米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関す る一考察 : 「回復不能の損害」の要件を中心とし て
著者 森田 崇雄
雑誌名 同志社法學
巻 64
号 6
ページ 1897‑1982
発行年 2013‑01‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014091
( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二四九
米 国 国 家 環 境 政 策 法 ( N E P A ) に 基 づ く 差 止 訴 訟 に 関 す る 一 考 察 ― ―
﹁回復不能の損害﹂の要件を中心として
― ―
森 田 崇 雄
はじめに第一章 NEPAの概要 第一節 NEPAの構造と環境アセスメント制度 第二節 NEPAに関する司法審査 第三節 NEPAの手続的要件が果たす実質的役割第二章 Winter判決以前の連邦下級審におけるNEPA差止訴訟の展開 第一節 差止命令の判断基準 第二節 Weinberger判決以前の連邦下級審の裁判例 第三節 Weinberger判決・Amoco判決のNEPA差止訴訟への影響
一八九七
( )同志社法学 六四巻六号二五〇米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察 第四節 Weinberger判決・Amoco判決後の連邦下級審裁判例第三章 Winter判決 第一節 Winter判決の内容 第二節 Winter判決の評価第四章 Winter判決後のNEPA差止訴訟の動向 第一節 Monsanto判決 第二節 Winter判決後の連邦下級審裁判例おわりに
はじめに
環境アセスメント(以下﹁アセス﹂とする)は、一九六九年にアメリカの国家環境政策法(
N at io na l E nv iro nm en ta l
P oli cy A ct
、以下﹁NEPA﹂とする) )1(において世界で初めて制度化され、その後各国に普及している )2
(。わが国においても、一九九七年に環境影響評価法が制定され、アセス制度が導入されている )3
(。アセスとは、政策決定や計画策定、および事業の実施の際に、対象行為が環境に及ぼす影響を事前に調査・予測・評価し、代替案を検討し、検討過程の情報を公開して公衆に意見表明の機会を与え、それらの結果を意思決定に反映する手法である。アセス制度が実効性のある制度として機能するためには、住民参加や事後調査といった制度的保障が必要であるが、それとともに法律の遵守を確保するための司法上の救済が確立されることが不可欠である。 しかし、わが国においては、アセスの瑕疵に対する司法上の救済が十分に確立されているとはいえない状況にある。 一八九八
( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二五一 アセスの瑕疵を争う訴訟として用いられているのは、主に許認可等の取消訴訟と民事差止訴訟であり、それに次いで住民訴訟も用いられている )4
(。しかし、取消訴訟では依然として原告適格の問題が訴訟の大きな障壁となっており )5
(、また民事差止訴訟においては環境影響評価法施工後の請求認容例はほとんど見受けられず、そして、原告適格の問題を回避するために用いられることが多い住民訴訟では、本来財務会計行為の違法を是正するための訴訟であることからアセスの瑕疵を争う手段としては様々な限界がある )6
(。 環境影響評価法は二〇一一年四月二二日に改正法が成立しており )7
(、その改正にあたってのアセス制度の見直しに際して、特別の争訟制度(不服申立てや団体訴訟等) )8
(の導入が議論されていたが、結局、今後の課題として検討していくこととされ、現在のところアセスの瑕疵に係る特別の争訟制度は導入されていない。今後、特別の争訟制度が導入され、行政訴訟(許認可の取消訴訟および差止訴訟)において原告適格が肯定されることが多くなれば、本案においてアセスの瑕疵をどのように捉えるのかということが今まで以上に問題となると考えられる )9
(。また、アセスの瑕疵に係る民事差止訴訟においては、依然として、いかにして請求が認容されるかということが問題となる。 これらの問題を検討する際に、アメリカのNEPAをめぐる判例を検討素材とすることは有益であると考えられる。前述したように世界で初めて環境アセスメント制度を定めたアメリカでは、NEPAをめぐる訴訟において、アセスは環境影響を踏まえた合理的意思決定の手法であるため、意思決定が行われる前に実施されないことにはその目的が達成されえないことから、アセスの手続違反に対する有効な救済は、適正なアセスが実施される前の事業等の進行に対する差止めであると考えられ、NEPAの手続違反に対する救済として、一般的に差止命令が発付されており、NEPA制定から現在に至るまでの約四〇年間にわたり、NEPA違反を争う差止訴訟(以下﹁NEPA差止訴訟﹂とする)において判例が蓄積されている。NEPA自体はアセス手続の違反に対する救済についての規定を有しておらず、差止命令
一八九九
( )同志社法学 六四巻六号二五二米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察
が発付されるための要件やその解釈はNEPAをめぐる判例において確立されてきた。NEPAについてはわが国においても数多くの紹介がなされているが、その多くは制度比較に関するもの )₁₀
(であり、NEPA違反に関する訴訟を紹介するもの )₁₁
(も存在するが、差止命令の判断基準に焦点を当てて検討を行ったものは存在しない。そこで本稿は、アメリカにおけるNEPA差止訴訟の判例の動向を概観し、差止命令の判断基準についての判例法理を明らかにすることによって、今後わが国におけるアセス関連訴訟において、アセスの瑕疵をどのように捉えるのかを検討するに際して、何らかの示唆を得ることを目的とするものである。
第一章 NEPAの概要
NEPA差止訴訟の展開を検討するにあたって、NEPAの定めるアセス手続やその違反に係る司法審査、およびNEPAの果たす役割について概観しておく。
