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論文の要旨 1

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Academic year: 2021

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論文の要旨

1 申 請 者

防衛医科大学校 辻 田 由 喜

2 論文題目

PTEN遺伝子変異による原発性免疫不全症 Activated PI3K-delta like syndromeの発見

3 論文の概要

目的

Phosphatidylinositol 3-Kinase (PI3K)は、イノシトール 2リン酸(PIP2)をイノシトール3 リン酸(PIP3)に変換する酵素活性をもち、リンパ球においてPIP3下流のAKT/mTOR/S6シグ ナルを介して、T細胞受容体、B細胞受容体、サイトカインレセプターのシグナル伝達に関与 している。PIK3CD または PIK3R1 遺伝子の変異によって PI3K-delta の機能亢進が生じて PIP3産生が亢進し、原発性免疫不全症Activated PI3K-delta syndrome (APDS) が生じるこ とが近年発見された。われわれは、APDS類似の臨床症状を示しながらもPIK3CD、PIK3R1 遺伝子変異を伴わずPhosphatase and tensin homolog (PTEN)をコードするPTEN遺伝子に 変異のある患者を2名見出した。PTENはPIP3をPIP2に変換する酵素活性を持つことから、

PTENの機能不全はPI3Kの機能亢進と類似の病態を引き起こし、APDSと同様の機序で免疫 不全症を発症する可能性があると考えられた。以上より、PTEN 機能喪失変異により APDS 類似の免疫不全症が発症するという仮説をたて、それを明らかにすることとした。

対象並びに方法

本研究はヒト検体を用いるため、防衛医科大学校倫理委員会の承認(「先天性免疫不全症の 遺伝子解析研究」受付番号438および「原発性免疫不全症の早期診断法の確立に関する研究」

受付番号566)を得て実施した。検体採取に際しては、対象者もしくはその保護者に研究内容 を文書と口頭により説明し署名同意を得た。

国内の原発性免疫不全症患者を対象にPIK3CD変異をもつAPDS患者を同定し臨床症状をま とめた。対象患者にAPDS類似の臨床症状を示すPTEN遺伝子変異患者を見出したため、PTE

(2)

N遺伝子変異を持つ患者4名のリンパ球におけるPTEN蛋白発現をウエスタンブロッティング 法にて解析し、患者の持つ遺伝子変異によってPTENの発現が低下するのかどうかを検討し た。さらにPTEN遺伝子変異を持つ患者およびPIK3CD遺伝子変異をもつAPDS患者のリンパ 球を用いて、PIP3下流のAKT/mTOR/S6のリン酸化を解析し、シグナル伝達の異常がPTEN 変異患者においてもAPDS患者と同様に生じているのかどうかを検討した。このシグナル伝 達評価のためには、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング法、マルチプレック スアッセイを用いた。さらに診療録から臨床症状を得、血液検体を用いてフローサイトメト リーによる詳細なリンパ球サブセット解析およびリアルタイムPCR法によるT-cell receptor excision circles (TREC), signal joint kappa-deleting recombination excision circles (sjKREC) 測定を行うことでT細胞新生能、B細胞新生能を解析し、免疫学的評価を行った。

結果

国内のPIK3CD変異をもつAPDS患者を15名同定し、その臨床症状は海外からの報告と 同様であった。解析対象の患者から、PTEN変異を持つAPDS様免疫不全症2名が見出され、

患者リンパ球におけるPTEN蛋白の発現結果は健常者と比較して低下していた。患者のPTE N遺伝子変異はリンパ球においてPTEN蛋白発現を低下させる変異であることが示され、患者 リンパ球のPTENの機能は低下していると推察された。

APDS患者リンパ球では、PIP3下流のAKT/mTOR/S6経路のリン酸化亢進が認められた。P TEN変異患者においても同様に、リンパ球におけるAKT/mTOR/S6経路のリン酸化の異常亢 進が確認された。このことから、PTEN機能喪失変異ではAPDSと同様のシグナル異常亢進が 存在し、これが免疫不全症を発症させていると考えられた。

PTEN変異患者とAPDS患者では、リンパ組織腫脹、血球減少、高IgM血症など臨床症状の 類似点が明らかになり、T細胞のCD4/CD8比率の逆転がPTEN変異患者とAPDS患者の一部に 認められた。PTEN変異患者はTREC、sjKRECともに正常であったが、一部のAPDS患者で は加齢によるTREC減少傾向が認められたため、PTEN変異患者においても経時的な低下の有 無について継続した評価の必要性が示された。

考察

(3)

以上の解析結果より、PTEN変異はAPDS類似の機序で免疫不全症を発症させることが示さ れ、これをAPDS-like immunodeficiency (APDS-L)と提唱した。PTEN機能喪失変異により、

巨頭症、過誤腫、腫瘍を発生しやすくなるPTEN過誤腫症候群という病態が今まで知られて

いたが、APDS-Lは今回の研究で初めて明らかになった。一方で、一部のPTEN変異患者では

AKT/mTOR/S6経路の異常なリン酸化亢進を伴いながらも免疫不全症を呈していなかったた

め、今後症例の蓄積とその解析が本疾患のさらなる病態解明に必要であると考えられた。

4 キーワード(5個程度)

「Phosphatase and tensin homolog (PTEN)」,「原発性免疫不全症」,「Activated PI3K-delta like syndrome」,「AKT/mTOR/S6シグナル」,「PIK3CD

参照

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