ドイツの新移民法案 につ いて
福 田善彦
1.は じめに
1)
ドイツ初 の移民法案 は,2001年8月3日内務省 案 と して発 表 され,一部 修正の上,11月7日政府案 と して閣議決定 された。 同法案 (滞在法,EU市 民 自由移動法の2新 法 と関連諸法の一部改正 か らなる法案) の中核 は 「滞在 法案」 であ り,滞在法案 は1990年成立 した現行 「外 国人法」 を全面 的 に改正
す るものである。 (なお,以下 月 日のみ記載 の場合 はすべ て2001年) シリー内相 は,本来 の 日程 として,移民法案 につ き与野党 の意見 を聞いた 級,9月26日に政府案 として閣議決定 し,12月末 まで には両議会 で可決成立 との段取 りを表明 していた。 ところが この 日程 は,9月11日の予想外 の同時 多発テロの影響 を受 けて大幅 に延期 され,11月7日に ようや く閣議決定 をみ た ものであ り,今後両院 を通過す るか否 か,成立す る としてそれは何 時頃 に なるかの見通 しは現時点 (12月上旬)では明確 ではない。 この ような状況変 化に伴 い現在 まで に入手 した法案 は上記8月3日の内務省案 のみであ るので (一部修正 の上11月7日閣議 決定 された法案 は未入手),本稿 では これ を もと に,新移民法案が必要 となった経緯,同法案 ,特 に滞在法案 の特徴並 びに連 立与党 の同盟90・緑 の党 (以下緑 の党)及 び野党 第1党 のキ リス ト教民主 同 盟 (以下 CDU)・キ リス ト教社 会 同盟 (以下 CSU)との交 渉 にお ける問題 点及び修正点 を検討 してみたい。
357
2.1990年の現行外国人法
現行外 国人法 は
1 9 9 0
年 に旧外 国人法 を抜本的に改正 した ものであるが,そ の改正 目的は,事実上定住化 した大量の外 国人労働者 とその家族 の地位 を安 定化 し, ドイツ社会への統合 を促進 し, もって社会的平和 を確保するととも に,新規の流入 を抑制 し,その定住化 を阻止す ることにあ った。 この 目的に 沿 って滞在許可 も, どの滞在 目的で も滞在が長 くなることによ り上位 の滞在 許可 を付与する従来の方式 を改め,全体的な概念 として滞在認可 を置 き,そ の下 に一方では従来の (期 限付 き又 は無期限の)滞在許可及 び (無期 限の) 滞在権 を,他方では新 に一時的に しか滞在 を認めない滞在承認 あるいは滞在 権限 を設 け, さらにこの他亡命手続 き進行 中の滞在保 障 としての滞在許与,2) EEC諸国民滞在法 に基づ くEEC諸国民滞在許可 などが設 け られた。 この新 方式 によ り新規移入者の定住化の阻止が図 られたが,滞在許可制度 はいはば 建て増 しが続 き複雑 な様相 を帯びることとなった。 また,定住外 国人の ドイ ツ社会への統合 については,同外 国人法 による帰化 の容易化及 び
1 9 9 9
年の国 籍法改正以外み るべ き方策は とられなかった。加 えて
,9 0
年外 国人法の成立 と前後す る時期 か ら,東西対立解消 に伴い, 限 られた通常の労働力受 け入れ とは別 に,亡命希望者 (実態 はかな りの部分 経済難民), ドイツ系帰還移住者が急増 したため,政府 は引 き続 きその対策 に追われ,前者 については9 3
年6
月の基本法の改正の結果, ピークの9 2
年約4 3 . 8
万人か ら,2 0 0 0
年 には約7 . 9
万人 に, また,後者 も連邦被追放者法の諸改 正 によ り最高の9 0
年約3 9 . 7
万人か ら2 0 0 0
年 には約9 . 6
万人 にそれぞれ大幅な減 少 をみた。(2)外 国人の流入問題 については,以前 か ら2つの考 え方が対立 してい た。その一つは,定住化 した外 国人は ドイツ社会 に統合す るが,これ以上の 流入 と定住化 は抑制す るとい うもので,政党では主 としてCDU,CSUがと
358 国際経営論集 No.23 2002
る立場であ り,上記の90年外 国人法 も当時政権 を担当 していた両党の考 え方 を反映 した ものであった。その二 は, ドイツを移民国 と位置付 け,開かれた 移民政策 と外 国人 との共生 を宗 とする統合政策 を追求 もので,主 として緑の 党,社会民主党 (以下SPD),ある程度 自由民主党 (以下FDP)もこれに入 れることがで きる。近年社会の高齢化 と少子化 , これに伴 う人 口減少 の見通 しが強 まると, ドイツで も後者,つ ま り積極 的な移民受 け入れ‑の政策転換 を求める声が次第 に高 まって きた。
3 .
