長崎大学教養部紀要(人文科学篇) 第30巻 第2号 一‑一九(一九九〇年一月)
親子間の利益相反行為の成否
生 野 正 剛
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M a s a k a t a I K U N O 第一章問題の所在
親権者はその親権に服する未成年の子に関し︑その財産の処分権も含んだ包括的な代理権︑同意権が与えられている(氏
法八二四条︑四条)︒このような権限はもっぱら子の利益のために認められたものである︒しかし親権者と親権に服する子
との間で︑または同一の親権に服する複数の子相互間で利益が衝突する場合に︑親権者が親権を行使すると︑子の利益を
犠牲にして親権者自身の利益あるいは一方の子の利益のみが図られる虞れがある︒ひいては親権者に代理権︑同意権を認
めた趣旨に反する可能性がある︒そこで︑民法八二六条はこのように親権が濫用される虞れから子の利益を保護する趣旨
生
野
正
剛
二
で︑親権者と子との間あるいは同一の親権に服する子相互間で利益が相反する場合には︑親権の公正な行使を期待できな
いとして︑親権者が代理権︑同意権を行使することを禁じたうえで︑家庭裁判所が選任した特別代理人が親権者に代わっ
てこの権限を行使するものとした︒この民法八二六条は︑特別代理人の選任が親族会から家庭裁判所に変えられた点を除
いて︑旧法八八八条の規定をそのまま継承したものであるO旧法八八八条については︑立法者意図では︑民法一〇八条の
自己契約︑双方代理禁止の主意を貫き︑これを親権のような法定代理にも適用したものとされており︑その趣旨も親権濫
用の虞れがある行為からの子の利益の実質的な保護にあったのであか.同様に現行民法八六〇条は︑後見人と被後見人と
の間および同1後見に服する被後見人相互間で利益が相反する場合についても同1趣旨を規定しているo
しかるに︑立法者意図によれば︑利益相反禁止則(旧八八八条)は︑親権者・後見人の未成年者・被後見人ための代理
行為が民法一〇八条の自己契約︑双方代理の形式をとる場合︑つまり親権者・後見人と未成年者・被後見人とが行為当事
者として対噂する行為あるいは親権者がその親権に服する子の双方を代理する行為を規定対象はし︑親権者・後見人が未 2 成年者・被後見人を代理して︑第三者との間でなす行為(対第三者型)は想定されていなかつねoしかし︑判例は比較的 3 早くから利益相反禁止則の適用範囲を前者のみでなく︑後者にまで拡大しね.この適用拡大は︑親権者の1定の法定代理
権行使については親族会の認許を要求する趣旨の規定案が明治民法の立法過程で排除された結果︑未成年者︑被後見人の
利益を守るために法定代理権濫用行為を規制する機能を︑﹁親権濫用による親権喪失﹂﹁後見人の解任﹂規定とともに利益 4 相反禁止規定に求めざるを得なかったことによ忍︒そしてこのような適用拡大は︑その後の判例でも踏襲されて現在に至っ 5 ており︑学説上もほとんど異論なく支持されていか︒
たしかに1方では︑対第三者型にまで適用範囲が拡大されたことは︑親権者・後見人と未成年者・被後見人とが行為形
式上対峠して利益相反する場合のみならず︑行為上対峠しなくともその間に利益相反行為が成立する場合があることを承
認することになり︑それだけ法定代理権の濫用から未成年者・被後見人の利益を実質的に保護しようという趣旨が明確に
°
°
°
°
°
されたことになる︒そうはいっても︑この利益相反禁止則は︑あくまで親権者・後見人と未成年者・被後見人との利益が相反
する場合にのみ法定代理権の行使を規制するものであって︑その範囲を超えて法定代理権濫用行為1般を全面的に規制す
るものとはなっていない︒他方では︑対第三者型への拡大は︑親権者・後見人が未成年者・被後見人を代理して行う行為
の相手方の方も保護する必要性が新たに生ずる︒対第三者型では'あくまで行為当事者は未成年者・被後見人と第三者(相
手方)であり︑親権者・後見人は未成年者・被後見人の代理人にすぎない︒しかも︑親権者・後見人はすべての財産に関
する法律行為につき未成年者・被後見人を代理しうる包括的な権限を有する以上︑相手方(第三者)にとっては︑親権者・
後見人の代理行為は法定代理権の正当な範囲内の行為にみえる︒したがって︑行為の相手方たる第三者にとっては︑親権
者・後見人の代理権の正当な行使と利益相反行為との区別がいちがいに明白ではない︒しかるに︑利益相反行為であ埼に 6 も拘らず親権者・後見人が代理権を行使した場合の代理行為の効果については無権代理行為となるとするのが通説判例で
あるので︑親権者・後見人の代理行為は利益相反行為に該当するとされれば本人の追認がない限り無効となり︑利益相反
行為の成否が行為の相手方の利害に大きな影響を与えることになる︒したがって︑利益相反禁止則が未成年者・被後見人
の保護にあるとしても︑他方では正当な代理権行使と信じた相手方(第三者)の不測の損害を防止する必要がある︒そこ
で︑利益相反禁止則における未成年者・被後見人の利益保護という趣旨と代理行為の相手方の利益の保護との調整が︑利
益相反行為への該当の有無に関する判断基準によって図られることになる︒
かくして本稿は︑家族法上の諸制度の有する趣旨と第三者備護=取引の安全の要請とをどう調整するかという課題の一 7 貫として︑利益相反禁止則に関し︑対第三者型の行為を対象打︑未成年者保護と相手方保護との調整点としての利益相反
