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デフレへの警戒を強める ECB
11 月政策理事会、政策金利は過去最低に引き下げ
○ ECBは11月7日の政策理事会で主要政策金利を0.25%に引き下げることを決定した。加えて、従来の ガイダンスを踏襲し、更なる利下げの可能性を排除しない姿勢も示した。 ○ ドラギ総裁は、一部のユーロ加盟国(南欧)での物価下落に言及し、ディス・インフレの長期化に よる弊害を語るなど、従来よりもインフレの下振れリスクに対する警戒を強めたとみられる。 ○ 今後、景気回復やユーロ安効果により更なるインフレの低下には至らない見込みだが、低インフレ は2014年も続きそうである。こうした状況に対してECBが追加緩和に踏み切る可能性は残存する。1.11 月 ECB 政策理事会の主な決定内容
(1)主要政策金利を過去最低の 0.25%に引き下げ、利下げバイアスも維持 11 月 7 日の ECB 政策理事会では、主要政策金利を過去最低となる 0.25%(▲25bp)に引き下げるこ とが決定された(図表 1)。利下げの決定自体は、前月までの「当面の間、政策金利を現状の水準か更 に低い水準とする」とのフォワード・ガイダンスに沿っていると理解できるが、今回、利下げに踏み 切った理由としては、ECB がディス・インフレのさらなる加速、あるいは、将来的なデフレリスクへ の懸念を強めたことが挙げられる。10 月のユーロ圏インフレ率が前年比+0.7%と、2009 年 11 月以来 市場調査部シニアエコノミスト 中村正嗣 03-3591-1265 [email protected]欧 州
2013 年 11 月 12 日みずほインサイト
図表 1 11 月 ECB 政策理事会での決定内容 項目 主要政策金利を0.25%に引き下げ(▲25bp) 預金ファシリティ金利を0%に据え置き 貸出ファシリティ金利を0.75%に引き下げ(▲25bp) 定例オペは2015年7月上旬まで 1カ月物、3カ月物オペは2015年6月末まで (資料) ECBよりみずほ総合研究所作成 ポイント 決定内容 無制限流動性供給の継続期間 の延長 両金利と主要政策金利との差は、それぞれ25bp、 50bpと、初めて非対称的な設定に 貸出ファシリティ金利の高め設定は、市中銀行が適切な 流動性管理を継続することを促すための措置 今後、超過準備が減少しても、ターム金利は上昇しづらく なると見込まれる 銀行システムへの潤沢な資金供給を継続するとのメッ セージ 追加利下げ コリドーの幅を非対称に設定 利下げ含みのフォワード・ガ イダンスを継続 実質ゼロ金利に踏み切る可能性が残存 「当面の間、主要政策金利を現状、もしくは更に低 い水準に維持する」2 の低水準となったことが判明したためである(10/31)(図表 2)。この最新の物価統計には 2 つのサプ ライズがあった。まず、コモディティ価格の影響を受けづらいサービス物価も上昇率が大きく鈍化し たことだ(9 月前年比+1.4%→10 月同+1.2%)。さらに、10 月からイタリアで VAT(付加価値税率) が 1%Pt 引き上げられたにもかかわらず、インフレ率が鈍化したことである1。速報値であるために統 計の詳細が判明しておらず、特殊要因による一時的な下振れという可能性もある中、利下げにまで踏 み切ったことは、インフレ率の趨勢的な低下傾向に対する ECB の警戒感の高まりを表していると言え よう。この観点では、10 月末にかけてユーロ高が続いていたことも無関係ではないだろう(図表 3)。 理事会後の記者会見でドラギ総裁は為替相場に関する議論は無かったと語っていたものの、ディス・ インフレ圧力を払拭するため、利下げという「実弾」を使うことによる理論的帰結、すなわちユーロ 高の是正は、暗黙裡に想定されたことではないだろうか。 一方、今回の利下げが「大多数の支持」による決定であり、全会一致ではなかったことが明らかと なっている。「行動」の必要性については意見の一致があったものの、一部メンバーは更なる経済指標 を待つべきと主張し、利下げに反対したようだ。一部報道によれば、ECB 理事会のメンバー(総裁、 副総裁、専任理事、各国中銀総裁を合わせて 23 名)のうち、バイトマン独連銀総裁などをはじめ、約 4 分の 1 が利下げに反対したという。仮に、それだけのメンバーの反対があったとすれば、今回の理 事会はかなり紛糾したものだったと想像される。 また、ECB は利下げ決定後も先月までのフォワード・ガイダンスを踏襲することを決定した。