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海外法律事情

アメリカ刑事法の調査研究(160)

米 国 刑 事 法 研 究 会

(代表 堤   和  通)

Weaver v. Massachusetts, 582 U.S. _ (2017)

麻 妻 和 人**

 陪審員選任手続の際の公開裁判違反について,当該瑕疵が,通常上訴に おいて提起されず, 後の非効果的な弁護(ineffective assistance of coun-

sel)の主張において提起された場合,ニュートライアルが保障されるた

めには,被告人側は弁護人の瑕疵ある活動により判決に影響を及ぼす程度 の侵害があったことを証明しなければならないとされた事例。

《事実の概要》

 申請人

Kennel Weaver

は,マサチューセッツ州公判裁判所に,第一級

殺人及び銃不法所持の罪で起訴された。

 本件事案の陪審員候補者は多数に及び,法廷内に収容しきれない事態と なったため,裁判所の職員は,二日間の陪審員選任手続の間,申請人の母 親らを含む,陪審員候補者ではない一般の者すべてを法廷から退出させ た。

 これらの事実は,公開裁判を受ける権利が陪審員選任手続にも及ぶこと

 所員・中央大学総合政策学部教授

**

 嘱託研究所員・桐蔭横浜大学法学部教授

(2)

を明確にした合衆国最高裁判所の

Presley

(Presley v. Georgia, 558 U.S. 209

(2010).)の判断前に生じている。Presley

以前,州裁判所は,陪審員選任

手続きの間,とりわけ殺人の公判において,しばしば法廷を公衆に非公開 にすることがあった。

 申請人の母親は,陪審員選任手続の間のある時点で手続が非公開とされ たことを被告人の弁護人に告げたが,弁護人はこの点について当時異議を 申し立てなかった。

 陪審はいずれの訴因についても申請人を有罪とした。公判裁判所は,殺 人の罪について終身刑を,銃不法所持の罪について一年の収監刑を言い渡 した。

 その ₅ 年後,申請人は,弁護人が法廷の非公開についての異議を怠った ことにより,非効果的な弁護(ineffective assistance of counsel)を行った と主張して,州裁判所にニュートライアルの申請を行った。公判裁判所 は,法廷が非公開であったこと,その非公開はとるに足らない無視しうる ようなものでなかったこと,非公開は正当な根拠がなかったこと,すべて の公衆が法廷から排除されたという意味で完全に非公開であったことにつ いて認定し,公開裁判を受ける権利の侵害を認めた。公判裁判所はさら に,被告人側弁護人が異議を申し立てなかったのは弁護人の深刻な能力の 欠如,不手際,不注意によるものであると認定したものの,他方で,申請 人はそれにより自らが受けた判決に影響を及ぼす程度の瑕疵(prejudice)

を立証する証拠を一切示さなかったとして,申請人は救済の権利を与えら れないと判示した。

 申請人は州

Supreme Judicial Court

に上訴した。Supreme Judicial Court は,主要部分において原判断を確認し,合衆国憲法第 ₆ 修正の公開裁判を 受ける権利の侵害は構造的な瑕疵(structural error)を構成するとしつつ も,申請人はニュートライアルの根拠となる判決に影響を及ぼす程度の瑕 疵の原因となった弁護人の行為を立証していないとして,申請人の弁護人 による非効果的な弁護の主張を認めなかった。

 本件のように,構造的な瑕疵が,通常上訴において主張も留保もされ

(3)

ず,後に弁護人による非効果的な弁護の主張を通じて提起されたような場 合において,被告人が判決に影響を及ぼす程度の瑕疵を証明しなければな らないかどうかについて,連邦の

Court of Appeals

といくつかの州最上級 裁判所の間に存する不一致を解決するために合衆国最高裁判所はサーシオ レイライを認容した。

《判旨・法廷意見》

原判断確認

1.ケネディ裁判官執筆の法廷意見

  ₁  ⑴ 合衆国最高裁判所は,

Chapman

(Chapman v. California, 386 U.S.

