• 検索結果がありません。

意欲格差 と学校

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "意欲格差 と学校"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

意欲格差 と学校

一東京都S区の事例 か ら‑

1.はじめに

藤 田 武 志

日本 では現在,格差社会化が さまざまな側面 か ら指摘 されてい る (橘木 1998,佐藤 200,橋本 2001,樋 口他編 2003,三浦 2005)。教育 について も例外ではな く,学力低下 を め ぐる問題 (市川2002,苅谷 2001,苅谷他編 2004)辛, フリーターやニー トに関す る問 題 (小杉 2003,玄田他 2004,小杉編 2005,本 田他 2006)など,各種 の格差が問題化 さ れている。

その ような動 きに対応 し,全国各地で実施 されている学力テス トをは じめ として,基礎 学力重視 に向けたさまざまな動 きが学校現場 を覆い始めている。 しか し,そ ういった試み が格差の是正に結びついているか検証 されているとは限 らないばか りか,学校別や地域別 のテス ト結果が公表 されることなどが,かえって弊害 をもた らして しまう可能性 も否定で きない (藤田 2005)。 また,テス トや ドリル学習な どを通 して学力向上 をはかることは, かえって学びか らの逃走 を促進 して しまった り (佐藤 2000),学習へ と向か う意欲の格差

(「インセ ンティブ ・デ イバイ ド」 (苅谷2001)) を進めて しまった りしかねない。

その ようななかで,家庭環境の違いが もた らす学力格差 を確実 に是正 している学校 ( のある学校効果のある学校)が存在 していることが指摘 され始めている (鍋 島 2003, 志水 2003,2005)。志水 らは,特 に小学校 における実践 に焦点 を当て,力のある学校のあ

りようを紹介 している。では,中学校はどの ような状況 にあるのだろうか。 また,志水 ら の強調す る学力格差 とい う側面ではな く,苅谷の主張する意欲格差 については個 々の学校 において どのような状況 にあ り,その是正 について どう取 り組 んでいった らいいのだろう か。

ふ じた ・たけし /上越教育大学

キーワー ド/中学枚 ,意欲格差 (インセンティブ ・デ イバ イ ド),効果のある学校 ,文化的階層

70

̲̲̲一‑

(2)

そ こで本研究では,中学校 において,家庭環境が学習への意欲 に影響 を与 えている意欲 格差が どの ような状況 にあるのか,意欲格差は個 々の学校 において どの ように立 ち現れて いるのかについて事例 をもとに検討 し,それ を通 して,意欲格差の是正 に対する学校の取

り組みに関す る示唆 を得 ることを主題 とする。

2.方法

本研究で用いる主たるデータは,東京都S区の中学校 3校の 1年生全員 (240名) を対 象 に,2004年 2月〜 3月にかけて実施 した質問紙調査 による ものである。 また,それ を 補 うため,上記3校の うち 1校 において 2003年か ら継続 して行 っている観察調査で得 ら れたデー タも用いる。

東京都S区は23区の西部に位置 してお り,人口 50万人を越 える比較的大 きな自治体で ある。対象校の教 師によれば,教育 に対する住民の意識や子 どもたちの学力水準 も高い と

目される地域である。

質問紙調査 を実施 した3校のプロフィールは次の通 りである (1)。 まずA中は,苧級数 ll,線 の多い閑静 な住宅街の一角 に位置 してお り,教育熱心 な保護者 と同窓会の力強い応 援 を受 け,地域の人 々とも連携 を図 りなが ら教育活動 に当たっている中学校である。次 に B中は,学級数 8,住宅街 に位置 してお り,落ち着いた環境 のなかで生徒 たちは自由な校 風の もとでのびのび とした学校生活 を送 っている学校である。最後 にC中は,学級数 6, 商店街 と住宅街の混在 した地域 に位置 してお り,先生 と生徒 の きめ細やかなコミュニケー シ ョンの もとで,生徒 たちが活気のある生活 を送 っている中学校である。

質問紙調査では主 に,家庭学習の様子,学校での学習態度,保護者の行動や属性,保護 者 に対す る意識 などを尋ねている。 また,観察調査 は月に2度程度,授業前か ら放課後 ま で学校 に入 り込み,授業の ようす などを密着 して観察 した。