赤緑連立政権発足後の移民法制定 に対 する政府及び各党の態度(1)1998年10月,16年振 りに政権 の座 についたSPDに緑の党が加 わった 通称赤緑連立政権が発足 したので,同政権 は以前か らの両党の主張である移 民法の成立 にい よい よ着手す るのではないか と考 えられた。すでに選挙前 の 98年7月SPD内政担当のゾ ンタ‑ク‑ヴオルガス ト議員 は国籍法の大幅改 正 と移民の年 間クオーター制 を含 む移民法の制定 を主張 していた。 ところが い ざ政権 を担当す る段 になると移民法問題 に対す るSPD首脳部 の態度 は慎 重姿勢 に変わ り,同年10月28日に締結 された連立協定では,緑 の党が出 した 移民法制定の要求 は受 け入れ られず,国籍法改正 を柱 とす る外 国人統合政策 のみが盛 られたに過 ぎなかった。同年11月シ リー内相 (SPD)は失業者の多 い現状では移民 も移民法 も必要でない と言明 し,その消極姿勢 を明 らかに し た。
この ような政府 の姿勢 は,折か らの国籍法改正 に伴 う二重国籍問題 をめ ぐ り争われた99年2月のヘ ッセ ン州議会選挙 の敗北 によ り一層強 まった。
ところが2000年 に入 ると政府 の消極姿勢 に変化が起 る。経済界 の強い要望 に基づ き,同年3月 シュ レーダー首相が提案 したIT専 門家の大量募集 (所 謂 グリー ン ・カー ド制度) は,73年以来の労働移民募集 中止の放棄,需要 に 応ずる労働移民の再 開を示唆す る もの として注 目を浴 びた。 グローバル化時
ドイツの振移民法案 について 359
代 の最良の頭脳 の獲得競争 とい う新 たな状況 に対応 し,労働力受け入れの必 要が,特 に経済界か ら起 こったわけである。 また,高齢化 と少子化 による人 口減少 に対応する移民受け入れの声 も大 きくなって きた。 こような事態 を前 に して,シリー内相 は2000年7月CDUのジュスムー ト前連邦議会議長 を長 とする超党派的な独立移民委員会 (通称 ジュスムー ト委員会) を発足 させ, 包括的な移民法策定のための報告書 を依頼 した。同報告書 は2001年7月4日 政府 に提出され ところ,政府側のこのような動 きに平行 して,これ より前あ るいは後 にCDU/CSU,緑 の党,FDP,PDS(民主社会主義党一旧東独党 の後続政党,野党) も次々 と移民問題 に関する決議 を発表 した。
この うち,FDPは野党 なが ら基本的に政府 に歩調 をあわせ る姿勢 を示 し てお り,PDSは広 く国境 を開放すべ Lとのユー トピア的な 「人権 的移民政 策」 を主張するのみで,移民分野では政治的重要性 をもっていない。従 って 後述の内務省案 との関係 で重要性 をもち,これに影響 を与 えられる党 は野党 第1党のCDU/CSU及び連立与党なが ら独 自の人道主義的移民政策 をとな える緑の党であるので,内務省案 に先立ちCDU/CSU及 び緑の党 の主張な らびにジュスムムー ト委員会の報告のポイン トを紹介 してお きたい。
(2)CDU/CSUの立場
両姉妹政党は早 くか ら包括的な,つまり流入の制限 と定住外 国人の統合の 双方 を含 む移民法案の必要性 を主張 していた。すでに99年3月16日CDU/
CSUは両党の国籍法改正案 を連邦議会に提 出 した際 に,同時 に 「現代 的外 国人法」お よび 「統合 と寛容」 と題す る2つの動議 を提出 した。両動議は暫 決 されたが,前者は長期適法 に滞在す る外国人の統合お よび非EU諸国か ら の外 国人の流入制限 と犯罪外国人の滞在終了に必要な外国人法の改正点を列 記 した もの,後者 は特 に外 国人統合のための包括的計画の策定 を要求 し,そ れに含 まれるべ き事項 を記載 した ものである。いずれの動議 もこれ以上の外 国人の流入 を制限 し, ドイツ社会の変質をもたらさない ような統合の促進 を 狙 った もの といえるが,流入制限 と統合 を連携 させて包括的に取 り扱 ってい
360 匡Ⅰ際経営論集 No.23 2002
る点に特色があった。
ついで
2 0 0 1
年に入いると,遠か らず発表 されるであろう政府の移民法案 を 念頭 に,先ずCDUとCSUは移民問題 に対す る両党の立場の相違 をす りあ3)
わせた共通 ポジシ ョン ・ペーパー を5月10日に発表 した後,6月7日CDU 4)
全国委員会 による移民法構想 の可決, さらに7月3日CDU/CSUによる政 5)
府に対する移民法案の提出を求める動議 と続 くが,CDU移民法構想が他の 2者 とくらべ詳細であることを除けば, 3者 とも基本 ラインはほぼおな じで ある (若干異 なる点はある,例 えば,CDU/CSUのポジシ ョン ・ペーパー 及び動議では,亡命権 につ き濫用が減少 しなければ,基本法上の権利か ら制 度的保証への転換 を再検討すべ きだ, とあるのに対 し,CDU移民法構想 で は,現在転換の必要はない, とある)。ただ し,両党,特 にCDUリベ ラル派 とCSUの違いがその後盛 んに報ぜ られることになるが,それは力点の置 き 方,政治戟略の違いに起因す る場合が多い。
これ らの文書 に共通する特徴点は,これまで 「ドイツは移民国である」 と の現状認識 をもつ CDU内のリベ ラル派 とそ う見 ないCSUとの間をとって,
「ドイツは古典的な移民国家ではない」 と表現することによ り,両姉妹政党 はともに初めて 「移民国家ではない」 との従来の端的な公式定義か ら一歩踏 み出す表現 をとった点は目新 しいが,移民政策 と統合政策 とを包括的にとら えた上,移民流入 を制限 し,定住者 を ドイツ社会へ強力 に統合することを重 視 している点では一貫性がある。すなわち(a)移民 ・統合政策は欧州文明を基 礎とした ドイツの国民的,文化的アイデンティティーの上 に立て られるべ き であること,(b)移民は人口減少 と高齢化傾向を緩和 はす るものの,それで埋 合わせることは不可能であ り,国内労働力の活用,教育,家族,職業等の政 策分野での措置 をもって人口変動 に対応すること,(C)移民は ドイツの統合能 力に合わせて制限 し,国益 と国民的アイデ ンティテ ィーを考慮 に入れた調節 を行 うこと,(d)亡命権濫用 を制限す るため,迅速 な亡命手続 き,送還の厳 格な実施,(d)戦争 ・内戟難民 は一時的受 け入れ を原則 とす ること,(e)子 の
ドイツの振移民法案 について 361
呼び寄せの年令制限は教育,職業上の統合 を容易 にするため現行の16才か ら 10才以下に引 き下げること
, (
i)労働移民は労働市場 に需要があ り,かつ,内 国人で埋め られない場合 に限ること, さらに,かかる移民はすべての種類の 移民の全体的クオーターの枠 内で行い,クオーターは政府が毎年連邦参議院 の同意の下 に確定 し,クオーターに入れる人物 は年令,学歴,職業, ドイツ 語知識等 々を基礎 とした点数制 によ り選択す ること,(g)統合 は ドイツ語の 習得,キリス ト教 的西洋的文化の価値秩序の受け入れを意味 し,統合講座へ の参加 を義務付 け,平行社会の形成 を阻止すること,などを挙げている。(3)緑の党の立場
緑の党は先ず
2 0 0 0
年1 1
月1 3
