1 .はじめに 筆者らは、カレイ目魚類の摂餌量と成長が緑色光を照 射することによって促進されることを示してきた。そこ に介在する、緑色光という刺激を成長という現象に結び つけるインターフェイスとして、メラニン凝集ホルモ ン(
MCH
)を設定して検証を進めてきた。しかしマコ ガレイを用いた最近の研究によりMCH
以外の要因を 設定する必要性が生じた。その切っ掛けは、佐藤生を 主著者、責任著者筆者、そして水澤寛太と笠木聡を共 著者としてAquaculture Science
誌に発表した論文“Blue
light stimulates the expression for melanin-concentrating
hormones in marbled sole, Pseudopleuronectes yokohamae
”に記載した研究結果である1)。本稿ではこれまでの経過 を振り返り、これからを展望したい。 2 .仮説の軸としての MCH 2.1.MCH と体色 生きものは少ならず光の影響を受けて生きている。昼 行性動物は明期に活発であり暗期には不活発である。生 きのびるための摂餌行動はエサを目視できる明るい状 態でもっぱら行われる。夜行性動物ではこれが逆転す る。魚類などに認められる、体色の背地順応によるカモ フラージュも明るい光環境下でこそ可能な生命現象であ る。そもそも暗闇では体色に意味はない。 魚類の色素胞においてメラノソームなどを凝集して体 色を薄く(あるいは明るく)するホルモンに
MCH
があ る2)。MCH
は視床下部外側隆起核で産生され、下垂体 神経葉から分泌されて体色調節に関与する。ニジマスに おけるその日内変動は明期に高く暗期に低い3)。カレイ 類では、MCH
の産生は白背地で高く黒背地で低いこと から、背地色に対応して変動することがわかる。カレイ 類におけるMCH
の色素凝集活性はin vitro
とin vivo
の 両方で確認されている。したがってMCH
産生量、言 いかえると血中MCH
濃度の違いが体色に反映されや すいのであろう。ちなみに、ニジマスで調べた灰背地で のMCH
産生量と体色は白と黒背地の中間である4)。 2.2.キンギョとマツカワでの MCH と摂餌行動の関係 キンギョでも体色は背地色に応じて変化し、白背地で は薄くなる5)。MCH
の産生量は背地色に対応して変動 し、白背地で高く黒背地で低い5)。背地色の差異(白も しくは黒)に応じて体色に差異が認められることから、MCH
産生量の多少が皮膚での黄色素の運動や形成を通 じて体色に表現されたと考えられる。さらにキンギョで は、MCH
が哺乳類と逆ではあるが、摂餌行動にも作用 することが松田らにより報告されている6, 7)。すなわちMCH
の脳室内投与により摂餌行動が抑制され、逆にMCH
抗血清の投与により促進される。MCH
受容体は キンギョのさまざまな組織で発現する8)。そのなかには もちろん脳と皮膚が含まれており、それぞれが摂餌行動 と体色調節に関与していることになる。一方、筆者らに よるこれまでの飼育では、成長(体重の増加と全長の伸 長)に白と黒の背地色間で顕著な差は認められない。こ れらのことから、MCH
は実験的にはキンギョの摂餌行 動を抑制するが、白背地で増加するMCH
の産生量は、 成長に影響を及ぼすほどには食欲を抑制するものではな いと推測される。 カレイ類ではMCH
が体色を明化させることは明ら かであるが2)、摂餌行動への関与を示す直接的な証拠は まだ得られておらず、傍証に止まっている。傍証の一つ は、白背地で飼育したマツカワではMCH
の産生量が 高く、その成長は黒背地区の個体よりも優れていること である9, 10)。この現象は2004
年に報告し、その後複数 の実験において再現性を確かめてきた。また、自発摂餌 法での計測により、白背地区での摂餌量が黒背地区より も多いことを認めている11)。白背地でMCH
の産生量 が増えることと摂餌量が増加することは間違いなさそう である。白背地ではよく食べ、食べた分が体重増加に反 映されると考えられる。哺乳類と同じようにMCH
