主有限制,②会社機関の存在,

③譲渡自由な等額株式制および④確定資本金制 =

(3)

永続性である。株主有限責任制とは,株主は「会 社に対し株式の引受価額を限度とする出資義務を 負う以外に会社の債務に責任を負わない」 (江頭 2 0 1 1,p.3 3)ことをいう。全社員の株主有限責任 制が合名会社や合資会社と比較した株式会社の本 質的特徴であるとする見解は,わが国では,とり わけ大塚久雄の研究

(10)

(大塚1 9 6 9, pp.2 4 −  2 5)以 降,一般的となった。

 たしかに,株主が出資金以外のリスクを負わな いことによって,鉄道事業の発達にみられるよう に,容易に株式投資 = 大規模な資金調達が可能に なったのである。

 株主有限責任制は, 1 7世紀にはオランダの東イ ンド会社で採用されていたが,英国では,周知の ように,南海バブル事件により株式会社そのもの の設立が禁止され,法的には1 8 5 5年の有限責任 法および翌年の株式会社法で確立された。米国で は, 1 8 3 0年のマサチューセッツ州法で採用された といわれている(Blumberg1 9 8 6,p.5 9 3) 。なお,

わが国では,遅く,1 8 9 0年の商法改正からであ る。

 しかしながら,この株主有限責任制は歴史的に は「必ずしも株式会社とむすびつかず」 ,いくつ かの国では「長い間会社債務に対する株主の無限 責任が支配的なルール」 (Armour et al 2 0 0 9,

p.9,邦訳 p.8)であった

(11)

。むしろ法人格が株式 会社の本質であることが主張されている(同上) 。

2)     株主有限責任制と株主の権利

 この株主有限責任制は,法人格とともに,アダ ム・スミスも指摘しているように(Smith 1 9 8 1,

p.7 4 1 p. 邦訳 pp.9 1 −  9 2) ,株主が経営に関心を有 さなくなった契機を形成した側面は否定できな い。株主有限責任制の普及とともに,株主の権利 が制限されるに至ったのである。株主は今や「会 社の中ではなく,株式市場の中にいる」 (Ireland  2 0 1 0,   p.8 4 5)のであり, 「株主は会社への『金融』

利害以外には何も利害を持たないと主張されつづ けられていた」 (Freeman et al  2 0 1 2,p.2 5 1) 」の である。1 9 3 0年代にケインズやバーリー = ミー ンズが指摘した「所有と支配の分離」現象である。

 だが注目すべきは,株主の責任が制限されたに も関わらず, 「取締役(directors)を任命し免職す るという排外的権利が株主に残された」 (Ireland  2 0 1 0,p.8 4 5)ことである。

 もちろん,現代日本の多くの大規模公開会社で は,社長の後任人事は社長が決めるということが 一般化している。このことが, 「経営者支配」論 ないしは「会社それ自体支配」説の現実的基盤と なっている。だが,この株主による取締役の任免 権が会社の支配の中核概念とする見解も有力であ る

(12)

。さらに,この取締役の任免権をはじめとす る議決権を株主に与えていることが,取締役をし て株主の利益に配慮させる,つまり株価至上主義 経営をとらせる制度的根拠になっているという ミ ッ チ ェ ル の 指 摘(Mitchell 2 0 0 1,p.1 0 0,邦 訳 p.1 1 2)をも考慮すれば,株主の株主総会における この任免権は単なる形式にすぎないと考えること はできない。

第2節 株主有限責任制の無責任性と企      業不祥事

 つぎに,株主有限責任制批判,とりわけ企業不 祥事の原因としての批判を一瞥しておきたい。

1)株主有限責任制の一般的問題点

 まず,株主有限責任制が無責任を生み出すとい う一般的な問題である。 「会社と取引した債権者 が一家心中するような状態に陥っても,出資者は 知らん顔ができるという世界です。じつは株式会 社のこの基本構造は非常に非倫理的なのですね」

という指摘(上村達男・金子 昭2 0 0 7,p.1 1 0)

や,政策的結論は異なるが,周知のアダム・スミ スの議論(Smith1 9 8 1,p.7 4 1,邦訳 pp.9 1 −  9 2)を 援用しながら, 「株主の無責任があまり真剣に議 論されてこなかったのには理由がある。株主は,

会社の株式を自分の財産として持っているわけだ

から無責任になりえないという前提があったのだ

ろう。しかし,株主が有限責任しか持たず,市場

で株式を自由に売買できる公開株式会社の場合に

は,この前提は成り立たない。有限責任からくる

(4)

無責任という問題は必ず発生する」 (加護野2 0 0 0,  p.2)という指摘も,有限責任の無責任性を主張す るものである。

2)企業不祥事を助長する株主有限制

 この株主有限責任制が,政府の規制緩和政策や 株価至上主義経営とともに,企業不祥事を生み出 す原因となっている。企業不祥事,とりわけ事故 は経済学・経営学的にはコストの外部化

(13)

であ り,株主有限責任制がそれを促進するからであ る。

 コーポレート・ガバナンス研究者のモンクス = ミノウは, 「法人は有限経済責任を有しているが,

……あるとき,それは犯罪活動にも拡張された」

(Monks & Minow 2 0 0 4,p.3 1)と述べるととも に, 「巨大な近代法人の所有制は一方通行になっ てきている。株主と経営者が利益を取得し,可能 な限りコストを社会全体に強いている」 (同上,

p.1 0 9) 。ミッチェルも, 「有限責任とは企業がどん なに環境を破壊しようと,どれほど債務を踏み倒 そうと,マリブ(費用節減のため燃料タンクの設 置場所を変更しなかったために事故を起こしたゼ ネラル・モータースの自動車 : 引用者)のような 車の爆発やタイヤの破壊あるいはアスベストに よって,従業員や消費者を死なせようとも,そし て年金などの手当なしに,とりわけ従業員を追い 出そうとも,つまりどんなに痛みを引き起こそう とも,企業の賠償責任(それが問われたとしても)