日同党議員団及び党内移民問題担当者の作成 し 6)た移民政策の3本柱構想 を発表,ついでこれに基づ く同党の移民法構想の 7)
決議 を
2 0 0 1
年3
月1
1日の党大会において可決 した。同決議の要点をまとめると,緑の党は 「ドイツは移民国である」 との立場 に立 って,移民受け入れの3本柱 をたて,第 1の柱 は経済的理由か らの移住 であ り,部門別に柔軟 な割 り当て制 をとること,第2の柱 は政治的,人道的 理由か らの受け入れ,第3の柱 は法的請求権 に基づ く移民 (家族合流,亡命 者)であ り,後の2者はことの性質上制限を設け られない として,移民流入 の制限を重視するCDU/CSUの立場 と真 っ向か ら対立す る内容である。ま た,統合 について は, ドイツ語 の習得 の必 要 ,基本 法 の尊重 は緑 の党 も CDU/CSUも同 じであるが,緑 の党が多様 な文化的伝統の受 け入れ と相互 影響 を強調 しているのに対 しCDU/CSUはキ リス ト教的文化, ドイツ的ア イデ ンテ ィテ ィーの保 持 を重視 してお り, また,統 合 講座 へ の参 加 を CDU/CSUが義務 としているに対 し,緑の党 は請求権 としているなど基本 的な考 え方の相違が うかがわれる。
(4)独立移民委員会 (通称 ジュスムー ト委員会)
2 0 0 1
年7
月4
日政府 に提出された同委員会の報告書 「移民 を形成 し,統合 8)を促進す る」 は彪大 な ものであるが,同報告書概要及 び新聞報道 をもとに 362 国際経営論集 No,23 2002
まとめると,その特徴 は次 ぎのようなものである。 まず, ドイツは事実上以 前か ら移民国であるが, これまで全体構想が欠けていたので,人口減少 と老 齢化に対する予防措置 をとり,これが経済発展,革新能力,労働市場 に対 し 与える悪影響 を阻止 しなければならい として,労働力市場の需要 に基づ く労 働移民 も,また,人口統計学的理由に基づ く移民の受け入れ も認め,クオー ター制 と点数制 を導入 し,人数 もかな り具体的数値 を示 した ものである。そ の場合外国人労働力 を6種類 に分 け,① 自営業 (人数制限な し,無期限滞在),
②高資格者 (年約2万人,無期 限滞在),③学生 (人数制限な し,期限付 き 滞在),④研修員 (年 1万人以下,期限付 き滞在),⑤不足労働力 (年約2万 人,期限付 き滞在),⑥幹部社員 ・学者 (人数制限な し,期限付 き/無期限 滞在),従 って初年度の移民 を約5万人 と見積 る とともに,移民評議会 は毎 年②,④ ,⑤ の最大人数 を決定すること,滞在 ・労働許可は期限付 きと無期 限に2種類 に削減すること等 を提言 している。
統合政策 も詳細で,移民 と統合契約 を締結 し,言語,労働市場,社会問題 コース
6 0 0
時間への参加 を義務付 けること,学校では外 国語 としての ドイツ 請, ドイツ語 によるイスラム宗教時間を平常授業 として採用す ることなどを 提言,また,統合 コースの年間経費 を6 1 5
百万マルクと見積額 も出 している。4.移民法内務省案
(1)
2 0 0 1
年8
月3
日,
「移民の調節 と制限並 びにEU
市民及び外 国人の滞 在 と統合の規律 に関す る法律案」 (通称移民法案,閣議決定前であるので内 9) 務省の案)が シリー内相 によ り発表 された。その際のシ リー内相の声明 によると,(a)本法 により,現行の外 国人法お よび
EEC
諸国民滞在法はそれぞ れ 「滞在法 (連邦領域 における外 国人の滞在 ,就業,統合 に関す る法律)」 及び「 EU
市民 自由移動法( EU
市民の一般的な自由移動 に関する法律)」の 両新法 に置 き換 えられ,また,亡命手続 き法,外国人集中登録簿法,国籍法,ドイツの振移民法案 について 363
連邦被追放者法,亡命 申請者給付法,その他の法律がそれぞれ一部改正 され るが,その核心は外国人法の全面的改正であること,(b)法案は種 々の委員会 お よび各党,団体 な どの勧告,助言 を受 け入れ,特 にジュスムー ト委員会,
CDU
移民委員会の勧告,助言 を受け入れて作成 されたことを強調 した。(2)上記(b)の点か ら, この法案 をコンセサス方式で成立 させ ようとのシ リー内相の意図が読み とれる。すなわち,本法案 は連邦参議院の同意 をも必 要 とするものであるが,この同意 には,与党州だけでは過半数 に4票不足 し,
どうして も与野党連立の州1ない し2州の支持が必要 となるので,具体的に は
CDU
移民委員会 (議長 は党内 リベ ラル派の ミュラー ・ザールラン ド州首 棉)の意見 を最 も考慮 に入れたとしている。また,法案は州,政党,関係 団体 との話 し合いの後,9月26日に閣議決定 の上,議会 に提出する とのスケジュール も声明の中であわせ述べ られたが, これは99年国籍法改正 に当 り二重国籍問題がテーマ化 されヘ ッセ ン州議会選 挙 に破れた苦い経験か ら,移民問題が2002年の総選挙の際の選挙戦のテーマ とならぬ よう,引 き続 き野党 との コンセ ンサスを得 なが ら,年内に早期成立 させたい との意向を示唆するものであった。
(3) シリー内相が声明の中の概要説明において,現行外 国人法の重要な 改正部分 として挙げている諸点にそって,その主要部分 をみてみ よう。
1.滞在法の新構成
(a)外 国人法は出入国,滞在 ,労働 ,外 国人統合等 を含 む包括的な新規 則 である滞在法 に置 き換 え られる。それ とともに移民政策のみなら ず,は じめて外 国人統合政策 に関する規則 も同一の法律 に加 えられ, また,移民政策 に関 しては,従来別建 てであった労働許可の重要規 定 と滞在許可 もは じめて一本の法律 にまとめ られ,整理整頓 される。
これに対応 し,今 までの滞在許可 と労働 許可の二重許可制 は煩雑で ある として,内部的同意手続 きの一本 に代 え られ る。 この結果,申 請者 は今後外 国人局 と労働局の双方ではな く,外 国人局 だけに行け 364 国際経営論集 No.23 2(氾2
ばよいことになる と思われる。
(b)在留資格 の数 は,現在滞在権 限 (非常 の場合 の滞在 の許可),滞在承 認 (一時的滞在 の許可),期 限付 き及 び無期 限の滞在 許可 ,滞在権 (定住 の許可) に分 かれている ところを,期限付 きの 「滞在許可」 と 無期 限滞在 の 「居住 許可」 の2種類 に削減 され (ジュスムー ト委員 会 も同様 の勧告 を していた),滞在法 は滞在 の 目的 (教育,就業活動, 家族合流 ,人道的理 由) に従 って外 国人滞在 を規律 す る。従来 は滞 在資格 の数が多 く,それがある程度滞在 目的 に相応 した ものであ り 複雑 であるだけで な く,一時滞在 か ら長期滞在へ の移行 は原則 的 に は認め られなか ったが,滞在法の下では期 限付 き滞在 許可か ら無期
10)
限の居住許可への移行 は原則可能 となる のが現行法 との大 きな違 い である。
(C)従来の連邦外 国人難民認定庁 を拡充 し新 に連邦移民難民庁 が設置 さ れる。同庁 は包括 的 な滞在法 に対応 し,労働移民 の受 け入 れ制 ,定 住外 国人の統合計画の実施 など包括的な任務 を担 う。
2.