3.学習意欲 と学校

1 学習意欲の状況

調査対象 となった中学 1年生の学習への意欲 は どの ような状況 にあるのだろうか。学校 の授業 (1)と家庭学習 (2)‑の構 えとい う2つの側面か ら見てみることにしよう。

まず,学校 の授業 については,ほとん どの生徒が 「先生が黒板 に書いたことは しっか り とノー トに とる」 と回答 している また,調べ学習の ような学習形態の際にも,約6割の 生徒 は積極 的に活動す ると答 えている。 しか し, グループ学習で仲 間をリー ドしてい くよ うな生徒 は3割程度であ り,「授業で分か らない ことをあ とで先生 に質問す るとい うよ うな,授業以外の時間を越 えた学習への積極性 を示す生徒 は36%程度にとどまっている。

(3)

1 授業への構え (%)

先生が黒板に書いたことはしっかりノー トにとる 調べ学習の時は積極的に活動する

授業でわからないことをあとで先生に質問する グループ学習の時は,まとめ役になることが多い

14484∩/639533

次 に,家庭での学習については,「出された宿題 は きちん とやる」 と回答 した生徒が8 割 を越 えてお り,「きらいな科 目の勉強で も,がんばってやる」 とい う生徒 も6割程度存 在 している。 しか し,「家の人に言われな くて も, 自分か ら進 んで勉強す る」 とい う自発 的な学習習慣 をもつ生徒は約5割であ り,「授業で習 ったことについて, 自分で くわ しく 調べ る」 ような探求心のある生徒は23%程度である。

2 家庭学習への構え (%) 出された宿題はきちんとやる

きらいな科目の勉強でも.がんばってやる 家の人に言われなくても.自分から進んで勉強する 授業で習ったことについて,自分でくわしく調べる

616530938642

以上の ように,中学 1年生 ということもあってか,ノー トをとった り,宿題 をやった り といった基本的な学習習慣 については,多 くの生徒が肯定的な回答 をしている。 しか し, それ以上の積極性や自発性 などについては,肯定的ではない回答 をする生徒が増加 してい る。中学校 1年生 とい う初期段階におけるこの ような小 さな差異が積み重 なってい くこと が,その後の大 きな格差 につながってい くとも考えられる。では,そ ういった差異に対 し, 家庭環境 など,生徒 自身にはいかんともしがたい要 因は影響 を与 えているのだろうか。

2 文化的階層の学校ごとの分布状況

生徒たちの家庭環境 は, どの ように異なっているのだろうか。そのあた りを確かめるべ く,職業や収入 などの階層要因を子 どもたち‑のアンケー ト調査で尋ねることは困難であ り,たとえ聞いた として も正確 な回答が待 られるとは限 らない。そこで本調査では,学習 に取 り組みやすい文化的環境 として生徒たちの家庭環境 をとらえ,その違いが学習への意 欲 にどう関係 しているのかをとらえてい くことにする (2)0

まず,家庭の文化的環境の分布状況 を概観 してお きたい (3 ・表 4)。家の人が勉強 を見て くれる と回答 している生徒は約43%,博物館 や美術館 に連れていって くれるとい う回答 は約63%,手作 りのお菓子 を作 って くれるとい う生徒 は約3割 とい うように,保 護者の文化的な行為には家庭 による違いが存在 している。

3 家庭の文化的環境① (%)

とても 家の人に勉強をみてもらうことがある 13.1 家の人に博物館や美術館に連れていってもらったことがある35.2 家の人が手作りのおかしをつくってくれる 9.3

15941

332.0.7.322

NS28221

7:2

(4)

一万,本や コンピュー タなどの文化的な財の所有状況 については,多数の生徒が肯定的 に回答 している。 とはいえ,特 に書籍の場合 は約4人に 1人は否定的に答 えてお り,格差 の存在 をうかがわせ る。

4 家庭の文化的状況② (%)

はい いいえ 合計 家には本がたくさんある 76.0 24.0 100 家にはコンピュータがある 82.5 17.5 100

これ らの設問を用い,主成分分析 によって合成変数 を作成 した (以下,「文化 的階層」 と 呼ぶ)。では,この変数 を用いて,以下,意欲格差の状況について調べてい くことに しよう

