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(1)

海外法律事情

韓国刑事法の調査研究(2)

日韓刑事司法研究会

(代表 柳 川 重 規)

韓国刑事判例研究:大法院2017年11月29日判決(2017ド9747)

〔国外メールサーバに対するリモートアクセス〕

氏  家   仁

**

国家保安法違反(讃揚・鼓舞等),国家保安法違反(会合・通信等),国家 保安法違反(便宜提供),国家保安法違反(自進支援・金品収受)被告事 件,事件番号2017ド9747,2017年11月29日大法院第 ₁ 部判決,上告棄却,

大法院判例集65巻(刑事篇)1058頁,判例公報529号105頁

 〔判示事項〕被疑者の電子メールアカウントに対するアクセス権限に代 えて,発付を受けた捜索・押収令状によって遠隔地の貯蔵媒体に適法にア クセスしてダウンロードし,又は現出させた電子情報を対象として,犯罪 嫌疑事実と関連する部分に対して捜索・押収することが許容されるか(積 極),及び刑事訴訟法第120条第 ₁ 項において定める「捜索・押収令状の執

 所員・中央大学法学部教授

**

 嘱託研究所員・中央大学法学部兼任講師

 本稿は,平成30年12月15日に中央大学市ヶ谷キャンパスにおいて開催された

第 ₄ 回日韓刑事司法研究会(日本比較法研究所研究グループ:日韓刑事司法制

度の比較研究(代表 柳川重規))における報告を加筆・修正したものである。

(2)

行に必要な処分」に該当するか(積極)/このような法理は,遠隔地の貯 蔵媒体が国外にある場合であっても同様に適用されるか(積極)

《事案の概要1)

1.判示事項に関連する公訴事実及び捜索・押収2)

⑴ 判示事項に関連する公訴事実

 本件被告人に対する公訴事実は,複数の国家保安法違反に係るものであ るが,このうち判示事項に関連するものは,以下の同法違反の通信連絡及 び便宜提供である(以下,単に「本件公訴事実」という。)。

 すなわち,「被告人は,2013年 ₇ 月ころ,不詳の場所において,「225局 と電子メールの通信方法の提案,国家情報院による大統領選挙非理事件と 関連した対応事業の推進状況,組織のあつまりの進行状況,民心動向の報 告と関連する覚悟」等が記載された対北朝鮮報告文を作成して,これを

「苦難週間説教」から始まる

Hangul

ファイルに偽装して,ステガノグラ フィーによって暗号化したファイル「A」を生成した。

 この後,被告人は,2013年 ₇ 月 ₇ 日ころ,不詳の場所において,中国の インターネットポータル企業「SINA. COM」 にアクセスして北朝鮮の

「225局」所属工作員と共同して使用する

ID

である「B」にログインした 後,あらかじめステガノグラフィーによって暗号化しておいた上記「A」

ファイルを

[email protected]

及び

[email protected]

を受信人に指定して発送した が,その具体的な内容は,次のとおりである。

 (筆者注:上記の「具体的な内容」については省略)

 これにより,被告人は,国家の存立・安全又は自由民主的基本秩序を危 うくさせるという情を知りながら,反国家団体の構成員又はその指令を受 けた者と通信連絡し,「225局」所属工作員に便宜を提供した。」というも

1) 本稿において摘示する法令は,特に断りのない限り韓国のものである。

2) インターネットサービス提供者である YAHOO 及び SINA という固有名詞は,

公刊物では仮名処理されているが,本判決に対する各評釈に掲記されていたこ

とによって知り得たものである。

(3)

のである。

⑵ 判示事項に関連する捜索・押収3)

 「ア 国家情報院捜査官は,被告人名義の車両内で発見した移動型貯蔵 装置(USB,証第126号であって,以下「本件貯蔵装置」という。)に対す る捜索・押収の結果,本件貯蔵装置に入っていたステガノグラフィープロ グラムにより暗号化されたファイルを復号化した文書から,「分期ごとに 使用する電子メールアドレスとパスワード」を知ることとなった。

 イ 捜査機関は,ソウル中央地方法院に,捜索・押収・検証すべき物を

「被告人が北朝鮮の対南工作組織225局と間諜通信手段として使用した中国 のインターネットサービス提供者である公訴外 ₁ 会社及び公訴外 ₂ 会社

(筆者注:SINA. COM)が提供する電子メールサービスの計10個のアカウ ントのうち,国家保安法違反の嫌疑と関連した,開設時点から2015年11月 24日までの間の電子メールのアカウント,受信箱等の各種文書箱,下書き 保管箱等の各種保管箱(スパム・ゴミ箱,住所録等のその他の内容を含 む。),電子メールと連結されたドライブ内の各種文書箱(ゴミ箱・カレン ダー等のその他の内容を含む。)に送・受信が完了され貯蔵されている内 容と同じ内容を出力した出力物,同じ内容を貯蔵した貯蔵媒体(メールヘ ッダが記録された原本内容を含む。)」とし,捜索・押収・検証すべき場所 を「ソウル市松坡区(住所省略)所在の韓国インターネット振興院(KISA)

事務室に設置されたインターネット用

PC(オンライン上捜索・押収・検

証)」とし,捜索・押収・検証方法として,「国家情報通信認証公共機関で ある韓国インターネット振興院(KISA)事務室に設置されたインターネ ット用

PC

において,映像録画,及び,同機関の専門家,一般人のフォレ ンジックの専門家が立ち会う中で,中国の公訴外 ₁ 会社及び中国の公訴外

₂ 会社(筆者注:SINA. COM)の電子メールのホームページのログイン 入力窓に国家情報院が捜索押収の過程で入手した上記電子メールのアカウ ント・パスワードを入力,ログインした後,国家保安法違反の犯証資料の

3) 本件上告審判決の整理による。

(4)

出力物及び同資料を選別して貯蔵した貯蔵媒体の封印・押収」とし,各特 定して捜索・押収・検証令状を請求した。

 ウ ソウル中央地方法院は,2015年11月23日, 上記の請求された内容 に,電子メールに対する押収方法を制限して,「被告人に捜索・押収に参 与する機会を付与した後,本文記載のとおりの方式により,捜索・押収す ることができる。被告人に参与の機会を付与すれば足り,被告人が捜索・