行為の判断基準について︑判例を中心に分析するものである︒なお︑後見人と被後見人間での利益相反行為と︑親権者と
未成年者間のそれとは特に区別されていないので︑本稿でも両者を特に区別せず︑主に後者を中心に取り挙げる︒
注
用 ﹃
民 法
修 正
案 理
由 書
﹄ (
東 京
博 文
館 蔵
版 )
明 治
三 十
1 年
刊 ︑
一 五
〇 貢
︒
㈲ 梅
謙 次
郎 ﹃
民 法
要 義
巻 之
四 親
族 編
﹄ 三
七 三
頁 は
︑ 旧
八 八
八 条
に つ
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法 1
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自 己
契 約
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禁 止
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約 ︑
双 方
代 理
親子間の利益相反行為の成否
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四
に該当する場合には親権者は代理権を行使できなくなるので︑特別代理人選任によって未成年者の能力を補充するための特別規定であると
する︒①大判明治四四年七月lO自民録1七輯四六八頁も︑旧八八八条と民法1〇八条との関係について同趣のことを述べている︒また︑
明治四二年7二月一一日法曹会決議︑﹁法律記事﹂二〇巻二号三九頁も︑この立法者意図に忠実に︑利益相反行為とは親権者と子とが行為当
事者として対峠する場合を指すので︑親権者が子を代理として第三者との間で行う︑子が親権者と連帯債務を負担する行為は利益相反行為
に 該 当 し な い と す る ︒
㈲この適用拡大を最初に明言した大審院判例は︑②大判大正二年l〇月1五日民録一九輯八九九頁︑ただし身分行為に関してである︒財産
行為に関しては︑③大判大正三年九月二八日民録二〇輯六九〇頁(親権者が子を代理して︑子に親権者との連帯債務を負担させ︑子所有不
動産に抵当権を設定する契約)も④大判大正四年七月二八日刑録二一輯二七一頁(親権者が子を代理して︑親権者の債務を子の債務に更改
する契約)︑⑤大判大正10年八月一〇日民録二七輯1四七六頁(親権者が子を代理して︑子の第三者に有する代金債権を放棄し︑他方同l
第三者に対して親権者が負担する同額の債務の免除を得る行為)︑などである︒
㈲﹃法典調査会民法議事速記録﹄第五拾巻五十五丁(草案第九百条)︑星野英一﹁親権者の利益相反行為の一事例‑親権者の一方に利益相反
関係ある場合における代理の方法﹂法協七八巻二号二四〇真︒
㈲戦後でも︑⑥最判昭和四二年一〇月五日金商八七号一三頁︑⑦最判昭和四五年二月二四日家月二三巻五号七一頁など多数︒学説でも︑
我妻栄﹃親族法﹄三四二頁︑中川善之助﹃新訂親族法﹄五二三頁ほか多数が支持︒但し︑辻正美﹁相続放棄と後見人の利益相反行為﹂(﹃家
族法判例百選(第三版)﹄所収)一四五頁は︑対第三者型および単独行為型は民法八二六条︑八六〇条によるのではなく︑代理権濫用論一般
で 処 理 す べ き こ と を 説 く ︒
㈲この効果について︑判例では当初︑絶対無効説︑取り消しうべき行為説︑無権代理説と錯綜していたが︑しだいに無権代理説が定着もた︒
絶対無効説に立脚する代表的判例として︑判例④.取り消しうべき行為説をとる判例として︑⑧大判昭和六年三月九日民集一〇巻一〇八頁︑
⑨大判昭和70年二月二五日民集l四巻二二六頁︑⑲大判昭和一〇年九月二〇日法学五巻三号四九二頁があるが︑いずれも親権者と子とが
対立当事者となった行為について︑取り消しうべき行為とすることで︑取消なき以上は当該行為は有効とし︑結果的に子を保護している︒
無権代理説に立脚する判例としては︑判例③︑⑪大判大正七年五月二三日民録二四輯一〇二七頁︑⑫大判大正1二年五月二四日民集二巻三
二三頁︑⑬大判昭和11年八月七日民集1五巻l六三〇貢︑⑭大判昭和1三年六月二五日判決全集五輯七〇〇頁︑⑮大判昭和丁三年二月
ハ自民集一七巻二二一六頁があるが︑以後この説が判例上定着し︑戦後も︑⑯最判昭和四六年四月二〇日判時六三一号五三貢︑⑰最判昭
和四八年四月二四日判時七〇四号五〇頁と現在まで承継されている︒なお︑子がみずからなす行為への親権者の同意が利益相反行為となる
場合の効果については︑未成年者が法定代理人の同意を得ないでなした行為の場合と同じく︑取消しうべき行為とされている︒
間親権者・後見人が代理しての︑未成年者・被後見人と親権者・後見人とが対立当事者となる行為の場合は︑行為形式上も自己契約に該当
し︑客観的に両者の利害が対立する可能性が容易に認識し得る︒したがって︑この型の場合は︑未成年者・被後見人が単に権利を得︑義務
を免れる行為を除いて(親権者の子への単純贈与につきへ⑬大判昭和六年二月二四日民集一〇巻二〇三頁︑⑲大判昭和1四年三月一八
日民集一八巻1八三頁︑親権者による子の債務の引受につき︑⑳東京控判昭和l三年九月1七日法律新報五二三号1頁︑いずれも利益相
反行為ではないとされる)︑利益相反行為に該当するのは明白である︒子より親権者への債権譲渡につき︑判例⑧⑮︒子より親権者への不
