市街地再開発事業における権利者合意水準が事業期間に与える影響
要旨 要旨要旨 要旨 都 市 計 画 事 業 と し て 施 行 さ れ る 市 街 地 再 開 発 事 業 に 着 目 し , 権 利 者 の 合 意 形 成 が 事 業 期 間 に 与 え る 影 響 の 分 析 を 行 っ た . 都 市 計 画 時 の 合 意 水 準 は 都 市 計 画 法 に 定 め ら れ て い る が , 法 を 運 用 し て い る 地 方 公 共 団 体 は 高 水 準 の 合 意 を 課 し て お り , 事 業 効 果 の 発 現 を 遅 延 さ せ て い る と 推 測 さ れ る . 本 稿 は , 権 利 者 の 合 意 水 準 を 示 す 都 市 計 画 同 意 率 及 び 権 利 変 換 同 意 率 と 事 業 期 間 の 関 係 を 分 析 し , そ れ ぞ れ の ト レ ー ド オ フ の 関 係 を 導 き だ す こ と で , 地 方 公 共 団 体 が 事 業 を 遅 延 さ せ て い る こ と を 明 ら か に し , 事 業 を 促 進 す る 合 意 水 準 を 提 言 し た . ま た , 事 業 を 促 進 す る 権 利 変 換 手 法 と 残 留 率 の 要 因 に つ い て 考 察 も 行った . キ ーワー ド:市 街地再 開発事 業,事 業期間 ,合意 形成, 権利変 換,地 区残留2012
年(平成
24
年)
2
月
政策研究大学院大学
まちづくりプログラム
MJU11025
水谷圭司
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1. はじめにはじめにはじめにはじめに ... 1 2. 市街地再開発事業市街地再開発事業市街地再開発事業市街地再開発事業 のののの 現状現状 と現状現状ととと 課題課題課題課題 ... 2 3. 研究研究研究研究 ののの 実施方針の実施方針実施方針 実施方針 ... 3 4. 市街地再開発事業市街地再開発事業市街地再開発事業市街地再開発事業 のののの 事業期間事業期間 の事業期間事業期間ののの 実証分析実証分析実証分析実証分析 ... 3 4.1 分 析の方 法 ... 4 4.2 デ ータ ... 4 4.3 実 証モデ ル ... 4 4.4 推 定結果 ... 5 5. 権利者合意形成権利者合意形成権利者合意形成権利者合意形成 のののの 社会調査社会調査社会調査社会調査 ... 6 5.1 調 査の目 的 ... 6 5.2 調 査項目 の設定 と調査方 法 ... 7 5.3 調 査の結 果 ... 7 6. 権利者 の権利者権利者権利者のの 合意形成の合意形成合意形成合意形成 がが 市街地再開発事業がが市街地再開発事業市街地再開発事業市街地再開発事業 ののの 事業期間の事業期間 に事業期間事業期間にに 与に与与与 えるえるえるえる 影響影響 の影響影響ののの 実証分析実証分析実証分析実証分析 ... 8 6.1 都 市計画 時にお ける行政 介入の 影響と 事業期 間の分 析 ... 9 6.1.1 実証モ デル ... 9 6.1.2 推定結 果 ... 10 6.2 権 利変換 時にお ける権利 者の合 意形成 と事業 期間の 分析 ... 10 6.2.1 実証モ デル ... 11 6.2.2 推定結 果 ... 11 6.3 権 利者の 合意形 成と事業 期間の 分析 ... 12 6.3.1 実証モ デル ... 12 6.3.2 推定結 果 ... 13 6.4 都 市計画 時と権 利変換時 におけ る合意 形成の トレー ドオフ の分析 ... 14 7. 権利変換手法権利変換手法権利変換手法権利変換手法 とととと 補助金補助金補助金補助金 のの 関係のの関係関係関係 のののの 分析分析分析分析 ... 14 7.1 全 員同意 型施行 と資産評 価の位 置付け につい て ... 15 7.2 権 利変換 手法と 補助金の 関係の 分析 ... 15 7.2.1 実証モ デル ... 15 7.2.2 推定結 果 ... 16 8. 権利者権利者権利者権利者 ののの 行動分析の行動分析行動分析行動分析 ... 17 8.1 分 析の方 法 ... 17 8.2 実 証モデ ル ... 17 8.3 推 定結果 ... 18 9. おわりにおわりにおわりにおわりに ... 19 参考文献 参考文献参考文献 参考文献 ... 21 参考資料 参考資料参考資料 参考資料 ... 221. はじめにはじめにはじめにはじめに 市 街地再 開発事 業 (以 下,再 開発事 業と略) は ,住環境 や防災 機能を 改善す るほか ,地 域の経 済活動 の 活 性 化 や 賑 わ い の 創 出 に 影 響 を 与 え る 事 業 で あ り , 都 市 機 能 の 更 新 や 防 災 面 の 整 備 に と っ て 重 要 な 役 割 を 果 た す 公 共 性 の 高 い 事 業 で あ る こ と か ら , 都 市 計 画 事 業 と し て 位 置 付 け ら れ て い る . し か し , 公 益 性 の 高 い 事 業 で あ る 一 方 , 既 成 市 街 地 を 開 発 す る た め , 土 地 , 建 物 等 の 権 利 者 の 合 意 形 成 が 必 要 と なり, 都市計 画時( 又は組 合設立 時)と 権利変 換時の 2 度 に亘り 合意形 成が図 られる .その ため, 権 利者の 合意形 成に時 間を要 し,一般に 事業期 間は長く なる傾 向とな る.2001年か ら2010年 までに 完 成 した再 開発事 業にお ける調 査 1 でも 権利者 の合意 形成が 重要で あると の回答 が約4割を 占める . 権 利者の 合意水 準は, 都市計 画法で は都市 計画時 の合意 水準を3 分の2 以 上と定 めてい るが, 地方 公 共 団 体 に お け る 実 際 の 運 用 は , 都 市 計 画 時 に 非 常 に 高 い 合 意 水 準 を 課 し て い る の が 実 情 で あ る . そ の た め , 都 市 計 画 ま で の 合 意 形 成 に 多 大 な 時 間 を 要 し , 行 政 の 過 度 な 規 制 に よ り 事 業 効 果 の 発 現 が 遅 延 してい ると考 えられ る. 本 稿 は , 都 市 計 画 時 と 権 利 変 換 時 に お け る 権 利 者 の 合 意 形 成 と 事 業 期 間 の 関 係 は ト レ ー ド オ フ の 関 係 に あ る と 考 え , そ れ ぞ れ の 合 意 形 成 と 事 業 期 間 の 関 係 を 実 証 分 析 に よ り 明 ら か に し , 事 業 を 促 進 す る 合意水 準を明 らかに した.分析 方法は ,2001年から2010年ま でに完 了した 再開発 事業の データ を用 い て実証 分析を 行った . 再 開発 事業 の事 業期 間に関す る先 行研 究は ,鷲 見 (2011),前田 ・日 端 (1993),吉 原・ 河野 ・頃 安・ 山 本 (1993) が挙げ られる.鷲見 の研究 は事業 期間の簡 易式を ,前 田,吉原ら の研 究は事 業期間 に影響 を 及ぼす 物理的 な要因 を特定 する研 究であ る.し かし ,前 田,吉 原らの 研究は20年以 上経過 してお り, そ の間に 都市再 開発法 が 7 回 改正さ れてい る.ま た, これら の研究 は,権 利者の 合意形 成に要 する時 間 コスト に触れ ていな い.本 稿は法 制度の 改定,権利者 の合意 形成,行政の 介入に よる影 響を反 映し, 事 業を促 進する 権利者 の合意 水準と 要因を 明らか にした . 分 析の結 果,事業を 促進する 権利者 の最終 同意率 は94% で あり ,都市 計画時 におけ る権利 者の合 意 水 準を約80% とす ることで 事業を 促進す ること が確認 できた.また,本結果により,行政の過度な介 入 に よ り 事 業 が 遅 延 し て い る こ と が 証 明 さ れ , 新 た に 行 政 が 目 標 とす べ き合意水準を示すことができ た .効率 的な合 意水準 を適用することで,事業効果の早 期発現が期待 できる. 本 稿の構 成は次 のとおりである.第2 章は再開発事業の現状と課題について整理し,第3 章 に研究 の 実施方 針を示す. 第 4 章 は再開発事業の事業期間の分析を行い,事業期間に影響を与える要因を明 ら かにす る.第5章 は都市計画時と権利変換時の権利者合意形成における社会調査の結果を示す.第6 章 は権利者の合意形成と事業期間の分析を行い,事業を促進する合意水準について示す. 第 7 章及び 第 8章は事業を促進する権利変換手法と高残留率の要因について示す.第9 章 は早 期事業効果発現に 対 する政 策提言と今後 の課題 について示す. † 本稿は市街地再開発事業の早期事業効果発現に関する個人的な見解を示したものであり,筆者の所属機関の見 解を示したものではありません.本稿にある誤りは全て筆者の責任です. 1 (社) 全国市街地再開発協会 (2006) 「日本の都市再 開発6」及び (社) 全国市街地再開発協会 (2011) 「日本の都 市再開発7」の収録データ.
