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Vol.31 , No.2(1983)106広沢 隆之「『瑜伽師地論』にみられる真如観」

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Academic year: 2021

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(1)

『楡 伽 師 地 論 』 に み

ら れ る 真 如 観

既 に原 始 仏 教 以来, 事 象 の真 相 を観察 す る主 体 の 態 度 がyathatatha,

yathabhu-tamと

い った語 で修 飾 され るの は周 知 の通 りで あ る。 また, そ の 観 察 の 対 象 は 価

値 的世 界 の範 躊 で あ る四聖 諦 と して説 示 され た。 ま た, 如 実 な 観 察 の 対 象 は 真 如

tathataと して も説 明 され る。 この 四聖 諦 と真 如 の関 係 が ど の よ う に 『喩 伽 論 』

にお い て展 開 した か を辿 る。

喩 伽 論 』に お け る真 如 に 関 す る最 も古 い記 述 は本 地 分 の 「声 聞 地 」に見 られ る。

そ こで は, 真 如 は止 観 の所 縁 とな る事 辺 際 性vastuparyantataの

一 側 面 で あ る如

所 有 性yathavadbhavikataと

関連 付 け られ て い る。 即 ち如 所 有 性 と は 「

所 縁 の 真

実 性 ・真 如 性 と して 四 道 理, す な わ ち観 待 道理 ・作 用 道 理 ・証 成 道 理 ・法 爾 道 理

を具 え て い る こと」1)とさ れ る。 これ に対 し, 尽 所 有 性yavadbhavikataと

して の

所 縁 は慈 ・処 ・界 に, あ る い は一 切 所 切 事 と して 四 聖 諦 に 包 摂 され る1)。こ の よ

うに規 定 され た尽 所 有 性 ・如 所 有 性 と して の所 縁 の あ り方 を, 個 々 の 事 象vastu

に お い て観 察 す るの が具 体 的 な不 浄 観 ・慈 慰 観 ・縁 起 観 ・数 息 観 等 の修 習 の止 観

で あ る と され る。 この よ うに止 観 の所 縁 が尽 所 有 性 ・如 所 有 性 の 二 側 面 か ら考 察

され る場 合, 尽 所 有 性 と して の個 別 的 な所 縁 が四 聖 諦 と い う価 値 系 列 に対応 させ

られ, 更 に そ れ らが 四道 理 と い う, 存 在 と そ の認 識 と に普 遍 的 に具 わ った 如 所 有

性 と して考 察 され る。 そ して, 如 所 有 性 に関 す る規 定 に見 られ る 真 実 性bhutata

真 如 性tathataは

四道 理 を具 え て い ると い う事 実, す なわ ち存 在 とそ の 認識 の 普

遍 的 様 相 を形容 す る為 に 記述 され た の で あ り, 後 に見 られ る程 重 視 され た 概 念 に

は 到 って い な い。 尽 所 有 性 ・如 所 有 性 の 両側 面 か ら の所 縁 の観 察 は, 絶 対 者 の 側

か ら価 値 的 範 躊 の 言 語表 現 され た命 題(四 聖諦)を 通 じて, そ の 言 語 表 現 され た世

界 の 内 実 と して 普 遍 的 な縁 起 的世 界 とそ の法 性 と して の四 道 理 の世 界 を観 察 す る

と い う構 造 に な っ てい る。

こ の よ うな 尽 所 有 性 ・如 所 有 性 の テー マ は本 地 分 の 「

菩 薩地 」 にお い て, 異 な

っ た展 開 を し た と思 わ れ る。 真 実 義 品 に そ れ を 見 る2)と, 真 実 義tattvarthaが

所 有 性 ・如 所 有 性 で あ る と され る。 そ し て真 実 義 の 二 側 面 は 尽 所 有 性=一

切 性

sarvata, 如 所 有 性bhutataと

規 定 され るの み で, 両者 に よ る止 観 の修 習 は詳細

(2)