が マツカワでも摂餌行動を促進するのならば、このホルモ ンが白背地という光環境と摂餌行動をつなぐインター フェイスになりうる。しかし、繰り返しになるが、その 確証はまだ得られていない。 2.3.マツカワの成長と LED 光 以上のように白背地での飼育によりマツカワの成長を 促進できることがわかった。さらにこれに基づいて発展 させた研究により、成長促進には緑色光の照射も有効 であることがわかった。緑色光を実験に使用したアイ ディアについては本誌に山野目らが以前紹介している ので12)、ここでは省略する。 マツカワの成長に対する有彩色光の効果は、暗室でLED
を用いて調べた13)。飼育水槽水面での光量子束密 度は7
μmol·m
−2·s
−1に調整した。青色LED
光(ピーク 波長、464 nm
)、緑色LED
光(同、518 nm
)および赤 色LED
光(同、635 nm
)の照射下(照射時間、06:30-16:00
。飼育開始日の日の出と日の入りの時刻に合わせ た)での飼育(4
週間)では、平均水温14.9
℃と8.6
℃ のときは青色光下と緑色光下での成長(体重の日間成長 率)は同等であり、赤色光下よりも優れていた。平均水光と成長をつなぐホルモン・インターフェイスの探究
高橋 明義(北里大学・海洋生命科学部) E-mail: [email protected]トピックス
温
6.6
℃では緑色光下での成長が、他の2
区(青色光区 と赤色光区)よりも優れていた。これを発表した原著論 文では、当初対照区とした環境光区での屋外光の入射を 自然条件どおりとしたため、審査員の指示によって統 計検定から除外した。考え方として無理があるのかも しれないが、あえて環境光区の値を上記LED3
区に加 えて検定すると、どの飼育水温でも光の色にかかわら ず、LED
光照射区での成長はすべて、環境光区に比べ て有意に高いことが認められた14)(図1
)。結局、青、緑、 赤のどの光でもマツカワの成長は促進されるのである。 ただしマツカワでは低水温(平均6.6
℃)で緑色光の効 果が顕著であるため、筆者らは緑色光の効果を強調して いる。緑色光の効果を前面に出すことが誇張でないこと は、後のホシガレイとヒラメでの研究から支持されるこ となった。 成長に対する緑色光の光強度依存性も調べた15)。マ ツカワを用いた暗室での実験では2
~21
μmol·m
−2·s
−1 の範囲で光強度依存的に成長が促進されている。しかし、 水槽を暗室から屋内に移動して行った実験、すなわち環 境光に緑色光を加えた条件では光強度依存性は認められ ていない。 2.4.ホシガレイ・ヒラメの成長と LED 光 ホシガレイとヒラメの成長に対しても緑色光が有効で あることが国立研究開発法人水産研究・教育機構 東北 区水産研究所 沿岸資源研究センター(岩手県宮古市、 現水産研究・教育機構宮古庁舎)の清水大輔らによっ て報告された16)。上記3
種のLED
に加えて青緑LED
光( ピ ー ク 波 長、497 nm
)と 白 色LED
光( 同、447
、550 nm
)の効果も調べられた。飼育期間はホシガレイがA
B
図 1.有彩色光照射下でのマツカワの成長と摂餌青色LED光(ピーク波長464 nm)、緑色LED光(同518 nm)、赤色LED光(同635 nm)照射下で4週間飼育したマツカワの
日間摂餌量(A)と体重の日間成長率(B)。平均水温:6.6 ℃、8.6 ℃および14.9 ℃。異なる英小文字間には有意差がある。文献
60
日間、ヒラメが63
日間である。これら2
魚種に対して緑色
LED
光、青緑色LED
光ならびに青色LED
光の成長促進効果は同等であり、環境光下に比べて有意に高 い値を示した。平均値を参考にすると、順位づけはでき ないが、緑色光
>
青緑色光>
青色光の順に一応、効果 が強い(図2
)。一方、マツカワとは異なり、赤色LED
光下での成長は対照の環境光下と同様であり、成長促進 効果は認められていない。白色LED
にも成長促進効果 は認められていない(図2
)。 ヒラメの成長に対する緑色LED
光の有効性は大分県 農林水産研究指導センターの都留久美子主任研究員を中 心とした飼育実験でも認められている17)。スタンレー 電気(株)製の灯具(スタンレー区)と市販の灯具(市販 区)の比較では、スタンレー区の成長が市販区での成長 よりも有意に優れていたという。前者のピーク波長は518 nm
