博士(工学)藤倉序章 学位論文題名
Formation of InGaAs Quantum Structures by Molecular Beam Epitaxy and Control of Their Surfaces
( 分 子 線 エ ピ タ キ シ ― 法に よ る イン ジ ウム ガ リウ ム ヒ素 量子構造 の形成とそ の表面制 御)
、 学位論文内容の要旨
現代情報化社会において、半導体集積回路の果たしてきた役割は非常に大きい。そ れだけに、半導体集積回路に対する社会的要求は、将来、量的にも質的にもこれまで 以上に大きくなると予想される。現在の集積回路の基本素子であるトランジスタの動 作原理は、多数の電子の運動が、その古典力学的「粒子」としての運動の平均値で代 表でき、古典的なドリフト―拡散方程式で記述できる事を物理的基礎としている。し かしながら、集積回路の高密度化・微細化をさらに進め、素子寸法が電子の波長(‑10 Onm)と同程度になると、電子の量子力学的「粒子―波動」2重性が顕著となり、古典 力学的描像は成り立たなくなる。この領域では、電子の運動はシュレーデインガーの 波動方程式に従い、量子力学的な効果が支配的となる。このため、既存の素子は、も はや満足に動作しなくなる。そのため、更なる高密度化・微細化を達成するためには、
量子力学的効果を基本素子の動作原理に積極的に取り入れた、新たな「量子デバイ ス」を構築する必要性がある。
量子デバイスを構築するために、既存の技術に加えて達成しなければならない重要 な技術的課題として、量子効果素子の基本構造である、量子細線・量子箱構造の形成 およぴ量子構造の表面制御があげられる。すなわち:量子構造では寸法自体が原子数 十〜数百個程度であるため、原子オーダーの形状・寸法の制御が必要となる。さらに、
化合物半導体表面には、高密度の表面準位が存在し、フェルミ準位のピンニング現象 を引き起こすことが知られている。ことに量子構造では、相対的に表面・界面の占め る 割 合 が 増 大 し 、 従 来 以 上 に 表 面 ・ 界 面 の 重 要 性 が 増 大 す る 。 このような背景をもとに本論分1よ、量子材料として有望であるInGaAsから成る量子 構造を分子線エピタキシー(MBE)法を用いて形成し、さらに、シリコン超薄膜界面制 御層(Si ICL)を用いる新しい表面制御法によ.り、形成した量子構造の表面制御を試 みたも のである 。本論文は8章から構 成されて いる。以下に各章の要旨を示す。
第1章では、本研究の歴史的背景と目的を述ぺると共に、各章の概要を記した。
第2章は、まず章の前半において、本論文での量子構造形成の試みを、従来行われ てきた試みと比較しつつ、概観している。具体的には、量子構造形成手法として、リ ソグラフイー技術に基づく方法および選択的結晶成長法に基づく方法の2通りの手法 が説明されている。前者は、従来の集積回路技術の応用であり、後者は半導体結晶成 長のみによって量子構造を形成する新しい手法である。本章の後半では、量子構造の
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界面制御法として、シリコン超薄膜界面制御層(Si ICL)を用いた界面制御法の基本的概 念に つい て説 明し てい る。 まず 、表 面・ 界面 準 位が従来の素子および量子効 果素子に 及ぼ す影 響と その 起源 に関 する モデ ルが 議論 さ れている。次に、適切な超薄 膜界面制 御層 を設 計・ 導入 し、 半導 体か ら絶 縁体 への 遷 移を原子レベルで滑らかにす る界面制 御層 の概 念が 説明 され てい る。 さら に、 界面 制 御層としては、Si系絶縁膜と の相性の 観点から、Siが適切であることを指摘している。
第3章 では 、本 研 究で 用い た実 験装 置と 方法 につ いて 述べ てい る。 量子 構 造形成、
その表面制御プロセスおよびその その場(in−situ) 評価には、超高真空試料作製評価 シス テム が用 いら れた 。こ のシ ステ ムで は、MBE装 置、 電子 線(EB)描 画装 置 、光励起 化学 気相 堆積 (光CVD)装置、光電子分光(XPS)装置等が、超高真空搬送チェン バで接続 され てい る。 量子 構造 の物 性評 価に は、 フォ ト ルミネッセンス(PL)法、カソ ードルミ ネセンス(CL)法、縦磁気抵抗測定も用いられている 。