18 (1967).)において,憲法上の瑕疵については,政府が評決に影響を与

えていないことを合理的疑いを容れない程度に立証した場合には,瑕疵は ハームレスであると判断され,有罪判決の自動的破棄は認められないとい う一般原則を採用した。

 しかし,構造的な瑕疵については,ハームレスエラーの観点から分析す ることはできない。構造的な瑕疵は,単なる公判過程上の瑕疵ではなく,

「その瑕疵が公判手続きの枠組みに影響する」からである。

 瑕疵が構造的であるとされる理由は様々であるが,少なくとも ₃ つの一 般的な理論的根拠があるように思われる。

 第一に,問題となっている権利が,被告人を誤った有罪判決から保護す るのではなく,他の利益を保護しているような場合である。たとえば,被 告人の自己弁護の権利は,行使された場合には被告人に不利な公判結果が 生じる可能性が高まるのが通常で,むしろ自らの運命についての選択を行 うことが認められなければならないという基本的な法の原理に基礎を置く ものであって,その侵害は公判結果と結びついたハームレスエラーの分析 は適用されず,構造的な瑕疵となる。第二に,瑕疵の影響を測ることが困 難に過ぎる場合である。たとえば,被告人が自身の弁護人を選択する権利 を否定された場合,違反の正確な影響を確かめることはできないので,政 府が「合理的疑いを容れない程度にハームレス」であると立証することは

(4)

ほぼ不可能である。第三に,瑕疵が常に根本的な不公正を生み出す場合で ある。たとえば,無資力の被告人が弁護権を否定され,あるいは,裁判官 が「合理的な疑いを容れない程度」についての説示を行わなかったりした 場合には,公判の結果は常に不公正なものとなるので,政府がハームレス であることを立証することは無益であろう。

 この分類は厳格なものではなく,複数の根拠により構造的な瑕疵と判断 される場合もある。重要な点は,たとえその瑕疵が常に根本的な不公正を 導かない場合であっても,瑕疵は構造的なものでありうるという点であ る。

 ⑵ 公開裁判を受ける権利の侵害は構造的な瑕疵であるが,これが構造 的だとみなされるのは,常に根本的な不公正さを導くからなのか,あるい は,その他の理由によるのか,という事が問題である。

 公判中の者以外の個人のプライヴァシーに関する懸念から,証拠排除聴 聞を一週間非公開とした事案である

Waller

(Waller v. Georgia, 467 U.S. 39

(1984).)及び,本件と同様,陪審員選任手続(voir dire)の間,法廷が公

衆に非公開とされた事案である

Presley

において,当裁判所は法廷の非公 開は回避されるべきであるとしながらも,非公開が正当化される場合があ ることを示している。

 したがって,公開裁判を受ける権利の侵害は構造的なものであるが,例 外がある。公開裁判を受ける権利に例外があるという事実は,すべての公 開裁判違反が,結果として公判を根本的に不公正なものにするものではな いという事を示唆する。Presleyでは,非公開の根拠となる事実を明確に しなかったゆえに公開裁判違反となったが,根拠を明確に示さなかったか らといって,常に公判が根本的に不公正となるわけではない。

 当裁判所は,裁判の公開違反により,すべてのケースにおいて裁判が根 本的に不公正なものとなるとはしていない。当裁判所が公開裁判違反を構 造的な瑕疵と分類する理由を検討した

Gonzalez-Lopez

(United States v.

Gonzalez-Lopez, 548 U.S. 140 (2006).)と Waller

の ₂ つの先例では,「瑕疵 の影響を測ることの困難さ」が理由とされた。また,公開裁判を受ける権

(5)

利は,被告人に属さない権利,すなわち,広く公衆全体や報道機関の利益 を保護することを目的をしていることから,公開裁判違反が構造的な瑕疵 を導く別の一要因は,公開裁判を受ける権利が不当な有罪から被告人を保 護すること以外の利益を促進するという点にもある。このことから,公開 裁判を受ける権利は根本的な理由から重要なものであるが,違法な非公開 であっても被告人の立場から見て,なお根本的に公正であるといえる場合 がある。