2. 市街地再開発事業市街地再開発事業市街地再開発事業 の市街地再開発事業ののの 現状現状 と現状現状ととと 課題課題課題課題 我 が 国 には多くの既成市街地が 存在している.既成市街 地 で は ,宅 地の細 分化や 木造 建 築 物の 密集により住環境の 悪 化や災害 の 危険 性が高まっている.また,モータ リゼ ー ション の進行により 郊外 に大型 商 業施設が立地,人口の 郊 外へ の 流出が進行し,中心市街地における既 存商店 街の 衰 退 や定住人口 の減少 ,駅 前広場 や 道路 等の公共施設の整備 の 遅 れ 等の 問題が 複雑化している 状況 である.このよう な 都 市問題 に対応 するため,道路,広場,緑 地等の公共施設, 建 築 物及びその敷 地の三 者から 構 成されている既成市街地 を 一 体 的・ 総 合的に整備する手法の一つとして,再開発事 業 が実施 されて いる. 再 開 発 事業 の 事 業期 間 は,初 動期間,合意形成期間(都 市 計 画 時及 び 権利 変 換時 にお け る 権利 者 の合 意 形成 期間 ), 施 設建築 物の工 事期間と大きく3つに分 類することができ る (図1). 初 動期間は, 中心市街地に居 住又は経 営 している 人が主 体 と な り, 地 域の 問題や再開発事業の 仕 組み ,制度の勉強 等 を 行 う 期間であ り,事業の研 究と 知識 の 普 及のための 啓 発 活 動 を 実 施 し て い る . 合 意 形 成 期 間 は , 再 開 発 事 業 を 推 進 す る た め の 権 利 者 の 合 意 形 成 期 間 で あ り , 都 市 計 画 時 と 権 利変換 時の2度に 亘り行わ れる期 間であ る.工事期間は, 事 業によ り施工 される施設の 工事期間である. 再 開 発 事 業 を 促 進 す る 上 で 重 要 と な る 事 項 の 一 つ と し て 挙 げ ら れ る の が , 権 利 者 の 合 意 形 成 で あ る . 権 利 者 の 合 意 形 成 が 円滑 に進め ば 事業は促進 し, 逆 の 場 合 は事業が長 期 化 す る . 事 業 の 長 期 化 は , 事 業 費 を 増幅 させ 床 価 格 の上 昇 を 生じさせる.事業の長期化による 余剰分析を図 2 に 示す. なお, 需要曲線と供給曲線 は大都市と地 方 都市で は異なるため,それぞれの 場合に 応じて 読み替 えるものとする. 合 意形成 に時間 を要し た場合,供給曲線はSか らS’(又 はS")へシフトし,床価格 がP * からP1(又 はP2)へと上 昇する.その結 果,社会 的余剰 が大都市では□ABE1E,地方都 市では□ACE2E減少 する. 均衡点 E は最 も効率 的な合 意水準 によっ て合意 形成が 図られ た場合を示しており,合意形成時におけ る 時間リ スクを 短縮し,E1( 又はE2)をEに近づけることで,効果的な事業が期 待できる. 次 に合意形成について示す.再開発事業では,権利者の合意形成が2度行わ れる.1度目 は都市 計画 時(又は 組合設 立時 ),2度目 は権利 変換時 である .前者 は事業 に対する合意形成が 主であるのに 対し, 後 者は権利者の資産補 償 に 対 する合意形成が 主 となる.再開発事業は,都市計画事業として位置付け ら れ て い る こ と か ら , 都 市 計 画 時 の 合 意 形 成 に は 行 政 の 指 導及び介入が 生じ る.都市計画法では,都 再開発事業の気運 発起人会の活動 準備組合設立 組合設立の認可 (都市計画決定) 権利変換 建築工事 清算と入居 工事完了 組合の解散 行政による 指導と援助 行政による 指導と援助 都 市 計 画 同 意 率 の 合 意 形 成 期 間 権 利 変 換 同 意 率 の 合 意 形 成 期 間 初動期間:再開発事 業に関する理解と住 民活動 工事期間 図1 再開発事業の流れと事業期間の設定 D 床価 床供給量 S S”:地方都市 P1 P* Q1 Q * S’:大都市 P2 Q2 E E1 E2 C A B 図2 事業の長期化による余剰分析
市 計画時 におけ る権利 者の合 意水準 は3分 の2以 上 2 と定 められ ている が,行 政が推 進して いる都 市計 画 時の合 意水準 は100% に近 い高水準となっているのが現状 3 で ある.一 方,先に示 したよ うに再開発 事 業では2度に 亘り合 意形成 が行わ れる .つま り,1度 目に高 水準の 合意が 得られれば2度目の 合意形 成 に要す る時間 は縮小 されるが,1度目の 合意水 準が低 ければ2度目 の合意 形成に 要する 時間は 長くな る . 都 市 計 画 時 と 権 利 変 換 時 の 合 意 形 成 は ト レ ー ド オ フ の 関 係 に あ り , 効 率 的 な 合 意 水 準 に よ り 事 業 を 推進し ていく ことが 望まれる. 3. 研究研究研究研究 ののの 実施方針の実施方針実施方針実施方針 本 研究の 実施方 針を図 3 に 示す. 本研究 は,再 開発事 業にお ける権 利者の 合意形 成と事 業期間 に関 す る研究 と補足 研究の 2 つ に分類 する.前者は事業期間に影響を及ぼす物理的な要因と事業を促進す る 権 利 者 の 合 意 水 準 を 実 証 分 析 に よ り 明 ら か に す る 研 究 で あ る . 後 者は事業期間により 得 られた要因 に 対する 派生研究(権利変換手法と補償費 の分析,権利者の転 出動向の分析)である. 4. 市街地再開発事業市街地再開発事業市街地再開発事業 の市街地再開発事業ののの 事業期間事業期間 の事業期間事業期間ののの 実証分析実証分析実証分析実証分析 本 章は,準備組合設立から竣工までの事業期間について実証分析を行 う.ま ず,分析の方法と使 用 す るデー タにつ いて整 理し, 次に推定式を設定する.最 後に事業期間に影響を与える要因について考 察 する. 2 都市計画法 第21条の2の都市計画の決定等の提案. 3 本稿 「5. 権利者合意形成の社会調査」を参照. 事業期間の 基本推定式の設定 研究① 権利者の合意形成と 事業期間の分析 社会調査 ・都市計画同意率 ・権利変換同意率 事業を促進する権利者の合 意水準が判明. START 〔アウトプット〕 事業を促進する権利者の合意 水準の提案および要因の特定 事 業 期 間 の 分 析 で 地 区 残 留 率 の 有 意 性 が 確 認 で き た場合に研究③を実施 事業期間の分析で権利変 換手法の有意性が確認で きた場合に研究②を実施 研究③ 権利者の転出動向の分析 〔研究方法〕 権利者情報を基に転出動向 の要因を分析. 権利者の転出動向の要因が 判明. 補足研究 研究② 権利変換手法と補償費の分析 〔研究方法〕 権利変換手法別による補償費 の増減を分析. 権利変換手法別による補償 費の増減が判明. 図3 研究方針の実施フロー END 社会調査により得られ た同意率を基本推定式 に追加し,分析する.
4.1 分析分析分析分析 のののの 方法方法方法方法 再 開 発 事 業 の事 業 期 間 につい て 実 証 分 析を 行 う .事業期間は,鷲見 (2011) で 示さ れ て い る よう に, 図 1 に 示す準 備組合 設立か ら竣工 までの期間とする.再開発事業は権利者の活動が発端となり事業が 進 行 す る . 事 業 開 始 時期は,権利者の組 織 が設立され事業 認可 に向けた活動が行われた時期とし,準 備 組合設 立時と した. 分 析 方法 は ,事 業期 間 の重回 帰 式を 構築し,OLS 4 ( 最小二乗法)を用いた回 帰分析を行う . 解析 ソ フ トはSTATA ver11.2 5 を 用い る.なお,本節以 降で分析に 使用する解析 ソフトも同様 であるため,以下 , 説 明は省 略する. 4.2 データデータデータデータ 分 析に使 用するデータは,(社) 全国 市街地再開発 協会が5 年 ごとに整理している再開発事業の実 績 デ ータ 6 を 使用する.分析の対象期間は2001年 から2010年ま での10年 間とし ,事業 期間が 特定で きる 事 業を対象とする.過 去10年間 と設定 した理 由は,「5. 権利 者合意 形成の 社会調査」で示すよ うに地 方 公共団 体の文書保存 期間が 概ね10年 である ことから ,本デー タで収録されていないデータを補完す る 際 , 地 方 公 共 団 体 か ら デ ー タ 収集可 能な期間として設定した.なお,本 節 以 降 で分析に 使 用するデ ー タも同 様であるため,以下,説明は省略する. 4.3 実証実証実証実証 モデルモデルモデルモデル 事 業期間 の推定 式は ,鷲見 (2011) で示さ れた簡 易式に ,事 業期間 に影響 を与える と予測される変数 を 追加し,構築 した.
lnTime β βଵRClaimant βଶCity50 βଷCity30 βସCity20 βହClass βConstruction βRight
β଼Public βଽSpace βଵFloor βଵଵReservation βଵଶRemain βଵଷSubsidy $ …… 式1
被説明変 数 (Time) は ,準備 組合設 立から 竣工までの事業期間( 単位:年)とし,対数値とする.説
明 変 数 は,事業期間に影響を与える変 数 を設定する.これらの変 数 は,合意形成期間に影響を及ぼす
要 因,再 開発事 業の制 度が事 業期間 に影響 を及ぼ す要因 ,工事期間に影響を及ぼす要因の 3 つ に分類
す ること ができ る.以 下,そ れぞれ の要因 につい て説明する.