第4章 では 、Si ICLを 用い た表 面制 御技 術を 、加 工に よる 量子 構造 形成 に おける最 も重 要な 技術 的課 題で ある 、加 工表 面の 制御 ヘ 応用した結果について述べて いる。ま ず最 初に 、本 章で は、 加工 表面 の評 価法 の検 討 を行った。従来のPLによる加 工表面の 評価 手法 では 、表 面再 結合 速度 が一 定で ある と ぃう簡単化されたモデルにそ の基礎を おい てい たが 、加 工表 面の 状態 を正 しく 評価 す るためには、表面準位を介す る表面再 結合 が励 起光 強度 に強 く依 存す る事 を考 慮す る 必要がある事が指摘されてい る。この 事は 、加 工に より 形成 したInGaAs細 線の 表面 特 性、および、Si ICLにより表 面制御さ れた 細線 の表 面特 性の 評価 に適 用さ れた 。そ の 結果、Si ICLを用い表面制御 を施した 細線 にお いて 、表 面準 位の 影響 の低 減が 見ら れ 、Si ICLを用いた表面制御技 術が、加 工 に よ り 形 成 し た 量 子 構 造 の 加 工 表 面 の 制 御 に 有 効 で あ る こ と が 示 さ れ た 。 第5章 で は 、 量 子 構造 形成 の新 しい アプ ロー チと して 、MBE選択 成長 法を 検討 して い る 。 様 々 な 加 工 を表 面に 施し たInP基板 上に 、InGaAsおよ びInAIAsのMBE成長 を行 い、 加工 基板 上に おけ る成 長様 式、 成長 機構 、 成長の選択性を詳細に調べて いる。ま た、 これ らの 知見 を基 に、 実際 に、 ナノ メ一 夕 ーサイズの「三角形」および 「やじり 形 」 の 2種 類 の InGaAs量 子 細 線 構 造 を 形 成 す る こ と に 成 功 し た 。 第6章 で は 、 第5章 で 述 ぺ た2種 類 のInGaAs量 子細 線の 光学 的・ 電気 的特 性を 検討 した 結果 につ いて 述べ てい る。 どち らのInGaAs量子細線ともに、良好な光学 特性を示 し、MBE選択 成長 法 によ り、 良好 な結 晶性 およ びヘ テロ 界面 特性 を有 するInGaAs量子 細線 が形 成可 能で ある こと が示 され た。 特に 、 「やじり形」のInGaAs量子細 線は、室 温に おい てな お強 いPL発光 を示 し、 また 、4Kに おける縦磁気抵抗測定におい て、明瞭 なシ ュブ ニコ フ・ ド・ ハー ス振 動が 観測 され た こと等から、極めて高品質な 量子細線 が実 現さ れて いる こと が確 認さ れた 。ま た、 シ ュプニコフ・ド・ハース振動 の測定か ら、1次元量子閉じ込め 効果の存在が明確に示された。
第7章 で は 、SiICL界 面制 御技 術の 化 合物 半導 体量 子構 造へ の応 用を 検討 した 結果 につ いて 述べ てい る。 表面 近傍 に形 成し た「 や じり形」InGaAs量子細線では 、細線と 表面 の距 離twsがlonm以 下に なる と、 細線 から のPL強度 が指 数関 数的 に減 少 すること を観 測し た。 この 現象 は量 子準 位と 表面 準位 と の相互作用によるものである ことを明 らか にし 、SiICLを 用い た界 面制 御技 術を 適用 した 表面 不活 性化 によ り、 こ のPL強度 の減少を完全に回復することに初めて成功した。具体的には、tッョが0の時、約1/250倍 まで減少したPL強度を完全に回復させている。
第8章では、本論文の 結論を述べている。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
教 授 教 授 教 授 教 授 助教授
長谷川 雨宮 福井 陽 橋詰
学 位 論 文 題 名
英 機 好 仁 孝 志 完 治 保
Formation of InGaAs Quantum Structures by Molecular Beam Epitaxy and Control of Their Surfaces
( 分 子 線 エ ピ タ キ シ 一 法 に よ る イ ン ジ ウ ム ガ リ ウ ム ヒ 素 量 子 構 造 の 形 成 と そ の 表 面 制 御 )
半 導体 集積 回路 の高 密度化・ 高性能化を可能にしてきたのは、主として微細加工 技術 の進 歩で ある 。し かし なが ら、21世紀 の初 頭に は、 この 微細 化に もと づく改 善が 本質 的な 限界 をむ かえると 予想されている。これは、デバイス寸法が電子の波 長と 同程 度と なる と、 電子 の量 子力 学 的性 質、 すなわち、 「粒子一波動」2重性が 顕著 とな り、 電子 を古 典的「粒 子」として扱う既存のデバイスがもはや満足に動作 しな くな るた めで ある 。この限 界を乗り越えるーつの有カな方策は、極微細な構造 で強 く発 現す る量 子力 学的効果 を基本素子の動作原理に積極的に取り入れた、新た な「 量子 デバ イス 」を 構築する ことである。これにより、更なる高密度化・微細化 を達成することが期待できる。
し かし なが ら、 量子 デバイス を構築するためには、達成しなければならない技術 的課 題が なお 幾っ か存 在する。 まず、量子デバイスの基本構造である量子細線およ び量 子箱 構造 の寸 法は 原子数十 〜数百個程度であり、そこで発現する量子力学的効 果の 詳細 は構 造の 形状 ・寸法に 強く依存する。そのため、原子的レベルで形状・寸 法が 制御 され た量 子構 造を形成 することが必要となる。さらに、化合物半導体表面 には 、一 般に 、高 密度 の表面準 位が存在しており、表面準位に起因するフェルミ準 位の ピン ニン グ現 象や 表面準位 を介したキャリアの漏洩等がデバイスの正常動作を 妨げ るこ とが 知ら れて いる。こ とに量子構造においおてはその寸法が極めて微細で あり 、従 来以 上に 表面 ・界面の 重要性が増大する。そのため、量子構造の表面・界 面 の 制 御 は 量 子 デ バ イ ス の 構 築 の た め に 本 質 的 に 重 要 で あ る 。 こ のよ うな 背景 をも とに、本 論文は、量子デバイスの材料として有望なインジウ ムリン(InP)系イン ジウムガリウムヒ素(InGaAs)ヘテロ接合系を取り上げ、すぐれた 量子構造を分子線エピタキシー(MBE)法を用いて形成する方法、および、 形成され た量 子構 造の 表面 を制 御す る方 法に つ いて 研究 を行ったも のである。本論文は8章 から構成されている。以下に、各章の概要を示 す。