であるが、後者の色は肉眼でやや黄緑がかった 色にみえたため、ピーク波長が長波長側だったと推測さ れる。その差が成長に現れたのかもしれない。 以上のホシガレイとヒラメの飼育は暗室ではなく屋内 水槽で行われた。通常の屋内水層にLED
を追加するだ けで成長を促進できたのである。この簡便性は水産業に とっては有利な知見である。ホシガレイでも屋内では光 強度依存性が認められていない。ただし、実験例が少な いことから今後さらに研究を進める必要がある。 2.5.マコガレイの成長と LED 光 神奈川県水産技術センター(神水技セ)ではマコガ レイ稚魚の成長にも青色あるいは緑色LED
光の照射 が有効であることを見出した18)。マツカワ、ホシガレ イ、ヒラメに続く第4
の成果である。赤色LED
光と白 色LED
の効果は対照区の蛍光灯照射と同程度であった。LED
光照射下での飼育実験は何度か行われているが、 青色LED
光と緑色LED
光それぞれに、いつも同等の 成長促進効果が得られているようだ。 3 .LED 光とカレイの内分泌現象 3.1 .マコガレイ 神水技セの複数の飼育実験のうち、以下のように緑 色LED
光と青色LED
光が同等の効果を示した事例が ある:緑=青≥
赤=白=蛍光灯。これらから筆者ら はマコガレイ稚魚の分与を受け、いくつかの神経ペプチ ドの脳内mRNA
含量を定量した1)。含量に顕著な変動 が認められたのはmch1
とmch2
であった(図3
)。青色LED
区では対照区(蛍光灯区)を含む他の試験区に比べ て有意に高い値が認められた。神水技セで設定した光量 子束密度(水面上)は7
μmol·m
−2·s
−1の1
点のみであっ たため今後の詳細な検討が期待される。 興味深い点は、成長については緑色LED
光と青色LED
光が同等であるのに、MCH
遺伝子の高発現が青 色LED
光区では認められるが、緑色LED
光区では認 図 2.有彩色光照射下でのホシガレイメの体重の推移 文献14より転載、一部加筆。誤差線は省略した。n = 40。0
2
4
6
8
10
0
20
40
60
య
㔜
(g
)
㣫⫱᪥ᩘ
(᪥)
⥳
㟷⥳
㟷
ⓑ
㯤
㉥
められないことである。これは緑色光を基軸としたイン ターフェイスを巡る作業仮説に見直しを迫る可能性を含 む。これまでに考えてきたように、他のカレイ目魚類 と同じようにマコガレイでも
MCH
が摂餌行動を促進 するのであれば、青色LED
光区での成長にはMCH
が 関わるが、緑色LED
光区ではMCH
ではなく別の神経 ペプチドの関与が浮上する。さらには、そもそもMCH
は主役ではなく、別の経路が関与していることも考慮す る必要があろう。 3.2.マツカワとホシガレイ 低 水 温( 平 均6.6
℃)で 飼 育 し た マ ツ カ ワ の、 緑 色LED
光区での脳内mch1 mRNA
含量は他の試験区の値 よりも低い13)。平均水温を10.2
℃とした飼育試験では、 光量子束密度が高いほど脳内mch1 mRNA
含量が多い。 水温に応じてmch1 mRNA
含量が低いときもあれば高 いときもあり、緑色LED
光の効果は必ずしも一定では ないがMCH
遺伝子発現に何らかの影響を及ぼしてい ると考えられる。 ホシガレイではMCH
遺伝子発現に対する緑色LED
光の効果を水温別に調べた16)。緑色光区における脳 内mch1 mRNA
含量は、設定したすべての水温(12
℃、15
℃、18
℃、21
℃)において対照区(環境光)よりも 高い値を示した。一方mch2 mRNA
においては、水温21
℃の試験区で緑色光照射による遺伝子発現の上昇が 認められたが、低水温では認められなかった。 3.3.視床下部 - 下垂体軸の役割 マツカワ、ホシガレイおよびマコガレイにおいて認め られているLED
光と成長およびMCH
についての知見 を断片的ではあるがつなぎ合わせてみる。摂餌行動と成 長については青から緑の短波長側の可視光線が有効とい える。緑色光が食欲と成長を支配する神経内分泌系に作 用していることが想定される。背地色や光の波長に応答 して発現量に変動が認められるMCH
の関与が考えら れるが、それを証明するだけの知見はまだ得られていな い。むしろ、マコガレイでの結果に基づくと、別の因子 の関与を考慮する必要がある。 成長には下垂体から分泌される成長ホルモンが主たる 役割を担う。しかし、マツカワとホシガレイで調べた限 りでは、緑色LED