-902-『喩 伽 師 地 論 』 に み られ る真 如 観(広 沢) (83) に 論 じ られ な い。 む し ろ, 尽 所 有 性 ・如 所 有 性 に 分 け ら れ る真 実 義 を 別 の 観 点 か ら分 類 し, 「声 聞 地 」 で 尽 所 有 性 に 関 係 付 け ら れ た 四 聖 諦, 如 所 有 性 に 関 係 付 け ら れ た 四 道 理 と 真 如, そ れ ぞ れ を 新 た に 価 値 系 列 化 す る。 す な わ ち, 四 道 理 の う ち 証 成 道 理 は 道 理 極 成 真 実yuktiprasiddhatattva, 四 聖 諦 は 煩 悩 障 浄 智 所 行 真 実 klesavarapavisuddhijnagocaratattva, 真 如 は 所 知 障 浄 智 所 行 真 実jneyavarapa visuddhijnagocaratattvaに 関 係 付 け られ る。 四 聖 諦 と真 如 の 関 係 は, こ こ で は, 声 聞 乗 と 大 乗 の 相 違 と な り, 声 聞 地 の 提 起 し た 尽 所 有 性 と如 所 有 性 の テ ー マ が 規 定 さ れ て い る。 「声 聞 地 」 に お い て 提 起 さ れ た テ ー マ は, こ こ で は, 絶 対 者 の 体 験 ゐ 言 語 に よ る 啓 示 と し て の 価 値 的 範 疇 で あ る 四 聖 諦 の 背 後 世 界 に, 絶 対 者 の 体 験 の 究 極 を 高 次 な 世 界 と し て 措 定 す る こ と に よ り, 両 者 の 価 値 的 区 別 が 可 能 に な る。 そ れ 故 に, 四 聖 諦 一 人 無 我 に 対 し て, 更 に 法 無 我 た る一 切 法 の 離 言 自 性, 仮 説 自 性 が 主 張 さ れ, そ れ が ま た 体 験 の 究 極 を 指 示 す る が 故 に 最 第 一, 真 如, 無 上, 所 知 辺 際 と さ れ る。 「声 聞 地 」 に お い て, 四 聖 諦 が 諦 で あ る 理 由 と し て, そ れ が 実bhutaで あ り 如tathaで あ る と さ れ, ま た 四 聖 諦 一 尽 所 有 性 に 対 し, 如 所 有 性 は 真 実 性bhutata, 真 如 性tathataと さ れ た が, 「菩 薩 地 」 に お い て は, 真 如 は 四 聖 諦 を 超 え た 実 在 と し て 意 識 さ れ た。 こ の よ う に 四 聖 諦 と の 関 係 の 中 で 真 如 と い う離 言 説 の 世 界 を 表 象 す る 観 念 が 『喩 伽 論 』 の 中 に 展 開 す る一 方, 『解 深 密 経 』 で は 別 の 観 点 か ら の 真 如 観 が 付 加 さ れ た そ の 「分 別 喩 伽 品 」 で は, 「声 聞 地 」 に お い て 尽 所 有 性 に 関 係 付 け ら れ た 四 聖 諦 を 如 所 有 性 と み な し, 如 所 有 性=真 如 と し て, そ れ を 七 種 に 整 理 し た3)。 七 種 真 如 と は(1)流 転 真 如pravrttitathata: 諸 行 の 無 始 無 終 た る こ と(2)相真 如laksapata-thata: 一 切 法 が 人 無 我 ・無 法 我 た る こ と(3)了 別 真 如: vijhaptita如laksapata-thata: 諸 行 が 識 性 vijnaptitvaた る こ と(4)安 立 真 如samnivesatathata: 世 尊 に よ る苦 諦 の 説 示(5)邪 行 真 如mithyapratipattitathata: 世 尊 に よ る 集 諦 の 説 示(6)清 浄 真 如: visuddhitathata 世 尊 に よ る 滅 諦 の 説 示(7)正 行 真 如Samyakpratipattitathata: 世 尊 に よ る 道 諦 の 説 示, で あ る。 こ こ で は 真 如 の 観 念 が 先 の 「菩 薩 地 」 と 異 な る 面 も含 む。 七 種 真 如 は 「菩 薩 地 」 で 述 べ る離 言 自 性 そ の も の で な く, そ の 特 質 と し て 分 類 さ れ た 概 念 規 定 と し て の 命 題 で あ る。 更 に は, 勝 義 の 体 験 的 様 相=真 如 へ と 導 く, 絶 対 者 の 側 か ら の 働 き と し て の 概 念 的 表 示 と し て の 命 題 で あ る。 す な わ ち, 真 如 に 関 し て は, 「勝 義 諦 相 品 」 で 説 か れ る よ うな, 勝 義 諦=真 如(=離 言 自性)と そ の 特 質 と し て 言 語 に よ り説 示 さ れ た 七 種 真 如 と の 二 面 か ら 考 察 さ れ て い る。 以 上 の 「声 聞 地 」・「菩 薩 地 」 ・『解 深 密 経 』 の そ れ ぞ れ の 真 如 に 関 す る 規 定 を ふ

