博 士 ( 農 学 ) 八 尾
泉
学位論 文題 名
An ecological study on the mutualism between the drepanosiphid aphid Tuberculatus quercicola and the red wood ant For7nica
. ソ ぞ
SS¢髭
Sぬ
(カシ ワホ シブチ アブラ ムシとエゾアカヤマアりの
共生関 係に 関する 生態学 的研究 )
学位論文内容の要旨
共生は 全ての栄養段階で普遍的にみ られ,そこに関わる生物種 が相互に利益を与えあう関係 である。 近縁種の関係にありながら, 一方は第三者と共生関係を 築き,他方は築かないことも ある。さ らに共生関係を結んでいる場 合でも,その生物がおかれ ている環境条件によっては相 利共生が 片利共生へと変わり,さらに は捕食被食の関係にまで変 化しうるダイナミックなもの であるこ ともわかってきた。このよう な時空間的に変化する共生 関係の進化の理解には,共生 関係にある両生物種の適応度に関するべネフイット(利益)とコスト(損失)を量的に評価した研究 が必要不 可欠である。本研究はアリー アブラムシ共生系を対象に ,ベネフイットとコストの実 体を明ら かにするとともにその量的評 価を行い,共生関係の進化 過程を考察することを目的と した。
Z!』随佳赴ZZ乏ム2!三及ぼ立正と負cD影響
従来ア1」とアブラムシの共生は,アブラムシがアりに糖分やアミノ酸を含んだ甘露を提供し,
アりは捕食者か らアブラムシを護衛するとい う相利的な関係として強調 されてきた。しかしな がらアりと共生しているアブラムシの種数は実際にはそれほど多くなしゝことが報告されている。
その理由のーつ に随伴アりのアブラムシに対 する負の影響が考えられる 。この実験では,アブ ラ ム シ の コ 口 二 ー レ ベ ル と 個 体 レ ペ ル の 両 方 に 対 す る ア リ 随 伴 の 効 果 を 評 価 し た 。 材 料と 方法 広葉 樹カ シ ワの 葉に コ□二ーを形成する カシワホシブチアブラムシと 随伴アルの ェゾアカヤマア りを用しゝて,アブラムシに 対するアリ随伴のべネフイツ卜とコストを次の2つ の 条件 で定量化した。(1)ア1」随伴のべネフイット :二またにシュートが分か れているY字 型の枝を選び, 先端の葉を一枚だけ残し,そ こにク口ーンのアブラムシ を同数ずつ導入した。
一方のシュート の根元に忌避剤を塗ルアリ除 去コ口二ーとし,もう一方 はアりが自由に接近で き るア リ随伴コ□二ーと した。このような組み合わせ を4本のカシワで合計22組用 意し,両コ ロニーの生存期 間,捕食者の数を記録した。 (2)アリ随伴のコスト:(1)と同様にニまたの 枝 を3本 のカシワから合計21組選び,アブラムシを導 入してから捕食者を避けるた めアブラム シのコ□二ーを 全て袋掛けした。しかし一方 のシュートの根元にはアり が通過できるプラスチ ッ クチ ューブを2本取り付 け,アル随伴コ口ニーとし た。この処理はアブラムシに 対する随伴 アりのみの効果 を検証するために行った。ア ブラムシのサンプルングは 両コ口ニー内のアブラ ム シが4齢に達した時に適 宜行い,体幅,後脚腿節, 成熟胚子数そして総胚子数を 測定した。
統計には,従属 変数問の相関を考慮した乱塊 法多変量分散分析と乱塊法 分散分析を適用し,実 験木,実験枝,アル処理そしてサンプリング時期を要素に入れた。
結 果と 考察 (1) 全て のア リ 除去 コ□ ニー は1ケ月 以内 に 全滅 し, アリ 随伴 コ 口二ーはIl コ 口二 ー(50%)生残した 。また捕食者の大部分はフ ク□グモの幼虫であり,その 数もアリ除 去コロニーで多 く見られた。よってアリ随伴 はアブラムシに対して捕食 者からの保護という利
―1206―
益 を 与 え て い た 。 (2) 多 変 量 分 散 分 析 は , 全 体 と し て 随 伴ア りの 有 無が アブ ラ ムシ の形 態 及び 繁 殖 形 質 に 有 意 な 影 響 を 与 え て い る こ と を 示 し た 。 各 形 質 別 に 行 っ た 分 散 分 析 で はIア リ 随 伴 コ 口 二 一 の ア ブ ラ ム シ は ア1j除 去 コ 口ニ ーに 比 べて 体幅 , 後脚 腿節 が 有意 に小 さ かっ た。 ま た,
