海外法律事情
アメリカ刑事法の調査研究(135)
米 国 刑 事 法 研 究 会
(代表 椎 橋 隆 幸)*
United States v. Jones 565 U. S. ___, 132 S. Ct. 945 (2012)
眞 島 知 子
**政府がGPS追跡装置を個人の車両に装着し,その装置を公道上の車両 の移動を追跡するために使用したことが第修正上の捜索にあたると判示 された事例。
《事案の概要》
被申請人ジョーンズは,麻薬取引の嫌疑でFBIとメトロポリタン警察 署の特別捜査隊が共同で捜査対象としていた。政府は,コロンビア特別区
(D.C.)District Courtにジョーンズの妻名義のジープに対する電子的追跡 装置の使用許可令状を請求した。令状が発付され,10日以内にD.C.内で 装置を装着することが許可された。しかし,係官が公道上の駐車場に停ま っているジープの車体下部にGlobal-Positioning-System(GPS)装置を装 着したのは令状発付から11日後,場所もD.C.ではなくメアリーランド州 においてであった。政府は車両の移動を追跡するためにこの装置を使用
* 所員・中央大学法科大学院教授・法学部教授
** 中央大学大学院法学研究科博士後期課程在学中
し,途中,車両がメアリーランド州のまた別の公道上の駐車場に停まって いた時に装置のバッテリーを交換するなどして,監視は�週間以上にわた った。複数の衛星からの信号によって,このGPS装置は車両の位置を 50〜100フィートの範囲で特定し,こうした監視によって得られたデータ は,書面にして2000頁を超えた。
政府は,ジョーンズと共犯者らを�㎏以上のコケインと50ℊ以上のコケ インベースの頒布目的所持及び頒布の共謀(合衆国法典タイトル21 841 条,846条違反)の訴因で併合起訴した。公判前にジョーンズはGPS装置 によって得られた証拠の排除を申立て,合衆国District Courtは,この申 立てを一部に限って認容した。ここで証拠に容れられなかったデータは,
ジョーンズの住居に隣接するガレージに車両が停車している間に得られた ものである。ジョーンズの公判では,共謀罪の訴因について評決不能とな ったが,その後ジョーンズとその他の共謀者らはまた別に大陪審によって 同一の共謀罪で起訴された。前の公判で証拠に許容されたGPSを利用し て得られたデータが証拠に許容され,これによりジョーンズは,85万ドル の現金と97㎏のコケイン,�㎏のコケインベースが隠匿されていた共犯者 の住居との結びつきが認定された。陪審は有罪の評決を回付し,合衆国 District Courtはジョーンズに終身刑を言い渡した。これに対してD.C.巡 回区Court of Appealsは,GPSの無令状での使用によって得られた証拠を 許容することは第�修正に違反するとの理由で,有罪判決を破棄した。合 衆国最高裁判所によりサーシオレーライが認容された。
《判旨・法廷意見》
原判断確認
スカリア裁判官執筆の法廷意見
⑴A 本件に関係する合衆国憲法第�修正の規定の部分は,「身体,住 居,書類,所持品について不合理な捜索・押収を受けない人民の権利は,
これを侵してはならない。」というものであるが,ここにいう「所持品
(effect)」という文言に車両が該当するのは明らかである。次に,本件に 比較法雑誌第47巻第�号(2013)
おいて政府が捜査対象者の所有する車両にGPSを装着し,そして車両の 移動を監視するためにこの装置を使用したことは,以下の理由から捜索に あたると当法廷は判断する。
本件において政府は,情報入手を目的にして,無断使用が認められてい ない財産(private property)を物理的に(捜査官が身体を用いて)占有し ている。「イギリスの自由の金字塔」といわれ,第修正の採択にも強い 影響を及ぼしたと考えられるEntick1)において,捜索・押収の違法性の検 討に際し財産権保障の重要性が強調されていること,そして,第修正の 規定自体が「身体,住居,書類,所持品」を列挙し財産との密接な関連を 示していること,これらの点に鑑みれば,本件で行われたような財産に対 する物理的侵害行為が,第修正採択時には,第修正にいう「捜索」に あたると考えられたことに疑いはない。
当法廷の第修正に関する法理論も,少なくとも20世紀後半まではこの ようなコモンロー上のトレスパス論と結びついていた。Olmstead2)で,公 道上の電話線から個人の電話での会話を傍受することが第修正の規制対 象にならないとされたのも,このような理由による。しかし,その後 Katz3)で当法廷は,「第修正は場所ではなく,人を保護している」とし て,このような専ら所有権のみに基づくアプロウチから離れ,電話ボック スへの傍受装置の無令状での装着は第修正に違反すると判示した。さら にその後の判例4)は,Katzのハーラン裁判官の補足意見で述べられた「個 人の『プライヴァシーの合理的期待』を政府の係官が侵害した場合に第 修正違反となる」との分析方法を採用した。そして,本件において政府
1) Entick v. Carrington, 95 Eng. Rep. 807 (C.P. 1765).