(3)

-901-(84) 『喩 伽 師 地 論 』 にみ られ る真 如 観 (広 沢) ま え て, 「摂 決 択 分 」 に お け る真 如 の 観 念 は か な り分 類 整 理 さ れ た と 思 わ れ る。 そ こ で は, 真 如 を 四 聖 諦 と 異 な っ た 位 相 で 見 る 立 場 が 前 面 に 押 し 出 さ れ る が, 『解 深 密 経 』 の 七 種 真 如 の よ うに 四 聖 諦 を 真 如 に 包 括 し, 概 念 的 表 示 と し て の 真 如 と の 関 連 を 説 く。 摂 決 択 分 で は 四 聖 諦=安 立 諦 に 対 し て 非 安 立 諦=真 如 と分 類 す る一 方 で, 真 如 を 縁 ず る 実 践 過 程 で, 作 意 思 惟manaskaraす る 場 合 の 真 如 と 見darsanaる 場 合 の そ れ と の 区 別 を す る。 1, 分 別 所 摂 の作 意 に よ っ て真 如 を作 意 す る場 合 乃 至通 達位 に到 らな い間 は, 真 如 の 相nimittaを 見 てい る のみ で, 真 如(漢 訳 で は 実 真 如)を 見ず, 通 達 して い ない か 通 達 して も, そ の後 に安 立 真 如vyavasthitatathata(七 種 真 如 の 一 つ で あ る安 立 真 如samni-vesatathataで は ない)を 作 意 す る。 2. 通 達 位 にお い て は真 如 を見 るが, 真 如 を作 意 しない 実 際 には 無 相 作 意animi-ttamanaskara. 3. 通 達 後 に は非 安 立 真 如avyavasthitatathataを 相 続 作 意 す る4)。 以 上 の よ う に, 実 践 の 過 程 で は, 見 道 を 中 心 と し て, そ の 前 後 で 真 如 の 位 相 が 異 な る。 見 道 以 前 に 専 念 す る 対 象 の 真 如 は, 真 如 の 相, あ る い は 安 立 真 如 と さ れ る。 こ の 場 合 の 相 は 概 念 的 に 提 示 さ れ た 四 聖 諦(四 安 立 諦)で あ り, こ れ は 『解 深 密 経 』 に 見 る 七 種 真 如 に 四 聖 諦 が 「世 尊 に よ る 説 示 」 と し て 包 括 さ れ た 立 場 を 受 け 継 ぐ と い え よ う。(こ こで の安 立 真 如 の概 念 は 『解 深密 経 』 にお け る善 安 立 真 如 性legs par rnam par bshag pabi de bshinid5)と 関 連 す る と思 わ れ るが, 解 深 密 経 の そ れ は ま

だ重 要 な概 念 に な っ て い な い。 解 深 密 経 の 七種 真 如 の うち の安 立 真 如 は こ こで述 べ る 安 立 真 如 の 一 つ の相 と考 え られ る。) こ の よ う な, 概 念 的 に 提 示 さ れ た 四 聖 諦 が 真 如 と 同 一 で あ る側 面 と非 同 一 で あ る 側 面 を 明 確 に す る た め, 「摂 決 択 分 」 で は 四 聖 諦 の 概 念 的 提 示 の 背 後 に, 言 語 化 さ れ な い 四 聖 諦 の 実 在 を 措 定 し て, 四 非 安 立 諦 と す る。 そ れ が 究 極 的 な 意 味 で の 真 如, す な わ ち 非 安 立 真 如 で あ る。 四 聖 諦=安 立 真 如 の 体 験:的理 解 に お い て, 概 念 的 思 惟 が 放 棄 さ れ た 状 態 で 体 得 さ れ る 実 在 感 と し て 真 如 が 把 握 さ れ 得 る, と さ れ る。 従 っ て, 四 聖 諦 と 真 如 と は, 異 な りつ つ も, 根 抵 的 に は 同 一 で な け れ ば な ら な い。 本 地 分 の 「聞 所 成 地 」 で は, 真 実tattvaを 分 類 し て, 真 如 と 四 聖 諦 と す る が, そ の 場 合 に も, 真 如 と 四 聖 諦 と を本 質 的 に 異 な っ て い る と は み な し て い な い。 両 者 の 根 抵 的 同 一 性 を 見 な い の は, 体 験 の 内 実 の 相 違 性 を 重 視 す る本 地 分 の 「菩 薩

(4)

-900-『

喩伽師地論』 にみ られ る真如観(広

沢)