は,会 社 資 産 の 範 囲 内 に と ど ま る」 (Mitchell  2 0 0 1,p.5 2,邦訳 p.6 0)と,正確には株主有限責

任と会社の有限責任を峻別すべきだが,痛烈に株 主有限責任制を批判している。

 スティグリッツも「有限責任には大きな利点が ある。失う可能性があるのは出資金だと各出資者 が知っているので,巨額の資本が集まることだ。

しかし有限責任は,社会に莫大なコストを強いる 可能性もある。採鉱会社は金を採掘して株主に大 きな利益をもたらすが,ヒ素だらけの廃棄物を残 すかもしれない。社会的・金銭的な観点のどちら からみても,汚染を浄化するコストが採掘された ものの価値を上回ることもある。しかし,問題が

発覚して政府が浄化を求めると,採鉱会社は破産 を宣言し,全責任が納税者に転化される」 (Stiglitz  2 0 0 6,p.1 9 4,邦訳 p.2 9 2)として有限責任の利点

を認めつつ,コストを社会に押しつける原因を有 限責任に求めている。具体的事例として,インド のボパールでの有毒ガス流出事故,パプアニュー ギニアの金と銀鉱山経営に伴う河川汚染が発覚し た後,河川汚染の被害を賠償しないまま退去した 事例を挙げている。スティグリッツは,こうした 環境破壊に対する責任をとらせるために「会社の 株の例えば2 0%以上を保有する者は,企業自体が 倒産した場合でも責任を負うべきだろう」 (同上 pp.2 0 6-2 0 7,   pp.3 0 8-3 0 9)と大株主への無限責任の 導入を提案している。  

 スティグリッツの指摘は多国籍企業とその子会 社を念頭においたものであるが,国内企業にも十 分に妥当する。水俣病事件の賠償問題の政府によ る解決策として,原因企業のチッソから収益性の ある事業部門を分社化させるという問題は,有限 責任の問題でもあるように思われる。

 関連して注目されるのは,米国で,1 9 8 0年の

「包括環境対応責任法」 (通称スーパーファンド 法)とその後の同法を改正する諸法律によって,

土壌汚染費用負担者の範囲が広くとられ, 「経営 に関与した」程度に応じて,汚染企業に融資した 貸し手にも費用負担を求めることも可能であるこ とが規定されたことである

( 4)

第3節 賠償請求における株主無限責任      化とその二つの形態 : 法学者の見      解の検討

1)法学者の見解の共通の特徴

(1)モラル・ハザード防止と賠償資金確保手段         としての株主無限責任制

 株主有限責任制が企業不祥事を促進している という問題に関連して注目されるのは,不法行 為 に 伴 う 賠 償 請 求 権 の 被 害 者 を 非 任 意 債 権 者

(involuntary creditor)と把握し,一般債権者と

区別した上で,   非任意債権について株主有限責任

を修正し,   株主無限責任を導入すべきであるとい

(5)

う法学者の見解である。米国では,ハウスマン = クラークマン(Hausmann & Kraakman 1 9 9 1)や メ ン デ ル ソ ン(Mendelson 2 0 0 2)が,   わ が 国 で は,   向井(2 0 0 5)や後藤(2 0 0 7)がその代表

(15)

で ある。

 これらの見解に共通なのは,会社の不法行為

(corporate torts)をスティグリッツやミッチェ ルと同様,コストの外部化と把握し,そのコスト を内部化

(16)

し,モラル・ハザードをなくし,不法 行為を防止するためにも,また,非任意債権者を 保護するためにも,非任意債権に対して,つまり 賠償請求に対して,経営者だけでなく株主にも無 限責任を課すべきだという主張である。

(2)株主無限責任制の代替方策とその限界  もちろん,株主有限責任制を維持したまま,不 法行為を防止し,非任意債権に対応する代替的な 方策がないわけではない。

 まず最低資本金の充実がある。確定資本金制度 は,株主有限責任制の見返りとして設定されてい るからである(江頭2 0 0 9,p.3 3) 。東京電力の場 合,資本金が極めて低位であったことは後述する 通りである。その限界として,事前にどの程度の 資本金を設定すべきかを決めることは困難である と指摘される(向井 2 0 0 5,p.3 3 8) 。もちろん,株 主の無限責任形態の一つとして,第二次大戦前に 主張されていたように,株主に追加出資を求める ことを可能することも考えられる

( 7)

 また,後藤は,代替的方策として①責任保険へ の加入強制,②事業に対する政府の直接規制,③ 不法行為債権の優先債権化などを指摘している。

だが,①は,有限責任制による「不法行為コスト の外部化と株主のインセンティブへの影響につい ては中立的」であり,②については「直接規制に よっても不法行為コストの発生を完全には防止で きるわけではない」 ,③については「銀行に負担 を強いる立法はなされにくい」などと,それらの 有効性に疑問を提出している。とはいえ,これら の制度の記述を総括して,これらの「諸制度と株 主の個人責任とは,排他的・択一的なものではな く,協働して不法行為コスト外部化の防止に資す るものと捉えておくべきであろう」 (同,pp.5 2 2-

5 2 6)とされるのは妥当である。向井(2 0 0 5 pp.3 3 8- 3 3 9)の見解もほぼ同様である。

 これらの代替方策について東電福島原発に即し て簡単に述べておきたい。

 ①の強制保険への加入に関しては,原子力損害 賠償責任保険契約で1 2 0 0億円 (それと同額の政府 による原子力損害賠償補償契約を含めると2 4 0 0 億円)しか設定されていなかった(高橋2 0 1 2,  

pp.8-1 0) 。米国では全体で約1兆円である(卯辰 2 0 1 2,Faure & Borre 2 0 0 8) 。②についても,東京 電力への原子力規制が有効でなかった。 「規制当 局は電力事業者の『虜』 (とりこ)となっていた」