労働移民 (就業活動)外 国人法及 び労働 許可法 はこれ まで移民制限 と募集 中止 の原則 に基づ き,労働 のための入国は原則禁止であったが,今後,労働市場 の需要 と ド イツの利益 に合致 し,変化する状況 に適切 に反応で きる柔軟 な労働力調節 の方針 に転換す ることとしたのが特徴 である。その意味で73年以来の労働 者募集 中止の放棄 をも意味す る。 また,手段 は多層 的 となる。その中には 次に述べ るように,国内需要 に基づかない (人口統計学的理 由を念頭 にい れた)点数制 によ り限 られた数の資格 のある労働力 も国の利益 になると認 めれば受 け入れる選択制 も導入 している。
すなわち労働力受け入れに5方法がある。(∋従来か らあるが制限的 に し か行 われなかった手続,つ ま り需要があるが,内国人では埋め られない場 合の労働力の受 け入れである (滞在法第18条,以下明示 のない限 り滞在法
ドイツの振移民法案 について 365
の条項)。ただ し今後 は地域 的,部 門別の状況が重視 され,地区の労働局 が受 け入れを決定す る。決定 は裁量 による ものの,原則禁止 の時代 にはこ
1い れはネガティブに働 いたが,今後 はそ うではな く逆 に働 くとしている。② IT専 門家 など高資格者, これ らの者 には最初か ら居住許可が与 えられる。
(第19条)0③必要 な場合 ,補足的 に限定 された数の選択手続 きによる移民 の受 け入 れ (第20条)。その 目的 は ドイツの経済的利益 と発展 に貢献 し, かつ, ドイツへ の統合能力のある者の受 け入れにあ り,具体 的な労働需要
12)
の有無 に関係 す る ものではない としてい るので,そ こにはある程度人口 統計学的考慮が含 まれているであろ う。「ドイツは移民 国ではない」 との 立場か らの決別で もある。選択 は点数制 によ り一定の基準 (年令 ,職業資 檎,職業経験,家庭状況, ドイツ語知識, ドイツとの関係,出身国等)に 従 って行 われる。滞在資格 として居住許可が与 えられる。選択ではEU加 盟候補 国 (つ ま り中 ・東欧諸国)の国民が特別 に考慮 されるだろうとして いる。連邦移民 ・難民庁及 び連邦労働局が移民委貞会の参加 の下で選択制 による移民の最高数 を確定す る。 しか し,シリー内相 は人口統計学的理由 による移民拡大 に反対す る
CDU/CS U
の反発 を考慮 して,
「必要 な場合」,「補足 的 に」
,
「限定 された数」 との非常 に控 えめな言葉 を用 いている。④ ドイツの大学 を卒業 した外 国人学生 はこれ まで帰国 しなければな らなかっ たが,今後国内就職 は高資格者 として可能であ り,それ どころか他の工業 国に移住 しない よう阻止すべ きだ とい う。卒業後求職のため1年 間滞在 も 許可 され る (第16条)。⑤ ドイツの経済や雇用 にプラス となる自営の人々 の移住 。最初3年 の滞在 許可 ,ついで居住 許可が付 与 され る (第21条)0 このほか⑥就業 日的ではな く家族合流,人道的理由によ り移住 した者の労 働市場‑のアクセス を部分 的に容易化 している。CDU/CS U
は労働移民 については,前記3.( 2)
の とお り,人口統計学 的理 由による移民 に反対す るだけでな く,需要 に応 じ,かつ,内国人で埋 め られない場合の労働力受け入れについて も, これに人道上の及び請求権 366 国際経営論集 No.23 2002に基づ く移民受け入れ等すべてを含 む全体的クオーターを政府が決め,点 数制 により選択 し,流入 を厳 しく制限するとの立場であるので,③以外枠 を設けていない内務省案 とかな りの相違がある。なお,専 門的労働者の不 足 に悩 む経済界 は政府案の上記労働力受け入れ方法 を強 く支持 している。
3.家族合流
ここでの問題 は,子の呼び寄せ年令の制限 (第
3 2
条) につ き,家族的結 合 を重視するか (その場合基本法の基本的人権の部分 に入 る第6条の 「‑ 一家族 は‑ 特別の保護 を受ける」が根拠 とされる),統合 のため早期の 語学教育 を重視す るかで対応が異 な り,緑の党,ある程度 SPDは前者, CDU/CSUは後者の立場 をとる。現行外 国人法では子 を後か ら呼び寄せ る場合の年令制限は16才であるが,EU委員会はEU各国に18才 までの子 との基準 を提案 している。法案では,亡命認定者,ジュネーブ条約難民の 子の場合,家族 と一緒 に入国 (だだ し引っ越 しはプロセスであ り,時間的 幅のあることは容認 される)の場合,高資格者の子である場合,選択手続 きの枠内での入国者の子の場合請求 により, ドイツ語が十分 な子の場合や その他の場合 も裁量 により18才 までの子の合流は可能。それ以外 の呼び寄 せは従来の16才 までを12才 までに引 き下げる。 この点,後述の ように緑の 党 は18才への引 き上げを,CDU/CSUは少 な くとも10才への引 き下げを 要求,争点の一つ となったが,シリー内相 と各党 とのこの点の交渉はかな り賃金交渉的なもの とな り,その意味で最終的にはある程度妥協の し易い 分野であろう。4.人道的受け入れ
次の5.とともに,保護 を受 ける者 と出国 させ る者の区別 を明確 に し, 不法滞在者の減少 と帰国の迅速化 をね らっているのが特長。本来非合法入 国であ り,国外退去 させ なければならないが,帰国すれば安全が保証 され ず,保護 を要するとの理由で滞在 を容認 (送還の中断) され,不確定 な状 態に置かれている者が約26万人お り,これ らの処置が特 に問題 となってい
ドイツの振移民法案 について 367
た。シリー内相は帰国できない者と帰国義務を意図的に逃れようとする者 とを峻別し,前者には保護するだけでなく期限付き滞在許可(労働も可能) を与えてその地位を安定させ,後者は強制退去させるというもの。容認と いう中途半端な制度は廃止される。
5 .