光と成長ホルモンを結びつける結果 は得られていない。したがって緑色光照射を受けたカレ イ類の視床下部における神経内分泌系および下垂体にお ける内分泌系の役割は、断片的な知見はあるものの、ほ とんど解明されていないと言ってよい。 4 .LED 光とカレイの行動 緑色、あるいは青色のLED
光を照射するとカレイ類 の行動が活発になることを認めている。シンポジウムや プロジェクト研究の報告会などではしばしば動画を示し ているが、定量的な実験は現在計画中である。この現象 は最初マツカワにおいて、図4
に示す水槽を用いた実 験で観察された。以下に未発表の知見を簡単に紹介する。2010
(平成22
)年10
月23
日、水温17.2
℃の時、緑色LED
光と青色LED
光を浴びたマツカワは、給餌の開始 前に動きが活発になった。赤色LED
光照射下と対照区 (環境光)でもよく動いたが、緑と青ほどではなかった。 一方、同年12
月11
日、水温10.3
℃の時、対照区のマ ツカワには、給餌の時にもほとんど動きが認められな かった。低水温であるために不活発だったのであろう。 赤色LED
照射下でも同様に不活発であった。ところが 緑と青のLED
光の下では、給餌の開始直前から、水温17.2
℃のときと同様に活発に動いたのである。マツカワ は冷水性のカレイであるが、さすがに10.3
℃の環境光 図 3.有彩色光照射下で飼育したマコガレイ脳内の神経ペプチド mRNA 含量 mch:メラニン凝集ホルモン、pacap:下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド、pomc:プロオピオメラノコルチン、 npy:ニューロペプチドY,agrp:アグーチ関連タンパク質。文献1より転載。本図の著作権は日本水産増殖学会に帰属する。光 源:蛍光灯(FL),他はLEDでありx軸は光の色を表す。n = 8。A mch1
B mch2
C pacap
D orx
E pomc-c
F npy
G agrp1
H agrp2
mch1
mRNA
(10
4 copies/ng total RNA)
mch
2 mRNA
(10
4 copies/ng total RNA)
pacap
mRNA
(10
5 copies/ng total RNA)
orx
mRNA
(10
4 copies/ng total RNA)
pomc-c
mRNA
(10
3 copies/ng total RNA)
npy
mRNA
(10
4 copies/ng total RNA)
agrp1
mRNA
(10
3 copies/ng total RNA)
agrp2
mRNA
(10
下では動きが少ない。しかし緑と青の
LED
光により、 まるで低水温をものともせずに動いたのである。 ホシガレイとヒラメでも緑色LED
光により行動が活 発になるとの記載がある。前出の都留主任研究員から長 くなるが引用する17)。「…清水主任研究員に実際のLED
照明の設置法や給餌法などを見せて頂きました。その際、 非常に印象的だったのは、緑色光を照射するとホシガレ イは活発な遊泳行動を開始するという現象でした。当県 で実証したのは、ヒラメの養殖行程における緑色光の活 用ですが、この試験に使用した20 g
程度のヒラメ稚魚 も、対照区が水槽中央や壁際で身を寄せ合って静止して いるのに対し、スタンレー区や市販区のヒラメは、東北 水研のホシガレイと同様、照明点灯とともに遊泳を開始 し、活発に動き回る行動が観察されました。」同じよう な現象がマコガレイでも認められており、毎日新聞の須 田桃子記者は「緑色の光を浴びた水槽の中で稚魚が活発 に泳ぐ姿に…」と記載している19)。 緑色光がマツカワ、ホシガレイ、ヒラメ、そしてマコ ガレイの行動を活発にすることも間違いなさそうであ る。しかし、成長のメカニズムと同様にそのしくみは、 まったく謎につつまれた状態である。 5 .緑色 LED 光の養殖応用 5.1.特許とカレイ養殖 緑や青のLED