(国会事故調,2 0 1 2 ダイジェスト版,p.5)ので ある。ただし,市民規制を背景とした有効な政府 規制を対置すべきことは否定されるべきではな い。また,③については,担保付き電力債権より も賠償債権を最優先化する法制度を作ることを意 味する。新たに作成される法制度を事故に遡及さ せることは, 「金融市場に多大な混乱をもたらす」

(田中 2 0 1 1,p.1 6 2)と主張され, 「理想的だが実 行 不 可 能 な 代 替 案(ideal,but infeasible  alternative) 」 (Morita 2 0 1 2,p.3 5)といわれる。

わが国の損害賠償の法体系の欠陥である。

2)株 主 無 限 責 任 制 導 入 の 二 つ の 方 法      

(1)比例責任

 株主に無限責任を課す場合, 二つの方法がある。

一つは,Hausmann & Kraakman(1 9 9 1)に代表さ れる見解であり,全ての株主に,出資額に応じて 比例(pro-rata)無限責任を課すという見解であ る。

 この比例無限責任は,会社資産を超える賠償額

を持ち株数に比例して負担するという簡素な方法

であり,また公開株式会社にも適用することを想

定しており,資本市場に与える影響は少ないとい

う (Hausmann & Kraakman 1 9 9 1,  pp.1 9 0 3-1 9 0 4) 。

しかも,すでに1 8 4 9年から1 9 3 1年までカ リ フォ ル

ニア州で実施されていた(Blumberg 1 9 8 6,pp.5 9 7-

5 9 8,Hausmann & Kraakman 1 9 9 1,p.1 9 2 4)

(1

 

8)

 それでは,なぜ,不法行為における株主無限責

任は今日行われていないのか。その理由として,

(6)

ハウスマン = クラークマンは次の4点を挙げてい る。

 第1は,契約と不法行為の区別が認識されな かったからである。すなわち,契約上の有限責任 が重要であったので,また今日ほど不法行為の損 害規模が大きくなかったので,不法行為について も単純に有限責任が適用されたにすぎないのであ る。この点は,すでに引用したモンクス = ミノウ の指摘に対応している。第2は,今日,不法行為 によるコストの外部化を利用する形での子会社の 設立が普及する以前に有限責任制が一般化したか らである。第3は,リスクを分散させるように資 本市場や保険市場が発達していなかったからであ る。第4に,特定の時点での特定の会社の全ての 株主の判断を認識し集めることのコストが今日で は,手続きの改良,情報通信の発達,記録保存の 改良のために,1 0 0年前に比較すると格段に安く なっているからである(Hausmann & Kraakman  1 9 9 1,pp.1 9 2 5-1 9 2 6) 。

 ハウスマン = クラークマンは,すでに述べたよ うに公開株式会社への適用を強調している。ハウ スマン = クラークマンは,その理由として3点述 べている。第1は,公開会社の破産判決が少な い

( 9)

ことによって「補償額が会社の純価値を超え る 不 法 行 為 を 公 開 会 社 が 引 き 起 こ す 頻 度」

(Hausmann & Kraakman 1 9 9 1,p.1 8 9 5)が低く 表現されるからである。有限責任制の下では訴訟 する不法行為の被害者は会社の全ての価値を下回 る解決金を受け取るインセンティブが強いのであ る

 

0)

。第2は, 「石油流出や有毒物質の流出など の環境破壊や有害製品や職場における発がん物質 などが巨額の賠償責任を生み出す可能性が生じて きていること」 (同上,p.1 8 8 0)に示されるよう に, 「そうした会社の純資産額を超える不法行為 責任の脅威が増加する」 (同上,p.1 8 9 5)可能性が あるからである。そして,第3に「もっとも重要 であるが,閉鎖会社に無限責任を適用しようとす るいかなる努力も公開会社が含まれないとなる と,閉鎖会社である法人がその株式の一部を公衆 に売却して,公開会社となれば簡単に無限責任を 回避」 (同上,p.1 8 9 5)できるからである。

 そうしたハウスマン = クラークマンの主張にも かかわらず,この比例無限責任は,その手続き上 の困難に加えて,分散個人株主にも不法行為に対 す る 責 任 を 負 わ せ る も の で あ る と 批 判 さ れ た

(Glynn 2 0 0 4,pp.3 7 8-3 8 0,向井2 0 0 5,pp.3 4 2-3 4 3) 。

(2)支配株主責任

 そこで登場したのが,支配株主に無限責任を課 すというメンデルソンの見解や,さらに,そもそ も株主に無限責任を課すことは,理論的には支配 株主責任論は優れているとしても,実行不可能で あると批判し,上級会社役員(highest-ranking  corporate officer)に責任を負わせるというグリン の見解である(Glynn,pp.3 9 6-3 9 7) 。

 メンデルソンは,有限責任は株主のモニタリン グ・コストを節約するための手段だが,支配株主 の場合,モニタリング・コストがほとんどかから ず,その有限責任は正当化されないという理由か ら,支配株主の責任問題を提起した(Mendelson  2 0 0 2,p.1 2 3 1) 。

 向井や後藤はメンデルソンとグリンの見解の双 方を取り入れている。支配株主の支配の基準に関 して,向井は,形式的支配 = 出資割合と実質的支 配を挙げ,前者は過半数支配ではなく, 「株主が 会社の経営に影響力を行使するだけの株式を有し ている場合」 (向井 2 0 0 5,p.3 8 9)を挙げ,実質的 支配の基準として,①「リスクが高い事業活動に 関する情報を有し,認識している」こと,②「過 剰なリスク・テイキングを経営者に促すか,又は リスク・マネジメントへの投資を十分促さなかっ た株主」③「リスクの事業活動による利益を自分 の免責資産へ移動する能力が高い」④「出資割合 よりも大きい利益をリスクの高い事業から得てい る」 (同,p.3 8 9)ことを挙げている。