成 熟 胚 子 数 に は 差 は な か っ た が , 総 月丕 子数 は アル 随伴 コ 口二 ーで 少 ない こと が 示さ れた 。 これ ら の 結 果 よ り , ア リ 随 伴 は ア ブ ラ ム シ に 対 し て 負 の 影 響 を 与 え て い る こ と が 明 らか にな っ た。
さ ら に 分 散 分 析 に よ ル ア ブ ラ ム シ の 各 形 質 は ア り の 有 無 に 関 わ ら ず , 初 夏 か ら 秋に かけ て 減少 す る こ と も 確 か め ら れ た 。 ア リ 処 理 と サ ン プ リ ン グ 時 期 と の 交 互 作 用 は 有 意 で はな かっ た 。こ れ は 寄 主 植 物 の 季 節 に よ る 栄 養 状 態 低 下 , 及 び 二 次 代 謝 物 質 増 加 が ア ブ ラ ム シ の各 形質 に 影響 を 及 ぼ し て い る と 示 唆 さ れ た 。
随 佳Zり の 査 無 ! 三 広 じ たzZ乏 ム2苴 露 の 亜 塑 性
ア リ 随 伴 の コ ス ト が 生 じ る 原 因 と し て , ア ル の 有 無 に 応 じ た ア ブ ラ ム シ の 甘 露 の 質 と 量 ,及 び 排 出 行 動 の 変 化 に 着 目 し た 。
方 法 毛 細 管 を 用 い て ア リ 随 伴 下 の ア ブ ラ ム シ の 甘 露 を0.5VI採 取 し , そ の 後 ア り を 除 去 し , 24・72時 間 後 の ア ブ ラ ム シ か ら 再 度 甘 露 を 採 取 し た 。 ま た 逆 方 向 へ と 変 化 さ せ た 実 験 ( ア ル除 去 か ら ア リ 随 伴 へ ) も 同 様 に 行 っ た 。 甘 露 排 出 行 動 は , 一 回 に 排 出 す る 甘 露 量 ,1時 間 当 た り の 甘 露 排 出 頻 度 そ し て 総 甘 露 排 出 量 を 記 録 し た 。 さ ら に 寄 主 植 物 カ シ ワ の 溢 泌 液 も 採 取 し ,甘 露 中 の 糖 , ア ミ ノ 酸 成 分 と 比 較 し た 。
結 果 と 考 察 処 理 の 順 序 に は 関 係 な く , ア リ 随 伴 下 の 甘 露 は ア リ 除 去 下 と 比 較 し て ス ク 口 ー ス と ト レハ 口ー ス の割 合( 体 積ワ 。) が 高く ,グ ル コー スの 割 合が 低か っ た。 また ア リ随 伴下 の 甘露 の ア ミ ノ 酸 濃 度 も 高 か っ た 。 し か し 全 糖 濃 度 に は 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た 。 一 方 , 寄 主 植 物の カ シ ワ 溢 泌 液 は ス ク ロ ー ス を 多 量 に 含 み , 構 成 ア ミ ノ 酸 数 も 豊 富 で あ っ た 。 ま た 甘 露 排 出 行動 で は , ア り が い る と ア ブ ラ ム シ は 小 さ な 甘 露 粒 を っ く り , 単 位 時 間 あ た り の 排 出 行 動 が 増 加し た 。 し か し 総 甘 露 排 出 量 に は 差 が な か っ た 。 こ れ ら の 結 果 を 総 合 す る と , ア ブ ラ ム シ は 随 伴ア 1」 の 頻 繁 な 甘 露 要 求 に 対 し て , 吸 汁 し た 植 物 師 管 液 中 の ス ク 口 ー ス をグ ルコ ー スと フラ ク トー ス に 十 分 に 分 解 で き な い ま ま 甘 露 中 に 流 入 さ せ て い る と 考 え ら れ た 。 甘 露 中 の ト レ ハ 口 ー スの 存 在 は , 随 伴 ア り の 触 角 に よ る 刺 激 に 帰 因 し た 浸 透 圧 阻 害 の た め , 血 リ ン バ 中 か ら 甘 露 中 に流 入 し た も の と 推 測 さ れ る 。 ア ミ ノ 酸 に 関 し て も 師 管 液 中 の 遊 離 ア ミ ノ 酸 の 大 部 分 が 未 吸 収 のま ま 甘 露 中 に 排 出 し て い る と 考 え ら れ た 。 グ ル コ ← ス は 細 胞 内 呼 吸 の 基 質 で あ る こ と , ト レ ハ口 一 ス は ほ ぼ 全 て の 昆 虫 の 血 液 中 に 含 ま れ る 二 糖 類 で 重 要 な エ ネ ル ギ ー 源 で あ る こ と , そ し てア ミ ノ 酸 は タ ン バ ク 質 合 成 に 不 可 欠 な 物 質 で あ る こ と を 考 慮 す る と , ア ル 随 伴 下 の ア ブ ラ ム シは 消 化 不 良 の た め 本 来 利 用 で き る エ ネ ル ギ ー 源 の 一 部 分 を 甘 露 中 に 排 出 さ せ て お り , そ の た め体 サ イ ズ や 胚 子 数 の 減 少 を 引 き 起 こ し て い る と 考 え ら れ る 。
