著者 近喰 ふじ子, 梅原 碧, 佐藤 明穂
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 17
ページ 53‑61
発行年 2017‑03
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010108/
東京家政大学附属 臨床相談センター紀要 第17集
はじめに
ラザルスは対処について、「能力や技能を使 い果たしてしまうと判断され自分の力ではどう することもできないとみなされるような、特定 の環境からの強制と自分自身の内部からの強制
の双方を、あるいはいずれか一方を、適切に処 理し統制していこうとしてなされ、絶えず変化 していく認知的努力と行動による努力である」
と述べている
1)。すなわち、対処はプロセスで あり、そのプロセスは絶えず変化し、自らの評 価に基づいて起こるわけで、あくまでも心理的 ストレス状態に対してのみに行われるもので、
個人の努力を促すものであり、そのためには葛 籐を伴っていると言うのである。さらに、ある やり方に習熟し、技能を獲得してマスターする
「新ストレス対処行動尺度」の有用性の検討
近喰 ふじ子
1)梅原 碧
2)佐藤 明穂
3)The consideration of usability of a “New Coping Behaviors with Stress” scale Fujiko KONJIKI
1)Midori UMEHARA
2)Akiho SATO
3)要旨
「新ストレス対処行動尺度」の有用性の検討をおこなうべく、介護福祉士へ本質問紙を実施した。その上で、介護福祉の ストレスならびに、身体疾患の悪化を防ぐことも併せて検討した。
【対象】介護福祉士27名(男性13名、女性14名)で、平均年齢は43.33±15.11歳であった。結婚形態は未婚9名、離婚4名、
死別1名、不明13名で、疾病のある者は6名(25.92%)。但し、虫垂炎、左手拇指粉砕骨折、卵巣嚢腫の手術の既往、子宮 筋腫などは除いた。
【方法】G県介護福祉施設の施設長へフェイスシート(性別、年齢、既往歴、結婚歴、子ども数)、「新ストレス対処行動尺度」
と首尾一貫感覚(以下、「SOC-13」)を一セットとして、30名分を郵送で送った。回収率は100%であった。
【結果】(1)介護福祉士の「新ストレス対処行動尺度」の平均得点で最も高かったのは「問題への取り組み」と「情動の抑 制」であった。(2)介護福祉士の「SOC-13」の平均得点は 56.11 ± 8.64 であった。そこで、高群(14 名)と低群(13 名)
の2群に分けた。(3)「SOC-13」の高低群別に「新ストレス対処行動尺度」を検討すると、高群は低群よりも「回避」が 低く有意差(P<.05)もみられていた。すなわち、「SOC-13」が高い人は低い人と違い、回避を使わないことが分かった。(4)
疾病の有無別から「新ストレス対処行動尺度」と「SOC-13」を総合的に捉えた。疾病有群は6名と疾病無群は21名で、後 者は前者よりも「問題への取り組み」を取り有意差(P<.05)もみられていた。
【考察】介護福祉士は離職率の多さからストレス状況がその要因ではないかと言われている。しかし、今回の介護福祉士の「新 ストレス対処行動尺度」からは、「問題への取り組み」と「情動の抑圧」を多く用いていることが理解された。この2因子 を用いていることから考え、介護福祉士はそれほどストレス状況にさらされているとは思われなかった。また、実際、
「SOC-13」からみた高低群では、高群は「回避」という対処行動を用いていないが低群では用いており、疾病無群は疾病有 群よりも「問題への取り組み」という対処行動を取っていることが分かり、疾病が無いという人は健康に生きる意識が高く、
そのために食事、運動などに神経を払っていることが推察された。その上で、介護福祉士への面接は疾病の有無と「SOC-13」
の得点を認識しながら、内に溜まっている不満などのストレスの聞き役となりながら、自己調整を図れるように導くことも 重要なポイントと考えられた。
キーワード:1.介護福祉士 2.新ストレス対処行動尺度 3.SOC-13 4.ストレス
1)東京家政大学人間生活学総合研究科 臨床心理学専攻