  ₂  「構造的な瑕疵」とは,その語句自体が理論的に特別な意味を有し ているわけではなく,政府が瑕疵が合理的な疑いを容れない程度にハーム レスであることを証明することによって,被告人からニュートライアルの 機会を奪う権利を与えられていないことを意味するものである。したがっ て,公判で異議が申し立てられ,通常上訴において問題が提起された場合 には,構造的な瑕疵が実際に結果へ影響したか否かを問わず,被告人には 自動的破棄の権利が保障される。

 被告人が通常上訴において構造的な瑕疵について主張せず,後に,非効 果的な弁護の主張に関連して争った場合に救済を得るためには,被告人側

Strickland

(Strickland v. Washington, 466 U.S. 668 (1984).) の「弁護人 の活動が不十分であったこと」(活動基準:弁護人に通常期待される客観 的基準に達していないこと)と,「弁護人の瑕疵ある活動が判決に影響を 及ぼす程度であったこと」(侵害基準:弁護人の瑕疵ある活動により判決 に影響を及ぼす程度の侵害があったこと)を証明しなければならないのが 通常である。

 被告人は,間違いのない弁護の権利ではなく,効果的な弁護を受ける権 利を有しているのであって,Stricklandの主張をするにあたって判決に影 響を及ぼす程度の瑕疵の証明は必要的であり,被告人が判決に影響を及ぼ す程度の侵害を受けないかぎり合衆国憲法第 ₆ 修正違反は完成しない。と はいえ,不利益の概念はそれが表れる状況に応じて異なる方法で定義され

る。通常

Strickland

において判決に影響を及ぼす程度の瑕疵とは,法律専

門家としての水準に達しない弁護人の活動がなかったならば,手続の結果

(6)

が異なっていたであろうとの合理的な蓋然性を意味する。 しかし

Strick- land

において合衆国最高裁判所は,判決に影響を及ぼす程度の瑕疵の基 準は機械的に適用されてはならず,非効果的な弁護の主張の審理にあたっ て,裁判所は「手続きの根本的な公正さ」に集中しなければならないと判 示した。これに依拠して,申請人は,Stricklandの下では,異なった結果 の合理的な蓋然性が立証されなかったとしても,有罪となった者が,弁護 人の瑕疵が公判を根本的に不公正なものにしたことを立証したのであれ ば,救済が認められなければならないと主張している。本件を分析するた めに,当裁判所は

Strickland

についての申請人の解釈を前提として検討す る。

 先述したように,すべての公開裁判違反が,実際には根本的に不公正な 裁判につながるわけではなく,公開裁判違反に異議を申し立てなかったこ とが,異なる公判結果の合理的な蓋然性を常に被告人から奪うともいえな い。したがって,被告人が付随的上訴において非効果的な弁護の主張の中 で公開裁判違反を提起したからといって,Strickland基準の判決に影響を 及ぼす程度の瑕疵は自動的に立証されているとはいえない。被告人は,異 なる公判結果となる合理的な蓋然性か,特定の公開裁判違反が深刻なため に裁判を根本的に不公正にしたことのいずれかを証明しなければならな い。

 本件において申請人に証明責任があるとされる理由は,瑕疵の性質と,

公開裁判違反が通常上訴で提起された場合と,非効果的な弁護の主張とし て提起された場合との差異に由来する。法廷の非公開について被告人が異 議を申し立てた場合,公判裁判所は法廷の公開を命ずるか,非公開にして おく理由を説明することで違反を治癒することが可能である。しかし,被 告人が非効果的な弁護の主張において初めて公開裁判違反を提起した場 合,公判裁判所はその機会を奪われる。さらに,非効果的な弁護の主張が 有罪判決確定後の手続で提起された場合,より時間を要することでコスト や不確実さが高まる。また,裁判の終局性の利益はより危険にさらされる ことになる。こうした差異が,それが通常上訴で提起されたか,弁護人に

(7)

