研 究 報 告
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1.開発の背景
発音が学習できる日本語教育機関が限られている中で,早稲田大学日本語教育研究セン ターにおいては,初級から上級までの発音教育が受けられる。このことから,発音が学 習できることは,早稲田大学の日本語教育の特徴の一つと言える。毎学期発音クラスの受 講希望者は多く,定員数を上回ることが少なくない。Kinoshita(2015),中村ほか(2016)
によると,学習者が感覚的につかみやすい発音の学習方法や発音の捉え方は異なる。しか し,学習者自身で様々な学習方法を探したり,教材を集めたりするのは難しい。そこで,
国内外の多くの日本語学習者が自律的に発音学習を進められ,発音指導に関心のある日本 語教育関係者が,教育現場で自由に活用できるよう支援することを目的とし,Web教材
「つたえるはつおん」(www. japanese-pronunciation.com)の開発を始めた。
2.Web 教材「つたえるはつおん」のコンテンツ
Web教材「つたえるはつおん」のコンテンツの検討,およびサイトのデザインを確定 するにあたり,パイロット調査を行った(木下ほか2017)。この結果にもとづき,発音学 習で扱うべき項目を決めた。その内容は,クイズと動画コンテンツに大別される。まず,
クイズは,図左の「チェックする」で10問のクイズから発音のポイントの理解度をはか り,「結果の把握」をする。文脈の中で発音を聞き分ける問題にしている。結果はカテゴ リー別,すなわち日本語の音声項目別に示されるが,初学者のために「カテゴリーの説 明」を設けた。このほか,クイズの課題をさらに練習したい人のために,男女6名による 聞き分け練習や聞き分ける際の「ポイントの解説」を設けている。
音声学習のための Web 教材
「つたえるはつおん」の開発
木下 直子
中村 則子・山中 都・佐藤 貴仁
設置主旨
2014年度から2017年度まで研究プロジェクトの助成を得て(「日本語音声における 自律学習支援システムの開発」研究代表者:木下直子),Web教材「つたえるはつおん」
を開発してきた。現在,Web教材「つたえるはつおん」は,CJLの日本語クラスのみな らず,国内外の日本語学習者に活用されている。その中で初級学習者を対象とした支援 の一つとして多言語対応が求められてきた。そこで,2020年度はWebサイトの動画の 充実をはかるとともに,英語をはじめとする5か国語の多言語対応を行った。
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動画コンテンツには,主に発音学習の方法を紹介するもの,発音のルールを紹介するも のがある。いずれも発音指導の経験が豊富な講師による講義,学生相互の学び合いの様子 から自律的な発音学習を促す32の動画が公開されている。
動画は8つのカテゴリーに分けられる。そのカテゴリーとトピックには,リズム,ア クセント(複合名詞・動詞など),イントネーション(そうですか・いいですよ・きれ いじゃないなど),子音(「つ」の発音,「ざ・ず・ぜ・ぞ」の発音,「な」「ら」の発音,
「か・が」「た・だ」の発音,母音の無声化),気持ち(強調のしかた,丁寧な言い方,あ いづち,感動詞,キャラ)方言(大阪方言,広島方言,宮崎方言)などがある。学習者の 視聴完了率が,動画が長くなるにつれて低くなること,教師が授業中に簡単に導入に使え ることを考慮し,動画の長さを5分程度におさえたものになっている。動画の詳細は,木 下・中川(2019)を参照されたい。
3.2020 年度の活動計画
Web教材「つたえるはつおん」は,これまでテーマ科目群の発音クラスを中心に使用 されてきたが,発音クラス以外のテーマ科目群,総合科目群においても使用され,複数の 担当教員より初学者を想定した多言語対応が求められた。学内の外国人留学生の出身国・
地域別トップ20のうち,上位5位は,順に中国,韓国,台湾,アメリカ,インドネシア である(早稲田大学留学センターHP 2020)。また,国内の在留外国人の中にはベトナム が上位を占めることから,英語,中国語,韓国語,インドネシア語,ベトナム語の5か国 語の対応を進め,実装デザインについて検討する計画を立てた。このほか,母音の無声化 の動画,単音「ひゃ・ひゅ・ひょ」や方言のシナリオなど,新たに学生から要望の多かっ た動画を制作することにしていた。
図 1 Web 教材「つたえるはつおん」のコンテンツ