動産無償譲渡(その行為への親権者の同意)につき︑㊧大判昭和九年五月二二日民集二二巻二三一頁︒子・被後見人と親権者・後見人間
の売買契約につき︑判例⑲⑪.両者間の賃貸借契約につき︑⑳東京控判昭和一〇年二月l八日法律評論二四巻民法四l玉東Q子より親権者
への扶養料請求につき︑⑳福岡高決昭和三九年八月四日家月1七巻四号四九頁︒子と親権者間の遺産分割協議︑調停︑審判につき︑⑭札幌
地判昭和四五年七月l〇日訟務月報l六巻二号二二一六頁︑⑮東京高判昭和五五年10月二九日判時九八七号四九頁︑⑳大阪高決昭和四
一年六月六日家月一九巻一号三九頁︑⑰東京高決昭和四八年三月一日東京高裁時報(民事)二四巻三号民四一頁︒
第二章判例における利益相反行為の判断基準
第一節判例の主要な偵向
判例においては︑利益相反行為とは︑親権者・後見人の為に利益となり︑未成年者・被後見人の為に不利益となる行為 を指称する(判例⑤︑⑳大判昭和九年t二月二一日新聞三八〇〇号八頁︑⑳大判昭和一五年七月二九日判決全集七輯lO
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四八頁︑⑳大阪地判昭和六年二月1二日法律評論二1巻民法二二二頁など)とされる︒したがって︑実質的に子に不利
益な行為であっても︑それが他方では親権者の利益と直接結びつかない行為は利益相反行為に該当しない︒判例は︑利益
相反行為を以上のように定義したうえで︑その判断基準として︑利益相反の成否は︑代理行為を行なった親権者の意図や
動機︑行為の具体的実質的結果︑行為のなされた具体的事情を考慮することなく︑行為自体の性質︑外形から判断すべき 8 だとする(形式的判断訊)(判例⑳︑判例⑳︑㊨東京控判昭和九年七月七日新聞三七三六号九頁︑⑳東京控判昭和l〇年
七月1三日新聞三八八五号1五頁︑戦後も︑⑬最判昭和三七年二月二七日最高裁裁判集五八号1〇二三頁︑⑭最判昭和三
七年10月二日民集1六巻l〇号二〇五九頁︑⑮最判昭和四二年四月1八日民集二l巻三号六七l頁︑⑳最判昭和四二年
四月二五日最高裁裁判集八七号二五三頁︑⑰最判昭和四九年九月二七日最高裁裁判集二二号七四1頁など.また︑同l
の親権に服する複数の子相互間の利益相反行為の事例につき︑いずれも子相互間の遺産分割行為だが︑判例⑰︑⑳最判昭
和四九年七月二二日家月二七巻二号六八頁︑⑳最判昭和五六年一〇月三〇日判時一〇二二号五五頁)︒その結果︑親権者が
子を代理しての︑子名義での債務負担︑その債務のための子所有不動産への担保権設定行為は'たとえその借入金が親権
者の用途にあてる目的でなされても(⑳大判昭和八年l月二八日法学二巻九号110頁︑判例⑳⑳⑪⑳⑳⑳︑いず
れも親権者の意図が認定されている)︑さらに相手方が親権者のその意図を知りうる立場にあっても(⑪東京高決昭和三
三年一月二三日下民集九巻1号六五頁︑判例⑮)利益相反行為に該当しないとされる.また同様に︑親権者が子を代理し
ての︑子所有不動産を売却する行為は︑その売却代金を親権者の用途にあてる目的でなされても(⑫大判昭和九年1月
二1.日新聞三八〇〇号七頁︑判例⑰)︑またその場合相手方がその意図を知り︑知りうる立場にあっても(⑬東京高判昭
和四四年四月二八日東京高裁時報︽民事︾二〇巻四号九七頁‑相手方が公序良俗に反するが如き態様で処分行為に加担し
たというような特段の事情がない限り︑相手方が売得金の使途についての事情を知りまたは知りうる立場にあったという
だけでは無効とすべきでない︑と明言)︑利益相反行為ではない(㊨最判昭和三六年l月二七日最高裁裁判集四八号1七
九頁は︑親権者が子と共有する不動産を売却した事例だが︑親権者の意図や売得金の使途にもなんら言及せず︑売却行為
自体から利益相反行為でないと判断)︒さらに︑親権者の事業に相手方の寄与を得る目的で︑しかも相手方がその意図を知
りうる立場にあっても︑子所有不動産を無償譲渡する行為も利益相反行為でないとされる(判例⑳)︒以上の事例におい
ては︑行為の動機︑意図︑実質的効果などを考慮すれば︑子の利益が実質的に害される可能性のある行為であると言える
が︑それらを考慮対象から排除して︑行為自体の性質︑外形のみから判断すれば︑親権者は子の単なる代理人としてのみ
関与しており︑子の不利益の下に親権者が利益を得る行為とは言えないとされるのである︒
さらに︑前述のように︑利益相反行為とは親権者・後見人の利益と未成年者・被後見人の不利益とが行為上対時するも
のとされるので︑たとえ親権者と密接な関係にある第三者の利益のための行為であっても︑行為自体あるいは外形からみ
て︑それが直接親権者の利益と結びつくとされない以上利益相反行為に該当しないことになる(親権者が代理してなした
子所有不動産への担保権設定行為につき︑それが親権者たる母親の弟が代表取締役である会社の債務のためであろうとー
⑮大阪高判昭和三七年一二月二七日判夕一四一号一四二頁︑親権者の夫︽子の継父︾の債務のためであろうと‑⑲最判
昭和三五年七月一五日家月1二巻1.〇号八八頁︑利益相反行為の成立は否定される)o
結局︑判例上この判断基準によって利益相反行為に該当するとされるのは︑未成年者・被後見人の不利益の下にへ親権
者︑後見人の利益が図られる可能性があることが行為の性質あるいは外形に表現されている次のような場合である︒それ
は︑④親権者・後見人の債務のために︑未成年者が連帯債務︑連帯保証︑物上保証を負担する行為(連帯債務につき︑⑰