第一節 NEPAの構造と環境アセスメント制度 NEPAは、その目的を﹁人間と環境との生産的かつ快適な調和を促進するための国家政策を宣言すること、人間環境および生物環境に対する破壊を予防または除去し、人間の健康と福祉を増進する努力を奨励すること、国家にとって重要な生態系および自然資源についての理解を深めること﹂と規定している )₁₂
(。そしてNEPAは、﹁人間と自然とが生産的な調和を保持しつつ存在しえるような状態を創出および維持すること﹂を国家政策として宣言し )₁₃
(、それを遂行するために、将来世代のために環境の受託者として現世代の責任を果たすことや、安全、健康、生産的、審美的かつ文化的 一九〇〇
( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二五三 に快適な環境を保障すること等の国家目標を、あらゆる実行可能な手段を用いて追求することを連邦政府の責任として定め )₁₄
(、それらの国家目標を達成する手段としてアセス手続を規定している )₁₅
(。 アセス手続についてNEPA第一〇二条⑵Ⓒは、すべての連邦行政機関に対して﹁人間を取り巻く環境の質に重大な影響を及ぼす立法の提案、その他の主要な連邦行政機関の行為に係るすべての勧告または報告﹂について環境影響評価書(
E nv iro nm en ta l I m pa ct S ta te m en t
、以下﹁EIS﹂とする)を作成することを要求する )₁₆(。なお、NEPAの規定自体は非常に概括的であり、アセス手続の詳細は、大統領府内の諮問機関である環境質諮問委員会(
C ou nc il of
E nv iro nm en ta l Q ua lit y
、以下﹁CEQ﹂とする)が作成したCEQ規則 )₁₇(において規定されている。CEQ規則は、人間を取り巻く環境に重大な影響を及ぼすおそれがなく、アセス手続が要求されない行為として、類型的除外行為(
C at eg or ic al E xc lu sio n
)を認めており、これは各連邦行政機関の規則において規定される )₁₈(。 NEPAのアセス手続は、主要な連邦行政機関の行為が﹁提案行為﹂となった段階で開始される。﹁提案行為﹂とは、連邦行政機関の行為がその目標を達成するための一つ以上の代替案の検討について判断が可能な段階となったものとされている )₁₉
(。提案行為が及ぼす環境影響が重大であるかどうかが明らかでない場合、連邦行政機関は簡易アセス書(
E nv iro nm en ta l A ss es sm en t
、以下﹁EA﹂とする)を作成しなければならない )₂₀(。EAはEISの作成が必要であるかを判断するために作成される簡潔な公式文書(
co nc ise p ub lic d oc um en t
)であり、このEAには、提案行為の必要性、代替案、提案行為と代替案の環境影響に関する検討が簡潔に記載される )₂₁(。EAを作成した結果、提案行為が環境に重大な影響を及ぼさないと連邦行政機関が判断した場合には、当該機関は重大な環境影響を及ぼさない旨の認定書(
F in din g of N o Sig nifi ca nt Im pa ct
、以下﹁FONSI﹂とする)を作成し、EISを作成することなくその行為を進めることができる )₂₂(。
一九〇一
( )同志社法学 六四巻六号二五四米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察
EA作成の結果、提案行為が重大な環境影響を及ぼすと連邦行政機関が判断した場合、EISが作成されることになる。その際、連邦広報(
F ed er al R eg ist er
)における告示 )₂₃(後、スコーピングが行われる。スコーピングとは、関係諸機関、先住民族、および住民等の参加の下で、提案行為に関して調査・検討されるべき事項の範囲を決定し、重要事項を認識する手続である )₂₄
(。 EISの作成プロセスには、環境影響評価書案(
D ra ft E nv iro nm en ta l I m pa ct S ta te m en t
、以下﹁DEIS﹂とする)と最終環境影響評価書(F in al E nv iro nm en ta l I m pa ct S ta te m en t
、以下﹁FEIS﹂とする)の二つの段階がある。スコーピング後、連邦行政機関はスコーピングにおいて決定された検討事項についてDEISを作成する )₂₅(。DEISには、提案行為の環境影響(これには直接的影響、間接的影響、累積的影響が含まれる) )₂₆
(や、代替案(これにはノー・アクション代替案、他の合理的な代替案、ミティゲーション措置が含まれる) )₂₇
(等が記載される。DEISは公衆に対して縦覧され、最低四五日間の意見書の提出期間の設定 )₂₈
(、公聴会・説明会の開催 )₂₉
(、環境保護庁(
E nv iro nm en ta l P ro te ct io n
A ge nc y
)等の関係行政機関への送付 )₃₀(といった手続がとられる。 連邦行政機関は、DEISについての公衆や関係行政機関からの意見提出を受けた後、FEISを作成する。FEISにはDEISに対して寄せられた意見に対する回答が記載される )₃₁
(。FEISも公衆に対して縦覧され、最低三〇日間意見が求められる )₃₂
(。連邦行政機関は、他の関連資料と共にFEISを利用して提案行為に係る最終決定を行い、その後、決定内容、検討された代替案、およびミティゲーション措置等の説明を記載した決定記録を作成する )₃₃
(。 以上が一般的なNEPA手続である。右の手続に加え、連邦行政機関が提案行為に対して環境問題に関係がある大幅な変更を加える場合や、提案行為の環境影響に関連する新たな事情または情報が生じた場合には環境影響評価補充書(
Su pp le m en ta l E nv iro nm en ta l I m pa ct S ta te m en t
、以下﹁SEIS﹂とする)が作成される )₃₄(。 一九〇二
( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二五五 第二節 NEPAに関する司法審査 NEPAの実効性は最終的に裁判所の司法審査によって確保されている。NEPA自体には、司法審査に関する規定が存在しないが、裁判所は一貫してNEPAに基づく連邦行政機関の行為を司法審査の対象と判断している )₃₅
(。NEPAに関する司法審査の範囲につき、NEPAはアセス手続の他に実体的目標を定めているため、NEPAに関する司法審査の対象は手続的要件に限られるのか、または実体的審査も可能であるのかということが問題となる。 この問題について連邦最高裁は、NEPAはすべての連邦行政機関に対して提案行為の環境影響を評価することを要求しているが、行政機関が環境に悪影響を及ぼす行為を行うことを禁止しているわけではないとの判断を示している )₃₆
(。すなわち連邦最高裁は、NEPAは﹁本質的に手続的﹂ )₃₇
(であり、特定の行為を選択することを行政機関に要求していないと述べ )₃₈
(、また﹁ひとたび行政庁がNEPAの手続的要件に従って判断を下したならば、裁判所の唯一の役割は、行政機関が環境影響を考慮することを保障することであり、裁判所は行為の選択に関して行政部の裁量の範囲内においては口を挟むことはできない﹂と判示している )₃₉
(。したがって、NEPAは裁判所が行政機関の決定が適切であるかどうかを審査するための実体的要件を有しておらず、裁判所は行政機関がNEPAの手続的要件を遵守したかどうかに関してのみ審査可能である。 前述したようにNEPAは司法審査に関する規定をもたないため、NEPA訴訟における司法審査基準は、行政手続法(
A dm in ist ra tiv e P ro ce du re A ct
、以下﹁APA﹂とする)の規定に基づく )₄₀(。EISの作成行為やEISを作成しないという決定はAPAの司法審査規定の下で審査可能な﹁最終的な行政機関の行為﹂ )₄₁
(であり、NEPA訴訟では主にEISを作成しないという行政機関の決定の妥当性や作成されたEAおよびEISの内容の適切性が問題となる )₄₂
(。APAの司法審査規定の下で、裁判所はNEPAに係る行政機関の行為、認定、決定が﹁専断的、恣意的で、裁量権の濫用で
一九〇三
( )同志社法学 六四巻六号二五六米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察
ある、または法に適合しない﹂ )₄₃
(場合、NEPA違反を認定することができる。NEPAに関する司法審査は、EISやEAを含む、行政機関によって作成された行政記録の審査を基礎として行われる )₄₄
(。
第三節 NEPAの手続的要件が果たす実質的役割 NEPAに関する司法審査の対象はNEPAの手続的要件に限られるが、NEPAを単なる手続法であると解することは、連邦行政機関の意思決定プロセスにおいてNEPA手続が果たす重要な役割を軽視することになる )₄₅
(。NEPAは行政機関に実体的義務を課していない一方で、将来世代のために環境の受託者として現世代の責任を果たすことや、安全、健康、生産的、審美的かつ文化的に快適な環境を保障すること等の国家の重要な実体的目標を定めており、NEPAの手続的要件は実体的な結果に影響を及ぼすことを意図している )₄₆
(。 具体的には、NEPAのアセス手続は、連邦行政機関の意思決定の結果として環境損害が引き起こされるというリスクを低減する。すなわちNEPA手続は、行政機関に提案行為の環境影響および代替案の調査・検討を義務付けることで、その手続がなければ行政機関が有することができなかった情報を行政機関にもたらし、行政機関はその情報を踏まえた上で意思決定を行うことが可能となる。さらに、EISが公衆に縦覧されることは、行政機関の意思決定に対する重要な監視となり、これにより行政機関が環境影響を無視して行為を進めるという可能性が低減されることになる )₄₇
(。またNEPAのCEQ規則は、﹁EISは実際的に意思決定プロセスに重要な貢献を果たすことができるように早期に作成されなければならず、既になされた決定を合理化または正当化するために用いられてはならない﹂ )₄₈
(と規定しているが、このようにNEPAが意思決定の前に環境影響の評価を行うことを要請しているのは、行政機関がNEPA手続を忠実に遂行したならば、その結果を踏まえてなされる意思決定はより環境保護に適合するものとなり、意思決定の結果とし 一九〇四
( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二五七 て環境損害が生じるというリスクは低減されるであろうと連邦議会が想定していたことを示している )₄₉
(。 したがって、行政機関がNEPA手続を遵守する前に提案行為の意思決定を行う場合、NEPA手続が果たすことを意図する実質的役割は達成されないことになる。それゆえ、このNEPA手続が果たす役割に鑑み、NEPA違反に対する救済としては、行政機関が適正なEISを作成し、提案行為の環境影響について検討を行うまでの間、提案行為の進行を禁止する差止命令が最も有効であり、差止命令が一般的な救済手段となっている )₅₀
(。
第二章
W in te r
判決以前の連邦下級審におけるNEPA差止訴訟の展開第一節 差止命令の判断基準 NEPA差止訴訟の展開を検討するにあたって、まず差止命令を発付するか否かを判断する際の判断基準について概観しておく。
1 差 止 命 令 に 関 す る 比 較 衡 量 テ ス ト の 適 用
差止命令とは、被告に対して何らかの作為または不作為を命じる裁判所の命令のことである。NEPAは違反に対する救済を規定していないが、差止命令はエクイティ上の救済であり、連邦裁判所は裁量により差止命令を発付することができる。NEPA訴訟において原告は、一般的に差止命令による救済を求め、連邦行政機関がNEPAを遵守するまでの間、行政機関の行為の進行を禁止することを求める )₅₁(。 差止命令には、本案審理を経た後に訴訟の最終的解決として発付される終局的差止命令(
pe rm an en t i nju nc tio n
)に一九〇五
