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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 小 島    哲

     学位論文題名

Neuroethological Analyses of Associative Learning     in the Pond Snail ,Ly7nnaea stagTzalis

   (ヨーロッパモノアラガイにおける連合学習の神経行動学的解析)

学位論文内容の要旨

  動物の学習およびその記憶の保持に関わる神経メカニズムの研究は,現在の神経生物学にお いて最も関心の高い分野のーっであり,学習能カの高い脊椎動物を中心にさまざまな動物を用 いて進められている。しかしながら,脊椎動物の中枢神経系は膨大な数の神経細胞から成る非 常に複雑なシステムであるため,「学習による行動の変化―神経回路の変化一シナプス伝達効 率の変化」といった階層的っながりを追うことが難しく,その結果,各階層に限定された研究 のみが行なわれている。一方,カタツムりなどの軟体動物腹足類は,非常に大きな神経細胞を 含む単純な神経系をもっにもかかわらず,連合学習などの比較的高度な学習をすることが知ら れている。したがって,上記の階層性に沿った解析が可能であり,学習行動の基礎となる神経 機構を直接的に見出すことができると考えられる。そこで本研究では,軟体動物腹足類のヨー ロッパモノアラガイ(Lymnaea stagnalis)を用いて,連合学習の神経メカニズムの神経行動学 的を行なった。

  第1章では,始めにモノアラガイにおいて物理的および化学的刺激に対する応答を解析し,

学習実験に用いる嗜好性,中性,および忌避性の各刺激を選択した。刺激の嗜好性および忌避 性は,モノアラガイの咀嚼応答および殻への体の引き込み応答によって判定した。次にそれら の刺激を用いて,嗜好性および忌避性の連合学習(古典的条件づけ)がモノアラガイにおいて 成立することを示した。そして,それらの行動学的解析から,嗜好性学習と忌避性学習につい て次 のよう な行動学 的性質 を明らかにした。1)忌避性学習には2つのタイプ(タイプ1,タ イプ2) があり, 学習の 訓練初期にはタイプ1が,さらに訓練を重ねるとタイプ2が現れる。

2)タイ プ1忌 避性学習 の記憶 は1ケ 月以上 保持され るが,タイプ2の記憶は数日問で消失す る。3)嗜好性学習は,タイプ2忌避性学習と同様の行動学的性質を持つ(学習に多くの訓練 を必要とするがその記憶は数日で消失する)。また,これらの行動実験の結果をもとに,嗜好 性および忌避性学習のためのニューロモジュレーションモデルを考え,それらの学習の神経機 構解明のための作業仮説を提出した。

  第2章では,第1章の古典的条件づけより高次の連合学習である感性予備条件づけがモノア ラガイにおいて成立することを示した。また,その際にはmassed(集中)およびspaced(分散)

と呼ばれるニつの訓練方法を用い,それらの訓練方法による学習の行動学的性質についても解 析した。

  第3章では,第1章で示した学習のうち忌避性学習の一種である味覚嫌悪学習に注目し,そ のニューロモジュレーションモデルの妥当性を検証するため,電気生理学実験による解析を行 なった。モノアラガイはショ糖溶液に対し咀嚼応答を行なうが,塩化カリウム溶液に対しては 体を殻の中へ引き込む忌避性の応答を示す。味覚嫌悪学習は,ショ糖と塩化カリウムを連続し て繰り返し与えることによルモノアラガイにおいてそれらの刺激を連合させ,ショ糖による咀

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嚼応答を抑制させるという学習である。第1章において示した味覚嫌悪学習のニューロモジュ レーションモデルでは,味覚嫌悪学習の訓練によルモノアラガイの中枢神経系においてショ糖 および塩化カリウムの味覚情報が連合し,結果として咀嚼応答を抑制する神経経路が増強する ものと説明される。一方,咀嚼応答および体の殻への引き込み応答に関する神経回路は,モノ アラガイでは比較的良く研究されており,咀嚼応答を司るCentral Pattem Generator (CPG)やその 機能を調節するCPG調節神経細胞などが同定されている。これらの知見から,ショ糖および塩 化カリウムの感覚情報はCPG調節神経細胞の1っであるCerebral Giant Cell (CGC)で連合され,

CGCか らCPGの介 在神 経 細胞 の1っで あるNeuronlMedial刪1M)細胞 への 抑制 性の 入カ が増 強することが予想された。そこで,味覚嫌悪学習によって咀嚼応答が抑制された個体において,

CGCを脱 分 極刺 激し た時のNIM細胞での抑制性シナプス後電位(IPSP)を調べた結果,そ の振 幅および持続時間がコントロール個体に比べて有意に増大していることを見出した。また中枢 神経系を唇および触角とっなげたまま単離したsemi‑intact標本を用いることにより,ショ糖お よび塩化カリウムの感覚情報が共にCGCに入カすることも明らかとなった。これらの結果から,