 これに対して,後藤は, 「不法行為発生への関

与」か「予想される不法行為責任からの株主によ

る judgment proofing

(21)

」 (後藤2 0 0 7, p.5 5 0)のど

ちらか一方が存在すれば,支配株主に責任を負わ

せることができると述べ,後藤の方が,支配株主

の実質基準はやや緩やかである。いずれにして

も,最大の焦点は,どのような場合に,支配株主

は不法行為に関与したとみなされるのか, である。

(7)

 向井の見解で注目されるのは, 「過剰なリスク・

テイキングを経営者に促した」場合だけでなく,

「リスク・マネジメントへの投資を十分促さな かった」場合も,不法行為への関与に含まれると いう点である(向井2 0 0 5,p.3 8 9) 。後藤も, 「株 主が事故の発生を抑制する方策を採らなかった場 合」 , すなわち株主の不作為に対しても責任を課す べ き で あ る こ と は 否 定 さ れ な い(後 藤 2 0 0 7,  

p.5 4 8) 。

 この株主の不作為に関して指摘したいのは,不 法行為の直接的な責任が経営者にある場合,その 経営者を選任し,そうした不法行為を引き起こし た経営者の経営方針に同意した支配株主の責任

(22)

ということにならないかということである。今日 の会社法でも,いうまでもなく,取締役の任免権 を含む議決権は「経営に参加するという」株主の 最大の共益権の一つである(江頭 2 0 0 9,pp.1 2 3- 1 2 7) 。

 とくに,株主総会において,不法行為,ないし はそれに繋がる可能性のある事案を抑制する提案 がなされたにもかかわらず,議長(通常は取締役 会長)が,委任された支配株主の議決権を背景に 同提案を拒否した場合,支配株主の責任も問うこ とが可能なのではないか。

 いうまでもなく,ここでいう支配株主は,議決 権を左右する力を有する大株主である。したがっ て,金融商品取引法において,親会社等の単独ま たは共同で議決権の過半数の有する主要株主とい う法律用語としての「支配株主」

(23)

とは異なって いることは,以下の東京電力の分析に入る前に確 認しておきたい。  

第4節 東京電力の  「支配株主」  とその責任

1)     東京電力における株式の意味 : 資金調達と利   益配当

(1)資金調達と株式

 支配株主の分析に入る前に,東京電力の経営に おける株式の意味を,資本金の払い込みと利益の 受け手の二つの側面から分析したい。結論的にい えば,それによって,東京電力の経営において株

式は資金源泉としての役割を果たさず,他方では 株主は配当金を多く享受してきたことが明らかに される。

 なお,分析対象は,1 9 6 5年度〜2 0 0 9年度まで とする。2 0 1 0年度は最後の2 0日間において福島 原発事故の影響を含むので考察対象から除外す る。

 まず,総資産額の推移をみると,2 0 0 0年度を境 に二分される。前者は,福島第一原子力発電所着 工(1 9 6 6年1 2月) ,同 第 二 原 子 力 発 電 所 着 工

(1 9 7 5年1 1月)や 柏 崎 刈 羽 原 子 力 発 電 所 着 工

(1 9 7 8年1 2月) を含む設備投資が拡大する時期で あり,後者は,電力の小売自由化が開始される 2 0 0 0年度以降の,設備投資が抑制された時期で

ある(図1,参照) 。

 つぎに資金調達の推移をみよう。第1の特徴と して自己資本比率の推移に現れているように,資 金調達は全体として社債,長期借入金などの他人 資本に依存したということである。そのために,

社債発行限度が商法規定よ り も優遇されていた 

(24)

 

もちろん, 自己資本比率は1 9 9 0年代の1 0%前後の 水準から1 9 9 7年以降,利益剰余金等の増加に対 応して上昇し,2 0 0 6年度に2 1.5%となる。とはい え,それ以降,低下する。このことは,社債や長 期借入金の役割は依然として大きいことを物語っ ている。 社債や長期借入金などの残高は1 9 9 5年度 で1 0.2兆円(社債5.1兆円,長期借入金4.3兆円) , 2 0 0 5年 度 で7.6兆 円(同,5.8兆 円,1.5兆 円) , 2 0 0 9年度7.4兆円(同,5.2兆円,1.8兆円)であっ

注)自己資本比率 = 自己資本 / 総資産額× 100,資本金比率 = 資本金 / 総資産額× 100  出所)東京電力『有価証券報告書』各期,東京電力(2002)および東京電力(2013)などより     作成。 

160,000  140,000  120,000  100,000  80,000  60,000  40,000  20,000  0

30.0% 

25.0% 

20.0% 

15.0% 

10.0% 

5.0% 

0.0% 

   

1965年度  1970年度  1975年度  1980年度  1985年度  1990年度  1995年度  2000年度  2005年度  2009年度  2010年度 

億円 

図1 東京電力の総資産額,自己資本比率

および資本金比率の推移  

(8)

た(東京電力2 0 1 3,p. 8 2) 。総資産に占める社債・

借入金の比率は,各年度,7 4.0%,5 8.5%,5 8.4%

であった

(25)

 また,設備投資のフローに限定すれば,2 0 0 2年 度以降,設備投資額が半減する(1 9 9 5年度の1兆 3 9 9 2億円から2 0 0 0年度に9 0 5 9億円,2 0 0 2年度 6 4 5 2億円,2 0 0 9年度5 9 2 1億円)こともあって,

その設備投資の過半は自己資金,すなわち,減価 償却費や利益剰余金などの内部留保で賄われてい た(東京電力2 0 1 3,   p.8 0,   谷江2 0 1 1,   pp.5 8-5 9,

