「植物の成長と光」の教材研究
鈴.木 昌 友
はじめに
中学校の教科書,理科の2分野に「環境と植物の生活」という章がある。この中に「植物の成 長と環境」という見出しがあり・植物の成長と光を取りあつかう中で, 「植物の種類によって必 要とする光の量は違うだろうか」という疑問を投げかけているGそしてその下にミャマヵタバミ
とアブラナによる光の強さと光合成の際の二酸化炭素の吸収量との関係を示しトグラフを出して いる。云うまでもなく陰地性(Shaded)の陰地植 1
物(Shade plant) と陽地性(Exposed)の陽地 垂
A物(S。。p1。n,)とによって光の強さ、こ違いが農 素 アブラナ
あることを理解させる教材なのであるo教科書で 鎧
ミヤマカタパミ
はその下ひシバ,篠の断面図を二つ並べ,「日窒 .〆・一馳一 一 一巳一− 一 一 冒一『一 一 一一 一 一
@,
のよく当たる葉」と「日の当たらない葉」とを示 している。説明には「1本の植物でも日のよく当
たる葉と日の当たらない葉とでは厚さが違ってく 、 の 強 さ,一一一}
る。このことも光合成と関係があるのだろうか」 図1 中学校理科に図示されている光合成曲線 と記されてある。同一個体でも上層部と下層部の葉では柵状組織の構造に違いができることは植 一
ィ社会の高木層に見られる適応(adaptation)の現象であるが,上記のアブラナは陰地に生育不 可能な絶対的陽地植物の例であり,またミヤマカタパミも逆に陽地に生育不可能な絶対的陰地植 物の例である。光合成カープの例はこれらの植物のもっている「性質」として教え,適応の例は 1本の植物でも葉の光に対する「変り得べきもの」として取りあつかうようになるのだろうか。
このような光合成カープを中心とした成長や光に対する適応を取りあつかう過程においては,
もう少し植物学上の資料を加えて検討する必要がありはしないかと感じた。特にこれらの項目を 中心に野外で指導することが原則であるならば地方(地元)に立脚した形で総合的にとらえねば なるまい。そんな時に植物学の研究者が数年間にわたって調査研究した「なまのデーター」が教 育の現場でお役に立つものかどうか試みてもらえれぽ幸と思い未発表の資料も含めてここに整理
, オてみたo
光合成一呼吸曲線
a アキノキリソソウの例
一31一
アメリカ・スタンフォードにあるカーネギー研究所のピェルクマン博士(OllcBl,or㎞an)は
アキノキリンソウ(Sohdago Virgaurea)をスカソディナビアの高山,陸内.海岸などから集め F
て光合成能力と温度との関係を研究した。この結果,スェーデンの南部海岸のものでは最適温度 が20°C附近にあり,ウプサラ近くの内陸性のものでは24°C近くに,さらにノルウェー北部の 極地・高山のツソドラからのものでは16°Cにあることがわかり,しかもこれらの生態型(eco一
type)ではそれぞれ光飽和に達する照度にも差のあることがわかった。さらに博士はスヵソディ ナビア南部のブナーナラの林床から採集した株と,やや乾燥した草原および海抜600mの極地・
高山荒原から採集したものを用いて実験を行ったo
mg。C免/am2.h・ mg.C免/h皿2.h・
A 匹 B
30 30
強い光で栽培
弱い光で栽培
20 f, 一@一 一 一 一 一 一 帥 一 一
20
/ 強い光で栽培
↑
一 一 一 一 一
弱い光で栽培一 _ _ 一 一 一
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吸置0 吸10
収 ノ 収
放0 0
10 20 30放 10 20 30
出1−5 104・・g・論ec1 出 の強さ(鰍・,幽り、・生,吻 ↓−5
4 2 1
@ 10erg c囮8ec の強さ.(毎秒1(冠当り10生ルグ)
図2 アキノキリソソウの光合成能力の差異A陽地より採集したアキノキリンソウの株,それを強い光 と弱い光で栽培した後に光合成能力の実験をしたもの,B陰地より採集した株(ビエルクマソ1966)
ブナーナラ林床のものはいわゆる陰地性のものであり,草原や荒原のものは陽地性の株である。
この生育状態の異なる個体を二つの異なった照度に調節した環境制御装置の中で裁培した後.光 合成能力を測定してみた。その結果は図2に示す通りである。陽地性のアキノキリソソウ株を強 い光の下で育てると光合成のヵ一プは陽地植物型を示し,弱い光の下で育てると陰地植物のよう なヵ一プとなる。また,陰地性の株を弱い光で育てると,1時間当り10c耀の葉面積につき炭酸 ガスの量は20彫附近で光飽和に達する。同じく強い光で裁培すると,弱い光で裁培した時より も光合成能力は落る。長期観察の結果は,陰地性のアキノキリンソウは弱い光の下で裁培すると 急速に成長し花芽を形成して開花する。しかし強い光のもとでは成長が悪くなり,光吸収系が損 われてしまう。それでも幾分か発育して花芽の分化を行なう。一方,陽地性のアキノキリソソゥ
の株は強い光のもとでは発育し花芽を形成して開花するが、弱い光の下では実験開始よりわずか 「 」
o −32一
数週間で発育が完全に止ってしまうo ,
この事実は生理的種内分化がおきつつあることの証拠で,大きな意味で進化の問題としてとら えることができる。
6
