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原著論文
保育環境の変化とその後の影響
―環境制限下で保育に取り組む保育者意識の経年動向―
池田りな1)・関口はつ江2)
1)大妻女子大学家政学部児童学科,2)東京福祉大学保育児童学部保育児童学科
Post
-Disaster Changes in a Child Care Environment and Their Subsequent Effects :
─ Interannual Changes in Attitudes of Child Care Providers Working Under Environmental Constraints ─
Rina Ikeda and Hatsue Sekiguchi
Key Words :
環境制限,保育体制の変化,子どもの姿,遊び活動,保育者意識要旨
東日本大震災後の
2013
年12
月期と、2016年1
月期における保育者へのインタビュー調査結果の比 較整理し、その動向変化について考察する。震災以 前から子どもの主体性を尊重した保育を保育理念に 挙げ実践し続けている幼稚園の保育者に着目し、そ の語りから保育の取り組みや保育者自身の心情、子 どもの育ちを捉える視点を整理する。そこからは、環境制限下での数年に亘る保育体験が、保育者自身 に及ぼす影響の大きさが示唆された。
はじめに
東日本大震災を背景とした原発事故が二次災害と して発生以降、放射能汚染による環境変化は地域の 生活を一変させるとともに、乳幼児が生活する場と しての保育施設における環境と活動をも激変させる こととなった。これまで筆者らは、本誌において自 然環境制限下での子どもの姿や保育者の姿に着目し 報告してきた。
本論では報告済みである
2013
年度調査結果とその 後の2015
年度調査結果における保育者の語り内容か ら保育者意識の動向を探る。また、保育者意識の経 年変化を考察するにあたり、両調査時点における保 育者の語りを示すが、報告済みである2013
年度調査 における保育者の語りについては最小限にとどめる こととする。2013年度調査の詳細な保育者の語りに ついては本誌紀要52
号および53
号を参照されたい。1. 目的
東日本大震災発生時点で満
1
歳であった子どもた ちに焦点をあて、その後の育ちの姿を保育者の視点 から縦断的に考察すること、および環境制限下にお いて保育を実践し続ける保育者自身の意識を考察す ることを目的とする。満1
歳の時点で震災を体験し た子どもが3
歳となり幼稚園に入園以降、自然環境 制限が続く保育環境下での保育活動を通して、そこ で育つ姿を見つめる保育者の視点、また子どもの保 育にあたる保育者自身の意識が、時間的経過によっ て変化していくのか、その動向を整理する。2013 年度と2015
年度の調査結果から、当該間における 保育者の意識動向について考察し、経年による保育 者の意識変化が、子どもの姿を捉える視点および自 然環境制限下で保育を実践し続ける保育者自身の心 情に与える影響を明らかにしていきたい。2. 方法
震災発生時に満
1
歳だった学年の子どもたちが、幼稚園に入園し
3
歳児年少クラスとして活動してい た2013
年度II
期の(2013年12
月)、および5
歳児 クラスに進級し小学校就学を直前にした2015
年度III
期(2016年1
月)、の各時期に実施した調査に おける保育者の語り内容を整理する。(図1)
(1) 調査 1
2013
年12
月に実施。1) 方法 :
福島県内の私立幼稚園に勤務する3
・
歳児クラス担任保育者複数名へのインタビュー調査 を実施した。自由活動中心の幼稚園
3
園を対象にし て1
回のインタビュー時間は約2
時間である。2) 対象 :
自由保育活動中心の幼稚園3
園の保育者複数名。保育者の自由発話を尊重したグループ 面談形式で実施した。
3) 記録および整理 :
保育者インタビューの音声録音をおこなったうえで文字化した。そのデータ について
KJ
法にて整理し、質的研究法による考察 をおこなった。(2) 調査 2
2016
年1
月に実施。1) 方法 :
福島県内の私立幼稚園に勤務する5
歳児クラス担任保育者複数名へのインタビュー調査 を実施した。自由活動中心の幼稚園
3
園におこな い、1回のインタビュー時間は約2
時間である。2) 対象 :
自由活動中心の幼稚園3
園の保育者複数名。保育者の自由発話を尊重したグループ面談 形式で実施した。
3) 記録および整理 :
保育者のインタビュー時には音声録音をおこない、後日文字化した。文字 データは主に
KJ
