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症例報告 関西理学 13: , 2013 体幹筋の筋緊張低下により座位にて転倒傾向を認めた脳梗塞後左片麻痺患者に対する理学療法 二五田美沙 1) 渡邊裕文 早田恵乃 1) 1) 田中祥子 藤本将志 1) 1) 鈴木俊明 大沼俊博 2) 1) Physiotherapy for a Pat

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(1)

体幹筋の筋緊張低下により座位にて転倒傾向を 認めた脳梗塞後左片麻痺患者に対する理学療法

二五田 美沙

1)

  早田 恵乃

1)

  藤本 将志

1)

  大沼 俊博

1)

渡邊 裕文

1)

  田中 祥子

1) 

 鈴木 俊明

2)

Physiotherapy for a Patient with Left Hemiplegia who was Unable to Maintain the Sitting Position

Misa NIGOTA, RPT

1)

, Ayano HAYATA, RPT

1)

, Masashi FUJIMOTO, RPT

1)

, Toshihiro OHNUMA, RPT

1)

, Hirofumi WATANABE, RPT

1)

, Shouko TANAKA, OTR

1)

, Toshiaki SUZUKI, RPT, DMSc

2)

Abstract

A patient with left hemiplegia following cerebral infarction could not maintain a sitting position. Treatment in this position was difficult for the patient because of a tendency to fall toward the paralyzed side (left side) when sitting, and associated anxiety. Therefore, with the aim of maintaining the sitting position, physiotherapy was started in this position for a week to treat hypotonia of the internal and external oblique muscles of the abdomen, longissimus muscle, and multifidus muscle, which was the primary condition. However, it was difficult to maintain a sitting position. Thus, we considered that it was necessary to treat hypotonia by placing the patient in a supine position to improve the ability to maintain the sitting position. After 3 days of practicing to turn to the non-paralyzed side (right side), and sitting-up exercises to increase the activity of the internal and external oblique muscles of the abdomen, longissimus muscle, and multifidus muscle, the patient was able to sit independently without support. To treat the condition and help maintain a sitting position, as well as to reduce the anxiety of falling, it is necessary to initially treat the patient in a supine position.

Key words: left hemiplegia, sitting position, physiotherapy

J. Kansai Phys. Ther. 13: 95–101, 2013

1) 六地蔵総合病院 リハビリテーション科 2) 関西医療大学大学院 保健医療学研究科

受付日 平成25年4月5日 受理日 平成25年7月11日

Department of Rehabilitation, Rokujizo General Hospital Graduate School of Health Sciences, Graduate School of Kansai

University of Health Sciences はじめに

今回、端座位(以下、座位)において左麻痺側後方へ の転倒傾向をともなうことで、座位での治療の進行に難 渋した症例に対し、座位保持の獲得を目標とした理学療 法を実施した。理学療法の経過において検査測定をおこ なったところ、両側の内 ・ 外腹斜筋、最長筋、多裂筋に 筋緊張の低下を認めた。これらのうち、とくに左麻痺側 における各筋の筋緊張が著明に低下しており、その改善 とともに座位保持能力の向上を図るべく座位場面での理

学療法を1週間継続しておこなった。しかし、上記の筋

緊張低下筋については充分な改善が得られず、左麻痺側 後方への転倒傾向と、それにともなう不安感の訴えがみ られ、座位保持は困難であった。そのため、セラピスト によって左麻痺側体幹部を支える必要がなく、転倒への 不安を認めない背臥位から主要問題へのアプローチを展 開し、座位保持能力の向上につなげることが必要である と考えた。

そこで理学療法として、右非麻痺側方向への寝返り、

起き上がり動作にて主要問題である両側の内・外腹斜筋、

最長筋、多裂筋に対してその活動性の向上を図りながら 練習を継続した結果、3日後では介助なく一人で座れる

(2)

呈した80歳代の男性である。脳梗塞発症後、他院にて

約2カ月間リハビリテーションをおこない、その後当院

の回復期リハビリテーション病棟に転院され、リハビリ テーションを継続する運びとなった。当院でのリハビリ テーション開始時の本症例の院内生活レベルとして、日 中はベッド上に臥床している時間が長く、基本動作、日 常生活活動のほぼすべてにおいて介助が必要な状態で あった。機能的自立度評価表(FIM)の運動項目は23/91点、