押収に参与することを放棄又は拒否した場合等には,被告人の参与なく,

捜索・押収することができる。」とする条件を付加した捜索・押収・検証 令状(以下,「本件捜索・押収令状」という。)を発付した。

 エ 国家情報院捜査官等は,2015年11月24日,被告人及び弁護人に,本 件捜索・押収令状が発付された事実を説明し,上記令状を呈示して参与意 思を尋ねたが,被告人は答えず,被告人の弁護人も令状を閲覧しただけで 参与意思を明らかにしなかった。

 オ 国家情報院捜査官等は,2015年11月26日,韓国インターネット振興 院において,本件捜索・押収令状を呈示し,韓国インターネット振興院の 主任研究員が参与し,デジタルフォレンジックの専門家が立ち会う中で,

上記主任研究員をして,ノートブックを使用してインターネットエクスプ ローラ(Internet Explorer) 及びクローム(Chrome) プラウザを通して 令状に記載された各電子メールアドレス及びパスワードを入力してログイ ンを試みさせたが,追加の認証項目が発生しない中国の公訴外 ₂ 会社(筆 者注:SINA. COM)の ₁ 個の電子メールアカウントについてのみ,ログ インが成功して捜索が可能であった。

 カ 主任研究員は,上記電子メールアカウントにパスワードを入力して ログインした後,電子メールの本文はキャプチャプログラムを使用してイ メージファイルで貯蔵し,添付文書がある場合には原本ファイル名に「発 信者名」を追加する方法で貯蔵し,添付文書にリンクファイルが含まれて いる場合にはリンクファイルに接続後,当該サイトに移動して現出された 画面を電子メール本文と同一の方法によりキャプチャ,貯蔵する等の方法 により,電子メールアカウントの全体の保管箱に貯蔵されている計17件の

(5)

電子メールを選別捜索・ 押収して計15件の電子メール(ヘッダ情報を含 む。)及びその添付ファイルを抽出して出力・貯蔵することによって押収 した。

 キ 国家情報院捜査官は,ノートブックのデスクトップ画面に新規のフ ォルダを任意に生成し,そのフォルダの中にそれぞれの電子メールアドレ ス名を名前とする下位フォルダを生成した後,その中にそれぞれの電子メ ールアカウントから選別した資料を貯蔵した。この後,上記フォルダ内の 資料に対してデジタルフォレンジックプログラムを利用してそれぞれのフ ァイルについてのハッシュ値を生成した後,全体のファイルを複写して移 動型貯蔵装置(USB) ₂ 個にそれぞれ貯蔵し,それぞれのファイルについ てのハッシュ値が記録された「電子詳細情報目録」を出力して原本ファイ ルと写本ファイルのそれぞれについてのハッシュ値を一つ一つ比較してハ ッシュ値が同じであることを確認した。そして,上記移動型貯蔵装置 ₂ 個 のうち ₁ 個は封印して上記参与人及び立会人4)に各署名させた(上記のと おりの捜索・押収手続を併せて「本件捜索・押収」という。)。」

 2. 第一審判決 ─ソウル中央地方法院(合議部)2016年12月15日判 決,2016コ合538,558(併合),大法院判例集65巻(刑事篇)1131頁,懲 役 ₄ 年及び資格停止 ₄ 年,一部無罪(本件公訴事実を含まず)

 被告人及び弁護人は,「外国にサーバがある電子メールのアカウントに

ID

とパスワードを入力したことは,管轄権のない対象に対して捜査をし たものであり,適法な司法共助手続を経なかったため違法な証拠収集であ る。」などと主張したが,第一審は,①本件捜索・押収について,捜査官 が適法に知り得た電子メールの

ID

とパスワードを入力することは, 捜 索・押収令状の執行に当たっての必要な処分に当たり,②

SINA. COM

の 電子メールは全世界のどこからでもアクセスすることができるから,電子

4) ここでいう「参与人」とは,刑訴法により捜索押収に立ち会わせるべきとし

ている者を指し(本件では,主任研究員),「立会人」とは,本件令状において

立ち会わせるべきとしている者を指す(本件では,デジタルフォレンジックの

専門家)。

(6)

メールサーバの管理者の意思は正当な権限を持ち,IDとパスワードを知 っている者であれば,どこからでもアクセスすることができるようにして いると推定することができるため,国家情報院捜査官は令状に基づく正当 なアクセス権限を有していることから,韓国から電子メールにアクセスし ても,何らの違法はなく,国際的な管轄権の問題も生じない,③国家情報 院捜査官は,サーバそれ自体に対して捜索・押収をしたものではないた め,国際法上の管轄の原因となる特別な問題を惹起するものでもないた め,必ずしも司法共助を経なければならないと見ることもできないなどと して,本件捜索押収は適法であると解し,本件公訴事実を含む公訴事実に ついて有罪と判断し,被告人を懲役 ₄ 年等に処した。

 3. 控訴審判決 ─ソウル高等法院2017年 ₆ 月13日判決,2017ノ23,

大法院判例集65巻(刑事篇)1075頁,破棄自判,懲役 ₃ 年及び資格停止 ₃ 年,一部無罪(本件公訴事実を含む),検事控訴棄却

 被告人側は,本件捜索押収は違法であり,これを通して取得された電子 メールの内容は違法収集証拠であって,その違法性は重大で証拠能力はな いと主張した。控訴審は次のように判示し,その主張を容れた。

 「①捜索・押収に関する刑事訴訟法の諸規定を見ると,刑事訴訟法にお いて定めている捜索・押収は,被告人又は被疑者等を相手として行われる 対人的強制処分ではなく,押収すべき物を相手として行われる対物的強制 処分であるのであり,電子郵便等の通信秘密保護法第 ₂ 条第 ₃ 号において 定める電気通信に対する捜索・押収もまた,たとえその対象が有形物では なく実際に捜索・押収をするためには当該資料を保管している機関等の協 助が必須的であるという特徴があるが,これを異に見るものではない。そ うであるのに,もし捜査機関が特定の電子メールサービス利用者から電子 メールのアカウントに関するアクセス権限に関する資料(ID,パスワー ド)を確保したことを奇貨として,外国に位置するサーバにおいて当該デ ジタル情報自体を保管している電子メールサービス提供者に対する強制処 分ではない,そのほかの方法によって当該電子メールのアカウントにアク セスして関連する電気通信等に関する資料を確保することは,刑事訴訟法