( )同志社法学 六四巻六号二五八米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察
加え、正式事実審理前や訴訟終了前に被告の行為を停止させるために用いられる手段である暫定的差止命令(
pr eli m in ar y in ju nc tio n
)がある )₅₂(。連邦裁判所は、差止命令を発付するか否か判断する際、一般的に、エクイティ上の比較衡量テスト(
eq uit ab le b ala nc in g te st
)を用いている。比較衡量テストの具体的内容については、一般的に、以下の四つを考慮要素としている。第一に、差止命令を発付しない場合に、原告が﹁回復不能の損害(irr ep ar ab le h ar m
)﹂を被ることである )₅₃(。この要素につき、原告が金銭的損害賠償などの他のコモン・ロー上の救済手段によって救済されることが可能である場合には、この回復不能の損害の認定はされないことになっている )₅₄
(。第二に、各当事者に対する損害を比較衡量した場合に差止命令の発付が支持されることである )₅₅
(。これは具体的には、差止命令を発付しない場合に生じる原告の損害と、差止命令を発付する場合に生じる被告の損害を比較衡量した場合に、原告が被る損害の方がより深刻であることを意味する。第三に、差止命令の発付が公益を害さないことである )₅₆
(。第四に、暫定的差止命令においては、原告が本案において勝訴する見込みがあることが要求される )₅₇
(。また、これらの考慮要素のうち﹁回復不能の損害﹂の要素が最も重要であるとされている )₅₈
(。なお、終局的差止命令の考慮要素を挙げる場合には、一般的に、原告が回復不能の損害を被ることと、コモン・ロー上の救済が不十分であることが別々の要素として示され、損害の比較衡量および公益の要素を含めて四要素と表現される )₅₉
(。
2 比 較 衡 量 テ ス ト 適 用 の 例 外
連邦裁判所が差止命令を発付するか否かを判断する際に、例外的に比較衡量テストが適用されない場合が存在する。それは、連邦議会が特定の制定法に関して、裁判所のエクイティ上の裁量権を排除し、比較衡量テストの適用から除外することを意図している場合である。それゆえ裁判所は、訴訟で問題となる制定法に関して連邦議会が裁判所のエクイ 一九〇六( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二五九 ティ上の裁量権を排除することを意図しているかどうかを判断しなければならない )₆₀
(。そして、制定法に違反する特定の行為について﹁制定法が明確な文言で、または必然的かつ不可避的な暗示によって、裁判所のエクイティ上の権限を制限する場合﹂、裁判所は比較衡量テストを適用せず、その違反行為に対して自動的に差止命令を発付しなければならない )₆₁
(。 このような﹁自動的差止命令(
au to m at ic in ju nc tio n
)﹂ )₆₂(を、連邦最高裁が環境訴訟において認めた事例としては、
Te nn es se e V all ey A ut ho rit y v . H ill
判決がある )₆₃(。本件では、絶滅危惧種保存法(
E nd an ge re d S pe cie s A ct
、以下﹁ESA﹂とする)違反に対する差止命令を発付するか否かが問題となった。一九六七年にテネシー川流域開発公社(Te nn es se e V all ey A ut ho rit y
、以下﹁TVA﹂とする)はテリコダム建設事業を開始したが、ダムの建設予定地に含まれるリトルテネシー川には、﹁絶滅危惧種﹂に指定されるスネール・ダーターという小魚が生息していた。﹁絶滅危惧種﹂に関して、ESA第七条は、連邦行政機関には絶滅危惧種の生存を脅かし、またはその種の生息地を破壊・悪化させないことを確保する義務がある旨を規定している )₆₄(。本件原告は、同条違反を主張し、ダム建設を禁止する終局的差止命令を求めて訴えを提起した。第一審判決は原告の請求を棄却したが、控訴審判決は差止命令を認めたため、TVAが上告したのが本件である )₆₅
(。 連邦最高裁は控訴審判決を支持し、ダム建設に対する終局的差止命令を発付した。本判決は、ESA第七条について、﹁まさに同条の文言は、連邦行政機関によって授権され、資金交付され、実施される行為が、絶滅危惧種の永続的な生存を脅かし、または、そのような種の生息地を破壊もしくは改変させないように確保することを、すべての連邦行政機関に断定的に命じて﹂おり、かつ﹁一切の例外も認めていない﹂こと )₆₆
(、﹁連邦議会が絶滅危惧種に最も高い優先順位を与えようと意図していたことは疑問の余地がない﹂こと )₆₇
(、および﹁同法の明確な文言は、⋮⋮連邦議会が絶滅危惧種の
一九〇七
( )同志社法学 六四巻六号二六〇米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察
価値を計り知れないものとみなしていたことを明白に示している﹂ことを指摘している )₆₈
(。また、差止命令の発付によって生じる経済的損失等も考慮に入れて救済に係る判断を行うべきであるというTVAの主張に対して、本判決は、連邦議会が﹁絶滅危惧種に最も高い優先順位を与えるべく︹エクイティ上の
―
筆者注︺比較衡量がなされたこと﹂を﹁最も明確な文言﹂で明らかにしているため、その連邦議会の判断が賢明であるか否かを裁判所が問うことはできないと判示した )₆₉(。 すなわち、
T VA
判決において連邦最高裁は、ESAの違反に対する差止命令に関して、ESAが絶滅危惧種の生息地の破壊を明確な文言で全面的に禁じていることを理由に、連邦議会が裁判所のエクイティ上の裁量権を排除したと判断し、比較衡量テスト適用の例外を認め、違反行為に対して自動的に差止命令を発付している )₇₀(。
第二節
W ein be rg er
判決以前の連邦下級審の裁判例 二〇〇八年に連邦最高裁が、次章で述べるW in te r v . N at ur al R es ou rc es D ef en se C ou nc il, In c.
