高齢者市場の活性化に関する調査研究報告書
∼シルバーマーケットにおける余暇産業の在り方∼
平成 16 年 3 月
目 次
第1章 調査研究の概要
1- 1 調査研究の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1- 2 調査研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1- 3 調査研究の対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
第2章 高齢者における余暇環境
2- 1 変わりゆく高齢者像 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 2- 2 シルバーマーケットにおける「余暇産業」の動向 ・・・・・・・・・・・・・ 6 2- 3 岐阜県内における「余暇産業」の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2- 4 先駆的対応事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
事例Ⅰ:(株)ジェイアール東海ツアーズ 岐阜支店 事例Ⅱ:宮川村観光協会
事例Ⅲ:五感の宿 慶泉
第3章 高齢者市場において期待される「余暇産業」の役割
3- 1 余暇産業先進国アメリカにみる商品差別化のヒント・・・・・・・・・・・・ 25 3- 2 真に成熟した「余暇産業」となるために・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 3- 3 余暇産業とは「需要創出型」産業であるべき・・・・・・・・・・・・・・・ 37
第4章 資料編
資料1 アンケート調査票・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 4- 1 調査票
資料2 アンケート調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48 4- 2- 1 調査概要
4- 2- 2 調査結果
研究会の構成員名簿
<座長>
村田 裕之 (村田アソシエイツ 代表) <委員>
家田 里香 ((株)アドキットインフォケーション 代表取締役) 加藤 正幸 (岐阜県旅行業協会 会長)
古池 嘉和 (岐阜女子大学 文学部 観光文化学科 助教授)
小堀 利一郎 (NHK岐阜文化センター 支社長)
中島 幸子 ((株)名古屋流行発信 月刊キャラコママ編集部 編集長)
(50音順 敬称略) <オブザーバー>
八幡 雅夫 ((株)弘文社 シルバー世代応援情報誌「楽」編集長) 北村 和彦 (岐阜県 商工局 交流産業室 主任)
小瀬 光則 (高山市 産業振興部 観光課 主幹)
山本 悦朗 (多治見市 環境経済部農林商工課 総括主任)
<事務局>
道上 浩也 ((財)岐阜県産業経済振興センター 理事長) 大野木 邦與 ( 同 企画研究部長)
白坂 真哉 ( 同 企画研究部 主任研究員) 長尾 尚訓 ( 同 企画研究部 主任研究員)
(50音順 敬称略)
研究会開催経緯
・第1回研究会 平成15年9月5日(金) 県民ふれあい会館 407会議室 シルバーマーケットにおける「余暇産業」の動向について
岐阜県内における「余暇住宅」の動向について 研究会の進め方について
・第2回研究会 平成15年10月31日(金) 県民ふれあい会館 407会議室
アンケート調査について
ヒアリング調査について
・第3回研究会 平成15年12月18日(木) 県民ふれあい会館 407会議室 アンケート調査速報について
ヒアリング調査速報について
第1章
調査研究の概要
1- 1
調査研究の背景
厚生労働省の国立社会保障人口問題研究所が、2002(平成 14)年 1 月に公表した「日 本の将来人口推計・平成 14 年 1 月」によると、我が国の 65 才以上の人口は 2, 200 万人 を突破し(対総人口比 17. 4%)、2025(平成 37)年には 3, 472 万人(対総人口比 28. 7%) に達すると予想されている。しかし、日本大学人口研究所が 2002(平成 14)年 10 月に 発表した人口推計によると、高齢化のスピードは、人口問題研究所の人口推計より早く 進んでおり、65 才以上の人口は、2025(平成 37)年には 3, 727 万人(対総人口比 31. 04%) を突破すると予測されている。実際に、その後 2003(平成 15)年 9 月に総務省が発表 した統計調査結果では、同人口はすでに 2, 431 万人(対人口比 19. 0%)に達し、人数・ 割合ともに過去最高を更新し続けている事が明らかにされている。さらに、同人口問題 研究所の「日本の世帯数の将来推計・2003(平成 15)年 10 月推計」によれば、2000 年 からの 25 年間で、65 才以上の高齢者の独り暮らしは、約 2 倍の 680 万世帯(総世帯の 24%から 37%)に、75 才以上では約 3 倍の 422 万世帯(総世帯の 8%から 21%)へと増加 することが予想されるなど、高齢者世帯の急増が懸念されている。
一方、女性の高学歴化・社会進出による未婚化・晩婚化の影響もあって、女性 1 人当 たりの出生人数は年々減少する傾向にある。厚生労働省が、2002(平成 14)年 6 月に発 表した「人口動態統計(概数)」によると、女性1人当たりの出生人数は 1. 32 人と過 去最低を記録しているが、その後、2003(平成 15)年 12 月に発表した「人口動態統計・ 年間推計」では、2003(平成 15)年の出生人数が、前年度よりさらに 3 万 3 千人も少な い 112 万1千人となることが明らかにされている。また、日本大学人口研究所の発表し た人口推計では、2000(平成 12)年に 1. 36 人まで落ち込んだ出生人数は、2017(平成 29)年には 1. 24 人まで低下し、その後、同水準で推移すると予測されている。このよ うに、予測を越える速度で進んでいる少子化も、厚生労働省の「将来推計人口」の予測 値の下方修正に拍車をかける要因の一つになっている。
さらに、世界保健機関(WHO)の 2002 年版年次報告によれば、2001(平成 13)年 度の日本の「平均寿命」は 81. 4 才と世界一の長寿国であるばかりか、障害や寝たきり の期間を差し引いた「健康寿命」でも 73. 6 才でトップとなっている。また、総務省の 調査では、65 才以上で働いている高齢者の割合は 22. 7%と、欧米に比べても際だって高 いと指摘されており、元気で健康な高齢者の増加を裏付ける結果となっている。
このように、我が国の人口構造は急速に 少子高齢化 への道を辿っており、この ため福祉・保健・医療分野を始めとして、就労・所得保障・住環境など、社会の仕組み そのものが、大きな影響を受けることが予想される。
1- 2
調査研究の目的
従来は、高齢者というと寝たきり老人や痴呆性高齢者にみられるような「高齢者=社 会的弱者」というイメージが強く、我が国の人口の高齢化における議論の対象は、どち らかと言うと要介護高齢者への対策として理解されてきた。しかし、厚生労働省によれ ば、高齢者全体に占める要介護者の割合は全体の 12∼15%程度で、80%以上の高齢者が「元 気で健康な高齢者」であると指摘されている。このように、高齢者人口全体から見れば 要介護高齢者はその一部であり、現在の高齢者は、大半が「元気で健康な高齢者」なの である。よって、高齢者を「社会的弱者」として捉えるような、従来の固定観念に惑わ されず、「高齢者=アクティブシニア」として再認識する必要がある。