4.意欲格差の状況

文化 的階層変数の得点の上位50%を文化 的環境 の豊かな群,下位50%を厳 しい群 とし た場合,それ ら2つの群の間には学習意欲の格差が存在 しているのだろうか。授業 と家庭 学習への構 えについて,文化的階層別に検討 してみ よう (5・表6)

まず,授業への構 えについて,ほとん どの生徒が肯定 していたノー トについては,階層 による違いは見 られない。 しか し,それ以外の ものについては,授業への構 えと文化的階 層の関係 は有意であ り,豊かな群の生徒 ほど肯定す る割合が高い。

5 授業への構えと文化的階層 (%) 先生が黒板に書いたことはしっかリノー トにとる 調べ学習の時は積極的に活動する

授業でわからないことをあとで先生に質問する グループ学習の時は.まとめ役になることが多い

豊かな群 厳しい群 有意水準 97.4 91.8

69.9 43.1 ***

46.5 25.7 **

43.6 24.1 **

(***p<.000.**p<.01.*p<.05 x二乗検定)

次 に,家庭学習への構 えについては どうだろうか。表 に明 らかなように,いずれの場合 も家庭学習‑の構 えと文化的階層の関係 は有意であ り,豊かな群の生徒の方が設問 を肯定 する率が高い。

6 家庭学習への構えと文化的階層 (%) 出された宿題はきちんとやる

きらいな科目の勉強でも.がんばってやる 家の人に言われなくても,自分から進んで勉強する 授業で習ったことについて,自分でくわ しく調べる

豊かな群 厳 しい群 有意水準 91.2 7ワ.5 ** 72.8 47.7 ***

57.0 41.4 *

34.2 12.6 ***

(***p<.000.**p<.01,*p<.05 x二乗検定)

(5)

以上の ように,文化的階層によって学習への意欲 に格差があることが確認 された。つ ま り,学習に取 り組みやすい家庭環境 に恵 まれた生徒 ほど学習への意欲が高いのである。そ して特 に,調べ学習への意欲 (26.8ポイン ト差)や,きらいな科 目の勉強 (25.1ポイン ト差) など,より高い 自発性が要求 されるような事項 において2つの群の差が大 きいようである。

では, この ような意欲格差の状況は,それぞれの学校において同 じように現出 している のだろうか。 とい うの も,図 1に示 したとお り,文化的階層における 「豊かな群」の多い 学校 (A中) と 「厳 しい群の多い学校 (C中) というように,学校 によって階層の分布 状況 に明 らかな違いがあるか らである

1 文化的階層の学校ごとの分布状況 (%)

i::;,i::.Id.:::I.Em,J.I'iI'.::,Jib.:..r‑3

A B

.:I..:L.i:.13

C

そこで,各学校の文化的階層の分布状況に応 じ,学習への意欲 も学校 によって違 ってい るのか どうか確 かめてみた (7・表8)。すると,いずれの項 目について も学習への構 え と学校 との関係は有意ではないという結果になった (x二乗検定)。すなわち,学校 によっ て文化的階層の分布状況は異なっているにもかかわらず,意欲の学校間の違いは見 られな いのである。これはいったいどのようなことなのだろうか。さらに探 ってい くことにしたい。

7 授業への構えと学校 (%) 先生が黒板に書いたことはしっかりノー トにとる 調べ学習の時は積極的に活動する

搾業でわからないことをあとで先生に質問する グループ学習の時は,まとめ役になることが多い

8 家庭学習への構えと学校 (%) 出された宿題はきちんとやる

きらいな科目の勉強でも,がんばってやる 家の人に言われなくても.自分から進んで勉強する 授業で習ったことについて,自分でくわ しく調べる

5.意欲格差 と学校

文化 的階層 に よって意欲格差が存在 してお り,文化的階層の割合が各学校 に よって異

74

(6)

なっているな らば,当然 の帰結 として,学習への意欲 は学校 に よって異 なっているはずで ある。 しか しそこに違いが見 られない とした ら,それは どうしてなのだろ うか。