谷江・青山2 0 0 0,p.1 3 2) 。

 第2の特徴は,自己資本のうち,資本金が著し く少ないことである。総資産に占める資本金比率 は,1 9 6 5年度や1 9 7 5年度は1 4%であったが,そ の後,1 9 8 5年度,6.9%,2 0 0 0年度,4.7%と大き く低下する。2 0 0 0年度以降は微増するが,それで も,2 0 0 9年度は5.3%でしかない。自己資本比率 の上昇に比較すると両者は大きく乖離することに なる。この乖離の要因の一つは,利益の高さに規 定され利益剰余金が大きく増加したことによる が,同時に,資本金が1 9 9 0年度以降ほとんど,

1 9 9 5年度からは全く増加していないことにある。

しかも,増加した資本金も,社債の転換分や無償 増資による部分が多い

(26)

。資金源泉としては,と くに, 1 9 9 0年代から資本金はほとんどその役割を 果たさなかったのである。社会的資金を動員する

ために必要であったという株主有限責任制の「長 所」は,少なくとも分析対象時期においては,も はや意味を喪失していた。

(2)配当金の推移

 つぎに,そうした株式に支払われる配当金の推 移の特徴をみてみよう。その特徴は,配当額が一 貫して上昇ないしは維持されているということで ある。対資本金配当率(配当額 / 資本金)の推移 を総資産経常利益率のそれと比較すると,後者は 増減があるのに対して,前者はほぼ高水準を維持 する。1 9 8 5年度以降は約1 0%,2 0 0 0年度以降は 1 2%である。株主は計算上(株価を度外視すれ ば) ,資本金を6年ないしは7年で回収している ことになる。東京電力は,電力自由化を前にした 1 9 9 8年の中期経営方針で消費者と同時に「株主・

投資家から選択される」ことを経営の基本目標に した(東京電力2 0 0 2,p.1 0 1 9)といわれるが,配 当額では,東電は株主から選択されるに充分で あった。

2)東京電力における「支配株主」とその特徴

(1)株式保有構造と大株主

 まず東京電力の株式保有構造を検討する。図3 は,1 9 6 5年度から東日本大震災直前の2 0 0 9年度 までの所有者別の株式保有構造の推移をみたもの である。 1 9 8 0年代は金融機関および事業法人が株

出所)東京電力『有価証券報告書』各期,東京電力(2002) 

   および東京電力(2013)などより作成。 

億円  1,000  900  800  700  600  500  400  300  200  100  0

16.0% 

14.0% 

12.0% 

10.0% 

8.0% 

6.0% 

4.0% 

2.0% 

0.0% 

-2.0% 

1965年度  1970年度  1975年度  1980年度  1985年度  1990年度  1995年度  2000年度  2005年度  2009年度 

図2 東京電力の配当額,対資本金配当率 および総資産経常利益の推移

出所)東京電力『有価証券報告書』各期より作成。 

1965年度  1975年度  1985年度  1995年度  2005年度  2009年度 

株式数(右目盛り) 

100% 

90% 

80% 

70% 

60% 

50% 

40% 

30% 

20% 

10% 

0% 

1600 

1400  1200 

1000  800 

600  400 

200  0 単位:万単位 

個人その他  外国法人等  その他の法人  証券会社  金融機関 

政府・ 

地方公共団体 

図3 東京電力株式数(単元株)と所有者別比率

の推移       

(9)

式の6 0%を所有していたが,バブル崩壊以降,と くに,9 0年代後半以降,外国人の保有割合が上昇 する。これは,わが国の上場会社一般や他の公益 企業事業に共通の傾向である(桜井2 0 0 7,pp.2 2- 2 4)が,東京電力の場合,外国人の保有割合は相 対的に低い

(27)

。個人株主は,他の産業に比較する と比較的高いが,8 0年代前半と比較すると,その 割合は上昇しているわけではなく3 5%前後であ る。したがって,内外の機関投資家および金融機 関が株式の過半数を保有していることになる。

 つぎに,大株主(1 0大株主)の推移をみてみよ う。1 0大株主合計の株式数が全株式に占める割

合は,1 9 6 5年度2 6.9%から1 9 9 7年度には2 3.2%

へと漸減するが,2 0 0 3年度は2 9.3%とやや増加 し,その後再び,若干の低下をみるものの2 0 0 9 年度では2 7.4%である(表1,参照) 。これをもっ て,大株主への株式集中というつもりはない。確 認したいことは, 1 0大株主の保有割合が低下して いないことである。

(2)安定株主 =「支配株主」としての生保・銀行  個別の大株主の推移の特徴は,生命保険会社や 国内の金融機関が絶えず上位にあり, 2 0 0 5年度か らは外国人株主の増加を反映して若干の変動がみ られるものの,基本的な構造に変化はないという 表1 東京電力大株主の推移