(85)

地 」 の 立 場 で あ る。 そ こで は, 離 言 説=真 如(=法

無我所顕)と い う観 点 か ら, 声

聞 ・独 覚 の 智 は 真 如 と関係 付 け られ な い。 しか し, 解 深 密 経 か ら摂 決 択 分 へ と展

開 す る と, 先 に 見 た よ うに, 真 如 は, 非 安 立諦 と しつ つ も, そ こに安 立真 如 を も

包 括 す る立 場 が 見 られ る。従 って, 声 聞 ・独 覚 の 智 も真 如 に関 係 す る。

摂 決 択 分 」 の 「

思 所 成 慧 地 」 で は, 四 種 所 縁 を挙 げ て, 「

声 聞 地 」 の如 しと し

て い るが(声 聞地 では出世間道浄惑所縁 は四聖諦 のみであった6)のに)浄 煩 悩 所

縁kle-savisodhanalambana(声

聞地の浄惑所 縁)の み, 特 別 に注 記 して, そ れ を 「四聖 諦

と真 如 」7)と真 如 を付 加 して い る。真 如 へ 向 か う実践 の枠 は 「

菩 薩 地 」 よ り拡 大

さ れ て い る。 「菩薩 地 」 で は煩 悩 障浄 智所 行 真 実=四 聖 諦 一 人 無 我 は 声 聞 ・独 覚

の実 践 領 域 で あ り, 所 知 障 浄 智 所 行 真 実=離 言 自性, 平 等 平 等無 分 別 智 所 行境 界,

真 如 一 法 無 我 は諸 仏 菩 薩 の実 践 領 域 と規 定 され, そ こ に は両 者 の 根抵 にあ る真 如

へ の志 向性, 相 互 の関 係 性 は意 識 され てお らず, 両 者 の 不 同 性 の み 意識 され て い

る。 しか し, 「

摂 決 択 分 」 で は, 両 者 の 共 通 性 を真 如 へ の 志 向 性 を有 す る 智 の あ

り方 に よ り導 き 出す。 す なわ ち, 諸 仏 菩 薩 と声 聞 ・独 覚 とが 共 通 に具 え る初 正 智

(=出 世間 正智)に よ り, 真 如 へ の通 達 は可 能 とな る。 従 って, 本 地 分 の 「

菩 薩 地 」

の よ うに 四聖 諦 一 煩 悩 障 浄, 真 如 一 所 知 障 浄 と い う二 者 並 列 的 な観 点 は克 服 され

る8)。声 聞 乗 の具 え る作 意 修 は安 立 諦 を作 意 す る こ と に よ り真 如 に通 達 す る の で

あ り, 大 乗 の具 え る作 意 修 は安 立 ・非 安 立 諦 を作 意 す る こ と に よ り真 如 に通 達 す

る, と され る9)。

従 って, 諸 法 の一 味 真 如 は あ らゆ る言 語 規 定 を超 越 して, あ らゆ る事 象 の根 抵

とな る実在 で あ りつ つ も, 言 語 規 定 を伴 って現 象 し, そ の局 面 で の み対 象 化 され

る場 合 は有 量 有 分 別 法 の み が眼 前 し, 安 立 諦 を作 意 す る にす ぎな い(声 聞乗)。 し

か し, そ こに言 語 規 定 を超 越 した無 量 無 分 別 の法 が 眼 前 し, 非 安 立 諦 ま で も作 意

す るな ら, 究 極 的 な意 味 で の真 如 の眼 前 が 可 能 に な る, と され る。

1) Sr. Bh. pp. 196∼7, 大 正30, 427b∼c. 2)B. Bh. (Wogihara's ed.)pp. 37∼38. 大 正30, 486b∼c.

3)Salpdhinirmocanasutra ed. par E. Lamotte(以 下SS. と 略)Ch. VIII, 20, 2, 大 正16, 699c, cf. MSA XIX p. 168のsatyavyavasthana.

4)T. (Derge, sems tsam 9)11a3-5, 大 正30, 700a.

5) SS ch. VIII, 36, 1でE. Lamotteはlegs par mnm par bshag pabi de bzhin nidと す る がDerge. 漢 訳 等 に よ り 再 校 訂。

6)Sr. Bh. P. 251, 大 正30, 434b. 7) T. (Derge, sems tsam 8)210a12 8)T. 287b3∼288a4, 大 正30, 696a.

9)T. 223b2'6, 大 正30, 668c. (足 利 工 業 大 学 講 師)

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