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大判昭和八年10月二四日大審院裁判例七民事二四七頁︑⑬大阪控判大正六年六月1八日新聞1三二五号三三頁︑⑲萩区 ︹9 裁判大正七年七月10日新聞一四四言万一八身o連帯保証につき︑判例⑬.物上保証につき︑判例⑭︑⑳大判昭和1八年
八月三日民集二二巻七四九頁︑㊧大判昭和一八年一〇月五日法学一三巻五号三三三頁へ⑫大阪高判昭和三八年六月五日下
民集7四巻六号一〇八三頁︒停止条件付代物弁済契約につき︑判例⑥o連帯債務と物上保証につき︑判例③⑦)︑㊨親権
者の債務のために子所有不動産による代物弁済(判例⑦)へ⑥親権者の債務の子の債務への更改契約(判例④⑳︑⑬大
阪控判明治四〇年六月三日新聞四四七号四頁)︑④親権者に対する第三者の債権と同l第三者への子の債権との相殺予定契
約(⑳東京控判大正1四年七月1七日新聞二四六七号1四頁)などである︒これらで行為自体の性質︑外形として考慮さ
°°
れているのは︑当該行為から通常予測される法的効果︑結果であり︑それが利益相反となるか否かということである︒
親子間の利益相反行為の成否
七
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八
川
以上が利益相反行為の成否に関する判例の主要な傾向であるが︑判例がそのような判断基準に立脚するのは次の理由か
らである︒すなわち︑親権者・後見人が未成年者・被後見人を代理して第三者と行為をする場合︑その相手方にとって︑
親権者・後見人の行為をなした意図︑動機や未成年者・被後見人と親権者・後見人との間の個別的具体的内部的事情は容
易には窺い知れない︒にも拘らずこのような相手方が認識し得ない事情をも考慮して利益相反行為の成否を判断するなら
ば︑相手方に不測の損害を与えることになる︒そこで判例の形式判断説では︑相手方が親権者・後見人の意図︑動機︑行
為の具体的実質的結果︑個別的具体的事情などを知らなくても︑行為自体を外形的客観的にみれば︑親権者・後見人のた
めに利益で未成年者・被後見人に不利益となる行為であると認識し得る場合にのみ︑利益相反行為に該当するとするので
ある︒判例は︑このように相手方が外形的客観的に予測しうる限りでの事柄のみを考慮して利益相反行為の成否を決する
ことで︑未成年者・被後見人保護と相手方保護(取引の安全)との調整を図っているのであり︑そこには一定の合理的理
由 が 存 在 す る と 言 え る ︒
しかし︑この判例の形式的判断説では︑考慮されるのが当該行為から通常予想される法的効果︑結果である以上︑行為
の種類︑法的性質︑形式的主体などの行為の形式的側面から利益相反行為の成否が判断される傾向がある︒そのために︑
同じく親権者・後見人の利益を図る目的であっても︑親権者・後見人は代理人としてのみ関与し︑未成年者・被後見人名
義で消費貸借契約を締結し︑その担保のために︑あるいは第三者の債務のために︑未成年者・被後見人所有不動産に担保
権を設定し︑または未成年者・被後見人名義でその所有不動産を売却︑譲渡すれば︑利益相反行為に該当しないことにな
るが︑他方︑親権者・後見人自身が債務者となり'未成年者・被後見人をその保証人あるいは物上保証人にすれば'利益
相反行為に該当することになる︒広汎な代理権を有する以上︑親権者・後見人は自己と未成年者・被後見人とのいずれを︑
主債務者とし︑保証人あるいは物上保証人にするかは自由に選択できる立場にあるので︑これでは親権者・後見人が形式
さえととのえれば︑利益相反行為の制限を簡単に回避し得ることになる︒法定代理権の濫用の虞れが大きいのは︑親権者・
後見人が自己の利益を図るために未成年者・被後見人の財産を処分したり︑債務を負担させることである︒しかし︑この
大部分の場合に未成年者・被後見人は法定代理権の濫用から保護されないことになり︑利益相反禁止則の趣旨は大きく後
過 し て し ま う
︒ か く て こ の 判 例 の 形 式 的 判 断 説 は 取 引 の 安 全 を 重 視 す る あ ま り 未 成 年 者
・ 被 後 見 人 の 利 益 保 護 は 十 分 で な く
︑ ま た 事 案 の 解 決 と し て 権 衡 を 失 し て い る と 批 判 さ れ る の で あ か o
注
㈲判例は形式的判断説に立脚すると言っても︑そこには微妙な推移がある︒判例も当初は︑行為自体の形式的性質(相手方のない単独行為︑
合同行為︑親権者と子との行為か否かなど)を基準に形式的に判断していた︒例えば︑判例①は︑相続放棄は相手方のない単独行為なので
利益相反行為に該当しないとし︑⑮大判大正六年二月二日民録二三輯一八六頁は︑親権者と子との間での合名会社設立行為は利益を同じう
する行為なので利益相反行為に該当しないとし︑⑳大判大正一三年六月七日新聞二二八八号一八頁は︑親権者の手形債務を子名義債務に書
換えたうえで︑その債務のため子所有不動産に根抵当権を設定した事例につきも根抵当権設定行為自体は親権者の債務を子に負担させる行
為であるとは言えないので利益相反行為に該当しないとし︑⑰大判昭和二二年四月二二日法学七巻二号1三五頁は︑親権者が子を代理し
て子所有不動産を第三者に売却し︑その売却代金で親権者の銀行に負担していた債務を弁済した事例につき︑この各行為を銀行に約してい