2) Olmstead v. United States, 277 U.S. 438 (1928).
3) Katz v. United States, 389 U.S. 347 (1967).
4) 例えば,Bond v. United States, 529 U.S. 334 (2000), Calfornia v. Ciraolo, 476 U.
S. 207 (1986), Smith v. Maryland, 442 U.S. 735(1979)等。Ciraoloについては,渥 美東洋編『米国刑事判例の動向 Ⅳ』(中央大学出版部,2012年)439頁(安冨 潔 担当),Smithについては,同書・290頁(柳川重規 担当)参照。
は,このハーラン裁判官が立てた基準によれば,政府の係官がアクセスし たジープの車体下部と公道上でジープが移動した位置は,すべての人が見 ることのできる状態にあったのであるから,これらについて被申請人ジョ ーンズはプライヴァシーの合理的期待を有しておらず,本件では第修正 にいう「捜索」は行われていないと主張している。しかし,上述したよう に,第修正は我が国の歴史の大部分の期間において,その規定に列挙さ れている領域に政府が不法に侵入することへの特別の懸念を具体化したも のと理解されてきた。第修正採択時に存在していたプライヴァシーの保 障の程度は,最低限のものとして現在も維持されなければならないので,
本件でジョーンズに第修正上の権利が認められるか否かは,プライヴァ シーの合理的な期待の有無によっては決まらない。そして,このような理 解は,Katz自体も否定するものではない。Katzから年経たずして当法 廷は,Alderman5)において,被告人の住居に無令状で電子的監視装置を設 置して入手した被告人以外の者の会話について,被告人自身の会話に対す るプライヴァシーは侵害されていないとの主張を斥けて,これを被告人に 不利な証拠として利用することはできないと判示した。ここで示された考 え方は,第修正が保護しているのは人や仲間内での会話であるとKatz が判示したからといって,Katzは住居等に及んでいた第修正の保護を 否定してはいないというものである。
さらにSoldal6)では,法執行機関がトレーラーハウスを強制的に移動し
たという事案において,ある法技術的な意味では押収が行われたといえて も,個人のプライヴァシーを侵害していない以上第修正違反は生じてい ないとの主張がなされたのに対し,当法廷はこれを斥け,Katzは財産権 が第修正違反の有無を判断する際の唯一の基準ではないとした。そし て,その際,Katzは以前から認められている財産に対する保護を消滅さ せるものではない,と述べている。ブレナン裁判官がKnotts7)の補足意見
比較法雑誌第47巻第号(2013)
5) Alderman v. United States, 394 U.S. 165 (1969).
6) Soldal v. CookCounty, 506 U.S. 56 (1992).
7) United States v. Knotts, 460 U.S. 276 (1983). Knottsについては,渥美・注4)
で説明したように,Katzは政府が情報を得るために憲法上保護された領 域に物理的に侵入すれば,その侵入は第修正違反になりうるとの原則を 浸食するものではないのである。このようなKatzが過去に認められてい た権利を残すものであるとの考えは,プライヴァシーの合理的な期待の定 義の中にも示されている。というのも,当法廷がこれまで述べてきている ように,このプライヴァシーの合理的な期待というのは,その源泉を第 修正の外側に持つもの,すなわち不動産法や動産法上の概念もしくは社会 が認識し許容している理解を参照することにより把握されるものだからで ある。このようにKatzは第修正の射程を狭めたものではない。
次に政府は,Katz後のいくつかの判例に依拠して,本件は捜索にあた る事例ではないと主張している。その主たるものはビーパーを使用した Karo8)とKnottsである。確かにKnottsにおいて当法廷は,ビーパーが装 着された容器が移動する位置を監視するために,法執行機関がこの装置を 利用したことは,第修正違反とはならないと判示し,その理由として,
容器を積んだ車両は公道上を走行していたのであり,容器が車両から降ろ されたのもopen fieldsであったので,こうした位置情報は,公衆に向け て任意に伝えられたものであるから,被告人のプライヴァシーの合理的期 待は侵害されていないということを挙げている。しかし,プライヴァシー の合理的期待に関するKatzテストは,コモンローのトレスパス・テスト にとって代わるものではなく,これに付け加えられたものである。Knotts で容器へのビーパーの装着がトレスパスとなり,第修正上の捜索に当た るか否かとういう問題が扱われなかったのは,単にこれが当事者により争 点とされなかったからに過ぎない。
ビーパーに関する第の先例のKaroでは,この容器にビーパーを装着 すること自体が捜索・押収に当たるか否かというKnottsが扱わなかった 問題を検討した。Karoにおいては,容器の元の所有者である売主の同意