% 千株 1 9 9 5年度

% 千株 1 9 8 5年度

% 千株 1 9 7 5年度

% 千株 1 9 6 5年度

4.3 5 7,6 3 5 第一生命

4.7 6 1,4 0 9 第一生命

5.7 4 5,3 0 8 第一生命

4.4 1 0,5 5 0 第一生命

3.7 4 9,4 1 4 日本生命

4.1 5 3,5 7 1 日本生命

4.2 3 3,8 1 9 日本生命

3.6 8,7 4 0 東京都

3.2 4 2,6 7 6 東京都

3.2 4 1,0 1 5 東京都

3.4 2 7,3 7 4 東京都

3.6 8,6 8 5 日本証券保有組合

2.5 3 3,1 9 1 さくら銀行

2.4 3 0,8 1 4 日本興業銀行

2.4 1 9,3 6 3 朝日生命

3.5 8,3 0 0 日本生命

2.4 3 2,0 6 2 日本興業銀行

2.2 2 8,7 9 4 三井銀行

1.9 1 5,3 5 4 日本興業銀行

3.1 7,3 4 6 三菱信託銀行

1.6 2 1,6 3 9 住友信託銀行

1.8 2 3,8 9 7 朝日生命

1.8 1 4,3 9 2 住友生命

2.1 5,0 0 0 日本興業銀行

1.5 2 0,7 0 2 第一勧業銀行

1.7 2 3,0 9 7 住友生命

1.8 1 4,2 2 7 三井銀行

1.9 4,4 6 3 朝日生命

1.5 2 0,7 0 2 三菱信託銀行

1.5 2 0,0 0 6 東洋信託銀行

1.6 1 2,5 2 6 第一勧業銀行

1.8 4,2 5 6 東洋信託銀行

1.5 1 9,7 9 6 太陽生命

1.5 1 9,8 9 6 第一勧業銀行

1.3 1 0,1 5 6 日本長期信用銀行 1.6

3,7 4 0 日本共同証券

1.4 1 8,5 2 2 朝日生命

1.5 1 8,9 5 3 太陽生命

1.3 9,9 8 7 三菱銀行

1.5 3,4 7 3 三井信託銀行

2 3.4 3 1 6,3 4 3 計

2 4.7 3 2 1,4 5 6 計

2 5.2 2 0 2,5 0 6 計

2 6.9 6 4,5 5 4 計

% 千株 2 0 0 9年度

% 千株 2 0 0 5年度

4.5 6 0,4 8 9 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口)

4.2 5 8,9 4 7 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口)

4.1 5 5,0 0 1 第一生命

1.1 2 2,0 0 1 第一生命

3.9 5 2,8 0 0 日本生命

3.9 5 2,8 0 0 日本生命

3.8 5 1,5 5 7 日本マスタートラスト信託銀行 (信託口)

3.8 5 1,4 0 9 日本マスタートラスト信託銀行 (信託口)

3.2 4 2,6 7 6 東京都

3.2 4 2,6 7 6 東京都

2.7 3 5,9 2 7 三井住友銀行

2.7 3 5,9 2 7 三井住友銀行

1.8 2 3,7 9 1 みずほコーポレート銀行

2.6 3 4,8 3 9 みずほコーポレート銀行

1.5 2 0,6 2 0 東京電力従業員持株会

1.4 1 9,4 4 1 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口4)

1.0 1 3,9 2 5 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口4)

1.0 1 4,0 1 2 ステートストリートバンクアンドトラストカンパニー

1.0 1 3,2 3 9 三菱 UFJ 銀行

1.0 1 3,8 2 3 東京電力従業員持株会

2 7.4 3 7 0,0 2 9 計

2 7.9 3 7 6,8 8 0 計

注)  1.1 9 6 5年度と1 9 7 0年度の東京都は東京都交通事業管理者。

      2.未満四捨五入のため集計値と計とが一致しない場合がある。

出所)  東京電力『有価証券報告書』各期より作成。          

(10)

ことである。1 9 6 5年度以降,一貫して大株主とし て登場しているのは,第一生命,東京都,日本生 命,みずほコーポレート(含む日本興業銀行,第 一勧業銀行) ,1 9 7 5年度以降は三井住友銀行(含 む三井銀行,さくら銀行)などである。

 これらの大株主である生命保険会社や国内金融 機関は,同時に東京電力の社債や借入金の最大の 引受先である。社債の引受先に関する資料は入手 しえないが,長期借入金残高は2 0 0 9年度末では,

日本政策投資銀行3 5 1 0億円 (長期借入金残高合計 1兆4 6 6 4億円のうちの2 3.9%) ,日本生命1 4 0 7億 円(同,9.6%) ,第一生命1 2 6 2億円(同,8.6%) , 三井住友銀行1 2 1 9億円(同,8.3%) ,みずほコー ポレート8 1 8億円(同,5.6%) 。

 さらに,第一生命は,東京都と並んで東京電力 に社外取締役を分析対象の1 9 6 5年度にはすでに 派遣している。2 0 0 9年度の場合は,T.M. 氏が当 時の第一生命代表取締役会長の肩書きのまま東京 電力の取締役に就任している。

 生保や金融機関と東電の関係は,一方的な関係 ではなく,株式の相互持ち合いの関係にある

(28)

。 2 0 0 9年度末における東京電力の長期投資先とし

て『有価証券報告書』に記載されているのは,み ず ほ フ ィ ナ ン シ ャ ル3 6 4 1.1万 株(う ち 優 先 株 1 0 0 0万株) ,三井住友フィナンシャル2 4 0.8万株,

三菱 UFJ フィナンシャル1 2 1 3.5万株,第一生命 8 8億円となっている。さらに,東京電力から金融 機関にも役員が派遣されている。例えば三井住友 銀行の社外監査役として東京電力顧問の H.A. 氏

(元東京電力取締役会長) ,第一生命には社外取 締役として東京電力顧問の N.M. 氏(元東京電力 取締役会長)が就任している(いずれも各社の 2 0 0 9年度の『有価証券報告書』による) 。

 より詳細な検討は必要であるとはいえ,このよ うな株式,資金借り入れ,役員派遣を通じて,生 保や国内金融機関は東京電力の安定株主であった のであり,その意味で「支配株主」であったと考 えても良いのではないだろうか。

3)   株主総会における「支配株主」の責任  それでは,こうした「支配株主」は,東電原発

事故にどのように関与したのか。金融機関の債権 保護を主内容とする現行の賠償金支払い処理の資 金調達スキームに,社債の引受幹事行である三井 住友銀行が関与したことは,すでに周知のことで あるが

(29) 