ニ ュ ー ロ モ ジ ュ レ ー シ ョ ン モ デ ル の 妥 当 性 を 部 分 的 に 裏 付 け る こ と が で き た 。   上記のNIM細胞に おけるIPSPの増強は,味覚嫌悪学習の素過程のーっであることが示唆され た。しかし,学習機構のより詳細な解明のためには,学習に関わる神経回路網を含むシステム 全体の解析が必要と考えられた。そこで,細胞膜電位の光学測定法をモノアラガイ中枢神経系 に適用すること試みた。膜電位の光学測定法は,電位感受性色素を用いることで神経組織の膜 電位を二次元的に多点同時測定できるため,神経回路網の包括的な解析に有用である。しかし ながら,膜電位の光学測定法は比較的新しい技術であり,測定方法の確立や光学シグナルの解 析が容易でない。そこで第4章では,神経回路が良く調べられており比較的光学測定の容易な ラットの海馬スライスにおいて膜電位の光学測定を行ない,その光学シグナルの性質を薬理学 的に調べた。その結果,得られた光学シグナルを,シナプス前細胞,シナプス後細胞,および グリア細胞のそれぞれの脱分極応答として分離することに成功し,さらにグリア細胞の脱分極 応答の解析から,グルタミン酸のシナプス間隙からの除去にグリア細胞のトランスポーターが 主要な役割をになっていることを,直接的に示すことに成功した。

  次に,海馬スライスの膜電位光学測定から得られた知見をもとに,モノアラガイ中枢神経系 における膜電位応答の二次元的解析を光学測定により行なった。第5章では,味覚入カに対す る中枢神経系での応答を調べるため,味覚入カがあるMedian Lip Nerve (MLN)を電気刺激した 時の脳神経節での膜電位応答を光学測定した。その結果,脳神経節およびMLNにおいて活動電 位の二次元的伝播とそれに引き続く比較的ゆっくりとした脱分極応答が観察された。この脱分 極応答は,薬理学的解析などから,カルシウム流入によるグリア細胞の脱分極であることが明 らかとなり,モノアラガイの味覚情報処理過程においてグリア細胞が大きな役割を果たしてい ることが示唆された。

  第6章では,味覚 嫌悪学習による神経応答の変化を二次元的に調べるため,学習個体におい てMLNを電気刺激し たときの口球神経節での膜電位応答を光学測定した。その結果,ロ球神経 節の複数領域において活動電位に対応するスパイク応答が観察されたが,その中でNIM細胞を 含む領域での活動電位の頻度が,コントロール個体に比べて有意に減少していることが見出さ れた。このことは,第3章で述べたNIM細胞でのIPSPの増大によって実際に咀嚼のCPGの応答 が抑制されていることを示し,味覚嫌悪学習のニューロモジュレーションモデルが強く裏付け られた。

  以上の研究結果は,軟体動物腹足類のみならず多くの動物における学習機構のモデルとして 重 要 な 役 割 を 果 た し , そ の 神 経 メ カ ニ ズ ム の 解 明 に 大 き く 貢 献 す る も の で あ る 。

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学 位論文審査の要旨

     学位論文題名

Neuroethological Analyses of Associative Learning     in the Pond Snail ,Ly ケ九 Tzaea  stagnalis

(ヨーロッパモノアラガイにおける連合学習の神経行動学的解析)

  動 物の 学習 お よびその記憶の保持に関わ る神経メカニズムの研究は ,現在の神経生物学にお いて 最も 関心 の 高い分野のーっであり,学 習能カの高い脊椎動物を中 心にさまざまな動物を用 いて 進め られ て いる。しかしながら,脊椎 動物の中枢神経系は膨大な 数の神経細胞から成る非 常に 複雑 なシ ス テムであるため,「学習に よる行動の変化一神経回路 の変化―シナプス伝達効 率の 変化 」と い った階層的っながりを追う ことが難しく,その結果, 各階層に限定された研究 のみ が行 なわ れ ている。一方,カタツムり などの軟体動物腹足類は, 非常に大きな神経細胞を 含む 単純 な神 経 系をもっにもかかわらず, 連合学習などの比較的高度 な学習をすることが知ら れて いる 。よ っ て,上記の階層性に沿った 解析が可能であり,学習行 動の基礎となる神経機構 を直 接的 に見 出 すことができると考えられ る。本論文は,軟体動物腹 足類のヨーロッパモノア ラガイ(Lymnaeロstagnalis)を用いて,連合学習の神経メカニズムを解明することを目的とした。