よる非効果的な弁護を主張する申立ての中で提起されたかによって,構造 的な瑕疵についての判断基準が異なることを正当化するのである。

  ₃  申請人は

Strickland

基準の通常の意味での判決に影響を及ぼす程度 の瑕疵,すなわち,弁護人が非公開について異議を申し立てていれば陪審 が有罪としなかった合理的な蓋然性を立証していない。申請人の家族がそ の場にいることで陪審員候補者の振る舞いが異なる事はあり得るし,公衆 の存在が影響する可能性があることも確かである。しかし,申請人は,弁 護人が異議申立てをしていれば異なった結果となった合理的な蓋然性を立 証する証拠を提示していない。

 また,申請人は,弁護人が異議申立てをしなかったことが公判を根本的 に不公正にしたことについても証明していない。記録によれば,非公開は 陪審員選任手続に限定され,非公開の判断が裁判官ではなく裁判所職員に よって行われ,陪審員に選任されなかった多くの候補者が手続きを傍聴し ており,非公開自体のほかに懸念を生じさせるものはない。

 さらに,本件では法廷の非公開に由来する潜在的な害が生じたという事 も立証されていない。たとえば,陪審員選任手続で陪審員が噓をついたこ とを示唆するものはなく,検察官や裁判官,当事者による懈怠を示唆する ものもない。参加者のいずれかが,制度が求める中立性と厳格な目的をも ってその任務にあたれなかったことを示唆するものもない。

 本件の非公開は第 ₆ 修正違反であり,裁判の公開が司法制度への尊重を 確保し,国家の裁判所で行われた手続きを報道機関や公衆に審査させると いう点は重要である。しかし,本件の違反は公判すべてに広がっておら ず,根本的な不公正を生み出していない。

2.トマス裁判官執筆の補足意見(ゴーサッチ裁判官参加)

 法廷意見は,アリトー裁判官執筆の結論賛成意見を排斥するものではな い。むしろアリトー裁判官の結論賛成意見のほうが,より合衆国最高裁判 所の先例を正しく適用している。

3.アリトー裁判官の結論賛成意見(ゴーサッチ裁判官参加)

 Stricklandの侵害要件を満たすには ₂ つの方法がある。被告人は問題と

(8)

なっている瑕疵が,判決に影響を及ぼす程度となるか,弁護権の否定に等 しい狭い意味での弁護人の誤りに属するものであるか,を立証しなければ ならない。申請人は,公開裁判を受ける権利の否定が「構造的」な瑕疵と されていることを強調してこの枠組みを回避しようとしているが,これは

Strickland

での救済を求める場合には不適切である。「構造的な瑕疵」の

概念は,瑕疵が公判の段階で生じたことが確認され,その瑕疵がハームレ スかどうかを判断しなければならない場合に作用する。Stricklandにおけ る,判決に影響を及ぼす程度の瑕疵は全く異なったもので,弁護人の不十 分な活動が判決に影響を及ぼす程度の侵害とならない限り,そもそも第 ₆ 修正違反はないのであるから,瑕疵がハームレスかどうかではなく,多少 なりとも瑕疵があったかどうかが問われる。したがって

Strickland

での救 済を求める場合には,判決に影響を及ぼす程度の瑕疵を立証する必要があ る。

4.ブライヤー裁判官執筆の反対意見(ケイガン裁判官参加)

 合衆国最高裁判所は,構造的な瑕疵についてはその独特な属性から,ハ ームレスエラーの審査の対象とはならないとしてきた。先例は,どのよう な構造的な瑕疵が真に重大なものかを解析することなく,単にすべての構 造的な瑕疵が「本質的に有害」であるとみなし,構造的な瑕疵であれば,

公判の結果への影響を考慮せずに,通常上訴において自動的な破棄を保障 すると判示している。しかし,本件法廷意見はこのアプロウチを採用せ ず,根本的な不公正をもたらす一部の構造的な瑕疵に限って,Strickland の下での実際の侵害要件を立証することなく救済を保障するとの前提に立 っている。Stricklandを充足するのには根本的な不公正さを立証すれば十 分であるという点には同意するが,一部の瑕疵を区別すべきではない。

 構造的な瑕疵はすべて,ハームレスエラーの分析に服さない特徴を有し ている。それゆえ,すべての構造的な瑕疵は,根本的な不公正を生み出さ なくとも,ハームレスの審査の対象とならず,通常上訴においての自動的 な破棄を保障される。この特徴は,すべての構造的な瑕疵が