つま り、0.25%まで引き下げられた主要政策金利を「現状維持、もしくは更に引き下げる」ということだ。 フォワード・ガイダンスについては全会一致での合意であったという。 (2)市中銀行の流動性管理機能の維持のため、コリドーの幅を非対称的に設定 貸出ファシリティ金利は主要政策金利と同様に 25bp 引き下げて 0.75%とし、他方、預金ファシリ ティ金利を 0.0%で据え置くことが決定された。これは、貸出ファシリティ金利を 50bp 引き下げた前 図表 2 ユーロ圏インフレ率 ▲ 0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 09/10 10/10 11/10 12/10 13/10 HICP サービス コア (前年比、%) (注) 直近(13年10月)は速報値。 (資料) Eurostat 図表 3 為替相場の推移 1.26 1.28 1.30 1.32 1.34 1.36 1.38 12/11 13/2 13/5 13/8 13/11 ユーロドル相場 キプロス 支援合意 6月FOMC ECB、フォワード・ ガイダンス発表 9月FOMC ECB利下げ (資料) Ecowin、みずほ総合研究所 (ドル/ユーロ) 2月ECB 理事会 ギリシャ追加 支援合意
3 回の利下げ(今年 5 月)とは異なる決定である。この結果、貸出ファシリティ、預金ファシリティ金 利と主要政策金利の差(コリドー)はそれぞれ 50bp、25bp と、初めて非対称的な設定となった。預金 ファシリティ金利のマイナス化を回避した結果とも言えるが、コリドーの設定が従来と異なることに ついてドラギ総裁は、「定例オペによって流動性管理を行うという銀行のインセンティブを維持するた め」と、特定の意図があることを明らかにした。つまり、市中銀行の突発的な資金ニーズに対応する ための貸出ファシリティの金利を相対的に高めに設定することで、安易な利用を抑制したいとの考え である。予想外の利下げという今回の積極的な行動を踏まえると、やや矛盾しているように見えるか もしれないが、市場の流動性が潤沢な現状では、短期金利(EONIA)が主要政策金利と預金ファシリティ 金利の間で変動していることから、ECB としては貸出ファシリティ金利の水準が市場金利に影響を与 えることはないと判断したようである。市中銀行の流動性管理機能が過度に低下してインターバンク 市場の正常化が妨げられるリスクを抑制したいという ECB の姿勢を示したものと解釈できる。 このほか、無制限流動性供給を 2015 年 7 月上旬まで継続することも発表された。利下げと合わせて、 銀行システムへの潤沢な資金供給を長期に渡って継続するとの方針を示すことで、今回の一連の決定 による緩和効果の最大化を図ったのだろう。なお、流動性供給の期間は低金利政策の時間軸を示す意 味合いはなく、そのように解釈することも適当ではない。実際、2011 年には無制限流動性供給を続け ながら、ECB は引き締め(利上げ)を行ったことがある。
2.ECB の今後の政策展望:追加緩和の選択肢とその諸問題
(1)従来以上にディス・インフレ長期化への警戒感を強める ECB ECB の政策運営を展望する上ではインフレ率の動向が重要であり、今後については、2014 年入り後 から徐々に上向いていくことが見込まれる。ユーロ圏景気の緩やかな回復が続いていくことや増税要 因、ユーロ安効果等が背景であり、インフレ率が一段と低下し続けるには至らないだろう。インフレ 率が徐々に上向いていく中、「中期的な物価安定」の見通しに沿っているとの判断から、ECB は緩和バ イアスを維持しつつ、政策金利の据え置きを続けると予想される。 しかし、インフレ率は 2014 年に渡って低水準で推移し、ECB が目安とする「2%を下回り、2%近い」 水準を下回ることになりそうである。こうした中、ECB がディス・インフレ傾向の長期化リスクへの 警戒感を高めていることを踏まえると、追加緩和に踏み切る可能性は排除できないと考えられる。 これまで、ECB はディス・インフレの長期化リスクをあまり意識してこなかったように思われる。 例えば、今年 6 月の ECB 理事会では、ドラギ総裁は「デフレ状態にある国はない」と明言し、物価下 落はエネルギーや食品などコモディティ価格に影響を受け易い「特定の財に限られる」との見解を示 した。当時、ポルトガルやアイルランド、キプロスのインフレ率がゼロ近傍となっており、ギリシャ ではインフレ率が前年比▲0.6%となっていた(当時の最新のインフレ統計は 4 月時点)(次頁図表 4)。 