そ の点 を探 るため,学 習 意 欲 と文 化 的階層 の関係 を学 校 別 に調べ てみ た (9・表

10)その結果, まず,授業へ の構 えについては, 3つの項 目で有意差がみ られた。す な わち,「授業で分か らない ことをあ とで先生 に質問す る」 とい う項 目は,A中において文 化 的階層 との関係が有意であ り,「調べ学習の時は積極 的 に活動す るとい う項 目はA B中において有意,「グループ学習の時 は, まとめ役 になるこ とが多 いとい う項 目は

B中で有意, とい う結果 になったのである。そ していずれの場 合 も,豊か な群の方が肯定 す る割合が高かった。

A中 とB中では,学習へ の構 え と文化 的階層 と文化 的階層 との関係が有意 になることが 多いの に対 し, C中ではその関係 は有意ではない。つ ま り,A中 とB中では文化 的階層が 学習意欲の形成 に影響 を及 ぼす状況 にあるのに対 し,C中ではその影響が小 さいのであ る

9 学校別にみた授業への構えと文化的階層 (%) 先生が黒板に書いたことはしっかりノー トにとる A

B C 授業でわからないことをあとで先生に質問する A B C

調べ学習の時は積極的に活動する A

B C まとめ役になるこが多い A B C

豊かな群 厳 しい群 有意水準 96.2 96.9

97.8 91.3 0 87

50.9 18.8 **

37.0 19.6 0 41

73.6 40.6 **

73.3 37.0 ***

7 54

34.0 21.9

55.6 20.5 **

40.0 31.3

10 学校別みた家学習への構 え化的階層 (%)

出さた宿題はきちんとやる

きらいな科白の勉強でも,がんばってやる

家の人に言われなくても,自分から進んで勉強する

ったこについて.自くわしく調べる ABC

有意水準 86.8 75.0

93.5 80.9

W7O7.D4?55・0.0O ・ ・ ・ ・:*

71.7 44.7 ** 60.4 43.8

52.2 31.9 * 0 53

39.6 9 .4 ** 26.1 10.6 * 40.0 18.8

次 に,家庭学習 の構 えについては,「出 された宿題 は きちん とや る」 とい う項 目におい C中だけ有意差がみ られたが,それ以外の4つの項 目では,A中 とB中においてのみ学

(7)

習への構 えと文化的階層 との関係が有意であった。やは り,授業への構 えと同様 に,文化 的階層が家庭学習への構 えに及ぼす影響は,A中とB中において強 く, C中において弱い

とい う傾向 を見て とることがで きるのである。

以上のことか ら,学校 によって文化的階層の分布状況は異なっていて も,意欲の学校 間 の違いが見 られなかったことは, C中学校 において意欲格差が小 さく,厳 しい群の意欲が 底上げされていたことに起因 していると考 えられる。

C中学校の分析結果が,当該学校の実践のあ りようによって意欲格差 とい う不平等が是 正 されたことを示 しているとすれば,志水 な どが学力格差の是正 について指摘す るように (志水 2005,鍋島 2003),意欲格差の是正について も学校効果が存在 していることが示唆 される。

6.C中学校の生徒の状況 と実践

では, C中では どのような状況の生徒たちに対 し, どの ような実践が行 なわれているの だろうか。

生徒たちの状況 として挙げ られるのは,前述の通 り,厳 しい群 に属す る生徒の割合が非 常に高いことである。そ して,教師たちの実践 も, 自ず とそのような背景 を持 った生徒 を 対象 とした もの となっていると考えられる。

そのことは,次のデータか らもうかがわれる す なわち,表11に示 した ように, C中 の生徒 は家庭学習 として,学校の勉強の復習 をしていると回答す る生徒の割合が,他の学 校 に比べて非常 に高 く, 自分 にとって必要 な もの として,学校 を挙 げる割合 もかな り高い のである(3) C中の ようす を観察 した ところでは,生徒が 自分 にとって必要 だ と思われ る内容についてノー トを使って復習 し,それを教師に提 出する 「復習 ノー ト」の試みを行 っ ていた。

11学校別にみた勉強に対する意識 (%)