21 世紀の高齢者市場においては、豊かで快適な社会に育ち、消費生活の楽しみ方を心 得た高齢者層(いわゆる団塊の世代)が増加し、商品・サービス消費の主体として、「シ ルバーマーケット」における重要な位置を占めることになり、これまでに無い新たな消 費ニーズが生みだされると予測されている。こうした社会構造の変化の中で、既に医 療・介護・食品・住宅・旅行等のあらゆる分野において「シルバーマーケット=成長市 場」として脚光を浴びており、企業が将来に向けての事業展開を検討する上で、いわゆ る「シルバーマーケット」の拡大・変化に対応した経営戦略を検討する事は、重要な課 題の一つとなっている。
そこで本調査研究では、「シルバーマーケット」を「衣・食・住・余暇」の 4 つのテ ーマに分類し、本年度は、一昨年度の「食品産業」、昨年度の「住宅産業」に続いて、 高齢者向け旅行ビジネスや娯楽施設など「シルバーマーケット」における有望分野の1 つとして注目を浴びている「余暇産業」の分野に焦点をあてる。
1- 3
調査研究の対象
我が国では、長引く不況の中、厳しい経済局面の打開策の一つとして、また経済活性 化の起爆剤として、「余暇産業」は大きな期待を担っている。政府においても、経済活 性化に向け、民間活力を最大限に引き出すための環境整備として、規制改革を中心とし た構造改革特区の検討が進められる中で、いわゆる経済特区として「カジノ特区」や「レ ジャー特区」構想が真剣に議論されたのは記憶に新しい。特に近年は、消費単価が安く 自宅周辺で楽しめる「日常型レジャー」や「自己能力開発型レジャー」の人気が高く、 この点において、高齢者における余暇活動も例外ではない。(株)食品流通情報センタ ーが発行している「2000 年版余暇レジャー総合統計年報」によると、高齢者が趣味で取 り組んでいる余暇活動の上位には「旅行・観光」「スポーツ・スポーツ観戦」「パソコン」 「映画・音楽・美術鑑賞等」「園芸・盆栽等」「学習」等様々な項目が並ぶなど、この分 野に対するシニア層の関心の高さが伺える。
第2章
高齢者における余暇環境
2- 1
変わりゆく高齢者像
先にも述べたように、我が国では団塊の世代の高齢化によって、今後加速度的に高齢 化が進展する事が予想されている。一般的に、この世代は行動的で消費意欲が高く、自 分の趣味や能力を高めることに余暇時間を費やす傾向が強いと言われている。このよう な健康的で経済的にも恵まれ、自立した高齢者の増加は、新しいライフスタイル、すな わち、世代間の同質化した意識や価値観よりも個々人の意識・価値観を優先することに 生きがいを求める高齢者層、いわゆる「アクティブシニア」の誕生を予想させる。
高齢者を取り巻く社会環境はますます個性化・多様化する様相を見せている。よって、 21世紀における社会と産業構造の大きな変化の中で、「シルバーマーケット」の中心的 存在となる「アクティブシニア」のニーズを探り、その対応策を検討することが、マー ケットでの「生き残り」をかける企業にとっては、重要な課題の一つである。
本章では、まず始めに最新の統計資料等によって、こうした「アクティブシニア」と 呼ばれる、現在の高齢者像を明らかにし、その後、シルバーマーケットにおける「余暇 産業」の最新動向について述べる。その上で、「余暇産業」の中でも、特に高齢者層の ニーズが高い「旅行・観光」分野における先駆的対応事例の分析を行い、今後の余暇産 業の在り方を探る。
( 1) 高齢者の経済的・時間的状況
厚生労働省の「平成 13 年国民生活基礎調査」によると、現在の高齢者世帯(65 才以 上)の 1 世帯当たりの平均所得金額は、319. 5 万円となっており、全世帯の平均所得金 額(616. 9 万円)の半分程度である。しかし、世帯人員 1 人当たりの平均所得金額で比 較すると、高齢者世帯は 203. 6 万円であり、全世帯平均の 212. 1 万円と遜色はなく、母 子家庭(93. 6 万円)、児童のいる家庭(164. 5 万円)よりも高い数値を示している。し かも、総務省統計局の「平成12 年貯蓄動向調査統計表」によれば、高齢者世帯の 1 世 帯当たり貯蓄額は、2, 739. 4 万円となっており、全世帯の平均貯蓄額(1, 781. 2 万円) の 1. 54 倍にもなる。さらに、高齢者世帯は 1 世帯当たりの負債額は、わずか 182. 9 万 円と全世帯平均負債額(538. 2 万円)の 3 分の 1 程度しかなく、全世帯中最も低い。こ のため、貯蓄額から負債額を引いた純貯蓄額は、高齢者世帯では 2, 556. 5 万円と、全世 帯中トップとなっている。このように、高齢者世帯は他の世代に比べても、経済的に充 分なゆとりをもっている。
さらに、総務省統計局の「平成 14 年家計調査」によれば、高齢者世帯(65 才以上) の 1 ヵ月当たりの消費支出額は、222, 155 円となっており、全世帯の平均消費支出額 (269, 835 円)よりも少ない。しかも、全世帯の平均消費支出額は、2000(平成 12)年 の 281, 208 円から 2001(平成 13)年の 273, 183 円、2002(平成 14)年の 269, 835 円と、 毎年減少傾向にある一方、高齢者世帯の平均消費支出額は、2000(平成 12)年の 220, 859 円、2001(平成 13)年の 221, 354 円から 2002(平成 14)年の 222, 155 円と僅かではあ るが、増加傾向にある。
このように、高齢者世帯では、住宅ローン等の借入金負担も少ないため、消費支出が 相対的に多くなり、平均消費性向は高くなる傾向がある。その上、一般世帯では近年の デフレの影響を受け、消費マインドが低下しているにも関わらず、高齢者層では極めて 安定した消費マインドを維持していると言われている。
われる30代が最も少なく、それ以降はライフスタイルの変化とともに上昇する傾向があ る。総理府の「国民生活に関する世論調査」でも、「ふだん休んだり、好きなことをし たりする時間的ゆとりがあるか」という質問に対して「ゆとりがある」と回答する割合 は、20代の6割前後、30代の4割前後をボトムとして、それ以降は年齢とともに上昇して おり、高齢者層では実に7割以上が「ゆとりがある」と回答している。加えて、我が国の 世界一と言われる平均寿命の上昇が、高齢者層に対して、その時間的ゆとりをいかに過 ごすかという新たな課題を提起する要因にもなっている。
このように、現在の高齢者層は、他の世代に比べて時間的・経済的なゆとりが多いこ とは明らかだが、一方で高齢者層の7割弱が将来の自分の日常生活に不安を感じていると も言われており、こうした介護や医療支出といった将来負担に対する高齢者の不安感が、 逆に高齢者層の消費差し控えの要因にもなりかねない。よって、こうした高齢者層の将 来に対する不安解消や、高齢者の生活における「生きがい」支援につながるサービス・ 商品の提供を図ることが、今後の高齢者層における消費支出の拡大を生み出すポイント の一つになると言えよう。
( 2) 元気で健康な高齢者の増加
我が国では、従来から高齢者像といえば、寝たきり老人や痴呆性高齢者といった「高 齢者=社会的弱者」というイメージが強く、高齢化を主題とした対応が要介護高齢者を 中心とされてきたため、「シルバーマーケット」におけるビジネスアプローチも、主に 介護関連ビジネスを中心とした「医療・福祉関連分野」をメインとして活性化してきた 経緯がある。その代表が、2000(平成 12)年 4 月の介護保険法の施行であり、従来公的 セクターや非営利法人の独占状態であった「シルバーマーケット」は、民間企業や NPO にも広く開放されるようになり、近年は医療福祉分野における介護・居宅サービスとい ったビジネスに対する異業種の参入が相次いでいる。
一方、高齢者全体に占める要介護者の割合は全体の 2 割程度で、8 割以上が「元気で 健康な高齢者」であるという厚生省の指摘を裏付けるように、日本大学人口研究所の高 齢化予測の中でも、「寝たきりの高齢者」は約 125 万人(対高齢者人口比 5. 7%)、「痴呆 性高齢者」は約 138 万人(対高齢者人口比 6. 2%)であるのに対し、「労働ができる元気 な高齢者」は約 1, 170 万人(対高齢者人口比 53. 1%)にも上っている。