Strickland

下での実際の侵害要件の審査の対象とならないことを意味する。

(9)

 法廷意見は,本件で問題となった公開裁判違反のような瑕疵は,その影 響を測ることが困難に過ぎるため「構造的」に分類されるとする。このよ うな瑕疵は「効果を測ることの困難さ」ゆえ,被告人が非効果的な弁護の 主張を確立するための侵害要件の立証を行うことは困難である。公開裁判 違反についてこの問題は明らかで,利用可能な証拠を被告人が有している 場合を想定するのは困難であり,被告人は,もし公開されていたらその公 判がどのように異なっていたかを立証するという,ほぼ不可能な負担に直 面することになる。

 被告人に一般に不可能な任務を負わせるべきではない。また,下級裁判 所に,どのような構造的な瑕疵が根本的な公正さを掘り崩し,どれがそう でないかを解析するという厄介で複雑な仕事を与えるべきではない。構造 的な瑕疵が通常上訴においてハームレスエラーの分析を類型的に受け付け ないのと同様に,Stricklandの下での侵害要件の分析も類型的に受け付け ないのである。弁護人の憲法上不十分な活動が構造的な瑕疵を生み出した ことが立証されれば,被告人が救済を与えられるのには十分である。

《解 説》

 1 本件は,構造的な瑕疵とされる陪審員選任手続中の公開裁判違反 が,通常上訴において何ら異議申立ても留保もされず,後に,弁護人がこ れを怠ったことが非効果的な弁護にあたるとの申立ての中で公開裁判違反 が主張された場合に,被告人側がニュートライアルを得るためには判決に 影響を及ぼすほどの不利益を受けたことを証明する必要があるかが問題と なった事案である。

 合衆国最高裁判所は,陪審員選任手続き中の公開裁判違反は「構造的な 瑕疵」にあたるが,通常上訴においてかかる瑕疵が主張されず,後に弁護 人による非効果的な弁護の申立てにおいて主張された場合,ニュートライ アルが保障されるためには,被告人側は弁護人の瑕疵ある活動により判決 に影響を及ぼすほどの侵害があったこと,あるいは,弁護人の活動が根本 的に不公正な公判を生み出したことを証明しなければならないとした。

(10)

 2 裁判は公正に行われなければならず,そのために様々な基準や原則 が定められているが,これらの基準や原則は複雑で多岐にわたるため,具 体的な事件の裁判においてすべてを詳細に検討することは困難であるし,

また,常に一切の瑕疵のない裁判の実現を求めるのも現実的ではないの で,裁判の公正が確保されていれば,必ずしも完全無欠なものでなくとも 足りるといわれる。このことから具体的な事件の公判過程において瑕疵が あっても,その瑕疵が公判結果に重大な影響を与えるものでなければ,瑕 疵は無害(ハームレス)なものとされ有罪判決は破棄されることはない。

いわゆるハームレスエラーの法理である。

 憲法上の瑕疵には, 公判過程上の瑕疵(trial error) と構造的な瑕疵

(structural error)の二種類がある。後者の瑕疵は,公判手続全体の枠組 みに影響を及ぼすものであり,単なる個別の公判過程上の瑕疵ではないの で,ハームレスエラーの視点で分析することはできず,かかる瑕疵がある 場合には有罪判決は自動的に破棄される。

 合衆国憲法第 ₆ 修正の公開裁判を受ける権利は,公判手続の公正さを担 保するために被告人に保障された権利である1)。公開裁判の保障違反が構 造的な瑕疵にあたるかについて, 合衆国最高裁判所は

Waller(Waller v.

Georgia, 467 U.S. 39 (1984).)