(7)

が想定している捜索・押収の方法ではないように見える。②さらに,この ような捜索・押収の場合,刑事訴訟法が定めている捜索・押収の執行方式 にも符合しない。すなわち,実際には海外の電子メールサービス提供者が 外国所在のサーバにおいて保管中である電気通信等を捜索・押収の対象と しつつも,捜索・押収令状上の捜索・押収の場所は,国内の任意の場所で 記載し,実際にその場所において捜索・押収を執行することになるとこ ろ,これは,捜索・押収は当該対象物を所持している所有者,所持者又は 保管者を相手とし,電気通信の場合には当該電気通信を所持又は保管して いる機関等を相手として当該物又は電気通信に対して行われることを定め ている刑事訴訟法第106条及び第107条の規定に抵触する。③そのうえ,そ のような方式の捜索・押収を許容すれば,処分を受ける者に当該捜索・押 収令状を必ず呈示するように定めている刑事訴訟法第118条のほか, 捜 索・押収が被告人又は被疑者の住居地以外において行われる場合,当該住 居主又は看守者等を参与させるように定めている刑事訴訟法第123条の規 定を実質的に回避することになると見ることができる。④さらに,捜索・

押収の対象である電気通信自体を直接保管している者を相手とせず,電子 メールサービス利用者のアクセス手段を利用して任意の場所において当該 電子メールのアカウントにアクセスして関連する電気通信等を収集する方 式の捜索・押収を許容する場合,これは,捜索・押収処分を受けることに なる電子メールサービス提供者の参与を排除したまま行われることになる ことで,収集された証拠の原本性及び無欠性を実質的に担保することがで きなくなる問題もまた発生する。⑤そして,刑事訴訟法第120条第 ₁ 項に おいて「押収・捜索令状の執行に当たっては,鍵錠を開き,又は開封その 他必要な処分をすることができる。」と規定しており,この規定が検証令 状を執行する場合にも準用されはするが,鍵錠を開き,又は開封して捜 索・押収する場所ないし対象物が海外に存在して大韓民国の司法管轄権が 及ばない海外電子メールサービス提供者の海外のサーバ及びその海外のサ ーバに所在する貯蔵媒体の中のデジタル情報に対してまで,捜索・押収・

検証令状の効力が及ぶものと見ることは難しい(電子メールサービス提供

(8)

者が外国の企業であり,サーバが海外に存在する場合,大韓民国の司法管 轄権が適用されないため,捜査機関が情報貯蔵媒体に物理的にアクセスす ることができる方法はなく,したがって現在としては,刑事司法共助手続 を経て,又は個別の電子メールサービス提供者の協助を得てデジタル情報 の提供を受けなければならないものと思われ,究極的には,関連法令の改 正や関連外国との条約締結の方法により解決すべき問題であるといえる。)。

したがって,現行刑事訴訟法上の捜索・押収・検証制度としては,このよ うな方式の捜索・押収・検証は適法であると見るのは難しい。」

 そして,本件公訴事実については,犯罪の証明がないとして無罪である と判断し,第一審判決を破棄したうえで,被告人を懲役 ₃ 年等に処した

(なお,仮に本件捜索・押収が適法なものであったとしても,本件公訴事 実を有罪と認定することはできないとしている(後述する大法院判決中の 原審の「仮定的判断」)。)。

 原判決に対し,双方が上告を申し立てた。検事は,本件判示事項に関す る上告理由において,「本件捜索・押収は,令状に記載された方法及び関 連法令に従って行われたものであるため適法であるのに,原審が令状の執 行過程に手続的違法があるという理由により本件捜索・押収によって収集 された電子メール証拠の証拠能力を否定したことは,法理誤解等の誤りが ある」と主張した5)

《判旨》

上告棄却【大法官: 朴パク・サンオク商 玉(裁判長), 金キム・ヨンドク龍 德(主審), 金キム・シン伸,

パク・ジョンファ

貞杹〔全員一致〕】

 「⑴ 捜索・押収は,対象物の所有者又は所持者を相手に行うことがで き,これは当該所有者又は所持者が被告人又は被疑者である場合でも同様 である(刑事訴訟法第106条第 ₁ 項,第 ₂ 項,第107条第 ₁ 項,第108条,

5) 丁文�「遠隔地貯蔵媒体に貯蔵された電子情報に対する押収・捜索」大法院

判例解説114号(2018年 ₆ 月)540頁。

(9)

第109条第 ₁ 項,第219条参照)。さらに,情報貯蔵媒体に貯蔵された電子 情報に対する捜索・押収は,令状発付の事由となった犯罪嫌疑事実と関連 する部分のみを出力し,又は複製する方法で行わなければならず,ただ し,範囲を定めて出力若しくは複製する方法が不可能であり,又は押収の 目的を達成することが著しく困難であると認められるときには,情報貯蔵 媒体自体を押収することができる(刑事訴訟法第106条第 ₃ 項,第219条参 照)。

 インターネットサービス利用者は,インターネットサービス提供者と締 結したサービス利用契約によって,そのインターネットサービスを利用し て開設した電子メールのアカウントと関連するサーバに対するアクセス権 限を有し,当該電子メールのアカウントにおいて生成した電子メール等の 電子情報に関する作成,修正,閲覧,管理等の処分権限を有し,電子情報 の内容に関して私生活の秘密と自由等の権利保護利益を有する主体であっ て,当該電子情報の所有者ないし所持者であるということができる。さら に,インターネットサービス提供者は,サービス利用約款によって,電子 情報が貯蔵されたサーバの維持,管理責任を負担し,当該サーバのアクセ スのために入力された