判決 )₇₁(において、NEPA差止訴訟における判断基準を連邦最高裁として初めて明示するまでの間、数多くの連邦下級審の裁判例は、NEPA差止訴訟において差止命令を発付するか否かを判断する際に、比較衡量テストに対する特例を認めていた )₇₂
(。
W in te r
判決以前の連邦下級審裁判例の動向を分析すると、次節で述べる連邦最高裁のW ein be rg er v . R om er o- B ar ce lo
判決 )₇₃(および
A m oc o P ro du ct io n C o. v. V illa ge o f G am be ll
判決 )₇₄(の以前と以後で変化がみられる。 一九七〇年にNEPAが施行されてから、
W ein be rg er
判決が下されるまでの約一〇年間における連邦下級審の裁判例には、①比較衡量テストを適用せずに自動的差止命令を認めるもの )₇₅(と、②比較衡量テストを適用した上で、NEPA違反の存在をもって回復不能の損害の発生を推定するもの )₇₆
(があり、この二つの類型の特例が認められていた。またその 一九〇八
( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二六一 他に、③これらの特例を認めず、通常の比較衡量テストを適用する裁判例もあった )₇₇
(。以下本節では、
W ein be rg er
判決以前のNEPA差止訴訟において特例を認めた代表的な連邦下級審の裁判例を概観する。1 「 自 動 的 差 止 命 令 」 を 認 め る 裁 判 例
⑴ Lathan v. Volpe, 455 F.2d 1111(9th Cir. 1971) ワシントン州はシアトルの回廊地帯において州間幹線道路の建設事業を計画した。一九六三年に運輸省(D ep ar tm en t of T ra ns po rta tio n
)は事業用地の場所を承認し、用地取得のための権限を同州に付与した。その後、一九七〇年にNEPAが施行されたが、本件事業はEISを作成することなく進められた。これに対し、回廊地帯の居住者がNEPA違反を主張し、道路建設に対する暫定的差止命令を求めて出訴したのが本件である。第一審判決は原告の請求を棄却したため、原告は控訴した。 第九巡回区連邦控訴裁判所はNEPA違反を認定し、以下のように判断した結果、暫定的差止命令を発付すべきとして第一審判決の破棄差戻しを命じた。本判決は、本件においては﹁NEPAの適用における遅延が長引けば長引くほど、周辺環境は次第に悪化され、本件事業の環境上の悪影響から市やその市民を保護する機会はますます少なくなる﹂ため、本件は差止命令を発付するか否かを判断する際に﹁エクイティ上の利益の比較衡量を必要としない﹂例外的な事案であり、制定法の違反をもって直ちに差止命令が認められなければならないという判断を示した )₇₈(。この﹁自動的差止命令﹂を認めるにあたって、本判決は、NEPAの目的および連邦議会の意図に着目している。すなわち本判決は、NEPAの目的は﹁連邦行政機関による行為が、環境影響を十分に考慮し、かつ環境への悪影響が最低限にとどめられた状態で行われることを確保すること﹂であるとした上で、そのNEPAの目的に鑑みると、本件事業に関してEISが早期に
一九〇九
( )同志社法学 六四巻六号二六二米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察
作成されることは特に重要であると述べている )₇₉
(。さらに本判決は、差止命令を発付せずに本件事業の進行を許容すれば、﹁不可逆的で回復不可能な資源の消失﹂が生じる可能性が高く、その場合には行政機関の意思決定者がEISに基づき再検討を行ったとしても、多大な損失を伴う計画の変更ではなく環境損害の甘受を選択することは明らかであって、これは必然的に意思決定における行政機関の意思決定者の選択を制約することになるので、明らかに連邦議会の意図に反すると指摘した )₈₀
(。
⑵ Arlington Coalition on Transportation v. Volpe, 458 F.2d 1323(4th Cir. 1972) 本件は、ヴァージニア州のアーリントン郡を通過する州間幹線道路事業が、運輸省によるEISの作成なしに進められたため、周辺住民および環境保護団体がNEPA違反を主張し、本件事業に基づく建設および道路用地の取得に対する暫定的差止命令を求めて出訴した事案である。ヴァージニア州東部地区連邦地方裁判所は原告の請求を棄却したため、原告は控訴した。 第四巡回区連邦控訴裁判所は以下のように判断し、破棄差戻しを命じた。本判決は、﹁︹NEPA
―
筆者注︺第一〇二条⑵Ⓒは、︹EISが作成される―
筆者注︺ことだけでなく、運輸長官が幹線道路の最終的な位置や形態を決定する際に、その中に含まれる情報を考慮に入れることをも意図している﹂ので、NEPAのEIS要件の遵守とは、EISの作成によって本件事業に係る幹線道路の経路等を再検討することを意味するだけではなく、このような再検討が行われるまでの間、本件事業を一時停止することをも意味すると指摘する )₈₁(。そして本判決は、﹁︹本件事業が一時停止されない場合に生じる
―
筆者注︺提案された経路に対するさらなる時間、労力、または金銭の投下は、その経路の変更または断念を次第に賢明ではないものとし、それゆえ次第にその可能性を低下させるであろう。運輸長官がEISを再検討する前や 一九一〇( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二六三 再検討している間に、提案された経路に対する︹時間、労力、または金銭の