法にて整理し質的研究法による考 察をおこなった。3. 倫理的配慮
対象となる調査協力園および保育者に対しては、
インタビューに際して本研究の目的を説明するとと
もに、調査により収集した保育者のインタビュー内 容については幼稚園および保育者が特定されない方 法で整理、公表することの了承を得たうえで、調査 を実施した。
4. 結果および考察
(1) 保育者の語りからの事例抽出(表 1)
インタビュー中の保育者の自由発話から、「保育 者が自然環境制限下の子どもの姿としてとらえた内 容」および「環境制限下の保育を行う保育者自身取 り組みや心情としての内容」と解釈される発話を抽 出した。
その結果、2013年度
12
月時点の3
歳児クラス担 任保育者複数名へのインタビューにおいては、「保 育者が自然環境制限下の子どもの姿としてとらえた 内容」が17
事例、「環境制限下の保育を行う保育者 自身の心情としての内容」29事例で計46
事例が抽 出された。続いて、2015年度
1
月時点の5
歳児クラス担任 保育者複数名へのインタビューでは、「保育者が自 然環境制限下の子どもの姿としてとらえた内容」が17
事例、「環境制限下の保育を行う保育者自身の心 情としての内容」が25
事例で計42
事例が抽出され た。以下に、抽出した語りから、各調査時点で特徴的 な事例について示し考察をすすめる。
図 1 調査実施時期と対象児の学年移行
表 1 保育者の語り内容 事例総数
語り内容
2013
年度 3歳児クラス担任2015
年度 5歳児クラス担任自然環境制限下の子どもの姿
17 17
保育の取り組み・保育者自身の心情
29 25
計
46 42
・
(2) 保育者の語り内容(表 2、表 3)
1) 保育者がとらえる子どもの姿
2013
年度調査の3
歳児時点では、「聞き分けが良 く執着心がなく主張しない」(E02、03、08)が「大
人の指示はしっかり入る」(E06)子どもの姿が語 られ、その姿を保育者は戸惑いと懸念をもってとら えている。また、震災から2
年半以上経過し「よう やく今年から落ち葉に石を包んで“お饅頭”
などの ままごとが見られる」(E04)姿が保育者の安堵感 とともに語られ、この時点から園による違いはある ものの、既に自然物を遊びに取り込む試みがなされ ていることから、保育者の自然物導入に関する保育 環境改善への取り組みが始まっていることが理解で きる。また、「(この子たちは)準備された室内空間での 遊び経験は多いが、何もないところで自分たちで遊 びを作り出すという経験が少ないのではないだろう か」(E07)との語りがあり、特別な環境下で
3
歳 まで育ったことでその体験の少なさが懸念される子 どもの姿を捉えており、目の前にいる3
歳児の今後 の成長を見つめる保育者の視点ととらえられる。2015
年度調査の5
歳児時点では、「従来の5
歳児 に比べると遊びが幼く展開も乏しい」(E11)こと は否めないとしているいっぽうで、「以前は保育者 の介入による遊びの展開が多かったが今はどんどん保育者から離れて自分達でルールを作ってやってい る」(E13)と、日々の屋外遊びにおける子ども姿 を詳細に捉え、それを肯定的に見守る保育者の気持 ちが理解される。また、「外遊びのモデルとなる年 長が不在であることが子どもに与える影響が大き く」(E17)感じており、それはルール遊びのみな らず、泥団子作りなどにも表れていることに言及し ている。
自然物を取り入れた遊びに関する語りも多くみら れ、植物を摘んで花冠作りや腕輪作りや花びら遊び を経験する姿(E14、15、22)や、「葉っぱを画用 紙に貼って(表現する)遊びも子ども自身からやり たいと言ってきた」(E15)ことを保育者は嬉しく 受け止めている様子が伝わる。「焼き鳥遊びなど、
自然物をつかった園庭でのおままごとの展開には保 育者の関わりが必要ではある」(E21)としながら も、保育者の言葉かけに導かれながらおままごとに 興じる子どもの姿が浮かび上がる。
しかし、このように自然に関心を示し、それらに 触れ、遊びに取り入れていく子どもがいるいっぽう で「怖くて自然物に触れない子どももやっぱりい る」(E22)と語り、震災以降の環境制限が子ども の行動や意識に色濃く影響を与えている現状につい ても触れている。
そして、年長児になっても今なお「これやってい
表 2 保育者の語り「子どもの姿」2013 年 12 月(調査 1)時点
E
-01
以前の子どもは登園したら身支度後には好きな場所で遊んでよかった。しかし室内遊びだけになり、外遊びがなくなったというだけで子どもの行動範囲が狭まり、4月当初のトラブルや戦場のよう だった雰囲気がなくなった。
E
-02