書・313頁(香川喜八朗 担当)参照。
8) United States v. Karo, 468 U.S. 705 (1984). Karoについては,渥美・注4)書・
323頁(香川喜八朗 担当)参照。
を得て政府がビーパーを装着した後に,その容器がビーパーの存在を知ら ない購入者たる被告人の手に渡った。当法廷は,政府が容器に物理的に接 触したのは被告人カロの所有物になる前であり,また,この容器が譲渡さ れた際ビーパーは作動しておらず,この時点では一切情報は伝達されてい ないので,カロのプライヴァシーを侵害していないと判示した。そして,
カロは容器をビーパー等を含んだ状態で受領したのであるから,たとえそ の後ビーパーが監視のために使用されていたとしても,ビーパーの存在に 異議を申立てる権利はカロには認められなかったのである。しかし本件で は,政府がGPS装置を装着した際に,ジョーンズはジープを既に所有し ており,この点でKaroとは事情が大きく異なるである。
また政府は,New York v. Class9)で「自動車の外側は一般の目にさらさ れているので,これを調査することは捜索にあたらない。」と判示されて いると指摘しているが,本件との関連性は薄い。政府は本件で,係官がジ ョーンズの車両を肉眼で観察する以上のことを行ったと認めており,ジー プにGPS装置を装着したことによって,係官は保護領域に侵入したので ある。Classでも車両内に係官の手が一瞬でも届いた場合には捜索にあた ると結論付けている。
最 後 にOliver10)も 政 府 の 主 張 の 支 え と は な ら な い。Oliverは,open
fieldsに侵入した係官による情報収集活動について,コモンロー上トレス
パスになるとしても,第修正上の捜索にあたらないと判示しているが,
それは,open fieldが第修正に列挙されている保護領域ではないからで ある。
B 結論賛成意見は,我々の見解を18世紀の不法行為法を適用したとし て非難しているが,これは曲解である。我々が適用したのは不合理な捜索 に対する18世紀の保障であり,この合衆国憲法が採択された当時に与えら
比較法雑誌第47巻第号(2013)
9) New York v. Class, 475 U.S. 106 (1986).
10) Oliver v. United States, 466 U.S. 170 (1984). Oliverについては,渥美・注 書・435頁(安冨潔 担当)参照。
れた保護は最低限度のものとして与えるべきであるというのが我々の考え である。専らKatzテストを適用しようとする結論賛成意見とは異なり,
我々は専らトレスパス・テストを適用しようとするものではない。トレス パスを伴わない電子的信号の伝達が行われた場合などには,依然として Katzの分析に従うことになるだろう。
専らKatzテストを適用しようとする結論賛成意見の主張は,本件にお いては「特に厄介な問題」に不必要に行きあたってしまう。当法廷は単な る肉眼での観察は捜索にあたらないとの解釈から現在まで離れていない。
例えばKnottsでは,「公道上を車両で移動する人は,場所の移動について
プライヴァシーの合理的期待を有していない」と判示している。したがっ て,結論賛成意見のいうように,本件で行われた監視を伝統的な方法で行 おうとすると,大規模な捜査班と複数台の車両,さらには航空機までもが 必要になるとしても,先例が示唆するところでは,そのような監視は,そ れが肉眼で行われる限り憲法上許される。トレスパスを伴わずに電子的方 法を使用して同様の結果を得る場合には,憲法に違反するプライヴァシー 侵害となる可能性があるとしても,本件においてそれに答える必要はない。
この問いに対し積極の回答をすると,さらにやっかいな問題に不必要に 行き当たる。結論賛成意見は個人の公道上の行動の比較的短期間の監視は 行ってよいが,大部分の犯罪にGPSを利用して長期間の監視を行うのは 許されないという。捜査対象の犯罪の内容に依って捜索にあたるか否かを 判断するとの考え方はこれまでの先例になく,結論賛成意見はこれまでに ない考え方を我々の法理論に導入しようとするものである。また,たとえ この考え方を受け入れたとしても,なぜ週間の捜査が長すぎるといえる のか,なぜ多額の現金と大量の薬物が発見された薬物取引の共謀が長期間 の監視が許容される特別な犯罪にあたらないのかといったことについて説 明できないままである。当法廷は将来,伝統的なトレスパスを伴った捜索 が行われず,Katzテストに依らなければならない事案において,こうし た「厄介な問題」に取り組まなければならないのかもしれない。しかし本 件で急いで解決しなければならない理由はない。
⑵ 政府は,ジョーンズが大規模なコケイン頒布の共謀の主犯であるこ とについて係官が不審事由,実際には相当理由を有していたので,GPS 装置の装着と利用が捜索にあたるとしても,それは第�修正にいう合理的 な捜索であり適法であると主張している。しかし,政府はこの争点をD.