―
筆者注︺投下が継続されるならば、運輸長官が採りうる選択肢は減少し、そしてある時点で、運輸長官の再検討は無意味な形だけの行為となるであろう﹂と述べ )₈₂(、これを防ぐために、原告にはEISの作成および検討を待つ間、本件事業に係る行為に対する暫定的差止命令を受ける権利があるとして、比較衡量テストを適用することなく暫定的差止命令を認めた )₈₃
(。
2 「 回 復 不 能 の 損 害 の 推 定 」 を 認 め る 裁 判 例
⑴ Environmental Defense Fund v. Tennessee Valley Authority, 468 F.2d 1164(6th Cir. 1972) 本件は、後に連邦最高裁のT VA
判決でESA違反が争われることになるダム建設について、同判決よりも前に、NEPA違反を理由に暫定的差止命令が請求された事案である。テネシー州東部地区連邦地方裁判所は、TVAが作成したDEISはダム建設が環境に及ぼす長期的な影響を考慮しておらず、費用便益分析が適切に行われていないと判断し、適正なEISが提出されるまで間のダム建設を禁止する暫定的差止命令を発付した。 第六巡回区連邦控訴裁判所は、回復不能の損害について以下のように判断し、第一審判決を支持した。本判決はまず、﹁︹TVAが―
筆者注︺このプロジェクトに費やすことを許される時間と資金が多ければ多いほど、NEPA第一〇二条の遵守、および第一〇一条を踏まえた計画の再検討は、単なる﹃形だけの行為﹄となる可能性がますます高くなる﹂ため、NEPAに違反して進められる行為に対しては早期に差止命令が発付されなければならないと指摘する )₈₄(。そして本判決は、暫定的差止命令は﹁宣言された連邦議会の政策を達成する手段である﹂と述べた上で、TVAの建設の継続はNEPAに基づく原告の権利に対して﹁十分な回復不能の損害﹂を及ぼすと認定でき、﹁これは差止命令の発付を正当化するのに十分である﹂として、NEPA違反が差止命令の判断における回復不能の損害となるとの判断を示した )₈₅
(。
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( )同志社法学 六四巻六号二六四米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察
⑵ Scherr v. Volpe, 466 F.2d 1027(7th Cir. 1972) 本件は、ウィスコンシン州の幹線道路一六号線の一部を、現在の二車線の一般道から四車線の高速道路へと改変する事業において、運輸省がEISを作成しなかったため、事業地の周辺住民がNEPA違反を主張して幹線道路の建設を禁止する暫定的差止命令を求めた事案である。第一審判決は暫定的差止命令を発付した。 第七巡回区連邦控訴裁判所は以下のように判断し、第一審判決を支持した。本判決は、本件において被告が具体的な環境損害の立証がされない限り差止命令は発付されないと主張したことに対し、連邦行政機関がNEPAの定める義務を果たさない場合に、差止命令による救済を得るために要件として、原告に対して具体的な環境に対する回復不能の損害の立証を要求することは、﹁NEPAの主要な目的の一つを阻害する﹂ことになると述べている )₈₆
(。また本判決は、﹁この点に関して被告の主張を受け入れることは、NEPAの手続的要件を無力にすることによって、連邦議会の命令を挫折させるであろう。この主張が行おうとしていることは、特定の連邦行政機関の行為の環境影響を検討および評価する責任を、連邦議会が課すことを意図した行政機関から、この制定法による受益者である公衆に転嫁することである﹂と指摘する )₈₇
(。さらに本判決は、原告が事業による具体的な環境損害を立証できるまで、行政機関がNEPAに基づく責任を回避することを許容されるならば、﹁その時点での責任のある連邦行政機関による再検討は、実際には形だけの行為となるであろう﹂と指摘し )₈₈
(、NEPA差止訴訟において具体的な環境損害の立証は要求されないとの判断を示した。そして本判決は、NEPA差止訴訟において﹁暫定的差止命令の発付を正当化するために証明されなければならない種類の﹃回復不能の損害﹄は、同法の文言自体において見出すことができる﹂とし、NEPA第一〇二条が﹁慎重かつ十分な情報に基づく意思決定プロセス﹂を要求していることから、この﹁慎重かつ十分な情報に基づく意思決定プロセス﹂に対する損害が、NEPA差止訴訟において立証されるべき回復不能の損害であると述べている )₈₉
(。すなわち本判決は、 一九一二
( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二六五 ﹁原告が本案勝訴の蓋然性を証明した後に事業の進行が許容される場合には、この﹃慎重かつ十分な情報に基づく意思決定プロセス﹄は永久に失われる﹂ので、本案勝訴の蓋然性の証明をもって差止命令の発付を正当化するために要求される回復不能の損害の存在が推定されるということを示した )₉₀
(。
⑶ Environmental Defense Fund v. Froehlke, 477 F.2d 1033(8th Cir. 1973) 本件は、ミズーリ州のオセージ川におけるダム建設事業について、陸軍工兵隊(