認知項目は27/35点であった。減点項目について、セルフ ケアの食事時にはエプロンを着けたり、パンの袋を開け る準備が必要であったが、食べ物を口に運ぶことは右非 麻痺側上肢で可能であった。しかし、整容動作において は右非麻痺側上肢により一部の動作は遂行可能であった が最大介助であり、入浴、清拭、更衣、トイレ動作におい てはいずれも全介助であった。また移乗に関しては、右 非麻痺側上肢でベッド柵やトイレの手すりを把持し、右 非麻痺側下肢を軸にして立ち上がろうとするが、左麻痺 側への転倒傾向を認めることにより、二人介助下での全 介助にて支援している状態であった。そして移動は車椅 子を使用し、このときの車椅子座位においては体幹部が 左麻痺側後方へ傾斜しており、バックレストに強くもた れた姿勢であったが、右非麻痺側上下肢で車椅子を駆動 することによって直進することは可能であった。また基 本動作の座位姿勢では、体幹屈曲・右非麻痺側側屈・左 麻痺側回旋位、骨盤後傾 ・ 左麻痺側下制位となり左麻痺 側後方へ体幹が傾斜してしまうため、左麻痺側から体幹 部を支える介助が必要となっていた。その際本症例から は、座位保持は倒れそうで不安であるとの訴えも聞かれ ていた。そのため靴の着脱など座位での活動においては、

姿勢保持を介助する介助者と靴の着脱をおこなう介助者 の二人の介助者で、全介助にて実施している状態であっ た。そして本症例から「一人で座れないことでたくさん の介助をしてもらって靴の着脱をしないといけないため、

なんとか一人で座れるようになりたい」との訴えを聞か れたことから、今回、当面の身近な目標として座位保持 の獲得にともなう靴の着脱時の介助量軽減を考えた。

理学療法評価

まず座位姿勢観察をおこなったところ、体幹屈曲 ・ 右 非麻痺側側屈・左麻痺側回旋位、骨盤後傾・左麻痺側下

床面を押すことにつながる結果、左麻痺側後方への転倒 傾向を助長していた(図1-a)。この座位姿勢のため、座位 での靴の着脱動作では、左麻痺側体幹部を支える介助と 靴を着脱するための介助が必要となり、二人の介助者に て全介助で実施していた(図1-b)。

本症例の座位姿勢から予測される問題点として、体幹 屈曲・右非麻痺側側屈・左麻痺側回旋位、骨盤後傾・左 麻痺側下制位を呈することから、両側の内 ・ 外腹斜筋、

最長筋、多裂筋の筋緊張低下、腹直筋の筋緊張亢進、さ らに体幹伸展・左麻痺側側屈・右非麻痺側回旋の関節可 動域(Range of Motion:以下、ROM)制限が予測された。

また、骨盤後傾 ・ 左麻痺側下制位を呈することから、左 麻痺側大殿筋、腸腰筋の筋緊張低下、両ハムストリング スの筋緊張亢進、さらに両股関節屈曲のROM制限、両側 殿部の表在感覚障害、両股関節の深部感覚障害が予測さ れた。そして、前記した体幹と骨盤の肢位とともに、右 非麻痺側股関節伸展・外転・外旋、膝関節伸展すること で右非麻痺側下肢を前外側方向へ伸ばし、右非麻痺側大 腿後面や足底で座面や床面を押していたことから、右非 麻痺側大殿筋、中殿筋、大腿筋膜張筋、ハムストリング ス、大腿四頭筋の筋緊張亢進、右非麻痺側股関節屈曲 ・ 内転 ・ 内旋のROM制限、右非麻痺側殿部 ・ 足底の表在 感覚障害、右非麻痺側股関節の深部感覚障害が予測され た。Davies1)は、プッシャー症候群の責任病巣については 明らかになっていないことを述べたうえで、プッシャー 症候群を認める左片麻痺患者における臨床上の特徴のひ とつとして、右半球損傷にともない左麻痺側からの刺激 を認知する働きが低下していると述べている。本症例に おいても座位保持の際、右非麻痺側大腿後面や足底で座 面や床面を押してしまうことから、程度としては軽度で あるがプッシャー症候群を認めたと判断している。その ため脳梗塞による右半球損傷により、左麻痺側からの体 性感覚や視覚、前庭覚などの感覚刺激を認知できていな い可能性が考えられることから、左麻痺側の空間や身体 に対する認知の低下などの高次脳機能障害も予測された。