2)において,公開裁判の保障違反の救済を受 けるためには具体的な不利益の証明は不要であると判断した。この判決に よって,被告人の公正な裁判を受ける権利や,機密情報や国家安全保障上 の問題を含む情報の開示を禁ずる政府の利益が関係する場合など,特定の 状況では非公開は正当化されるが,その場合にも公判裁判所は合理的な代 替策をとる必要があり,それがない場合には構造的な瑕疵となるとの判断

1) 裁判の公開の機能については,Gannett Co., Inc. v. DePasquale, 443 U.S. 368 (1979),Globe Newspaper Co. v. Superior Court, 457 U.S. 596 (1982) など参照。

これらの判断の紹介・解説として,渥美東洋編『米国刑事判例の動向Ⅲ』(中 央大学出版部,1994年)163頁及び197頁(19事件及び21事件 中野目善則担 当)がある。

2) Waller の紹介・解説として,同上219頁(23事件 中野目善則担当)がある。

(11)

が示された3)。 その後,Presley(Presley v. Georgia, 558 U.S. 209(2010).)

において公開裁判の保障は,陪審員選任手続にも及ぶとされた。本判断も これらの先例に従い,本件の陪審員選任手続の非公開は公開裁判の保障違 反として構造的瑕疵にあたるとの立場を明確にしている。

 構造的な瑕疵に関連して,本判断では,憲法上の瑕疵が構造的な瑕疵で あるとされる場合の理論的根拠が示されている。構造的瑕疵については一 般に,その中で公判も進行する「構造」に影響を及ぼす瑕疵であるが故に ハームレスの審査の対象とならないと説明されてきたが4),本件の法廷意 見は,構造的瑕疵についての先例を検討し,瑕疵が構造的とされる根拠は 必ずしも一様ではなく,①問題となっている権利が,被告人を誤った有罪 判決から保護するのではなく他の利益を保護しているような場合,②瑕疵 の影響を測ることが困難に過ぎる場合,③瑕疵が常に根本的な不公正を生 み出す場合があるとの分析を加え,さらに,ある特定の瑕疵がこれらの根 拠の複数に該当する場合もあるとした。前述のように,もともと構造的な 瑕疵の概念は,公正な裁判の実現と結びついたハームレスエラー法理の下 で発展してきた。そのため,本来的には構造的な瑕疵の試金石となるの は,裁判の根本的な不公正(③)であることは確かであるが,本件法廷意見 はそれ以外にも,瑕疵の公判結果への影響を問うハームレスエラーとの関 係で,公判結果と結びつかない瑕疵(①)や,公判結果への影響を測ること が困難な瑕疵(②)も構造的な瑕疵となりうるとした。本件の法廷意見はこ

3) See, Neder v. United States, 527 U.S. 1 (1999). 合衆国最高裁判所は,非常に限 定された範囲で瑕疵を構造的なものとしてきている。Neder での整理によれば,

①弁護人の助力を受ける権利の完全な否定(complete denial of counsel),②公 判裁判官の偏見(a biased trial judge),③大陪審の選任手続において人種差別 に基づく選任(racial discrimination in selection of a grand jury),④自己弁護権 の否定(denial of self-representation at trial), ⑤公開裁判の否定(denial of public trial),⑥合理的な疑いを容れない証明についての誤った説示(a defec- tive reasonable doubt instruction),といった瑕疵が構造的な瑕疵にあたるとさ れている。See, Id. 527 U.S., at. 8.

4) See, Arizona v. Fulminante, 499 U.S. 279 (1991), at 309. See, also Neder, Id. at 7.

(12)

の分析を,本件事案の解決を念頭において,構造的な瑕疵であっても根本 的な不公正を導かない場合があることを説明するために用いているように も読めるが,構造的な瑕疵が本来的にハームレスエラーの法理と結びつい ている以上,かかる分析には一定の説得力があり,構造的な瑕疵が主張さ れた場合に,当該瑕疵が構造的か否かの判断や,その瑕疵に対する適切な 救済方法を検討する場合の基準となり得るという点で重要である5)  3 このように,公開裁判違反は構造的な瑕疵にあたるが,その救済方 法はいかにあるべきかが問題となる。本件法廷意見は本件公開裁判違反の 救済方法について検討し,通常上訴で公開裁判違反が主張されれば,構造 的な瑕疵であるためハームレスの分析の対象とならないので公判結果は自 動的に破棄されるが,一方で,有罪判決確定後に非効果的弁護の主張にお いて公開裁判違反を主張し救済を求める場合には,その内容が構造的な瑕 疵に分類される,公開裁判違反の主張の懈怠を内容とするものであったと しても,Strickland6)の基準が適用されるとした。