C. circuitで提起しておらず,D.C. circuitもこれについて審理していない ので,政府がこの点についての判断を当法廷に求めることはできない。
Court of Appealsの判断を確認する。
ソトマイヤー裁判官の補足意見
本件では,政府が憲法上保護された領域に物理的に侵入して情報を入手 しており,これが第�修正上の捜索にあたると判断した点について法廷意 見に加わる。
法廷意見が明確にしているように,Katzのプライヴァシーの合理的期 待テストはコモンローのトレスパス・テストを補うものであり,これに取 って代わるものでも,あるいはこれを狭めたりするものでもない。法廷意 見が適用したトレスパス・テストは,これ以上減ずることができない憲法 上最小限度の保障を示したものである。政府が情報入手目的で個人の財産 を物理的に侵害した場合には捜索が行われているのであり,本件を判断す るにはこの原理を再確認するだけで十分である。
アリトー裁判官は結論賛成意見で,大部分の犯罪の捜査については,少 なくとも長期間のGPSによる監視が行われればプライヴァシーの期待は 侵害されると述べている。この点については,アリトー裁判官に賛成す る。
また短期間の利用だとしてもGPSを用いた監視には独特の性質がある ので,特別な注意が必要となる。すなわち,人の移動が公衆の目に晒され たものであっても,これをGPSを用いて監視すれば,その個人の家族関 係や政治的な交わり,専門家同士の交わり,宗教的交わり,性的関係など を詳らかにすることができる。さらに,GPSによる監視は従来型の監視 技術と比較すると安価で,また,計画的かつ秘密裏に行われるので,法執
比較法雑誌第47巻第�号(2013)
行の濫用を通常抑制しているところの警察が投入できる資源の限界やコミ ュニティの敵意といったものが働きにくくなるのである。政府に監視され ているかもしれないとわかれば,他者と交わる自由・表現の自由(asso- ciational and expressive freedoms)は委縮させられる。さらに,政府が個 人情報を無制約に集められるということになれば,その権限は濫用される 危険が高い。政府に無制約の裁量で追跡対象を選んでGPSを利用するこ とを許せば,市民と政府の関係は民主主義的社会に反するものへと変容し てしまう危険性があるのである。
さらに,より根本的には,第三者に任意で情報を開示した場合には,個 人はプライヴァシーの合理的期待を有していないとの前提を再考する必要 があるだろう。このアプロウチは,デジタル時代には適さないものであ る。というのもデジタル時代において人々は,日常生活を営む過程で第三 者に非常に大量の個人情報を明かしているからである。オンラインでの買 い物等の限定的な理由で任意に明かした情報の全てが,任意に明かしたと いう理由だけで第�修正の保護を奪われてしまうわけではないだろう。
アリトー裁判官の結論賛成意見(ギンズバーグ,ブレイヤー,ケー ガン裁判官参加)
⑴ 法廷意見はGPSの装着と使用を捜索にあたるとしているが,装着 と使用という�つの過程は第�修正の分析の目的に照らすと分けることは できない。仮にこの�つの過程を別々に分析するとしても,この�つを捜 索とみなす理由を法廷意見は明らかにしていない。次に法廷意見が主張す る,第�修正の採択当時のプライヴァシーの程度を確実に保障しなければ ならないことについては賛成であるが,本件で起きた出来事について18世 紀後半の状況を類推して考えることは,ほぼ不可能である。
法廷意見の理由付けは,証拠収集の際に法技術的意味でのトレスパスを 伴う場合は捜索にあたるという,例えばSilverman11)のような傍受や電子
11) Silverman v. United States, 365 U.S. 505 (1955).
