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各種酸によるセメント硬化体侵食に関する実験的検討

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Academic year: 2022

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各種酸によるセメント硬化体侵食に関する実験的検討

東京大学大学院  学生会員  蔵重   勲 東京大学  学生会員  畑中菜穂子 東京大学生産技術研究所  フェロー会員  魚本 健人

1. はじめに

近年,下水道関連施設などにおいて深刻な問題となっているコンクリートの腐食劣化は,主に硫酸に起因するものであ る。筆者らはこれまで硫酸によるコンクリートの劣化に関して実験的研究を実施し,報告してきた 14)。硫酸によるコンクリ ートの劣化ではセメント水和物の分解に加え,溶解度が非常に低い二水石膏の生成・析出による固体体積増加の影響が 大きいことを示した 1)。本報告はこれまでに得られた硫酸劣化に関する基礎的な知見をさらに総合的,統一的に捉え,各 種酸による硬化体劣化の機構整理に拡張することを目的にして,塩酸,硝酸といった他種類の酸によるセメント硬化体の 劣化に着目し実験的検討を行ったものである。

酸によるセメント硬化体の劣化は,基本的にはセメント水和物の分解によるものであるが,硫酸の場合のように生成され る塩の性質によっては,水セメント比が小さいほど侵食が大きくなるといった場合も確認されており3),各種酸による劣化を 統一的に理解するための知見が必要と考えられる。

実験では,硫酸,塩酸,硝酸とセメント水和物の反応によって生成されるそれぞれの塩の性質(溶解度)に着目し,硬 化体侵食の進行について比較検討した。その結果,前述の硫酸劣化の現象とは対照的に,塩酸,硝酸の場合では,水 セメント比が大きくなるほど侵食深さが大きくなることが分かった。この結果に対し,それぞれの反応生成物質の溶解度が それらの析出あるいは溶解といった侵食形態を左右していることに言及し,劣化メカニズムについて説明を加えた。

2. 実験概要

各種酸(硫酸,塩酸,硝酸)にモルタル供試体を浸漬し,腐食部が表面から剥落した部分の深さ(侵食深さ)を定期的 に測定した。供試体はφ5×10cmの円柱供試体とし,上下端面には耐酸性エポキシ樹脂を塗布し,側面からのみ侵食が 進行するようにした。モルタルの作製には普通ポルトランドセメント(密度:3.16 g/cm3,比表面積:3080 cm2/g)および富士 川産川砂(密度2.62g/cm3,粗粒率3.01,吸水率1.65%)を使用した。配合は細骨材モルタル容積比を0.53として,水セメ ント比を30,40,55,70%と変化させた。硫酸の濃度はpH=0.5,1.0,1.5,3.0,塩酸,硝酸の濃度については1および5%

とした。硫酸は浸漬試験中にpHが変動しないように,硫酸を添加して調整した。塩酸,硝酸については約1か月ごとに全 量交換した。これらの浸漬試験は静水状態のもとで行った。また,供試体容積に対する溶液の容積はそれぞれ約10倍と なるようにした。実験温度は20℃とした。

3. 実験結果および考察

図-1に硫酸浸漬2か月後における水セメント比と侵食深さの関係を示す。既報の結果14と同様にpH=0.5~1.0 の 硫酸浸漬において水セメント比が小さくなるほど侵食深さが大きくなることを確認した。図-2に塩酸浸漬2か月後におけ る水セメント比と侵食深さの関係を示す。また,図-3には硝酸の場合の結果を同様に示す。図-2,3では,硫酸浸漬の 場合とは反対に水セメント比が大きくなるにつれて侵食深さが大きくなっている。また,濃度については明らかに 5%の条 件で侵食が激しく,酸の種類の影響を見ると,同濃度の条件において侵食作用は硝酸より塩酸で大きいことが分かった。

水セメント比が侵食深さに与える影響が酸の種類によって異なるのは,セメント水和物との反応によってそれぞれ生成 される塩の溶解度が大きく異なることが理由として考えられる。各種酸と主要なセメント水和物の反応は式[1]~[6]のように 表すことができる(文献5,6を参考にして導出)。

O H 2 CaSO SO

H ) OH (

Ca

2

+

2 4

4

2       [1]

O H 25 . 0 O H 2 SiO O H 2 CaSO 75 . 1 SO H 75 . 1 O H 4 SiO CaO 75 .

1 ⋅

2

2

+

2 4

4

2

+

2

2

+

2         [2]

キーワード:耐久性,化学的腐食,硫酸,塩酸,硝酸,劣化メカニズム

連絡先:〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1 東京大学 生産技術研究所 物質・生命大部門 魚本研究室 TEL (03)5452-6098 ex.58090 FAX (03)5452-6392

硫酸

土木学会第57回年次学術講演会(平成14年9月)

‑1083‑

V‑542

(2)

O H 2 CaCl HCl

2 ) OH (

Ca

2

+ →

2

+

2       [3]

O H 75 . 3 O H 2 SiO CaCl

75 . 1 HCl 5 . 3 O H 4 SiO CaO 75 .

1 ⋅

2

2

+ →

2

+

2

2

+

2       [4]

O H 2 ) NO ( Ca HNO

2 ) OH (

Ca

2

+

3

3 2

+

2       [5]

O H 75 . 3 O H 2 SiO )

NO ( Ca 75 . 1 HNO 5 . 3 O H 4 SiO CaO 75 .