合 意形成 期間に 影響を 及ぼす 要因は ,従前権利者 数 (RClaimant : Rightful Claimant) と 都市 規模ダミ
ー と す る . 従 前権利者 数 ( 単 位: 人 )が多いほ ど 合意形成に時間を要すると 予 測される.また,再開 発 事 業 は 権 利 床 と 保 留 床 から 構 成される. 保 留 床 の 需 要が 低 いと資金調 達 が 困難 となり,権利者の合 意 を 得 ることは 難 しい.再開発事業の 床需 要を示す 指標 として都市 人口 規 模 を設定した.都市 人口 規 模 の分類 は,都市人口が50万人以上 7 で ある 場合 (City50),30万人 以上 850 万人未満である場 合 (City30), 4
OLSはOrdinary Least Squaresの略. 5 STATAは 株式会社ライトストーンが開発したデータの分析プログラムである. 6 ( 社) 全国市街地再開発協会 2006 日本の都市再開発6 の収録データ(2001~2005)を使用. (社) 全国市街地再 開発協会 2011 日本の都市再開発7 の収録データ(2006~2010)を使用. 7 地方自治法 第252条の19の指定都市の条件. 8 地方自治法 第252条の22の中核市の条件.
20万人以上 930 万人未満である場合 (City20) の3つと し,そ れぞれ 指定都市,中核市,特例市 相当と す る.都 市人口 規模が大きい事業は 床需要が高いと推測され,事業が促進すると予 測される. 再 開発事 業の制 度が事 業期間 に影響 を及ぼ す要因 は,事 業種別 10 (Class) ,施 行者 種別 (Construction), 権 利変換 種別 (Right),公益 施設 (Public) と する.これ らの変 数は種別を示すダミ ー変数 であり,それ ぞ れ,第 1 種事業,組合施行,全員同意型施行,公益施設が有 る場合を 1 と し,そ れ以外 の種別 は0 を 示す.
工 事期間に影響を及ぼす要因は,施行面積 (Space),延 床面積 (Floor),保留 床比率 (Reservation),残
留 率 (Remain), 補 助 率 (Subsidy) と す る . 施 行 面 積 (単 位:ha) は 再 開 発 事 業 の施 行 面 積 を,延 床 面 積 ( 単 位:m 2 ) は 開 発 さ れ る 施 設 の 延 床 面積 を示す.保 留 床比 率は事業 費 に占める 保 留 床処 分金の 比 率 (保 留床処分金 / 事 業費 )を,残留率は従後権利者 数と 従前権利者数 の比 率とし,補助率は事業に 投 入される補助 費の比 率(補助費 / 事業 費)とした. 事 業期間 の分析 に使用する変 数の基 本統計 量は表1に示 してあ る. 表1 基本統計量 変数名 平均値 標準偏差 最小 最大 ln(Time) 事業期間(年) 2.1920 0.5201 0.7339 3.3410 RClaimant 従前権利者数 70.0885 79.6185 4 714 City50 都市規模ダミー(人口50万人以上:1) 0.3938 0.4896 0 1 City30 都市規模ダミー(人口30万人以上:1) 0.2123 0.4099 0 1 City20 都市規模ダミー(人口20万人以上:1) 0.1106 0.3143 0 1 Class 事業種別ダミー(1種:1,2種:0) 0.9911 0.0938 0 1 Construction 施行者種別ダミー(組合施行:1,他:0) 0.8716 0.3351 0 1 Right 権利変換ダミー(110条:1,他:0) 0.5575 0.4977 0 1 Public 公益施設ダミー(有り:1,無し:0) 0.5752 0.4954 0 1 Space 施行面積(ha) 1.2320 1.1157 0.1 11 Floor 延床面積(㎡) 45448.41 54931.17 4039 611721 Reservation 保留床比率(事業費の割合) 0.6712 0.1536 0.0117 0.9899 Remain 残留率 0.4733 0.2191 0.0731 0.9666 Subsidy 補助率(事業費の割合) 0.2411 0.0987 0.0100 0.7687 4.4 推定推定推定推定 結果結果結果結果 事 業期間 の推定 結果を 表 2 に 示す. 各変数 とも予想される結果である.以下,主 要な説 明変数 につ い て考察 する. 事 業期間 を短縮 する要因は,床需要を示す都市規 模,権利変換手法,残留率である.人口が50万人 以 上 の 大 都 市 の 場 合は 他 の都市に 比べ 事業期間が 短 くなることが 確認 できた.大都市ほ ど床需 要が高 く , 保 留 床処 分に要する時間コストが 短縮 できたと考えられる.権利変換手法が全員同意型施行の 場 合 は , 権 利 者 と の 調 整 に 時 間 を 要 す こ と に な る が , 一 旦 合意が形成されるとその 後 の調整コストが 縮 減 でき,事業期間が 短縮 できると考えられる.その 他 の要因として,全員同意型施行の 場 合は,施行 地 区の権 利者の 合意が 得られやすい地域であるため事業期間が 短縮できたとも考えられる. 事 業 期 間 が 長 く な る 要 因 は , 従 前権利者 数 ,施行者 種別 ,公益施設の 有無 である. 従 前権利者 数 が 9 地方自治法 第252条の26の3の特例市の条件. 10 市街地再開発事業は,権利変換方式を使う第1種と,収用方式(管群処分方式)による第2種がある.
多 いほど 権利者との調整に時間を要すため事業期間が長くなるが,推定 値は0.0009と微小であるため, 権 利 者 数 に 対 する事業期間の影響は 小 さいと考えられる.施行者 種別 は,組合施行は権利者との調整 に 時間を 要すた め,個人施行や再開発会社 施行に 比べ合意形成に時間を要すことが 確認できた.また, 再 開 発 さ れ る 施 設 に 公 益 施 設 が あ る 場 合は,権利変換時に地方公共団体との新たな調整を要すため, 事 業期間 が長く なるこ とが確認できた. 以 上 ま で の 推 定 結 果 は 事 業 期 間 に 対 する物理的な要因を推定したものであるが,権利者の合意形成 が 事 業 期 間 に 及 ぼ す 影 響 を 反 映 し て い な い . 都 市 計 画 時 と 権 利 変 換 時 に お け る 権 利 者 の 合 意 水 準 に つ い て社会 調査を行い,事業期間と権利者の合意形成の実証分析を次章 以降で実施した. 表2 推定結果 変数名 係数 標準誤差 RClaimant 従前権利者数 0.0009 ** 0.0004 City50 都市規模ダミー(人口50万人以上:1) 0.1325 * 0.0788 City30 都市規模ダミー(人口30万人以上:1) 0.2400 *** 0.0929 City20 都市規模ダミー(人口20万人以上:1) 0.2092 * 0.1217 Class 事業種別ダミー(1種:1,2種:0) 0.1405 0.2033 Construction 施行者種別ダミー(組合施行:1,他:0) 0.2805 ** 0.1126 Right 権利変換ダミー(110条:1,他:0) -0.2978 *** 0.0781 Public 公益施設ダミー(有り:1,無し:0) 0.1380 ** 0.0644 Space 施行面積(ha) -0.0498 0.0524 Floor 延床面積(㎡) 0.0000 0.0000 Reservation 保留床比率(事業費の割合) -0.3889 0.3703 Remain 残留率 -0.2674 * 0.1475 Subsidy 補助率(事業費の割合) -0.3173 0.4360 _cons 定数項 2.1508 *** 0.3110 Number of obs 観測数 226 R-squared 決定係数 0.3015 注:***,**,*はそれぞれ有意水準1,5, 10%に対応する. 5. 権利者権利者権利者権利者 合意形成合意形成合意形成 の合意形成ののの 社会調査社会調査社会調査社会調査 都 市 計 画 時 と 権 利 変 換 時 に お け る 権 利 者 の 合 意 形 成 の 実 態 について 社会 調査を実施した結果を整理 す る . ま ず ,調査の目的を示し, 次 に調査の項目と方法を設定する.最 後 に,調査の結果を整理し, 考 察する . 5.1 調査調査調査調査 のののの 目的目的目的目的 再 開発事 業は, 工事着 工前の期間として図 1 に 示すよ うに,準備組合設立から都市計画までに要す る 合 意 形 成 期 間 と 事 業 認可 から権利変換までの合意形成期間を要す.権利者の合意形成の 指標 は 各段 階 における権利者の同意率とし,同意率が高いほ ど 合意形成時の時間コストを 増 大させ事業を長期化 す ると推 測され る.調 査の目 的は,2001年か ら2010年 までに 竣工した再開発事業(303地区)を対象 11 に ,事業を 支援または施行した地方公共団体に,各 合意形成時における権利者の同意率及び事業期間 の 分析に 用いる 基礎データを 収集した. 11 地方公共団体における文書保存期間が10年程度であることから,過去10年に竣工した市街地再開発事業を対 象とした.