ID

とパスワード等がインターネットサービス利用 者が登録したものと一致すれば,アクセスしようとしている者がインター ネットサービス利用者であるかどうかを確認せずにアクセスを許容して当 該電子情報を情報通信網によって連結されているコンピュータ等の他の情 報処理装置に移転,複製等をすることができるようにしていることが一般 的である。

 したがって,捜査機関がインターネットサービス利用者である被疑者を 相手として被疑者のコンピュータ等の情報処理装置内に貯蔵されている電 子メール等の電子情報を捜索・押収することは,電子情報の所有者ないし 所持者を相手として当該電子情報を捜索・押収する対物的強制処分であ り,刑事訴訟法の解釈上許容される。

 さらに,捜索・押収すべき電子情報が捜索・押収令状に記載された捜索 場所にあるコンピュータ等の情報処理装置内になく,その情報処理装置と

(10)

情報通信網によって連結され,第三者が管理している遠隔地のサーバ等の 貯蔵媒体に貯蔵されている場合であっても,捜査機関が被疑者の電子メー ルのアカウントに対するアクセス権限に代えて,発付を受けた令状によっ て,令状記載の捜索場所にあるコンピュータ等の情報処理装置を利用して 適法に取得した被疑者の電子メールのアカウントの

ID

とパスワードを入 力するなど,被疑者がアクセスする通常的な方法によって,その遠隔地の 貯蔵媒体にアクセスし,そこに貯蔵されている被疑者の電子メールに関連 する電子情報を捜索場所の情報処理装置にダウンロードし,又はその画面 に現出させることもまた,被疑者の所有に属し,又は所持する電子情報を 対象として行われるものであるため,その電子情報に対する捜索・押収を 上述したことと異に解する必要はない。

 たとえ捜査機関が上記のように遠隔地の貯蔵媒体にアクセスしてその貯 蔵された電子情報を捜索場所の情報処理装置にダウンロードし,又はその 画面に現出させたとしても,これはインターネットサービス提供者が許容 した被疑者の電子情報に対するアクセス及び処分権限並びに一般的なアク セス手続に基づいたものであって,特別な事情がない限り,インターネッ トサービス提供者の意思に反するものであると断定することはできない。

 さらに,刑事訴訟法第109条第 ₁ 項,第114条第 ₁ 項において令状に捜索 すべき場所を特定するようにした趣旨及び情報通信網によって連結されて いる限り情報処理装置又は貯蔵媒体間の移転,複製が容易である電子情報 の特性等に照らしてみれば,捜索場所にある情報処理装置を利用して情報 通信網によって連結された遠隔地の貯蔵媒体にアクセスすることが上記の ような刑事訴訟法の規定に違反して捜索・押収令状において許容した執行 の場所的範囲を拡大したものと見ることはできない。捜索行為は,情報通 信網を通して遠隔地の貯蔵媒体から捜索場所にある情報処理装置にダウン ロードし,又は現出された電子情報に対して上記情報処理装置を利用して 行われ,押収行為は,上記情報処理装置に存在する電子情報を対象として その範囲を定めてこれを出力又は複製する方法で行われるため,捜索から 押収に至る一連の過程が全て捜索・押収令状に記載された場所において行

(11)

われたためである。

 上記のような諸事情を総合して見れば,被疑者の電子メールのアカウン トに対するアクセス権限に代えて,発付を受けた捜索・押収令状によって 遠隔地の貯蔵媒体に適法にアクセスしてダウンロードし,又は現出された 電子情報を対象として犯罪嫌疑事実と関連する部分に対して捜索・押収す ることは,捜索・押収令状の執行を円滑かつ適正に行うための必要最小限 度の範囲内で行われ,その手段と目的に照らして社会通念上妥当であると 認められる対物的強制処分行為として許容され,刑事訴訟法第120条第 ₁ 項において定めた捜索・押収令状の執行に必要な処分に該当するものとい うことができる。そして,このような法理は,遠隔地の貯蔵媒体が国外に ある場合であっても,その事情のみによって異に見るものではない。」

 (筆者注:前掲 ₁ ⑵判示事項に関連する捜索・押収参照)

 「⑷ ア しかし,上記事実関係を,上述した法理に照らして考察すれ ば,本件捜索・押収は,適法に発付された本件捜索・押収令状によってそ の令状記載の捜索場所にあるコンピュータにおいて,捜査機関が事前に適 法に取得した被疑者の電子メールアカウントに関する

ID

とパスワードの 情報を利用して,被疑者がアクセスする通常的な方法でそのコンピュータ と情報通信網によって連結された遠隔地のサーバにアクセスしてそこに貯 蔵されている電子メール等の電子情報を上記コンピュータに現出させて犯 罪と関連する電子情報に対する選別捜索・押収をしたものであって,刑事 訴訟法の解釈上許容されうるインターネットサービス利用者である被疑者 を被捜索・押収当事者として行った電子情報の捜索・押収に当たる。そし て,本件捜索・押収は,それに先立ち被疑者と弁護人に令状を呈示して参 与の機会を付与し,そのうえ令状を呈示した後,韓国インターネット振興 院所属研究員等が参与する中,本件捜索・押収令状において定めた内容に 従って犯罪と関連する電子情報を出力,複製するなどの手続で行われたた め,これは刑事訴訟法第106条,第118条,第121条,第122条,第123条第

₂ 項において定める手続に従ったものであって,適法であると認められ る。

(12)

 これとは異なり,本件捜索・押収が違法であり,これを通して取得した 証拠物の証拠能力がないとする原審の上記判断部分は,上述した法理に背 馳する前提で判断したものであって誤りである。」

 なお,大法院は,以上のとおり本件捜索・押収は適法であると解しつつ も,仮に電子メール等の証拠能力が認められたとしても本件公訴事実につ いて有罪を認定することができないとする原審の「仮定的判断」には誤り はないとし,検事の上告を棄却し,本件公訴事実に対する原審の無罪判断 を維持している。