1 ⋅

2

2

+

3

3 2

+

2

2

+

2 [6]

ここで,セメント水和物と硫酸との反応では二水石膏を生成し,塩酸との場合では塩化カルシウム,硝酸では硝酸カルシ ウムを生じる。それぞれの溶解度は順に0.205,75,138g/100g-H2O(20℃)であり,二水石膏の溶解度が他に比べ非常に 低い。したがって,硫酸との反応によって生じた二水石膏は浸漬溶液中に溶解することなく,析出し固体体積の増加とし て侵食の原因となる 1)。一方,塩酸,硝酸浸漬では溶液中に生成塩が容易に溶解し,水セメント比が大きく硬化体が比較 的粗である場合に侵食が激しくなる。また,溶解度が最も高い塩を生じる硝酸浸漬において塩酸よりも侵食深さが小さく なっているのは,酸自体の強さに起因するものと考えられる。この点に関する詳しい機構解明はさらに検討が必要であ る。

以上より,セメント硬化体の劣化形態は酸とセメント水和物の反応によって生成した塩の溶解度の影響を強く受け,図-

4のように発展して考えることができると思われる。つまり,硬化体の侵食形態は反応物質が生成される速度と溶解する速 度の大小関係の影響を受け,生成速度が溶解速度

を上回れば硫酸のような反応析出・膨張侵食といっ た形態をとる。この考え方を拡張すると,硫酸による 侵食においても流水作用等により生成速度を溶解速 度が上回れば,塩酸,硝酸の場合と同様に水セメン ト比が大きな場合に侵食が大きくなるといった可能性 が考えられる。このような境界条件が劣化形態に及 ぼす影響に関しても重要な検討課題と考えられる。

4. まとめ

酸の種類によって水セメント比が侵食に及ぼす影響は異なり,硫酸浸漬の場合では水セメント比が小さいほど侵食が 大きく,塩酸,硝酸の場合では水セメント比が大きいほど侵食が大きくなった。これらの相違はセメント水和物と酸との反 応によって生じる物質の溶解度が大きく影響していることを示し,劣化機構の整理を図った。

【参考文献】

1) 蔵重勲,魚本健人:硫酸腐食によるセメント硬化体の侵食メカニズム,セメント・コンクリート論文集, No.55pp.458-4642001 2) 蔵重勲,魚本健人:コンクリートの硫酸腐食劣化に関する考察,セメント・コンクリート論文集,No.54,pp.383-389,2000

3) 蔵重勲,魚本健人:コンクリート中の水和物および微細構造が耐硫酸性に及ぼす影響,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.23,No.2,

pp.469-4752001

4) 蔵重勲,魚本健人:セメント系材料の耐硫酸侵食性を評価する一指標,土木学会年次学術講演会講演概要集 Vol.56,V部門,2001 5) 土木学会:[2001年制定]コンクリート標準示方書-維持管理編-,pp.125-1262001

6) セメント硬化体研究委員会:セメント硬化体研究委員会報告書,セメント協会,pp.1-20,2001 図-1 硫酸浸漬における

水セメント比と侵食深さの関係

-2 0 2 4 6 8 10

30 40 50 60 70

水セメント比 水セメント比 水セメント比 水セメント比(%) 侵食深さ侵食深さ侵食深さ侵食深さ (mm)

0.5 1.0 1.5 3.0

硫酸硫酸硫酸

硫酸 2か月間浸漬後か月間浸漬後か月間浸漬後か月間浸漬後 pHpHpHpH

図-2 塩酸浸漬における 水セメント比と侵食深さの関係

図-3 硝酸浸漬における 水セメント比と侵食深さの関係

0 2 4 6 8 10

30 40 50 60 70

水セメント比 水セメント比 水セメント比 水セメント比(%)

侵食深さ侵食深さ侵食深さ侵食深さ (mm)

5%

1%

塩酸 塩酸 塩酸

塩酸 2か月間浸漬後か月間浸漬後か月間浸漬後か月間浸漬後

0 1 2 3 4 5

30 40 50 60 70

水セメント比 水セメント比 水セメント比 水セメント比(%) 侵食深侵食深侵食深侵食深 (mm)

5%

1%

硝酸 硝酸硝酸

硝酸 2か月間浸漬後か月間浸漬後か月間浸漬後か月間浸漬後

塩酸 硝酸

反応生成物の溶解速度 反応生成物の生成速度

劣化形態劣化形態 膨張膨張or or 溶脱溶脱

硬化体性質の影響メカニズムが異なる 硬化体性質の影響メカニズムが異なる

生成速度 生成速度

溶解速度 溶解速度

膨張侵食 溶脱侵食 硫酸の場合

硫酸の場合 硫酸の場合 硫酸の場合 硫酸の場合 硫酸の場合 硫酸の場合

硫酸の場合 塩酸,硝酸の場合塩酸,硝酸の場合塩酸,硝酸の場合塩酸,硝酸の場合塩酸,硝酸の場合塩酸,硝酸の場合塩酸,硝酸の場合塩酸,硝酸の場合

図-4 酸によるセメント硬化体侵食の概念

土木学会第57回年次学術講演会(平成14年9月)

‑1084‑

V‑542

参照

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