,東電原発事故との関係に直接,言及で きる資料はない。とはいえ, すでに述べたように,

大株主として,株主総会で原発事故に責任を有す る取締役を選任した責任,取締役の経営方針に同 意した責任はある。           

    原発事故後に「脱原発・東電株主運動」のメ ンバーが中心となって,東電の取締役に対して起 こした株主代表訴訟の訴状によれば, 1 9 9 5年の株 主総会で原発の新設・増設の中止,原発事故に備 えての防災体制の確立に関する条項の定款への追 加,2 0 0 5年には1 9 7 8年以前に設計された全ての 原子炉の閉鎖,2 0 0 7年には原子炉耐震設計審査 基準見直しにともない原子力発電を見直すこと,

2 0 0 9年には福島原発1号機から3号機の廃炉が 提案されたが,全て,取締役会によって否決され た(河合2 0 1 2,pp.1 1 4-1 1 6) 。株主総会でこれらの 株主による提案が否決されたのは,取締役会を支 持する大株主の存在があったことは間違いない。

そのことが明瞭になったのは,原発事故後に最初 に開催された2 0 1 1年6月の定例株主総会であっ た。一般株主から提案された議案がことごとく否 決されたが,その理由は,議決権の圧倒的多数を 有する大株主が株主総会議長(当時の東京電力取 締役会長)に委任状を与えていたからである。す なわち,出席株主数9 2 8 2名であり,議決権1 3 3万 6 6 3 3個であったが,うち2名(第一生命5 5 0,0 1 0

個と日本生命5 2 8,0 0 0個) の大株主の代理出席者の

委任状の議決権数は1 0 7万8 0 1 5個であった

(30)

(奥

山2 0 1 1および不明2 0 1 1,pp.4-5,河口2 0 1 1,p.1 7) 。

 第3節の2)で述べたことを東電の場合に即し

ていえば,福島原発事故を防ぐことができるよう

な提案が株主総会で行われていたにもかかわら

ず,それを拒否した取締役会に同意を与えた「支

配株主」は,東京電力の実質資産を上回る賠償額

に対して,取締役とともに,無限責任を果たすべ

きではないだろうか。

(11)

むすびにかえて

 福島原発賠償論議の中で,株主有限責任制の見 直しがほとんど議論されてこなかった。

 それに対して,本稿での展開は,次のようにま とめることができる。

 第1に,株主有限責任制は,たしかに,投資家 のリスクを軽減することによって社会的資金を動 員し,大規模な資本形成を可能にしたという意味 で,肯定されるべき歴史的役割を担ったが,しか しながら,それは株式会社の本質的特徴ではな い。しかも,今日では企業不祥事を促進する役割 を果たすという意味での株主有限責任制の否定的 な特質をみる必要がある。

 第2は,企業不祥事を防止するためにも,株主 に無限責任を課すことが必要であるとする法学者 の議論を整理,検討した。その中で公開株式会社 においては,そうした議論における有力な見解,

すなわち,支配株主に無限責任を課すという見解 を適用することに関連して,本稿では,株主総会 において取締役会を選任し,その経営方針に同意 したという責任において,無限責任を課すことが 可能ではないかと考えた。

 第3は,そうした整理の上に立って,東京電力 を分析するとき,一つは,株式が充分な役割を果 たさず,つまり過小資本である一方,株主は高い 配当を享受していたこと,すなわち,原子力発電 事故を防止するコストをかけていればそうした状 態は実現しなかったこと,二つは,そうした株式 を担った最大の株主は生保や国内金融機関であ り,それらはまた同時に最大の貸し手であったこ と,さらに,福島原発事故以前における脱原発提 案にも同意しなかったことを指摘した。

 もちろん,以上の分析における「支配株主」の 認定・範囲に関してさらに具体的に分析していく べきであることは承知している。 「支配株主」が 追加出資という形であれ,また,法的整理による 出損の形態であれ,その貸し手責任と合わせて,

賠償責任に乗り出してくれれば, 国家による支援,

あるいは国民負担が少なくなるし,また,同じよ

うな事故を防止することにもなると思われるので ある。

 最後に,以上の分析は,賠償問題の解決だけを 考えた分析ではない。株式会社のありかたを問う ている問題でもある。展望的にいえば,将来的に は株主が他のステークホルダーである従業員や消 費者と並んで同等の地位に立って,取締役を監視 するようになるべきだと思うのである。

 法学に係わる記述には誤解に基づく解釈がある のではないかと恐れている。大方の批判をお願い する。  

《注》

(1)本稿は,日本経営学会関東部会シンポジウム「企 業の社会的責任(CSR)をめぐる新動向と課題」

(2 0 1 3年1 2月7日,日本大学商学部)における報 告「企業不祥事と株主の社会的責任─株主有限責任 制再論」を大幅修正したものである。

(2)国会事故調は, 「何度も事前に対策を立てるチャ ンスがあったことに鑑みれば今回の事故は『自然災 害』ではなく『人災』である」 (国会事故調2 0 1 2,

ダイジェスト版,p.5)と結論づけている。民間事 故調も「事故の直接の原因は津波に対する備えが まったく不十分で,電源喪失による多数の機器の故 障が発生したことに尽きる」 (民間事故調 2 0 1 2,

p.4 1)と事故が人災であったと述べている。さらに 政府事故調(2 0 1 2)も, 「今回の事故は,直接的に は地震・津波という自然現象に起因するものである が,当委員会による調査・検証の結果,今回のよう な極めて深刻かつ大規模な事故となった背景には,

事前の事故防止策・防災対策,事故発生後の発電所 における現場対処,発電所外における被害拡大防止 策について様々な問題点が複合的に存在したこと が明らかになった」 (政府事故調 2 0 1 2,p.3 6)とし ている。最後に,東電は事故調査報告書において,

「地震動による発電所の設備被害が今回の事故の 原因ではなかったと考えられる」 (東電 2 0 1 2,p.4)と しているが, 「このように津波想定については結果 的に甘さがあったといわざるを得ず,津波に対抗す る備えが不十分であったことが今回の事故の根本 的な原因であ」 (同,p.3 2 5)るとも述べ,事故の根 本的原因が人為的であったことを認めているよう に読み取れる。