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第1章 は序論であり、本研究の歴史的 背景と目的およぴ各章の概要を述べている。
第2章 では 、 まず 量子 構造 形成 に従 来用 いら れて きた 手法 を概観するとともに、
本研 究で 用い た量 子構 造形 成法 を述べ ている。次に、本研究で用いたシリコン超薄 膜界 面制 御層(Si ICL)によ る量 子構造 の表面・界面制御の原理を、表面・界面準位 の起源に関するモデルに基づき説明している。
第3章 では 、 本研 究で 用い た実 験装 置お よび 実験 方法 を説 明している。ことに、
量子構造形成、その表面制御プロセスおよびプロセスの その場(in−situ) 評価を、
半導 体表 面を 大気 にさ らす こと なく、 全て超高真空中で一貫して行うことを可能と し た 超 高 真 空 試 料 作 製 評 価 シ ス テ ム に 関 す る 説 明 が な さ れ て い る 。 第4章 では 、 量子 井戸 に微 細加 工を 加え 量子 構造 を形 成す る際の最大の技術的課 題で ある 加工 端面 の制 御に 、Si ICLを 用いたパッシベーション技術を適用すること を 検 討し てい る。 ま ず、InP基板 上にMBE成 長し たInGaAs量子 井戸 に電 子線 リ ソグ ラフ イー によ る微 細加 工を 施し 、InGaAs量子細線を準備し、その光学特性を調べて いる 。そ の結 果、 加工 端面 にお ける損 傷のために量子細線からのホトルミネセンス
(PL)発光 効率が低いこと、および、SiICLを用いて加工端面のパッシベーションを 行う と、 発光 効率 がか なり 改善 できる ことを示した。また、PLによる従来の加工端 面の 評価 法に 問題 があ るこ とを 指摘し 、新たにPL発光効率の励起光強度依存性に基 づく加工端面の評価法を提案している。
第5章 で は 、InGaAs量 子 構 造 形 成 の ア プ ロ ー チ と し て 、 加 工基 板上 へのMBE選 択成 長法 を検 討し てい る。 様々 な結晶 方位に沿った線状あるいは四角形状のメサ加 工を表面に施したInP基板上に、InGaAsおよびインジウムアルミニウムヒ素(InAlAs) のMBE成 長を 行 い、 加工 基板 上で の成 長様 式、 成長 機構 、成 長の選択性、およぴ、
得ら れる 構造 の均 一性 を詳 細に 検討し ている。また、これらの知見をもとに、実際 に 、 ナノ メー ター サ イズ のInGaAs量子 細線 およ び量 子箱 の形 成に 成功 して い る。
第6章 では 、 上述 のInGaAs量子 構造 のう ち、 線状 のメ サパ ターン上に形成された
「三 角形 」お よび 「や じり 形」 の2種 類のInGaAsリ ッジ 量子 細線について、その光 学的 特性 ・電 子輸 送特 性を 検討 して いる 。 その 結果 、こ れらの2種類のInGaAsリッ ジ量 子細 線が 、良 好な 結晶 性. ヘテ 口界 面 特性 を有 し、 さらに、 強いキャリアの1 次元閉じ込め効果を示すことを明らかにしている 。
第7章 で は 、SiICLを 用 い た 表 面 バ ッ シ ベ ー シ ョ ン 技 術 を 表面 近傍 に形 成 した
「や じり 形」InGaAsリ ッジ 量子 細線の 表面制御に適用することを検討している。ま ず、 量子 細線 と表 面の 距離twsが10nm以下 にな ると 量子 細線 からのPL強度が指数関 数的 に減 少す るこ と、 およ ぴ、 この現 象は量子準位と表面準位との相互作用による もの であ るこ とを 明ら かに して いる 。さ ら に、SiICLを 用い た界面制御技術を適用 した表面不活性化により、このPL強度の減少を完 全に回復する、ことに初めて成功し ている。
第8章では、本研究 の成果を総括している。
これ を要 する に、 著者 は、化合物半導体量子構造の形成法お よび量子構造表面の 制 御法 に関 し系 統的 検討 を加え、いくっかの有益な知見を得た ものであり、半導体 工 学の 進歩 に寄 与す ると ころ 大で ある 。
よっ て、 著者 は、 北海 道大学博士(工学)の学位を授与され る資格あるものと認 め る。
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