子どもたちにも外に行きたい人は本当にいない。たまに一人二人くらいはいるが。以前は雨が降っ てて外に行けないよ、と言ってもなにがなんでも外に行きたいと言い張る子どもがいたが、意外に 外遊びをしたいという声が子どもたちからほんとうに聞こえない。E
-03
保育者が「お外は放射能があって出られないんだよ」「放射能があるからね」と伝えると、もう、そ れだけで子どもは「ほうしゃのうだからお外に行けない」とすんなりと(納得する)。E
-04
ようやく今年から落ち葉に石を挟んで「おまんじゅう」、などおままごとが見られるようになった。E
-05
ミニトマトの実が青から赤に変わるというのがわからない子どもがいる。E
-06 子どもから「あそこの水溜りのところはダメなんだよね」と保育者に言った。
E
-07
震災後から入園するまで、玩具が用意された室内空間での遊びは多く経験している子どもたちだが、何もないところで自分たちで遊びを作り出すという経験が少ないのではないか、という感じはする。
E
-08
以前の子どもは執着心が強く、物がほしければ相手を噛んででも、という自我アピールをしていた が、今はあきらめが早いのか、噛む子どもはいない。E
-09
外遊びの後で手洗いうがいを指導しているが、神経質な子どもはいつまでも冷たい水で「ここも洗 うの?」と保育者に聞きながら手洗いをしている。E
-10
手洗いで整列して待ってることは上手にできる。大人の指示はしっかり入る。・
表 3 保育者の語り「子どもの姿」2016 年 1 月(調査 2)時点
E
-11
年長だと、いろいろゲームを考えたりしながら遊べたりすると思うが。今はブランコをするとか滑 り台をするとか、そういう形(遊具遊び)になってしまう。E
-12 2015
年度から屋外へ自由に出られるようになったが、最初は保育者が「並んで」と言わなくても靴を履くと自然に整列していた。今は(年度のはじめ頃から)そのようなことはなくなり、自由に外 へ行って部屋に入りたい時には入ってくるようになった。
E
-13
最初は保育者が提案した帽子取り鬼を保育者と一緒にやっていたが、今はどんどん保育者から離れ て、2学期くらいからは自分たちでルールを作ってやっている。E
-14
今年は花壇にクローバーなどの種を子どもたちで植えて、その部分は自由に使ってよいことにした ら、保育者と花冠とか腕輪などを作って遊ぶ経験はできた。プランター栽培も続けていて収穫した ものは子どもたちで調理して食べることもしている。E
-15
今年出てきた遊びでは、葉っぱを使って冠にしたいと言ってきた子どもがいて、葉っぱを画用紙に 貼ったりしたいという子どもがわりと出てきた。E
-16
子どもの回復は早かったのかもしれない。(行動として)出てくるのは遅くなったが、回復力のス ピードは意外と早い。E
-17
外遊びのモデル(見本)がいないことが大きい。泥団子を作るようになったが、何となく丸めてお 皿に入れて満足している。(震災)以前なら、年上の子どもが硬い泥団子を作っていたのを見て、あ あいうふうに作りたい、という目標や憧れが意欲になったが、そういうものが今は乏しいと思う。E
-18
最近感じていたのは、保育者の言うことを聞かなくなってきて、(それは)良かったなと(思う)。E
-19
気になるのは、保育者にまだ「これやっていいの?」と確認する子どもがいる。「自分でやりたいこ とをやっていいんだよ」と声をかけるが、あまりに自由過ぎてしまってなにをしていいのかわから ないのか、今やりたい遊びが見当たらないのか。そういうことに不安になる子どもがいる。自分な りに見つけに行けないところがある子どもがいて、確認を必ずする。5歳でそういう子どもは(今 まで)あまりいなかった。E
-20 12
月頃に急に活気付いて喧嘩もしている。自分たちで解決して次の遊びに行って自己主張をする、自分を受け入れてもらう、面白くなかったら反発する、でも話し合いをすることによってまた仲直 りできる、ということを自分たちで経験していた。それは良いことだなと思った。
E
-21
保育者が「これはおいしそうだね、これで焼き鳥にしよう」というと、子どもたちは一所懸命枝を 集めてきて石を載せたりして、外でままごとをして遊ぶ。保育者がそこに関わっていないと、子ど もたちがあまり自発的にその遊びを広げるということは、まだちょっと難しさがあると思う。保育 者がやってみせると「僕も欲しい」ということになって、自分で取ってきて使うようになった。E
-22
花びらを取ったり集めて水に浮かべてみたりとか、そういう遊びは何人か出ている。小さい頃にや らなかったから今になって出たということではなく、自然と興味がそこに向いて、その遊びが出た のかな、と言う感じ。一方で怖くて触れない子どもはやっぱりいる。まだまだ震災前みたいに自然 物を使っての遊びではない。E