A B C 有意水準 家でする勉強の種類は学校の勉強の復習 いつもする 9.3 7.8 40.4 ***

ときどき 50.0 53.9 51.1 しない 407 382 8

私の勉強にとって必要なのは 学校 16.3 34.0 50.0 **

44.9 20.8 8.3 どちらとも 38.8 45.3 41.7

また,授業について も,C中では他の学校 と異なっていることが生徒の意識 を通 じて う かがわれる た とえば, 自分の受けている授業の特徴 について尋ねた設問の回答 をみてみ ると (12),数学の授業では,他の学校が ドリルやテス トをした り,教科書や黒板 を中

76

(8)

心 に進める講義 中心の授業が特徴であると回答する生徒の割合が高いのに対 し, C中では 必ず しもそ うではない。観察調査では,教 師の 自作のプリン トを中心 に用 い,それぞれの 生徒 に個別に対応す る授業 をしている姿 を見 ることがで きた 一方,国語の授業 は, ドリ ルや小 テス トをす る一方で,考 えた り発表 した りすることも行 うような多様 な授業方法が 用い られていると意識 されていることが分かる その ことは観察調査のなかで も確認 され ている。

12 学校別にみた授業の特徴 (%)

A B C 有意水準 数学の授業の特徴 :ドリルや小テス トをする授業 82.8 47.1 37.0 ***

数学の授業の特徴 :教科書や黒板を使う授業 98.9 100.0 89.1 ***

園語の授業の特徴 :ドリルや小テス トをする授業 55.2 81.7 87.2 ***

園語の授業の特徴 :自分で考えたり,調べた りする授業 82.6 90.4 97.9 *

国語の授業の特徴 :自分たちの考えを発表 したり. 65.5 82.7 91.5 **

意見を言い合う授業

さらに,数学や国語の授業以外で も,特 に総合的な学習の時間において,一般企業の ビ ジネスマ ンと一つのプロジェク トに取 り組む試みをは じめ とす る,非常 にユニークな実践 を行 っていた。

この ようにC中では,恵 まれた家庭環境 にあると必ず しもいえない子 どもたちに直面す るなかで,その生徒 たちの興味や関心 を喚起 しなが ら,それ を学習へ とつなげ ようと試み ていることが看取 される。そ してそれが,意欲格差 を生 じさせ ない とい う学校効果 をもた らしているのではないだろうか。

7.おわりに

本研究では,学校 における意欲格差の是正 に関す る示唆 を得 るため,意欲格差の状況 を 確認 し,それが個 々の学校 においてどの ように現出 しているのか を検討 して きた。そこで 得 られた知見 は,次の4つ にまとめることがで きる。

第‑ に,家庭環境 による学習意欲の格差は確 かに存在 している。 また,第二 に,家庭環 境の分布状況 は学校 によって異 なっている。 しか し,第三に,学習への意欲 に対す る家庭 環境 の影響 は どの学校で も同 じなのではな く,家庭環境の影響が強い学校 と弱い学校が存 在 している。そ して第四に,意欲格差 を縮める効果 を発揮 している学校では,当該学校 の 状況 に対応 した実践 を工夫 している。

では, これ らの知見か ら個 々の学校 における意欲格差の是正 について どの ような示唆 を 得 ることがで きるだろうか。

意欲格差 を是正す るC中学校の効果は,学力向上 を 目指す なかで多 く行 われている学力 テス トや ドリル学習ではな く,子 どもたちが学校 を頼 りにす ることと,教 師が子 どもたち の興味や関心 を高める授業実践 を試みることの両者が,相補的に働 くことによって達成 さ

(9)

れ て い た の で は ないか と考 え られ る。 それ に対 し,文化 的 階層 の相 対 的 に高 い 中学 校 には, 意 欲 の高 い生徒 は学 校 で は な く塾 な どの学 校 外 教 育 機 関 を ます ます 頼 りに し, 意 欲 の低 い 生 徒 は学 校 か ら もこぼれお ち て い き,結 局 の ところ意 欲格 差 が拡 大 して い くとい った, い わ ば 「学 校 の空 洞 化」 と も言 うべ き事 態 が 進 行 して い く可 能性 が あ る。