 通常の

Strickland

基準の審査では,被告人は,①弁護人の活動が弁護人

に通常期待される客観的基準に達しないものであり(活動要件),②弁護 人の瑕疵ある活動により判決に影響を及ぼすほどの侵害があったこと(侵 害要件)を証明しなければならない。法廷意見はこの点を一般的に指摘し たうえで,Stricklandの下では,異なった結果の合理的な蓋然性が立証さ れなかったとしても,弁護人の瑕疵が公判を根本的に不公正なものにした ことを立証したのであれば救済が認められなければならない,との申請人 の解釈を前提として救済の可否を判断している。法廷意見が,かかる前提 を採用した理由は必ずしも明確に示されていないが,構造的な瑕疵が重大

5) 本判断を引用して構造的瑕疵を認定したものとして, たとえば McCoy v.

Louisiana. 138 S.Ct. 1500 (2018). McCoy の紹介・解説として,米国刑事法研究 会(代表 堤和通)・ アメリカ刑事法の調査研究(159) 比較法雑誌53巻 ₁ 号 159頁(中村真利子担当)がある。

6) Strickland v. Washington, 466 U.S. 668 (1984). Strickland の紹介・解説として,

前掲注1)渥美90頁( ₉ 事件 椎橋隆幸担当)がある。

(13)

な瑕疵であることに鑑み,Strickland基準の下での構造的瑕疵の主張の扱 いについて,慎重に検討を行ったものと思われる。

 そして,本件法廷意見は,構造的な瑕疵に対する救済が,通常上訴で主 張された場合と,非効果的弁護の主張において提起された場合で異なるこ とについての正当化事由として,コストの増大の回避や裁判の終局性の確 保を挙げている。これらの正当化事由は制度設計にかかわる政策的なもの であるが,公判手続全体の構造に影響を及ぼす構造的な瑕疵についての救 済方法の差異を正当化するには必ずしも十分ではなく,より原理的な説明 が求められるように思われる。もっとも,法廷意見が,公開裁判違反が構 造的な瑕疵とされる理由について,実質的で詳細な検討を行っている点

(本評釈の法廷意見 ₁ ⑵参照)は重要であり,このことによって,法廷意 見の結論がまったくの政策論に基づくものであるという見方に対して,一 定の留保が付されるものと思われる。

 これに対して,反対意見は,構造的瑕疵は「本質的に有害」であるがゆ えに,重大性や公判結果の影響とは無関係に,自動的に破棄されるのであ って7),公開裁判違反が構造的瑕疵である以上,通常上訴で主張されたか,

弁護人による非効果的弁護の主張で申し立てられたかで違いを設けるべき ではないとし,法廷意見が構造的な瑕疵を分類し,その分類によって異な る扱いをするとした点を批判している。

 4 本件で合衆国最高裁判所は,構造的な瑕疵の理論的な根拠について 分析し,公開裁判違反が構造的な瑕疵にあたることを確認した。そして,

構造的な瑕疵については,それが通常上訴で主張された場合と,非効果的 弁護の主張において提起された場合とで救済方法が異なることを示した。

本判断は,弁護人が法廷の非公開につき異議を述べなかったという事案に つき,Stricklandの侵害基準を満たさないとした他,公判が非公開とされ た経緯や実際の手続に不公正さの懸念を生じさせる事由がないこと,非公 開により具体的に害が生じていないこと等の諸事情を示して総合的に判断

7) See, Neder, supra note 3, at 7.

(14)

を行っているものであるが,公正な裁判の実現と裁判の終局性の利益との 間の適切なバランスという,従来から合衆国最高裁判所が取り組んできた 問いにかかわる判断であり,構造的な瑕疵とあるべき救済を検討するにあ たって有用な一事例として意義があると思われる。

参照

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