《解説》

 1 本判決(以下,上告審判決を指す。)の事案は,国家保安法違反事 件に関連して,国家情報院捜査官6)が被告人名義の車両内で発見した

USB

メモリに対する捜索押収の結果,その中の文書から「分期ごとに使用する 電子メールアドレスとパスワード」を知ったことから,国家情報院捜査官 等は,捜索押収令状の発付を受けて,韓国インターネット振興院7)に設置 されたパソコンから,中国系ポータルサイトである

SINA. COM

のメール アカウントにログインして電子メールの本文をキャプチャしたイメージフ ァイルなどを出力・貯蔵することによって押収したといういわゆる国外サ ーバに対するリモートアクセス8)を行ったものであり,大法院は,本件リ モートアクセスについて,適法であると判示した。

6) 国家情報院長が指名する職員は,国家保安法違反について特別司法警察職員 となる(国家情報院法16条)。

7) 韓国インターネット振興院については, 同院の英文サイト参照〔https://

www.kisa.or.kr/eng/main.jsp〕(最終閲覧日:平成31年 ₄ 月30日)。

8) 当事者間において,少なくとも本件捜索押収の対象となった電子メールが国 内サーバに保管されていないという点については,争いはなかったとされる

(丁文�・前掲注5)541頁)。なお,SINA. COM のデータの貯蔵場所は,アメ リカ合衆国バージニア州であると指摘するものもある(李順玉「デジタル証拠 の域外押収・ 捜索」 中央法学20巻 ₁ 号(2018年 ₃ 月)122頁。 この指摘は,

https://check-host.net/ による検索結果に基づくものである。)。

(13)

 ただ,そもそも韓国には,国外サーバに対するリモートアクセスに関す る規定はもとより,その許容の前提となる9)リモートアクセスに関する我 が国の刑訴法99条 ₂ 項及び218条 ₂ 項に相当する規定はない(なお,情報 貯蔵媒体の押収方法に関する規定は存在する10)。)。さらに,韓国は,我が 国と異なり11),欧州評議会の「サイバー犯罪に関する条約」を締結しても いない。その一方で,これまでの韓国の捜査実務(または令状実務)にお いては,国外サーバに対するものを含むリモートアクセスが実施されてき たとされる12),13),14)。

9) 丁文�・前掲注5)541─ 542頁。

10) 刑訴法106条(押収)「③法院は,押収の目的物がコンピュータ用ディスク,

その他にこれと類似する情報貯蔵媒体(以下,本項において「情報貯蔵媒体 等」という。)である場合には,記憶された情報の範囲を定めて出力し,又は 複製して提出を受けなければならない。ただし,範囲を定めて出力若しくは複 製する方法が不可能であり,又は押収の目的を達成することが著しく困難であ ると認められるときには,情報貯蔵媒体等を押収することができる。

 ④法院は,第 ₃ 項によって情報の提供を受けた場合,「個人情報保護法」第

₂ 条第 ₃ 項による情報主体に当該事実を遅滞なく知らせなければならない。

(①,②省略)」

11) 平成24年条約 ₇ 号(平成24年 ₇ 月 ₄ 日公布,同年11月 ₁ 日我が国について効 力発生)。

12) 丁文�・前掲注5)547,561─562頁。

13) 検察庁の内部例規ではあるが,「押収・捜索の対象である情報貯蔵媒体と情 報通信網によって連結されており,押収・捜索の対象となるデジタル証拠を貯 蔵しているものと認められる他の情報貯蔵媒体に対して,捜索・押収対象であ る情報貯蔵媒体を通して接続したのち,捜索をすることができる。この場合,

押収・捜索・検証の対象情報貯蔵媒体が情報通信網に連結されており,押収・

捜索の対象者が情報通信網に接続して記憶された情報を任意に削除するおそれ がある場合には,情報通信網の連結ケーブルを遮断することができる。」と明 文で規定するものもある(「デジタル証拠の収集・分析及び管理規程」(大検察 庁例規876号)15条 ₂ 項(デジタル証拠の押収・捜索・検証))。

14) リモートアクセスに関する事案についての判例ではないが,大法院2015年 ₇ 月16日全員合議体決定(2011モ1839)の多数意見に対する補充意見(李

イ・インボク

仁馥,

イ・サンフン

尙勳,金

キム・ソヨン

昭英)において,「そのうえ,遠隔地のサーバに貯蔵されている情

(14)

 さて,我が国においては,現在,裁判例15)の出現を契機として,特に国 外サーバに対するリモートアクセスの可否等を巡る議論が活発になされて いる。そこで,韓国においては,リモートアクセスに関する直截的な根拠 規定がないことから,そもそもリモートアクセス自体の可否が問題とな り,さらには「国外」サーバに対するリモートアクセスの可否が問題とな るところ16),本件国外サーバに対するリモートアクセスについて適法と解 した本判決は,我が国にとっても参考となるところは少なくないと考えら れることから,本稿において紹介するものである。

 2 ⑴ まず,本件捜索押収の相手方について,原審は,捜索押収は対 物的強制処分であることから,当該デジタル情報を保管している電子メー ルサービス提供者であると解したが,本判決は,被疑者であると解してい る17)。刑訴法では,処分を受ける者に捜索押収令状を必ず呈示しなければ ならないとされているが(刑訴法219条18),118条19)),もし,原審のよう に本件捜索押収の相手方をデジタル情報を保管している

SINA. COM

であ ると解すると,本件では,SINA. COMに対しては令状が呈示されていな

報であっても,令状に記載された捜索場所から当該サーバ又はウェブサイトに アクセスして犯罪と関連する電子メール等の電子情報を複製し,又は出力する 方法により行う捜索・押収も可能である。」としたものがある。

15) 東京高判平成28年12月 ₇ 日高刑集69巻 ₂ 号 ₅ 頁及び大阪高判平成30年 ₉ 月11 日裁判所ウェブサイト並びに各原判決。

16) なお,本判決に対する評釈等を含む韓国の論稿においては,一般に,(我が 国の刑訴法99条 ₂ 項及び218条 ₂ 項に相当する)リモートアクセスを「遠隔捜 索押収」,国外サーバに対するリモートアクセスを「域外捜索押収」と定義づ けて論じられている(「域外捜索押収」については本件原審も用いている。)。