5.2 調査項目調査項目調査項目 の調査項目ののの 設定設定 と設定設定ととと 調査方法調査方法調査方法調査方法 (1) 調査項目調査項目 の調査項目調査項目ののの 設定設定設定設定 社会調査の調査項目は 表3の とおり である . 表3 調査項目一覧表 調査項目 調査内容 都市計画時の権利者同意率 都市計画時又は組合設立時の権利者の同意率の調査である. 権利変換時の権利者同意率 権利変換計画時の権利者の同意率の調査である. 地方公共団体が定める都市計画時の同意水準 都市計画法の要件以外に各地方公共団体が定めている同意水準の有無についての調査である. 特定事業参加者制度の活用の有無 保留床を取得する特定事業参加者制度の活用の有無についての調査である. 前倒し組合制度の活用の有無 事業計画の決定に先立って組合を設立したかの調査である. 最終床処分価格 住宅,業務等の用途別の最終床処分価格の調査である. (2) 調査調査 の調査調査ののの 方法方法方法方法 調 査方法 は,2001年から2010年に 竣工した再開発事業の支援 または施行した地方公共団体に対 し, 調 査票 12 に よる自記方式の調査を行った. 調 査期間 は,2011年10月中旬から2011年10月24日 とし, 調査対象となる地方公共団体数 は126 団 体であ る.そ のうち ,東日本大震 災で被 災した 5 都 市と, 情報公開条例 により事前に調査協力の辞 退 の申し入れがあった 東京都は調査 対象外 とし,120市 町村(245地区) に対し調査を実施した. 5.3 調査調査調査調査 のののの 結果結果結果結果 多 く の 地 方 公 共 団 体 か ら 協力 を 賜 っ た 結果 ,調 査 票 の回 収 率は 93.3% 13 , 権 利 者 同 意 率 の 回 答 率 は 57.8%14に 達した.以下,調査結果を示す. (1) 都市計画時都市計画時 の都市計画時都市計画時ののの 権利者同意率権利者同意率権利者同意率権利者同意率 都 市計画 時の権 利者同 意率は100%が111地区 ( 図 4)と最 も多く ,全体の 約 63%を占め るこ と が確認 できた.都市計画法は権利者の 3 分の 2 以 上 の 同 意 を 要 件 としてい るが,権 利者の同 意 率 の 実 態 は非常に 高い水準 となって おり,都 市 計 画 時 ま で に 要 す る 時 間 コ ス ト が 非 常 に 大 き い こ と が 確 認 できた .都市計 画は地方 公共団体 が 行 う ため ,行政の 介入によ り高同意 率となる 傾 向があ ると推 測され る. 12 調査票は巻末資料に示す. 13 回収率93.3%=112/120 市町村×100 . 14 回答率は都市計画同意率及び権利変換同意率を示す.2001年から2010年の市街地再開発事業数は303地区, 都市計画同意率と権利変換同意率の回答地区数は175地区である.回答率57.8%=175/303 地区×100 . 1 5 5 13 17 12 11 111 0 20 40 60 80 100 120 都市計画同意率 地区数(単位:地区) 図4 都市計画同意率の分布
(2) 権利変換時権利変換時 の権利変換時権利変換時ののの 権利者同意率権利者同意率権利者同意率権利者同意率 権 利変換 時の権 利者同 意率は 100%が 151 地 区 (図5)と 最も多 く,全体 の約86%を占 める こ とが確認できた.このうち 権利変換手法を全 員 同意型 として いる地 区数は 119地 区(表4) で あ り , 権 利 変 換 時 の 同 意 率 が 100%で あ る 場 合 でも, 必ずしも全員同意型施行にならないこ と が確認 できた.ま た,権利変 換時の 同意率 は, 都 市計画 時に同 意した 権利者 は,権 利変換 時に も 同意を する傾 向があ り,同 意率全 体とし ては 都 市計画 時の同 意率よ り高く なるこ とが確認で き た. (3) 特定事業参加者制度特定事業参加者制度 の特定事業参加者制度特定事業参加者制度ののの 活用活用 の活用活用のの 有無の有無有無 有無 特 定事業 者の活 用は,特 定建 築者制 度 を活用 してい る地区 数が 13 地区 , 特 定 業 務 代 行 者 制 度 を 活 用 し て い る 地 区数が 19 地区 であり ,全 地区数 の 約 10% 15 が特 定事業 参加者制度を活用 し ている . (4) 前倒前倒 し前倒前倒ししし 組合制度組合制度組合制度組合制度 のの 活用のの活用活用活用 のののの 有無有無有無 有無 前 倒し組合制度を活用した地区数 は 4 地 区であ り,本 制度を 活用し ている 事業は 非常に 少ないこと が 確認できた. (5) そのその 他そのその他他他 そ の 他 に調査した 「 地方公共団体が定める都市計画時の同意水準 」 と 「 最終 床処 分価 格」 は 無 回答 数 が多く,分析に適したサンプルを 得ることができなかった. 6. 権利者 の権利者権利者権利者のの 合意形成の合意形成 が合意形成合意形成がが 市街地再開発事業が市街地再開発事業市街地再開発事業市街地再開発事業 ののの 事業期間の事業期間 に事業期間事業期間にに 与に与与与 えるえる 影響えるえる影響影響影響 のののの 実証分析実証分析実証分析実証分析 前 章までに確認 できた事業期間の基 本式と権利者の合意水準から,都市計画時と権利変換時におけ る 権利者 の合意 形成と 事業期 間のト レード オフの 関係を 実証分 析によ り明ら かにし ,事業 を促進 する 都 市計画 時の合 意水準 を推定 する.まず,社会調査で得 られた都市計画時と権利変換時の合意形成と, そ れぞれ の合意 形成に 要する 期間の 関係に ついて 分析を 行う. 次に,権利者の合意形成と事業完了ま で の期間 の分析 を行い ,事業 を促進 する権 利者の 最終的 な合意 水準を 推定す る.最 後に,最終的な合 15 特定事業参加者制度は調査対象数303地区数の内,82地区が不明との回答となっている.制度活用率 10%=(13+19)/303地区 ×100. 0 0 1 3 4 8 8 151 0 20 40 60 80 100 120 140 160 地区数(単位:地区) 図5 権利変換同意率の分布 権利変換同意率 条件 地区数 都市計画同意率と権利変換同意率が100%である地区数 104 都市計画同意率が100%で権利変換が全員同意型となる地区数 88 権利変換同意率が100%で権利変換が全員同意型となる地区数 119 権利変換同意率が100%で権利変換が全員同意型でない地区数 32 表4 都市計画同率と権利変換同意率の関係
意 水準と 各合意形成に要する事業期間のトレードオフの関係から,事業を促進する都市計画時の合意 水 準につ いて考 察する . 6.1 都市計画時都市計画時都市計画時都市計画時 におけるにおけるにおけるにおける 行政行政行政 介入行政介入介入 の介入の 影響のの影響影響影響 とととと 事業期間事業期間 の事業期間事業期間ののの 分析分析分析分析 都 市 計 画 時 に お け る 行 政 介 入 の 影 響 と 事 業 期 間 の 分 析 を 行 う .都市計画時における行政介入の 指標 は , 社会 調査で 得 られた都市計画時の権利者同意率とし,事業期間は準備組合設立から都市計画 決 定 ま でとす る.解 析に用いるデータは 2001年から2010年ま でに国内で 竣工した再開発事業のうち,事 業 期 間 が 特 定 で き る 事 業 及 び 社会 調査において都市計画時における権利者の同意率が特定できる事業 を 対象とする. 6.1.1 実証実証実証実証 モデルモデルモデル モデル 都 市計画 時にお ける行 政介入 の影響 と事業 期間の 推定式 を式2に示す.推定式 は,4.3で 示した 事業 期 間の推 定式(式1)を基本とし,準備組合設立から都市計画 決定までの期間に影響を与えると 予測さ れ る変数 を考慮 し,構築した.