的傍受に関する合衆国最高裁判所の初期の判断と非常に類似している。と はいえ,これとは対照的にOlmstead12)やGoldman13)のような,トレスパ スがない場合に捜索にあたらないと判断された先例も存在する。トレスパ スの有無を規準とするアプロウチは繰返し批判を受け,最終的にKatzは この古いアプロウチから離れて,第�修正違反にあたるか否かを検討する 際にトレスパスは要件ではないと判示したのである。
⑵ 法廷意見はKatz後の�つの判例,すなわちSoldalとAldermanが トレスパスがあれば,捜索にあたると認めるのに十分であるとしていると 示唆しているが,Soldalは押収に関する事案であり,また,Aldermanは,
住居所有者はその住居内のすべての会話についてプライヴァシーの正当な 期待を有していると判示したと理解するのがもっとも適切な事案である。
要するにトレスパス理論に依拠したKatz後の判例を見つけることは難し いのである。
⑶ 上述したように,法廷意見がとったアプロウチは相当数の判例法と の調和を欠くが,その他に以下のような問題点も孕んでいる。第一に法廷 意見の理由付けは,GPSが長期間の監視目的で使用されたという重要な 点をほとんど無視して,その代りに比較的小さな点である車の運転等に何 ら影響を与えない小さな物体を車両の下部に装着したことに重要性を付与 してしまっている。第二に,法廷意見に依れば,警察がGPS装置を車両 に装着すれば,それが短期間の使用であったとしても第�修正が適用され るが,覆面パトカーによってあるいは上空からGPSを用いずに追跡した 場合には,それが長期間にわたっても第�修正の制約を受けない。また本 件ではジョーンズの妻が自己名義の車両をジョーンズが使用するために引 き渡した後に係官がその車両にGPS装置を装着したので,第�修正が適 用されたが,仮に引き渡し前にGPS装置が装着されていた場合には,結 論が異なってしまうだろう。第三に,法廷意見の理論に基づくと,第�修
比較法雑誌第47巻第�号(2013)
12) Olmstead v. United States, 277 U.S. 438 (1928).
13) Goldman v. United States, 316 U.S. 129 (1942).
正の範囲が,州によって大きく異なってしまう。仮に夫婦共有財産制や婚 姻関係にある者の財産に関する統一法(Uniform Marital Property Act)を 採用する州では,ジョーンズは本件の車両の所有者となるが,こうした制 度をとらない州では本件の車両は妻の固有財産と一般的に考えられる。第 四に,法廷意見が依拠したトレスパス法は,監視対象物に物理的に接触せ ずに電子的監視が行われる事案において,非常にやっかいな問題を惹起し てしまう。近年裁判所は,例えばコンピュータへの不正アクセスの場合 に,この古い不法行為法を適用するか否か格闘している。電子的なコミュ ニケーションがコンピュータ間でなされれば,トレスパスにあたると判断 している裁判所もある。しかし法廷意見のトレスパス理論を適用する際に こうした判断に従ってよいのだろうか。法廷意見によると問題となるのは,
第�修正が採択された当時のトレスパス法であると想定できる。そうする と,こうした近年の判断は,法の変遷と捉えるべきなのであろうか。それ とも古い不法行為法を新たな状況に適用しただけのものなのだろうか。
⑷ Katzのプライヴァシーの合理的期待テストは,循環論法であると いう面があり,また,仮定的通常人の期待を基準としつつも,裁判官は自 身のプライヴァシーの期待をこれと混同するきらいがあるという問題点を 有している。さらに,そもそも人々のプライヴァシーの期待は,技術によ って変化してしまう可能性がある。劇的な科学技術の変化によって,人々 の期待が流動的になってしまう時代になるかもしれないし,最終的に人々 の態度に重大な変化をもたらすかもしれない。またたとえ公衆が科学技術 によるプライヴァシーの程度の縮減を歓迎しないとしても,最終的には仕 方なくこの発展を不可避なものだと考えるかもしれない。おそらく最も重 要なのは,現在,携帯電話やワイヤレス機器によって利用者の位置を追跡 し記録することができることである。こうした装置やその他の新しい技術 を用いた装置の性能と利用は,個人の日常的な活動のプライヴァシーに関 する通常人の期待を形成し続けるだろう。
⑸ まだコンピュータが使用されていない時代においては,プライヴァ シーの広範な保護は憲法上でも法律上でもなく,実際上保護されていた。
従来型の監視は実施困難でコストもかかるため,あまり実施されなかった のである。しかしながら本件で使用されたような装置は,比較的簡単かつ 安価で長期間の監視を行うことができる。劇的な技術革新が起きた場合 に,プライヴァシーに関する問題の最良の解決策は立法であろう。立法府 は,プライヴァシーと公共の安全性のバランスをとったり公衆の意見・態 度の変化をはかるのにふさわしい機関である。とはいえ議会と多くの州 は,法執行目的でのGPS追跡装置の使用を規制する法を制定していない。