研 究 報 告 木下直子・中村則子・山中都・佐藤貴仁/音声学習のための Web 教材「つたえるはつおん」の開発
65 4.2020 年度の活動実績
コロナ禍で新たに動画を収録することはかなわなかったが,日本語の初級レベルの学習 者であっても理解ができ,スマートフォンでも使用可能なように多言語対応のデザインを 実装し,図2のような形で大規模にWebサイトを作り替えている。
動画については,「母音の無声化」の編集を終え,YouTubeにアップロードして公開し
た(図3)。さらに,「母音の無声化」,および昨年撮影した「宮崎方言の動画」(図4)の
内容に関してWeb教材「つたえるはつおん」のサイトに新たなページを作るために,動 画説明文を作成している。
5.研究成果概要
日本語教育研究センターにおける授業での活用を行ってきたが,2021年1月末現在,
「つたえるはつおん」のYouTube動画のチャンネル登録者数は4,170名,総視聴件数は21 万2,327回であり,中には1つの動画で4万3千回を超えるものもある。
動画やWeb教材「つたえるはつおん」に対して日本語学習者,日本語教育に携わる日 本人などから多くのコメントが寄せられており,その内容のほとんどが「役立っている」
「おもしろい」「説明がわかりやすい」「もっと更新してほしい」など,肯定的なコメント であり,ある程度の社会貢献ができていることが判断できる。
図 2 多言語対応の例(中国語版)
図 3 動画「母音の無声化」 図 4 動画「宮崎のことば」
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Web教材「つたえるはつおん」は,昨年度までに公益社団法人日本語教育学会の「実 践リンク集」に掲載されたほか(http://www.nkg.or.jp/kenkyusha/link#link2),ドイツにおけ る外国語研修での使用許可依頼メール,複数の一般企業から商業利用のメールが来ていた が,今年度は,タイの国際交流基金における日本語教師を対象としたオンラインセミナー での利用,公益財団法人横浜市国際交流協会が運営するよこはま日本語学習センターで発 行している情報雑誌「にほんごコミュニケーション」(第4号,2021年3月発行予定)で の紹介(https://yokohama-nihongo.com/ magagine),および,よこはま日本語学習支援セン ターホームページへの掲載,ほかにも外国人介護職員を対象とした研修での利用許可の問 い合わせがあった。学内にとどまらず,国内外の多くの日本語教育現場で活用されている ことについても合わせて報告しておきたい。
参考文献
木下直子・田川恭識・角南北斗・山中都(2017)「自律学習を促進させるためのシステムづくり
−Web 教材「つたえるはつおん」の開発−」『早稲田日本語教育実践研究』5,141-150. 木下直子・中川千恵子(2019)「第3部 ツール・コンテンツ編/18 気持ちを伝える音声のWeb
教材「つたえるはつおん」」當作靖彦 監修・李在鎬 編集『ICT×日本語教育−情報通信技 術を利用した日本語教育の理論と実践』ひつじ書房
中村則子・木下直子・柳澤絵美(2016)「学習者の特殊拍の捉え方−身体運動と指導後の評価の 伸び−」『日本語教育方法研究会誌』22巻,3号,72-73.
早稲田大学留学センター(2020)「早稲田大学外国人学生在籍数」『統計データ』(https://www.
waseda.jp/inst/cie/assets/uploads/2020/07/202005_jp.pdf)2021年1月21日閲覧
Kinoshita, N. (2015) Learner preference and the learning of Japanese rhythm. In J. Levis, R. Mohamed, M. Qian & Z. Zhou (Eds). Proceedings of the 6th Pronunciation in Second Language Learning and Teaching Conference (ISSN 2380-9566), Santa Barbara, CA (pp. 51-62). Ames, IA: Iowa State University.
(きのした なおこ,早稲田大学日本語教育研究センター)
(なかむら のりこ,早稲田大学日本語教育研究センター)
(やまなか みやこ,早稲田大学日本語教育研究センター)
(さとう たかひと,早稲田大学日本語教育研究センター)