17) 李順玉・前掲注8)124─125頁。

18) 刑訴法219条(準用規定)「第106条,第107条,第109条乃至第112条,第114 条,第115条第 ₁ 項本文,第 ₂ 項,第118条から第132条まで,第134条,第135 条,第140条,第141条,第333条第 ₂ 項,第486条の規定は,検事又は司法警察 官の本章の規定による押収,捜索又は検証に準用する。(但書省略)」

19) 刑訴法118条(令状の提示)「押収・捜索令状は,処分を受ける者に必ず提示

しなければならない。」

(15)

いことが問題となる20)。一方,本判決のように本件捜索押収の相手方を被 疑者であると解すれば,本件では,実際に被疑者には令状が呈示されてい るため,この点に関する違法はないということになる。

 その理由として,本判決では,刑訴法上,捜索押収は,対象物の所有 者・所持者を相手に行うことができるが,インターネットサービス利用者 は,電子メール等の電子情報に関する処分権限を有し,電子情報の内容に 関する権利保護利益を有する主体であるので,当該電子情報の所有者・所 持者であるといえるとする21)。それゆえ,被疑者を相手として被疑者のコ ンピュータ内にある電子メール等の電子情報を捜索押収することは,電子 情報の所有者・所持者を相手として当該電子情報を捜索押収する対物的強 制処分として刑訴法上許容されるが,さらにリモートアクセスによる場合 であっても,被疑者の所有・所持する電子情報を対象として行われるもの であるため,同じことがいえるとするものである。

 そもそも,刑訴法上の押収に関する規定は,押収の対象物とその範囲を 確定するところに意義があるため,押収処分の相手方については,柔軟に 考える余地があるとしたうえで,インターネットサービス利用者は,アカ

20) 処分を受ける者を国外に位置するサーバであると見れば,国外電子メール管 理者に令状を呈示しなければならないため,国外サーバに対するリモートアク セスは違法なものとなるとする見解がある一方(イ・ジョンミン「外国系イー メールアカウントに対する押収・ 捜索の正当性」 比較刑事法研究19巻 ₃ 号

(2017年10月)136頁),「被処分者が現場におらず,又は現場においてその者を 発見することができない場合等,令状呈示が現実的に不可能な場合には,令状 を呈示しないまま捜索・押収をしたとしても違法であると見ることはできな い。」(大法院2015年 ₁ 月22日全員合議体判決(2014ド10978))として,仮に原 審のように処分を受ける者を SINA. COM であると解しても,SINA. COM に 令状を呈示しないことが必ずしも違法となるわけではないとする見解もある

(李順玉・前掲注8)141頁)。

21) 本判決が,無形物である「電子情報」について,物を対象として使用する

「所有者・所持者」の概念を認めたことは,特別に注目されるとする見解があ

る(申東雲『간추린 

신형사소송법[第11版]』(法文社,2019年)142,180

頁)。

(16)

ウント内の情報に対する処分権限,私生活の秘密と自由,情報に対する自 己決定権,財産権等の権利保護利益を有し,統制権を有する主体であるた め,当該情報に対する所有者ないし所持者であるインターネットサービス 利用者を相手に捜索押収令状を執行することも可能であるとする22)。  また,捜索押収は対物的強制処分ではあるが,刑訴法では捜索押収の処 分を受ける者には,適正手続の保障のために参与権等が保障されており,

このような手続保障は,処分を受ける者が誰であるかに対する判断に当た って考慮することができるとしたうえで,強制処分によって私生活ないし 住居の自由等の基本権が侵害される恐れがある者が処分を受ける者に当た ると解するのが自然であり,本件では,捜査機関が対象者のアクセス権限 を利用してその電子メールにアクセスする行為が侵益的処分であるため,

メールのアカウントの所有者等,管理処分権限を有する者であると解釈す べきであるとする23)

 他方,インターネットサービス提供者について,本判決は,サーバへの アクセスのために入力された

ID

とパスワード等が登録されたものと一致 すれば,アクセスしようとしている者がインターネットサービス利用者で あるかどうかを確認せずにアクセスを許容していることが一般的であると したうえで,被疑者のアクセス権限に代えて令状に基づき,さらに一般的 なアクセス手続に基づいたものであれば,特別な事情がない限り,インタ ーネットサービス提供者の意思に反するものであると断定することはでき ないとしている。

 インターネットサービス提供者は,利用者のデータに対する処分権限を 有しているわけではなく24),また,通常のインターネットサービス利用者 のアクセス方法に従ったものであれば,その意思に反するものとも考えら

22) 丁文�・前掲注5)586頁。

23) 申都旭「遠隔押収・捜索の適法性」法曹729号(2018年 ₆ 月)511─512頁。李 順玉・前掲注8)135 ─ 136頁も,手続参与権を保障すべき対象はインターネッ トサービス提供者ではなく,サービス利用者であるとしている。

24) 李順玉・前掲注8)135頁。

(17)

れないのである25)。それゆえ,本件では,インターネットサービス提供者 である

SINA. COM

は捜索押収の相手方として見ることはできないとした ものであろう。

 ⑵ また,本件捜索押収の場所について,原審は,インターネットサー ビス提供者(SINA. COM)の外国所在のサーバであると解したが,本判 決は,実質的に捜索行為が行われた当該パソコンであると解している26)。  そして,本判決は,捜索場所にあるコンピュータ(韓国インターネット 振興院にあるパソコン)を利用してリモートアクセスをしたとしても,刑 訴法の規定に違反して捜索・押収令状において許容した執行の場所的範囲 を拡大したものと見ることはできないとしている。

 この理由として,まず,捜索行為は,「情報通信網を通して遠隔地の貯 蔵媒体から捜索場所にある情報処理装置にダウンロードし,又は現出され た電子情報に対して上記情報処理装置を利用して行われ」ており,また,

押収行為は,「上記情報処理装置に存在する電子情報を対象としてその範 囲を定めてこれを出力又は複製する方法で行われ」ているため,捜索行為 と押収行為の全てが,捜索押収令状に記載された場所で行われていること が挙げられている。