たとしても売却行為と弁済行為とは別個独立の行為であり︑また子と親権者との間の行為ではないので利益相反行為に該当しないとする︒
戦後も判例⑳⑮などに若干この傾向がみられる︒しかし判例はしだいに︑行為の形式的性質に固執する立場を緩め︑親権者・後見人の意図︑
動機も具体的個別的事情は考慮しないで行為の外形で判断するという立場に重点が移行したと言える︒
㈱連帯債務行為は子が親権者と連帯するといっても︑形式的には子自身名義での債務負担行為である︒したがって形式判断説では︑親権者
が代理しての子単独名義での債務負担行為と異なって︑連帯債務負担行為が利益相反行為に該当するとされるのは︑将来相互間に求償関係
等が生じて利益相反することが行為自体から予想されるためであると説明されるはずである︒しかるに︑これらの判例では︑むしろそれが
親権者の利益のための借財について子に連帯債務を負担させる行為であるという点に利益相反性をみている︒このように具体的事情により
誰の利益のための債務かということを認定したうえで利益相反行為の成否を決するのは︑行為自体から判断するとする判例の態度と必ずし
も一貫していないようであるo
㈹なお︑少数の下級審判例の中には︑利益相反行為の成否は︑行為の外形にとらわれることなく︑個々の具体的事情をも考察して︑行為の
親子間の利益相反行為の成否
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実質に立ち入って判断するべきであるとするものもあるo⑳大阪地判昭和八年六月八日新聞三五八〇号五頁(親権者が金銀を借入するにつ
き︑その子をも連帯債務者とした行為は︑その借入が家族全体の利益のためにしたものである場合は利益相反行為に核当しないとした︒し
かし︑この上告審判例㊨は親権者の利益のために借財をなすに際して子に連帯債務を負担させる行為自体が利益相反行為であるとした)0
⑳長崎地判昭和二九年二月1七日下民集五巻二号1八1頁(父親が子を代理して子名義で債務を負担し︑その担保のため子所有名義の不動
産に抵当権を設定した行為でも'その不動産は実際には父が自己の所持金で購入したもので︑その不動産を利用しての営業によって子の養
育費もまかなわれており︑本件借入金もその営業資金調達のためである等の事情がある場合は︑利益相反行為に該当しないとする)
間阿部徹﹁親子間の利益相反行為(I)﹂民商五七巻一号四九頁︑中川津﹃親族法逐条解説﹄三七〇︑四八九‑四九〇頁︑中川良延r利益相
反行為﹂(山岳正男・泉久雄編﹃演習民法(親族相続)﹄所収)二七三‑二七四頁︑松倉耕作﹁親子間の法律行為と利益相反﹂(中川淳編著﹃財
産法と家族法の交錯﹄所収)二六1‑二六二貢︑青山邦夫﹁利益相反行為の成否﹂判夕五四四号六四頁など0
第二節判例における判断基準の緩和
他方では︑利益相反行為の成否について︑前節に述べたような行為自体の形式的側面から判断する態度を緩和する判例
の動きもあるのである︒それは'相手方も知りあるいは知りうる行為の実質にまで考慮対象を拡大し︑それを前提とした
実質的行為を客観的に判断する事例である︒それらには具体的には次のような諸判例があてはまる︒
川親極者が子を代理して子名義で債務負担し︑子所有不動産に担保権を設定した場合でも︑相手方も知りうる具体的
事情により︑その債務は実質的には親権者自身の債務であると事実認定し︑結局その行為は親権者の債務のための子所有
不動産への担保権設定行為ということになるので利益相反行為に該当するとする判例(⑳大決昭和四年三月二五日大審院
︺
裁判例三民事九四頁‑相手方も親権者自身の債務であると知っている︒㊧東京高判昭和五〇年九月四日判時八〇五号六八
︹貢‑親権者が真の債務者であることについて当事者間に争いがない)0
㈱形式的には親権者が代理しての子所有不動産の譲渡行為だが︑親権者自身も譲渡相手に債務を負担しており︑相手
方も譲渡行為の以下の実質を知っている場合には︑実質的には親権者の債務のための子所有不動産による代物弁済行為と
f7
して判断し'利益相反行為の成立を肯定する判例(⑳大判昭和三毎三月五日判決全集五輯二七二卑⑳新潟地裁高田支
心可
部判昭和三一年三月五日下民集七巻三号五〇五卑⑳東京高判昭和三三年六月1七日下民集九巻六号二三五頁︑⑳最判
昭和三五年二月二五日民集一四巻二号二七九頁︑⑳大阪地判昭和四六年10月1八日判時六七七号八六貢‑相手方が行為
の実質的意味が親権者の債務のための代物弁済であると承知しているときは︑代物弁済として利益相反性を判断すべきだ
. ・ . 仙 っ
と明言︑◎東京高判昭和五四年三月二八日判夕三八八号七五卑なお︑㊨⑳は⑳の控訴審︑上告審)a
㈱親権者が代理しての子の債権(子所有不動産の売却代金)の放棄行為について︑単にその放棄行為自体で判断する
のではなく︑親権者の同1相手方に負担している債務の免除がなされたことと結合させて判断し︑利益相反行為に該当す
るとした判例(判例⑤)︒親権者が債務の免除を受けるということを︑子の債権放棄行為の単なる縁由として把えるのでは
なく︑相手方も知っている放棄行為の実質として判断しているのである︒
㈲第三者の債務のために︑親権者自らも連帯保証人になるとともに︑子を代理して子所有不動産に抵当権を設定する
行為(あるいは子は同時に連帯保証も負担)について︑将来︑抵当権の方が実行されると子の不利益の下に親権者の保証