2)東京家政大学人文学科心理カウンセリング学科 助教
3)東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科 助手
こととは異なるとも付け加えている
1)。このよ うに対処行動が明らかにされても、それをマス ターすることとは違うと述べているにも関わら ず、対処行動の尺度の開発はさかんに行われて いる。実際、私たちも既婚者を対象にした「新 ストレス対処行動尺度」を新しく作成した
2)。 そこで、新たに作成するまでに至った筆者の 経緯を振り返ることも必要なのではないかと考 えた。二昔以上にもなるだろうか、国立精神神 経センター心身医学研究部の吾郷晋浩部長が厚 生省の科研費を取得したことで研究員や研究生 にもその研究に携わることが要求された
3)。そ の研究内容の一つに「対処行動」があり、その 研究をおこなう一人に選ばれたことから筆者の 対処行動研究が始まったのであった。その研究 の中心的役割となりたいと辻が立候補し、仲間 たちとの間でさまざまな議論をおこない、それ ぞれが自分の役割を担い、入力からデーター起 しまで各自がないしは、協力しておこなった。
その結果、最終的に「日常ストレス対処行動の 評価尺度の作成」としてまとめられたのであっ た
4)。それをきっかけとして、1997年には女性 版の「ストレス対処行動尺度」を新たに作成し、
その簡易尺度化も試みた
5)。ところが、数年前、
「夫婦新密度尺度」を作成したことから
6)、女 性だけではなく男女兼用でおこなえる対処行動 の質問紙の必要性に迫られた。当初、すでに「日 常ストレス対処行動の評価尺度の作成」がある のだからと考えていたが、1999 年からすでに 10 年以上が経っていたことから、新たな対処 行動の作成をおこなうことに決めたのであっ た。なぜならば、10 年の経過は男女ともに考 え方の変化や生き方などに対する変化も生じて いるのではないかと予想したからである。
そこで、予備調査においてストレス記録表な らびに、フェイスシートを考案し、2012 年に
開催された第 15 回 アジア心身医学会(モン ゴル)でストレスの内容(要因、反応、対処)
について発表した
7)。今回、予備調査で得られ た「ストレス記録表」から抽出したストレスの 内容(要因、反応、対処)から新たに既婚者に 対象を絞り「新ストレス対処行動尺度」を作成 したので報告し
2)、その実施に向けての手始め として介護福祉士を対象とした調査をおこなっ た。なぜなら、介護福祉士のストレスに関する 報告が多々みられていたからである。ところで、
アーロン・アントノフスキーが創案した健康生 成論とその中心概念である首尾一貫感覚(Sense ofCoherence、以下 Soc という)がある
8)。日 本では公衆衛生に関する学会などで SOC の発 表を見聞きする頻度が多く、保健医療看護領域 からの研究が多い。そういう点から、医療福祉 領域に携わる介護福祉士のストレス、それに対 する対処行動に関する調査研究として考える と、SOC を質問紙の一つに加えても良いので はないかと考えた。介護福祉士の現状を重視し た上で、ストレス状況の理解とその支援のため の対応を考える材料とすることも含め、SOC を加えた内容として検討したので報告する。但 し、今回は短時間でもおこなえる SOC-13 短縮 版を使用することにした。同時に、「新ストレ ス対処行動尺度」を用いることに対しての有用 性の検討を試みたいと考えた。
対象
この実施に際しては、G県のA介護福祉施設 の施設長に依頼し、協力をお願いした。なお、
施設長からは筆者が記載した依頼文書を読み上
げ、協力してくれる方のみが質問紙に答えてく
ださいと伝えてもらった。その上で、対象者は
介護福祉士30名(男性15名、女性15名)にな
りますと連絡があった(協力者は A 介護福祉
近喰 ふじ子 梅原 碧 佐藤 明穂
施設で働いている介護福祉士の全員であった)。
しかし、内容の一部の回答が欠損していた者が いたため、最終対象者は 27 名(男性 13 名、女 性14名)となった。なお、平均年齢は43.33±
15.11歳であった(表1)。
方法
G県介護福祉施設の施設長へフェイスシート
(性別、年齢、既往歴、結婚歴、子ども数)、「新 ストレス対処行動尺度」と首尾一貫感覚(以下、