これらの予測された問題点に対して検査測定をおこなっ た結果、筋緊張検査における低下筋は、両側の内 ・ 外腹 斜筋、最長筋、多裂筋(左麻痺側がより低下)と左麻痺側 大殿筋であった。また、両側のハムストリングスと右非 麻痺側大殿筋、中殿筋、大腿筋膜張筋、大腿四頭筋に筋 緊張亢進を認めた。さらにROMについては、体幹伸展が

(3)

-5°、股関節屈曲が右非麻痺側で90°、左麻痺側が85°と 制限を認めた。そして感覚検査では、左麻痺側股関節の 深部感覚が2/5と重度鈍麻であり、表在感覚については 両側殿部および右非麻痺側足底のいずれも問題は認め られなかった。また高次脳機能障害については、左麻痺 側の空間認知の低下(半側空間無視)に対する検査とし て、線末梢検査、線分二等分検査およびCatherine Bergego Scale(日常生活上での半側空間評価法)にて評価したと ころ異常は認められず、検査上は半側空間無視などの高 次脳機能障害について問題ないと判断した。

問題点の整理

以上の評価により、本症例の主要問題は両側の内 ・ 外 腹斜筋、最長筋、多裂筋の筋緊張低下であると考えた。

とくに各筋において左麻痺側の筋緊張低下が著明なた め、体幹は屈曲・右非麻痺側側屈・左麻痺側回旋位であ るとともに、骨盤は後傾 ・ 左麻痺側下制位を呈し、左麻 痺側側腹部および腰背部は伸張位となり、右非麻痺側腹 部は短縮位で虚脱していると考えた。また体幹屈曲 ・ 右 非麻痺側側屈・左麻痺側回旋位、骨盤後傾・左麻痺側下 制位を呈していた背景には左麻痺側大殿筋の筋緊張低下 も原因であると考えた。そして座位姿勢で常に骨盤が後 傾位であったことから腰椎部は後弯位を呈し、さらに両

股関節では屈曲の動きが乏しくなり、股関節後面に位置 する両側ハムストリングスおよび深層外旋六筋の筋短縮 が生じたことで、骨盤前傾にともなう体幹伸展運動が不 十分になったため、体幹の伸展と両股関節の屈曲ROM 制限につながったと考えた。また、座位姿勢で常に骨盤 が後傾位となり、股関節では屈曲の動きが乏しくなった ことで、左麻痺側股関節の深部感覚障害を助長している と考えた。結果、これらの機能障害の関係によって左麻 痺側への転倒傾向を認め、介助が必要となっていると考 えた。さらに本症例は、左麻痺側への転倒傾向に対する 姿勢保持のために、右非麻痺側股関節を伸展・外転・外 旋、膝関節を伸展しながら右非麻痺側下肢を前外側方向 へ伸ばし、下肢の重さを用いて姿勢の均衡を図ろうとす る動きがみられると考えた。しかし、本症例は座位にて 右非麻痺側下肢を前外側方向へ伸ばして保持することに ともなう体幹の右非麻痺側への立ち直り能力が乏しいた め、右非麻痺側下肢の重さを支えきれずに右非麻痺側足 底を床に降ろしてしまう状況であったと考える。そのた め、再び姿勢保持のために、右非麻痺側つま先にて床を 押すことで、その反力を利用し下肢を挙上して右非麻痺 側下肢を前外側方向へ伸ばそうとしていることが考えら れる。この右非麻痺側つま先にて床を押してしまうこと による軽度のプッシャー症候群の出現とともに、短縮し ている右非麻痺側ハムストリングスが伸張されて骨盤が

a 座位姿勢 b 座位での靴の着脱

図1 座位姿勢と座位での靴の着脱

aでは、体幹屈曲・右非麻痺側側屈・左麻痺側回旋位、骨盤後傾・左麻痺側下制位 を呈しており、左麻痺側後方へ体幹が傾斜している様子である。このとき右非麻痺 側股関節伸展・外転・外旋、膝関節伸展により右非麻痺側下肢を前外側方向へ伸ば したのち、右非麻痺側大腿後面や足底で座面や床面を押すことにつながる結果、左 麻痺側後方への転倒傾向を助長していた。bは座位での靴の着脱時を示し、左麻痺 側体幹部を支える介助と靴を着脱するための介助が必要であった。

(4)