また、総務庁が 1999(平成 11)年 2 月に、全国 60 才以上の男女を対象に行った「高 齢者の日常生活に関する意識調査結果」によれば、「日常生活を営む上で、不自由を感 じるときがあるか」という質問に対して、不自由を感じると回答したのは、全体のわず か 14. 3%であり、8 割以上の高齢者が「不自由を感じることなく普通に生活できる」と 回答している。もちろん、年代が上がるにつれて、この割合は減少していくものの、85 才以上の高齢者に至っても、6 割近くが不自由を感じてはいないと回答しているのは事 実である。
さらに、「現在、つえ・シルバーカー・補聴器・ポータブルトイレ・電動ベットなど 日常生活を暮らし易くするための用具・器具を使っているか」という質問に対しては、 全体の 9 割近い高齢者が「使っていない」と回答している。驚いたことに、この割合は 85 才以上の高齢者においても、5 割弱をキープしており、この年代に至ってもなお、実 に約半数近くの高齢者が、こういった用具・器具の利用を必要とはしていないのである。
( 3) 個性化・多様化するアクティブシニア
21世紀における「シルバーマーケット」において、その中心的存在となっていくのは、 「アクティブシニア」と言われる団塊の世代で、これは、1947(昭和22)年から1949(昭 和24)年生まれの第一次ベビーブーム世代を指している。現在この世代は、50才代後半 に差し掛かっているが、総務省統計局の人口統計月報(平成15年4月1日現在)によると、 この世代の総人口は1, 027万人と直前の世代(800万人)と比較しても約1. 28倍にもなり、 他の世代と比較しても突出したボリュームを示している。よって、これからの「シルバ ーマーケット」の在り方を考える上においても、「アクティブシニア」層の存在は極め て重要であり、この世代の持つ生活意識・価値観等を明らかにする必要がある。
我が国の高度成長とともに人生を歩んできた「アクティブシニア」の世代は、生活の 中に家電・自動車等の大型消費財を取り入れ、大量生産・大量消費といった欧米流の生 活様式に慣れ親しんできた世代である。そのため、行動的で消費意欲も盛んであり、何 より自分の生きがいや能力を深める事に強い関心を持っている。また、新しいファッシ ョンや流行にも敏感で、職場や家庭で携帯電話やパソコン、電子メールやインターネッ トを積極的に利用している。さらに、定年退職に対しても「現役引退」とは考えず、社 会や家族のために働くことからの「開放」として捉え、自分の夢や希望を実現するため には費用も時間も惜しまないし、情報収集活動や社会活動への参加も積極的である。
特に、この世代は、従来の高齢者と比較して教育水準が高く、そのため、余暇の過ご し方にも、休息とか娯楽とかいった要素だけではなく、学習や創造といった要素を求め、 余暇時間を「生きがい」追求とか自己のアイデンティティーを高めるために費やす傾向 が強まっている。そのためか、近年は「生涯学習」に対する意識が高まっており、各地 のパソコン教室等は活況で、インターネットを利用して仲間との交流を深めたり、商品 やサービスの提供を希望する高齢者が増加している。
また、老後の生活に対する介護や医療支出といった将来負担に対する危機意識から、 老後は、子供や家族に頼らず、夫婦もしくは一人で生活を送るなど自立意識も強い。都 市部では急速に核家族化が進展していることもあり、こうした「アクティブシニア」の 自立生活を支援するシルバービジネスが注目を浴びている。
実際に、レジャーやファッション分野等では、積極的に社会参加する元気な高齢者層 に的を絞った新たな高齢者市場が活性化している。例えば、化粧品販売業の(株)ソニ ーCPラボラトリーズでは、JR東日本のシニア向け旅行会員組織と連携して高齢者の 肌に合った化粧品や化粧方法をレクチャーする「美容塾」を開講している。また、結婚 情報サービス業の(株)ツヴァイでは、晩婚化の加速による40才以上の未婚者の増加と 熟年離婚の増加を受け、年齢上限を男性75才、女性65才に引き上げたコースを開設して いる。さらに興味深い所では、少子高齢化や余暇の拡大の影響による、近年のペット関 連市場の拡大がある。矢野経済研究所の2003(平成15)年の調査によれば、少子高齢化 や近年の「癒し」ブームの影響もあって、ペットの位置づけが「愛玩動物」から「伴侶 動物」へと変化してきており、2002(平成14)年の同ビジネス国内総市場規模は、前年 比2. 7%増の約1兆円に達すると見込まれている。
2- 2
シルバーマーケットにおける「余暇産業」の動向
( 1) 余暇産業と高齢者ニーズ
バブル崩壊後、しばらく成長を続けていた「余暇産業」も、ここ数年は景気低迷の影 響を受けて、市場は伸び悩んでいる。(財)社会経済生産性本部が、2003(平成 15)年 8 月に発表した「レジャー白書 2003」によれば、「余暇市場」は、1996(平成 8)年の 90 兆 5, 030 億円をピークにマイナス成長を続けている。特に、2001(平成 13)年には、 「東京ディズニーシー」「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」という大規模テーマパ ークがオープンするという好材料が揃っていたにも関わらず、2001(平成 13)年 2 月に 「宮崎シーガイア」が経営破綻し、さらには同年 9 月に米国同時多発テロ事件が発生す るなどの影響もあって、海外旅行客が大幅に減少した。2002(平成 14)年度の余暇市場 は 82 兆 9, 660 億円、対前年比+0. 5%の増加とはなったものの、余暇活動全体の参加人 口が上昇傾向を見せている一方で、「余暇市場」自体の回復には至っていない。その後 も、「長崎ハウステンボス」が 2003(平成 15)年に経営破綻するなど、第三セクターに よる大型レジャー施設の倒産が相次ぐ中、アフガニスタン戦争に続き、最近のイラク戦 争や新型肺炎(SARS)、鳥インフルエンザの蔓延といった世界情勢の不安定化の影 響を受けて、旅行業界、特に海外旅行市場が強いダメージを負うなど、余暇市場回復の 好材料が見い出せない状況にある。
しかし、朝日新聞大阪本社が 1999(平成 11)年 5 月に行った「第 21 回消費生活調査 99Lei s ur e」によれば、「今後の生活意識で重視したい支出分野」という項目に対し 60 才代の回答の上位は、健康(46. 5%)、旅行を楽しむ(41. 7%)、家庭内の食事を楽しむ (32. 6%)、趣味・芸術を楽しむ(19. 4%)、レジャーを楽しむ(16. 9%)となっている。 このように、現在の高齢者層は、余暇活動への参加に対して、依然積極的な意識を持っ ており、冒頭でも述べたように、近年は、手頃で消費単価が安く、気軽に楽しめる「日 常型レジャー」が、高齢者層の間でも好評である。
「元気で健康な高齢者」の増加によって、高齢者の余暇ニーズは変化し、質的に高度 化していく様相を見せている。大阪ガスが 1999(平成 11)年 3 月に行った、「シニアの 生活意識調査」によると、高齢者が趣味や社会活動で取り組んでいるものは、回答率の 高い順番に、国内旅行(66. 7%)、スポーツ・スポーツ観戦(49. 6%)、海外旅行(41. 1%)、 映画・音楽・美術等の鑑賞(38. 2%)、園芸・盆栽等(37. 8%)、パソコン・インターネッ ト等の利用(32. 1%)、等々となっている。中でも、「自己能力開発型レジャー」や「パ ソコン」「学習」といった分野に対する余暇ニーズは、いわゆる「生涯学習」に対する 意識の高まりに呼応するかのように、年々高まる傾向にあるなど、高齢者の余暇ニーズ は、従来の高齢者層とは明らかに異なる傾向を示している。
