<編集・発行>No.1092014/4/18 発行 編集 : 一橋大学附属図書館
学術・図書部 学術情報課 電話 : 042(580)8247
Mail : [email protected]
日本で有数の国立大学附属図書館の館長を務めさていた だくのは大変名誉なことで、最善の努力を尽くしたいと思 います。
私は経済学のなかで理論的に産業組織論の研究をおこなっています。私が博士号を取得した1987 年頃は、経済学がゲーム理論によって躍進した時代でした。これまで満足に説明できなかった現象 がゲーム理論によって次々と解明されていきました。
私は企業の戦略的な技術革新投資をゲーム理論を使って分析していました。やがて、アメリカの ハネウェル社がミノルタ社に自動焦点装置の特許侵害訴訟で勝訴したことを発信しながら、国際的 な知財保護の必要性を訴えたニューヨークタイムズ紙の全面広告* を読み、特許保護が完璧ではな いこと、特許法とその運用が国によって異なることに気が付きました。それ以来、特許の経済学分 析をおこなってきました。特許は企業や個人の発明やイノベーションのインセンティブを高めるこ とによって、技術開発投資を促す制度です。最近はイノベーション研究センターの長岡貞男教授と 共同ゼミを開催していて、学生はイノベーションと特許といったテーマを中心に理論と実証の報告 をしています。
つねに技術は進歩し、それを保護するための知的財産は遅れないように追いかけています。情報 技術は知的財産に新しい課題を提供しています。私は電子書籍を使っていますが、日本でももっと 普及をして欲しいと思っています。研究対象としても興味があり、国際企業戦略研究科の井上由里 子教授が院生や弁護士とやっておられる著作権の研究会に参加を始めたところでした。その矢先、
図書館長になったことには運命を感じます。図書館は人類の知識を保存して蓄積していくところで す。電子書籍の出現はグーテンベルグによる印刷技術の発明以来の革命であるといわれています。
それまでは、書籍は修道士の書写によったので、教会が人類の知識を蓄積していました。しかし、
教会は印刷技術が自分の地位を脅かすものとは捉えませんでした。聖書が印刷によって普及するよ うになったからです。教会が先進的であったのかもしれませんが、これこそグーテンベルグの天才 的なひらめきであったのかもしれません。
*Honeywell. “Honeywell v. Minolta:Lessons To Be Learned”. The New York Times. 10 Feb1992, D3.
※附属図書館で契約しているデータベース等より広告の本文を見ることができます。
図書館長就任によせて
附属図書館長
青木 玲子
(経済研究所 教授)
新附属図書館長プロフィール
館長による図書紹介
1981年、東京大学理学部卒業。筑波大学経営・政策科学研究科修士課程を経て、1987年スタンフォード大学 経済学研究科博士課程修了。経済学博士。オハイオ州立大学経済学部助教授、ニューヨーク州立大学ストー ニーブルック校経済学部助教授、テルアビブ大学ビジネススクール客員助教授、ベングリオン大学経済学部 客員助教授、オークランド大学経済学部Associate Professorとして教鞭を執り、2006年より一橋大学経済研 究所教授。
『知財創出‐イノベーションとインセン ティブ‐』
スザンヌ・スコッチマー著, 安藤至大訳, 青木玲子監訳 日本評論社 (2008)
・所在: (本館3階)コード分類和書(学習用図書)
・請求記号:5000:845
今日では特許制度は科学技術投資には不可欠のよ うに議論されますが、日本に特許制度ができたのは 明治時代です。(江戸時代の専売制度がしばしば特 許制度と混同されます。特許が販売の独占であるの に対して、専売制度は特産物を藩に売らなければな らないという買い手独占を強要したものでした。)
それでは明治時代まで日本では発明が起こらなかっ たかというと、そうではありません。特に江戸時代 は農業を中心に重要な技術革新が起こりました。昔 の日本人のインセンティブを調べてまとめたものが 本書の第12章です。スコッチマーが展開している経 済学を使った技術革新のインセンティブと特許など の諸制度の分析を日本に適用するために、彼女にす すめられて書いたものです。昔は今と比べて人の移 動が少なく、情報の伝達や拡散が今ほど簡単でな かったので、企業や藩の秘密は守りやすかったと思 われます。しかし、秘密を漏らしたものをさらし首 にするなどの方法もとられていました。スコッチ マーは理論経済学者ですが、イノベーションの法と 経済学分析も進展させました。理論を深く理解して 可能になる簡潔明解な説明をしています。経済学入 門を履修していれば読めます。
「xn + yn = zn みたす0以外の自然数 (x, y, z) の組は、nが3以上だと存在しない 」というのが フェルマーの最終定理です。 n = 2とすると、x2 + y2 = z2というピタゴラスの定理になります。これを みたす自然数 (x, y, z) は、(3,4,5) や(5,12,
13)など無数にあります。しかし、nが3以上になる と数式をみたす組み合わせは存在しなくなります。
本書は、数学者のフェルマーが1637年に述べた「定 理」が1995年に証明されるまでの歴史を綴った一般 書です。挑んできた人間たちと彼らの考え方(数 学)が物語的に展開していて推理小説のようなサス ペンスがあります。短い本でもあり、一気に読んで しまいます。この本を読むと、専門的に重要な問題 は、専門外の人でも内容が理解できるように説明可 能なはずだということがわかります。作者のサイモ ン・シンはケンブリッジ大学で物理の博士号を取得 し ま し た が 、 ヨ ー ロ ッ パ 合 同 原 子 核 研 究 機 構
(CERN)で研究中、周囲を見回して自分の比較優位 は別のところにあると思って、科学ジャーナリスト になったそうです。ほかにも暗号やビッグバンを テーマとした書籍を執筆していますが、どれもおす すめです。
※(筆者は、訳者青木薫氏と一切関係ありません。)
『フェルマーの最終定理』
サイモン・シン著, 青木薫訳 新潮社 (2006)
・所在: (本館3階)コード分類和書
・請求記号:4100:1806