従って本件における最良の策は,現在の第修正の法理を適用し,GPS 追跡装置によって社会が予期していない程度までプライヴァシーが侵害さ れたか否かを検討することである。このアプロウチによれば,人の公道上 の移動を比較的短期間監視することは,プライヴァシーの合理的期待を侵 害しないが,大部分の犯罪の捜査では,GPSを長期間使用すると,プラ イヴァシーの合理的期待を侵害することとなる。本件では,ジョーンズの 車両に対する追跡が捜索にあたる時点を正確に特定する必要はない。とい うのも,そのラインは週間を経過する以前に確かに越えられてしまって いるからである。以上の理由から,本件で行われた長期間の監視が第修 正上の捜索にあたると結論付ける。
《解説》
近年,捜査機関によりGlobal-Positioning-System(GPS)を使用し て被疑者の位置情報を入手する捜査手法が用いられている。犯罪捜査に GPSを用いれば,徒歩や警察車両で尾行し肉眼で確認したりビーパー等 の機器を使用して追跡する場合に比べて,かなり詳細な情報を得ることが できる。しかしGPSの使用は,それにより得られた情報の量と質によっ ては,捜査対象者の非常に詳細なプロフィールが明らかになり,単にどこ に行ったかというだけでなく,簡単な推論を用いれば,政治的・宗教的な 結びつきや交友関係までも把握することができるため,個人のプライヴァ シーを大きく侵害してしまう危険性も孕んでいる。
GPSを利用した監視には,政府がGPS装置を対象者の所有物に装着し 比較法雑誌第47巻第号(2013)
て使用する装着型と,対象者の所有物に元々内蔵されているGPSを使用 する非装着型14)のタイプがある。本件では監視対象者が使用している車 両の下部に捜査機関がGPS装置を装着して,その行動を追跡するために GPSを週間使用しており,本件は前者の装着型の事案である。そして 本件では,このように個人の所有する車両にGPS装置を装着して,その 車両の位置を把握するために使用したことが合衆国憲法第修正上に言う
「捜索」にあたるか否かが争点となった15)。捜査機関はGPSの使用許可令 状の発付を受けているが,本件のGPS装置の装着と使用は令状による許 可条件に違反しており,これらが第修正上の捜索に当たるのであれば,
無令状捜索で違憲ということになる。
捜査に用いられた手法が第修正違反にあたるか否かについて検討 する際に16)合衆国最高裁判所は,1960年代頃まではオルムステッド・ゴー ルドマン法理に基づいて「有体物」に対する「物理的侵入(係官が身体を 用いた侵入):physical trespass」を伴うか否かを判断基準としていた。こ れは財産権の保障に基礎を置く考え方であり,プライヴァシーの保護とい うことも意識されてはいたものの,それはあくまで財産権が保障される限 度で保護される「財産権の保障に基づくプライヴァシー(propertied pri- vacy)」の保障というものであった。これにより,通信傍受やマイクによ る会話の秘聴は第修正による規制の対象外とされ,憲法上は全面的に放 置されていた。当時はまた,同じく財産権保障の考えに基づき,禁制品や
14) 非装着型の例として,購入当時から自動車に搭載されているGPS装置や携 帯電話やスマートフォンに内蔵されているGPS,盗難防止用に個人が所有す る鞄等の中に入れるタイプのGPSを使用して行動を監視するといった事案が 想定できる。
15) 本件評釈として,土屋眞一「捜査官がGPSにより公道を走る被疑者の車を 監視することは,違法な捜索か?」判例時報2150号頁(2012年)
16) 第修正の法理の発展に関する議論は,数多くの論文においてなされている が,中でも渥美東洋『捜査の原理』(有斐閣,1979年)21頁以下を参照された い。
贓物以外は第修正上捜索・押収が禁じられるとの「単なる証拠の原則
(mere evidence rule)」がとられていたため,通信傍受や会話の秘聴が第 修正の規制対象となるとすると,これが全面的に禁止される結果となる との事情もあった。しかしながら科学技術の発達によるプライヴァシーへ の脅威が自覚されるにつれ,このオルムステッド・ゴールドマン法理では プライヴァシー保護として不十分であると考えられるようになり,1961年 のSilvermanと1963年のWang Sun17)で有体物性の要件が捨てられ,さら に1967年には,Warden対Hayden18)で単なる証拠の原則を変更した上で,
Katzにおいて第修正がプライヴァシーそのものを保護しているとの考 え方をとって,物理的侵入が必ずしも要件ではないとした。そして,これ により第修正の保護範囲は,その規定上明示されている「住居,身体,
書類,所持品」を超えて及ぶことになったため,保護範囲を画すために,
Katzでのハーラン裁判官の補足意見で提示された「プライヴァシーの合 理的期待」のテスト,すなわち,個人が抱いている主観的なプライヴァシ ーの期待を社会が合理的なものと認めるか否かという基準が,その後用い られるようになる。
このプライヴァシーの合理的期待テストは,それまでのトレスパス 論に基づく保護を拡張したものであったので,プライヴァシーの合理的期 待のテストがトレスパス論に取って代わったとの見方も成り立った。実 際,本件以前にGPSの利用の合憲性の問題を扱った連邦下級裁判所や州 裁判所の判例では,装着型の事案であってもプライヴァシーの合理的期待 テストによって問題を検討している19)。このようなプライヴァシーの合理
比較法雑誌第47巻第号(2013)
17) Wong Sun v. United States, 371 U.S. 471 (1963).