このように、「元気で健康なアクティブシニア」は活動的で学習意欲が高く、かつて の悠々自適で余生を過ごすタイプの高齢者像とは違い、新しいライフスタイルに育まれ た、多種多様な価値観からなる余暇ニーズを持っており、基本的には、余暇時間を健康 で有意義に、かつ自分のために過ごすことを望む傾向が強い。
そこで次に、多岐に亘る余暇関連産業の中から、高齢者層のニーズが特に高い「旅行・ 観光」「スポーツ」「カルチャースクール」の各分野における「アクティブシニア」を対 象とした余暇産業の動向について述べる。
( 2) シルバーマーケットにおける余暇産業 ①「旅行・観光」分野
て、海外旅行者は激減している。その影響で、逆に国内旅行市場は取扱額、取扱人数も 好調となり活性化することが期待されたが、一方で、国内市場における旅行商品は、海 外旅行に比べて旅行単価が低い上に、大手旅行業者の参入、インターネットによる旅行 商品販売の増加等の影響によって、旅行会社間の価格競争が一段と厳しさを増し、海外 旅行者減少による旅行市場全体の落ち込みをカバーできてはいない。
しかし、将来の参加意向を示す「余暇活動の参加希望率」を見ると、先に述べたよう に、多種多様な 90 種目もの余暇活動分野の中でも「国内観光旅行」は 77. 1%とトップで ある。さらに、「余暇活動の潜在需要」では、性別・年齢に関わらず、「海外旅行」が トップ(全体平均の 34. 3%)を示すなど、様々なマイナス要因を抱えているにも関わらず、 依然として旅行市場に対する関心度が高いことが判る。特に、元気で健康な高齢者の増 加を反映してか、高齢者の「旅行頻度」は年々増加する傾向にあり、「旅行・観光」業 界各社では、高齢者層をターゲットにした「旅行・観光」商品を次々に発表している。
中でも、JR東日本が 2001(平成 13)年 7 月から、独自にスタートさせた新ブランド 「大人の休日」は、旧来のシニア旅行会員組織「ジパング倶楽部」の会員を対象として、 シニア世代のニーズに対応した様々な旅行商品の提供を目指したものであり、高品質・ 高価格の旅行商品だけでなく、低価格志向の旅行商品も設定し、多様化したシニア層へ の対応を図っている点が特徴である。最近では、会員組織の中でのコミュニケーション を図るため、「趣味の会」の組織拡大・異業種とのタイアップ戦略にも乗り出しており、 従来の「旅行情報」以外にも「趣味」「グルメ」などのカテゴリーを充実させ、「スケ ッチ教室」「歴史ウォーキング教室」など、シニアの自己実現や仲間づくりを応援して いる。
また、近年の傾向として、従来の食事やショッピングをメインとした旅行商品だけで はなく、自然に触れたり文化に接するなど、教養・趣味等のカルチャー的要素の強い「自 然探訪ツアー」・「史跡・文化遺産巡りツアー」といった、個々のツアーに目的・テー マ性を備えた「旅行・観光」商品が、高齢者層の人気を博する一方、「高級ホテルでの 食事ツアー」や「高級寝台列車での旅」など、「本物志向」を追求した高額旅行商品企 画も好評である。また、海外旅行市場においては、「シルバー向け留学体験ツアー」「ホ ームステイ」「ロングステイ」「語学留学」といった海外生活体験型のツアーにも人気 がある。
さらに、近年はシニア層をターゲットに、旅行の取消料を免除するツアー販売が注目 されている。これは、体調管理や家族・親族の不幸等を理由に旅行を差し控えがちな高 齢者層のリスクを軽減するために、特にクレームのつきやすい取消料が免除できるツア ーで、安心感・安全感をアピールすることで、海外旅行に積極的な高齢者層を取り込む 狙いがある。一方で、観光旅館やホテル等の事業者の中には、一般の観光客の落ち込み をカバーするため、文字通り「ホテル並みのサービス」を売りに、高齢者層を対象に日 帰りで介護するデイサービス等を行うなどの動きも出てきている。
このように、元気で健康な高齢者の増加によって、「旅行・観光」に対する高齢者ニ ーズは明らかに変化しており、商品そのものが高度化、細分化、マニア化していく傾向 がある。こういった、時間的・経済的にゆとりのある高齢者層を対象とした「旅行・観 光」商品のコーディネートについては、従来とは異なった対応が必要とされるため、様々 な取り組みが積極的に行われているが、まさに玉石混合といった感がある。しかし、こ うした「旅行・観光」業界の展開の中にこそ、余暇市場におけるシルバービジネスの在 り方を考えていく上での重要な示唆が含まれているはずであり、今後の動向を注視した い。
②「スポーツ」分野
「レジャー白書 2003」によれば、その内、スポーツ用品部門が約 2 兆円を占め、スポー ツ施設・スクールとしての市場規模も約 2 兆円となっている。さらに、その内訳は、ゴ ルフ場関連(約 13 千億円)、フィットネスクラブ(約 3 千億円)、スイミングスクール (約 2 千億円)、ボーリング場(約 1 千億円)、スキー場(約 1 千億円)となっている。 しかし、スポーツ部門の市場規模は 1992(平成 4)年以降、マイナス成長が続いており、 特にスポーツ用品市場の低迷は深刻で、国内大手の大型チェーン店や外国有名ブランド 企業の市場参入も影響し、中小スポーツ用品店の倒産等が相次いでいる。一方で、スポ ーツ観戦市場は全般的に好調であり、2001(平成 13)年度は、前年比 4. 9%の伸びを見せ ている。これは、プロ野球・J - リーグ等の観客動員人数が増加したためで、今後も多種 多様なスポーツ観戦の開催によって、更なる市場の拡がりが予想されており、こうした 「見るスポーツ」を「するスポーツ」に結びつけることができれば、スポーツ用品市場 の活性化が期待できよう。
一方、シルバーマーケットにおいては、老化を防止したい、生活習慣病を予防したい という高齢者層の健康志向は根強く、こうした高齢者側の「健康であり続けたい」とい う健康意識の高まりを背景にしたニーズと遊休不動産の活用や経営の多角化、あるいは バブル崩壊後の時間帯別会員制度の拡充といった事業者側のニーズが合致し、フィット ネスクラブなどスポーツ施設における高齢者層の利用客は、むしろ増加傾向にあると言 われている。もちろん、スポーツ施設を利用する高齢者ニーズは、単に健康目的だけで はなく、余暇仲間との交流の場として、こうしたスポーツ施設の利用を希望する高齢者 も少なくない。このため、スポーツ施設を運営する事業者側も、従来の会社員や法人会 員に代わる需要層として、高齢者向けに低額料金を設定したり、高齢者向け割引制度な どを積極的に導入し始めたほか、プログラムを多様化させ、一般的なエアロビクスだけ ではなく、気孔やアロマセラピーといった、癒しの効果を目指すサービス等も提供する など、高齢者ニーズを獲得するために様々な試みを始めている。
いずれにせよ、今後もシルバーマーケットにおけるスポーツ施設分野では、高齢者向 けの、より個性的な健康づくりサービスは、ますます増えていく可能性が強い。よって、 こうしたスポーツ施設が、高齢者のグループ化を積極的に図り、高齢者同士のコミュニ ケーションづくりをうまくサポートすることができれば、高齢者層の定着率はさらに高 まり、新たな高齢者需要の開拓につながることが期待できよう。
③「カルチャースクール」分野
「レジャー白書 2003」によると、我が国の余暇市場は、「スポーツ部門」「趣味・創 作部門」「娯楽部門」「観光・行楽部門」の4部門に分けられており、一般に「カルチ ャースクール」と呼ばれている分野は、「趣味・創作部門」の中の「学習レジャーサー ビス分野」に入ると思われる。この「学習レジャーサービス」分野の市場規模は、現在 の所、わずか約 1 兆円程度であり、「趣味・創作部門(約 12 兆円)」の市場全体の中で は、1 割程のシェアを占めているにすぎない。しかし、長引く不況下にあって、余暇関連 産業の各部門が、軒並みマイナス成長を示しているにも関わらず、「学習レジャー産業」 は、比較的堅調な推移を示しており、今後の成長が期待される市場の一つとなっている。