出国義務出国義務のある者は,出回収容施設に住むことを義務付け,厳しく出国 を促す。問題国の国民からピザ申請があった場合は,その段階で写真と指 紋をとり,同一性の確認を確保する。これは多くの場合,旅券等を隠蔽し て帰国を困難にしているケースが多いためである。指紋についは後に緑の 党の強い反対に出あったが,予想外の同時多発テロ事件もあってシリー内 相は押し通すことができた。
6.社会給付
これまで,出国義務のある者と亡命申請者は3年を経過するとより内容 のよい連邦社会援助法上の給付を受けられるので,滞在終了を遅らせよう とする刺激となっていた。従ってこれを回避するため,全期間にわたり給 付内容の悪い亡命申請者給付法上の給付(大体実物給付)を受けさせると いうもの。
7.統合
統合講座参加への請求権を与え,逆に参加義務も課し,また参加,不参 加に利益,不利益を結びつけ,実質的な統合促進を図ることが特徴である。
前述のように
CDU / CSU
の案は参加の義務を,緑の党は参加への請求権 を強調していたが,その中間の立場をとっている。すなわち, (a)国の統合 計画の最低枠 (ドイツ語講座,ドイツにおける法秩序,文化,歴史の入門)を法的に規定する, (b)長期滞在する者は講座参加の請求権をえる。滞在6 年以下の者, ドイツ語が不十分な者は,参加義務があり,非参加の場合,
滞在延長のときそのことが考慮される。(c)講座参加で、成果があがった場合,
帰化申請の期限を8年から 7年に短縮する。 368 国際経営論集 NO.23 2
∞
28.EU市民 (EU市民 自由往来法)
EU市民 の入 国,滞在 に関す る諸法令 をま とめ,一層 簡素化 した。EU 市民の滞在 許可 は廃止 し,届 け義務 だけ とす る。代 わ りに証明のため に滞 在権の証 明書 が発給 され る。本法 は現行法 の場合 と同様 EEA(欧州経 済 領域)の非EU国民 (つ ま りノルウェー, アイス ラン ド, リヒテ ンシュ タ
インの国民) に も適用 され る。
9.
亡命手続 き亡命者 の受 け入 れ を厳 しくす るため,亡命権者 に3年後長期 滞在権 を付 与す る前 に,出身国の情勢が変化 しているか否 か を再審査 し,認定の前提 条件が最早 ない場合 は認定 を取 り消す ことにす る と して,亡命者の取 り扱 いを厳 しくした。その他亡命手続 きの迅速化 な どの改革がある。
10.国籍法の改正
外 国人法 中の帰化手続 き,二重国籍 の例外 的容認 に関す る諸規定が国籍 法 に移 され,国籍 の得喪 に関す る諸規定 はすべ て国籍法一本 にまとめ られ る。帰化手続 きが外 国人法 に規定 されていたのは ドイツ統一 までは国籍法 改正 に手 をつ け られ なか った事 情 もあ った もの と考 え られ る。 この他 ,
「直接 的 な帝 国国籍」
,
「領邦」 な どウイルヘ ルム皇帝 時代 以来 の古 い言葉 も一掃 され る。5.CDU/CSUの法案に対する見解 とシリー内相の対応
(1)内務省案発表後 の与野党 の反応
シリー内相 は前述 の とお りその声 明の中で,野党 CDU移民委員会の報告 に十分 配慮 した と述 べ て い たが , 内務 省 案 に対 す る反応 は様 々で あ り, CDU内 リベ ラル派 (例 えば ミュラーCDU移民委員会議長)が コンセ ンサ ス を可能 とみ たの に対 し
,CS U
の党首 シュ トイバ ーは,流入制 限が明確 と なってお らず,支持 で きない との強硬 な立場 を早 くもとった。与党緑 の党 もドイツの振移民法案 について 369
CDU/CSUとは逆の立場か ら, この ままでは受 け入れ られず,特 に家族合 流の年令制限問題,非国家的迫害等人道的問題で修正が必要 としたが,野党
F DP
は基本的に賛成の立場であった。CDUとCSUとの間の法案 に対す る評価 の相違 は,来年の総選挙 において 移民問題 をテーマ とす るか否かの選挙戦の戟略の問題 にも波及 し,これはさ らに誰 をCDU/CSUの首相候補 にす るか (移民問題 を選挙戦のテーマ とし ようとす るCSU党首 シュ トイバーかテーマ化 を希望 しないCDU党首 メル ケルか)の問題 をも誘発 した。
(2) しか しCDUとCSUは内部対立 に も拘 らず8月23日共同で法案 に対 13)
す る両党 の見解 をまとめて発表 し, シリー内相の反応 をみ ることとなった。
それによる と :
CDU/CSUの法案 に対す る同意 は移民の制限 と調節 の 目標が実際 に達成 されるか否かにかか っているとして,特 に(a)高資格者, 自営業者,学生の無 制 限 な受 け入 れ に は 同意 で きず , また,選 択 手 続 きに よる労働 移 民 は CDU ・/CSUが常 に反対 して きた人口統計学的理由による移民形態であ り, 20条 (選択手続 きによる移民)の削除 を要求す る,(b)家族合流のための子の 呼び寄せ年令制限 を12才 に引 き下げているが,以前か ら10才以下 を主張する 同党 にとっては不十分である,(C)移民の統合 に要す る経費 に連邦が どの程度 負担す るのか も明 らかでない, と批判 した。