   この問題は,原子力損害の賠償に関する法律第3

条「原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等によ

(12)

り原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等 に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに 任ずる。ただし,その損害が異常に巨大な天災地変 又は社会的動乱によつて生じたものであるときは,

この限りでない」という但し書きの免責事項の適用 可否問題にも関わるのであるが,政府は,現在のと ころ,この免責条項を適用せず,東京電力に無限責 任を課している。これに関しては,肯定的評価を与 えている見解として卯辰(2 0 1 2, p.1 1 7) ,問題点を指 摘するものとして遠藤(2 0 1 3, pp.1 5 3-1 6 2)および論 点を提示している高橋(2 0 1 2,pp. 1 9-2 7)などを参 照。無限責任の妥当性に関しては,注1 6の後半を 参照。

(3)国は政策として原発を推進したが,私企業である 電力会社が自らの判断で原発事業を行うことを決 定したとする見解(田中2 0 1 1,p.1 6 0)を支持した い。国と私企業の責任関係を明確化する必要がある

(関口2 0 1 3,p.2 7)が,この問題は高い公共性を有 する電力事業,少なくとも,高い安全性が要求され る原子力発電事業を民営で行うという矛盾の表れ として理解すべきである。もちろん, 国だけでなく,

原子炉メーカー等にも賠償責任等が存在すること は言うまでもない(海渡2 0 1 1, pp.1 7 9-1 8 0)

(4) 「東電等に投資した株主というのはそういうリス クを負ったのだという評価もできるのではないで しょうか。そのリスクがまさに実現してしまったの だということからすれば,今回はむしろ株主に責任 をとらせようとする議論もあり得るのではないか という気もするのですが」 (森田2 0 1 2,   p.2 4におけ る飯田秀総の発言)という見解も同趣旨である。

(5)法学者の立場からの法的整理論は田中(2 0 1 1)を 参照。

(6)原子力損害賠償支援機構法に基づく賠償支援は,

政府と原子力発電事業者1 2社の折半出資により設 立された原子力損害賠償支援機構を通じて基本的 には国民負担に基づいて行われる。すなわち,政府 からの交付国債(2 0 1 3年度2.3兆円)と民間借入金

(1兆円) ,原子力事業者の負担金(約0.1兆円) , および東京電力が支払う特別負担金(0円)を原資 として,東京電力への資本注入1兆円と資金交付 2.2兆円が行われている(原子力損害賠償支援機構 2 0 1 2) 。

   原子力損害賠償支援機構法では,付則6条で「国 民負担を最小化する観点から,この法律の施行状況 について検討を加え,その結果に基づき,必要な措 置を講ずるものとする」としているが,原子力賠償 支援機構と東京電力が作成した「特別事業計画」

(2 0 1 2年)では, 「株主への協力要請」として, 「機

構の出資に対する協力」と「配当抑制に対する協力」

しか述べられていない(原子力損害賠償支援機構・

東京電力2 0 1 2,pp.8 9-9 0) 。また,2 0 1 3年の「新・

特別事業計画」では「分社化・特別目的会社等の設 立への協力」 (原子力損害賠償支援機構・東京電力 2 0 1 3,pp.8 1-8 2)が付加されたにすぎない。

(7)株主有限責任制の見直しを主張している管見の 限りで唯一の論考として岩井(2 0 1 1)を挙げること ができる。しかし,全上場企業の株主の出資による

「重大事故 sustainability 引当金ファンド」 が提言さ れており,長期的には有意義な提案であるが,東京 電力における株主責任が株主一般の責任に拡散し ている点,また支配株主の責任に言及していない点 で,疑問が残る。

(8)株主は会社の所有者であることを認めながら,会 社の存続に協力することが株主責任であるという 趣旨を述べている河口(2 0 1 1)の見解は,所有と支 配の分離を前提にしていると思われる。

(9)経営史から東電原発事故に言及した研究に橘川

(2 0 1 1)があるが,産業分析が中心であり,東京電 力の経営・企業分析に立ち入っていない。

(1 0)これに対して,岡村正人は資本の証券化を重視し ている(植竹1 9 8 4,pp.5 4-5 8) 。

(1 1)米国については,Blumberg(1 9 8 6)およびそれを 丹念に紹介している今西(2 0 0 6, pp.1 9 4-2 0 4)を参照。

英国については,ハリスは株式会社の4つの特質を 法人格,株式の譲渡性,経営構造および有限責任と し,その「一部の特質,つまり株式共同資本や有限 責任などは,後の時代に,別の起源から生じたもの であることを認識しておくことも必要である」

(Harris 2 0 0 0,邦訳 p.3 7)と述べるとともに,株主 有限責任制は, 「すでに1 8-1 9世紀転換期には法人設 立の不可欠の要素になっていたこと,それが法人設 立を求める主な動機となっていたことは,明らかで ある」と,株主有限責任制が1 8 4 4年の株式会社法 や1 8 5 5年の有限会社法を待たずに,1 9世紀の初頭 には確立していたことを主張している。これに対し て,フリーマンらは, 「1 8 4 0年代になって,大部分 の法人の定款に責任の有限制が記載されるように なった。 1 8 3 0年代にはサンプルの8 6法人のうち2 4

(2 7.9パ ー セ ン ト)し か 採 用 し て い な か っ た」

(Freeman et al 2 0 1 2,p.1 8 2)と,株主有限責任制

は1 9世紀後半に確立するという見解を提示してい

る。なお,フリーマンらが「非法人会社における基

本的ガバナンスの失敗が無限責任の潜在的便益を

台無しにし,そのことが一般的有限責任に賛成する

議論を強化した」 (同上,p.1 8 0)と述べていること

は,株主の無限責任が会社経営に果たしたガバナン

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