光がカレイ類の内分泌現象におよぼす 効果の解明を目指す学術研究はまだ方針を定めかねてい る状態である。しかしこれらの光が成長を促すことはほ ぼ確立されたといってよく、養殖業の現場に応用するこ とが可能になっている。成長促進が認められた魚種はい ずれも養殖や栽培漁業に有用な魚種であることから、今 後の展開が期待される。生産者が気になるのは特許の取 り扱いであろう。筆者は特許2
本の発明者に名を連ね ている。養殖で気軽にLED
照明を使うことができるか を考えてみる。ちなみに、研究への使用に制約はない。 5.2.特許第 6115802 号20) 「特定波長光照射によるカレイ目魚類の養殖方法(出 願日2012.3.26
)」の特許権者は学校法人北里研究所、ス タンレー電気株式会社、株式会社ケイ・エムアクトの3
者である。請求項1
を、正確を期して引用する。 「養殖領域内に、ピークトップが635
±15 nm
のシン グルピークからなる赤色光、ピークトップが465
±15
nm
のシングルピークからなる青色光、ピークトップが520
±15 nm
のシングルピークからなる緑色光、ピー クトップが450
±15 nm
のシングルピークとピーク トップが550
±20 nm
のシングルピークとを合成して なる白色光のいずれかを照射することを特徴とする、カ レイ目魚類の養殖方法であって、水温が10
℃以下の場 合に、前記青色光、緑色光または白色光のいずれかを照 射し、かつ 水温が10
℃を超えた場合に、前記赤色光を 照射することを特徴とする、カレイ目魚類の養殖方法。」 (下線筆者)。特許出願い使用したデータは主にマツカワ で得られたものであるが、「カレイ目魚類」としてヒラメ やホシガレイなどを広く含めている。また、次に述べる 特許第4997411
号と重複しないように水温と光の色を 組み合わせている。 5.3.特許第 4997411 号21) 次 に12
項 目 の 請 求 項 を 擁 し、 特 許 権 者 を 岩 手 県 と す る「 カ レ イ 目 魚 類 の 養 殖 方 法 及 び 装 置( 出 願 日2007.9.21
)」を読み解く。特許の権利と侵害にかかわる 解釈において重要な請求項1
は以下のとおりである。 「カレイ目魚類を水槽で養殖するカレイ目魚類の養殖 方法において、水槽内に光源からの光のみを照射し、該 光源から照射する光を、赤色成分を含まない光にしたこ とを特徴とするカレイ目魚類の養殖方法。」(下線筆者) 下線部の「水槽内に光源からの光のみを照射し」は、 暗幕などで遮光した水槽上部に光源を設置すること規定 している。あるいは、水槽上部を完全にフィルターで覆 い、フィルター透過光以外の光が射しこまないことを規 定している。これらに関する記述は「カレイ目魚類の養 殖装置」にかかわる請求項8
、9
および10
において「… 上記水槽を上記光源からの光以外を遮断するように形成 し、…」と明記されており、さらに特許公報のなかで図 示されている。 カレイ類の養殖にLED
を用いるときに、屋外光を完 全に遮るために水槽を暗幕で覆うことはしないであろ う。むしろ、すでにホシガレイとヒラメについての論文 でその効果が示されているように、既存の屋内照明や屋 外からの日光のもとでLED
を使うことが実際的であろ う。とすると、「カレイ目魚類の養殖方法及び装置」の請 求項を気にすることなくLED
を養殖に使うことができ る。 5.4.特許への対応 特許の出願以来、LED
光とカレイの成長に関する知 見が集積されてきている。ヒラメ、ホシガレイ、マコ ガレイに有効なLED
光の色は青と緑であり、赤と白は 図 4.北里大学三陸キャンパスに設置した (株)ケイ・エム アクト作製の水槽スタンレー電気(株)の青LED、赤LED、緑LEDを付けた
効かない。カレイ類の養殖に活用されるのは主に青色
LED
と緑色LED
となる。特許第6115802
号について は、水温が10
℃以下の条件でこれらのLED
を使用す るのであれば、特許権者との協議が必要になる。特許 第4997411
については、その特許公報で図示されてい る養殖装置(暗幕等で遮光した水槽)のなかでLED
を 照射すれば特許に抵触する。またLED
を使用せずとも、 養殖施設の窓をすべて赤色以外にするときにも特許に抵 触する可能性がある。逆にみれば、通常の屋内養殖水槽 の上部にLED