特に、ギリシャでは主要 12 品目中 8 品目が前年比マイナスであり、税率変更を控除したベースでは、 既に 1 年近くに渡りマイナスのインフレ率が続く状況にあった(次頁図表 5)。4 一方、今回の理事会後では、質疑応答においてドラギ総裁は、ユーロ圏が全体としてデフレ状況に はないとの判断を示しつつ、「確かに、他の国よりも物価下落が目立つ国がある」ことを率直に認めた。 また、「インフレ率を『2%を下回り、2%近い』水準とすることが ECB の目標であることを忘れてはな らない」と、低過ぎるインフレを容認しない姿勢も示した。加えて、低インフレが長期化することの 諸問題についても言及があった。例えば、デフレ下では金利政策の効果が大きく減じられてしまうこ とや、ユーロ圏景気の回復を後押しするためには「実質」金利を低位にする必要があること、つまり、 低過ぎるインフレ率では問題があること等である。こうした ECB の認識の変化には、当時(今年 6 月) と比較して、ギリシャのデフレが深刻化していることや多くの国でディス・インフレ傾向が鮮明とな ってきたこと等、低インフレの長期化リスクを無視できなくなったことがあると考えられる。 (2)難しい判断が求められる追加緩和:その選択肢と問題点 今後、インフレ率の一段の下振れなど、ディス・インフレが加速する状況となれば、ECB は追加緩 和を検討するだろう。主な選択肢としては、①追加利下げ、②長期資金供給オペ、③ガイダンスの強 化、④量的緩和が挙げられる(次頁図表 6)。一方、更なる緩和には新たな問題が生じかねないため、 今回以上に反対派が増える可能性があり、ECB には難しい判断が求められそうである。 a.追加利下げによる実質ゼロ金利政策 今回の決定後も利下げ含みのフォワード・ガイダンスが踏襲されたことから、「次の一手」とし ては、追加利下げの可能性が最も高いと予想される。その際、市場機能が喪失されることへの懸 念から、チェコ中銀や日銀のように、主要政策金利をゼロとはせず、実質ゼロ金利政策にすると 想定される2。 他方、将来的にもマイナス金利政策の可能性は極めて低いだろう。今回もドラギ総裁は記者会 見において、「(預金ファシリティ金利をマイナスにする)技術的な準備は整っている」と述べた たが、政策の選択肢を示しただけで、ECBの方針を示すものではないと考えられる。例えば、ノワ 図表 4 ユーロ圏各国インフレ率 ▲ 2.0 ▲ 1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 11/10 12/4 12/10 13/4 13/10 ドイツ イタリア スペイン ギリシャ ポルトガル (資料) 各国統計局 (前年比、%) 図表 5 各国インフレ率(税率変更を除くベース) ▲ 2.0 ▲ 1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 11/9 12/3 12/9 13/3 13/9 ユーロ圏 ドイツ イタリア スペイン ギリシャ ポルトガル (前年比、%) (注) 税率変更分を控除したベース。税率変更分が100%反映されなかった 場合には不自然な動きを示す傾向があることに留意が必要。 (資料) Eurostat
5 イエ仏中銀総裁やコンスタンシオECB副総裁は、今年5月の講演において、デンマークにおけるマ イナス金利政策では貸出金利の引き上げといった弊害が生じたことを語ったことがある。為替レ ートの固定化を金融政策上の目的としているデンマーク中銀とは異なるため、ECBがマイナス金利 政策を導入するインセンティブは乏しいとみられる。 追加利下げによる問題は、実質ゼロ金利によって市場での調達金利とECBからの調達コストの差 がほぼなくなる状態となることで、南欧のECB依存が一段と強まる恐れがあることだ。利下げは南 欧諸国にとってはプラス材料だが、インターバンク市場の機能不全の長期化を招き、ECBが優先課 題と位置付ける「金融分断化」問題の解消が難しくなるという弊害が懸念される。実際、今回の 決定において貸出ファシリティ金利を相対的に高めの設定としてコリドーの幅を非対称的にした ことは、インターバンク市場の機能不全に対するECBの懸念を表した措置と考えられる。 b.長期資金供給オペの追加実施 超過準備の縮小が続けば、短期金利やターム金利への上昇圧力が生じ得るため、追加の長期資 金供給オペを実施することが考えられる。