-23
砂遊びは園庭よりも一番遅くに制限が外れたので、最初は土の掘り方もわからなかったし固め方も わからないので、保育者が素足になってバケツも持って率先して遊び方をなんとなく見せていたが、今は子どもたちでやっている。(4歳児のころは屋外でのさまざまな遊び方を見せたり、遊びを手 伝ったりはした。)
E
-24
数人だが、「私はこうしたい、僕はこうしたいんだ」と言う子どもたちがでてきたように感じてい る。・
いの?」といちいち大人に確認する子どもに対して
「自分でやりたいことをやっていいんだよ」と保育 者が対応する様子を挙げながら、「(自由な活動が中 心の保育にあって)あまり自由過ぎて何をしていい のかわからない、やりたい遊びがみつからない」
(E19)という子どもの心情に理解を示しつつもそ れを心配する保育者の姿もある。そして「従来(震 災以前)では、
5
歳でそういう子どもはいなかった」(E19)と保育者として戸惑いも吐露している。そ れでも、「数人だが『私はこうしたい、僕はこうし たいんだ』と主張する子どもたちがいる」(E24)
と語る保育者からは、そのような子どもの姿に希望 を見い出しながら、今後もこのまま保育に取り組も うとする前向きな姿勢を感じることができる。
2) 保育者自身の保育の取り組みと心情(表 4、表 5)
まず、2013年度の
3
歳児クラスにおける語りの 中で、「震災以前は〇〇だったが今は△△」(表2 E01,08)との語り口がみられ、震災前の保育環境や
子どもの姿と現在との違いを強く意識していること を表すものと考えられる。自然環境制限下の保育は、当然のことながら子ど もの自由活動を尊重する保育環境にとって、保育理 念の根底を覆すほどの大きな影響を及ぼしたと言え よう。しかし、この時点において既に「幼稚園から やらないといけない、という危機感を抱いている」
(E25)、「子どもの体験不足をどう補うかを考える ようになった」(E28)との語りのように、現状の 保育環境のまま続けていくことが、今後の子どもの 育ちにまで影響しかねないことを鑑み、子どもが屋
外の自然環境に触れることを心配する保護者に対し て理解を求めつつ、自然環境をいかに保育に導入し ていくのかを検討しようとする姿が示されている。
その反面、制限下の屋外活動では、子どもの安全面 を第一の配慮点として神経質に対応していたため、
保育者のピリピリした緊張感が子どもにも影響した こと(E26)を、保育者自身が振り返っている。そ して、自然に興味を示し触れようとする子どもの行 動を制止することに注意が向いてしまい、思う存分 体験させてあげられないばかりか「砂は怖いもの」
という先入観を子どもに持たせたことに、保育者自 身の葛藤が吐露されている(E26)。
2015
年度、5歳児クラスの担任の語りでは、ま だ、震災の流れから抜け出せていない感覚(E29)とともに、「ようやく、普通になってきた」(E30)、
「自分自身の縛りを取った感覚」(E39 )の語りがあ り、5年間以上の長い苦労が僅かでも報われてきた と感じている保育者の安堵の心情がうかがえる。
とくに注目すべき点として、保育体制についての 語りが挙げられる。環境制限が解除の方向に進み、
ようやく従来の保育体制が実現できると考えていた 矢先に、一度変更した保育体制が簡単には元に戻ら ないことに、保育者自身が難しさと戸惑いを感じて いる姿である。保育者は「屋外の自然環境さえ解除 されれば、本来の保育ができる」と予想し、そこに 期待しながら前を向いて保育にあたってきたが、
「今度は保育者自身が戻れない」(E31)、「保育方法 が全く震災前には戻らない」(E31)、状況は思いも よらなかったことであることが推察される。その背 景には「時間やクラス単位で活動することは保育者
表 4 保育者の語り「保育者自身の保育の取り組み・心情」2013 年 12 月(調査 1)時点
E
-25
根本的なカリキュラムは変えてないが、少しづつ見直しもしながら保育をやっている。今の環境の 中でできることを、と考えてなにかカリキュラムよりも保育者・幼稚園からやらないといけない、というところは痛感している。危機と言うか、ちょっと怖いなと言う感じはしている。
E
-26
保育者側はピリピリ神経質になっていた。その姿は子どもも怖かったのではないだろうか。砂場に 近寄らないように、保育者がバリケードのように保護していたし、いつも「砂には触らない!」と 言っていた。保育者が「砂は怖いもの」と子どもに植え付けていたのかもしれない。E
-27