総 合 考 察 本 研 究 で は , 随 伴 ア り が ア ブ ラ ム シ コ 口 二 ー に 対 し て 捕 食 者 か ら の 護 衛 と い う 正 の 効 果 を 与 え て い る 一 方 で , アブ ラム シ 個体 には 生 理的 な負 荷 をか けて い るこ とを 明 らか にし た 。 こ の ア リ 随 伴 の コ ス ト の 発 見 は , ア り と 共 生 す る ア ブ ラ ム シ の 種 数 が 少 な いこ と に対 する ー つ の 答 え と な り う る 。 ア り は 陸 生 生 物 の 中 で も と り わ け 強 カ な ポ デ ィ ー ガ ー ドで あ るが ,同 時 に ア ブ ラ ム シ の 潜 在 的 な 捕 食 者 で も あ る 。 実 際 に , あ る 種 の ア ブ ラ ム シ は 甘 露を 出 して いて も 随 伴 ア り に 捕 食 さ れ る こ と が し ば し ば 報 告 さ れ て い る 。 そ の た め ア ブ ラ ム シ は, 対 捕食 者戦 略 と し て . ア り の 護 衛 以 外 に 虫 こ ぶ を 作 っ て 身 を 隠 し た り , 兵 隊 力 一 ス ト を 産 出し た り, 成虫 ま で
まるであろう。
−1207一
シじ よ深 ム生 のに ラが こら ブト
。さ アス るが コれ 解 めえ ら理 たと えの るた 考化 け合 と進 避場 くの をの い係 食こ て関 捕。 れ生 のい さ共 そな 持シ
, ら維 ム
。と なは ラ る る ば 係 ブ れす れ関 ア ら 容 け 生
― え許 な共 り 考 を け ル ア とと 続限 て たこ しい つ きる 持な よ てせ 維ら に せさ を回 点 さ近 量上 観 化接 とを ぅ 進 に 質 ト い を一 のッ と 法二 露イ ト 方 口 甘 フ ツ の コ て ネ ィ 等 を じ ベ フ 縮 リ 応 が ネ 短 ア に れ べ のめ 求そ 一 間 た 要
, ト 期の のも ス 長衛 りと ユ 生護 アぅ な の は よぅ
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
諏 訪 正 明 斎 藤
裕 秋 元 信 一 綿 貫
豊
学位論文題名
An ecological study on the mutualism between the drepanosiphid aphid Tuberculatus quercicola
●
●
and the red wood ant For7nica yesse7zsZS
( カ シ ワ ホ シ ブ チ ア ブ ラ ム シ と エ ゾ ア カ ヤ マ ア り の
共 生 関 係 に 関 す る 生 態 学 的 研 究 )
本 論 文 は , 図
9, 表
14, 写 真
1を 含 む 総 頁 数
98の 英 文 論 文 で あ り , 他 に 参 考論 文2 編 が添 えら れて いる 。
共 生 は そ こ に 関 わ る 生 物 種 が 相 互 に 利 益 を 与 え あ う 関 係 で あ る 。 し か し な が ら 実 際 に は , 近 縁 種 の 関 係 に あ り な が ら , 一 方 は 第 三 者 と 共 生 関 係 を 築 き , 他 方 は 築 か な い こ と も あ る 。 さ ら に 共 生 関 係 を 結 ん で い る 場 合 で も , そ の 生 物 が お か れ て い る 環 境 条 件 に よ っ て は 相 利 共 生 が 片 利 共 生 へ と 変 わ り , さ ら に は 捕 食 被 食 の 関 係 に ま で 変 化 し う る ダ イ ナ ミ ッ ク な も ので ある こと もわ かっ てき た。
こ の よ う な 時 空 間 的 に 変 化 す る 共 生 関 係 の 進 化 の 理 解 に は , 共 生 関 係 に あ る 両 生物 種の 適応 度 に関 する べネフイット(利益)とコスト(損失)を量的に評 価した研 究 が 必 要 不 可 欠 で あ る 。 本 研 究 は ア リ ー ア ブ ラ ム シ 共 生 系 を 対 象 に , ベ ネ フ イ ッ ト と コ ス ト の 実 体 を 明 ら か に し , そ の 量 的 評 価 を 行 い , 共 生 関 係 の 進 化 過 程 を 考 察 す る こ と を 目 的 と し て い る 。 本 論 文 は