A rm y C or ps o f E ng in ee rs
)がEISを作成していないことに対し、環境保護団体がNEPA違反を主張して出訴し、道路の移転、土地の取得、建設活動、その他の事業に係る全ての活動を禁止する暫定的差止命令を求めた事案である。ミズーリ州西部地区連邦地方裁判所は部分的な暫定的差止命令を発付し、EISが作成されるまでの間、一定の活動を禁止したが、継続中のダムの建設や道路の移転等については継続することを許容した。 第八巡回区連邦控訴裁判所は、﹁差止命令はNEPAの背景にある議会の政策を達成する手段であり、またNEPAの違反自体が、原告に対して全面的な差止命令による救済の権利を与えるのに十分な回復不能の損害の証明を構成しうる﹂と述べ、NEPA違反に対する﹁回復不能の損害の推定﹂を肯定する )₉₁(。しかし本件において、陸軍工兵隊は第一審判決の約一个月後である一九七二年の一〇月にDEISを作成しており、また一九七三年の五月一日までにFEISを作成することを約束していた )₉₂
(。さらに本判決は、EISが完成するまでの間に実施されるダム建設や道路の移転が及ぼす環境影響は軽微であること、その一方でプロジェクトが中断された場合の被告のコストが膨大であること、およびEIS完成までに費やされる金銭が意思決定に影響を及ぼさないほどにわずかであることを認定した )₉₃
(。そして本判決は、これらを踏まえ、ダムの建設や道路の移転の継続を許容する第一審判決を支持した。
一九一三
( )同志社法学 六四巻六号二六六米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察
⑷ Realty Income Trust v. Eckerd, 564 F.2d 447(D.C. Cir. 1977) 一般役務庁(
G en er al Se rv ic es A dm in ist ra tio n
)は、ミシシッピ州のジャクソンの中心地における連邦行政機関が利用するためのオフィスビルの建設を計画した。しかし、一般役務庁はこの計画に対する連邦議会の承認を受ける際にEISを作成、提出しなかった。これに対し、本件原告はNEPA違反を主張して訴訟を提起し、建設を禁止する暫定的差止命令を求めた。コロンビア特別区連邦地方裁判所は、連邦議会の承認の後に一般役務庁はEISを作成しており、建設はEISの作成後に進められていることを理由に、暫定的差止命令の請求を棄却した。 コロンビア特別区連邦控訴裁判所は、EISは連邦議会の承認を受ける際に提出されるべきであったとしてNEPA違反の存在を認めた上で )₉₄(、﹁一般的に、ある行為がNEPAに違反して実施される場合、行政機関が遵守するまで、その行為の継続に対して差止命令による救済が付与されるべきであるという推定が存在する。本件事業に係る建設が現在行われているという事実は、裁判所のエクイティ上の権限を排除するわけではないが、﹃裁判所が命じる遅延によって生じるであろう相当な追加的コスト﹄は、NEPAの執行におけるやむにやまれぬ公益によって十分に正当化され得る﹂と述べ )₉₅
(、NEPA違反の存在によって回復不能の損害が推定され、原則として差止命令の付与が正当化されることを示した。そして本判決は、NEPA違反に対して﹁回復不能の損害の推定﹂が認められる根拠として、以下の二つを挙げている。すなわち第一の根拠は、NEPA手続は環境影響を明らかにするものであり、意思決定者はその情報を得た上で意思決定を行うので、﹁生じうる悪影響が判明するまで、多くの場合において不可逆的な環境影響を伴って、事業は進められるべきではないということ﹂であり )₉₆
(、第二の根拠は、事業への﹁さらなる投資が行政機関の再評価に偏見を持たせる﹂ことを防ぎ、﹁行政機関がNEPAの遵守を果たした後に自己の行為を再検討する際の広範な選択の自由を行政機関に残しておくこと﹂の必要性であるとする )₉₇
(。しかしながら本判決は、本件で問題となっているのは連邦議会への 一九一四
( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二六七 EIS提出のタイミングであり、作成されたEISの内容に不備はないため、本件においては建設前に作成されたEISによってあらかじめ環境影響が明らかにされていること、および建設への投資が行われる前にはEISが作成されており、建設を進めるという行政機関の決定は適正なEISに基づいて判断されていることを指摘し )₉₈
(、本件においては上記の二つの根拠が当てはまらないとして暫定的差止命令の請求を棄却した。
3 裁 判 例 の 分 析
W ein be rg er
判決以前のNEPA差止訴訟において、﹁自動的差止命令﹂や﹁回復不能の損害の推定﹂を認める連邦下級審の裁判例は、連邦議会がNEPA差止訴訟において通常の比較衡量テストに対する特例を認めることを意図しているとの判断を示した )₉₉(。これらの裁判例は、特例を正当化するにあたってNEPAの目的に着目している。すなわちこれらの裁判例は、NEPAの目的は、連邦行政機関が提案行為の環境影響について十分な情報を得た上で、その行為に関する意思決定を行うことを確保することであると述べ、それゆえNEPAの遵守により環境影響が明らかとなる前に、行政機関が提案行為の実施を決定する場合には、NEPAの目的は阻害されてしまうと述べている。また、これらの裁判例は、NEPA違反が存在するにもかかわらず、提案行為の進行が許容される場合には、自然資源の不可逆的な消失や金銭の消費が生じる可能性が高く、その結果として行政機関の意思決定者の選択は必然的に制約を受けるため、その後にNEPAの遵守(EISの作成等)を要求したとしても、それは無意味な形だけの行為となることを指摘する。そして、これらの裁判例は、差止命令はこのような自然資源の不可逆的な消失や金銭の消費が生じる前に行政機関が行為を変更するという可能性を担保するものであるとの判断を示した )100