lnTime1 β βଵRClaimant βଶUrban_Agree βଷCity50 βସCity30 βହCity20 βClass
βConstruction β଼Right βଽPublic βଵSpace βଵଵRemain % ……… 式2
被説 明変 数 (Time1) は , 準備 組 合設 立か ら都 市 計画 決定までの期間(単 位:年)とし,対数値 とす
る . 説 明変 数 は,都市計画時の合意形成期間に影響を与える変 数 を設定する.合意形成期間に影響を
与 え る 変 数 として,行政介入の 指標 を示す都市計画時の同意率 (Urban_Agree) を 追加 ,事業期間の実
証 分析に おいて 使用したFloor(延床 面積 ),Reservation( 保留 床率),Subsidy( 補 助比 率)の各変 数は,
都 市計画 決定までに特定できている要因でないため,推定式から除外 した.なお,4.3で示し た変数 は 本 項以降 も同様 であるため,以下, 説明は 省略する. 行 政介入 の影響 と事業 期間の 分析に 使用する変数 の基本 統計量 は表5のとお りであ る. 表5 基本統計量 変数名 平均値 標準偏差 最小 最大 ln(Time1) 事業期間(年) 準備組合~都市計画決定 0.9935 0.9463 -2.4849 2.5839 RClaimant 従前権利者数 52.4087 50.9575 4 280 Urban_Agree 都市計画同意率 0.9451 0.0826 0.688 1 City50 都市規模ダミー(人口50万人以上:1) 0.4525 0.4995 0 1 City30 都市規模ダミー(人口30万人以上:1) 0.2189 0.4150 0 1 City20 都市規模ダミー(人口20万人以上:1) 0.0729 0.2610 0 1 Class 事業種別ダミー(1種:1,2種:0) 0.9854 0.1203 0 1 Construction 施行者種別ダミー(組合施行:1,他:0) 0.9051 0.2941 0 1 Right 権利変換ダミー(110条:1,他:0) 0.6131 0.4888 0 1 Public 公益施設ダミー(有り:1,無し:0) 0.5693 0.4969 0 1 Space 施行面積(ha) 1.1061 0.8350 0.1 4.2 Remain 残留率 0.4539 0.2234 0.0731 0.9230
6.1.2 推定推定推定推定 結果結果結果 結果 都 市 計 画時 に おけ る 行政 介入 の 影 響と 事 業期 間 の推定 結果を 表6に,都市 計画同 意率と 事業 期 間の関 係を図6に 示す.各 変数とも予想 され る 結 果 であ る .以 下 ,主 要な 説 明変数 について 考 察する . 都 市 計 画時 に おけ る 同意 率が 高 く なる と 権利 者 の 合 意形 成 に時 間 を要 すた め , 事業 期 間が 長 く な る こと が 確認 できた.準備組合設立から都 市 計 画 決定までの期間は,都市計画法に 基づ く 3 分の 2 の同 意率と すること で期間 を短縮 する こ とがで きる. そ の他に 確認できた要因として,第1種 市街 地 再 開 発 事 業 や 組 合 施 行 は 事 業 期 間 が 長 く な り , 権 利 変 換 手 法 が 全 員 同 意 型 施 行 の 場 合は事業期間が 短 くなることが 確認 できた.なお, 従 前権利者 数 が多いほ ど 事業期間は長くなるとの結果が 得 られた が ,推定 値は0.0048と 微小であるため,権利者数 に対する事業期間の影響は 小さいと考えられる. 表6 推定結果 変数名 係数 標準誤差 RClaimant 従前権利者数 0.0048 *** 0.0016 Urban_Agree 都市計画同意率 1.8468 * 0.9475 City50 都市規模ダミー(人口50万人以上:1) 0.1203 0.2047 City30 都市規模ダミー(人口30万人以上:1) 0.1212 0.2401 City20 都市規模ダミー(人口20万人以上:1) 0.1894 0.2796 Class 事業種別ダミー(1種:1,2種:0) 1.0574 *** 0.3772 Construction 施行者種別ダミー(組合施行:1,他:0) 0.8052 ** 0.3423 Right 権利変換ダミー(110条:1,他:0) -0.4980 ** 0.2052 Public 公益施設ダミー(有り:1,無し:0) 0.2055 0.1503 Space 施行面積(ha) -0.0183 0.0883 Remain 残留率 -0.2429 0.3933 _cons 定数項 -2.5538 ** 1.0003 Number of obs 観測数 137 R-squared 決定係数 0.2467 注:***,**,*はそれぞれ有意水準1,5, 10%に対応する. 6.2 権利変換時権利変換時権利変換時 における権利変換時におけるにおけるにおける 権利者権利者権利者 の権利者ののの 合意形成合意形成 と合意形成合意形成ととと 事業期間事業期間事業期間事業期間 のののの 分析分析分析 分析 権 利 変 換 時 に お け る 権 利 者 の 合 意 形 成 と 事 業 期 間 の 分 析 を 行 う .権利変換時における権利者の合意 形 成 は 社会 調査で 得 られた権利変換時の 追加 同意率とし,事業期間は事業 認可 から権利変換までとす る .解析に用いるデータは 2001年から2010年まで に国内 で竣工 した市街地再開発事業のうち,事業 期 間 が 特 定 で き る 事 業 及 び 社会 調査において権利変換時における権利者の 追加 同意率が特定できる事 業 を対象 とする. 0 1 2 3 4 0 0.5 1 都市計画同意率 事業期間(単位:年) 0.66 図6 都市計画同意率と事業期間の関係 (都市計画法)
6.2.1 実証実証実証実証 モデルモデルモデル モデル
権 利変換 時にお ける権 利者の 合意形 成と事 業期間 の推定 式を式3に示 す.推定 式は,4.3で示し た事
業 期間の 推定式(式1)を基 本とし,事業 認可から権利変換までの期間に影響を与えると 予測される変
数 を考慮 し,構築した.
lnTime2 β βଵRClaimant βଶRight_Urban βଷClass βସConstruction βହRight βPublic
βSpace β଼Floor βଽReservation βଵRemain βଵଵCompensation % ……… 式3
被説 明変 数 (Time2) は , 再開 発 事業 の事 業認可 から権利変換までの期間( 単位:年)とし,対数値 と す る . 説 明変 数 は,権利変換時の合意形成期間に影響を与える変 数 を設定する.事業期間に影響を 与 え る 変 数 とし て,権 利変換 時の 追 加 同意 率 (Right_Urban) を 追 加 した .なお, 権利変 換は権 利者の 資 産補償 を行う ことを 主としており,City( 都 市規模)は合意形成期間に与える影響は小 さいと考えら れ るため ,推定 式から 除外した. 権 利変換 時の合 意形成 と事業 期間の 分析に 使用する変数 の基本 統計量 は表7のとお りであ る. 表7 基本統計量 変数名 平均値 標準偏差 最小 最大 ln(Time2) 事業期間(年) 事業認可~権利変換 0.0132 1.0401 -2.4849 2.7621 RClaimant 従前権利者数 46.1721 44.6138 4 280 Right_Urban 権利変換追加同意率 0.0294 0.0678 -0.1667 0.2593 Class 事業種別ダミー(1種:1,2種:0) 0.9918 0.0905 0 1 Construction 施行者種別ダミー(組合施行:1,他:0) 0.9098 0.2875 0 1 Right 権利変換ダミー(110条:1,他:0) 0.6803 0.4682 0 1 Public 公益施設ダミー(有り:1,無し:0) 0.5901 0.4938 0 1 Space 施行面積(ha) 1.0928 0.8394 0.1 4.2 Floor 延床面積(㎡) 36954.64 28929.73 4039 178118 Reservation 保留床比率(事業費の割合) 0.6644 0.1482 0.0171 0.9899 Remain 残留率 0.4518 0.2235 0.0731 0.9230 Compensation 補償率(事業費の割合) 0.1813 0.1061 0 0.5794 6.2.2 推定推定推定推定 結果結果結果 結果 権 利 変 換時 の 合意 形 成と 事業 期 間 の推 定 結果 を 表8に,権 利変換 時の追加 同意率と事業期間 の 関係を 図7に示す .各変数 とも予想される結 果 で あ る. 以 下, 主 要な 説明変 数 について考察 す る. 権 利 変 換時 に おけ る 追加 同意率が高くなると 権 利 者 の合 意 形成 に 時間 を要 す た め, 事 業期 間 が 長 く なる こ とが 確認できた.また,権利変換 時 の 同 意率 の 限界 効果は都市計画時の同意率の 限界 効果より大きく,都市計画時より権利変換 時 の 同 意率 取得のほ うが時間を要すことが確認 0 5 10 15 0 0.5 1 事業期間(単位:年) 権利変換追加同意率 図7 権利変換時の追加同意率と事業期間の関係
で きた. そ の 他 に 確認 できた要因として,組合施行や公益施設が 有 る 場 合は事業期間が長くなり,施行面 積 が 大きい 場合や 保留床比率が高い場 合は事業期間が短くなることが確認できた. 表8 推定結果 変数名 係数 標準誤差 RClaimant 従前権利者数 0.0079 *** 0.0020 Right_Urban 権利変換追加同意率 2.8171 ** 1.1748 Class 事業種別ダミー(1種:1,2種:0) -0.5133 0.3133 Construction 施行者種別ダミー(組合施行:1,他:0) 0.7389 *** 0.1834 Right 権利変換ダミー(110条:1,他:0) 0.2102 0.1997 Public 公益施設ダミー(有り:1,無し:0) 0.4248 ** 0.1720 Space 施行面積(ha) -0.4492 *** 0.1247 Floor 延床面積(㎡) 0.0000 ** 0.0000 Reservation 保留床比率(事業費の割合) -1.3587 ** 0.5593 Remain 残留率 0.3613 0.3634 Compensation 補償率(事業費の割合) 1.1812 0.7826 _cons 定数項 -0.3104 0.4197 Number of obs 観測数 122 R-squared 決定係数 0.3804 注:***,**,*はそれぞれ有意水準1,5, 10%に対応する. 6.3 権利者権利者権利者 の権利者ののの 合意形成合意形成合意形成合意形成 とと 事業期間とと事業期間事業期間 の事業期間ののの 分析分析分析分析 6.1から6.2で は,都 市計画 時と権 利変換 時にお ける権 利者の 合意形 成とそ れぞれ の合意 形成に 要す る 事 業 期 間 の 分 析 を 実 施 し た . い ず れの結果も高水準の合意形成は時間コストを 増 大させる. 但 し, 一 旦 合意が形成されるとその 後 の調整 費 用は 少 なくなり,事業が促進すると 予 測される.本 節 では, 再 開 発 事 業 に お け る 権 利 者 の 合 意 形 成 が 事 業 期 間 に ど の 程 度影響を与えるかについて権利者の最終同 意 率と事 業期間 の関係 につい て実証 分析を 行い, 事業を 促進す る最終 同意率 の水準 を考察 する. 6.3.1 実証実証実証実証 モデルモデルモデル モデル 権 利者の 最終同 意率と 事業期 間の推 定式を 式4に 示す.推定式 は,4.3で 示し た事業 期間の 推定式(式 1)と 6.2で示 した推 定式(式3) を基本とし,事業認可から 竣工までの期間に影響を与えると 予測さ れ る変数 を考慮 し,構築した.