債務が軽減され'あるいは親権者の連帯保証債務が追求されると︑親権者と子との間に求償関係および代位の問題が生ず
るなど︑両者間の利害の対立が行為の外形からも予測されるとして利益相反行為に該当するとする判例(⑳最判昭和四三
年l〇月八日民集二二巻10号二l七二頁へ⑳最判昭和四五年1二月1八日最高裁裁判集1〇一号七八三頁︑⑳最判昭和
五〇年四月一八日金融法務七五五号三〇頁︑⑪最判昭和五二年三月三一日金商五三五号四四頁)︒子所有不動産への抵当権
設定行為自体からみれば︑あくまでそれは第三者の債務のためであって︑親権者の保証債務を軽減するためのものではな
姻 く︑直接的には親権者の利益に結びつく行為とは言えないので︑従来の判断基準では利益相反行為には該当しないことに
なる︒しかしこれらの判例では︑子所有不動産への抵当権設定行為自体で判断するのではなく︑それを同一債務のための
親権者の保証債務の併存と結びつけることで︑将来予想されうる実質的結果にまで考慮対象を拡大して利益相反性を判断
しているのである︒とはいってもこれらの判例の射程はあくまで第三者の債務のための子の物上保証に親権者の連帯保証
親子間の利益相反行為の成否
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1
二
が併存した場合に限定されるのであって︑この併存がなければ判例⑮⑯のように利益相反性は否定されるのである︒
㈲後見人が代理して行なった被後見人所有不動産の無償譲渡につき︑内縁関係にある者同士では利害は共通するので︑
内縁の夫が不動産を無償取得することは内縁の妻たる後見人の利益にもつながるとして︑後見人と被後見人間の利益相反
行為の成立を肯定した判例(⑫最判昭和四五年五月二二日民集二四巻五号四〇二頁)︒従来の判例においては︑利益相反
行為の成否の判断につき︑代理行為をなした法定代理人とその行為によって直接利益を受ける者との関係は考慮されず︑
たとえ法定代理人と密接な関係にある第三者の利益のための行為であってもその行為が直接法定代理人の利益と結びつか
ない以上利益相反行為の成立は否定されていたのである(親権者の夫T子の継父Iの債務のための子所有不動産への担保
権設定につき判例⑯︑後見人が代理して被後見人所有不動産を後見人が代表取締役の一員である会社へ売却した事例につ
き︑⑬和歌山地判昭和四八年八月一日判時七三五号八九頁︑後見人の夫の兄が代表取締役であり︑後見人およびその夫も
取締役である会社の債務のための︑被後見人所有不動産への担保権設定につき︑⑭東京地判昭和三八年八月1五日下民集
町血
一 四
巻 八
号 一
五 三
七 身
) 0
以上の判例では︑客観的に予期しうる︑その意味で行為の相手方も知りうる︑あるいは相手方が知っている限りで︑行
為の実質的関係︑行為のなされた具体的事情︑行為の実質的効果︑法定代理人と行為によって直接利益を受ける者との実
岬
質 的 関 係 に ま で 考 慮 対 象 を 拡 大 し て い る の で あ る
︒ こ の よ う に 行 為 の 具 体 的 実 質 的 関 係 に ま で 拡 大 し た と し て も
︑ 行 為 の 相 手 方 が 認 識 し あ る い は 認 識 可 能 な 範 囲 で 考 慮 の 対 象 と す る 限 り で は
︑ 行 為 の 相 手 方 に も 不 測 の 損 害 を 与 え る こ と に は な
ら な
い で
あ ︼
ろ う
︒
EJ
拍子所有不動産の贈与行為だが︑その行為自体で判断するのではなく︑相手方もその趣旨を了解しているので︑親権者が相手方に負担して
いる絶縁料支払債務の履行に代える趣旨の下になされた子所有不動産による代物弁済と認定︒
個形式的には子所有不動産の売却行為だが︑譲渡に至った経緯︑親権者が相手方に債務を負担していること︑売却代金について交渉もなかっ
た等の︑相手方も知っている具体的事情により︑親権者の債務のための子所有不動産による代物弁済と認定︒
囲形式的には子所有不動産の売却行為だが︑売却代金の授受がない︑売却代金は相手方に対する親権者の債務に充当する旨の約定の存在︑
当該会社は親権者の個人経営である等の︑相手方も知っている具体的事情により︑実質は親権者が代表取締役をしている会社の︑ひいては
親権者自身の債務のための代物弁済であると認定︒
個⑮東京高判昭和四五年三月三〇日判夕二五一号二九〇貢(判例⑳の控訴審)はこのような理由で利益相反行為該当を否定する︒
㈹もっとも前掲判例㊨は︑父親が代表取締役をしている会社の債務のための子所有不動産による代物弁済(形式は売買)が︑当該会社が父
親の個人経営にかかるものなので︑実質的に父親の債務のための代物弁済であると認定しており︑法定代理人と直接利益を受ける者との実
質的関係を考慮したと言える︒
仰親権者と子の手形共同振出行為自体からでなくへその原因関係で利益相反性を判断した判例⑮や︑後見人と被後見人が共同相続人であり︑
ともに相続放棄をした事例で︑後見人が代理した被後見人の相続放棄行為につき︑後見人と被後見人との放棄の時間的前後関係をも考慮し
て利益相反性を判断するとした︑⑲最判昭和五三年三月二四日民集三二巻一号九八頁なども︑この緩和判例に含まれるであろう︒
第三章学説における判断基準
利益相反行為の判断基準について︑学説では︑何を考慮の対象にするか︑特に法定代理人の意図︑動機︑行為の具体的