しては、支出を惜しまない」傾向が強まっている。また、スイミングスクール・フィッ トネスクラブ等の健康関連部門における売上減少の主要因は、各スクールの競合による 会員料金の下落や法人会員の減少によるもので、高齢者層の「健康」への関心の高さを 反映して、女性を中心とした高齢者層の利用者数、利用回数は、むしろ増加傾向にある。 このため、「スポーツ分野」でも触れたように、各カルチャースクール等の施設では、 こういった高齢者層を対象にしたプログラムの多様化やシルバー会員制度の導入等を強 化しており、今後の高齢化の進展、医療費負担の増加、健康意識の高まりを考えると、 むしろ注目すべき部門であると思われる。
また、カルチャースクール部門の動向を検討する上で、避けて通れないのが、パソコ ン・インターネットといった情報通信部門への参加人口が急速に増加している点である。 世界的なITブームの影響もあり、パソコン関連部門での余暇活動参加人員は全体で 4, 000 万人と、すでに 1996(平成 8)年の約 2 倍に増加しているが、さらに、インターネ ットの利用者は、5, 600 万人にも上り、国民全体の 4 割以上に普及している。一方で、高 齢者層におけるパソコン利用世帯は現状で約 2 割程度であるものの、生涯学習に対する 意識の高まりから、パソコン・インターネットの利用を希望する高齢者は着実に増加し ており、その潜在需要の高さに着目した、高齢者層を対象としたパソコン教室等が各地 で活況を呈している。また、高齢者がネット上に個人ホームページを公開して遠方の友 人と交流したり、シニアネットクラブが各地で活動するなど、高齢者がネットで新しい 楽しみ方を追求する動きも目立ってきており、インターネット上で非営利活動を行って いるシニアネットクラブ数も 100 件近くに上っている。
さらには、「生涯学習」の一環として、高齢者が単に講習に参加して専門家の講義を 聴くだけでなく、自らが講師として教える側になるという動きもある。静岡市の清見潟 大学塾では、教授と呼ばれる講師は市民から公募され、講師が企画した講座ごとに塾生 を募集し、応募が十人に満たない場合は講座は不成立とするような、生涯学習の現場に 市場原理を導入した画期的な試みであるが、この教授(講師)は 60∼70 才代が中心とな っており、書道・ピアノ・漢文・英会話など約 150 の講座を開設し、塾生は約 3, 200 人 とカルチャーセンター並みの規模を誇っている。
現在の高齢者は、最終学歴が男女とも高卒者で 3 割程度、大卒者は男性が 1 割強、女 性は男性の 3 分の 1 程度を占め、これが「アクティブシニア」と言われている団塊の世 代になると、高卒者は男女ともに 5 割弱、大卒者は男性が 2 割弱で女性が 1 割にも上り、 高齢者の教育水準は、年々高まる傾向にある。このため、高齢者の高学歴化が進展する ことによって、従来型のカルチャーセンター等では満足できない高齢者層が増加する可 能性も予想されている。よって、カルチャースクール部門においては、今後も教育・学 習意欲の高い「アクティブシニア」の増加に伴い、より高度で専門的な内容の生涯学習・ 文化活動サービスを高齢者に対して提供することが必要で、そのためには、大学や専門 学校等との連携を視野に入れた事業展開も必要になるのではないだろうか。
( 3) シルバーマーケットにおけるビジネスモデル
我が国では、従来から高齢化問題に対する議論の多くが、「高齢者=社会的弱者」と いう視点からなされており、高齢者の大多数を占める「健常高齢者」についての議論が 熟成されず、そのため「シルバーマーケット」において、「健常高齢者」を対象とした 商品やサービスの取扱いが少なく、ビジネス上の未開拓市場となる状態を生んでいた。
成 12 年度需要動向調査(高齢社会産業)高齢者意識調査」によると、高齢者全体の約 8 割が、自身の健康に関心があるという結果が出ており、「元気で健康な高齢者」が増加 する一方で、高齢者にとって最大の関心事は、やはり自身の健康であることが示されて いる。このような、高齢者の健康に対する潜在的ニーズを反映してか、2000(平成 12) 年 4 月の介護保険制度の施行以降、それまで行政機関や公的セクターや非営利法人等の 独占状態となっていた介護ビジネス市場に、民間事業者が大挙して参入し、介護ビジネ ス産業は一気に活性化、現在約 4 兆円と言われる市場規模も、10 年後には約 10 兆円ま で拡大すると予測されている。
近年の急速な高齢化の進展と、高齢者自身の社会意識の変化によって、高齢者をター ゲットとした「シルバービジネス」は、介護ビジネス市場だけでなく、あらゆる分野で 注目を浴びており、余暇関連産業の分野においても、高齢者の「健康」や「学習」に対 するニーズの高まりに呼応して、高齢者を対象にした学習・講座の開設やカルチャーセ ンター、フイットネスクラブといった余暇関連事業が活性化しつつあり、その中で、「シ ルバーマーケット」におけるビジネスの可能性を探る手法の一つとして、シニアベンチ ャーを目指す定年退職者らの交流会をベースとしたビジネスモデルが注目されている。
例えば、東京三鷹市の「シニアSOHO普及サロン・三鷹」は、1999(平成 11)年に 発足したNPO法人だが、講習会等でパソコン技術を身につけたシニアが地域事業に取 り組んだ事例である。同法人では、学校にパソコンを寄付した企業と契約し、ITの事 業を行ったり、市役所の施設紹介用ビデオを制作したりしている。また、中高年を対象 に、パソコン操作方法を初心者に教える指導技術を認定する制度である、富士通ラーニ ングメディアのシニアITアドバイザーの合格者で組織される、「さいたネット」では、 地域の住民を対象にパソコン教室を開催する他、I T 講習会での講師を務めたりしている。 さらには、2003(平成 15)年 7 月に、こうしたシニア層の地域事業におけるノウハウを 集積し、そのビジネスモデルを全国に普及させるために、22 のシニア団体による「NP O協働リーグ」が発足し、新しい形のシニアベンチャーに期待が高まっている。
2- 3
岐阜県内における「余暇産業」の動向
( 1) 「旅行・観光」市場について
平成 14 年岐阜県統計書によれば、岐阜県内における「旅行・観光」関連の事業所数 は、サービス業における「旅館、その他の宿泊所」が 1, 486 事業所で、収入金額は 1, 619 億円となっている他、運輸・通信業における「運輸に付帯するサービス業」の中の「旅 行業」が 206 事業所となっている。しかし、同統計書では「旅館、その他の宿泊所」の 収入金額は約 1, 620 億円と明らかになっているものの、「旅行業」についての収入金額 の掲載はなく、これによる県内「旅行・観光」市場全体の規模を想定することは難しい。
一般的に、「旅行業」の場合、大手旅行業者を中心とした第 1 種旅行業者のケースで は、事業規模が大きくなるほど営業活動の範囲が広くなるが、その旅行売上については、 事業者の本社所在地で計上されるため、「旅行業」という範囲で特定地域内の市場規模 を把握することは難しい。(財)日本旅行業界によれば、全国の第 1 種旅行業者 849 社 の中で、岐阜県に本社を置く事業者はわずか 7 社であり、国内旅行業者の過半数を越え る 454 社が東京に本社を置いている。一方、比較的中小規模の旅行業者で構成されてい る第 2 種並びに第 3 種旅行業者(全国 8, 950 社のうち、県内は 141 社)の場合、営業活 動の範囲が限られている事もあり、都道府県別の旅行売上高の把握も比較的容易で、岐 阜県内における第 2 種並びに第 3 種旅行業者の旅行売上高は約 30 億円程度とみられて いる。