(2) シリー内相 はこれ まで寄せ られた批判点は注意深 く検討す るとして, 9月2日ミュラーCDU移民委員会議長,CSUのペ ックシュタイ ン ・バイエ ル ン州内相 と会談 をもち,CDU/CSUとの コンセ ンサスに強い期待 を寄せ た。 ミュラーはこの会談の印象か らシリーよ り譲歩があるとみたが,ペ ック シュ タイ ンは新 法 に よ り移民 を増加 させ ようと してい る と批判,CDUと CSUの対立が公然化 した。メルケルCDU党首 は連立与党内の協議 の結果 を 待つべ きだ として事態の沈静化 を図った。一万6日シリー内相 と緑の党 との 会談 も論争点の中心である子 の呼び寄せ年令 の18才への引 き上げ及び非国家
370 国際経営論集 No.23 2002
的 ・女性特有の迫害 を亡命理由 として明記すべ Lとす る緑 の党 の要求 につ き 一致す ることな く終わった。
( 3
) シリー内相 はこれ らの会談 を経 た後,9
月7
日,先 に8
月3
日発表 した移民法 に関す る声明中の概 要説明 を若干訂正 して再度提示の上,各党か14)
らの個別的批判点 に対す る同内相 の見解 をもあわせ発表 した。 こうす ること によ り各党の主 な批判の所在 を明 らかに し,それに対 し一応 の反論 を行 なう とともに各党の一層の歩み寄 りを求めた。す なわち :
1.移民法案の概要説明 については前 回 と殆 ど変更はないが,ただ選択制 に基づ く労働移民の受 け入 れにつ き,あ らたに 「この制度 は幾年か後 に は じめて適用 される。おそ らく2010年前ではないであろう」 との文句 を 追加 し,CDU/CSU,特 にCSUのこの制度 に対す る強い反対態度 に配 慮 を示 した。
2.各党の主要な個別的批判点 に対す る見解 としては‑
批判 1
.
「法案 は外 国人法の厳格化及 び難民 の地位 の悪化 を含 んでい る」 (緑 の党 か らの批判) :これは亡命者,難民 の うち出国義務 のある 者 を,出国で きない者 と出国義務 を国籍 の隠蔽な どで意図的に免 れ よう とする者 とに厳格 に分 けて取 り扱 うことを狙 った ものである。 これ まで 双方 とも保護 を要す る者 として滞在 を容認 して きたが,今後容認 を廃止 し,前者 に対 しては滞在の容認 を滞在許可 に代 えたのは明確 な改善であ ると反論。批判2.「女性特有 の及 び非国家的迫害の犠牲者 の保護が明記 されて いない」 (緑 の党か らの批判) :このグループの保護 について も今 まで 滞在が容認 されていたに過 ぎなか ったが,批判 1.で も述べ た とお り,
きちん と滞在許可が付与 されることとな り,実際的改善がなされ ると反 論。従来非国家的迫害の犠牲者 の保護 については,保護論 と責任帰属論 とが あ り, ジュネーブ難民条約 は保護論 に立 つが,連邦行 政裁判所 は
1 9 9 4
年の判決以来,難民法上の保護 を国家機 関による迫害 もしくは責任ドイツの振移民法案 について 371
帰属論 に従い国家が責任 を負 う迫害 に限定 している, との事情があるの 15)
で,緑の党 としてはこの点是非改善の上それを明記 させたいのである。
批判3.「3年後 の亡命認定者 の再審査」 (主 として緑 の党か らの批 判) :出身国にいかなる迫害状況 もな くなれば,引 き続 き保護 を認める 理由はない としてつっばねている。
批判4.「子の呼び寄せ年令制限の規則 に対する批判」 (呼び寄せ年令 限度の現行16才か ら12才への引 き下げに対 しCDU/CSUは引 き下げが まだ不十分 とし,緑の党 は逆 に18才への引 き上げを求めているもの) : 一方で18才 までの家族合流請求権 を与 えている場合が広 く設 けられてい ること,他方で子の統合 を改善す るために,子が母国に教育のため送 ら れ,16才で再び呼び戻 されるようなケースは統合上回避 されるべ きであ るので12才への引 き下げは安当 と反論 した。
批判5.「法案 は統合経費の連邦 と州 との間での分担 についての言及 がない」 (主 としてCDU/CSUか らの批判) :今後政治的話 し合いが 行 われるべ きであるとして,妥協の用意があることを示 した。
批判6.「法案 は移民の制限を含 んでいない」 (CDU/CSUが強 く批 判 してる点) :この批判 に対 し,一方では,多 くの移民制限措置 をとっ ていること,例 えばビザ 申請の際の本人確認の確保のため指紋押印,写 真 を求めるいること,出国義務者 を収容する出国施設の導入,亡命申請 者 と出国義務者 に対する社会給付の長期的引 き下げ,本人証明及び国籍 のごまか しを犯罪要件 としたこと等 をあげ,他方では専 ら移民制限の原 則か ら規定するのではな く,経済上の理由か ら柔軟 な調節 を可能にする ことが必要であ り,人道上の理由か らの労働移民の拡大は意図 していな い, と反論 した。
批判7.「法案 は主 として人口統計学的理由か らの移民 を規定 してい る」 (CDU/CSUが強 く批判 している点) :選択手続 きは政府が幾年か の後 に必要 とあれば非常 に慎重 に使用するであろう追加的な最適な調節 372 国際経営論集 No̲23 2002
手段 である として,大がか りに実施す る ものではない との印象 を与 える べ く防戦 していたが,制度 その ものを取 り下げる との態度 は示 さなか っ た。
6 .