を設置するのみでは、抵触することなな い。 6 .展望 本稿は、カレイ類とキンギョについて、筆者らの研究 に基づいて記述した。カレイのことはカレイで完結した いのではあるが、カレイでできないことをキンギョで知 ることを狙って研究を進めた、その成果である。よくわ かったことは、カレイとキンギョはまったく異なる生き 物であり、カレイ4
種ですら緑色光を軸にした場合、共 通項が少ないことである。マツカワとホシガレイはとも にマツカワ属であるが、それでも大分違っている。比較 内分泌学の醍醐味であり、強力な壁である。それでも現 時点で、ホシガレイとキンギョに興味深い事実を積み上 げている。 「緑色光下ではMCH
の作用により摂餌行動が促進さ れ、結果として成長が促進される」との作業仮説のもと で一連の研究を進めてきた。どうやらこの前提を考え直 す時期に差し掛かった気がする。元村有希子記者は著書 のなかで「仮説通りにならなければ再考を重ねてより確 かなものへと鍛えていく、それが科学です。」22)と説く。 まさにそのとおりであり、緑色光の研究でも具現しつつ ある。突破口として期待される考える材料はすでに手元 にある。次の機会にはその成果を紹介することにしたい。 研究の第一歩は「紺青尽くす天穹に ひとつの星を探 すごと…」23)進路を定めることである。仮説が証明され た暁に成果を公表する論文の形を睨みながら実験を進め ることには夢があり、エネルギーにもなる。冒頭に紹 介したマコガレイでは、MCH
の結果がでたときからタ イトルに「ブルー・ライト・ヨコハマ」(いしだあゆみ、1968
)を入れることを考えていた。 文献1 ) Sato I, et al. Aquacul Sci, 68, 75-78 (2020).
2 ) Takahashi A, et al. Aqua-Biosci Monogr, 7, 1-46 (2014). 3 ) Suzuki M, et al. J Neuroendocrinol, 7, 319-328 (1995). 4 ) Kasagi S, et al. Gen Comp Endocrinol, 298, 113581(2020). 5 ) Kasagi S, et al. Gen Comp Endocrinol, 285, 113266 (2020). 6 ) Matsuda K, et al. Neurosci Lett, 399, 259-263 (2006). 7 ) Matsuda K, et al. Cell Tissue Res, 328, 375-382 (2007). 8 ) Mizusawa K, et al. Peptides, 30, 1990-1996 (2009). 9 ) Takahashi A, et al. Peptides, 25, 1613-1622 (2004). 10) Yamanome T, et al. Aquaculture, 244, 323-329 (2005). 11) Sunuma T, et al. Aquacult Res, 40, 748-751 (2009).
12) 山野目健,高橋明義.比較内分泌学,35,93-98 (2009)
13) Takahashi A, et al. Gen Comp Endocrinol, 232, 101-108 (2016).
14) 高橋明義ら.豊かな海,No.48, 3-13 (2019).
15) Takahashi A, et al. Gen Comp Endocrinol, 257, 203-210 (2018).
16) Shimizu D, et al. Gen Comp Endocrinol, 271, 82-90 (2019)/ Corrigendum: Gen Comp Endocrinol 279, 203-205 (2019). 17) 都留久美子.豊かな海,No.48,24-27 (2019). 18) 中村良成ら.豊かな海,No.48,18-23 (2019). 19) 須田桃子.毎日新聞夕刊14面 2016年8月5日 20) 特許第6115802号広報 (2017). 21) 特許第4997411号広報 (2012). 22) 元村有希子.カガク力 りょく を強くする!,岩波ジュニア新書 (2019). 23) 黛まどか.生命の北辰,北里大学校歌 (2012).