 そして,また,一般令状の弊害を防止するために令状に捜索すべき場所 を特定することとしたという法の趣旨,ネットワークでつながっている場 所であれば,世界のどこからでも,ログインしてメールサーバに保管され ている電子メールの情報を閲覧することができるという電子情報の特性等 を考慮すれば,捜索場所のコンピュータを利用してリモートアクセスした としても,捜索すべき場所の特定の意味を失わせるものではないとするも のである27)

 刑訴法では,公務所等以外の他人の住居等において捜索押収令状を執行

25) 丁文�・ 前掲注5)590頁, 李順玉・ 前掲注8)136頁, 申都旭・ 前掲注23)

512頁。

26) 李順玉・前掲注8)124─125頁。

27) 丁文�・前掲注5)586 ─ 587頁。

(18)

するには,その住居主等を参与させなければならないとしているが(刑訴 法219条,123条 ₂ 項28)), もし, 原審のように本件捜索押収の場所を

SINA. COM

のサーバであると解すると,捜索押収令状を執行するに当た

って

SINA. COM

のサーバ管理者等を参与させなければならないが,本件 では,参与させていないことが問題となる。一方で,本判決では,捜索場 所を韓国インターネット振興院のパソコンと解しているため,本件では,

韓国インターネット振興院所属研究員等を捜索押収令状の執行の際に参与 させていることから,この点に関する違法はないということになる29)。ま た,捜索押収令状を執行するに当たっては,被疑者・弁護人も参与するこ とができ(刑訴法219条,121条30)),さらに,被疑者・弁護人には原則と して事前に日時場所を通知しなければならないとされているが(刑訴法 219条,122条31)),本件被疑者及び弁護人は,参与するかを尋ねられた際

(本件捜索押収の前々日)に,被疑者は答えず,弁護人も意思を明らかに しなかったことから,この点についても違法の問題はないことになる32)。  ⑶ そして,本判決は,本件リモートアクセスは,捜索押収令状の執行 に当たっての「必要な処分」(刑訴法219条,120条 ₁ 項)に該当するとし ている。

 刑訴法120条 ₁ 項33)では,捜索押収令状の執行に当たっては必要な処分

28) 刑訴法123条(令状の執行と責任者の参与)「②前項に規定する以外の他人の 住居,看守者のある家屋,建造物,航空機又は船車内において押収・捜索令状 を執行するには,住居主,看守者又はこれに準ずる者を参与させなければなら ない。」

29) イ・ジョンミン・前掲注20)137頁参照。

30) 刑訴法121条(令状執行と当事者の参与)「検事,被告人又は弁護人は,押 収・捜索令状の執行に参与することができる。」

31) 刑訴法122条(令状執行と参与権者への通知)「押収・捜索令状を執行するに は,あらかじめ執行の日時及び場所を前条に規定する者に通知しなければなら ない。但し,前条に規定する者が参与しないとする意思を明示したとき又は急 速を要するときには例外とする。」

32) 李順玉・前掲注8)142頁。イ・ジョンミン・前掲注20)135頁参照。

33) 刑訴法120条(執行と必要な処分)「①押収・捜索令状の執行に当たっては,

(19)

をすることができると規定している。この必要な処分は,「捜索・押収令 状の執行の目的を達成するために必要な最小限度において,その手段と目 的に照らして社会通念上相当であると認められる場合でなければならな い。」とされ34),「執行それ自体より広い概念であり,執行をするのに不可 欠な行動,執行それ自体に限らず執行を円滑かつ適正に行うための必要不 可欠な事前行為を含む」ものとされるが35),本件リモートアクセス行為 は,それに含まれるとするものである。それゆえ,この段階で本判決は,

「リモートアクセス」という捜査方法については,許容していると解する ことができる。

 ただ,本件でさらに問題になるのは,このサーバの所在地が国外である 場合のリモートアクセスの可否である。原審は,大韓民国の司法管轄権が 及ばない国外サーバに対してまで令状の効力が及ぶものと見ることは難し いとしていることから,必要な処分としても行うことができないと解して いる。一方,本判決は,本件国外サーバに対するリモートアクセスを適法 と解するに当たって,「遠隔地の貯蔵媒体が国外にある場合であっても,

その事情のみによって異に見るものではない。」とするだけであるが,そ の理由としては,国外サーバに対するリモートアクセスをする実際上の必 要性に加え,評釈等では主に次の ₃ 点が挙げられている。

 第一に,本件捜索押収行為の全てが,前述したとおり,「国内」の捜索 場所である韓国インターネット振興院のパソコンにおいて行われているこ とから,国外で行われたと見ることはできないとするものである36)。  第二に,国外サーバに対するリモートアクセスは,被疑者のインターネ ットサービス利用者としての権限に基づくものであるため,令状の域外適

鍵錠を開き,又は開封その他必要な処分をすることができる。(②省略)」

34) 金熙玉=朴一煥(編集代表)『註釈刑事訴訟法(Ⅰ)第 ₅ 版』(韓国司法行政 学会,2017年)618頁〔安晟秀〕。

35) イ・ジョンミン・前掲注20)128頁。

36) 丁文�・前掲注5)588頁。李順玉・前掲注8)137頁参照。

(20)

用の問題は生じないとする37)。また,一連の捜索押収の過程で最も基本権 の侵益的な行為は,捜査機関が対象者のアクセス権限を利用して電子メー ルにアクセスすることであると解されるが,この行為は,韓国において行 われたものであるため,捜索押収の過程が韓国で行われたと評価されると いうことである38)

 第三に,有体物に対する捜索押収とは異なり,本件のようなリモートア クセスでは,国外のサーバ内にはデータはそのまま残ることから,押収対 象の情報の占有を排他的に取得したものでもないため,捜索押収の場所が 外国であると見ることは難しいとするものである39)

 これらを整理すると,本件の捜索行為及び押収行為は韓国国内にある捜 索場所で行われており,また電子メールを押収したとしても国外サーバに はデータは残り続けるため,結局,捜査機関は被疑者のアクセス権限を利 用したということにとどまり,そしてこのアクセス権限の利用は韓国国内 で行われたからであるということであろう40)