同時多発テロと移民法案(1)9月11日の米国での同時多発 テ ロは 目下論議 中の新移民法案の成 り 行 きにも大 きな影響 を与 えた。テロがおそ らくイス ラム原理主義者の手で行 われ,その容疑者が長年合法的に ドイツに滞在 したことが明かになるに及 び, かかる新 たな社会的雰囲気 の下では,非
EU
諸 国か らの合法移民の拡大 は住 民の理解 をえられず,それ どころか移民の流入 にはよ り厳 しい コン トロール を求める声が大 きくなること必至 として,法案の成立 は困難 となる との見方16)
が強まった。人権団体 も外 国人敵視増大への憂慮か ら移民法 を一時延期す る ことを求めた。14日シュ レーダー首相 は法案 中止の予測 を否定 した ものの, シリー内相 は,テロ容疑者が現行法の下で ドイツに滞在 した事実 に鑑み,新 たな保安法 を考 えねばな らず,そのため移民法案の論議 は後 回 しにす るとし て,9月26日予定の閣議決定 を延期 した。 さらに,テロ後の最初の州議会選 挙である9月23日のハ ンブルグ州議会選挙では,新 たな情勢の効果が早速現 れ,法の遵守 と秩序維持 を重視す る新政党 (シル党)が票 を伸 ば し,全体 と
して保守議席が増加する結果 となった。
(2)事態の急変 に伴 い,野党CDU/CSUは,先ず SPDと緑 の党の一致 した法案の提示 を待つ として,次第 に議会で対決す る との姿勢 に変 わってい った。
一方連立政権 内のシリー内相 と緑 の党 との移民法案の交渉 は難航 し,一旦 10月24日に延期 されていた移民法案の閣議決定 は11月7日‑ さらに延期 され た。
ドイツの振移民法案 について 373
7.
緑の党への妥協(1) シリー内相 は,対 テロの一環 として第2新保安法案 (14の法改正 を 内容 とす るパ ッケイジ)の成立 を急 ぐ必要に迫 られた。 このためシリーは同 法案 と移民法案の2つの案件の うち前者の成立 を優先することに し,第2新 保安法案 について緑の党か らの譲歩引 き出 しを容易化する方法 として,移民 法案 で は緑 の党 に譲歩す る戦術 にでた。 この ことは,移民法案 における
17)
CDU/CS U
との安協 を一層 困難 にするものであった。(2)緑 の党 は11月7日,党幹部の粘 り強い交渉の結果,移民法案の修正 18)
に成功 した としてその成果 を発表 した。同党が特 に評価するシリー内相の譲 歩は
2
点あ り :(a)家族合流 :子の呼び寄せ年令制限は現行の1 6
才か ら1 2
才に 引 き下げる原案 に対 し,2才引 き上げ14才 とすること,(b)最大の成果は,国 外退去保護が非国家的迫害 にも通用 され,ジュネーブ難民条約難民 として認 め られること,このことは性 に基づ く迫害 にも適用 されること,が受け入れられたことである。
8.
政府案の閣議決定(1)11月7日,シリー内相の提出 した移民法案は閣議で可決 された。
19)
その際のシリーの声明中の概要説明 は9月 7日の概要説明 をほぼ踏襲 し ているが,その間の特 に緑の党 との交渉などをふ まえて若干の修正があったo 上記縁の党の発表 と重複するが,主な ものは次の とお りである。
(a)選択制 (点数制) による労働移民の受 け入れの開始時期 につ き,9 月7日の文書では 「おそ らく2010年前 にはないであろ う」 との文言 は消 えている。野党向けの言葉であった といえる。
( b )
子の呼び寄せ年令制限 を1 2
才か ら1 4
才 に引 き上げたこと。374 国際経営論集 No.23 2002
(C)人道的理 由に基づ く滞在権 につ き,迫害が女性特有の理 由及 び非国 家的理 由に基づ く場合 も考慮 されることが明記 された こと。 しか し シリー内相 はCDU/CSUの批判するような亡命理由の拡大 をなんら 意味 しない とい う。す なわち現行 の外 国人法 第51条 1項 はす で に
「外国人は身体,生命 または自由に対す る危険 に基づ く人道的理 由か ら国外退去 されてはならない」 と規定 してお り, この ような者が国 外退去か らの保護 を受 けるのは従来通 りであるが, しか し, これ ま での滞在容認の制度 は廃止 されるので,代 わ りによ り確実 な期 間限 定の滞在許可が付与 される。つ ま りこの法案 は国外退去保護 だけで な く,保護の必要性が終わるまでの間の滞在権が付与 されるべ きで あることを規定 したに過 ぎない。 しか も遅 くとも3年後 には避難の 理 由が まだ存在す るか否かが再審査 される。従 って亡命理由の拡大 につなが る ものではない とい うわけである。要す るに緑 の党 に譲歩 した とはいえ実質的な違いはあま りな く,歯止 め もある との立場 を とっているが,CDU/CSUは次 に掲げる声明の中でこの問題 を取 り 上げてお り,今後 とも論争点の一つになるであろう。
20)
(2)政府案 に対 し,1日早い11月6日,CDU/CSU側の声明 が発表 さ れたが,その中で,最上位の 目標 は,国家的利益 に即 し,移民の制限 と調節 が確実 に実施 されることであるところ,政府案では亡命理由 (女性特有の及 び非国家的迫害の場合への亡命権の拡大)お よび家族合流の範囲が一層拡大 され,統合経費の問題 も不明であ り,特 に移民制限の明確 な文言が 目標 とし て設定 されていない ところよりみて,シリー内相 は緑 の党への譲歩 によ り, CDU/CSUとの コンセンサスか ら一層離れた と批判 した。
9 .