子どもが最初に出会う昆虫は、アリやダンゴムシやカタツムリで、それを潰したり、羽をむしった りしてしまう。興味があって触れたらどうなるかという最初の体験をする。しかし、その経験があ るから生き物を育てる行為につながっていくと思う。子どもに最初の経験がないということはどう いうことなのか?「触っちゃだめ」だから潰せない。昆虫が生活の身近に居る存在ではなくなって いる。「これからどんなふうに虫を向き合っていくのかな」と思う。E
-28
震災直後は、保護者の不安を受け止めるほうが大変だったが、今はその負担はない分、「今まで子ど もたちが体験してこなかったことをどう補うか」という悩みに変わってきた。・
E
-29
線量が低くなり保育に支障はないが、毎日計測して保護者に知らせることは続けているので、まだ「もうすっきり全部制限がなくなりました」という状況ではない。まだ震災のその後の流れ(の中に ある)という感じ。
E
-30 除染の意味での拭き掃除は概ね少なくなってきた、ようやく “普通”
になってきた。E
-31
今は線量数値も低くなって、園長は震災前の園生活に戻しましょうということにしたが、今度は保育 者自身が戻れない、ということがすごくあった。クラス単位や学年単位で時間を決めて出て、時間に なったら○○組さん部屋に入りますよ、という保育方法が長かったからか全く震災前に戻らない。E
-32
保育者自身が外遊びに神経質になっていたので、時間制限なしで保育をやりましょう、と言っても なかなか解除できなかった。2学期以降はだいぶ自由に外に行くようになった。E
-33
震災前からやっている保育者が2
クラス、あとのクラスは震災の年やそれ以降に保育者になった先 生が担任している。そういう保育者の経験も、(クラスや時間制限を取り払うことが難しい要因とし て)あったのかもしれない。E
-34
ようやく少しづつ(震災)以前のことを取り入れられてきたかな、というのが今年度という気がす る。5年目にしてようやく。E
-35
震災以降、この葉っぱは大丈夫かなと言う感じでやっていたが、今年はまあいいかと思いやってい た。泥団子ができるようになったり、砂に制限が出なくなってきたので、私の意識が少し変わって きたということもある。E
-36
やむを得ず取り入れた環境制限や外遊びの時間制限だったが、時間やクラス単位で活動することは 保育者サイドにとってやりやすい。一人一人の子どもが見えて(この保育方法を)プラスにとらえ てしまいそうになるが、子どもにしてみたらどうか、を考えなくてはいけないのかもしれない。E
-37
(震災以前の子どもは)多分、小さい時からお兄ちゃんお姉ちゃんが昆虫を触って遊んでいるのを見 れば、虫を触ることは当たり前のように育っているが、(今の年長児は)今、初めて出会う。(保育 者が)そこをつなぐ何か努力をしないと、素通りして興味をそこに向けないままに行ってしまう、そういう感じはある。
E
-38
普段の保育の中ではなかなかできないが、預かり保育の時に少人数の子どもと震災後初めて蝉取り をした。ようやくちょっとずつ以前のことを取り入れられてきた。5年目にしてようやく。E
-39 5
年間の子どもや大人、保育の変化が少し感じ取れるようになった。震災の頃の大人も見てきた、その頃の年長も見てきたし。私たちも本当に迷いながらの保育だったのでやっと、5年という時間 が自身の縛りを取った、みたいな感覚もある。もう砂もできるし、葉っぱも使えるし。だから気持 ちのゆとり、放射線に対しての気持ちのゆとりができた、のかもしれない。大分以前の保育に近づ いてきているのは良いのかな、と思う。この幼児期の育ちは人間の形成に大事なので、幼児期に必 要な経験をさせてあげたいという思いがあり、今後も様々に考えながら子どもたちと関わっていき たいな、と感じる。
E
-40
私たちも必死だったので振り返ると、どうだったのかな、わからないと言うのが感想。でも震災の 時のことを考えれば、(これからの)大変な時でもまた頑張れるかな、とも思う。この震災の子ども たちの育ちと以前の子どもたちの育ちを比較できる。放射線の中でやってきた保育の育ちとではや はり差がある。E
-41
本来、子どもが自分達主体で動けるというころを非常に大事にしている保育方針のはずが、環境制 限下でやむを得ず保育形態を変えた際に、思いがけないやりやすさを保育者が覚えてしまって、線 量が下がっても元の保育形態になかなか戻れなくなってしまった。そこを打ち破れなくなる怖さを すごく感じている。そこを打ち破る勇気、そこに力を置かないと以前の保育形態に戻れないんだと いうことをすごく感じる。E
-42