 ⑷ なお,本件捜索押収に当たって発付された令状の表題は「捜索・押 収・検証令状」であり,その令状の内容についても「捜索・押収・検証す べき物」,「捜索・押収・検証すべき場所」,「捜索・押収・検証方法」とい う項目があり,本件リモートアクセスには,捜索及び押収のほかに検証と 評価される行為も含まれているかのようにも見える。本件令状に「検証」

という文言が含まれているのは,韓国では「捜索押収検証令状」という一 つの電算様式にまとめられている41)ことに起因するものと考えられるが,

本件リモートアクセスに「検証」と評価される行為が含まれているかは必 ずしも明らかではないにせよ, 本判決の判示部分には,「捜索行為」 と

37) 丁文�・前掲注5)588頁。

38) 申都旭・前掲注23)514頁。

39) 李順玉・前掲注8)136─137頁。

40) イ・ジョンミン・前掲注20)133─134頁参照。

41) 法院行政処『法院実務提要 刑事〔Ⅰ〕(第 ₄ 版)』(法院行政処,2014年)

370 ─371頁。

(21)

「押収行為」だけしか挙げられていないことからすれば,本判決において は,「検証」としてリモートアクセスすることができるかについては,明 確には判断していないといえよう。

 ⑸ 本判決に対しては,国外サーバに対するリモートアクセスを許容す る必要性自体は認めつつも,インターネットサービス提供者を相手方とし ない捜索押収は,現行刑訴法が定めている方法ではないと見るべきである として,反対する立場も依然として残っている42)

 3 射程について見てみると,本判決は,適法に取得したアカウント情 報に基づいてリモートアクセスした行為について適法であると解している ものであるため,ID,パスワード等のアカウントへのアクセス情報がわ からない場合に,例えばハッキングプログラム等の技術的手段を利用して アカウント情報を取得することの可否等については,本判決の射程外であ るといえる43)

 また,本判決は,国家保安法違反事件における国外サーバに対するリモ ートアクセスを適法であると解したものであるが(なお,後述する同種判 例も国家保安法違反事件に係るものである。),刑訴法上の捜索押収として 行うことができると解していることから,本判決の射程は,国家保安法違 反事件の捜査に限定されるものではないと考えられる。ただし,国外サー バに対するリモートアクセスに当たっても,いわゆる比例原則に符合しな ければならないことから44),その適否については,比例原則に基づく個別 的判断がなされることになろう。

 4 本件被告事件とほぼ並行して裁判所に係属した同種の事案として,

同じく国家保安法違反事件に係る大法院2017年10月31日判決(2017ド 12643)45)がある。これは,当該事案における国外メールサーバに対するリ

42) イ・スヨン=イム・ギュチョル「域外押収捜索の手続的違法性に対する批判 的小考」比較法研究18巻 ₂ 号(2018年 ₈ 月)81頁以下(特に93,96,99─100頁)。

43) 李順玉・前掲注8)139頁。

44) イ・ジョンミン・前掲注20)138─140頁。

45) 公刊物未登載。主に原判決の判旨等が本判決に対する評釈等において紹介さ

(22)

モートアクセスを適法であると判断した原判決(ソウル高等法院2017年 ₇ 月 ₅ 日判決(2017ノ146))に対する上告を棄却したものである。

(平成31年 ₄ 月30日脱稿)

【追記】

 脱稿後,注13の大検察庁例規が全部改正された(大検察庁例規991号,2019年 ₅ 月20日施行)。同注に引用した条文に相当する改正後の条文は次のとおりである(下 線は改正部分)。

 18条(デジタル証拠の押収・捜索・検証)「⑥押収・捜索・検証の対象である情 報貯蔵媒体と情報通信網によって連結されており,押収・捜索・検証の対象となる デジタル証拠を貯蔵しているものと認められる他の情報貯蔵媒体に対して,捜索・

押収・検証対象である情報貯蔵媒体のシステムを通して接続したのち,捜索をする ことができる。この場合,押収・捜索・検証の対象情報貯蔵媒体が情報通信網に連 結されており,押収・捜索・検証の対象者が情報通信網に接続して記憶された情報 を任意に削除するおそれがある場合には,情報通信網の連結ケーブルを遮断するこ とができる。」

本件対象判例に関する論考・評釈等

(判批・判解)

・イ・スヨン=イム・ギュチョル「域外押収捜索の手続的違法性に対する批判的小 考」比較法研究18巻 ₂ 号(2018年 ₈ 月)81頁

・丁文�「遠隔地貯蔵媒体に貯蔵された電子情報に対する押収・捜索」大法院判例 解説114号(2018年 ₆ 月)535頁

・申都旭「遠隔押収・捜索の適法性」法曹729号(2018年 ₆ 月)483頁

・李順玉「デジタル証拠の域外押収・捜索」中央法学20巻 ₁ 号(2018年 ₃ 月)117 頁

・イ・ジョンミン「外国系イーメールアカウントに対する押収・捜索の正当性」比 較刑事法研究19巻 ₃ 号(2017年10月)117頁

(判例紹介,新聞記事等)

・金敬桓「海外サーバに貯蔵されたイーメールに対する押収捜索」法律新聞(イン ターネット版)2017年 ₉ 月12日〔https://www.lawtimes.co.kr/Legal-Opinion/Legal- Opinion-View?serial=121018〕(最終閲覧日:平成31年 ₄ 月30日)

・「[判決]国内で押収した『海外サーバイーメール』証拠の効力は?」法律新聞

れている。

(23)

(イ ン タ ー ネ ッ ト 版 )2017年 ₇ 月17日 記 事〔https://www.lawtimes.co.kr/Legal- News/Legal-News-View?serial=119718〕(最終閲覧日:平成31年 ₄ 月30日)

・李祥源「[2017分野別重要判例分析]16. 刑事訴訟法」法律新聞(インターネット 版 )2018年 ₆ 月21日〔https://www.lawtimes.co.kr/Legal-News/Legal-News- View?serial=144095〕(最終閲覧日:平成31年 ₄ 月30日)

・李昌玄「2017年刑事訴訟法重要判例」人権と正義473号(2018年 ₅ 月)43頁

参照

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