後傾することで、さらに左麻痺側後方への転倒傾向を助 長し、介助が必要となっていると考えた(図2)。

以上より本症例において、座位姿勢では左麻痺側後 方への転倒傾向を認め、倒れそうで不安との訴えが聞か れていた。そしてこの主原因として両側の内 ・ 外腹斜筋、

最長筋、多裂筋の筋緊張低下(左麻痺側がより低下)が 考えられた。

理学療法

まず本症例に対する理学療法として、座位場面での練 習を実施した。このとき、体幹屈曲・右非麻痺側側屈、左 麻痺側回旋位、骨盤後傾 ・ 左麻痺側下制位に対し、股関 節屈曲をともなう骨盤前傾とともに、骨盤の左麻痺側を 挙上方向へ誘導し、さらに体幹伸展運動を促すなかで両 側の多裂筋、最長筋による胸腰椎伸展活動と、両側の内・

外腹斜筋の伸張位を保持する活動の向上を試みた。ここ での配慮点として、左麻痺側多裂筋、最長筋による胸腰 椎の左麻痺側側屈方向への活動と共に両側の多裂筋、最 長筋による骨盤前傾方向への運動をともなう胸腰椎の 伸展活動、また左麻痺側外腹斜筋の求心的な活動による 体幹の右非麻痺側方向への回旋、さらに左麻痺側内 ・ 外 腹斜筋による骨盤の左麻痺側挙上方向への運動を誘導 し、主要問題筋に対する改善と姿勢保持の獲得に努めた。

しかし筋緊張低下筋である両側の内 ・ 外腹斜筋、最長 筋、多裂筋(左麻痺側がより低下)については、座位保持 につながるほどの筋緊張を有しておらず、座位において 胸郭、頭部、両上肢の重みを重力に抗して支える収縮を 促すきっかけもなかなか見出せない状況であった。その

うえ座位場面での練習中に両側の内 ・ 外腹斜筋、最長筋、

多裂筋の筋緊張低下がもたらす左麻痺側後方への転倒傾 向をともなうことで、本症例に対し不安をあおる結果に 至った。そこで座位での理学療法の継続は困難であると 判断し、転倒の不安がない背臥位からの主要問題へのア プローチをおこなったうえで、座位保持能力の向上につ なげるという発想に転換した。そして主要問題である両 側の内・外腹斜筋、最長筋、多裂筋の筋緊張低下に対し、

その改善を図るべく背臥位からの右非麻痺側方向への寝 返り、起き上がり動作にて理学療法を展開した。まず右 非麻痺側方向への寝返り練習(図3)として、体幹の右回 旋運動による左麻痺側外腹斜筋の求心性収縮を求め、つ づく骨盤右回旋とわずかな挙上運動にて左麻痺側内腹 斜筋の求心性収縮を促した。さらに支持側である右側で は、体幹の右非麻痺側側屈が生じないよう右肋間および 右側腹部の伸張とともに、身体の右側面での機能的な支 持面が得られるよう、右非麻痺側内 ・ 外腹斜筋の伸張位 での活動を促した。この際、体幹の右回旋運動にともな い、左麻痺側上肢が相対的に身体の後方に位置してしま うと、体幹の右回旋運動による左外腹斜筋の求心性収縮 を阻害してしまうため、両肩関節屈曲約90°位 ・ 両肘関

節伸展約0°位で両手を組み、両上肢を体幹の正面前方で

伸ばして保持したなかで、右非麻痺側方向への寝返り練 習を誘導した。このとき、体幹の右回旋運動および骨盤 の右回旋 ・ 挙上運動を誘導するなかで、これらの誘導に 追従するような自動的な運動は乏しい状況であった。そ のため左麻痺側外腹斜筋と左麻痺側内腹斜筋の求心性収 縮を確認しながら、体幹の右回旋運動および骨盤の右回 旋・挙上運動が少しでも自動的に起こるよう徐々に誘導 図2 問題点の整理

(5)

し、少しずつ右非麻痺側方向への寝返り練習をおこなう よう配慮した。つぎに右非麻痺側方向への起き上がり練

習(図4)として、体幹の左側屈 ・ 右回旋、つづく骨盤の

右回旋 ・ 左挙上運動により、左麻痺側内 ・ 外腹斜筋、最 長筋、多裂筋の求心性収縮を求めた。このとき支持側で ある右側では、右肘支持にともなって右肩甲骨が挙上し ないよう、また右側腹部が伸張しすぎないように右非麻 痺側外腹斜筋の伸張位での活動を求めた。さらにこのと き、体幹の右回旋運動にともなって右非麻痺側内腹斜筋 の求心性収縮を求めた。この起き上がり練習の際、体幹 の左側屈・右回旋運動および骨盤の右回旋・左挙上運動 を誘導するなかで、これらの誘導に追従するような自動 的な運動は乏しい状況であった。そのため、左麻痺側内・