一日の保育スケジュールをやめますという勢いでやってきたが、子どもたちから「先生、今日は何 時に外遊びにいきますか?」と聞いてくるようになってしまった。ああ、これは何ということをし てきたんだろう、と思う。そういう反省はすごくある。だから「0からの自由」という「自分で体 験して感じる」ということを、子どもに経験させられる日は、本当にいつなのかな、と感じている。もう破らなくては。
表 5 群保育者の語り「保育者自身の保育の取り組み」2016 年 1 月(調査 2)時点
・
サイドにとってやりやすい」(E36)という実感を 保育者自身が体験してしまったことにあると分析し ている。子どもの自由活動を尊重する保育理念を実 践する保育現場にとって、環境制限下で変更せざる を得なかった保育方法、保育形態を数年間継続する ことが、保育者自身に根深く影を落とした現実を示 している語りと推察される。
5. 総合考察
(1) 語り内容の比較 1) 調査 1(2013 年度)
子どもの様子に関して保育者からは、心配する気 持ちがさまざまに語られるが、子どもの姿をみて嬉 しく思う語りは些少である。このことは、子どもの 様子に戸惑い心配する保育者の気持ちが非常に強い ことを示していると理解できる。
環境制限下で従来に比べ外遊びの可能性が激減し ていることを懸念する保育者にとって、意外なほど
「外遊びをしたいという子どもが少ない」ことが、
どのような理由によるものなのか保育者自身も明確 には語られてないが、大人達が
“お外は危険だから”
と
3
年間子どもに言い聞かせて育てられた環境によ る影響の大きさを、保育者も感じていることがわか る。また、「大人の指示は入る」や、活動範囲が狭 まったために新学期に多く起きるはずの「子ども同 士のいざこざが減少した」様子を語ってはいるが、そのような子どもの姿を保育者自身がどのように受 け止めているのかについては言及されておらず、保 育者は心配しているのか、良いことと理解している のかについては不明である。
いっぽう、この時期の保育者の意識としては、子 どもの自然環境との関わりに対して保育者自身が制 止言動をせざるを得ない状況から、保育者自身の切 なさや自責の念が語られている。先ずは子どもの安 全を第一に優先しなければ保育が成り立たないとい う、保育者としての複雑な心境をうかがわせるもの となっている。しかし、自然環境制限下の保育環境 の中で育つことが、子どもの育ちにどのような影響 を与えていくのか、を鑑み、その改善方法について 悩む語りもみられる。それらは、環境変化が子ども の遊び経験の少なさを生み出していることを実感し つつ、どうにかして従来のような豊かな遊びを提供 したい、とする保育者としての建設的思考の一端と とらえることができる。
2) 調査 2(2015 年度)
子どもの姿について、調査
1
と比較し保育者が嬉 しく思う子どもの様子が明らかに多く語られてい る。震災から5
年が経過し徐々に環境制限が外され ていく中で、子どもの活動が僅かずつではあるが、従来の年長児の姿につながってきていることを喜び と安堵感をもって受け止めている保育者の心情が読 み取れる。
反面、従来の年長児にはみられなかったような年 長児の遊びや言動についても語られている。そのほ とんどは、5歳に至るまで経験の蓄積の少なさや、
遊びのモデルの存在を得られなかったことなどによ るものであることを保育者自身も理解している。環 境制限下にあった時期から保育者が意識し努力し実 少しずつでも実践してきた保育活動がようやく「今」
に結び付いていると実感していることが理解でき る。そして環境制限が子どもに与えた影響の大きさ を感じながらも、ようやく制限が解除されつつある 今だからこそできる活動を精一杯子どもに提供しよ うと考える保育者の意図が現れている。「ようやく 従来の年長児に追いつてきた、あとは十分な遊び経 験を積むこと」と子どもの育つ姿に期待感を抱いて いる様子がうかがえる。
また、とくに保育者が憂慮する子どもの姿とは、
いまだに自然物に怖くて触れない姿、逐一大人の承 認を求める姿、やりたい遊びが見当たらない(見つ けられない)姿なのではないだろうか。保育理念と して「子どもの主体性を尊重する」ことを掲げる幼 稚園の保育者であれば、幼稚園生活も残り僅かとな り春から小学校就学を控える
5
歳児が、自分で自分 の行動を決めることができない、自分の考えを他者 に主張できないという姿は保育者として大いに気に なるであろうことが推測される。その原因のすべて が其処にあるとは言わないまでも、生後1
歳児から 生活のすべてを環境制限下で育ってきた子どもに及 ぼした影響の深さを考えないわけにはいかないとい う保育者の深い愛慮が推察される。保育者の意識についても、調査
1