Time3 β βଵRClaimant βଶRight_AgreeβଷRight_Agreeଶ βସClass βହConstruction βRight
βPublic β଼Space βଽFloor βଵReservation βଵଵRemain βଵଶSubsidy
βଵଷCompensation % ……… 式4
被説 明変 数 (Time3) は , 再開 発 事業 の事 業認可 から 竣工 までの期間(単 位:年)とする. 説明変数
は ,事業 期間に 影響を 与える 変数とし,権利者の最終同意率 (Right_Agree) を 追加 した.なお,権利者
の 最終同 意率は2度目 の合意 形成で ある権 利変換 時の同 意率を 用いる .
表9 基本統計量 変数名 平均値 標準偏差 最小 最大 Time3 事業期間(年) 事業認可~竣工 4.2859 2.8978 0.75 18.5833 RClaimant 従前権利者数 47.8777 48.6657 4 280 Right_Agree 権利変換同意率 0.9844 0.0423 0.75 1 Right_Agree 2 権利変換同意率の二乗 0.9708 0.0776 0.5625 1 Class 事業種別ダミー(1種:1,2種:0) 0.9928 0.0848 0 1 Construction 施行者種別ダミー(組合施行:1,他:0) 0.8848 0.3203 0 1 Right 権利変換ダミー(110条:1,他:0) 0.6690 0.4722 0 1 Public 公益施設ダミー(有り:1,無し:0) 0.6043 0.4907 0 1 Space 地区面積(ha) 1.0954 0.8189 0.1 4.2 Floor 延床面積(㎡) 36779.47 28327.13 4039 178118 Reservation 保留床比率(事業費の割合) 0.6676 0.1545 0.0171 0.9899 Remain 残留率 0.4541 0.2248 0.0731 0.9230 Subsidy 補助率(事業費の割合) 0.2408 0.0864 0.0100 0.4931 Compensation 補償率(事業費の割合) 0.1795 0.1095 0 0.5794 6.3.2 推定推定推定推定 結果結果結果結果 権 利 者 の 最 終 同 意 率 と 事 業 期 間 の 推 定 結 果 と 関 係を表10,図8に示 す. 分 析 の 結 果 , 権 利 者 の 最 終 同 意 率 と 事 業 期 間 は10% の水 準で統 計的に有 意である.予 測した と お り 権 利 者 の 合 意 形 成 は 時 間 を 要 す る が , 一 旦 合 意が図ら れると事業 が促進 されるこ とが 確 認 できた. 権 利者の 最終合 意水準 は,94% 付近が事業を 促 進する ことが 確認できた. 表10 推定結果 変数名 係数 標準誤差 RClaimant 従前権利者数 0.0075 * 0.0044 Right_Agree 権利変換同意率 -224.3711 * 115.5634 Right_Agree 2 権利変換同意率の二乗 119.7550 * 64.8062 Class 事業種別ダミー(1種:1,2種:0) -0.7479 1.1634 Construction 施行者種別ダミー(組合施行:1,他:0) 1.1607 ** 0.5610 Right 権利変換ダミー(110条:1,他:0) -0.0438 0.9124 Public 公益施設ダミー(有り:1,無し:0) 0.7284 0.5526 Space 施行面積(ha) -0.7292 * 0.3909 Floor 延床面積(㎡) 0.0000 ** 0.0000 Reservation 保留床比率(事業費の割合) -2.9258 2.6597 Remain 残留率 0.7207 1.2252 Subsidy 補助率(事業費の割合) -2.9622 4.2383 Compensation 補償率(事業費の割合) 4.7863 ** 2.4091 _cons 定数項 108.9628 ** 51.6265 Number of obs 観測数 139 R-squared 決定係数 0.2005 注:***,**,*はそれぞれ有意水準1,5, 10%に対応する. 事業期間(単位:年) 図8 権利者の最終同意率と事業期間の関係 0 5 10 15 20 0.6 0.7 0.8 0.9 1 最終同意率 0.94
6.4 都市計画時都市計画時都市計画時 と都市計画時ととと 権利変換時権利変換時 における権利変換時権利変換時におけるにおける 合意形成における合意形成合意形成合意形成 の のの の トレードオフトレードオフトレードオフ のトレードオフののの 分析分析分析分析 6.1 か ら 6.3 ま での分 析によ り得られた都市 計 画 時 と 権 利 変 換 時 に お け る 権 利 者 の 合 意 形 成 と事業 期間の 関係を 分析し ,早期事業効果を 発 現する 合意水 準を推 定する .図9に合意 形成 の トレー ドオフ の関係 を,図 10 に 権利変 換手 法 別のトレードオフの関係を示す. 分 析 の 結 果 , 都 市 計 画 時 の 合 意 水 準 を 80% と するこ とで事 業を促 進でき る.ま た,都 市計 画 段 階 で 権利 変 換手 法 が 確 定 し て い る 場 合 は, 都 市 計 画 時 の 合 意 水 準 を 全 員 同 意 型 施 行 の 場 合 は 88%, そ れ 以 外 の 権 利 変 換 手 法 の 場 合 は 74% と す る こ と で 事 業 を 促 進 す る こ と が 確 認 で きた .なお ,最 終同意 率は ,全 員同意 型施行 の 場合は 100%,それ 以外の 場合は 6.3 で示 し た とおり94% とし ,合意水 準を設 定した . 7. 権利変換手法権利変換手法権利変換手法 と権利変換手法ととと 補助金補助金補助金補助金 のの 関係のの関係関係関係 のののの 分析分析分析分析 本 章は,事業を促進すると確認できた全員同意型施行が,権利変換時に過大な資産評価となり,事 業 促進と 補償費 の間で 歪みが 生じていないかを確認する.まず ,全員同意型施行と資産評価の関係を 整 理する .次に,補償費率と権利変換手法について実証分析を行う.最後に事業を促進する要因であ る 全員同 意型施 行が過 大な資 産評価 になっ ていな いこと を考察 する. 0 5 10 0 0.5 1 事業期間(単位:年) 図9 都市計画時と権利変換時の合意形成のトレードオフ 0 0.94 0.94 都市計画同意率 権利変換同意率 0.8 都市計画同意率 権利変換同意率 都市計画+権利変換 0 5 10 0 0.5 1 事業期間(単位:年) 図10 〔権利変換別〕都市計画時と権利変換時の合意形成のトレードオフ 0 1 都市計画同意率 権利変換同意率 0.88 都市計画同意率 権利変換同意率 都市計画+権利変換 0 5 10 0 0.5 1 権利変換同意率 都市計画+権利変換 都市計画同意率 0.94 0.74 0 0.94 〔全員同意型施行の場合〕 〔全員同意型施行以外の場合〕 事業期間(単位:年) 都市計画同意率 権利変換同意率
7.1 全員同意型施行全員同意型施行全員同意型施行全員同意型施行 とととと 資産評価資産評価 の資産評価資産評価ののの 位置付位置付位置付位置付 けについてけについてけについてけについて 権 利 者 の 従 前 資 産 は 権 利 者 間 で 不 公 平 が 生 じ な い よ う ,統一した評価基準日で適 正に資産額を評価 16 す るこ と が原則 である.し かし ,権 利変換 手法を 全員同 意型と し た場合は,資産 評価の 決定を権利者が権利変換計画で 定 めるこ とがで きる 17 .つまり ,権利 者によ る権利 者の 資 産評価 が行わ れるこ とにな るため,資産評 価は原 則型 よ り も 過 大 も し く は 過 小 と な る イ ン セ ン テ ィ ブ が 作 用 す ること となる .資 産評価が 過大と なる場 合は,権利者 の 従前資産額の 増加に 伴い事業費は 増加し,事業に 投入 さ れ る 補 助 費 も同 様 に 増加 することとなる.つまり,全員同意型による資産評価は補助 費 の一 部 を権 利 者に移転させることになり,移転した補助費 は納税者が負担 することになる(図11).一 方,資産評 価 が 過 小 となる 場 合は, 近 年における 厳 しい 社会 情 勢 下では一 刻 も 早 く事業効果の発現により開発 後 の キャピ タルゲ インを期待し,補償費 が少なくても事業の促進を図る傾向があると考えられる.4.4に 示 し た 事 業 期 間 の 推 定 結 果 で は , 権 利 変 換 手 法 を 全 員 同 意 型 施 行 と し た 場 合の方が事業を促進するこ と が 確認 できた.本 節 では,全員同意型施行とした 場 合に過 剰 な補 償 が行われていないかを分析し, 全 員同意 型施行 による弊害が 生じていないかを確認する. 7.2 権利変換手法権利変換手法権利変換手法 と権利変換手法とと 補助金と補助金補助金補助金 のの 関係のの関係関係 の関係ののの 分析分析分析分析 再 開発事 業の事 業費に占める補償費 と権利変換手法の分析を行 う .解析に用いるデータは2001年か ら2010年ま でに国内で竣工 した市街地再開発事業のうち ,事業 費における補 償費 の比率が特定できる 事 業を対象とする. 7.2.1 実証実証実証実証 モデルモデルモデルモデル 推 定式は ,補償比率に影響を与えると予測される権利変換手法とその 他要因を考慮 し,構築した.