一方、「観光業」の場合は、産業小分類別における「旅館、その他の宿泊所」だけが 該当するとは言い難く、飲食店を始めとした数多くの業種が関わっているため、やはり この分類のみによる県内市場規模を想定する事は難しい。そこで、「旅行・観光業」を 「観光消費額」という視点で捉え、県交流産業室が発表している「岐阜県観光レクリエ ーション動態調査結果」によって、岐阜県内の「旅行・観光」市場を明らかにしてみる と、岐阜県内の「観光消費額」は約 2, 800 億円に上っていることが判る。さらに、平成 14 年度の同調査結果概要によれば、平成 14 年における岐阜県内の観光客数は、実人数 で約 43 百万人(対前年比 3. 4%増)であり、内訳は日帰り客が約 38 百万人、宿泊客が約 5 百万人となっている。これを居住地別に見ると、県内客は約 20 百万人、県外客が約 24 百万人と、やや県外客が多い傾向にあり、その 7 割以上が東海地区からの客となって いる。また、利用交通機関は、自家用車が 8 割以上で、飛騨圏域ではJRや貸切バスの 割合が高い。このためか、観光消費額の傾向を見ると、西濃県域では日帰り観光に消費 額が特化しているのに対し、飛騨県域では宿泊を伴う観光に消費額が特化する傾向があ る。さらに、観光目的別では、「文化・歴史」が全体の約 2 割で、以下「自然」、「イベ ント」、「スポーツ・レクリエーション」、「温泉」、「買い物」、「産業観光」、「行・祭事」 となっている。
このように、岐阜県内の「旅行・観光」市場は、県内基幹産業の1つといえるほどの 規模・内容を誇っており、生産誘発額は約 3, 900 億円、就業誘発効果は約 4 万人にも上 るなど、その経済波及効果が高く期待されている。よって、「余暇産業」の一翼を担う 「旅行・観光」分野については、交流産業としての位置付けから、岐阜県の新 7 大成長 産業の 1 つとして、県農林商工部交流産業室を中心に、「温故知新」「産業おこし」をテ ーマに、岐阜県独自の観光商品づくりを進めるなど、積極的な振興を図っている。
観光関係の情報提供に努めている他、「観光清掃ボランティア」と称し、観光地の環境 向上のためのツアーも開催している。こうした県内「旅行・観光」関連団体や行政によ る積極的な活動に加えて、「飛騨美濃体験博 21 」や「道の駅スタンプラリー」等の効果 もあってか、ここ数年、県内の観光客数は僅かながら増加傾向にあり、例えば 2003(平 成 15)年 5 月に、UFJ総合研究所が発表した中部三県のレジャー施設調査では、「河 川環境楽園」(岐阜県川島町)における 2002(平成 14)年の集客数は、前年比 3. 8%増 の 352 万人にも上っていることが明らかにされている。
政府では観光による経済活性化を目的として、全国各地で地域リーダーとして観光振 興に取り組んでいる「観光カリスマ」を選定している。岐阜県では、2003(平成 15)年 7 月に、まちづくり活動や人材育成、住民団体「木の国ふるさとづくりの会」を発足さ せ、また海外との交流活動にも積極的に取り組んでいる古川町観光協会相談役の村坂有 造氏が選ばれている。最近では、建築家有志の手で、岐阜市長良に「港」を築いて鵜飼 ショーを観覧できるようにする試案がまとめられた他、岐阜市でも観光資源洗い直しの ための「長良川流域スローツーリズム事業」が策定され、2004(平成 16)年 2 月には鵜 飼観覧船で渡し・遊覧実験を行うなど、金華山・長良ゾーンの観光を活性化する動きも 盛んである。さらに、平成記念公園「日本昭和村」では、2003(平成 15)年のオープン 以来、来場者数がすでに百三十万人を突破する盛況ぶりで、同施設を含む、東海環状自 動車道沿線周辺の県内中核拠点施設を結ぶ「美濃ミュージアム街道」を地域一帯で PR し、交流産業の振興を目指す協議会が設立されるなど、「旅行・観光」を巡って、様々 な活動が行われている。ちなみに、平成 14 年度夢おこし県政の中で述べられている「旅 行・観光」分野における主要な活動は、以下の通りである。
【平成 14 年度夢おこし県政における「旅行・観光」分野における主要な活動】 ①「観光客誘致活動の推進」
( 1) 平成 13 年の観光客数は、4, 238 万 2 千人(対前年比 72 万 8 千人、1. 7%増) ( 2) 「日本まんなか楽園ぎふ∼飛騨・美濃∼」構想の推進
2005 年日本国際博覧会に向け、テーマ・ストーリー性のある街道・回廊づくりを 進め、そのテーマに沿った旅行商品の造成を促し、特に、東海環状自動車道沿線 上の世界に誇れる中核拠点施設や地場産業等を結ぶ「美濃ミュージアム街道」を 推進。
②「イベント・コンベンションの振興」 ( 1) 「姫街道 400 年祭」の開催
中山道開宿 400 年の節目となることから、「日本まんなか楽園ぎふ∼飛騨・美濃∼」 構想のモデルとして展開。(イベント数… 416 件、来場者… 9, 760 千人)
・宮尾登美子講演会(参加者:1, 300 人) ・姫街道ウォーキング(参加者: 45, 100 人) ・七夕まつり i n ぎふ(参加者:60, 000 人)
・喜多郎コンサート∼長良川を奏でる∼(参加者:50, 000 人) ・ハートピア祭り(参加者:50, 000 人)
・モーティバル 2002 世界一くるまの王国フェスタ(参加者:50, 000 人) ・姫街道 400 年祭記念フォーラム(参加者:600 人)
・姫街道 400 年祭記念文化祭(参加者:600 人) ( 2) 日本まんなか共和国文化首都事業の開催
岐阜・福井・三重・滋賀 4 県で構成する日本まんなか共和国の初代文化首都に選 ばれた大垣市において多彩な文化事業を展開。
・4 県連携事業 開都式
・日本まんなか歴史探訪トーク
( 3) 世界アマチュア囲碁選手権の開催(参加者:約 1, 000 人) ( 4) いびがわ世界アユ釣り大会の開催(参加者:約 1, 000 人) ( 5) プレ・オリベ 2003i nNY事業 開催「大垣オリベ茶会」
2003 年にニューヨークで開催する記念茶会のプレ事業として、斬新な演出とコン セプトによる茶会を開催。
( 6) 国際陶磁器フェスティバル美濃 02 を開催(来場者:130, 288 人) ③「交流拠点整備の推進」
( 1) 「セラミックパークMINO 」のオープン
・「オリベスクエア」と「岐阜県現代陶芸美術館」とで構成され、陶磁器産業と文 化融合による産業振興、文化振興、まちづくりの拠点施設として整備。 ( 2) 「オリベデザインセンター」のオープン
・「オリベ会館」の 4∼6 階部分を、県内地場産業の活性化と新たなデザイン関連 産業創出の推進拠点として整備。
( 3) 「河川環境楽園」の整備(平成 8 年度∼)
・県営公園「世界淡水魚園」内に、水路(長さ 190m 、幅 5m )、催し広場及び 商業店舗(2 店舗)等が一体となった新しい水辺空間が完成し、オープニングイ ベントを開催(参加者:約 32, 000 人)
・「入園者累計 1, 000 万人達成記念セレモニー」の開催(参加者:約 25, 000 人) ( 4) 平成記念公園「日本昭和村」の整備(平成 12 年度∼)
・「美濃ミュージアム街道」の中心拠点に、昭和年代前半までの山里の景観を再現 する「日本昭和村」をコンセプトに、農業公園的要素を取り入れた公園を整備。 ( 5) 「花フェスタ記念公園」の整備(昭和 59 年度∼)
・ 英国王立バラ協会友好庭園の開園
さて、県内の「旅行・観光」業界における高齢者層を対象とした「旅行・観光」企画 の動向に目を向けてみると、ことさらに高齢者層対象であることを強調するような旅行 プランを設定する動きは少ない。大手旅行業者や高齢者向けサービスをメインとする業 者の間で設定されるシニア向け企画も、全体から見ればごく一部であり、むしろ行政機 関や公益法人が中心となる高齢者福祉や生きがいづくりを主眼とした団体による、高齢 者向け事業の一環として「シニア向け旅行企画」が設定されるケースが多い。(これに ついては、( 2) スポーツ・カルチャー市場の項を参照)