SOC-13)を一セットとし、30 名分を郵送にて 送った。ところで、既婚者を対象として制作し た「新ストレス対処行動尺度」の実施ではあっ たが、介護福祉士(27名)の結婚形態をみると、
未婚9名、離婚4名、死別1名、不明 13 名で あり、既婚者に限定してしまう事の難しさから、
既婚者に限定せずにおこなった(表1)。回収 率は100%であった。
1)新ストレス対処行動尺度:「問題解決への 取り組み」、「受動的ソーシャルサポート」、
「回避」、「情動の抑圧」、「積極的ソーシャ ルサポート」、「反省」から成る 36 項目の 尺度である
2)。
2)
SOC-13短縮版(以下、 「SOC-13」とする) : 今回用いたのは 13 項目、7段階評定から 成る SOC 尺度短縮版を用いた。これはア ントノフスキーが開発した SOC-29 項目を 山崎・吉井らが日本語に翻訳し、短縮した ものである
8)。
結果
筆者らが開発した「新ストレス対処行動尺度」
を介護福祉士に行い、介護福祉士のストレス状 況を明らかにするとともに、介護福祉士の身体 疾患の悪化を防ぐことなども目的とした。
A)介護福祉士の「新ストレス対処行動尺度」
の得点
今回、介護福祉士の男女 27 名に行った「新 ストレス対処行動尺度」の平均得点は、「問題 への取り組み」では19.33±4.73、「受動的ソー シャルサポート」では10.70±4.06、「回避」で は10.59±4.96、 「情動の抑制」では16.22±2.62、
「積極的ソーシャルサポート」では4.22±2.01、
「反省」では 6.52 ± 1.87 であった。ただ、それ ぞれの項目数が異なるため単純に比べることは できないと思うのだが・・・。最も得点の高かっ たのは「問題への取り組み」であり、次いで「情 動の抑制」であった(表2)。
B)介護福祉士の「SOC-13」の得点
今回の介護福祉士 27 名の「SOC-13」短縮版 の平均得点は、56.11±8.64であった。そこで、
平均得点が 56 点以上を高群、55 点以下を低群 の2群に分けたところ、高群は 14 名、低群は 13 名であった。また、高群の平均得点は 62.64
± 5.23、低群の平均得点は 49.08 ± 4.95 であっ た(表3)。
C)「SOC-13」の高群、低群から捉えた「新ス トレス対処行動尺度」の得点
「SOC-13」の高低群別に「新ストレス対処行 動尺度」の尺度ごとの平均得点をみると、高群 では「問題への取り組み」が20.86±3.68、「受 動的ソーシャルサポート」が11.21±3.73、 「回避」
が8.36±4.45、 「情動の抑圧」が15.93±2.05、 「積 極的ソーシャルサポート」が4.50±1.40、 「反省」
が 6.93 ± 1.67、低群では「問題への取り組み」
が 17.69 ± 4.99、「受動的ソーシャルサポート」
が 10.15 ± 4.17、「回避」が 13.00 ± 4.09、「情動
の抑圧」が16.54±3.00、「積極的ソーシャルサ
ポート」が 3.92 ± 2.40、「反省」が 6.08 ± 1.98
であった。なお、「SOC-13」の高群は低群より
も「回避」が低く、かつ有意差(P<.05)がみ
られていた。すなわち、「SOC-13」の得点が高
い人は低い人と違い、「回避」を使わない傾向
が考えられた(表3)。
D)疾病の有無別から捉えた「新ストレス対処 行動尺度」と「SOC-13」の得点
記載のあった疾病から治癒する可能性が少な いものと心配の少ないものや記載のないものと に分けたところ、前者は6名で疾病有群とし、
後者は 21 名で疾病無群とした。それぞれの平
均得点をみると、疾病有群の「問題への取り組 み」は14.60±5.93、 「受動的ソーシャルサポート」
は 11.33 ± 4.55、「回避」は 13.83 ± 4.62、「情動 の抑圧」は15,33±3.67、「積極的ソーシャルサ ポート」は 4.83 ± 2.93、「反省」は 6.00 ± 2.08 であり、疾病無群の「問題への取り組み」は 20.29±4.00、「受動的ソーシャルサポート」は 表1.介護福祉士の年齢、疾患、結婚歴、子ども数、「新ストレス対処行動尺度」と「日本語版」
SOC-13の一覧表
性別 年齢(歳) 疾患名 結婚歴(年) 子ども数