外腹斜筋、最長筋、多裂筋の求心性収縮を確認しながら、

体幹の左側屈・右回旋運動および骨盤の右回旋・左挙上 運動が少しでも自動的に起こるよう徐々に誘導し、少し ずつ起き上がり練習をおこなうよう配慮した。これらの アプローチの結果、理学療法を開始して3日後では、と くに左麻痺側内・外腹斜筋の活動性の向上にともなって、

左側への転倒傾向の軽減と座位への不安感もほぼ消失し たため、座位保持練習が可能となった。そこで、座位にて 骨盤前傾方向と体幹伸展方向への運動を誘導することで、

両側の多裂筋、最長筋の求心性収縮と、内 ・ 外腹斜筋の 伸張位を保持する活動を促した(図5)。このとき同時に、

左麻痺側大殿筋による骨盤前傾の制動活動と、両股関節 屈曲および体幹伸展のROMの改善、左麻痺側股関節の 深部感覚の改善も図った。

結果、理学療法前の座位姿勢は左麻痺側体幹部を支え るための介助が必要となっていたが、3日後では介助な く一人で座れるようになり、座位への不安感もほぼ消失

した(図6)。そして靴の着脱では、介助なく一人で座位

を保てるようになったことで、一人介助にて実施するこ とが可能となった(図7)。

以上により、筋緊張検査において低下筋であった両側 の内 ・ 外腹斜筋、最長筋、多裂筋と左麻痺側大殿筋につ いては低下しているものの改善を認めた。また、亢進筋 であった両側のハムストリングスと右非麻痺側大殿筋、

中殿筋、大腿筋膜張筋、大腿四頭筋については、減弱を 図4 右非麻痺側方向への起き上がり練習

右非麻痺側方向への起き上がり動作初期における体幹の左側 屈・右回旋、つづく骨盤の右回旋・左挙上運動により、左麻痺側内・

外腹斜筋、最長筋、多裂筋の求心性収縮を促し、支持側である右 側では、右非麻痺側外腹斜筋の伸張位での活動を求めている様 子である。このとき体幹の右回旋運動に伴う右非麻痺側内腹斜 筋の求心性収縮をも考慮してアプローチをおこなっている。

図3 右非麻痺側方向への寝返り練習

右非麻痺側への寝返り練習のなかで、体幹の右回旋運動による 左麻痺側外腹斜筋の求心性収縮と、つづく骨盤右回旋とわずか な挙上運動にて左麻痺側内腹斜筋の求心性収縮を促した。また 支持側である右側については、右肋間および右側腹部の伸張と ともに、身体の右側面での機能的な支持面が得られるよう、右 非麻痺側内・外腹斜筋の伸張位での活動を目指した。

図5 座位保持練習

セラピストが症例の両脇を前方より把持し、なおか つセラピストの両膝で背面から骨盤前傾方向と体幹 伸展方向への運動を誘導することで、両側の最長筋、

多裂筋の求心性収縮と、両側の内 ・ 外腹斜筋の伸張 位を保持する活動を促している様子である。このと き同時に、左麻痺側大殿筋による骨盤前傾の制動活 動と、両股関節屈曲および体幹伸展のROMの改善、

左麻痺側股関節の深部感覚の改善も図っている。

(6)

認めた。さらにROMについては股関節屈曲が、右非麻痺

側で95°、左麻痺側が90°と左右ともに5°の改善を認めた。

そして左麻痺側股関節の深部感覚は3/5となり、重度鈍 麻から中等度鈍麻へと改善を認めた。

考 察

今回、本症例から「一人で座れないことでたくさんの 介助をしてもらって靴の着脱をしないといけないため、

なんとか一人で座れるようになりたい」との訴えがあっ たことから、身近な目標として座位保持の獲得を考えた。

図7 理学療法前と3日後における靴の着脱時の様子

左図における理学療法前の座位における靴の着脱では二人介助を要していた が、右図の3日後においては一人で座位を保てるなかで介助者による靴の着脱 が可能になった。

図6 理学療法前と3日後の座位姿勢

左図の理学療法前における座位姿勢では左麻痺側体幹部を支えるための介助が必要となっていた が、右図の3日後においては介助なく一人で座れるようになり、座位への不安感もほぼ消失した。