では全くみられ なかった前向きな語りが見られ、「ようやく」、「縛 りを取る」などという言葉からは長い間の緊張と不 安からの脱却感が表れている。それは、特に遊びに おける従来の保育活動が少しずつ実践可能になって きたことによるものであろう。自然環境を使って保 育者自身も楽しみながら子どもと活動する様子がう かがえる。しかしながら、線量は低くなった今でも 計測を欠かさないなど保育には従来なかった作業が・
表 6 語り内容にみる保育者の意識動向
保育者の受け止め方 調査
1 3
歳児クラス(2013年12
月時点) 調査2 5
歳児クラス(2016年1
月時点)【子どもの様子】
心配に思っている ・外遊びをしたいという子どもが少ない
・汚れを神経質なほど洗う
・植物の季節変化がわからない
・ 何もないところから自分たちの遊びを作り 出す経験が少ない感じはする
・諦めが早い
・ 保育者の言うことをすんなりと受け入れる
・年長だが固定遊具遊びになってしまう
・外遊びのモデルがいないことが大きい
・ 「これやっていいの?」と逐一確認する子ど
・ ももいる子ども達自身で自発的に遊びを展開するこ とがまだ難しく、保育者がそこに関われば
(展開する)
・ 怖くて自然物に触れられない子どもは、や
・ はりいるまだ震災前みたいな自然物を使っての遊び
・ 「先生、今日は何時に遊びに行きますか」とではない 聞いてくる
【子どもの様子】
受け止め方 不明 ・大人の指示はしっかり入る
・ 室内遊びのみになり、子どもの行動範囲が 狭まり、4月期のトラブルなど減少した
【子どもの様子】
嬉しく思っている ・ 屋外でのおままごと遊びが見られるように
なった ・ 今は、園庭と保育室との出入りを子どもが 自由にできるようになってきた
・ どんどん保育者から離れて自分たちでルー ルを作り遊ぶ(2学期から)
・ 自由に使える花壇で、保育者と植物で遊び、
栽培収穫をして調理して食している
・ 葉っぱを使った遊びをしたい、と子どもが 言ってきた
・ 子どもの回復力のスピードは意外と早い
・ 保育者の言うことを聞かなくなってきて、
・ 良かった喧嘩もしている(12月頃から急に活気付い
・ た)数人だが「自分はこうしたい」と言う子ど もたちがでてきた
【保育・保育者自身】
不安・自省 ・ 今の環境でできることをと考え、保育者・
幼稚園からやらないといけない、と痛感し 危機感をもっている
・ 保育者が神経質になっていて子どもは怖かっ
・ 「砂は(自然物)は怖いもの」と子どもに植たと思う
・ 「自然物に触れる最初の経験がない」とは、え付けた 子どもにとてどういうことなのか?
・ 子ども達が体験してこなかったことをどう 補うのか、と言う悩みに変化した
・ 線量は低くなり保育に支障はないが、全部 制限は亡くなった状況ではなく、未だ震災 の流れの中にある感じ。
・ 線量数値も低くなり、震災前の園生活に戻 そうとしたが、今度は保育者自身が戻れな い、保育方法が以前にまったく戻らない。
そこを打ち破れなくなる怖さを感じる
・ 時間制限無しで保育をやろうとしてもなか なか制限を解除できなかった
【保育・保育者自身】
受け止め方 不明 ・ 時間やクラス単位で活動することは、思い
がけず保育者にやりやすさを覚えさせた、
一人一人の子どもが見えるが、子どもにとっ てはどうなのか?
【保育・保育者自身】
前向きに感じている ・ようやく
“普通”
になってきた・ ようやく少し、以前のことを取り入れられ てきたかな
・ 制限がなくなってきて自身の意識が少し変 わってきた
・ 時間が自身の縛りを取り、気持ちのゆとり
・ がある震災時を考えれば、これからのたいへんな 時でもまた頑張れるかな、と思う
・
継続しているなど、まだまだ震災の流れの中にある ことを実感していることも現実であろう。
そして新たに示されたことが、従来の保育体制、
保育形態になかなか戻せなくなってしまっている状 況に保育者自身が困惑している姿である。突然生じ た災害によって従来の保育体制を継続することが難 しくなり、その対応策として導入した環境制限下保 育の方法(時間帯別の園庭活動、クラス単位活動な ど)を実践することで、保育者はそのやりやすさを 体験してしまった。そのことが制限解除となっても 従来の自由形態保育に戻すことを困難にしていると する保育者自身の見解には、今後の取り組みに新た な問題が生じたことを認識しながらもそれに立ち向 かおうとする保育者の気概が感じられる。
(2) 保育者意識の動向(表 6)
以述のように、2013年度調査と
2015
年度調査に おける保育者の語り内容の変化を時系列上でとらえ られたことは次のように整理された。保育者が子どもの様子を心配する姿には大きな違 いはみられないが、子どもの姿を嬉しくとらえてい る姿は