実質的事情や実質的効果をも考慮して判断すべきか否か︑あるいは未成年者保護と相手方保護とをどう調整するかなどを めぐって見解が分かれている︒学説の分布は大きくは次のようになっている︒
用形式的判断説
判例の主要傾向と同様に︑利益相反行為の成否はもっぱら行為自体あるいは外形で決するべきであり︑法定代理人の意
dq
図︑動機︑その行為の実質的具体的効果は考慮すべきでないとする見解であか︒相手方保護に重心がかかった立場という
ことになる︒この見解については判例の主要傾向について述べた批判があてはまるであろう︒
親子間の利益相反行為の成否
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なお︑この基準に依拠する判例が︑応々にして行為自体の形式的(法的)性質で利益相反の成否を決する傾向を批判し
て︑利益相反の成否は行為の形式によって決すべきではなく︑実質的に定めるべきであるが︑ーそれは具体的事情によって
s
定めるべきでなく︑抽象的1般的に定めるべきであるとする見解(抽象的判断説)がある︒しかし︑この見解も︑大きく
言えば形式的判断説に含まれるであろう︒
㈲ 外 観 説
利益相反の成否は親権者の意図や行為の具体的結果によってではなく︑行為の類型的外形によって親権者の利益︑子の
不利益となることが第三者に知られうべき場合のみ利益相反行為として取扱われるべきだが︑親権者の意図︑動機も特殊
な事情により取引の相手方が子の利益を害する結果になることを容易に知りうる状態にあったときは考慮の対象となると する見解であ轡抽象的判断説に近いが︑親権者の意図︑動機も相手方が認識可能である場合には考慮の対象となるとす
る 点 で 特 色 を 有 し て い る ︒
㈲実質判断説 法 定 代 理 権 は 未 成 年 の 子 の 利 益 の た め に 行 使 さ れ る べ き で あ り
︑ 利 益 相 反 の 成 否 は ︑ 形 式 は と も あ れ ︑ 実 質 的 に み て
︑
糾吻 未成年の子の不利益において親権者が利益を得る行為か否かで判断しなければならないとする見解である︒この見解の中
には︑実質的に判断すると言っても︑何を考慮の対象として判断するのか不明確なものもあるが︑典型的には各場合の具 体的内面的実質的事情すべてを考慮して判断すべきであるとされか(具体的判断説)0
未成年者保護を最も重視する見解ではあるが︑しかしこの見解には︑行為の実質としてどこまで考慮対象にするのか不
明確であること︑相手方が認識できない︑法定代理人の意図︑動機︑行為の具体的個別的実質的事情まで考慮するとすれ
ば︑逆に行為の相手方に不測の損害をもたらすことになるなどの批判があてはまる︒
このように判断基準について学説上見解が分かれるが︑他方では未成年者保護と相手方保護との調整に関して一致がみ
られつつある︒形式判断説では︑行為自体の性質︑外形に利益相反性がでてこない以上︑法定代理人が利己的動機で代理
権を行使しても︑しかもたとえ相手方がその動機を知っていても利益相反行為に該当しないことになる︒これでは相手方
保護(取引の安全)は図られたとしても'法定代理権の濫用から未成年者の利益は保護されないことになる︒そこで形式
的判断説では︑この不都合を︑利益相反行為の成否の問題と区別して︑代理の1般理論によって解消しようとする︒すな
わち︑代理権濫用論に立脚し︑民法九三条但書を類推適用して'法定代理人の自己または第三者の利益を図るための代理
権行使であることを︑相手方が知りまたは知りうべきときはへその代理行為の効果は本人(千)に及ばないとするのであ 糾困 る︒この結果︑行為の相手方は法定代理権濫用の意図について悪意︑有過失の場合は保護されないことになる︒
一方︑実質判断説では'前述のように︑親権者の意図︑動機︑行為の具体的個別的実質的事情まで考慮して実質的に利
益相反する行為か否かを決することになれば︑未成年者の利益は実質的に保護される反面︑相手方の容易に知り得ない事
情によって代理行為の効果が左右され︑取引の安全が害されることになる︒この批判に答えて実質判断説の中には︑実質
的に判断して利益相反行為に該当する行為は無権代理となるが︑相手方は民法一一〇条の表見代理の要件をみたす場合に s は保護されるとする見解がある(表見代理説)︒つまり︑善意︑無過失の第三者は保護されることになる︒但し︑この表見
代理説には︑利益相反行為の成否の判断につき︑どの範囲の具体的個別的主観的事情まで考慮するのか不明確さが残る︒
もしすべての事実を考慮の対象として判断するとすれば︑あまりにも行為の相手方に酷である︒また任意代理の場合と異
なって︑本人が全く代理人をコントロールできない法定代理につき︑表見代理理論をそのまま適用するのは本人たる未成 年者の保護にもとるのではないかという疑問も残轡
以上︑利益相反行為の成否についての判断基準は異なり︑その法的構成は違っても︑外観説を含めて︑形式的判断説︑
実質判断説ともに︑善意︑無過失の範囲で相手方を保護することで︑未成年者保護と相手方保護(取引の安全)との調整
脚 が図られているのである︒
注
㈹我妻栄前掲書三四二頁︑阿部徹(新説)﹁利益相反行為の成否﹂(川井健編﹃判例と学説4民法Ⅲ﹄所収)二1四頁︑泉久雄﹁民法八二六
条の利益相反行為と行為の動機﹂専修大学論集三四号九1頁︑島津一郎﹃家族法入門﹄二八九‑二九〇頁など︒
親子間の利益相反行為の成否