この選択肢は以前から有力視されており、超過準備が 1,000~2,000億ユーロを割り込むと短期金利やターム金利が上昇し易くなる傾向が観察されてき たことから、金利を低位に抑制するためには超過準備を高水準に保つことが求められ、そのため に長期資金供給オペが必要になるとの見方である(次頁図表7)。 長期オペについては、追加利下げのように新たな問題が引き起こされる可能性は小さいと考え られる。但し、本来的には、資金供給オペは金融市場の安定化というプルーデンス政策であり、 図表 6 想定される ECB の追加緩和の手段と問題点 追加緩和手段 (資料) みずほ総合研究所 資産購入(量的緩和) 「どの資産を購入するのか」という選択の問題が発生。高 格付国の国債に限定すれば緩和規模が小さく、南欧を 対象に含めれば財政支援との批判を招く可能性が高い ECBの経済見通しを拡充すること等によるガイダンス の明確化(低金利の長期化期待への働きかけ) 意図に反する効果となるリスク(市場の早期利上げ観測 を高める可能性) これまでの経緯を踏まえると、最も可能性の低い選択肢 (ドイツの資産購入策に対する反発は大) 国債やカバード債等の資産購入 フォワード・ガイダンス強化 政策効果を予見することが困難(オペの入札が振るわ ず、超過準備の拡大につながらない可能性) 超過準備の減少を抑え、短期金利、ターム金利の低 位誘導を意図 長期資金供給オペ 金融市場安定化のための政策であり、市場金利を低位 に抑制するという金利政策上の手段とすることは、本来 的には不適当 内容 問題点 追加利下げ 南欧市中銀行のECB依存が強まり、「金融分断化」問題 が解消されなくなるリスク 実質ゼロ金利政策(主要政策金利をゼロにはせず)
6 金利政策上の手段ではないことを念頭に置く必要がある。すなわち、オペは市中銀行側の応札意 欲次第だが、現在のように金融市場が安定している状況では大きな需要が生じず、その結果、超 過準備の拡大にはつながらない可能性があるということだ。実際、足元において3年物資金供給オ ペ(3年LTRO)の前倒し返済が続いており、健全行は不必要な流動性を圧縮していることがうかが われる。他方、ECBのマネーマーケット市場参加者との連絡会(MMCG)では、レポ市場の取引が細 っていることが指摘されるなど、依然としてマネーマーケットには脆弱さが残っているとみられ る。このため、ECBには長期オペ等によって流動性を潤沢に維持することが求められそうである。 c.フォワード・ガイダンスの強化 ガイダンスを強化して低金利が長期化するとの期待に働きかけることは追加緩和の手段となり 得る。「当面の間、政策金利を現状、もしくは更に低い水準に維持する」とのガイダンスは、ECB の「中期に渡りインフレ動向が全般的に抑制されるとの見通し」に基づくと説明されているが、 現状、ECBの中期のインフレ率見通しは明らかではない。ECBは来年までの経済見通し(12月に再 来年の見通しを発表)しか示していないからである。ここで、長めの見通しを示せば、これまで よりもガイダンスの明確さは増すことだろう。他方、ユーロ圏各国の経済状況に著しい格差が生 じている状況下、失業率やGDPといった物価以外の経済指標に関連付けたガイダンスとすることは、 ECBにとっては難しいと考えられる。 しかし、ガイダンスを明確にすることは、結果的に先行きの利上げ期待を高めるリスクも孕ん でいる。例えば、英国では、BOEよりも市場参加者の見通しが強気であることから、BOEの見通し とガイダンスに基づき想定される利上げ時期と比べて、市場ではより早期の利上げが織り込まれ ている。また、FRBが今後の政策運営方針をやや明確に説明したことが長期金利の急騰など市場に 混乱を引き起こしたことは記憶に新しい。 d.量的緩和(資産購入) 上述の政策手段を使い果たせば、「最後の手段」として資産購入といった量的緩和が取り沙汰さ れるだろう。しかし、実現のハードルが高いためにぎりぎりまで検討されない追加緩和の手段と 図表 8 ドイツ住宅価格 ▲ 4.0 ▲ 2.0 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 04/3 06/3 08/3 10/3 12/3 住宅価格指数(ファンドブリーフ協会) 同(Europace AG) 前年比、% (資料) ファンドブリーフ協会、Europace AG 図表 7 ECB 超過準備と市場金利 -10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 -100 0 100 200 300 400 500 600 700 800 09/5~12年末(除く下記利上げ期間) 11/4~11/12(利上げ→利下げの期間) 13年~ 3 カ 月 O I S と 預 金 ファ シ リ ティ 金 利 の 差 金 利 上 昇 (bp) 超過準備(10億ユーロ) (資料) ECB、Ecowin 直近水準