2015
年度調査のほうが圧倒的に多くみられ るようになっていた。しかし、2015年度調査の子 どもの姿を心配する語りには、環境制限が子どもの 育ちに与える影響の深さを含むものもあった。また、保育の取り組みや保育者自身に関しては、
不安や自省に大きな相違はないものの、2015年度 調査では
2013
年調査時点では皆無であった保育を 前向きに感じている心情がみられるようになってい た。それは、保育環境の制限解除を背景としてお り、保育者自身に気持ちのゆとりをもたらしている ことが理解された。そのいっぽうで、保育体制への 新たな問題が生じたことが明らかとなり、これは従 来、自由形態保育を実践してきた保育者ならではの 悩みであり、今後改めてそこに取り組んでいこうと する保育者の姿があった。2011
年以来、変更を余儀なくされ工夫の結果と して導入してきた保育体制の“やりやすさ”
が、意 外にも保育者の意識に大きく影響を及ぼしているこ とが明らかとなった。おわりに
震災直後の急性期を脱しつつある時期ではある が、調査
2
においても、保育環境の改善は「震災以 前の状態になった(復元した)とは言えない」との 保育者の言葉が表すように、終わりの見えない闘いは現在もなお続いていることになる。このことは、
自然環境制限下の中にあって保育者自身が「保育者 のやりがい」を十分に実感しづらい状況が少なくと も震災以降
5
年以上継続していることを裏付けてい るとも考えられよう。また、環境制限による保育は広範囲に影響を及ぼ し、それは幼児の運動不足による体力の低下や運動 機能の発達のみではなく、幼児の生活体験や人と関 わる力、活動への主体的な取り組み、探究心の育ち など人格形成に広く影響を与えていることは語りか ら明らかである。
さらに環境制限下により、従来から長年に亘り実 践し続けてきた保育形態および保育方法を変更せざ るを得なかった数年間を経て、意外にも、一度変更 した保育体制を元に戻すことが容易ではなく、保育 理念の遂行にさえ影響を及ぼす可能性が浮上してい る。このことは、「子どもの主体性」を尊重すると いう保育理念と保育環境の有り様、保育体制とは密 接に絡み合うことを改めて示している。
福島県下における従来の自由形態保育の存続が、
保育者の今後の取り組みにかかっているとも考えら れ、保育に従事する保育者にとっては、震災後の新 たな局面を迎えているとも考えられる。それは「“0 からの自由”を子どもに体験させられる日はいつに なるのか」という保育者の語りが物語っているとい えよう。
震災発生以降、私立幼稚園においては、園庭(屋 外)活動について国や自治体からの直接的な指示は なかったという。つまり震災以降は各園独自の判断 によって決定され保育が運営されてきたという経緯 があり、そのため現在も外遊びに制限をかけている 保育現場もあると聴いている。今後も保育現場にお ける調査を継続し注目し続けたいと考える。
本研究は文部科学省科学研究費(基盤
C)課題番
号
25381090
の助成を受けておこなわれた。本稿は、2017年度日本保育学会第
70
回大会にお ける発表内容の一部を再編成し加筆をおこなった。引用参考文献
池田りな・長田瑞恵,2017「環境変化による保育の変 化が子どもに与える影響(9)−
2013
年度と2015
年度の保育の自然環境に関する保育者意識 の比較−」,日本保育学会第70
回大会要旨集.池田りな,2015「環境変化による保育の変化が子ども
・
に与える影響(2)」,日本保育学会第
68
会大会 要旨集.池田りな・関口はつ江,2016 「保育者の語りにみられ る環境変化と
3
歳児の姿」,大妻女子大学 家政 系研究紀要第52
号pp. 97
-105.
池田りな・関口はつ江・長田瑞恵・田中三保子,2016
「保育環境の変化と保育者の意識−保育者の語り に見られる『自然』のとらえかた−」,日本発達 心理学会第
27
回大会要旨集.池田りな・関口はつ江,2017「保育者の語りにみられ る環境変化と
3
歳児の姿(2)−保育環境として の自然に着目して―」,大妻女子大学 家政系研 究紀要第53
号pp. 99
-106.
放射能災害にかかる保育問題研究委員会編,2017『放 射能災害下の保育問題研究 平成
27
年調査を中 心に』,一般社団法人日本保育学会.嘉門康博・関口はつ江,2017「震災・放射能災害下の 保育の実際−調査の結果と実践事例から−」,関 口はつ江編著,『東日本大震災放射能災害下の保 育−福島の現実から保育の原点を考える−』,ミ ネルヴァ書房,pp. 51-
85.
関口はつ江・田中三保子,2016「放射能災害下におけ る子どもの変化と保育者の支援」,特集