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個糟谷忠男r民法八二六条について﹂(﹃司法研修所創立十周年記念論文集上﹄所収)三六六頁︑杉之原舜7﹃判例親族法﹄7九7‑7九三
頁︒
佃鈴木禄弥=唄孝一﹃人事法I﹄八三頁︒奈良次郎﹁判例解説し法曹二l巻l号1八八頁もこれに近い︒青山邦夫前掲六六‑六七頁も同趣
だが︑法定代理人が代理権濫用の意図を有している場合には︑民法九三条但書を類推適用するとする︒
糾中川淳前掲書三七〇‑三七一頁'阿部徹(旧説)﹁親子間の利益相反行為(二)﹂民商五七巻三号四一四頁︑菅原国夫r第九粂第一項甲類l
〇号﹂(斉藤秀夫=菊池信男編﹃注解家事審判法﹄所収)1九三頁など
幽この見解の中には︑利益相反行為の要件における法定代理人と未成年者との利害の対立関係性を緩和し︑必ずしも法定代理人の利益に直
接結びつかなくとも︑未成年者にとって実質的に不利な行為は広く利益相反行為に該当するとすべきだとする立場もある︒中川淳﹃判例家
族法﹄1六九頁︑中川良延前掲二七五貢︑阿部徹(旧説)前掲﹁親子間の利益相反行為㈲﹂四一四頁︒
幽谷口知平﹁利益相反行為﹂(﹃判例演習(親族・相続法)﹄所収)二六九頁︑末川博﹁親権の制限及び剥奪﹂(﹃家族制度全集法律編第三巻﹄
所収)二〇四︑二〇六頁など︒
糾我妻栄前掲書三四二貢︑阿部徹(新説)前掲﹁利益相反行為の成否﹂二1四貢︑泉久雄前掲九1頁など︒親権者の代理権濫用行為につい
て︑これらの学説と同趣のことを1般的に述べたものとして︑判例⑳(但し︑本件では濫用の意図を相手方は知りまたは知ることができた
とはいえないとされる)︒法的構成は不明だが同趣のものとして⑰大判明治三五年二月二四日民録二輯二〇頁︒しかしこれ以外では同趣
の代理権濫用論に言及されても︑親権者の代理権濫用の意図を相手方が知っているだけでは代理行為は無効とはならず︑そのためには更に︑
親権者︑相手方各々に代理行為を否認されてもやむを得ない背信性︑反道徳性の存在(前掲判例⑰の控訴審である福岡高判昭和四〇年九月
二二日)︑あるいは相手方の公序良俗に反するが如き態様での加担(判例⑬)が必要とされており︑利益相反行為が問題となった事例にお
いては︑民法九三条但書が類推適用された判例は現在のところみあたらない︒
幽この九三条類推適用説には︑代理人はあくまで代理行為の効果を本人に帰属させる意思を有しているので﹁心裡留保﹂には該当しないと
の批判は残る︒松本恒雄﹁代理権濫用と表見代理﹂判夕四三五号一九頁参照︒
幽 中 川 良 延 前 掲 二 七 五 貢 ︑ 磯 村 保 ﹁ 連 帯 保 証 等 と 利 益 相 反 行 為 ﹂ ( ﹃ 家 族 法 判 例 百 選 ( 第 三 版 ) ﹄ 所 収 ) I I I 一 五 頁 .
帥本人側に帰責性がないという点から︑法定代理に民法二〇条の表見代理法理を適用することに批判がでている︒四宮和夫﹃民法総則(第
四版)﹄二六三︑二六七頁︑安永正昭﹁越権代理と帰寮性﹂(林良平先生還暦記念﹃現代私法学の課題と展望(中)﹄所収)五七‑五八貢︑林
脇トシ子﹁表見代理についてのl考察﹂法研四八巻二号一〇三貫など0
幽松倉耕作前掲二五七頁︑高橋水枝﹁利益相反行為(親子関係)についての特別代理人の選任﹂(﹃講座・実務家事審判法2﹄所収)1四六
頁 参
照 ︒
第 四 章 ま と め
利益相反行為禁止則の趣旨は法定代理権の濫用から未成年者・被後見人の利益を実質的に保護することにある︒この点
から︑立法者の意図を超えて︑利益相反禁止則が︑親権者・後見人と未成年者・被後見人とが形式上行為当事者として対
峰せず︑法定代理人が代理人としてのみ関与する対第三者型の行為にも︑法定代理人と未成年者・被後見人の利害が衝突
する可凝性がある場合には︑適用されるように拡張されたことは︑未成年者・被後見人の利益の実質的保護という趣旨を
より徹底させたものである︒しかし一方では︑このような適用拡大によって︑行為の相手方も保護する必要性が生じた︒
問題は未成年者・被後見人の利益の実質的保護と相手方保護(取引の安全)という二つの要請をどう調整するかにある︒
判例の主要傾向は︑利益相反行為の成否の判断基準について形式的判断説をとることで︑この調整を図ろうとしている︒
しかしこれらの判例ではあまりにも利益相反行為の成否の判断において行為の形式的側面が重視されるために︑相手方保
護に傾きすぎて︑法定代理権の濫用からの未成年者・被後見人の保護という利益相反禁止則の趣旨が著しく後退する結果
になっている︒したがって前述のような諸批判がなされるのである︒
そもそも判例上形式判断説がとられているのは︑親権者・後見人が広汎な代理権を有し︑しかも対第三者型の行為では
親権者・後見人は未成年者・被後見人の代理人としてのみ関与しているがために︑正当な代理権行使と信じがちな相手方
に不測の損害を蒙らせないためである︒したがって相手方のこの信頼が保護されれば足るのである︒法定代理権の行使が
親子間の利益相反行為の成否
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法定代理人の利益のもとに実質的に未成年者・被後見人の利益に反することが相手方にも容易にわかる状態にある場合に
は︑相手方を保護する必要はないのである︒つまり相手方は法定代理人と未成年者・被後見人との間での利害の対立の可
7 } .