Aキノキリソソウは茨城県では鹿島から北茨城にわたる海岸の陽地にも生育し,また筑波山や 八溝山,花園山などの山中の林床にも生育しているo最も手近で確実な実験例の出ている教材と いえるo
b.チシマザサの例
ササの仲間は日本に固有で日本全土に分布し,林床植物の標微種としても知られている。これ らのササ類の多くは沐床には勿論,山くずれの斜面とか尾根筋などの陽地にも広面積にわたって ■
カ育しているのを見かける。これらのササ類のうちからチシマザサについて光合成カーブを見て みると,同一種に属するものでも二つの異なった型の光合成ヵ一ブを示すことが知られている。
すなわち林床に生育しているものでは陰地植物型の光合成ヵ一ブを示し,尾根筋などの陽地に生 育しているものでは陽地植物型を示している(図3参照)o
mg・CO、/50副・hr
10 チシマザサ
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◎ ・・ ・・ 3・ k1・・
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図3 チシマザサの光合成曲線 E:陽地性のもの S:陰地性のもの 同一の種でも生態の違いにより 光合成にも違いが出ている例
c.ムラサキケマンの例
環境が異なっている,だから光合成能力にも違いがでたものである,と考えられるものは比較 的わかりやすいが,ここではさらに異なった例をあげることがでぎるo
早春,葉を広げ5月の末から6月の頃までには葉がとけて消滅してしまうような生活型をもつ
植物がある。早春季植物(Spring ephemeraDと呼ばれるもので,ヤプエンゴサク,ムラサキケ 一33一
マン。レソプクソウ,アマナ,ヒメニラ,ムカゴネコノメ、アズマイチゲ,イチリソソウ,カ タクリなどがそれである。これらの植物は生活環境に調和レたたくみな生活様式をもっている・
ことがわかり出して来た。すなわち。クヌギーコナラ林のような落葉性高木がまだ枯木のよう な状態にある3月の初旬に。葉を展開しすぐにも開花結実すると同時に・林床にふりそそぐ十
・ 分な強い光を最大限に利用して光飽和に達する照度が高い,いわゆる陽地植物型を示しているo 林床に生活の場をもちながら他の夏緑性林床植物(キヅコウハグマ,ノブキ,カテソソウなど)
とは全く違った生活様式をもっている。ところが4月の中旬に入って森林の樹木が新芽をひろ げ出す頃ともなると同一個体でありながら,これらの光合成ヵ一プは陰地植物型と変り.弱い 光で光飽和に達してしまう。そして5月初め,実験的に強い光で光合成をさせると光吸収系が 昌
ケわれて光合成ができなくなってしまう。
これらは落葉性の森林の林床に生育するたあ,春先の林内の光環境に見事に適応した生活環 をもっていることがわかる。
2
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20 ムラサキケマソ
March 222
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図4 ムラサキケマソの光合成曲線 同一体でも季節によって光合成に違いが出ている例
d,ノブキの例
最も典型的な陰地に生育する陰地植物としてコミヤマヵタパミ,アマチャズル,ミャマヵタ バミ,ノブキ,ヤブラン,オオバジャノヒゲなどを上げることができる。これらは教科書でも 取りあげているように低い照度で光飽和点に達してしまいそれ以上は光を強くしても光合成能 力は変化しないものである。
しかし,この正しくグループに入る植物の種類は上記の他にどのようなものがあるだろうか。
一34一
〆
この間は意外と難問で正しい実験が行なわれなければ軽卒に答えられないことがある。
ノブキは茨城の林床には普通に見られるものであるが7月の林床内で採集した個体においては ミヤマカタパミと同じような結果が得られたo
e.ヘラナオパコの例
前記の陰地植物型に対して陽地に生育する陽地植物型の光合成ヵ一プを示す植物であるoこれ らは,オナバコ.ヘラオナパコ,アブラナなどがあげられる。これらは光の強さを強くすること によって光合成能力が最大に近づく光合成系をもつものである。
茨城県の森林内の相対照度
冬期は葉が落ち・夏には葉が茂って日影を作っている森林は.,茨城県では普通に見られる。図 5は1968年から3ケ年にわたって,茨城県北部花園山で相対照度を測定した平均の値である。
この森林はブナ,ミズナラ.アカシデ,ヤマザクラなどが高木層を成している温帯林であるが,
年間を通じての季節的変動のありさまがわかるo
この地方では12月から2月まではほぼ80%近い光が差し込み.木々の芽がふき出し始める3月 下旬より4月、5月にかけてば急下降を示す。5月に入ると20%くらいの光となるがそれ以後◎
%
100 α
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80 一●ノ●\● ● b
70 60 T0
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30 ●
20 ●
10 O
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cJAN6 FE臨MAR・APR・MA「毘∫UN・JUニムUG。 SE既OC篤NO・凱DEC.