18) Warden v. Hayden, 387 U.S. 294 (1967).
19) 州憲法または第修正上の捜索にあたると判断した先例として,State v.
Jackson, 76 P.3d 217 (2003), People v. Weaver, 909 N. E. 2d 1195 (2009), People v.
Lacey, 787 N. Y. S 2d 680 (2004)等。これに対して州憲法または第修正上の捜 索にあたらないと判断した先例として,United States v. Garcia, 474 F. 3d 994
的期待テストのみにより検討する立場からは,公衆の目に晒されているも のについてはプライヴァシーの合理的な期待が認められないということか ら,公道脇の駐車場に駐車している車両にGPS装置を装着してもプライ ヴァシー侵害とはならないとも言える。また,上述した裁判例の中には,
ビーパーの使用に関する判例20)で述べられているように,公道上の車両の 所在位置にもプライヴァシーの合理的な期待は認められず,したがって,
GPSを利用した車両の監視はプライヴァシー侵害とはならないとするも のがあった。しかしまた,GPSを利用した場合に収集される情報の質と 量に着目して,GPSの利用がプライヴァシーの合理的期待の侵害となる とする裁判例もあった。
これに対し,他方で,プライヴァシーの合理的期待が認められず,その 侵害ということが言えない場合であっても,トレスパスにあたる場合が考 えられ,そのような場合にも第修正の保護範囲が及ぶようにするため,
プライヴァシーの合理的期待テストはトレスパス・テストを補うものであ
(7thCir. 2007), People v. Gant, 802 N. Y. S2d 839, United States v. Moran, 349 F.
Supp. 2d 425 (2005)等。誌面の都合上,判例だけ簡単に紹介したいと思う。
例えばGarciaは個人の車両に数週間GPS装置を無令状で装着して使用した事
案である。Garciaでは,GPS装置の装着について,①GPS装置を装着しても,
車両の走行やエンジンやバッテリーや外観を変えるわけではないので,第修 正上の押収にはあたらない。②(Knottsで判示されたように)公道上のプライ ヴァシーは縮減した状態であり,またGPSは衛星を通じて地理的な座標を送 信しているだけであるため,防犯カメラや警察車両で実際に追跡する場合と同 じであって第修正上の捜索にもあたらないと判断した。次にWeaverは,個 人 の 車 両 に 65 日 間GPS装 置 を 無 令 状 で 装 着 し て 使 用 し た 事 案 で あ る。
(Weaverはニューヨーク州憲法第章12条の規定する捜索にあたるか否かが争 われた。)Weaverは,GPSが原始的な装置であるビーパーよりも格段に高性 能であるため同視すべきでない点を強調し,さらに明確な理由なく装置の装着 がなされたため,法執行機関の自由裁量のみで行う不合理な捜索を禁ずる州憲 法の中核をなす基準に一致しないという理由で州憲法上の捜索にあたると判示 した。なおWeaverについては,洲見光男アメリカ法[2012-]206頁参照。
20) 前掲註7),8)。
り,両基準は並存し,相互補完的に用いられるとの見方もあった21)。 本件のスカリア裁判官の法廷意見は,第修正採択時に保障されていた プライヴァシーは最低限のものとして保護されなければならないというこ とを強調し,プライヴァシーの合理的期待テストはトレスパス・テストを 補うものであって,これに取って代わるものではないとして,本件をトレ スパス・テストで処理した22)。Katz以後第修正が財産権の保護を含ん でいることを確認した判例にSoldalがあるが,これは押収に関する判例 であるので,捜索に関してこの点を明確に確認したのは本件が初めてであ ると思われる。
トレスパスを伴わない非装着型の事案については,法廷意見は依然 としてプライヴァシーの合理的期待テストに従うとしている。もっとも,
非装着型の事案をプライヴァシーの合理的期待テストで判断した場合に,
第修正に違反となるかという問題は,本件を処理する上では解決する必 要がないということから,この点についての判断は明示的に留保されてい る。将来,非装着型の事案が扱われるときに,この問題についての回答が 示されることになるのであろうが,本件でのアリトー裁判官の結論賛成意 見,これに対する法廷意見による批判,そしてソトマイヤー裁判官の補足 意見は,この問題を検討する上での重要な示唆を与えている。
アリトー裁判官の判断枠組みは,専らプライヴァシーの合理的期待テス トに依拠するものである23)。アリトー裁判官は,大部分の犯罪については
比較法雑誌第47巻第号(2013)
21) See, e.g., Amsterdam, Perspective on the Forth Amendment, 58 Minn. L. Rev.