(。 以上のようにNEPAの目的に着目した結果、﹁自動的差止命令﹂を認める裁判例は、連邦議会はNEPA違反に対
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( )同志社法学 六四巻六号二六八米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察
する差止命令に関して裁判所のエクイティ上の裁量権を排除することを意図していると判断し、比較衡量テストを適用することなく、NEPA違反に対して自動的に差止命令を認めた。他方で、﹁回復不能の損害の推定﹂を認める裁判例は、連邦議会がエクイティ上の裁量権を完全に排除しているとまでは解していないが、NEPAの目的が環境損害の予防ではなく、十分な情報に基づく意思決定プロセスの確保であるということに鑑み、NEPA違反自体によって回復不能の損害が推定されることを認めている。さらに、﹁回復不能の損害の推定﹂を認めた
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判決は、原告に対して回復不能の環境損害に関する具体的な立証を要求することは、連邦議会が連邦行政機関に課した環境影響を検討および評価する責任を原告に転嫁することであり、連邦議会の意図に反するとも指摘している。 NEPA差止訴訟における﹁回復不能の損害の推定﹂は、通常の比較衡量テストにおいて原告が負う回復不能の損害に関する立証責任を転換し、被告である行政機関に回復不能の損害が生じないことの立証責任を課すものである )101(。したがって、行政機関が回復不能の損害が生じないことを証明した場合、﹁回復不能の損害の推定﹂を認める裁判例もNEPA違反に対する差止命令の請求を棄却することになる。この﹁回復不能の損害の推定﹂に対する反証を認めた事例としては、
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判決およびF ro eh lk e
判決が挙げられる )102(。両判決に共通するのは、問題となっているNEPA違反がEIS作成のタイミングであるという点である。両判決は、NEPAの目的に着目した上で、行政機関の意思決定者がNEPAの遵守を果たし、自己の行為を再検討する際に広範な選択の自由が残されているか否かということに着目した結果、﹁回復不能の損害の推定﹂に対する反証を認めている。すなわち、
R ea lty In co m e T ru st
判決においては、適正なEISがビルの建設の着手前に作成されており、意思決定における選択の自由を阻害する要因である意思決定前の自然資源の消失や金銭の投資といった行為がEIS作成前に行われることはなかった。また、F ro eh lk e
判決においては、FEISは控訴審判決時にはまだ作成されていなかったが、FEISの作成が完了するまでの間に実施され 一九一六( )米国国家環境政策法(NEPA)に基づく差止訴訟に関する一考察同志社法学 六四巻六号二六九 る行為が及ぼす環境影響は軽微であり、かつそれに費やされる金銭もEIS作成後の意思決定に影響を及ぼさないほどにわずかであることが認定されていた。このように、差止命令を発付しなかったとしても、十分な情報に基づく意思決定の確保というNEPAの目的が達成されるという場合には、﹁回復不能の損害の推定﹂に対する反証が認められるものと考えられる )103
(。
第三節
W ein be rg er
判決・A m oc o
判決のNEPA差止訴訟への影響 制定法の手続違反に対して差止命令を発付するか否かが問題となった二つの環境訴訟において、連邦最高裁はエクイティ上の比較衡量テストの適用について判断を示した。この二つの判決はNEPA違反が問題となったものではないが、NEPA差止訴訟における連邦下級審の判断にも影響を与えるものであった。本節ではこの二つの判決の内容とNEPA差止訴訟への影響について論ずる。1 Weinberger 判 決
本件は、連邦水質汚濁防止法(F ed er al W at er P oll ut io n C on tr ol A ct
、以下﹁FWPCA﹂とする)の手続違反が問題となった事案である。FWPCAは、汚染物質の排出に対して規制を定めており、汚染物質の排出を行う者に対して環境保護庁から許可を得なければならないという手続的要件を課している )104(。しかし本件において、海軍は当該許可を得ることなく、プエルトリコ沖のヴィエケス島において軍事訓練を行い、島の周辺の水域に兵器を廃棄した。これに対し、プエルトリコの知事および島民は、兵器の廃棄が汚染物質の排出にあたるとしてFWPCA違反を主張し、海軍の訓練を禁止する終局的差止命令を求めて訴訟を提起した。
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