その後の与野党の動 き(1) この法案の連邦議会 における第一読会 はその後12月13日に行 われる
ドイ ツの振移民法案 について 375
ことに決 った。与党が多数 を占める連邦議会 を通過す るのは困難ではないで あろう。 しか し同法案 は連邦参議 院の同意 を要す るものである ところ,与党 は同参議 院の同意 に必要 な69票の過半数の35票 に4票足 りない。 この不足票 はSPDとCDUの大連合州政権 の フランデ ンブル ク州 (4票) とブ レーメ ン州 (3票)特 にブランデ ンブルク州の 4票 を獲得すれば達成 されるわけで あるので,今後 同州の去就が注 目される。
一 方 労働 移 民 を必 要 とす る経 済界 及 び人 道 面 を重 視 す る教 会 は元 来 CDU/CSUの支持基盤であるに も拘 らず,移民問題 に関 しては政府 を支持,
コンセ ンサスへの圧力 を高めてお り,従来の観念 では律 しきれない捻 じれ現 象 を起 こ している。
(2)CDU/CSUでは,特 にシュ トイバ ー ・バ イエル ン州首相兼CSU党 首が移民の制限の強硬論者であ り,法案 は制限 とい う目標 に逆 らうもの とし て引続 きこれ を拒否 し,移民の制限,亡命権濫用 の制限,家族合流の年令制
21)
限の引下の3条件 を政府が飲 まなければ安協 はあ りえず ,安協 が なければ (政府が大連合 の州政権抱 き込み に成功 し法案 を成立 させ た場合で も)移民 問題 を2002年の総選挙 の選挙戦のテーマ とすることを主張 している。 シュ ト イバーの狙いは,9月11日の事件以後の外 国人 コン トロール強化 を求める社 会的風潮 を追い風 として,移民法案反対 の明確 な立場 をとることにより,そ のプロフィールを強め,CDU/CSUの首相候補 の座 を射止め ようとす る も のである。 これに対 しCDUのメルケル党首 はシュ トイバーをお さえ,首相 候補 ポス トを手 に入れ ようとしている ものの移民法 に対する姿勢 は明瞭では ない。 (追記 :その後首相候補 はシュ トイバーに決 った。)
10.おわ りに
CDU/CSUの移民法 に対す る考 え方 は,前述の とお り両党が共通のポジ シ ョン ・ペーパーを採択す るな ど,これ までにす り合 わせ を行 っているので,
376 国際経営論集 No.23 2002
基本 的な点で大 きな相違 はないであろう。両党の立場 は, これ以上の受 け入 れは ドイツの統合能力 を越 えるとの現状認識か ら,移民政策 は真 に必要 な範 囲内に流入 を制限 し,統合 の方 に精力 を使 うべ Lとの考 えであ り,その意味 であ らゆる種類 の流入 に対 し総枠 を毎年定 め るべ きであ る と して
,
「制限」に重点 をおいている。
シリー内相 は,労働力流入 の原則禁止 は放棄 し,労働力の需要 と国益 に適 した調節 と制限のための柔軟 な手段 を創設 したい との考 えか ら,選択制の枠 は設 けるが,総枠 を設 けず,弾力的に運用で きる体制 を描 いている。緑の党 は人道的観点 を強調 し,移民流入 に制限 を設 ける考 えは殆 ん どない。 しか し 同党 は党 としての特徴 を出せ る若干の人道的修正 を確保 で きるのであれば他 は譲歩 す るので あ ろ うか。 この よ うに
3
者3
様 の違 い はあ るが,CDU/
CS U
か ら多数の修正点が提 出 される由であるので,政府側がCDU/CS U
に対 し大幅 に譲歩 しない場合,移民問題 は間 もな く始 まる2002年の選挙戟のテ ーマに持 ち込 まれる可能性があ り,法案の成 り行 きは今後 を待 たねばな らな い。
注
1)連邦外国人問題オンブズマ ン局 :www.bundesauslaenderbeauftragte.
de/aktuell/zuwanderung.pdf
2)広渡清吾 「統一 ドイツの法変動」 (有信堂高文社,1996)中の 「外国人労 働者 ・移住者 ・難民一外国人法制の新展開
」
3)BlaetterfuerdeutscheundinternationalePolitik6/2001
4 )C DU
ホームページ :ww .cdu.de/politik‑a‑Z/parteitag/beschlussO70601. htm5)BTIDrs.14/6641
6) BlaetterfuerdeutscheundinternationalePolitik12/2000
7)緑の党ホームページ :www.grueneイration.de/uthem/innen‑recht/index.
htm
8)連邦内務省ホームページ :www.bmi.bun°.de/dokumente/Artikel/lX‑
ドイツの振 移民法案 につ いて 377
47177.htm及 び2001年7月12日付FAZ
9)連 邦 内務 省 ホ ー ムペ ー ジ :www.bmi.bun°.de/dokumente/Artikel/ix‑
50819.htm
10,ll,12)前 掲1)の内務 省 案 中の そ れぞれ条文 説 明117頁,111頁,118頁 13) CDUホ ームペ ー ジ :www.cdu.de/presse/archivl2001/pr135‑01.htm 14)連 邦 内務 省 ホ ー ムペ ー ジ :www.bmi.bun°.de/dokumente/Artikel/ix‑
55740.htm
15) 「NichtstaatlicheVerfolgungunddeutschesAuslaenderrechtJReinhard Max,ZAR1/2001
16) 2001年9月15日付FAZ等 17) 2001年10月30日付FAZ等
18)緑 の 党 ホ ー ム ペ ー ジ :www.gruene‑fraktion.de/uthem/innen/
011107zuwanderung.htm
19)連 邦 内務 省 ホ ー ム ペ ー ジ :www.bmi.bun°.de/dokumente/Artikel/ix‑
62109.htm
20) CDUホー ムペ ー ジ :www.cdu.de/politik‑a‑Z/zuwanderung/061101.htm 21) Weltホームページ2001年12月10日付
378 国際経営論集 No.23 2CK)2