しかし、「旅行・観光」ニーズが高く、安定したリピーターとしての高齢者層を、あ くまでもコンセプト面でターゲットとした旅行商品企画を設定する動きは進展してお り、例えば、(株)名鉄観光の「四国八十八ヶ所別格二十ヶ寺巡拝」プランは、四国八 十八ヶ所霊場と別格二十ヶ所霊場の計百八ヶ所(煩悩の数)を 5 回に分けて巡拝する満 願旅行プランであり、シニア層の人気が極めて高いと聞く。
従来から、高齢者ビジネスを展開する上で注意しなければならないポイントの一つと して、高齢者自身が「高齢者」扱いされることを好まない傾向がある、という点が指摘 されているが、このように、あえて「高齢者」「シルバー」「シニア」といったネーミ ングをせず、コンセプト面でシルバーをターゲットにした商品・サービスの企画・提供 を図ることこそ、シルバービジネスを展開する上での効果的な営業手法の一つであろう。 ( 2) 「スポーツ・カルチャースクール」市場について
人教授所」が 2, 451 事業所となっており、それぞれの事業における収入金額は、「娯楽 業(映画・ビデオ政策業を除く)」が約 5, 500 億円、「個人教授所」が約 415 億円となっ ている。
この「娯楽業(映画・ビデオ制作業を除く)」の中には、映画館・競輪・競馬・ゴル フやテニスなどのスポーツ施設・公園や遊園地・パチンコやマージャン等の遊技場など が入っており、「個人教授所」の中には、学習塾・フィットネスクラブから生け花・茶 道・華道といった個人の教授所が入っている。よって、いわゆる「スポーツ・カルチャ ースクール」市場といわれている業種のほとんどが、この分類の中に含まれると考えれ ば、市場規模は全体で約 6, 000 億円と、極めて大きな市場であると想定される。
しかし、「スポーツ・カルチャースクール」の範囲に、どのような業種が含まれるか は線引きが難しく、純粋な意味での市場規模の把握を考えると、この数字は妥当とは言 い難い。そこで、約 6, 000 億円にも上ると想定した「スポーツ・カルチャー」市場の内 訳を見てみると、内「パチンコホール」が約 4, 700 億円と、全体の約 8 割を占めており、 さらに、「個人教授所」の内、「学習塾」が約 1, 500 億円と、約 4 割を占めている。よっ て、いわゆる「娯楽」部門に分類される業種及び「学習塾」を除いた、純粋な「スポー ツ・カルチャースクール」市場を同統計書から試算すると、「スポーツ」部門が約 245 事業所で収入金額が約 715 億円、「カルチャースクール」部門が約 1, 500 事業所で収入 金額は約 265 億円となり、合計すると約 1. 745 事業所で収入金額が約 980 億円と推定さ れる。
この中で、「スポーツ」部門は、スポーツ施設が約 280 ヶ所、スポーツ教室が約 180 ヶ所と裾野が広く、ゴルフ・アウトドア・スキーを始めとしてテニス・釣り・マリンス ポーツまで関連事業者数は 3, 000 を越えるなど、比較的充実した市場が構成されており、 いくつかのスポーツクラブでは、高齢者を対象としたシニア向けコースを開設するなど 独自のカリキュラムを設定する施設も出てきている。しかし一方、「カルチャースクー ル」部門の場合、市場規模もそれほど大きくない上、そのスタイルも「習い事」の延長 線上にある個人教授の教室がほとんどで、いわゆる「カルチャーセンター」に代表され る施設型のものは、県内でも約 20 ヶ所程度であり、中でも高齢者のみを対象とした講 座というのは極めて少ない。
このように、県内の「スポーツ・カルチャースクール」市場は、典型的な余暇産業と 言われる「旅行・観光」市場に比べれば、市場規模自体が小さく、いまだ未成熟の部分 が多いと言えるが、長引く景気の低迷により、日常的で身近なレジャー活動に対する潜 在需要が高まっている状況を考慮すれば、今後の拡大が有望視される市場の一つである と言えよう。
こうした中、岐阜市内では「カルチャーアカデミー岐阜新聞・岐阜放送」「オーキッ ドカルチャーセンター」「NHK岐阜文化センター」といった、比較的大きなカルチャ ーセンターを含めて 10 社程度のカルチャーセンターが競合しており、それぞれのカル チャーセンターが学習・文化・健康・趣味等様々な分野において、個性的で多種多様な 講座・カリキュラムを設定し、積極的な活動を展開している。中でも画期的な講座とし て人気を博しているのは、「NHK岐阜文化センター」で開講されている「現地講座」 である。これは、「○ ○ 先生と行く○ ○ の旅」と称し、一般的な旅行企画に学識者・専 門家を随行させ、各地の文化・歴史・芸術・自然等について、わかりやすい解説を行う 国内・海外旅行企画である。つまり、従来の旅行企画に、より専門的なカルチャー的要 素を加えた講座であり、余暇産業を代表する「旅行・観光」「スポーツ・カルチャー」 的ニーズを充足できる企画であり、注目される。
臣の許可を得て設立された(社)全国社会保険協会連合会の会員として、医療・健康づ くり・生きがい創造・社会保険相談等の事業を運営している団体で、最も身近な公的「カ ルチャーセンター」として、地元に密着した活動を行っている。また、(財)岐阜県健 康長寿財団が運営している「シルバー大学」は、岐阜県内に在住する 60 才以上の健康 な方を対象とし、月に 2 日、1 回 90 分の講座を午前・午後の 2 回だけ受ける大学で、年 間 22 回全 35 講座からなっている。講座の内容は、基本的に「一般教養科目」「生涯現 役活動科目」「福祉活動科目」の 3 つで構成され、毎回違った内容となっており、多数 のシニア層が参加している。この財団では、シルバー大学講座の卒業生を、福祉先進国 へ派遣するシニアリーダー海外研修団派遣事業や県内企業のサラリーマンOBで組織 した運営委員が各種イベントを企画して会員(55 才以上)に提供する「ぎふセカンドラ イフくらぶ」など、高齢者を対象とした生きがいと健康づくりを進めるために、積極的 な活動を行っている。さらに、国の委託を受けて、各地の事業協力団体やシルバー人材 センターの協力のもと、様々な講習を実施している組織に、(社)岐阜県シルバー人材 センター連合会があり、ここでは、シルバー人材センターの会員としての就業だけでな く、一般雇用を希望する 60 才代前半の高齢者を対象に、シニアワークプログラム事業 として第一種技能(パソコン)・介護講習を行っている。また、NPO団体としては、 「Yu- yu パソコンクラブ」の活動が挙げられる。この団体は元々高齢者で構成される「パ ソコンドリームクラブ」として発足したが、NPO団体として県の承認を受けるにあた って改称改組したのもので、パソコンを使って社会参加を促す事業を行い、生涯現役の 環境づくりを目指し、情報化社会の発展に寄与しようという趣旨のもと、シニア向けの パソコン講習会の開催等を行っており、シニアがシニア向けにパソコン技術と知識の習 得を手助けするという点で、新しい試みであり、今後の活動内容が注目される。
2- 4
先駆的対応事例
( 1) 事例Ⅰ:「株式会社 ジェイアール東海ツアーズ 岐阜支店」 ①企業概要
<岐阜支店>
所在地:岐阜市橋本町1
代表者:岐阜支店長 田添 敏則
事業内容:JR券・宿泊券・航空券等の販売、国内旅行の主催及びその販売 海外旅行の主催、団体旅行の企画・販売、他社企画商品の販売 <本社>
所在地:東京都中央区京橋 1- 2- 5 京橋 TD ビル 3 階 代表者:代表取締役社長 所澤 煕夫
設 立:1989(平成元)年 12 月 営業開始:1990(平成 2)年 4 月
資本金:4 億 9 千万円(JR東海 70%, JTB30%) ②沿革