  第1章 では ,始 めに モ ノア ラガ イに おい て物理的および化学的刺激 に対する応答を解析し,

学習 実験 に用 い る嗜好性,中性,および忌 避性の各刺激を選択した。 次にそれらの刺激を用い て, 嗜好 性お よ び忌避性の連合学習(古典 的条件づけ)がモノアラガ イにおいて成立すること を示 した 。そ し てそれらの行動学的解析か ら,嗜好性学習と忌避性学 習の行動学的性質を明ら かに した 。ま た ,これらの行動実験の結果 をもとに,嗜好性および忌 避性学習のためのニュー ロ モ ジ ュ レ ー シ ョ ン モ デ ル を 考 え , そ れ ら の 学 習 の 神 経 機 構 の 作 業 仮 説 を 提 出 し た 。   第2章 では ,第1章 の古 典的 条 件づ けよ り高 次の 連 合学 習で ある感 性予備条件づけがモノア ラガイにおいて成立する ことを示した。

  第3章 では ,第1章 で示 した 学 習の うち 忌避 性学 習 の一 種で ある味 覚嫌悪学習に注目し,そ

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央 郎

一 朗

明 達

雅 悦

授 授

授 授

   

   

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の ニュ ーロ モ ジュレーションモデル の妥当性を検証するため, 電気生理学実験による解析を 行 なった。そ の結果,味覚嫌悪学習の成立に伴い,咀嚼応答を司るCentral Pattem Generator (CPG) の 介在 神経 細 胞に おい て,CPG調節 神経 細胞からの抑制性入カ が増強していることが見出さ れ た 。 こ れ に よ り , ニ ュ ー ロ モ ジ ュ レ ー シ ョ ン モ デ ル の 妥 当 性 が 部 分 的 に 裏 付け られ た。

  上記の抑 制性入カの増強は,味覚嫌 悪学習の素過程のーつであることが示唆された。しかし,

学 習機 構の よ り詳細な解明のために は,学習に関わる神経回路 網を含むシステム全体の解析 が 必 要と 考え ら れた。そこで,神経組 織の膜電位を二次元的に多 点同時測定できる膜電位光学 測 定 法を モノ ア ラガイ中枢神経系に適 用すること試みた。しかし ながら,膜電位光学測定法は 比 較 的新 しい 技 術で あり ,測 定方 法 の確 立や光学シグナルの解析 が容易でない。そこで第4章 で は ,神 経回 路 が良く調べられており 比較的光学測定の容易なラ ットの海馬スライスにおいて 膜 電 位光 学測 定 を行ない,その光学シ グナルの性質を薬理学的に 調べた。その結果,グリア細 胞 の 脱分 極応 答 が光学的に検出され, その解析から,グルタミン 酸のシナプス間隙からの除去 に グ リア 細胞 の トランスポーターが主 要な役割を担っていること を,はじめて直接的に示すこ と に成功した 。

  次に ,海 馬 スライスの膜電位光学 測定から得られた知見をも とに,モノアラガイ中枢神経 系 に おけ る膜 電 位応 答の 二次 元的 解 析を 光学測定により行なった 。第5章では,味覚入カに対 す る中枢神経 系での応答を調べるため, 味覚入カがあるMedian Lip Nerve (MLN)を電気刺激した時 の 脳神 経節 で の膜 電位 応答 を光 学 測定 した。その結果,脳神経 節およびMLNにおいて活動電 位 に 引き 続く グ リア細胞の脱分極応答 が観察され,モノアラガイ の味覚情報処理過程において グ リア細胞が 大きな役割を果たしている ことが示唆された。

  第6章で は, 味覚 嫌悪 学 習に よる 神経 応答の変化を二次元的 に調べるため,学習個体にお い てMLNを電 気刺 激し たと き のロ 球神 経節 での膜電位応答を光学 測定した。その結果,ロ球神 経 節 の複 数領 域 にお いて 活動 電位 が 観察 されたが,その中でCPG介在神経細胞を含む領域での 活 動 電位 の頻 度 が,コントロール個体 に比ぺて有意に減少してい ることが見出された。このこ と は ,第3章 で述 べた 抑制 性 入カ の増 強に よ って 実際 に咀 嚼のCPGの応答が抑制されているこ と を 示 し , 味 覚 嫌 悪 学 習 の ニ ュ ー ロ モ ジ ュ レ ー シ ョ ン モ デ ル が 強 く 裏 付 け ら れ た 。   これ を要 す るに,著者は,軟体動 物腹足類において連合学習 の神経機構についての新知見 を 得 たも ので あ り,これらの結果は, 軟体動物腹足類のみならず 多くの動物における学習機構 の 解明に貢献 するところ大なるものがあ る。

  よ っ て 著 者 は , 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も のと 認め る。

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