理学療法前 3日後

理学療法前 3日後

(7)

そして当初の理学療法においては座位場面での練習を実 施した。このとき、体幹屈曲 ・ 右非麻痺側側屈、左麻痺 側回旋位、骨盤後傾 ・ 左麻痺側下制位に対し、骨盤前傾 にともなう体幹伸展運動を誘導するなかで両側の多裂筋、

最長筋による胸腰椎伸展活動と、両側の内 ・ 外腹斜筋の 伸張位を保持する活動の向上を試みた。しかし筋緊張低 下筋である両側の内 ・ 外腹斜筋、多裂筋、最長筋(左麻 痺側がより低下)については、座位保持につながるほど の筋緊張を有しておらず、座位において胸郭、頭部、両 上肢の重みを重力に抗して支える収縮を促すきっかけも なかなか見出せない状況であった。そのうえ座位場面で の練習中に両側の内 ・ 外腹斜筋、多裂筋、最長筋の筋緊 張低下がもたらす左麻痺側後方への転倒傾向をともなう ことで本症例に対し不安をあおる結果に至った。そこで 座位での理学療法の継続は困難であると判断し、転倒の 不安がない背臥位からの主要問題へのアプローチをおこ なったうえで、座位保持能力の向上につなげるという発 想に転換した。そして主要問題である両側の内 ・ 外腹斜 筋、多裂筋、最長筋の筋緊張低下に対し、その改善を図 るべく背臥位からの右非麻痺側方向への寝返り、起き上 がり動作にて理学療法を展開した。

このような症例の場合においても、座位での理学療法 を念入りに展開していくべきと考えるが、本症例におい ては座位場面のみの治療継続では転倒傾向に対する不安 をあおる恐れがあった。冨田ら2)によると、脳血管障害 片麻痺患者が座位を保持するにあたり、非麻痺側も含め た両側の腹斜筋群、腹横筋の働きが得られにくく体幹を 中間位に保持できにくいうえに、臥位と比較すると身体 の重心は高くなり、支持基底面の減少とともに、視覚的 に3次元的な広がりを感じることで不安定感につながる ことを示唆している。また背臥位については、身体を支 える支持基底面が広いこととともに、重心は低く、さら には左右への運動のしやすさ、四肢の運動の自由さを引 き出せる姿勢であると述べており、その利点について触 れている。これらのことから本症例において、両側の内・

外腹斜筋、最長筋、多裂筋に筋緊張低下を認める状況下 で、いきなり座位での理学療法(骨盤前傾にともなう体

幹伸展活動)を展開することは、臥位と比較すると身体 の重心が高く、支持基底面が減少しているうえ視覚的に 床や座面からの高さを感じやすくなり、姿勢保持におけ る不安定感とともに不安をあおることにつながってい たと考える。そのため転倒の不安が解消でき、なおかつ 左右への運動が促しやすい背臥位より、段階的に寝返り、

起き上がり動作へと展開するなかで、両側の内 ・ 外腹斜 筋、最長筋、多裂筋に対して活動性の向上を図ったこと で、座位場面での治療の実施につながったと考える。そ のうえで積極的な座位場面での治療を重ねたことで、実 際の座位保持に必要な両側の最長筋、多裂筋による骨盤 の前傾方向への運動にともなう体幹の伸展活動と、両側 の内 ・ 外腹斜筋の伸張位での活動性が向上し、座位保持 能力の改善に至ったと考える。

まとめ

1. 座位にて左麻痺側後方への転倒傾向を認めた脳梗塞 後左片麻痺患者の理学療法を経験した。

2. 左麻痺側後方への転倒傾向にともなう症例の不安に より、座位での理学療法の継続が困難であったため、

背臥位から理学療法を展開した。

3. 右非麻痺側方向への寝返り、起き上がり動作にて主 要問題である体幹筋の筋緊張の改善を図り、座位場 面での練習につなげた結果、3日後では介助なく一人 で座位を保てるようになった。

4. 座位保持の獲得には座位場面でのアプローチが重要 であるが、本症例のように転倒への不安を解消する ためには、背臥位から主要問題の改善を重ねていく ことも必要になることを学んだ。

文 献

1) Davies PM(著),冨田昌夫(監訳):Steps To Follow 改訂第2版.

pp341–342,シュプリンガー・フェアラーク東京,2005.

2) 冨田昌夫・他:標準理学療法学 専門分野 臨床動作分析.

pp120–131,医学書院,2005.

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