(人)
新ストレス対処行動尺度得点
SOC-13
「問題への (得点)
取り組み」
ソーシャル「受動的
サポート」「回避」「情動の抑圧」
ソーシャル「積極的
サポート」「反省」
男性 53 大腸がん 33 2 9 6 21 21 2 3 48
男性 25 なし 未婚 0 16 4 4 13 4 7 76
男性 40 なし 3 1 22 9 12 20 5 8 63
男性 39 なし 8 3 20 10 10 15 5 6 64
男性 60 なし 37 1 27 8 5 16 2 7 59
男性 49 糖尿病 離婚 1 18 6 10 14 4 6 58
男性 36 なし 未婚 0 18 9 20 19 6 6 55
男性 27 虫垂炎 未婚 0 17 13 2 16 5 7 65
男性 27 肝機能障害 未婚 0 16 17 10 17 7 6 54
男性 35 なし 未婚 0 24 11 11 16 5 6 53
男性 39 なし 未婚 0 18 12 14 14 6 4 52
男性 33 なし 8 1 21 12 7 15 4 9 57
男性 34 なし 未婚 0 14 10 3 14 5 2 67
女性 52 左手拇指粉砕骨折 死別 2 15 0 9 19 0 9 41
女性 27 もやもや病 未婚 0 9 14 17 10 1 4 40
女性 34 なし 6 2 14 12 12 14 0 4 48
女性 45 不明 離婚 2 19 15 11 17 6 7 58
女性 38 なし 未婚 0 19 15 13 21 4 8 49
女性 64 卵巣嚢腫の手術 40 2 26 16 14 17 5 8 58
女性 37 なし 12 3 25 12 4 15 4 7 60
女性 43 子宮筋腫 離婚 3 23 10 15 20 3 6 58
女性 60 なし 37 2 17 8 13 14 3 6 53
女性 31 なし 6 0 23 18 5 17 3 8 68
女性 55 なし 31 2 24 9 13 16 5 6 55
女性 54 左眼黒色腫 離婚 3 21 14 15 14 8 9 66
女性 76 不整脈 50 2 23 11 10 16 7 8 44
女性 84 なし 50 2 24 8 6 18 5 9 46
N=27
近喰 ふじ子 梅原 碧 佐藤 明穂
10.52±4.01、「回避」は9.67±4.76、「情動の抑 圧」は16.48±2.29、 「積極的ソーシャルサポート」
は 4.05 ± 1.72、「反省」は 6.67 ± 1.77 であった。
疾病無群は疾病有群よりも「問題への取り組み」
という対処行動を多く取っており、かつ有意差
(P<.05)もみられていたが、「SOC-13」では疾 病有群は疾病無群よりも平均得点が高かったが 有意差はみられていなかった(表4)。
表2.介護福祉士の新ストレス対処行動尺度の平均得点と標準偏差
新ストレス対処行動尺度項目と得点 「問題への
取り組み」 「受動的ソーシャ
ルサポート」 「回避」 「情動の
抑圧」 「積極的ソー
シャルサポート」 「反省」
平均得点±標準偏差 19.33±4.73 10.70±4.06 10.59±4.97 16.22±2.62 4.22±2.01 6.52±1.87
N=27
表3.SOC-13短縮版の平均得点と標準偏差から高群と低群に分類し、
ストレス対処行動尺度の平均得点と標準偏差
高群と低群別
「問題への 取り組み」
「受動的ソー
シャルサポート」 「回避」 「情動の 抑圧」
「積極的ソー
シャルサポート」 「反省」 「SOC-13」
高群
(N=14) 20.86±3.68 11.21±3.73 8.36±4.45* 15.93±2.05 4.50±1.40 6.93±1.67 62.64±5.23 低群
(N=13) 17.69±4.99 10.15±4.17 13.00±4.09 16.54±3.00 3.92±2.40 6.08±1.98 49.08±4.95
N=27 *P<.05
表4.疾病有無別による新ストレス対処行動尺度とSOC-13の平均得点と標準偏差
疾病有無別 「問題への取り組み」 「受動的ソーシャルサポート」 「回避」 「情動の抑圧」「積極的ソー
シャルサポート」 「反省」 「SOC-13」