4章 よ り 構 成 さ れ て お り , 成 果 の 概要 は以 下の 通 りで ある 。
第
1章 で は , 様 々 な 生 物 間 の 共 生 関 係 の 可 変 性 と ア り と 共 生 す る ア ブ ラ ム シ 種 は 実 際 に は 少 数 で あ る こ と を 述 べ , ア リ ― ア ブ ラ ム シ 共 生 関 係 の 形 成 と 維 持 のた めの 様々 な 要因 を概 説し てい る。
第
2章 で は , ア リ 随 伴 が ア ブ ラ ム シ に 及 ぼ す 正 と 負 の 影 響 を 野 外 実 験 に よ り
明 ら か に し た 。 広 葉 樹 カ シ ワ の 葉 に コ 口 二 ー を 形 成 す る カ シ ワ ホ シ ブ チ ア ブ ラ
ム シ と 随 伴 ア り の ェ ゾ ァ カ ヤ マ ア り を 用 い て , ア ブ ラ ム シ に 対 す る ア リ 随 伴 の
べ ネ フ イ ッ ト と コ ス ト を 次 の
2つ の 条 件 で 定 量 化 し た 。 (
1) ア リ 随 伴 の べ ネ
フ イ ッ ト : ア ブ ラ ム シ の 捕 食 者 が 存 在 す る 条 件 下 で , ア リ 除 去 コ 口 二 一 と ア リ
随 伴 コ 口 二 一 を も う け , 両 コ 口 二 ー の 生 存 期 間 , 捕 食 者 の 数 を 記 録 し た 。 (
2)
アリ随伴のコスト:アブラムシに対する随伴アりのみの効果を検証するために 捕食者を排除した条件下で,アリ除去コロニーとアリ随伴コ口二ーをもうけ,
両コ口二ー内のアブラムシの体サイズと胚子数を測定・比較した。その結果,
(
1)全てのアル除去コ口二ーは1 ケ月以内に全滅し,アリ随伴コ口二ーは50 % のコ口二ーが生残した。また捕食者の大部分はフクログモの幼虫であり,その 数もアリ除去コ口二ーで多く見られた。よって捕食者が存在する条件では,ア
1」随伴はアブラムシに対してコロニー防衛という利益を与えていた。しかしな がら(2 )捕食者を排除した条件では,ア1j 随伴のアブラムシはアリ除去のも のに比べて体サイズと胚子数が有意に減少したことが示された。これらの結果 より,アル随伴はアブラムシに対して負の影響を与えていることが明らかに愈 った。このアリ随伴のコストの発見は,従来のアリ―アブラムシ共生関係の解 釈に再検討を迫るものである。
第3 章では,アリ随伴のコストの至近要因として,アりの有無に応じたアブ ラムシの甘露の質と量,及び排出行動の変化に着目した。毛細管を用いてアリ 随伴下のアブラムシの甘露を0.5lutl 採取し,その後アりを除去し,24‑72 時間後 のアブラムシから再度甘露を採取し,糖・アミノ酸成分を比較した。また寄主 植物カシワの溢泌液と甘露の成分とを比較した。その結果,アリ随伴下の甘露 はアリ除去下と比較してスク口ースとトレハ口ースの割合(体積%)が高く,
グルコースの割合が低かった。またアリ随伴下の甘露のアミノ酸濃度も高かっ た。一方,寄主植物はスク口一スを多量に含み,構成アミノ酸数も豊富であっ た。また甘露排出行動では,総排出量/時間には有意な差がなかったが,アりが いるとアブラムシは小さな甘露粒をっくり,排出回数/時間が増加した。これら の結果を総合すると,随伴アりの頻繁な栄養要求に対して,アブラムシは吸汁 した植物師管液中のスク口ースとアミノ酸の一部を分解・吸収できず,甘露中 に流入させていると考えられた。甘露中のトレハ口一スは,随伴アりの触角に よる刺激に帰因した浸透圧阻害のため,血リンバ中から甘露中に流入したもの と推測される。よってアリ随伴下のアプラムシは本来利用できるェネルギー源 の一部分を消化不良のため甘露中に排出させており,その結果体サイズや胚子 数の減少を引き起こしていると考えられる。この研究は,随伴アルがアブラム シに対して生理的な負荷をかけていることを物質的に裏付けた初めての事例で ある。
以上の実験結果をふまえ,第4 章の総合考察では,アリ―アブラムシ共生関 係の形成を阻む要因のーっとしてアリ随伴のコス卜を指摘するとともに,アル 随伴以外の様々な対捕食者戦略について論じ,アりとの共生関係の進化過程に ついて考察している。