図5 茨城県花園山亀谷地のブナーミズナラ林およびヒノキ林内の相対照度 a標準 bブナーミズナラ
林内 cヒノキ林内 「
一35一
「
7,8,9月と10%またはそれ以下にまで下り,10月から11月にかけて落葉が始まると再び80%
くらいになるというqycleをもっているo
かつて河野昭一博士らと東京都秋津の流れに沿ったクヌギ林で相対照度を測定したが,秋津で は1年のOycl¢はこれよりもやや変化があり,11.12,1,2月ではほぼ90%くらい、3月で80
%程になり,4月が40%,5月が20%前後と下降し。この状態は6,7,8,9月の中旬頃まで 続き、10月に入って落葉が始まると1月とほぼ同じ状態にもどる。この二つの例は茨城県花園山 と東京都秋津における落葉樹林の相対照度であるが,野外で観察し学習しようとするフィールド の地点をこの二点と比較すればおおよその森林内の光環境を理解することができるであろう。
光に対する適応
教科書では前述のごとくハシバミの日のよく当たる葉と日の当たらない葉との横断面を図示し,
柵状組織の厚さに違いがあることを教示している。柵状組織の厚さ,すなわち層の数、細胞の大 きさなどに顕著な差が表われる例はサトウカエデなどでも見られており,私共はこれを陽葉.陰 葉と呼んでいるoサトウカエデでは陽葉(上層葉)と陰葉(下層葉)の他に陰葉にやや近いが両 者の中間型の中層葉も見られる。ミヤマカタパミ,コミヤマカタパミなどの絶対的陰地植物は陰 葉だけしか作らない。
これらの現象は森林の構造に関係してくるoそれらは3つに大別されるが.α)陽地植物型:群 落の上層部に位置する植物で光合成カーブは上昇性で経過が高く.一般に単位面積当りの葉の乾 燥重量は大きいo(2)条件的陰地植物型:葉の形や大きさは変化があり,強い光にも弱い光にも耐 えて二通りの葉をつくる条件的陰地植物。(3)絶対的陰地植物型:森林内の中層以下に位置し光飽 和量が弱い照度で達し.光合成カーブの形は平たく,単位面積当りの乾量は小さく,陰葉をつけ るもの。
まとめ
成長を光合成からとらえるには幾つかのクッショソを置かなければならないが,妥当であると考 えられるoそして成長に関係する環境要因の一つとして光環境を取りあつかうのも温度と共に大 切な事であると思われるo
植物が光の利用の仕方から見て機能的に考えると陽地植物型,陰地植物型,条件的陰地植物型 などがあるが.さらに光合成と生活環境から生理的な点にまでもさまざまな分化が行なわれてい ることを知らねばなるまい。そして,第一分野において光スペクトルが学習されているとすれぽ,
今度は森林内の光の照度だけではなく,光の質とそのエネルギー(スペクトルの波長部分のエネ ルギー量)が関係していることにも言及すればQp㎝endの型の授業となるがさらに高校での1生 物」.あるいは自然への関心を最大にひき出し.総合的な見方にまで発展できるのではないかと 考える。
@ 、 一36一
●
謝 辞
・ 本稿を草するに当り.水戸第四中学校の木村義明先生、下館中学校の斉藤英治先生,大和中学 校の早瀬長利先生の御協力をいただいたoまた光合成に関して御協力賜わった富山大学の河野昭 一博士に感謝の意を表するo
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