そ うだ とす れ ば, 自 らの 中学 校 で どの よ うな事 態 が 生 じて い るの か を と らえ,対 策 を考 えて い くた め に も,各学 校 で は, 自校 にお け る文 化 的 階層 の布 置状 況 や意 欲格 差 の状 況 を きちん と把 接 し, 分析 す る こ とが必 要 だ ろ う。 そ して, そ こで兄 い だ され た事 態 に対 応 し た教 育 実践 を組 み立 て, さ らにそ の効 果 を確 か め て い くこ とにな ろ う。

いず れ にせ よ, ムー ドに流 され た改 革 や 「情 動 的事 実」 (酒井 2006)に基 づ く改 革 で は な く,経 験 的 な事 実 を きちん と検 討 しなが ら, じっ く りと取 り組 む改 革 が必 要 で あ る こ と は 間違 い ない。

付記〕

本研究 は, 日本学術振興会科学研究費補助金 (基盤研究C,課題番号16530543,研究 代表者 :藤 田武志)の交付 を受 けて行 った研 究の成果 の一部である。

註】

(1)以下の記述は,S区教育委員会のホームページに掲載 されている各学校の紹介文を参考にした。

(2) このようなや り方で生徒の家庭環境をとらえて分析 した研究に苅谷 ・志水編(200 4)がある。

(3)通塾率が学校によって異なっているわけではない。塾に通っていないという回答は,A中は42.5% B中は46.7%,C中は43.8%と,ほぼ同様である。

(引用 ・参考文献)

藤田英典2005,『義務教育を問い直す』筑摩書房。

玄田有史 ・曲沼美恵2004,ニー ト フリーターでもなく失業者でもなく』幻冬舎。

橋本健二2001,階級社会 日本青木書店。

樋口美雄 ・財務省財務総合政策研究所編2003,『日本の所得格差 と社会階層日本評論社。

本田由紀 ・内藤朝雄 ・後藤和智2006,rrニー ト」って言うな !』光文社。

市川伸‑ 2002,学力低下論争筑摩書房.

苅谷剛彦200 1,階層化 日本 と教育危機 不平等再生産から意欲格差社会へ』有信堂0 苅谷剛彦 ・志水宏書 ・清水睦美 ・諸田裕子2002,町学力低下」の実態岩波書店。

苅谷剛彦 ・志水宏書編2004,学力の社会学 調査が示す学力の変化 と学習の課題岩波書店。

小杉礼子2003,フリーターという生 き方』勤草書房。

小杉礼子編2005,フリーターとニー ト』勤草書房。

三浦展 2005,『下流社会 新たな階層集団の出現光文社。

鍋 島祥郎2003,効果のある学校 学力不平等を乗 り越える教育』解放出版社。

酒井隆史2006,経験的事実から情動的事実へ‑ コントロール社会の‑指標‑」財団法人塩事業センター

知のWebマガジンen』(http://www.shiojigyo.com/en/column/0605/index.cfm) 佐藤学2000,町学び」から逃走する子 どもたち岩波書店。

7:8

(10)

佐藤俊樹2000,『不平等社会 日本 さよなら総中流』 中央公論新社。

志水 宏書 2003,公立小学校の挑戦 力のある学校」 とはなにか岩波書店。

志水 宏書 2005,学力を育てる岩波書店。

橘木像詔1998,『日本の経済格差 所得 と資産か ら考える』岩波書店。

基礎学力研究開発センタ一編 2006,『日本の教育 と基礎学力 危機の構図 と改革への展望』明石書店。

参照

関連したドキュメント

大きな要因として働いていることが見えてくるように思われるので 1はじめに 大江健三郎とテクノロジー

これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,

キャンパスの軸線とな るよう設計した。時計台 は永きにわたり図書館 として使 用され、学 生 の勉学の場となってい たが、9 7 年の新 大

№3 の 3 か所において、№3 において現況において環境基準を上回っている場所でございま した。ですので、№3 においては騒音レベルの増加が、昼間で

賠償請求が認められている︒ 強姦罪の改正をめぐる状況について顕著な変化はない︒

 今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から

・私は小さい頃は人見知りの激しい子どもでした。しかし、当時の担任の先生が遊びを