1987(昭和 62)年に発足した東海旅客鉄道株式会社(以下、JR東海)は、東京∼ 名古屋∼新大阪間を結ぶ東海道新幹線、及び名古屋・静岡地区の都市圏輸送を中心と し た 在 来 線 を 運 営 し 、 さ ら に 鉄 道 事 業 と リ ン ク し た 様 々 な 関 連 事 業 を 行 っ て い る 。 (株)ジェイアール東海ツアーズ(以下、JR東海ツアーズ)は、これらJR東海グ ループの中でも、旅行業を主な事業とする企業として、JR東海と(株)JTBとの 共同出資により 1989(平成元)年 12 月に設立され、1990(平成 2)年 4 月から営業 を開始している。
現在は、東京地区に 6 店舗、静岡地区に 10 店舗、岐阜地区に 4 店舗、名古屋地区 に 9 店舗、三重地区に 4 店舗、関西地区に 3 店舗の計 36 店舗を持つほか、インター ネット支店を開設するなど、顧客の利便性を高めている。
また、取扱商品の中でも、国内旅行の「ぷらっと」は、東海道新幹線を利用するプ ランの豊富な旅行商品ブランドであり、年間利用者数は約 97 万人にも上る、人気商品 である。さらに、海外旅行の「エクスプレスワールド」は、フィンランド鉄道との提 携を記念してできた海外旅行商品ブランドであり、北欧だけでなくヨーロッパやオセ アニアなど世界各国の大自然を満喫できる商品として好評を博している。
③事業概要
1) シニア向け事業展開の方向性
JRでは、3 年程前から「シニア(高齢者)・ヤングシニア(団塊世代)」の世代 をターゲットとする事業が本格化しており、その結果、高齢者ニーズを強く意識し た多様な旅行商品の企画が急増している。
中でも、1985(昭和 60)年 5 月に、旧国鉄が設立した会員組織「ジパング倶楽部 (入会資格:男性 65 歳以上、女性60 歳以上)」は、シルバー層の旅行需要の創出 並びに平日の鉄道需要の喚起を目的としており、運賃・料金の割引特典他のサービ スを提供することで、鉄道を利用した旅行需要の推進を図ることとした。その組織 は、旧国鉄分割民営化後も J R6 社に引き継がれて、今日に至っている。
ングシニア世代の獲得を狙った旅行会員サービスとして注目を浴びている。 2) マーケティングの特徴
商品企画に対するユーザー・ニーズの把握については、観光地における観光関連 業者からの意見等を参考にしているが、基本的には、これまでの経験則に基づいて 商品企画を行っているが、最近は旅行者自らが旅を企画するニーズが高まっている。 そのことは、シニア層における動向を見ても明らかであり、エスコートプラン(お 任せコース)よりもフリープラン(自由コース)への申込みが圧倒的に多く、移動 方法と宿泊施設だけ決めておいて、あとは自分たちで、好きな旅行内容を決めてい く傾向が強い。このように、シニア層でも、旅行する楽しみから、自分なりの旅行 を創り上げていく楽しみへと変わりつつある。
3) プロモーションミックス
顧客に対する情報提供という点では、一般的な「新聞」「雑誌」等を利用した方 法や「口コミ」などがあるが、最近では、インターネットを利用した、シニア層か らの旅行申込件数も増えてきており、今後も注力していく必要があるだろう。また、 従来は「旅行・観光情報」を一方的に発信する傾向が強かったが、今後は、ユーザ ー自身が企画段階から参加可能な「旅行・観光商品」を開発する方向になっていく だろう。
④高齢者対応事例
1) シニア層をターゲットとした多様な商品開発
JR東海ツアーズの顧客の特徴としては、シニア層が多く、中でも女性グループ (2∼4 名)が多い傾向がある。同社では、多様化するシニア層を対象として、高額 のツアー商品も手がけており、例えば、寝台列車(カシオペア等)で行く「北海道 の旅」等は、高級志向で相対的に割高感が強いにも拘わらず、大変人気の高いツア ーとなっている。こうしたツアーには予約が殺到している状態であり、長期的に休 暇の計画が立てやすいシニア層にとって利用しやすく、その点が評価されていると 考えられる。
2) 高齢者をセグメントした独自のクラブ形成 【事例Ⅰ:ジパング倶楽部】
「ジパング倶楽部」は、1981(昭和 56)年の「フルムーンパス」に続くシルバー 層を対象とした旅行企画として、1985(昭和 60)年 5 月から、旧国鉄が日本観光旅 館連盟と共同でスタートさせた会員制旅行クラブであり、入会資格は男性 65 歳、 女性 60 歳以上で年会費が必要なシステムである。ジパング倶楽部では、運賃や料 金の割引特典等の他、毎月会員専用の旅行雑誌を配付するなどのサービスを提供し ており、現在、全国の会員数は 120 万人を越えている。当初、この「ジパング倶楽 部」の入会条件は、男女ともに 65 歳以上であったが、その後、この特典を利用し て夫婦で旅行をしたいという要望が非常に多かったため、1986(昭和 61)年 6 月に 会則を改定し、夫婦の年齢差を考慮して女性入会資格を 60 歳以上と改められた経 緯がある。「ジパング倶楽部」事務局自体は、旧国鉄の分割民営化後、JR旅客 6 社ごとに分かれたが、規約そのものは統一されており、現在全国どこでも同じよう に利用できる。
【事例Ⅱ:50+(フィフティ・プラス)】
次のようなサービスを会員特典として提供している。 ① 旅行情報会員誌が届く
② 会員限定の旅行に参加できる
③ 会員が一緒であれば同行者の年齢制限なし
④ JR東海ツアーズの主催旅行商品を 5%割引で利用できる
すでに申込者は 14 万人(平成 16 年 1 月末現在)を突破しており、目標の 20 万 人突破は確実視されている。スタート直後のオリジナルツアーも大盛況の内に終了 するなど、シニア層に強いJR東海ツアーズを象徴する旅行ブランドの一つである。 3) 高齢者にやさしい移動手段とミックスした商品開発
JR東海ツアーズでは、JRグループ各社と連携した旅行商品の開発が可能であ り、例えば、JRの場合、ビジネス利用者が少ない土日は、平日以上に鉄道料金を 低く設定できる。そのため、JR東海ツアーズでは他の旅行会社に比べて、土日の 旅行商品価格を低く抑えることが可能である。また、基本的に鉄道を利用した旅行 商品であるため、他の交通手段に比べて、比較的移動時間が少なくて済み、ゆっく り出発してのんびり過ごせるプランの設定等の多様なプラン設定が可能であり、こ の点がシニア層に好評である理由の一つにもなっている。
⑤まとめ
JR東海ツアーズの最大の強みは、鉄道ならではの利点(ゆっくりと寛いだ旅を提 案できる、車窓を楽しむ、駅弁を楽しむ等々)を生かした旅行プランを提供できるこ とであろう。つまり、鉄道そのものが、高齢者にやさしい移動交通手段であるため、 結果的に、高齢者にふさわしい旅行プランが提供可能なのである。J R 東海ツアーズで は、こうした強みを最大限生かしたプロモーションを展開しており、さらに旅行会員 組織のクラブ化によるステータスを高めた固定的な顧客の獲得、系列系雑誌の特集記 事、車内の宙吊り・駅での広告(キャッチコピーなど内容も含めた)等のプロモーシ ョンミックスも実施するなど、シニア層に向けた豊かな旅のスタイルを提案している 点で高く評価される。
一方、鉄道と組み合わせた日帰り・宿泊プランは、シニア層に根強い人気がある。 例えば、ワイドビューで行く中山道の宿場町を歩くツアー(「ワイドビューでぶらり 木曽路へ」)等である。これらの旅は、電車とトレッキング(まちなみ探索、温泉、 食事等々)という旅行パッケージであり、健康志向・学習型余暇時代を反映した、気 軽で身近な余暇スタイルの一つであるとも考えられる。もちろん、同社の旅行商品販 売網は、首都圏や都会に集中しているため、都会の顧客を都会・田舎に連れ出すこと は出来るが、田舎の顧客を都会・田舎へ連れ出す役割という部分で弱いという点や、 鉄道主体の旅行会社であるが故に、鉄道網のない観光名所への旅行企画では、他の交 通手段との競争が難しいといった、二次交通の問題では検討の余地があると思われる。