7 想定され、早期実現の可能性は低いと見込まれる。 ECBが量的緩和を行う場合の最大の論点は、「何を購入するのか」という選択の問題だ。まず、 日銀やFRB、BOEと同様に国債購入を実施しようとすれば、ECBの場合は「どの国」の国債を購入す るかが問題となる。例えば、対象を最上級格付のドイツ国債に限定すると仮定した場合、市場規 模が1兆ユーロ程度しかなく(ユーロ圏名目GDPの10%強)、他の最上級格付国を加えても2兆ユー ロに満たず、大規模な量的緩和策を実施することはできない。また、南欧諸国を対象に含めれば、 財政支援との批判を招く可能性が高い上に、既存の国債購入策であるOMT(Outright Monetary Transactions)の位置づけが曖昧となってしまう。次に、社債やカバード債など民間証券を購入 することも候補だが、米国ほど直接金融が活発ではないユーロ圏では購入対象となる証券の市場 規模が小さい。加えて、リスク資産の購入によって発生し得るECBの損失をどうするのか、納税者 負担のリスクを高めてよいのかといった政治的論争にも発展しかねない。 更に、ECBの資産購入にはドイツからの強い反発が予想される。ドイツでは南欧諸国と異なり、 労働需給が引き締まり気味であるため、ディス・インフレの長期化リスクが小さく、むしろ将来 のインフレを警戒すべき状況にある。また、独連銀が10月の月報で指摘したように、一部では不 動産バブルのリスクが出始めているという(前頁図表8)。こうした状況下、火に油を注ぐことに なりかねない量的緩和にドイツが強く反発するであろうことは想像に難くないと言えよう。そも そも、ドイツは過去のハイパーインフレの経験から中銀による国債購入措置に対しては強い嫌悪 感があると言われている。実際、リーマンショック後の2009年前半に、ECBのカバード債購入に対 して、メルケル独首相がECBを批判するという異例の発言があったことが思い起こされる。 (3)注目される ECB のインフレ見通しと ECB にとっての米国リスク 今後の ECB の政策を展望する上では、来月発表される ECB の経済予測におけるインフレ見通しが重 要であり、今回から 2015 年の見通しが新たに示されることになる。ここでは、2014 年のインフレ見 通しがどの程度下方修正されるかなどが注目であり、ドラギ総裁の発言と合わせて、追加緩和の有無 を探る手がかりとなる。また、今後は ECB の新たな見通しと比較した毎月のインフレ動向が ECB の次 の行動を見通す上での重要なポイントになると考えられる。 米国の動向にも注意を払う必要がありそうだ。特に、年明け後に期限が到来する債務上限問題が注 目であり、政治的混乱が繰り返され、金融不安が高まる事態となれば、FRB の量的緩和の縮小開始も 後ずれを余儀なくされ、今年 9 月以降と同様、更なるユーロ高を招くリスクがある。同時期にコモデ ィティ価格も大きく下落すれば、ユーロ圏のインフレ率は一段と低下する可能性が高い。こうしたリ スクシナリオにおいて、ECB は残る 1 回の利下げという「実弾」によってユーロ高とディス・インフ レ圧力に対抗することが可能だろう。しかし、その後も米財政問題を巡る不透明感が払拭されず、米 景気の下振れと FRB の量的緩和の縮小開始時期の大幅な遅延につながれば、ユーロ高が止まらず、ユ ーロ圏のディス・インフレの更なる加速が懸念され、ECB もいよいよ量的緩和を検討せざるを得なく なるかもしれない。これは ECB にとって最も想定したくないリスクシナリオであろう。
8 1 引き上げは一般税率(21%→22%)のみで、軽減税率(10%と 4%)は据え置かれた。 2 ECB の主要政策金利はオペの入札金利であるため、FRB のように「0.0~0.25%」というレンジでは設定できない。ま た、チェコ中銀は ECB と同じバンド型の金利政策(ロンバード金利、主要政策金利、ディスカウント金利)であり、主 要政策金利は 0.05%となっている。なお、11 月 9 日のチェコ中銀政策理事会では、緩和強化のため、無制限の為替介 入に踏み切ることが決定された。前日の ECB の利下げ決定と無縁ではないと考えられる。 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。