Compensation β βଵCity50 βଶCity30 βଷCity20 βସClass βହRight βRemain βPDensity
β଼Reservation ……… 式5
被説明変 数 (Compensation) は ,再開 発事業 の事業 費に占める補償費 率(補償費/事 業費 )とする.説
明 変 数 は,補 償費 に影響を与える変 数 を設定する.補 償費 が大きくなると 予 測される要因は,都市規 模 (City50, City30, City20), 地区人口密度 (PDensity : Population Density) で あ る. 都市規 模が大きいほ 16 都市再開発法 第80条:第七十三条第一項第三号,第十一号又は第十二号の価額は,第七十一条第一項又は第 五項(同条第六項において読み替えて適用する場合を含む .)の規定による三十日の期間を経過した日における 近傍類似の土地,近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価 格等を考慮して定める相当の価額とする. 17 都市再開発法 第110条:施行者は,権利変換期日に生ずべき権利の変動その他権利変換の内容につき,施行 地区内の土地又は物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事 業 参 加 者 の す べ て の 同 意 を 得 た と き は , 第七十三条第二項から第四項まで,第七十五条から第七十八条まで,第八十条,第八十一条,前条第二項後段及 び第百十八条の三十二第一項の規定によらないで,権利変換計画を定め る こ と が で き る . こ の 場 合 に お い て は , 第八十三条,第百二条,第百三条及び第百八条第一項の規定は,適用しない. 図11 補助費の移転 D 床価 床供給量 SMC’ MC P1 P3 Q1 Q2 社会的余剰 過剰な事業費 補助費の一部が権利者 に移転している E’ E 過大補償によるシフト SMC P2 Q3
ど 地価は高い傾向となり,補 償費 が 増加 すると 予 測される.また,地区 人口密 度が大きいほ ど 補 償対 象 者数が 増加するため,補償費は大きくなると予 測される.
補 償費が 少なくなると 予測される要因は,事業 種別 (Class),権 利変 換種別 (Right),残留率 (Remain),
保 留床比 率 (Reservation) で ある .事業 種別は,第1種 事業である場 合は1を ,第2種事業である場合 は 0を示す ダミー変数とする.第2 種 事業は地方公共団体による施行となるため,資産評価は原 則型 と な り , 補 償費 を 縮減 する インセンティブ は 作 用しないと 予 測される.権利変換 種別 は,全員同意型 施 行であ る場合は 1を, それ 以外の 場合(原則型,地上権非設定型)は0 を示 すダミー変 数とする. 全 員 同 意 型 施 行 は 権 利 者 に よ る 資 産 評 価 が 可 能となるため,補 償費 が 少 なくても 竣工後 の 収 益を期 待 す る 傾 向 に あ る と 予 測される.残留率は, 従後 権利者 数 と 従 前権利者 数 の 比 率を示す.残留率が高い ほ ど 施設 竣工後 の 収 益を期 待 する傾向にあると 予 測される. 保 留 床比 率は,事業 費 に占める 保 留 床処 分 金の 比率(保 留床処分金 / 事 業費 )を示す.保 留床比率が大きいとい うことは,床需要が高いと考 え られ, 施設竣工後の 収益が期待できる傾向にあると予 測される. 補 償費率の分析に使用する変 数の基 本統計 量は表11の とおり である . 表11 基本統計量 変数名 平均値 標準偏差 最小 最大 Compensation 補償費率(事業費の割合) 0.1898 0.1223 0 0.6252 City50 都市規模ダミー(人口50万人以上:1) 0.3946 0.4895 0 1 City30 都市規模ダミー(人口30万人以上:1) 0.2140 0.4108 0 1 City20 都市規模ダミー(人口20万人以上:1) 0.1137 0.3179 0 1 Class 事業種別ダミー(1種:1,2種:0) 0.9565 0.2042 0 1 Right 権利変換ダミー(110条:1,他:0) 0.5484 0.4984 0 1 Remain 残留率 0.4923 0.2600 0 1 PDensity 地区人口密度 65.2906 60.9316 0.3984 346.8085 Reservation 保留床率(事業費の割合) 0.6510 0.1949 0 1.0010 7.2.2 推定推定推定推定 結果結果結果結果 事 業費に占める補償費 と権利変換手法の推定結果を表12に 示す .各変 数とも 予想される結果である. 以 下,主 要な説 明変数 について考察する. 本 分 析 に よ り , 全 員 同 意 型 施 行 は , 原 則 型の補 償 算 定 基 準より補 償費 を 縮減 する傾向であることが 確認 できた.全員同意型施行は事業を促進させることが期 待 できるが,その一方で資産評価を権利者 が 定 め る こ と が で き る た め , 過 度 な 補 償 により事業促進と補 償費 の関係に 歪み が 生じ ることが 懸念 さ れ た が , 分 析 に よ り そ の懸念 は 払拭 された.ただし,実際の補 償費 は,建物の 構造 区分( 木造 ,非 木 造 )や地区年 数 により大きく変動する.データの制約上,これらの要 素 を分析に反映することはでき な い た め , 本 分 析 で は 事 業 で 補 償 される物 件 が 平均 的であるとい う 前提 条件 が必要となる.この前提 条件 の 妥 当 性については,都市計画法に定められている事業の施行区域は,土地の利用 状況 が 著 しく 不 健全であることや,建築物の耐用年限 が 3分の2 以 上経過 してい る等の 条件が付されていることか ら ,事業 で補償 される建物は 平均的に老朽 建築物が多く,土地の利用形態が 不健全であるといえる. 本 推 定 結 果 は , 全 員 同 意 型 施 行 と そ れ 以 外 の権利変換手法の 場 合における補 償費 率の 増減 を 確認 す る に留め る.
表12 推定結果 変数名 係数 標準誤差 City50 都市規模ダミー(人口50万人以上:1) -0.0225 0.0137 City30 都市規模ダミー(人口30万人以上:1) -0.0279 * 0.0156 City20 都市規模ダミー(人口20万人以上:1) -0.0413 ** 0.0202 Class 事業種別ダミー(1種:1,2種:0) -0.0507 0.0310 Right 権利変換ダミー(110条:1,他:0) -0.0347 *** 0.0123 Remain 残留率 -0.1964 *** 0.0209 PDensity 地区人口密度 0.0003 *** 0.0000 Reservation 保留床率(事業費の割合) -0.1216 *** 0.0398 _cons 定数項 0.4327 *** 0.0341 Number of obs 観測数 299 R-squared 決定係数 0.4335 注:***,**,*はそれぞれ有意水準1,5, 10%に対応する. 8. 権利者権利者権利者権利者 ののの 行動分析の行動分析行動分析行動分析 本 章は,4.4で 事業を 促進す ると確認できた高残留率の要因を特定するため,権利者の情 報を基 に転 出 動向の 実証分 析を行 い,権 利変換 時にお ける権 利者の 動向を 分析す る.ま ず,分析の方法と使 用す る データ につい て整理 し,次 に推定式を設定する.最後 に権利者が転 出する要因について考察する. 8.1 分析分析分析分析 のののの 方法方法方法方法 権 利 者 の 残 留 率 は , 権 利 者 が 転 出するか 否 かの意向により 決 定される 指標 である.権利者の 転 出動 向 の 分 析 に は 権 利 者 の 情 報 が必要となるが,権利者 個人 のデータを 収集 することは 困難 であるため, 吉 原 ら (1993)の 研 究に お いて も , 権利 者 の 分析 は 今後の課 題 に留めている.本稿は, 問 屋町 西 部 南街 区 市街地 再開発 組合 18 か ら権利 者情報 の提供 の協力 が得られたため,1地区の 情報ではあるが権利者の 転 出動向の分析を行い,残留率を高める要因を推測する.