349, n349 (1974).
22) このスカリア裁判官執筆の法廷意見については,スカリア裁判官がこれまで 様々な判例においてKatzに対し批判的な態度をとっていたことを前提にする と,Jonesの法廷意見はこの20年以上にわたるスカリア裁判官の意見を形式化 したアプロウチの第一段階ではないかというコメントがある。Kevin Emas and Tamara Pallas“United States v. Jones: DOES KATZ STILL HAVE NINE LIVES?”
24 St. Thomas L. Rev 116 (2012).
23) このアリトー裁判官執筆の結論賛成意見については,アリトー裁判官は
GPSの長期間の使用がプライヴァシー侵害にあたるとしており,プライ ヴァシーの合理的期待の有無の判断について,監視期間と監視の対象とな る犯罪を考慮に入れている。これについては,法廷意見が批判しているよ うに,公道上の車両の移動についてプライヴァシーの合理的期待を認めな かったビーパーに関する判例24)との整合性をどのように考えるのか,捜査 対象の犯罪内容にプライヴァシー侵害の有無を係らせてよいのか,どの程 度の監視期間が長期間もしくは短期間と言えるのかといった問題がある。
また,ソトマイヤー裁判官が示唆しているように,GPSによる監視の特 質からして短期間の監視であってもプライヴァシー侵害と言えないのか,
ということも問われる。
次にソトマイヤー裁判官は,デジタル時代においては,第三者に情報を 開示した場合に個人はプライヴァシーの期待を有しないとの,現在の判例 でとられている前提について再考する必要があると指摘している。非装着 型の事案では,捜査機関は,携帯電話会社や警備会社のような第三者機関 にGPSによる情報の提供を要請することになり,この情報は被疑者がこ の第三者機関に開示している情報であるとすれば,非装着型のGPSによ る監視は第修正の規制対象外となるとも言えそうである。目的を限定し て第三者に開示した情報について,プライヴァシーの合理的な期待が認め られないか,再検討すべき時期が迫っていると言えよう。
Katz testの適用を求めているが,そもそも被告人のプライヴァシーの合理的期
待が侵害された時に第修正上の捜索にあたるというKatz testを,アリトー 裁判官は通常人でも予測し得ない程度の侵入があった場合に捜索にあたると言 い換えてしまっているので,本来のKatz testとは異なる新たな基準に置き換 え て し ま っ た と 指 摘 す る コ メ ン ト が あ る。Note “JONESʼS SECOND MAJORITY OPINION: JUSTICE ALITOʼS CONCURRENCE AND THE NEW KATZ TEST”31 Yale L. & Polʼy Rev. Inter Alia 1 (2012).
24) ビーパーについては,檀上弘文「科学機器・技術を用いた行動監視の適法性 とプライヴァシー」法学新報112巻1-2号195頁,香川喜八郎「ビーパーによる 監視について」(立山龍彦編『社会と秩序』)東海大学出版会(1986年)などを 参照されたい。
また,アリトー裁判官は,GPSによる監視の規制については,プライ ヴァシーと公共の安全性のバランスを詳しく線引きできる立法府に最終的 には委ねるべきだとして,立法化を促している。この立法については,一 部の州においては既に実現されているところではあるが25),26),さらなる 立法化の展開も注目されるところである。
GPSによる監視について法廷意見は,トレスパス・テストとプラ イヴァシーの合理的期待テストの�段階の判断枠組みを提示し,装着型の 事案である本件をトレスパス理論に基づいて判断した。「押収」のみなら ず「捜索」の面でも第�修正上は財産権との結びつきを失っていないこと を明示的に確認した点に,まず,本件の意義がある。非装着型の事案の処 理については,法廷意見は判断を留保しているが,本件での法廷意見,補 足意見,結論賛成意見の間の論争はこの問題を考察する上での様々な示唆 を与えてくれている。非装着型のGPSによる監視の問題を合衆国最高裁 判所がどのように解決するのか,判断が待たれるところである。
比較法雑誌第47巻第�号(2013)
25) ハワイ州,ミネソタ州においては,州法が小型追跡装置を装着して使用する 前に,裁判所の命令(orders)が必要であると規定している。Haw. Rev. Stat.
§803-42(2010), Minn. Stat. Ann.§§626A. 35, 626A37, 626A38 (2012).
26) なお,連邦刑事訴訟規則は,裁判官に追跡装置装着許可令状の発付権限を与 えているが,捜査機関に令状請求を義務付けてはいない。連邦刑事訴訟規則41 条⒝⑷以下参照。