(N=21) 20.29±4.01 10.52±4.01疾病無群 9.67±4.76 16.98±2.29 4.05±1.72 6.67±1.77 57.38±8.16 疾病有群(N=6) 14.60±5.93* 11.33±4.55 13.83±4.62 15.33±3.67 4.83±2.93 6.00±2.08 51.67±9.59
N=27 *P<.05
考察
今回のこの論文は、「新ストレス対処行動尺 度」を実施することを念頭に、介護福祉士にお こなったものである。ところで、介護福祉士は 介護就業継続が困難とされ、それ故に離職率の 多さが問題となっている。しかし、離職率の問 題を考える前に、介護福祉士の抱えるストレス 状況こそがその要因ではないかと言われてい
る。ところで、今回の介護福祉士 27 名の一覧 表をみて分かるように、疾病を有しながら働い ている者が6名(25.92%、但し、虫垂炎、左手 拇指粉砕骨折、卵巣嚢腫の手術の既往、子宮筋 腫は除外した)おり、その中には油断できない 疾病もみられている(表1)。自分の身体の健 康を維持するだけでも大変であろうと思われ、
それこそがストレス状況を生み出している一要
因とも考えられなくもない。しかし、この6名 の「SOC-13」の得点をみると、大腸がんが48、
糖尿病が 58、肝機能障害が 54、もやもや病が 40、左目黒色腫が 66、不整脈が 44 で、平均得 点は 51.67 ± 9.59 で、想定していた結果よりも 悪い得点ではなかった。しかし、大腸がん、も やもや病や不整脈などは「SOC-13」得点が 40 代で、かなり低い得点であり、介護福祉士とし て仕事を続けていていいのだろうかとさえ思え た者もいた。
さて、財団法人介護労働安全センターによる 介護労働者のストレスに関する調査報告書(対 象者は施設で働く介護福祉士)によると、最も 多いのは①夜勤時に何が起こるか分からない不 安がある、②仕事内容の割には賃金が安い、③ 休憩時間がとりにくい、④介護従業者数が不足 している、⑤何をやってもらっても当然と思う 入居者がいる、⑥入居者がいつ問題行動を起こ すか不安である、⑦上司の管理能力が低いなど であった
9)。今回の介護福祉士は施設で働く者 ではないので、少なくとも入居者に関するもの を除くと、②仕事内容の割には賃金が安い、③ 休憩時間がとりにくい、④介護従業者数が不足 している、⑦上司の管理能力が低いなどであっ た。施設勤務の有無に関わらず、介護に関する 仕事だけではなく、職場の人間関係もストレス の要因になっている事が分かる。また、平成 25 年度介護労働実態調査の結果には介護職を 辞めた理由が記載されている。その一つの約 25%の者は職場の人間関係に問題があった、二 つ目は法人や施設・事業所の理念や運営の在り 方に不満があったなどを挙げている
9)。すなわ ち、介護の職場は慢性的な人手不足、故に採用 も簡単であり、それ故に人の出入りが激しく落 ち着かない職場ともいえる。また、閉鎖的な職 場故に経営者や上司との衝突も多く、悪循環が
繰り返されていると考えられる。しかし、ここ で注目しなければならない事は、例え不満があ り、他の介護職場へ移りたいと思ったとしても、
介護職を辞めたいという者は殆どいないと言う 事実である
10)。実際、筆者のクライエントの中 にもパニック発作を起しながらも辞めないで働 いている者がいる。理由を聞くと介護職は自分 にとって天職だと言うのである。介護福祉士は 介護職という仕事が天職だと思っている独特の 職業意識を持っている人たちなのではないかと 思われ、例え、ストレスが生じやすい職場で働 いているとしても、本来の介護職によるストレ スだけから生じているとも考えられにくいと思 えたのであった。そこで、今回の介護福祉士の ストレスに対する対処行動は如何なるものであ るのかを検討したところ、「新ストレス対処行 動尺度」の平均得点をみると、「問題への取り 組み」が最も高く、次いで「情動の抑圧」であっ た。予想外の対処行動であった。それは、「問 題への取り組み」という対処行動が取れている ことであった。考えながら介護をおこなってい るのである。しかし、もし嫌な事が生じたら、
それは自分の胸の内に収めてしまおうと考える
のも不思議なことではない。それ故に、介護福