分 析 方 法 は ,権 利 者 の 転出について回 帰式を 構築 し,離散選択 モデル(Liner Probability Model and
Probit Model)を用 いた回帰 分析を行う.
8.2 実証実証実証実証 モデルモデルモデルモデル
推 定式は ,権利 者の転 出動向に影響を与えると予 測される要因を考慮 し,構築した.
Right β βଵAge βଶSex βଷInherit βସCompany βହLand βBuild βLand_Build β଼Com91
βଽCom97 βଵEvalu ……… 式6 被説明変 数 (Right) は ,転出した場 合は1を,権利 変換 を受けた場合は0を 示すダミー変 数とする. 説 明変 数 は,権利者の 転 出動向に影響を与える変 数 を設定する. 転 出すると 予 測される要因は, 相 続 に よる 資産の 細分化 (Inherit) であ る.相 続により土地,建物の権利が細分化されると権利変換による 18 岐 阜市で 施行さ れてい る問屋町 西部南 街区市 街地再 開発組合 の情報 である .全員 同意型施 行では 中部地 区最大 規模である.2012年完成予定である.
資 産 評 価 額 は 小 さくなり,権利変換を 受 けることができなくなる.また,資産が 相 続 されている 場 合 は , 土 地 , 建 物 に 対 す 固執 が 弱 く,共 有 名義 により資産を 保有 している 場 合は資産の運用が 複雑 とな る ため, 権利者 は転出により金銭換 算したほうがよいと考えられる. 権 利変換 を受けると予 測される要因は,男性 (Sex),会社を経 営している (Company),資 産を保有し て いるで ある.男性は 女性に 比べ土地,建 物の資 産に対 する固執が強 く,会社を経 営している場 合は, 転 出すると 取 引 先や物 流 ルートの新規 確保 な ど 経 営リ ス ク が高くなると 予 測されるため,権利変換を 受 け 継続 して経 営 を行 う と 予 測される.資産を 保有 している 場 合は,土地,建物に 対 する 固執 が 強 い と 予測される.なお,資産の 保有状況は,土地のみ を保有 (Land),建 物のみ を保有 (Build),土地 と建 物 を保有 (Land_Build) の3つに 分類する. そ の 他 , 権 利 者 の 転 出 動 向 に 影 響 を 与 え る と 予 測 さ れ る 要 因 と し て , 年 齢 (Age),91 条 補 償 額
(Com91),97 条補 償額 (Com97), 推 定 再 建 築費と建物補 償費 の比 率を示す建物評価 額比 (Evalu) を設 定 する. なお, 費用を示す変 数の単 位はす べて千 円とする. 分 析に使 用する 各変数 の基本 統計量 は表13の とおりで ある. 表13 基本統計量 変数名 平均値 標準偏差 最小 最大 Right 権利変換ダミー(転出:1,残留:0) 0.6167 0.4876 0 1 Age 年齢 62.1024 15.5242 25 96 Sex 性別ダミー(男:1,女:0) 0.8083 0.3947 0 1 Inherit 相続ダミー(有:1,無:0) 0.5089 0.5014 0 1 Company 会社ダミー(会社:1,個人:0) 0.5988 0.4916 0 1 Land 土地ダミー(所有:1) 0.1317 0.3392 0 1 Build 建物ダミー(所有:1) 0.0538 0.2264 0 1 Land_Build 土地・建物ダミー(所有:1) 0.5748 0.4958 0 1 Com91 権利変換額or91条補償額 15658.6 52645.07 0 530623 Com97 97条補償額 5435.108 12241.76 0 105721 Evalu 建物評価額比 0.2015 0.2302 0 0.9870 8.3 推定推定推定推定 結果結果結果結果 権 利者の 転出動向の推定結果を表14に 示す. 権 利 者 が 転 出する要因は, 相 続 により資産が 細 分化している 場 合, 会社 を 保有 していない 場 合に 転 出 傾 向 が 高 い こ と が 確認 できた.これらの要因は,事業期間の影響を 受 けると推測される.再開発事 業 は 権 利 者 の 合 意 形 成 を 必 要 と す る た め , 他 の建 築 物の施 工 に 比べ 事業期間が長くなる.また,既成 市 街 地 で は 高齢 化や 商店 街の 衰退 が 顕著 に 表 れている.事業が長期化することで,権利者の高 齢 化と 商店街の 衰退に 拍車をかけ, 相続による資産の細 分化と 空き店 舗が増加すると考えられる. た だし, 本分析 に用い たデー タは 1 地区 のみのデータによる 転出要因を確認したにすぎ ず,全 国で 施 行 さ れ る 再 開 発 事 業 に 適 用できるとは 云 えない.そのため,本分析は権利者の 転 出動向の事 例 を示 す までに 留める .
表14 推定結果
変数名
Liner Probability Model Probit Model 係数 標準誤差 限界効果 標準誤差 Age 年齢 -0.0014 0.0022 -0.0012 0.0027 Sex 性別ダミー(男:1,女:0) -0.1544 * 0.0869 -0.1752 * 0.0870 Inherit 相続ダミー(有:1,無:0) 0.1456 * 0.0744 0.1910 ** 0.0891 Company 会社ダミー(会社:1,個人:0) -0.2639 *** 0.0916 -0.2353 *** 0.0840 Land 土地ダミー(所有:1) -0.6502 *** 0.1313 -0.7626 *** 0.0776 Build 建物ダミー(所有:1) -0.8591 *** 0.1838 -0.7423 *** 0.0543 Land_Build 土地・建物ダミー(所有:1) -0.8123 *** 0.1175 -0.7766 *** 0.0701 Com91 権利変換額or91条補償額 0.0000 0.0000 0.0000 0.0000 Com97 97条補償額 -0.0000 *** 0.0000 -0.0000 0.0000 Evalu 建物評価額比 0.3463 0.2479 0.3509 0.2531 _cons 定数項 1.4612 *** 0.1880 Number of obs 観測数 166 166 R-squared 決定係数 0.2957 obs. P 0.6144578 pred. P 0.6862761(at x-bar)
注:***,**,*はそれぞれ有意水準1,5, 10%に対応する. 9. おわりにおわりにおわりにおわりに 再 開発事 業に おける 都市計画 時の権 利者 の合意 水準は 80%と するこ とで事 業の 促進が 期待 できる. ま た,都 市計 画段階 で権利変換方式が決 定している場合は,全員同意型施行の場合は 88%,それ 以外 の 権利変 換方法 の場合は74%と する ことが 望ましい. 再 開発事 業にお ける都 市計画 時又は 組合設 立時の 合意水 準は, 都市計 画法に より権 利者の 3 分の 2 以 上 と 定 め ら れ て い る . し か し , 社会 調査による合意形成の実 態 は非常に高い水準であり,一 部 の地 方 公共団 体では 100% の同 意を義 務化しているものも見受けられ,地方公共団体による過度な規制が 行 わ れ て い る 傾 向 が あ る . 高 水 準 の 合 意 形 成 は 時 間 を 要 し , 事 業 効 果 の 発 現 を 遅 延 さ せ る . 地 方 自 治 体 が法で 定めら れてい る要件 以上に規制を行う要因は,現在の法制度が背景 にあると考えられる. 一 つ目は,事業代 行に対 する 責務 19 で あると 考えら れる.組 合や個人施行者,再開発 会社による事業 の継続 が 困難 となるおそれがある 場 合は,都 道 府県 または市 町村 は事業を 代 行する 義 務 がある.その た め , 事 業 の継続 性が 困難 となり市 町村 が事業を 代 行する 場 合は, 選 挙権を 有 する権利者や住 民 から 事 業 に 対 する反発が大きくなるため,地方公共団体は権利者からの提 案 により都市計画 決 定を行った と い う 事実を 欲 する インセンティブ が 働 くこととなる.しかしながら,事業の 継続 性は権利者の合意 水 準によ って決 定するものではない. 二 つ目は,土地 収 用法の 適 用であると考えられる.再開発事業は都市計画事業であることから土地 収 用法が 適用される,権利変 換時に 全員の 同意が 得られない場 合は,土地収 用法の 適用対象となるが, 実 際 に 運 用 す る に は 非 常 に 大 き な 調 整 コ ス ト が 生じ る.そのため,地方公共団体は,権利変換時に要 19 都市再開発法 第112条:都道府県知事は,第一種市街地再開発事業について,個人施行者,組合又は再開発 会社の事業の現況その他の事情により個人施行者,組合又は再開発会社の事業の継続が困難となるおそれがある 場合において,第百二十四条第三項,第百二十四条の二から第百二十五条の二までの規定による監督処分によっ ては個人施行者,組合又は再開発会社の事業の遂行の確保を図ることができないと認めるときは,事業代行の開 始を決定することができる.