祉士は一度生じたストレスに対し、何故、そう
なってしまったのか?こうなってしまったがど
うしたら良いのか?など、問題に対する取り組
みを優先におこないながらも、ストレスによっ
て生じたイライラ感、焦り感、不安感などの感
情を表に出さずに、内に収めてしまう行動を
取っていると考えられる。それ故、「新ストレ
ス対処行動尺度」からは予想外にもストレスに
押しつぶされそうな結果とは思えず、見通しを
立てて介護職をおこなっているとしか思えない
結果であった。では、「SOC-13」からもみてみ
よう。 「SOC-13」では有意差はみられていなかっ
近喰 ふじ子 梅原 碧 佐藤 明穂
たが、高群の方が低群よりも平均得点が高い傾 向であった。そこで、「回避」をみると、高群 よりも低群の方に平均得点が高く有意差もみら れていた(P<.05)。すなわち、「SOC-13」の高 得点者は低得点者に比べ「回避」を多く用いて いることが示唆されたのであった。それは高群 の者は現状の問題に対しそれなりの理由づけが でき、未来志向的であると考えられるなど、
「SOC-13」の得点の高低が参考になるのではな いかと思われた。さらに、疾病の有無別で捉え てみると、疾病無群は疾病有群よりも「問題へ の取り組み」に対する平均得点が高く有意差も みられ(P<.05)、かつ[SOC-13]の平均得点 においても高い傾向がみられていた。すなわち、
「SOC-13」の高得点者は低得点者に比べ「問題 への取り組み」を多く用いていることが示唆さ れたのであった。疾病無群者は常にどうしたら いいのかを考え、食事、運動、休養などの自分 の身体に気を付ける健康習慣を持ち、未来志向 的に生きているように思われたし、そう願って いるようにも思われた。
今後、介護福祉士の臨床面接においては疾病 の有無を見極め、その上で「SOC-13」得点の 低い者に対しては内に溜めたストレスの聞き役 となり、自己調整が図れるように導いてあげる ことが重要なポイントではないかと考えられ た。それが介護福祉士のストレスと身体疾患の 悪化を防ぐ役割となれば良いと考えられた。ま た、「新ストレス対処行動尺度」をおこなった ことで介護福祉士のストレスに対する対処行動 が「問題への取り組み」という有効な対処行動 を取っており、ストレス対処能力は予想外にも 良いことが理解できた。この点からも、「新ス トレス対処行動尺度」が十分に使用できるので はないかと推察された。今後はさまざまな領域 に使用していきたいと考えている。
本論文は第125回 日本心身医学会関東甲信 越地方会(国立精神・神経医療研究センター)
において発表したものである。また、協力して 頂いた博士課程に在籍中であった森山恵美氏
(当時)ならびに、G県の施設責任者ならびに、
そこで働く介護福祉士の方々の協力に感謝し、
また、丁寧なアドバイスをしていただいた心理 カウンセリング学科 井上俊哉教授にもお礼を 申し上げます。
なお、本論文について開示すべき COI 関係 にある企業などはありません、
文献
1)林 峻一郎(編・訳):R・ラザルス講演、
ストレスとコーピング~ラザルス理論への 招待~、1990年、星和書店
2)近喰ふじ子、井上俊哉、塚本尚子、他: 「新 ストレス対処行動尺度」作成の試み、東京 家政大学研究紀要 第 57 集(1)p.51-58, 2017
3)吾郷晋浩、高田晶:ストレスマネージメン トのあり方に関する研究、平成元年度、厚 生省科学研究、平成2年3月
4)辻 裕美子、塚本尚子、岡田宏基、他:日 常ストレス対処行動の評価尺度の作成、精 神保健研究、45、53~61、1999
5)近喰ふじ子、高久信一、吾郷晋浩、他:母 親への対処行動に関する簡易尺度化の試 み、佼成医誌、22(1)、34~42、1998 6)近喰ふじ子、塚本尚子、安藤哲也、他: 「夫
婦新密度尺度」の開発とその試み、心身医 学、50(12)、1171~1185、2010
7)Konjiki,F.,Tsukamoto,N.,Inoue,S.,etal:
Astudyofspousestressfactorsinjapan
using“stressdiary“,The15thcongressof
AsianCollegeofPsychosomaticMedicine
(ACPM2012)Ulaanbaatar.
8)Antonovsky.A.:山崎嘉比古、吉井清子(監 訳)、健康の謎を解く~ストレス対処と健 康保持のメカニズム~、2001、有信堂高文 社
9)介護労働安全センター:平成 25 年度 介 護 労 働 実 態 調 査 結 果 に つ い て 」http.//
www.kaigo-center.or.jp/report/h25- chousa-01.html2014年12月26日現在 10)岸田研作、谷垣静子:介護職員が働き続け
るには何が必要か?老年社会科学、29(2)、
197~207,2007
Abstract
Theauthorsexplaintheprocessofcreatingthe“NewCopingBehaviorswithStress”scale.We examinethestressofcareworkersandwhatwedidtopreventthediseaseworsening.
[Participants]Theparticipantsinthisstudywere27careworkers(13male,14female).The averageagewas43.33±15.11.Therewere9unmarriedpersons,4repudiators,and1widowor widower.Additionally,13participants’typesofmarriagewereunknown.Sixparticipantshad disease(25.92%).However,theauthorsexcludedtheparticipantswhohadappendicitis,left thumbcomminutedfracture,surgeryofovariancystoma,fibroid,andsoon.
[Method]Theauthorsmailedthefacesheet(gender,age,anamnesis,maritalhistory,thenumber ofchildren),the“NewCopingBehaviorswithStress”scale,andatestofsenseofcoherence
(SOC)tothefacilitydirectoroffacilityserviceforlong-termcarecoveredbypublicaid.We madeandmailed30setsofthesefacesheetandquestionnaires.Therecoveryrateofthisstudy was100%.
[Result](1)Theitemswiththehighestaveragescoresonthe“NewCopingBehaviorswith Stress”scalewere“theapproachtoproblems”and“emotioncontrol.”(2)Theaveragescoreof careworkersontheSOC-13was56.11±8.64.Wedividedtheparticipantsinto2groups:ahigh scoregroup(14participants)andalowscoregroup(13participants).(3)Weconsideredthe
“New Coping Behaviors with Stress” scale in the high and low SOC-13 score groups.
Consequently,theformerhadasignificantlylower“avoidance”score(p<.01).Namely,the participantswhohadhighscoresontheSOC-13didnotuse“avoidance,”unliketheparticipants whohadlowscoresontheSOC-13.(4)Weconsideredthe“NewCopingBehaviorswithStress”
scaleandtheSOC-13comprehensivelyintermsofhavingornothavingdisease.The“disease”
groupincluded6participants,andthe“nodisease”groupincluded21participants.Thelatter hadasignificantlyhigher“approachtoproblems”scorethandidtheformer(p<.01).
[Conclusion]Itissaidthatthestresssituationisafactorinthehighrateofturnoveramongcare
workers.However,inthis“NewCopingBehaviorswithStress”amongcareworkers,theymostly
used“approachtoproblems”and“emotioncontrol.”Therefore,weinferredthatcareworkers
近喰 ふじ子 梅原 碧 佐藤 明穂